赤色LED




リュックの中には絶対に彼女に知られてはいけないものが入っている。最終的には知られることになるのだが、今は知られてはいけない。いつもの喫茶店で待ちあわせて、彼女はコーヒー、俺はオレンジジュースを飲みながら、いつものように他愛ない世間話をする二人。その後、ショッピングモールで彼女の買い物につきあう、なんのへんてつもないいつものデート。日も暮れかけて、適当に目星をつけたトラットリオで食事をすませ、ホテルへと向かった。

ワインで少々酔った彼女に先にシャワーを使わせ、その間に俺は急いでリュックを開け今夜の主役になるであろう問題の道具を取りだした。それは、今日の日のために通 販で買った白いバイブレーターだ。勃起した男性器をそっくりに模した胴体には全体にイボのような突起がついており、半分から下の透明の部分には小さな数珠玉 のようなプラスチックのボールがみっちりつまっている。電源を入れるとそれがジュクジュクと中でうごめく仕組みになっている。今夜、俺はこいつを彼女に使ってやろうと計画しているのだ。彼女がバスルームから戻る前に、俺はバイブレーターをベッドの足元の部分に差し入れて隠した。ここなら彼女に気づかれないだろう。

彼女と交代にシャワーを浴び戻ると、バスローブをまとった彼女は窓際の小さなテーブルセットに越しかけエビアンを飲みながら、青くライトアップされたベイブリッジの見える夜景を眺めていた。

「いつ見ても奇麗な風景ね」

彼女はほほ笑みながらやさしい声で話しかけた。

「うん、いつもこのホテルだけど、飽きないね、夜景奇麗だもんね。でもたまには違うところに泊まりたい?」
「ううん、私、このホテル好きよ。この間の部屋も観覧車が見えて楽しかったわね」

俺の計画を知らずにいつもの調子で会話する彼女に少しの罪悪感を感じたが、俺は彼女の横にひざまづくとバスローブをめくって太ももを露出させ、なめらかな肌にキスをした。そうしながら太ももの奥に触れようとすると彼女は言った。

「せっかちね。順番がちがうでしょ」
「たまにはいいじゃん、触らせてよ」
「いやよ、今日はどうしたの?時間はたっぷりあるんだから、そんなにあせらないで」

そう、時間はたっぷりある。しかし今夜はその時間を隠微な実験にあてなければいけないのだ。

「ベッドに行こうよ、俺、待ちきれないんだ」
「いやあね、急にえっちになっちゃって。まるで覚えたての中学生みたいよ」
「だって、したいの。ねえ」

甘えた声でねだると、彼女は俺の髪をなでながら言った。

「しょうのない子ね、じゃあベッドに行きましょう」

彼女の手をとり椅子から立ち上がらせて、俺は彼女をベッドに押し倒した。彼女はクスクス笑いながらも「乱暴にしないで」とささやいた。これから待っている、彼女にとって新しい体験も、乱暴なうちに入るのだろうか。いや、そんなはずはない。俺の性器ではできないことをあの道具はしてくれるはずだ。はやる心を抑えながら、とりあえず彼女と長いキスを繰り返し、胸に手を置いてすでに立ち上がった乳首を弄んだ。コロコロと指で転がしたり、やわらかく熱を持った肌に押し込んだり軽くひっぱったりしているうちに、彼女の吐息も荒くなってきた。

「いつも思うんだけどさ、キスだけでここ固くなるんだよね」

少しいじわるな言葉を投げ掛けながら、開いたほうの乳首を今度は舌先で愛撫した。もう、股間もじゅうぶん濡れているだろう。しかし、俺は彼女をじらすように乳首への攻撃を続けた。すると彼女の方から遠慮がちなかすれた声で懇願してきた。

「・・・さわって」
「さわるって、どこを?」
「いじわる」
「どこをさわればいいの?」
「・・・下を・・・」
「下って、どこ?」

返事のかわりに彼女は腰を大きく動かした。いいぞ、今夜は完全に俺のペースになってる。俺は乳首から片手を離すと彼女の股間へと移動させ、その入り口にあてた。思った通 り、そこは愛液に満ちあふれ、すぐにでも挿入できそうな状態になっていたが、彼女をもっと高めるためにあえてすぐに指は入れずに、入り口の周囲をなでまわした。その動きにしたがって愛液も広がり彼女のやわらかい陰毛を濡らした。彼女は腰を動かしながら、俺の指を中心に導こうとしている。俺がその動きに逆らって指先を逃がしていると、とうとう彼女は堪え兼ねたのか、「お願い」とうめいた。

俺は彼女の希望に従い体を下にずらすと、両手でグショグショになったラビアを押し広げ、真っ赤に充血したクリトリスに舌をあて舐め上げた。

「ああっ」

満足げな声をあげた彼女は、もう下半身の感覚に夢中になっているようだ。俺はクリトリスを吸い、ラビア全体を口に含んで変形させたり、様々な動きで彼女を刺激している隙に、ベッドの足元に隠したバイブレーターをこっそり取りだして白いシリコンの亀頭を入り口にあてた。

「入れていい?」
「入れて・・・入れて!」

俺はいかにも自分のものを挿入するかのような体制をとり、バイブレーターの尖端を少し膣口に挿入してみた。彼女がいつもの俺のものとの違いに気づくかとヒヤヒヤしたが、とりあえずまだ気づいていないようだ。用心して亀頭の部分だけを出し入れしていると、待ちきれなくなった彼女が腰を押し付けてきたので、バイブレーターは半分ほど膣に飲み込まれてしまった。胴体部分のイボの感触に気づいたらしい、彼女はバイブを飲み込むのと同時に声をあげた。

「えっ!?」

俺はあわてて、彼女に文句を言わせる前に感じさせてしまおうと、バイブを根元まで一気に挿入し、スイッチを入れた。静かな部屋に、ブーンという機械的な音が響いた。

「きゃっ!いやっ!何これ?やめてっ!」

彼女は腰を引いてバイブを引き抜こうとしたが、俺は強引に奥へ奥へとバイブを押し付けた。彼女の中で、バイブは襞をかきわけて左右にうねり、膣口のあたりではプラスチックの玉 がうごめいているはずだ。

「何・・・してるの?・・・ひどい・・・やめて・・・」

抵抗しながら彼女の声がうわずっていた。

「気持ちいいだろう。俺のとどっちがいい?おまえをためしてるんだよ」
「こんなの・・・嫌・・・あなたのほうが、ああっ!」

言葉とはうらはらに、バイブを強く出し入れすると彼女は大きな声をあげた。

「俺のほうがいいって?ほんとかな、ほんとかどうか、いま見てやるからな」

俺は彼女の股間に顏を寄せて、膣口からバイブが出入りする様子を詳細にながめた。そこは白濁した愛液でグショグショになっており、バイブが出入りするたびに無数のイボにひっかかってさらに愛液が掻きだされてくる。入り口でうごめく小さなボールたちは赤色LEDで発光し、微妙にイビツに広がったゴムのような膣口のディテールを暗い照明に浮き上がらせ、出し入れするたびにコリコリと小さな可愛らしい音を発していた。

「もう・・・やめて・・・あなたのが欲しいの」
「うそついちゃダメ。なんだよこの濡れかた、シーツまでグショグショだよ」
「だって・・・中で・・・動く・・・動くの・・・気持ち悪い」
「気持ち悪いならなんでこんなに濡れるの?イボイボもわかる?イボがあるとやっぱ気持ちいいの?」
「いや、気持ち悪い」
「そう、じゃあやめようか」

亀頭の部分を残してバイブを抜き出してみると、奥にたまっていた愛液がドロッと出てきてシーツに滲みた。スイッチが入ったままなので、それは亀頭だけ中に入って面 白いように赤く光りながら踊り狂っている。その動きに合わせて彼女の入り口がありえないような方向へと広がりながら踊っている。

「どうだ?中がさみしくなっただろう。正直に言えよ」
「中・・・さみしくない。早くあなたのを入れて」
「ダメだよ、うそつきには入れてやらないよ」

俺はバイブレーターを中途半端にあてがったまま、彼女のクリトリスを再び吸った。

「ああっ」

彼女の腰の動きでバイブへの嫌悪感と快感の狭間で揺れているのがよくわかった。俺は執拗にクリトリスへの愛撫を続けた。すると、とうとう彼女は快感に負けたらしい。バイブへ向けて、どんどん腰を押し付けてきた。その様子が可愛くて、俺も手伝い、バイブはふたたび彼女の奥へと収まった。

「ああ、ああっ」
「バイブで犯されてるんだよ、気持ちいいね、犯されるの、気持ちいいね」
「・・・ああ、犯されてる」
「もっと押し込んであげようか。バイブ欲しいって言ってごらん、きっと、もっと気持ちよくなるよ」
「・・・バイブ・・・バイブ欲しい・・・ください・・・」

俺はクリトリスを吸いながらバイブを彼女の子宮口の奥底までねじ込み、また入り口に戻し、ふたたび奥に入れる作業を繰り返した。彼女の腰が激しく動き回るので、クリトリスへの愛撫に苦労したが、彼女の反応は俺が思った以上に満足できるものだった。

「ひいっ、バイブ、いい、いいの、中で・・・動く・・・ああ、イボイボが気持ちいい!」

俺はますます激しくバイブを動かしまくった。

「ああ!一番奥に当たってる!・・・こすれてる。・・・ああ、出ちゃう、出ちゃうよ」

「出ちゃう」という表現を彼女が使ったのは初めてだった。俺は少々ビビったが、好奇心が勝って彼女に言った。

「いいよ、出してみな、何が出るの?」

それからまたクリトリスをこねまわしながらピストンすると、彼女は絞り出したような声で、全身を硬直させながら叫んだ。

「イクッ!イクッ!出るっ!」

痙攣とともに、バイブと膣口の拮抗した部分から勢い良く透明な液が噴き出した。

「ああっ、ああ、あああー・・・」

長い痙攣のあと、グッタリした彼女の中でバイブレーターが赤く光りながらまだうごめいて、手をはなすとグルグル回りながら徐々に彼女から排出されてくる光景が面 白かった。

「すごいね、潮・・・吹いたのわかった?」

一緒に横になり、よりそいながら彼女がやや力を取り戻すのを待って話しかけてみると、彼女は弱々しく答えた。

「・・・恥ずかしいよ・・・。私も、こんなのはじめて。・・・喉乾いちゃった。エビアン取ってきて」

俺は勃起したまま窓際のテーブルの上の飲みかけのエビアンを取ると、ベッドの上に上半身を起こした彼女に渡した。彼女はそれを一気に飲み干すと、まだうっとりとした顏で「バイブレーターを見せてほしい」と言った。ベタベタに濡れたバイブをバスルームで洗い、タオルで拭いてから彼女に渡すと、彼女はそれをマジマジと見つめて、スイッチを入れた。バイブは再び赤く光りながら回転をはじめ、彼女は「すごーい」などと言いながら観察を続けている。その間、勃起したままの俺のことなどまるで眼中にないように、バイブを見つめているのだ。今回の俺の計画は成功はしたものの、作戦自体に大きな落とし穴があったようだ。

つまり、彼女がようやく俺を受け入れてくれたのはひととおりのバイブレーターの観察が終わってからであり、どうやらそれも半分義理のような気がしてきた。

さて、バイブは彼女の独り寝用に明け渡して、これからはいつもどおり、武器は使わずに勝負するか。満足げに小さな寝息をたてながら眠る彼女の横で、俺は真剣に今後のことを悩んでいた。

 



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