手の届く地獄





夏油傑――の肉体を支配するその者は、彼の身でふと真夜中に目を覚ました。

「……」

暗闇の中、すぐに夜に慣れた瞳は隣の存在を捉える。ついさっきまで狂おしいくらいに交わった女性が、そうとは思えないほどあどけない表情で眠りについていた。
実のところ夏油は、この女の正しい年齢も知らなかった。彼の身体を支配するちからの不足ではない。そもそもの夏油傑が、彼女の身の上をほとんど詮索しなかったのだ。

……」

こうしてすやすやと寝ている姿を見ると、平時想像するよりも若い、いや幼いのではないかと思えてくる。
それもそのはずで、彼女を得体の知れない妖女たらしめているのはあの小説がかった口調と、粘膜から溢れる呪いの気配だ。そのふたつがどちらもなりを潜めているとなれば印象も変わるというものだ。
数時間前まで夏油の腰に跨がって、夢中で尻を振りたくった者と同一とは思えないほど安らかな寝顔だった。

「…………」

それを眺めてここを立ち去るか、あるいは自身ももう少し眠るかできれば平和だったのだが、夏油傑の肉体はまだわずかに熱を疼かせていた。
この肉体を乗っ取ってみて驚いたのは、その絶倫さだ。
がいつも褒めそやすように肉茎が大きいのはもちろんのこと、持て余す獣欲も相当のものだった。
こんな妖怪じみた女が相手でも――いやむしろそうであるがゆえかもしれないが、一度の交接ではとうてい満足できなかった。二度三度と生命の危険を感じながらも繋がって、最後は必ず彼女の胎の奥に精を放った。

(触れ幅の大きい人間だよ、まったく……)

推測でしかないが、この欲望の大きさは夏油傑という人間の極端さを表現しているように思えた。それまでのストイックな暮らしの反動だ。
だが、それで苦労をするかというとさほどでもない。

、少し身体を借りるよ」
「んん……」

夏油が普段通りの声で話しかけると、はわずかに反応したが、目を覚ましはしなかった。
夏油に寄り添う形で横寝していた身体を、ころんとうつ伏せにする。全裸の尻には数時間前までの行為で彼女が噴き上げた蜜液やら、夏油が放った精やらの残滓があった。
の脚を揃える形にしてしまうと、夏油は肉づきのよい尻を跨いだ。大柄な自分が乗り上げると、この女が印象よりもずっと華奢であることがわかる。
彼女を大きく見せているのは、やはり身にまとう妖しさと呪いの強さなのだろう。

「前戯は……必要ないか」
「ん……う、ふ」

屹立した肉茎をゆっくり膣穴にあてがうと、先っぽにくちゅりと濡れた感触があった。それが少し前の行為の余韻なのか、こうして寝ながらにこれからされることを予期してなのかはわからない。

「く……ふ」
「……んっ、あっ、ああぁあっ?!」

腰を押し進めて肉茎が半ばまで入ってしまうと、身体の下のが飛び起きた。
同時に熱を包む膣穴の締まりと震えも格段によくなって、夏油は思わずうめき声を上げた。

「あっ、あ、夏油様……ああっ」
「悪いね。寝ていたのに」
「そんな……んぅ、起こしてくだされば、私、あっ、あっ、あっ!」

くちおしげにする彼女の身体の上で跳ねるように動くと、まるで幼子のような声がこぼれた。

「いや、だめ、このかっこうはだめ……んぁっ、あひっ……!」

それは夏油も知っていた。はこの体勢を嫌がる。
いわく夏油の顔が見えなくて損をした気持ちになる、大きな身体で押さえつけられてしまって逃げ場がない……ということなのだが、逆を言えば夏油が彼女に振り回されずにいられる体位だといえた。
今だって接地した粘膜が、おぞましい力の前におののきそうになっているのだ。この地獄と通じる肉穴を、自身が意志を持って使いこなすのだからたまったものではない。少しくらい不自由にしてやったほうが夏油にとっては都合がいい。
それに彼女が好まないからといって、苦痛を与えているわけではない。

「あふぅ、ふぅ、んふぅっ……気持ちいい……あぁっ」

その証拠に、規則的な律動を繰り返しているうちが正直に悶えだした。
ベッドシーツと夏油の下腹の間で小さく腰を持ち上げて、合わせるように腰を使ってもいる。
それは夏油にも快感をもたらした。肉茎を締め付ける濡れた穴のざらつきが、亀頭や小帯をぞろりと撫で上げていく。

「んん……ふぁ、あぁっ、あく……」
「こら。それは駄目」
「あっ……!」

が自分に合わせた動きを小休止させて、ベッドシーツに擦るように身を揺するのを夏油は見逃さなかった。

「自慰をするのはだめ、わかった?」
「ふぅっ……は、う、うぅ……」

膣穴を突かれる快楽をそのままに、さらにクリトリスで得る尖った刺激を求めて自分で擦ってしまう。
浅ましい姿もたまらない愛しさだったし、そのまま彼女が気をやって痙攣する肉穴を味わうのも悪くなかったが、意地の悪さの方が勝った。以前の夏油傑だってこうしただろう。

「あっ、あっ、あっ、あっ……!」

かわりに夏油はいっそうを突き上げた。短いストロークで何度もペニスを打ち付けて、彼女の弱いところを責めていく。
膣穴の上側にある、突起の密生したところは特に敏感だった。ここを竿肌で擦られると、は快楽のあまりに腰を引いて逃げようとする。それを体勢を利用して押さえつけて悶えさせるのは、えもいわれぬ愉悦だった。

「くふっ、あっ、夏油様、あぁ、私、あああぁっ……!」

しかしそこで終わらないのがという女で、夏油がそういった嗜虐心を疼かせているとわかると逆に尻を押しつけてもっともっとと求めてくる。
そこに仕置きをすればいいのか、快感を取り上げてしまえばいいのか。
のどん欲なマゾさに触れていると、男の加虐など奉仕の一環でしかないような気持ちになってくる。思い通りにいかない女である。

「ああ、。中に出すからね」
「は、はい。の中にたくさん注いで」

言って、まるでの膣穴を液体で殴りつけるような勢いで吐精した。がびくびくと震え、同時に絶頂をものにしたのだとわかる。彼女の持つ呪術もよりくっきりと輪郭をあらわにして、夏油の精も、中の肉茎も、自分自身の身体も、どこかへ引きずり込もうとしているような闇を垣間見る。

の痙攣が収まるまで待ってやって、夏油も気を抜かずに身近な地獄を堪能する。そうして二人で息を整える段階までいくと、夏油はやはりこの女に不思議な感情を抱いていることに気がつくが、それは掴もうとするほど見えなくなるたぐいのもので、上手に言葉にすることは叶わなかった。

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