夏釜
「潤、オレのを舐めろ」
オレは車を防波堤の前に止めて、助手席に端座する潤の方へ顔を向けた。 何故か彼はオレを見ず、フロントガラスの前に広がる明るい海へ視線を投げている。
オレは西へ車を駆る。左手には海岸が広がる。照りつける太陽が、わずかに霞のかかる水平線を、容赦なく苛んでいる。今は真夏、すべてのものが秘められた欲望を白日の下に晒しだされる灼熱の季節。白い砂浜の上に身を横たえると、細胞の一つ一つにオゾンが侵入して夏に犯されていくのを感じる。そして速やかに体の芯が熱くなる。つまり、ある部分が反応して静かに勃起する、または濡れていくのだ。皆言わないだけでそんなヤツは多いはずだ。国道沿いや山側のラブホテルの稼働率が、海水浴客の多寡と連動しているのはそんな理由であるとひそかに推察している。
数時間前、オレは潤の白い肌が太陽に存分になぶられるのを見てきた。
彼は両手を開いて痩せた胸を惜しげもなく晒し、赤い月桂樹の葉が鮮やかな白いトランクス型の海パンから突き出た細い足を伸ばして、無抵抗に砂浜に横たわっていたのだ。
彼がわずかに体を動かすと、敷いていた砂粒が肌に粘着してそれぞれに光を放った。
オレは凝視した。その頼りなさげななめらかな胸を、膝とくるぶしの目立つ白い足を、
広げて伸ばした腋下の黒い草むらを、そして分けても海パンに包まれたある一部分の様子を。
そこは彼が今どんな状態かを判断するにはもっともふさわしい場所だ。 それが太陽を目指して立ち上がる時・・・
「チューブかけるのやめてくれたら」
潤のこの言葉がオレを現実へ引き戻した。オレと潤は海岸で遊んだ後、車を転がしていたのだが、彼がもう一度海が見たいと言い出したので、海に突き出たこの舳先へ車を乗り入れたのだ。
白い波しぶきが防波堤に当たって砕け散り、沖へ還る時、無数の泡が波の裾野を縁取るのが見える。
太古、生命の生まれた海は子宮、波の泡はスペルマだろう。 人が海を愛するのは、ゆりかごの記憶への郷愁なのかもしれない、お前はさっきオヤジとオフクロに抱かれてたんだよ、と潤に言うと彼は特徴のある切れの長い黒い瞳を輝かせて首を振った。
「そんなのどうでもいいじゃん。とにかくチューブはやめてくれよ」
どうして?オレは問い返す。チューブは都会の喧騒の中から抜け出た青春のシンボルじゃないか。輝く太陽と青い海と空にこれほどふさわしい音楽はないぜ。
「演歌だよ。こんなの」
これは驚いた。俺達の夏を意味する洗練されたサウンドをこき下ろすとは許せない。
お仕置きが必要だな。 オレは潤の頭を掴んで股間に押し付けることで、この問答を切り上げることにした。
故意に爪を地肌に押し付け、痛みを感じさせながら髪を掴む。まっすぐな黒髪はまだ濡れており、水気を手のひらに感じたが、構わず力をこめると潤は
「痛いよ」と抗議した。
「だまれ」
彼の抵抗を無視して同じ姿勢を強いると、彼の舌がオレの下着の上から形をなぞりだした。
こいつの抗議ほどアテにならないものはない。潤の舌は陰部の匂いに反応して、すぐに素直な本性を現すのだから。
潤の舌は卑猥だ。こいつには今まで何度イカされたか思い出せない。ナイロン布の遮断にもこいつのテクニックは有効で、オレ自身は早くも脈動をはじめる。ヤツの濡れた髪が、股間に篭る熱気と対照的な冷たさでオレの太ももに触れる。潤はより頭を密着させて唇で性器全体をおおい、布ごと吸い始めた。この刺激はいささか強すぎ、オレは結論を早く出したい衝動も覚えたが、この生意気で淫乱な小僧を念入りに弄ぶ楽しみを捨てたくもない。それは膝の上の小さなうさぎを愛撫しながら、このまま徐々に手に力を込めてしなやかな首を締め上げ捻り潰したくなる欲望を、それも人間で実現できるのだから、絶頂は後回してもいい。
そこで蛮勇を奮い起こし潤の髪を掴んでいる手により残酷な握力を込め、唾液と体液でまみれたオレの股間から引き剥がした。すると潤は赤い顔をして大きく息を付いたが、その丸みを帯びた唇の端からはある種の粘りを持つ白い糸が、オレの股間から名残惜しげに引かれていた。
「もう一度舐めたいか?」
潤が乱暴に首を横に振ったので、白い糸は長いまま切れて、オレより彼を選んでそのまま垂れ下がった。
オレは潤にそれを食べるように命令したが、彼は烈しい目つきをすると、手の甲で汚らしいものを弾き飛ばすようにぬ
ぐった。勢いのついた白い糸はフロントガラスに当たって張り付き、またもや垂れ穂をさげた。
潤のこの態度は明らかにオレへの反抗だ。いい傾向だ。オレは無抵抗の獲物など欲しくない。つややかな肌が水滴を弾くようなイキのいい反骨精神を持った若者が欲しい。
それにはこの潤という小生意気な小僧は最適なのである。今しがた海岸で見た白い肌、しなやかな首、浮き出た肩甲骨、水鳥のような滑らかな胸。そこには小さな乳雲が宇宙を形成しその中心には星雲のシンボルである乳首が恭しく浮かび上がっている。いずれも実際の宇宙空間と違い桃色を呈していた。
ではこれから彼のその部分をいじることを始めよう。
「シャツを脱げ」
オレは潤に命令した。股間から開放された潤は助手席のボックスシートに体を埋めて目を閉じ、動く気配はない。そこで今度は声を故意に低くし威をこめて言ってみる。
「オレの言うことが聞けないというのか?もう一度言う。脱げ」
小僧はかぶりを振るという無言のゼスチャーで拒否の意を示す。この時、濡れて束になった髪の先から垂れていた水滴がオレの顔に飛んだ。これが契機になりオレの平手が日焼けして赤くなった頬を打ちはじめる。
水気を含んだ若い肉を打つ快い音が密閉された車内に響く。オレの手が往復するたび、潤の顔は右に左にと連動して動く。
ビンタを10往復もするとオレの手がしびれてきた。小僧が哀願しはじめるのを期待して見ると、涙こそ浮かべていたが唇を引き締めて歯を食いしばりまだ反抗の焔を燃やしている。
素晴らしい、これでこそオレの潤だ。弱虫のくせに反抗的で生意気で淫乱で・・・。
強情に拒否しているが、そろそろ淫乱な自分に戻りたがっている頃だ。
オレは彼が乳首に金泥していることを知っている。その部分を可愛がればすぐに淫猥な嘆願を始めることも・・・
。
座席の横のスウィッチを押してシートの背を倒す。
潤の両方の頬はオレの手形が付いて赤みが更に増している。 そうだ。彼の態度は正解だ。たしかキリスト様も「汝右の頬を打たれれば、左の頬も打たせよ」とのたまったではないか。だから潤もこうして大人しく体を差し出しているのだ。
オレは彼の着ていたセックスピストルズのTシャツを捲り上げた。 すると先ほど海辺で見たのと同じ乳首が出現した。なだらかな盾の上に豆粒ほどの大きさだが存在を主張し始めた桃色の粒。
「いやだ」
オレの股間を吸ってから初めて聞く潤の声だ。声色はかすれて小さいが確かに艶を帯びている。間違いない。乳首の勃興もそれを示している。こいつは乳首でも勃起できるんだ。
乳雲の中の衛星もそれぞれに粟立ち、彼の要求を告白していた。 オレは潤の上に覆いかぶさり、突き出した舌の先で小さな太陽に触れた。
「あ・・あ・・・」
この声だ。これをオレは待っていたのだ。 潤が悶え始めたので、オレは乳首と舌の間に5mmほどの距離を置いた。そしてあたかも乳首をねぶっているかのように舌を動かす。見せつけながら残酷にじらしてやる。お預けだ、潤。
「く・・・おまえなんか嫌いだ・・・」
食いしばった歯の間から漏れた潤の反抗。嫌いとはこれはまたご挨拶なことだ。しかしそれは『ボクのティクビを舐めてくれないおまえが嫌い』を省略したものだというのを察してやらねば彼が気の毒だ。
「いやだと言ったのはおまえだろう?本当はして欲しいくせに。フン」
彼のつまらない矜持を嘲笑しながら、オレは再び愛撫を待ち焦がれて痛々しいほどに赤く染まった太陽に口を付けた。乳雲全体を歯で軽く刺激する。そしてそのまま胸を吸引する。
「ああ・・・あっ!」
再び快感を感じ始めた潤の歓びの声が耳に快い。 潮が引くように口を引き、乳首で止め、舌の中で自由に転がす。幼い子供が飴をなぶるように。
自分の体の一部であるが、オレは自分の舌は軟体動物に変容したのを感じた。彼らは骨を持たないが実に自在な動きをする。我ながら上手い舌使いだ。これは潤という生きた素材を使って実地で勉強した成果
だ。
実は乳首が性感帯なのは、女だけでなく男もなのだということをオレは潤で知った。
息遣い、声色、体のくねらせ方、痙攣、発汗、彼はこれらの手段を使ってオレを、愛撫の小道へ導いたのだ。
つまりこうしてオレが男の乳首をなぶっているのは、すべて潤自身が仕組んだことなのだ。
「あ・・・お、おっさ・・・」
淫乱な本性をむき出しにして息を荒くしながらオレの髪をつかんでいた潤が、何か言いたくなったようだ。
「何だ?」
オレは口の中に乳首を含みながら問い返す。
「あのさ、きょうは、あーっいてえー!」
オレが歯をたてると言葉が途切れた。噛み切らないように気をつけてはいるが、やはり痛かったようだ。この悲鳴。オレの下半身に直接響き再び奔流が猛り狂いそうになる。しかしまだまだだ、ここでイッては小僧に見透かされてしまうぞ、とオレは自分を戒め、背中に吹き付けるカークーラーの冷気と、オートリバースにしているので一曲目に戻ったチューブのアルバム「ストップ・ザ・シーズン・イン・ザ・サン」に意識を集中させる。
痛みになれた潤は、乱暴なオレを非難することもせず、更に己の乳首に対する執着を暴露した要求を恥ずかしげもなく、その数々の男女を昇天させた罪深い口から吐いた。
「おっさん、今日は乳首だけでイカせてみて」
オレは小僧の希望には諾とも否とも答えず、再び小さな突起を念入りにねぶる。
「・・・!」
再び声にならない隠微な声が、柑橘系の香りが漂う車内に響く。 潤はオレに男の生態のウンチクを垂れたことがあるので、オレは殊更にあげつらう。
「乳首小僧、お前は特別だ。お前の乳首はクリトリスと同じなんだよ。ホラ、卑猥な色に染まっているぞ。イロキチガイめ」
そして舌をはずして顔を見上げると、陶然としていた彼は、乳首がいきなり孤閨になったのを怒っていた。
「くっくそおやじっ!さっさとイカせろ」 と悪態をついたかと思うと、あろうことか小僧はオレの顔にツバを吐きかけた。
勢いよく吐き出したツバはオレの右頬にかかり、白濁した糸を垂れた。 オレはすばやく小僧に口付けした。顔が密着し頬が押しつぶしあい、潤は自分のツバを左頬になすりつけることになった。舌で歯を割ろうとしたが、強情に口を引き締めて反抗している。
「わああああっ!」
待っていたものが得られた。十分な反抗、十分な悲鳴、十分な血・・・・・。口を明け渡さないお仕置きとして唇を噛んだのだ。血が出て当然だ。
オレの唇は夏の太陽を浴びて火照った潤の血で彩られている。 この素晴らしい天然素材のルージュが上と下の唇にいきわたるように舌を動かし紅筆代わりにした。
オレは、この紅を潤の性感帯にも分けてやりたくなった。唇を押さえて呻いてる潤を放置して、彼にしかないクリトリスの愛撫へ戻るり、今度は口を開けず、唇で丁寧に乳首をなぞって色を移していく。オレは赤い血で化粧を終えた素晴らしい潤の胸を飾る太陽を見た。それは先ほどよりはるかに赤く、今しがた二人でたわむれた海辺で見た真夏の太陽のように赤々と燃えていた。
「もう許して・・・」
潤は泣き出していた。この許してとは、なぶられるのをやめるように哀願しだしたのか、
海岸に打ち寄せる漣のような欲望の完遂をうながす婉曲な言い方なのか。 すすり泣く潤にだまされてはいけない。どちらの道を選ぶにしても、毛筋ほどの同情も介在させると彼の期待に反することになるのを、オレは知っている。
「どうして欲しいか言うんだ。潤」
注意深く、しかし故意に投槍に聞いてみる。
「ち、乳首が・・・」
しゃくりあげながらやっとこれだけ言うと、再びこみ上げる涙に身を任せるだらしのない潤。そうか乳首にまだ拘っているんだな。この時ひとつの疑念がオレの脳裏に点滅し出したので、問いただすことにした。どうでもいいことなんだが、と自嘲しながら、ひたすらけなげと言っていいほど人の加虐心を煽り続ける小僧に報いるためにあえて。
「お前の乳首を開発したのは誰だ?」
答えは返ってこない。厚い唇は一文字に引き締められ、お前に言う義務はないと、強い意志をオレにぶつけている。
「そうか、言いたくないのか。それとも言えないのか?」
新たな材料を潤自身が次々と提供してくれるので、このかたくなな獲物をいたぶるネタには事欠かない。獲物というものは結局は狩られる宿命を逃れられないのに、諦めることを知らずどこまでも反応を続け、猟人にハンティングの醍醐味を意に反して教え込んでいるものなのだ。この潤がまさにそれだ。絶望的な虜囚の身であるのにまだ牙をむき出している。よし、それなら狩人にも狩人の意地がある。
「言わないならお前の体に聞いてやる」
罰としてまず手始めに小さな乳首に爪を立てる。潤といえば、下唇を白い歯で噛んで悲鳴をあげるのを耐えている。オレを喜ばせたくないらしい。それならばと、爪に力を込めて敏感な頂点をつまみ上げる。
「くっ・・・!」
太い眉を眉間に引き寄せて沈黙を以って苦痛に耐える潤は美しい、とオレは思った。
指を緩めると、なめらかな胸のその部分には小さくはあるがくっきりとした爪跡が付き、
うっ血して紫色にはれ上がっている。先ほどからとめどなく流れる涙が痛めつけられた乳首まで流れ着いていた。
「どうだ?言う気になったか?」
潤のまつげは男には惜しいほど長い。今、それは溢れる涙でしとど濡れている。
涙に夏の太陽が反射して、欲望を刺激する夏特有の輝きを放っている。 潤んで煌く黒い瞳がオレを見た。
「どうしても言わなくちゃいけないの・・・?」
一転してすがる様な表情が潤の日に焼けたのとオレのビンタで赤くなった頬に浮かんでいるが、オレは会心のセリフを吐いてやる。
「そうだ。お前は告白せねばならない」
白い綿地に手を掛けてまくり上がっていたTシャツを一気に左右に引く。 シャツは悲鳴のような音を立てて二つに引き裂かれた。
「・・・ひどい・・・!俺のセックスピストルズのTシャツが・・・」
無力な潤は弱々しくつぶやく。 オレは破れたユニオンジャックを、彼の鼻先に突きつける。
「これもパンクショップのおやじを垂らしこんでせしめたんだったよな?」
「バカ野郎、気に入っていたのに・・・!」
「黙れ。淫売め」
名状し難い怒りがこみ上げてきたので、手にしていたTシャツの切れ端をムチにして叩いてやる。むき出しの痩せた胸には幾筋ものTシャツの跡が付いた。
それは潤が前に見せてくれた「シド・ビシャス」の血だらけライブのポスターに酷似していた。
今度はジーンズだとばかり視線を下にやると、潤の一物は固いデニム地を高々と持ち上げ堂々たるテントを張っている。オレの見込んだ通
り、一連の虐待にこいつは快感を感じていたのだ。 やはりな、とオレはほくそえむ。自分でも言ってたが確かにこいつはマゾだ・・・・!
オレは手馴れた手つきで潤のリーバイス501のボタンをはずし、ファスナーをひき降ろした。かすかな、しかし確かな金属音を立てて互い違いに組み合わされた歯がなめらかに左右に離れていく。潤のあからさまな感情のバロメーターは、黒い競パン型のショーツの中で痛いだろうと心配させるほどの怒張を示していた。先ほど海で見たそれよりも更に形をあらわにしている男根は、真実の極みを無礼なほどに呈していたのである。それは摩天楼の不遜だった・・・万人をして瞠目させるには十分の容積を擁して堂々と天を突いていたのである。オレはこの夏空を犯そうとする肌と血と海綿体で構成された肉体のビルを溶解させねばならない。そうだ、彼のテロリストたちのように。
熱を帯びて固くなった潤を、黒い生地の上から軽く握り締めながら、オレの問診が始まった。
「お前はこれをどうして欲しいのか?」
「・・・・」
黒いショーツから覗く肌は、先ほどオゾンを浴びて夏の精気を吸い込んだ部分とは違い、卑猥な青白さである。
「して欲しいんだろうが」
半目を開けてあえいでいる潤を見て、オレは限界だと感じた。もちろんオレの部分も先ほどから激しい動悸を刻んでいる。体も日焼け以外の理由で熱いのは明白だ。じらすのはやめよう。待たせたな、乳首小僧。
オレは潤のショーツを取り去る前に、まず自分を解放することにした。
自分の欲望の液と潤の唾液で湿って肌にまとわり付いた下着を取り去ったオレは、当然の手順として潤のそれを脱がすことにした。アンティークものらしい適度なくたびれ加減にも関わらず、細い腰を守っていた501を割れたファスナーの両端を掴んではがそうとしたが、なかなか取り去るのに骨が折れることが判明した。抵抗を試みる滅亡する王侯のような頑固さにオレは腹を立てた。それなら引き裂いてやるまでさ。
「これは破っちゃだめ。オレ自分で脱ぐ」
すばやく言い捨てると、潤は自分で腰をずらして彼の宝物らしい70年代もののジーンズを脱いだ。
「よほど大枚はたいたと見えるな。汚いジーンズに愚かしいことだ」
「買ったんじゃなくてバンド時代に一緒にやってたオッサンに貰ったんだよ」
感情が沸点に達したオレは、すぐさまに裸の股を潤の片手でつかめそうな太ももに押し付けた。
「あっううっ!」
潤が悲鳴に似たうめき声を上げる。
こんな行動に出た理由は自分では解っている。嫉妬だった。それはまさしく輝く太陽を覆い隠す日蝕にも似た嫉妬だった。どす黒い月の影が、陽光に嫉妬して太陽を強姦するのが日蝕だ。そしてオレもこれから潤という乳首の太陽を持つ宇宙を犯してやるのだ。
それにはまず黒いショーツを脱がさねばならない。オレは潤の足を両方の太ももで挟みながら競泳パンツと同じ形の下着を掴み、一気におろした。
途端に張り詰めていた一物が勢いよく跳ね上がる。先端から透明な液を滲ませた潤の男根は、ショーツの中で欲望の跋扈を押さえつけられた鬱屈を、差し入る光で明るい車内に堂々と誇示し旗を打ちたてることで晴らした。ポール部分の芯は脈動し、血管が充血して著しい怒張をしめしている。潤の竿が放つ熱が空気を通
してオレに伝わる。 この時、何の気なしにオレは手の中の黒いショーツを見た。
ぴっちりと隙間なく彼を覆っていた前側は、潤の体積で生地が伸びているのは明らかだったが、裏をふと見ると・・・そこには驚いたことに「ピーターラビット」の模様が付いていたのである。
オレは再び瞠目した。すると潤は、己の不用意さにようやく気づき、
「いやだっ!見るなっ!」と叫んだ。 潤の泣き所は「小さなうさぎたん」であった。確かに小動物を愛する彼の心持は愛すべきものだが、それにしてもショーツまでうさぎがついているとは・・・
オレはもう一度ショーツを広げてみた。黒地にパステル調のうさぎのイラストが浮き上がている。シャープな競パンとのどかな田園生活を楽しむうさぎはそぐわないが、このミスマッチさ加減は人類永遠のテーマであるエロティズムへとダイレクトに通
じるという原理を、オレはまたたくまに理解した。そうだ、潤という小僧は存在自体がエロだ。加虐心を煽る密生したまつげが湛える涙の泉の底は黒曜石、狩猟心を刺激する鹿にも似た草食性の肉体には勃起できる乳首がついている。彼の中心部には深い草むらから屹立した巨木が、高々と存在を主張しているのである。これがエロでなくて何がそうなのであろうか?
「そんなもん、早く離せよ」
苛立ちを感じ始めた潤が口早に言い募る。男根には、様々な太さに枝分かれした葉脈がくっきりと刻まれ、その中には血潮が赤々と流れている様が肌を通
して見るものに痛いほど感じさせるまでに膨張していたのである。まさに鼓動する葉脈をオレは見たのだった。
「そうだな」
ピーターラビットの模様で一時中断していたオレのその部分は再び活動を始めた。
あれほど大切にしていた愛車のシートにはすでに二人の体液の点々とした染みが押されてあった。オレは苦渋を感じた。大事な車が愛欲の結果
どうなるか・・・性交の後の精液は、遠慮なくシートに染み入り、いくらこすってもその饐えた匂いとなり、残像のように、未来永劫車内を漂い続けるだろう。それに潤が排出する液体は、非常に潤沢なのだ。白い飛沫を見るたび、その中で遊泳している無数の精子が尾が間断なく動いている様を想像すると、卑猥な液体の濃さが白濁をより不透明にしているのが解る。
あれが染み付いたらやっかいだな。精液小僧を外へ出してマスをかかせるか?それとも、一滴残らず飲んでやるか。オレの理性が快楽と事後の始末のやっかいさを天秤に掛け始めたところに、潤がオレの腰を捉え甘い声で誘いを掛けてきた。
「ねえ、俺、もうしたいの」
これでオレの心は決まった。シートはもういい、それよりも目先の快楽だ。匂いは後からオレの愛用の香水を振りかければ何とかなるだろう。初期の香水の材料には鹿の性腺が使われていた。それは性欲亢進目的の媚薬としての作用も果
たす。精液と交じり合うと格別に淫靡になる芳香は、まさに天然の媚薬としてふさわしいではないか。それにオレはこうなることを予想してさっき海から上がってシャワーブースで体に付着した潮を洗い流した時、たっぷりとその官能的な香りを、素肌になすりこんでいたのだった。
オレは片足を上げて潤の両足をまたいだ。オレの太ももは潤の唾液と湧き上がる泉の液で濡れているから、潤はまともに感じたはずだ。
「早く・・・おまえの・・・」
潤のキレの長い大きな瞳は情欲で潤み、声が艶を帯びだした。オレは手を伸ばし何倍にも膨れ上がった幹を掴んだ。それはすでに何本もの太ぶととした葉脈に擁立されてているのでオレの手は必要ないのだが、大きい方の唇と敏感に膨張した部分をくすぐるため、オレの手で制御する。十分に楽しまないうちに、挿入されしまっては口惜しいではないか。
触れ合う性器はしたたる泉を混ぜ合わせて挨拶していた。オレの可憐な鶏冠は、熱っぽい潤の松笠の繊細な愛撫で更に赤黒さを増しただろう。潤の指に支配された部分の入り口が自ら笠に吸い付こうと蠕動しているのを感じる。
「まだまだだ」
オレは自らを律したが、待ちきれない潤はすばやく腰を動かした。それにつれて大黒柱めいたそれも狡猾に移動して特定の場所を自らさがした。陰陽の原理により潤のそれとオレのは自然と引き合う。
「ああ・・・」
潤は器用に笠の先端でオレの小さな方の唇を押し広げ、侵入を開始する。オレの液はヌメヌメしたなめらかな物体の進出を助ける。卑猥極まりない音を立てながら襞をかき乱して押しつ戻りつする潤は、海岸に打ち寄せる波とも見て取れるのである。さしずめオレの内部は波に蹂躙される美しい砂浜・・・
小僧はオレの中で燃えた尺杖を振り回していつものようにオレを支配しようとする・・・充溢した容積が侵入を果
たし、オレの神経は熱い葉脈を感じて、快感と共に精気を吸い取ろうとするごとく、自ら締まって彼に密着していく。
オレの胎内にいつもの場所を占めた潤は安堵した。
「プレーは終わりだ。いつものようにイカせてやるよ」
「あ・・・あ。潤、そこは・・・いや」
潤が腰の位置をわずかに変えたので、張り出した笠が襞を押して、目も眩むほどの感覚が下半身全体を席巻したから、一度にヴィーナスの蜜があふれ出し、オレはついに声を出した。シートは潤の精液を待つことなく、オレの体液でかなりの染みが付いていることだろう。でももうそんなことを省みる余裕はない。
オレは騎乗位で潤を包み込んでいた。前後、上下、旋回と多種の腰の振り方により、次々と供される欲望のフルコースに取り掛かろうとしたオレのももを潤が押さえた。
「おまえが動くと頭打ちそうだね」
そうだった。天井の低い車では自在な運動は不可能だった。オレは上に乗ったことを後悔した。
「今日はおまえに男モードでやってもらうはずだったけど、我慢できそうにないから、俺がかき混ぜてやるよ」
小悪魔の笑いを取り戻した潤は、連結した部分が離れないように気をつけながら体位
の転換を果たすため上半身をゆっくり起こした。
「スケベ女」
潤の声が海からの漣と共に聞こえた。いつしかチューブのCDは切られていたのだった。
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