わんわん物語




彼女は静かに立ち上がると、命令されるままにこちらへ近づいてきた。

俺は全裸で目前に立った彼女の頭に手をかけた。彼女は、その仕種だけでやるべきことを理解し、従順にひざまづいて俺のスーツの前をはだけ、ベルトをゆるめて自ら引き出したナニを両手で掲げ、小さく薄い舌で先端に触れた。その姿勢のまま、主人にお伺いをたてる飼い犬のように俺を見上げた瞳は、長い調教の間に反抗も憎悪も拒絶も忘れ、ただあきらめと俺からのみ与えられる快楽への期待を宿していた。

「いい子だ」
自分からすすんで手伝いのできた子どもを誉めるように俺が優しく言うと、彼女は安堵して両手で包んだナニを舐めはじめた。今では、彼女は俺の教え込んだとおりの舌使いをする。しかし、それが退屈につながる場合もあるということがわからないようだ。
俺にもっと誉められようと、彼女は完璧なフェラチオをやってのけようとする。俺は昂ってくると、そんな優等生ぶった彼女をぶち壊してやりたくなるが、あの高慢とさえ思えたプライドの高い女を、素直で無垢な、俺だけの天使に生まれ変わらせた調教の道のりは、苛立ちをどうにも押さえようのない愛しさに昇華させる。

その愛しさは、乾ききった灼熱の大地がスコールを受け入れることができずに大河に変え押し流してしまうような、激しい渇望と背中合わせでしか成り立たない愛しさ。貪欲な俺たちは、おたがいが妥協してあたりまえに穏やかに満ち足りることに納得ができない。だから支配という方法は、ふたりを強制的に結びつけてオチをつけるために有効だった。俺が支配しなければ、俺の彼女は存在しない。その支配は相関する。調教されたメス犬は、じつは俺がかしずき仕えている天上の女神でもあるのだ。

退屈なフェラチオをする従順な彼女を、魅力あふれる奉仕者にする方法がある。ハプニングは常に新鮮な刺激をもたらす。俺は彼女にハプニングの種を仕掛けるために、会えばすぐに、彼女の状態にかまわず、彼女がいちばん快楽を感じ取る部分を確保する。つまり股間に埋めたバイブレーターで制御して余裕を奪い、彼女の理性が性欲に犯されて、自分の卑猥な本性を認めざるをえずに淫乱になっていく様子と、その葛藤から生じる予測の立たない反応を楽しもうというわけだ。

今日も、俺がバイブを手にするまでもなく、彼女はベッドの上で自分から両足を開いて待っていた。どのみち俺に命令され、グズグズすれば罰を受けることがわかっているからだ。はじめの頃、彼女はろくに準備のできていないその部分に無理やり異物を挿入されて、苦痛の声をあげることが多かった。しかし、俺はそんな状態でもほんの数回の摩擦で彼女が濡れることに気づいていた。

それからあの頃、まだ誇りやプライドを捨てきれず思い出したように反抗し、快楽を否定していた彼女が、そうしようと集中すればするほど拒絶しているはずの感覚に気をとられて、バイブの先端がはまり込んでいる場所の奥底から愛液をあふれさせ、それが圧迫された襞の間を伝わり、気持ちと裏腹に外界へとしとどに漏れ出してしまう光景を、俺は何度も見た。

けっきょく彼女が条件反射のように、俺に呼び出されると結果 を想像して先に濡れるようになるのに、たいした時間はかからなかった。ベッドの上ではもちろん、脱いだ下着を見れば、彼女がだいぶ前に遡って、たぶん家を出るときから異物をスムーズに受け入れられる状態になっていたことがよくわかる。それほど濡れそぼった下着をつけて、彼女は俺に会いに来るのだ。彼女は自分で自分を、言い訳のできない状況に追い込んでしまった。

つまり彼女には、調教される才能があったということだ。いまもこうして胎内にバイブレーターを収めながら俺にフェラチオする自分に興奮している。俺のナニを深くくわえるほど、彼女は空中で腰をふり、時には愛玩犬が主人にじゃれつくように、俺の足にやわらかい毛で覆われた恥骨を擦りつけてくる。可愛いペットにご褒美をやらねばと、靴の先で股間からはみだしているバイブを押し込んでやると、彼女は子犬のように鳴いて思わず俺のナニから口をはずしたが、自分の仕事である「完璧なフェラチオ」を思い出して取り繕うようにまたくわえなおす。唇と舌に生じた動揺が、新鮮な刺激となって俺の中に広がる。

しばらく彼女を反応させて楽しんでいるうちに俺は達しそうになってきたが、昂った彼女が我を忘れて股間から覗くバイブの底を俺の黒い革靴に執拗に押しつけ、けなげに工夫した腰のうねりで胎内にさらなる刺激を与えようとしているのを見て、飼い主の義務を思い出した。たとえ主人と犬であっても、信頼関係を維持するにはギブ&テイクの精神が必要だ。俺には彼女をイかせる義務がある。俺だけがわかるこのメス犬の勘所を満足させてやらなくてはならない。こうなる前は、俺が彼女の顔色をうかがい、ナルシーでタカビーなお姫さまの御機嫌をとりながら愛撫を捧げたものだ。でも、今の彼女はそんなことは喜ばない。

「いやらしい女だ」
彼女の吐息が荒くなる。
「俺の靴を汚しやがって」

叱られると不安になったのか、彼女が腰の動きを一瞬止めたので、俺は両方の乳首をつまみあげた。ナニをくわえたまま、彼女はつらそうに眉をしかめて喉の奥でうめいたが、反射的に深く腰を落としてバイブをいっそう奥に押し込み、その刺激から背筋をのばして数回体を痙攣させた。

そんな様子が気に入ったので、しばらく乳首を弄りまわしてやると、彼女は俺に操縦でもされているように体をくねらせて、靴の上で腰を踊らせる。肥大したクリトリスが靴紐の結び目に触れると、電気が走ったように顎をのけぞらせてナニを口からこぼし、今度は自分の仕事も忘れてよがりはじめたので、俺はまたいきりたったナニを乱暴に彼女の口にねじ込んだ。彼女は器用に靴紐を利用してクリトリスへの刺激を続け、黒い革靴に大量 の愛液をこぼし、執拗にいたずらされている乳首を硬直させ、甘くいやらしく喉を鳴らしながら絶頂を迎えた。同時に、俺も遠慮なく彼女の口腔に精液をぶちまけた。

上手に、最後の一滴まで精液を吸い取った彼女は、上気した顔で俺を見上げた。ふっくらと張りのある愛らしい唇は精液まじりの唾液で新鮮な果 実のように輝き、淡くピンク色に染まった頬が、気取った顔立ちに内包されていた少女の表情を浮き上がらせる。潤んだ瞳は勝ち気だったかつての視線が思い出せないほど、柔らかく繊細な春の陽のようなフィルターとなって彼女を覆い、俺はやはり、彼女の中には元から天使がひそんでいたにちがいないと確信する。

そっと抱き寄せ立ち上がらせると、今しがたまで彼女の一部だったバイブレーターが抜け落ちて、白い雫をふりまきながらカーペットに転がった。ビショビショになってしまった俺の靴を見た彼女は、自分の舌で掃除でもしようというのかまた床に座りかけたが、快楽の名残りでまだ細かく震えている彼女を俺は止めて、ベッドに寝かせ、俺の仕打ちで赤く腫れた乳首にキスをして、激しくこすりつけていたクリトリスが傷ついていないか点検し、長時間不自然に押し広げられていた胎内がどうにかなってはいないかと隅々まで指を這わせ、いつもと変わらない暖かい絞めつけに安心して、彼女をどんなに愛しているか示すために、スーツを脱ぎ捨てて肌を合わせ、回復したナニを、今度はゆっくりと、優しく、沈めていった。

 



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