会えないバレンタイン・デー




お互いに遠距離だし、彼女に仕事があるので、バレンタインには会えなかった。かわりに彼女は宅急便で小さなチョコレートのセットを送ってきた。すでにメール添付で手作りなる巨大なチョコレートケーキの画像をもらっていたので、送られてきたのがそのものでなくて少し安心した。なにしろ横に置いたカップと比べてもその大きさが際立つシロモノだったので、あれを送られたら両親の手前もあってさぞかしあせったことだろう。

チョコレートにはカードが添えられていて、ハッピー・バレンタインのロゴの横には小さなハートがサインペンで描かれていた。夜、彼女にお礼の電話をすると、さっそくその件にふれられた。
「あのハート、なんだと思う?」
「メッセージ書くのがめんどくさかったんでしょ」
「ちがうわよ、目印。あそこにキスしておいたの」
「えっ、意外とかわいいことするんだな」
「うふふ。ほんとうは写真送った手作りケーキを一緒に食べたかったけど」
「あんなでかいの食べきれないよ。あれどうしたの?本命にあげたの?」
「バカね。パパに焼いたってことにして家族で食べたわよ。そっちこそいくつチョコレートもらったの?」
「ひとつに決まってんじゃん。毎年ゼロだよ。なんとなく照れ臭いから引きだしに隠した」
「せっかく選んだんだから、ちゃんと食べてよね。それより、ねえ、ハートのところにキスしてくれたら間接キスになるよ」

俺は笑ってカードを開くと、ハートの部分にキスをした。

「したよ」
「ほんとに?電話だからっててきとうにしないでよ。ちゃんと音出してして」
「しょうがねえなあ、ハイ、ちゅっ」
「本物のキス、したいなあ」
「俺だってしたいよ。でも、たまにはこういうのもいいじゃん」
「電話じゃ抱きしめてもらえないもん」
「できるよ。目つぶって想像して。ハイ、ぎゅっ」
「・・・濡れてきちゃった」
「バカ、女がそんなこと言うもんじゃないよ」
「そんなこと言ったって・・・そっちはどうなのよ」
「うーん、がんばって半起ちくらいかな」
「ね、あたしがさわってあげる。ほら、固くなってきたよ」

彼女にさわられているところを想像しながら自分でしごいてみると、ふたりで過ごした数少ない時間が蘇ってきて、思った以上に興奮してしまった。俺は少しうわずった声で彼女に言った。
「おまえも自分でさわってみて。いま部屋でしょ?」
「・・・もうさわってる。聞こえる?」

彼女は受話器をその部分に近づけたらしい。しばらくごそごそと布擦れのあとに、ピチャピチャと粘着性の音が聞こえてきた。たぶん、俺に聞こえやすいように、愛液の染み出した入り口部分を指でなぞっているのだろう。

「聞こえるよ・・・なんか、すごい」
「ああ、会ってこうしたいな」
「もう少し音聞かせて。指、入れてみて」

軽い水音は、しばらくすると一定のリズムを持ちはじめた。そのリズムに合わせて俺も自分のをしごいていると、彼女と同じように尖端から体液が溢れ出したので、チャックを開けて性器を露出させ、彼女の様子を想像しながら動作を続けた。

「指入ってるのわかるよ。いま何本入ってるの?」
「1本」
「2本入れてみて」
「ああ・・・」
「気持ちいい?肩で受話器を固定できない?クリトリスもさわってみてよ」

 

受話器の場所が少し離れたので、彼女の声のトーンがちがって聞こえた。彼女の息遣いは軽いノイズまじりのようになって俺の神経にダイレクトに入ってきた。ベッドの上で肩に受話器を挟み両足を広げて、片手でクリトリスを摩擦しながら自らの胎内をなぞるように指を出し入れする彼女の姿が浮かんできた。想像の中の彼女はそうしながら腰を上下に振っていたが、じっさいそうしていたのだろう。電話の声が不安定になってきた。

「ねえ、気持ちいい、ジュンもちゃんとさわってる?」
「さわってるよ。気持ちいいよ。おまえに入れてるみたいだ」
「ああ、イきそう。一緒にイきたい」
「ちょっと待って。もう少し声を聞かせて」

彼女の息遣いが激しくなってきた。彼女が限界を迎えるまえに俺もイかなければ。

「ねえ、舐めて、舐めっこしながらいこう」

お互いに口であの時の音を出しながらさわっていると、やはり彼女の方から先に解放を求めてきた。

「ハア、いっちゃう。いく・・・」
「俺も、いくよ、アサミ・・・」

コトが済んでから、お互いにティッシュを探して処理しているときの沈黙がおかしかった。

「・・・とうとう、こんなことまでしちゃったね」
「だって、せっかくのバレンタインなのに会えないなんてさみしかったんだもん」
「俺たち遠いしね。でも電話もメールもあるし」
「電話でできるってこともわかったしね」

さっきまでの痴態が嘘のように、いつもどおりの彼女の口調がなぜか懐かしく思えた。

「チョコレートありがとう。また、会おうね」
「うん、また会おう」
「おやすみ」
「おやすみ」

ふたりともベッドの上でおやすみを言って電話を切った。遠くの彼女が、まだとなりにいるようにかんじた。

 



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