どうぞあなたの随に
「夏油様の気持ちは嬉しいけれど……」
目の前の女は、珍しくきまり悪そうにもじもじしてみせた。
夏油傑がこの厄介な呪力を抱えた女をこの世の中で見つけだしたのは偶然のことだった。
これほど強いちからを持つ者の存在が高専をはじめとする呪術師の世界に認知されていないというのは奇異なことだったが、それは夏油にとっては幸運だともいえた。
なにしろその頃の夏油ときたら、もうすっかりこのの肉体に溺れきっていて、自分が彼女にありつけたのは、ひとえに誰にも知られていなかったからだと確信していたからだ。
同時にこの娘がこれまでの人生でどういった扱いを受けてきたのかを想像すると、胸の中で殺意が煮えた。
「私の家族として生活しないか」
そう切り出してみたものの、夏油にはまだ迷いがあった。
この存在を、呪術師たちとはいえ他の者に晒していいのか。
だがから返ってきたのは、断りのニュアンスの強い戸惑いだった。
「私、どこにいたって居心地悪いもの」
「それは……そうか」
彼女の呪術は男を狂わせる。ひとたび咥え込んでしまったならもう虜にしてしまう。
男はもちろん、女からもどんな目で見られるかわかったものではない。きっと現在夏油と共に生活している家族たちとはいえ、すぐに受け入れるのは難しいかもしれない。
「こうやって人気のない場所でぼうっとしてるのがお似合いですわ」
人気のない場所。自分以外は入室しないマンションの一室。
保護者もすでに死んだと聞かされていて、ならばどうやって生活を立てているのかと聞いたら、そのときもは言葉を濁していた。
やがて彼女と関係を深めていくうちに、夏油の認識でいうところの猿、それもぎとぎとと欲にまみれたそれから巻き上げていると知ったときにはあまりに不憫で、夏油はここに通うことを決めた。
さっきも当分はもつだろうまとまった金を、彼女に渡していた。
そのおかげで夏油はこの女を独占でき、なにより猿と同じ穴に己を突き込むなどという身の毛もよだつことをしなくて済むし、夏油にとってはどうでもよいことだが彼女に目をつけられた猿が死ぬのを防ぐことができた。
「呪術師だけの世界ができあがったら、の居場所も広がるよ」
「じゃあ、そのときの楽しみにとっておきますわ。夏油様と家族になるのは……」
己では支配できない呪いを粘膜に帯び、ちからの弱い男は交わるたびに殺し、そうでなくても魅了しておかしくしてしまう。
世の中の人間が全員呪術師になればそんなこともなくなる。
呪術師たちの結束が固くなれば、彼女の能力だって奇異の目で見られることはなくなる。きっとそうに違いない。
こんな日当たりの悪い一室で、縮こまっている必要などないのだ。
「待っていてくれ、。きっとすぐだから」
「ええ……」
を抱き寄せて髪を撫でると、心地よさそうに目を細めてくれる。
(やはり……愚かだよ、非術師は)
こんなにいとおしい存在を、満足に抱くことすらできない。
「そうだ、」
「んっ……どうしたの」
彼女と真正面から向き合うかたちで交わろうとした直前に、夏油はふと訊ねた。
「最近呪霊は寄ってこないのかな」
「あ……そういえば。って、今聞くことなのかしら……」
「ふふ、ごめん。確かにそうだね」
いきり立った肉茎が、もうすぐにでも膣穴に潜り込もうとしているさなかだ。
だがそれゆえに夏油は、出会ったばかりの頃に彼女が言っていたことを連想してしまった。
「大丈夫、最近はまったく……もしかしたら、夏油様のおかげかも」
「私の?」
「んっ……こうして夏油様に抱かれているから、呪霊たちも怖くて寄ってこないのかも。私を犯そうとする悪いものは、生まれた頃からうようよしていたけれど……最近本当にないんですもの」
「そんなことがあるかい」
「ふふっ、だって夏油様ほどの呪術師様だもの。きっと中に残った精からも、そんな……匂い、気配? とにかくそんなものがして、逃げちゃうんだわ」
そう言われるとなんとなく納得したりもする。
どのみち低級な呪いであれば彼女の粘膜に触れた瞬間にかき消えるので、さほど心配はしていない。
だがなんとなく物憂く不愉快になるのも事実なので、己のおかげでそれが寄ってこないとなれば都合がよい。
「すまないね、焦らして……ほら」
「あ……あぁ、んあぁああぁっ……!」
膣口の手前に留めていた肉茎を、一気に奥まで突き込んだ。
すぐさまねっとりした温かさと、びりびりするような呪力の気配が夏油を包む。
「、ああ、熱い。とてもいい」
「ふぅっ、くぅ、ああ、夏油様も……あったかくて、大きくて……あぁあぁ、あぁ、はあぁあぁっ……!」
しばらく彼女の粘膜と、自分の竿肌が馴染むを待った。本当のところはすぐに乱暴に律動してを悶えさせたかったし、そうされればされたで彼女は悦ぶだろう。
だが夏油は、誰より自分自身を焦らすつもりでゆっくりと動かず、彼女の下腹がふくふく震えるのを眺めた。
「んんっ……夏油様、動いてくださらないの」
「動いてほしい?」
「ずるいですわ! は、う……いつも私にそう聞くの」
それはそうだった。行為に入る前、なんとなく身体をまさぐりあっているときだって訊いてしまう。
彼女の前にペニスを差し出したときも、お預けをするように舌先から離して舐めたいか訊ねてしまう。これはもう、夏油の癖というか、つまらない見栄のようなものだったが直しようがない。
「うぅ、動いて夏油様……私のおまんこ、夏油様でめちゃくちゃにしてっ」
「ふふ……そう言ってもらいたくて訊いてしまうんだよ」
「ああっ……あっ、ああぁあぁっ!」
夏油はゆっくりと腰の抜き差しを始める。あくまでゆっくりと、中の感触を味わうかのような動きだが、それでも敏感なは身悶えした。
夏油も彼女の綿密な膣内を味わって、気持ちよさに足の指を突っ張らせた。
「あ……く、、私の子を孕むのは」
「えっ……?」
「妊娠するのは、家族になってからがいいかい」
「や、やだ……どうして急にそんなことっ」
は露骨に照れていた。ベッドシーツを掴んでいた手を自分の顔にあてて隠そうとする。
「い、いつだっていいですわ! 夏油様の赤ちゃんができたら、私、とっても嬉しい……んっ、今だって、中に注いでほしくて……あっ、ふ、奥が……わかるでしょ、震えているんだから」
「ん……そうだね、はいつだって誠実でいてくれるから」
「あっ……あ゛ぁ゛あぁあぁっ! いやっ、あっ、奥、んぅうぅっ、潰しちゃ……ああぁあああぁあぁっ!」
愛しさと欲望で胸を衝かれて、彼女を気遣った律動から、己の欲ばかりを優先する腰づかいに切り替えていく。
それでもやはりは悦んだ。その反応に満足して、夏油はいっそう止まれなくなる。
「、……もっと見せてほしい、私で乱れるところを」
「は、はい、いくらでも……あぁ、は夏油様のものだから……あはぁああぁっ!」
そう発した瞬間に己で感極まったのか、の膣穴がぎゅっとこじれた。夏油の熱を喰い締めて、このまま中に注いでくれと必死に懇願する。
「あっ……は、ふぁっ……! あっは、夏油様、私の子宮に……夏油様の熱いの、たくさん注いでぇっ……!」
「はあ……! ああ、出すよ……、あぁ……!」
夏油がそう言った途端、再びの粘膜が強く痙攣する。その締めつけが呼び水になったように、夏油は彼女の胎の中に精を放った。
肉茎が激しく脈動して、何度ものたうって、の中を白濁で満たしていく。
「はぁ、あぁあぁっ……夏油様のが、いっぱい……子宮がげっぷしちゃうぅ、溢れちゃう……」
「ふふ……面白いことを言うね、は……」
「ふわ、う……あ、私、もう、なにも……考えられなくって……」
うっとりと陶酔に浸るの髪の毛に鼻先を埋めながらも、夏油の思考は急速に怜悧になっていった。
彼女のためにも、自分はことを成さねばならないのだ。
この娘が後ろめたい思いをせずに過ごせる世の中を。
同時に己も、この娘に溺れることを羞ずかしく思わない世の中を――どうしても作らねばならない。
夏油の心は冷静に燃え上がっていた。