ホテル・ミラコスタ

 




スペースマウンテンの巨大ドームの前に立った時、今朝見た富士を連想した。 前日の嵐の余韻をとどめて漣立つ東京湾の向こうに白い山が澄み切ったコバルトブ ルーの空を背景に出現した瞬間、私は荘厳を感じた。富士山の下には帝王の玉 座の元にひかえる家臣団とも言うべき茶色の連山が折り重なって伸びていたが、天高くそびえる雪の冠を戴いた美しい主は臣下たちとは比べようもなく優越していた。まばゆいばかりの美は薄霞のベールによりつつましやかさを与えられていたが、それが神韻とした趣となっている。古人が富士山に「日本一」の称号を与えたのも、ここ舞浜では納得できることである

・・・スペースマウンテンの白いドームが富士と形が酷似していたので、上記の連想が働いた訳であるが、横に並ぶ潤の声で現実に戻った。
「ここに退避口って書いてるよ。どうする?やめる?」
「退避口」とは、このアポロ宇宙飛行士の助言を仰いで造った究極の絶叫マシーンの伝説がもたらす事前の緊張と恐怖に耐えかねた者のために用意された脱出口である。それは、ライドに乗り込むのを待つ道程に数箇所儲けられ、人間の心理を穿った心憎い演出だった。大きな期待と平行してわずかな不安が増殖していくのを感じたが、私は断固として宣言した。

「いいえ、乗るわよ」
「おまえがいやならやめてもいいんだけど」
「ここまで来たんだから乗らなきゃ勿体ないわよ」
「お年寄りは気をつけるように書いてるから、発作を起こすなよ」

宇宙ステーションを模した通 路にはゴールデンウィークも過ぎた初夏の兆しを含んだ日が差し入り、小さな悪魔の笑いを口の端に浮かべている潤の茶色の髪を金色に染めていた。

「きゃーーーー!!」
「わあー」
暗黒の空間を流星や彗星が演出する宇宙の旅とスピードを堪能するのもごく初めのうちだけだった。TDL2000ロケットが暴力的な横周りを始めると体がゆすぶられ、体を固定するのにやっきになる。三大マウンテンの中で最も平均速度の高いのがこのスペースマウンテンだ。たちまちドームの中は悲鳴と歓声が飛び交い、極限のスリルに身をゆだねた人々が黒い空間を駆け抜けていく。

私は成り行きを見届けてやろうと頑張っていたが、横揺れで右腰を打ち付けてしまった。痛みを感じながらバーに掴まる手に力を込めつつ相方の様子を伺ってみる。 しかし、隣の座席に潤が納まっているはずなのだが、暗黒の演出ゆえ顔を見ることは 出来ない。ただ感じるのは潤の腕、腰、体温だけである。しかし隣り合わせの体を流れるあたたかな血の脈動は感じ取れる。確かに「彼自身」にも、こうしてジェットコースターで上下もわからないほどゆすぶられている間も確かに流れているはずなのである。いや、この人間の限界に挑むような凄まじい揺れは、彼の葉脈の活動をさらに激しく推し進めてはいないだろうか?私は潤の中心に棲む健やかな生き物を想像す る。桃色のそれは・・・と考えているうちにライドの昇降と回転が一段と激しくな り、上下の感覚が消失していく。エクスタシーに達した時のように頭の中が空白になり、マヒした平衡感覚のうちに、スペースマウンテンの旅は終了した。

人を脅迫するかのようなおびただしい注意書きを読んでいたので、私はライドから 降りたとたん自分の体調を観察したが、ふらつきや吐き気がなかったので、密かに安堵すると共に自分の若さに内心ほくそえんだ。
「お前こわくなかった?だいじょぶ?」
私の手を引いて巨大ドームから降りるタラップで潤が心配そうに聞いた。
「だいじょうぶ。すごく面白かったよ」
「気分悪くない?」
「全然。潤ちゃんこそ、顔少し青いわよ。もしかして気分悪い?」

実際潤は少し青い顔をしていた。元々色白の青年だが、物に憑かれたような表情がなめらかな頬の線に浮かび上がっている。そういえば、彼はジェットコースターが苦 手だということをメールか掲示板で告白していた。
「ううん、ちょっとフラッと来たけど、今はもうだいじょぶだよ」
彼は見得を張って胸を張ったが、すぐに付け加えた。
「でもちょっと喉がかわいたな。あそこでお茶飲もう」

指差した先には白いドームの前にある「パン・ギャラクティック・ピザポート」があった。そこは銀河系で一番おいしいピザを作る店という触れ込みの店だった。
「そうね。私お腹すいたし、ちょうどいいわ」

銀河系のファーストフード店「ピザポート」へ入ると、お昼まではまだ間があったので混雑をまぬ がれることができた。内部はカラフルでポップな宇宙ピザ自動マシー ンや用途不明な機械でかわいらしくディスプレイしてあった。潤はすばやく席を取り、私に注文を聞いてレジへ向かった。私は銀色のイスに腰掛けて、レジの列に並ぶ潤の後姿を眺めた。フライトジャケットからブラックリーバイス501の腰が見える。引き締まった臀部が黒いデニム地からも伺え、その下には長い足が伸びている。 さっき、あの細い腰はロケットと称する乗り物の中で左右に上下に振られ、まさにあの時と、彼が彼らしい姿に成長して天馬と化して奔放に私の胎内を駆け巡る時のと同 じ動きをしていたのだ。私も強烈なGを受けて身を固くしているうちに芯の蠢動が始まり、股間を引き締めると快感が突き抜けそうだった・・・

愛の雫が体の奥族から湧 き上がってくるのが解ったので、私は深呼吸をして気を静めようとした。すると向こうから潤がお盆にオーダー品を載せて戻ってくるのが見えた。 チキンとキノコの三角ピザをつまんで口に入れるとチーズの濃厚な味と獣の肉汁が 口中に広がり、渇れた欲望が満たされるのを感じた。金の縁取りがついたスープ皿を 上品に手前に持ち上げて純銀のスプーンで掬う白手袋を着けた淑女のごとき優雅さで ピザを扱ったつもりなのだが、内なる下等な思念が薄紙に染み出る油のように透けていたのだろう、潤が驚嘆の声をあげた。
「おまえ朝からそんなのパクパクと食べるなんてすごいね」
私は内心焦ったが、潤の瞳を見ると丸い目が無邪気に笑っている。
「とってもお腹すいてたんだもん。朝ごはん食べる暇なかったし」
「ふうん。でもおまえはよく腹痛おこすんだから、気をつけろよ」
「だいじょうぶ。朝からハンバーグでも食べれるわよ」
「ふてぶてしいんだな」

潤は呆れたように言うと、自分で注文したグレープジュースを飲んだ。薄茶色のシャツの間から覗く首は細いが、喉には完全な男の隆起があり、それが動いてジュースが喉を通 過していくのが解る。私はあの彼の喉元に何度口付けしたことだろう。咥えたこともある。その時潤はくすぐったそうに体をよじり嬌声をあげた・・・

また!ここは健全なテーマパークじゃないの!私は自分の邪念をしかりつけ、誤魔化すために潤に何事か話しかけようとした。
「このピザおいしいわよ。潤ちゃんもちょっと食べてみない?」
思いつくままに発した言葉だったのだが、潤はすぐに反応した。
「いいの?」
ピザを差し出すと、潤はミッキーマウスの紙コップを手にしたまま、口だけを突き出してピザを齧った。

「どう?」
「うん、おいちい」
潤の齧り口を見ると、連続した並びの歯型の完全な軌跡が鮮やかに記され、その部分からは黄色いチーズが唾液を取り混ぜて幾筋も糸を引いていた・・・
あまりのエロチズムに私はめまいを感じた。私の息遣いと顔色が変わったのを悟ったのだろう、潤は言った。
「ホントにだいじょぶ?ホテルでちょっと休んだ方がよかない?」

今晩の宿はホテル・ミラコスタだった。それは日本発のパーク一体型ディズニーホ テルホテルという話題性のみに留まらず、18世紀イタリアン様式を忠実に再現し、象 嵌を駆使したマホガニーの光沢の豪奢に縁取られた贅沢な空間だった。広々としたエ ントランスの中心にある海獣が水を吐きあげる噴泉や優美なカリグラフィによる黄金 の紋章が荘厳さをさらに盛り上げ、ホテル内も一泊50万円もするマニフィコ・スィー トや古代ローマの皇帝が出現しそうなコリント様式の白い柱が美しいプールとスパなど、自分が日本にいることを忘れてしまうほどの華麗な異国の香りに満ちた別 世界 だった。それだけに料金も破格であり、ディズニーファンの憧れを一身に集めている。パークの周囲に並列するオフィシャルホテルでも充分事足りたのだが、潤との一 夜を過ごすのに一般向けのシティホテルよりは、趣味的にも卓越したクラシカルな宿か、逆にいっそのこと卑猥な装置で本能を直裁に刺激する「典型的なラブホテル」の 方がふさわしいように思えた。

もちろん理由はそれだけではない。実は愉快な計画がこの胸に詰まっているのだ。古代ギリシア・ローマを模範とした人間復興ルネサンスの建築装飾を踏襲したイタリア貴族の離宮を模したエントランスをくぐると、ヨーロピアンスタイルの広くはな いロビーの中心に赤銅色のガレオン船のモニュメントが出現する。天井を見上げれば、各都市国家の中核を形成するドゥオモの丸天井がディズニーシーの各コーストを表現した美女の壁画で飾られているのが目に入る。これらの美的なシンボルは様々なガイドブックでも紹介され、宿泊客以外にもこの「海を眺める」とイタリア語で命名されたホテルを見学に来る者も少なくなかった。

当然美に対する感受性の鋭い潤の興味を引く。潤はつないでいた私の手を離して感嘆した。昼下がりのホテルは人もまばらで、潤は心行くまで日本に出現したイタリアの美を観察できるはずだった。しかし私には彼の好奇心を満たす余裕はなく、部屋へ急がせるために彼の袖を引いてエレベーターホールへせきたてた。

白大理石の壁のなかにエレベーターはあった。優美な唐草文様がついた茶色のドアが左右に開くと、私はすばやく緋の絨毯を敷き詰めた内部へ入り、テラスルームがある5階のボタンに触れる。するとミッキーマウスの声で「上にいくよ!」と応答があり、音もなくドアは閉まった。

「おまえ、なんで慌ててるの?」
「え?」
「もしかして発情してるの?」
「な、なにを」
私は図星を差されて焦ったが、素直に認めるのも業腹であるので、故意に冷えた声を出した。
「バカね。昼間からいい年してそんなわけないでしょ。疲れただけよ」
しかし潤の勘のよさは姑息な策謀を一瞬の内に見抜いたらしい。
「そう?疲れた?でも」
潤はすばやく私の股間に手を伸ばした。
「ここは元気だね。ジンジン動いてるよ」

私はジーンズをはいていたのだが、潤のしなやかな指先はぶあついデニム地の上から簡単にクリトリスを探り当て、そしてつまんだ。私の下着はパークにいた時から充分に濡れていたので、もちろんクリトリスもぬ めっており、淫猥な音を立てて潤の指をすべった。
「あっ!」
「ほら、たまんないだろ?」

からかうようにささやきながら人差し指と中指が大小の唇の形をなぞって上下する。潤の愛撫はギターの弦をかき鳴らす要領でいつも正確だったが、この時も生地に 隔たれた接触であるのに電流を通したように陰部全体をかき乱し、下半身に快楽の共鳴を起こした。

「いや、やめて、こんなところで」
しかし潤は無言で唇を閉じたまま同じ動作を繰り返した。わずかに白い頬に紅が差しているだけが彼に見られる変化だった。その冷酷な表情を見ているとよけいに情欲を刺激され、私は言葉と裏腹に濡れがよけいひどくなり息遣いが激しくなった。すると潤は私をエレベーターのカベに押し付け、私の胸元をくつろげ喉元に舌を這わせた。熱く粘質な生き物と化した潤の舌は喉を上下し、次第に胸へと降りていく。彼の 特技の一つに舌をあげることができる。若さに任せた激しい腰使い以外にも、熱い舌の絹糸の繊細さでも歓喜の極みへ送り届けられた経験が蘇り、私の腰が自然と動いて 期待しているものを雄弁に語ってしまった。熱い舌と連動して股間にある指の動きも一向に止むことなくますます私を責めたてている。

「5階だよ!」
潤の愛撫に陶酔しかけていた神経が、中性的なミッキーマウスの声で蘇った。ドアが左右に開いたので、私は驚愕したが、重厚な回廊の空気が流れ込むだけで全く人気はなかった。まもなくディズニーシーの名物ポルトディパラディーソ・ウォーター カーニバルがメディテレーニアンハーバーで始まるので、おそらく人々はパークかカーニバルが見渡せる館内の箇所に陣取っているのだろう。
「着いたわよ、ちょっと離してよ、いい加減にしないと人が来るわ」
しかし潤は舌と手を稼動し続けている。
「ダメ、早く降りてお部屋に行こうよ」
私の苦情は潤の口で塞がれてしまった。潤は丸みを帯びた唇を縦横に使い、ぬ めっ て燃える舌を絡めて私の意識を再び飛ばしてしまう。ドアは一定時間開くと再び閉 まった。ミッキーは沈黙している。利用者はない・・・・・

いつの間にか潤はブラウスのボタンとフロントホックのブラジャーをはずしてしまったらしく舌を乳房へと移動させている。すでに敏感になった乳首が彼の舌で蹂躙されるのは時間の問題なのだが、上と下から攻められたのでは火のついた中心は飢餓 状態に耐えられなくなりそうなので、もう一度潤をいなそうとした。

「だめよ、こんなとこではしたないわ」
しかし無常にも潤が乳首を激しく吸ったので、私の言葉はため息に変わってしまっ た。

「ああ・・・」
思わず上を向くと、潤と私が鏡張りのエレベーターの天井の鏡に映っていたるのが 見えた。乱れた茶色の頭が私の胸元で小動物のように動いている。肩章のついたフライトジャケットを着たやせぎすの、しかし私よりは広い背中が丸くなっている。なだらかな肩から伸びている長い腕が私をカベに固定しているのが見える。性急な潤をたしなめることなく呆けている淫乱な自分を恥ずかしく思いながら、私は潤の頭を抱い た。

「あっ!」
この驚嘆は、潤が新たな刺激を加えたからではなく、ジーンズ地の上から陰部を支 配していた潤の手が不意に離れたからだ。不満と安堵が混在した肉体の孤独。しかし それも一瞬のことで、次の瞬間私は自分のジーンズが引き降ろされたのを意識した。 その次には熱く太いものがジーンズの呪縛から自由になった腹に押し当たったのを感じた。それは言うまでもなく、潤自身だった。彼はいつの間にか自分のリーバイスの チャックを下ろして欲望のシンボルを打ち立てていたのだった。

「どう?」
彼は体ごと壁に私を押し付け抱きしめる。当然その猛った器官が直接腹の肌に押し当たる。固く勃起した肉から皮がわずかに移動し、脈動する若い潤の赤き血潮が痛いほど感じられる。
「ど、どうって・・・」
「おまえが欲しがってるの知ってるよ。もう入れてほしいんだろ?」
「いやらしい、欲しがってなんか・・・」

言葉とは裏腹に私の宇宙は彼への要求で聞こえるほどに蠢動を始めたようだった。 潤はすべてを悟っているのか、今度は熱く固い肉の柱の先で腹をくすぐる。すでに先走り液が染み出した笠は腹にいやらしい軌跡を残して動き回る。それに連動して私の澪も激しくなり太ももを伝い始め、腰は小刻みに動いている。潤が私の足を上げさせてジーンズと下着を取り去るのを混乱した意識の中で感じる。

ああ、早く早く入れて、入れて、私の乾きを潤の泉で癒して・・・潤は私の左足を持ち上げた。ああ・・・ 股間に熱い笠が触れたかと思うと、太いものが乱暴に侵入してきた。
「ああっ!」
幾重にも折りかなった肉の襞は先ほどからの彼の愛撫で充分な湿りを帯びていたが、潤の刺激は強すぎて痛みすら感じる。左足を潤の腕に掛け残った右足で爪先立ちしていたのだが、いまや潤の楔に貫かれて床との接点は消失した。潤は腕と猛った支 柱で私を支えているのだ。
「ふふ、驚いた?」
「やめて、こんなのいやだって」
「この前ね」
彼は残った右腕で私の上体を抱き寄せると耳元でささやいた。
「おまえがどうしたら一番感じるのか、一番悦ぶのか、一番いやらしい牝になるのか、わかったんだよ」
「な、なんですって」
「こんな人が来るかもしれないところで、いやらしい格好で犯されるのがお前は一 番好きなんだ」

茶色の瞳に煌きを宿した小悪魔は軽く腰を突き出した。あの巨大な笠が私の深い奥 所を的確に突いたので、その部分に激しい稲妻が走る。とがった閃光は四方へ飛び散り腰全体を網羅し、上下の肉体にすみやかに伝播して全身が快感で包まれる。愛の蜜が次なる潤の運動を期待して更に湧き出すのが自分でも判る。 しかし潤は欲望に敏感な女性の天井を押していた亀頭をわずかに引いた。

「ククク」
意地の悪い小悪魔が、一旦人間にこの世で考え付くだけの栄誉や金品や快楽を与えておいて、再びそれを取り上げて目の前で吊り下げ、人間がそれを取り戻そうと必死 で足掻くのを楽しんでいるかのような笑みをこぼす。
「なんで・・・けち・・・」
「自分で動かしてごらん、お前イニシアチヴとるの好きじゃん?」
こんな場所で下半身を露にした姿で潤に翻弄れることへの屈辱と自尊心を右の皿に、瀑布のような激しい快楽への予兆と飢餓感を左にと、相反する要素が感情の天秤の上で均衡を保っていたが、やがて左へ傾き右の皿は跳ね上がって中身は虚空へと飛び散ってしまった。私は忍耐の縦糸が音と立てて切れるのを確認し、自分から腰を押し付け、求めていた潤の穂の先を捜し当てた。

めくるめく快感が蘇る。豊潤に溢れていた愛液が肉体の摩擦で卑猥な水音を上げ、その余剰は潤の根元や私の太ももに幾筋も垂らした。すでに膣の肉襞群は立って久しく、子宮への湿った道を押し広げて占領している長大な牡の象徴に、触手のように巻きついて吸い付いて潤を咥え込んでいた。いまや宙に浮いていた右足は、より確実でより深い結合を求めて潤の足に絡みついていた。私の体に入っている潤の根元が私の摩擦と旋回を駆使した運動で揺れはじめた。

「あはは、おまえもすっかりその気じゃん」
潤は腰の運動のため動く私の背をエレベーターの鏡張りの後ろ壁に付けて支えながら笑ったが、前部にある階数を示すボタンが点灯したのに気づいた。
「あ、今1階でこのエレベーターを呼んでいる人がいるよ!」
間髪を入れず、録音されたミッキーマウスの声が「下へ行くよ!」とアナウンスし た。
「えっ!下へ?!」
驚愕が一気に冷静さを蘇らせる。
「これはヤヴァイな」
潤は私を抱きかかえたまま、手を伸ばし、3階のボタンを押した。すでに下降を始めていたエレベーターはかろうじて3階で停止できた。

「3階だよっ!」貝のように閉鎖されていたゴンドラ内の濃密な甘酸っぱい空気に、 ホテル特有の静けさとよそよそしさが混在した空気が流入してきた。 エレベーターの外には静寂なエレベーターフロアがあり、花のさわやかな香りが 漂っていた。フロアの正面の象嵌細工のテーブルにはチューリップのアレンジメントが白い器に盛られており、そのパステルカラーは幾分照明を落とした重厚な館内にやわらかな印象を与えて調和していた。

「さ、降りようよ」
潤は腰に絡みついていた私を床に静かに下ろした。はだしの足裏が毛足の短い絨毯を踏んでいる。今まで潤沢な粘液の中にあった雌雄の結合は、簡単に、しかし切ない音を立てて離れ、名残を惜しむように膣からの液体が糸を引く潤の陰茎が勢い余って跳ね上がった。自由になった陰茎は潤の腹を打ち、粘い糸は尾を引いて彼の衣服に付着し た。そして私の内部にはいきなり空洞ができた。

「立てる?」
着地になんとか持ちこたえたが、潤に巻きつけていた足はすっかり痺れており、ふらついたのは隠せなかった。
「だいじょぶ?取りあえず降りようよ」
潤は私の腕を支えてエレベーターの外へ出て、むき出しの下半身露出したまま肩で息をしている私を壁に持たせかけ、すばやくゴンドラの中に脱ぎ捨ててあるジーンズ と下着とパンプスを拾い出してきた。
「ほら、これはいて。急いで」
私は潤の差し出した衣類を受け取ると、震える手であわてて下着や衣服を整えた。 潤があれほど巨大に膨張した肉の棒をどうのようにジーンズに収めたはさだかではないが、それを聞く余裕もないほど着衣に苦労した。ボタンは掛け違って掛かったまま だった。ただしく掛けなおそうとしても朦朧として指先が自由に動かなかった。

「できた?」
「ボタンが、できないわ・・・」
潤は私の身なりを点検してブラウスのボタンを掛けなおして裾を引き下げ、その後 歩行を促した。
「ま、これでいいや、行こう」

潤に支えられながらクリーム色の内装で統一された廊下を歩いていく。廊下も館内の雰囲気に忠実で床のラグが見事だったが、私の意識は自分の芯に集中していた。熱い粘膜はまた潤に吸い付いた状態を記憶して規則的な叫喚を続けている。快楽のオベリスクを受け入れていた膣口も蠢動をやめず、通 行人が見れば私の歩様は不自然に違いない。潤の器官によって敏感になった部分に固いジーンズ地がこすれて痛みを感じた。足を踏み出す都度起こる小さな痛みはすぐに痛痒感になり、新たな刺激になってしまった。着衣時、少し治まったかに見えた情欲がその部分から蘇る。ああ、ああ、 どうしよう。あの道をいやらしい虫が這い回るような・・・その部分は著しい分泌物 を滴らせた。
「じ、潤ちゃん・・・」

潤は私の肩に手を回していたが、鼓動が激しくなったのを感じたらしく足を止め た。
「我慢できないの?」
「・・・」
「おまえも本当に好色者だね」
潤が左右を確かめたので再び私の腰に手を掛けるかと思いきや、彼は忍びやかに 言った。
「やってあげたいのは山々だけど、さすがにここではできないよ」
それは当然だろう。エレベーターの中で大胆な行為をすること自体危険の極みだったのだから。

私は潤を受け入れ陶酔に身を任せていたが、一方いつドアが開くかと気が気ではなかった。しかしスリルを伴う秘め事には古代の神殿の秘仏を弄ぶような禁 忌に満ちた愉悦感があったのは確かなのだ。
「いじわる」
「ククク、ほら頑張って。向こうから人が来るよ」
彼は先ほどと同じように私の肩に手を掛け歩くように促した。

どこをどう歩いたか記憶がない。私は潤のリードにしたがって歩いただけだった。 階段を上がったような気もした。頭が痺れて神経は下半身にのみ存在し、ただ潤の腕にすがって彼のジャケットの裾を握り締めて湧き上がる欲望に耐えていた。
「サローネだよ」
夢の世界から現実に戻ると、先には明るい空間があった。そこはサローネというミラコスタの最上階を占めるスペチアーレ・ルームとスィートルーム宿泊客専用のラウンジだった。潤は私を手前にあったイスに腰掛けさせた。
「お前座りたいだろ?じゃ俺がチェックインしてきてやる」
私はオーク材をくり貫いた背もたれのついたフィレンツェ風のイスに身をあずけ て、騎兵の肋骨服を擬した制服を着た慇懃なフロントと潤のやりとりを茫然と眺め、 やがて窓の方へ視線を移した。

メディテレーニアン・ハーバーに面した大きな窓には 面取りをしたガラスがはめこまれ、午後の日が差し込んできている。窓の側には4組 ほどの先客が張り付いたように座っている。あの人たち眩しくないのかしら・・・
「もうすぐポルトパラディーソ・ウォーターカーニバルが始まるからみんな場所取りに必死だね」
戻ってきた潤の声は私の疑問を見透かしたかのようだった。そうなのか、彼らは ディズニーシーの名物となったウォーターカーニバルを見るため窓際に陣取っているのだ・・・
「部屋へ行こう」
潤は再び私を促した。

今夜の私たちの部屋は5階のスペチアーレ・スウィートでも人気の高いポルト・パラディーソサイトのテラスルームだった。そこはメディティレーニアンハーバーを眼下に見下ろし、その向こうにシーのシンボル・プロメテウスの火山を遠望でき、昼のウォーターカーニバルから夜のディズニーマジック・イン・ザ・スカイまで自室のテ ラスから観られるという特等席としてディズニーファンの間では伝説的な部屋であった。

予約は半年以上前から埋まっているので、まさか予約が取れる幸運に遭遇するとは想像だにしていなかったが、予約を任せた潤が父の知人のツテでこの部屋を確保したと聞いた時は当然喜んだが、「テラスルーム」という部屋の構造も私には僥倖に思えたのであった。あの桜の季節の潤の記憶は、私に火のような羞恥と湧き上がる怒気 を蘇らせた。夜桜の下という幻想に満ちた場面ではあったが、屋外で野生の生き物のように臆面 もなく交合するとは・・・私は体の芯に疼めきを感じるのを心の底に押し隠していたが、年下の青年に好き勝手に扱われた屈辱は隠せない。夜空に花火が赤や 青の菊花や柳を打ち上げる最中、テラスという同じシュチエーションで彼を剥いで締め上げて花火のように欲望を破裂させてやろうと思っていたのだが・・・

そんな気も 知らずに潤は私を支え長い廊下を歩いていたが、ある部屋の前で足を止めた。
「ここだ」
オリエンタル急行の終着駅のホテルで用いられるようなアールヌーヴォー式の四角 い板に部屋番を確かめると、彼はミッキーマウスのついたカードキーを差し込んだ。 音もなくドアが開く・・・

部屋へ入ると、クローゼットとバスルームに挟まれた通 路があり、その先には広々としたリビングルームとなっていた。壁一面といっていいほどの大きな面 積を取った窓には青と黄の対比色に染めた重みのあるバランスを侍らせたカーテンが垂れ、しなやかなドレープを作りつつ両脇にまとめられており、その優雅さはいかにも洗練された趣味を持つ北方イタリアのブルジョアの私室を再現したかのようであった。その先にはこの部屋が世間に喧伝される要素である広大なテラスがあり、絶景が望めるはずであった。

一瞬部屋の優美さに自意識を取り戻した私は、当初からの目的地であるテ ラスへ行こうとしたが、ドアを閉めた潤は私の手を捉えた。
「さっきはどこまで行ったんだった?続きをやろう」
「いい加減にしたら?私はウォーターカーニバルを見たいんだから」
「さっきは可愛かったのに、またいつもの気取り屋に戻ったようだな」
潤は私を後ろから強引に抱き寄せた。

「きゃっ」
潤の熱くて固い器官が小腰に接しているのを感じる。
「お前の本音をはっきりさせよう」
潤は耳元でささやくと両手で服の上から胸を揉み始めた。乳房を包み込むように指を広げて揉みしだく愛撫には速効性があった。乳房全体から快感の線が沸き、たちまち乳首は潤の指先を待つように丸く主張を始める。それに連動して下半身の敏感な部 分も持ち上がり、細く振動しはじめる。自然息遣いも再びエレベーターの中の状態に 近づいていく。思わず漏らした淫靡な吐息を確認した潤は笑った。
「ほら、お前はもう感じているんだ」
「え・・っち」
「お前の方がえっちだよ。今確かめてやるよ」 と言うなり、潤はいきなり私をじゅうたんの上に押し倒した。

「潤ちゃん!」
すばやく半身起き直ろうとしたが、彼が私の腰に手を掛けて勢いよくジーンズと下着を一度に引き降ろしたので、再び背は床に戻された。潤は私の前で自分のジーンズのファスナーを下ろして、彼自身を引っ張り出した。それは先ほどエレベーターの中で見た時と違わぬ 熱と湿気を巻き込んだ脈動と固い屹立を維持しているのには驚嘆した。その熱気は空気を伝わって私の子宮を震撼させた。先ほどから滴っていた愛液がさらに奔出し、太ももを伝ってクリーム色と青色を貴重とした絨毯に淫らな染みを押したが、気にしている暇はなかった。潤がいきなり私の股を割ったからである。

私の生足を割り、間に体を進め、太ももを腕で抱えた潤はためらうことなく開いた股間に顔を埋めた。私は反射的に体に力を込めたが、仔犬の舌のような柔軟さと軟体動物の触手のような淫媚な動きをする舌で大小の陰唇を舐め取られ、蜜を吸い取られる心地よさにいつものように陶然としてしまった。

潤はギターの弦を押して様々な音色を奏でるように性感帯を縦横に刺激して歓喜のバラードをかなでる技を会得している。私は牝の蜜の泉の底に秘めた悦楽の点を熱くてざらついた舌と細い指で刺激し頂点へ押し上げるサービスを心待ちにしてさらに股を開いてたが、予想外の展開になった。 私は突然下半身に巨大な楔を打ち込まれたのを感じた。潤がいきなり侵入してきたのだ。淫水で筋のついた大腿を持ち上げ、笠先の愛撫を経た静寂の潜水を待っている膣の入り口を気ぜわしくつき抜け襞を一気に掻き分けて感覚の泉源を突き上げた。腰から快感が突き上げ声があがった。

「あっー!」
潤は狂ったように腰を使い、私の胎内を激しい振動が駆けはじめた。
「あっああ、あ、あ」
潤に太ももを抱えられた私は、天井を向いてのけぞった。忙しない摩擦から飛び散る火花に押され、しばらく頭の中は次々と繰り出される粘膜の刺激で満たされ、意識は淫らにねばついた摩擦音とクリーム色の天井をかすかに映し出すだけだった。蘭の花弁に突き刺さった肉棒は私の道の中をかき乱して猛り狂う。潤が体を引く度抜けれ しまうかと思われるが、こんもりと盛り上がった笠が膣の穴に引っかかり結合を繋ぎとめ、ただちに襞を押し分けながら子宮の入る口まで突き戻る。その度私は自分では 制御できない本能的な歓喜の声を上げていたに違いない。

「お、お前の声の出し方は萌えるよ」
潤の声帯は激しいピストン運動で震えていた。この声を聞いた私は、彼も来る爆発を期待して悶絶しているのだとわかった。途端今まで下半身の快感を甘受することだけに費やされていた意識が鮮明になり、肛門括約筋に力を込めるまでに至った。今まで熱帯魚が起こした波動に蹂躙されるイソギンチャクのように潤の丈夫に手弱女いでいた幾重もの襞はさざめき、タコの吸盤のように吸引力を増して狭くなった膣口と協 力して潤自身をきつく締めて吸い上げた。

「ああっ!」
今度声を上げたのは潤の方だった。私は地に付いた二の腕と肘に力を込めて体を支え、宙に浮いた腰に力を入れて潤を締め上げたまま旋回させた。これからは潤の竿が支柱になったのだ。しかし締めすぎても潤が果 ててしまってはすべて終りになる。狡 猾な駆け引きが必要である。小僧を咥えこんだまま、騎乗位 のように自在に揺らして 回して押し付けて葉脈が張り裂けそうになるまで翻弄してやらねば・・・

潤の精をより深く吸い取るために足を彼の腰に巻き付けて、引き締めた膣口を一旦緩めた。 それまで突進と転進を激しく繰り返していた潤は小休止を取らんがため、膣が力を抜いたのを見逃さず身を引こうとした。しかし私は会陰と大陰唇をも使ってそれを阻む。潤の太い茎を左右の唇が挟み上げる。今まで潤を根元まで受け入れていた胎内の奥には真空地帯が生まれ、再び潤の高性能動力機関のついたロケットをブラックホールへ吸い込もうとする。
「く、くるしい」
「うふふ、たまらないでしょ?もっと締めてあげる」
私は体の奥に力を込めて陰部全体を使って潤をくわえ込んだ。潤は引き抜こうとしたが、多くの襞が触手となって固いが弾力性に富む海綿体に密着してなかなか獲物を解放しない。膣口を取り巻く筋肉には力がみなぎり潤の根元を万力のように締め上げているので、この強情でナマイキな小僧はそのうち確実に根を上げ、哀願して私の前 にひれ伏すだろう。もうすぐだ・・・

しかし後退を諦めた潤は苦悶の呻きを漏らしながら体を動かし始めた。彼はあえて奥へ戻り二つに割れた笠の先端を天井へ対し強力な摩擦を繰り返したのだ。今まで潤 を締め上げてほくそえんでいた私の底から再び牝の声が沸きあがってきた。
「あー、あああー」
「んっ、ん!」
「あ、あ、あ、あ」
私の要請に応えて潤は目を閉じて腰を突き出す。汗と結合部から漏れる液が混じって腹の上や臀部に飛び散るのが解る。私の入り口は意志があるかのように開閉するし、その流れに乗った潤の突起は潜水と浮上を繰り返す。もうどちらも淫乱な感覚にとらわれてしまっているのだ。あられもない声と粘膜を摩擦するいやらしい音が落ち 着いた室内に響いている。激しい突きは私たちを窓際へ向かって移動させていたので、レースのカーテンの向こうには、太陽がプロメテウスの山の噴煙を煌かせている。空を海鳥がよぎったらしく、潤の頬にあたる光が乱れたが、性の快感に夢中なっている私たちには煌きだけが感じられた。

子宮は潤の何度もの突撃で充分に充血しているが、絶頂まではまだ間があるようだ。意志を持つかのように蠢動していた膣口が開いた瞬間、潤がわずかに休息したの で、私が肘を使って上半身を起こして潤を見上げると、白い額から汗が流れ落ちて桃色に紅潮した頬を伝って、筋張った喉元を通 って鎖骨を掠めて、同じく桃色に勃興し た乳首に到達したところだった。彼の全身は性の色に染まっていた。もちろん私の全身も潤の容赦ない突き上げにより導かれた性の興奮による汗にまみれている。大きく開いて潤を挟む自分の股間に目を移すと、自分の陰毛の中に太い肉が埋まっているのが見えた。

見事に膨張した赤黒い男根が黒々した陰毛の林に突き刺さっている光景は、インドで見たシバ神の神殿の奥深く安置された御神体を連想させた。何百もの体位 で性交する男女神を隠すことなく寺院や塔の表面に彫り付けたヒンドゥー教にとって性とは宇宙そのものであり、踊るシバ神により体現されたヒンドゥーの原理、つまり破壊と再生の源であった。

自分の一物に見とれている私に気づいた潤は先ほどまで保持していた優位 を取り戻 した。
「お前の中に入ってる俺を見てるの?」
「・・・」
「ここから生えているみたいだろ」
潤は、私の大腿を抱えていた一方の手をはずして、黒くわずかに縮れた陰毛を触れ た。
「お前は毛が多いね。ベトベトになってる」
「いやらしい!」
「俺のもこんなになってるよ、見て」
私の手を取ると自分の茂みに導く。彼のそれは粘った液で濡れて束になって彼の下 腹や男根にまとわり付いているのが解る。
「全部おまえのえっちな液で濡れたんだよ」
「イヤッ」
「ほら」
潤は濡れた指先を私の腹になすりつけた。

自分の淫乱さを認めたくない羞恥心に襲われた私は両手で顔を覆った。羞恥に燃えるその様子が、潤の欲望を刺激したらしい。彼は再び動き出した。私も合わせて腰を振ったが、潤の律動は先ほどよりも勢いを増して受け止めるたびに悦びが大きくなるのが解った。陰毛についての会話は更なる飛躍へ向けてのささやかな休息をとるため の潤の作戦だったのかもしれない。すでに部屋の入り口から窓の間近まで潤に突き上げられて動いた私は、今はガラスに手をついて潤の衝動に耐えている。水気を帯びた摩擦音とじゅうたんを擦りあがる音をBGMに、二人の息遣いと悶えの声が部屋に響き、それらの淫音は徐々に高まっていった。

焦燥を含んだ快感で下半身は限界まで燃えている。すでに腰の中は潤の動きで溢れ そうになっている。もうすぐあの感覚が来ると悟った私はついに言った。
「あ、ああ、もうダメ。いきそう、いかせて」
潤は果てることなく体を使っていたが、私の言葉を聞いて大腿を抱えなおし、腰に 力を入れた。
「いきたいか。よし、いかせてやる」
「あっあー」
充血して震えていた器官はついに頂上を極めて著しい収縮を起こしたのだ。脳裏を光が走りぬ けた後全体が白い綿の国へ飛び込んだような浮遊感と脱力感に包まれた。 緊張がほどけて体中の力が抜けて思考力はしばし消え果 てた状態になる。女のみに許された極上の愉悦の中を揺曳しはじめる。
「ううー」
その直後に潤も達し、精を吐いて果てた。青くて夥しい体液が奔流していく。いつも潤が射精すると粘膜の間に若い精液が侵入し膣壁から瑞々しい生気を吸い取ってい るような気がするのだった。その頃、窓の外ではウォーターカーニバルがフィナーレ を迎えんとしていた。・

「潤ちゃん、餓えてたんでしょ」
激しく運動していた部分はまだ繋がったままであるが、潤はそのまま私を引き起こして膝に乗せた。私の煽りに乗らず背に手を回して抱きながら言った。
「今ちょうどフィナーレだから、下の海ではミッキーとダニエラ姫の乗る船が回っているところだよ」
私は潤に頬を押し付けたまま窓の外を見た。室内から遠望できるのはプロメテウスの山やロストリバーデルタの名物クリスタルスカルの魔宮やポートディスカバリーの一部だけだったが、今まで夢中になって聞こえなかったカーニバルの音楽で下で開催されている祭りの賑わいが感じ取れた。

先に港に降臨し祭りをダンスや歌で盛り上げ た色鮮やかな仮面や衣装を身にまとったパフォーマーたちが、ディズニーキャラク ターたちが美しく装飾された16世紀の船に乗って港を旋回し、観客に手を降り愛嬌 を振りまきながら退出していく仕組みになっていた。

「カーニバルやってる間、ずっとえっちしてたね」
プロメテウスの山の上で開花した花火を見ながら潤が言った。
「せっかくのテラスルームなんだから、外で見ればよかったね」
すると、潤はおもむろに私を見た。目には嘲笑の光が浮かんでいる。
「お前、本当は桜の続きをやりたかったんだろう?」
「桜?」
「ほら、春にお前が家に来た夜、テラスで桜を見ながら・・・」

この小僧は人の心を読むのか・・・と少し焦ったが、そ知らぬ 顔で応える。
「ふん。そんなこともあったわね。でもあんな恥ずかしいことしたいわけないで しょ」
「無理しなくてもいいよ」
「人に見られたらどうするのよ。さっきだって大体あんたは、あっ!」
声を出したのは潤が私のクリトリスをつまんだからだ。
「やめなさいよ」
しかし無視してこね回されたので、落ち着いていたそこに再び感覚が集まり始めるのを感じる。

「晩にね」
潤はクリトリスを剥き揚げながら下腹に力を入れた。欲望を出し尽くして萎えたものが少しずつ胎内で成長するのを、私の下半身の目が感受する。
「夜にはね、ディズニーシンフォニーというのがあるんだ。それもテラスから見たらきれいだよ」
潤は耳元に熱い息を吹きつけるようにしてささやいた。
「その時、あそこでやってあげるよ」
興りつつある欲望を抑えて窓ガラス一枚を隔てて広々としたテラスを見る。そこは ヴェネツィアの大運河を臨む高名なホテルのテラスルームを模しており、レンガ仕様 のタイルを敷き詰めた床には白いテーブルと椅子があり、その先には白い手すりが 待っていた。

「前は夜桜だったけど、今度は花火の下でやるんだよ・・・」
潤の声は勃興し始めた彼自身を挟み込んでいる私の耳に甘く響いた。

 

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