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「おっかえりー!ヒロリン!!あれぇ、潤ちゃんも。ひさびさだね〜!」 とりあえずみんなで缶ビールをあけ、しばし世間話をするともう深夜の12時をとっくにまわっていたので、潤はシャワーを借りリビングのソファとテーブルの間にマットレスを敷いてもらい、その上に横になった。 部屋は広めの1LDKだったが、一室はナベの仕事関係の楽器や衣類置き場になっていたので、リビングに置いたダブルベッドにナベとミドリが寄り添って、まだビールを飲んでいた。 ナベは、思い出したようにサイドテーブルの引き出しを開けると、錠剤のシートを分けて潤に投げてよこした。2錠つづきの銀色のシートに小さな楕円形の錠剤の形が浮き上がっていたので、それはハルシオンだということがすぐにわかった。ハルシオンは軽い睡眠薬で、抜けが早いのでよく睡眠薬遊びに使われて社会問題にもなっていた。この顔ぶれでハルシオンを出されれば、それは正規の使用法を示すものではないと思い、潤は言った。 ナベは思わせぶりに言うと、潤の目の前でミドリを抱き寄せてキスをした。
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何時間たったのか、潤は、ウトウトしながら耳元で漏れる誰かの吐息を聞いた。それは、さっきまでのナベとミドリのものではなかった。誰かの裸の胸が自分を抱きしめている。懐かしいような恐ろしいようなモヤモヤした感覚。ぼんやりと目を開けると薄暗いオレンジ色の室内灯の中に、松崎の顔が浮かび上がった。どうして、松崎さんがここに?潤は疑問に思ったが、まだ薬が効いているうえに、背中や腰をなでまわされる心地よさに、ふたたびまどろみ、眠り込んだ。 潤が寝息を立てはじめたので、松崎は安心して愛撫を続けた。潤のTシャツをめくりあげ、手のひらで胸をなぞり、腰を押しつけながら半開きの唇に舌をさしこむと、潤は無意識のうちに赤ん坊のように松崎の舌を吸ってきたので、驚いた松崎は一瞬動きを止めた。潤は拒絶するどころか、松崎にしがみついて舌を吸い続け、室内に響く粘着質な音に触発されて、静かに様子をうかがっていたらしいナベとミドリがセックスをはじめた。松崎はこの異様な状況に興奮して、潤の手を導いて直接自分の物を握らせると、潤は子供がごほうびでももらったときのように両手でそれを受け取ったので、松崎は思わず声をあげた。 目覚めると、ナベと松崎の姿はもうなかった。潤は、ゆうべの記憶にイマイチ自信がなかったので、しばらくマットレスに横たわったままとぎれとぎれの断片を繋ぎ合わそうとしていると、ミドリがテーブルにコーヒーを置いた。 やっぱり現実だったんだ。潤が黙っていると、ミドリはテーブルに両肘をついて話し続けた。 潤はゆっくりと自分の手を開き見つめると、はじかれたように洗面
所に駆け込んで両手を洗いはじめた。勢い良く流れる水の音に、ミドリのおかしそうな笑い声が混ざって腹立たしかった。なんとか気を落ち着かせ、リビングに戻って帰り支度をはじめると、ミドリがにじりよってきて言った。 ようやく意味がわかってきて潤はむかついたが、とにかくこの場から離れたかったので、急いでジーンズを履こうとすると、ミドリがその手を止めた。 ミドリはパジャマのボタンを開けはじめた。ブラジャーはつけていなかった。 フラフラになった帰り道、これからナベや松崎のまえでどんな顔をすればいいんだろうと思ったが、どうせ、これでみんな同じ穴のムジナになったんだから、いつもどおりにしていればいいやと無理に納得してポケットに手を入れると、シゲオにもらったロケットペンダントにふれた。取り出してみると、それは本の形をしており、表紙にはハートのマークがきざんであった。本を開くと、あんのじょう、中にはサランラップにくるんだ小さな紙片が一枚入っていた。強い日ざしのなかでサランラップが淡い虹色にきらめき、白く切り取られた空間の向こう側からケミカルな粘液が滲み出しているようにも見えた。LSDは日光で劣化しやすいので潤はすぐに銀色の本の表紙を閉じて、首にかけ、歩き出した。 |
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