くるくるスケール





「うぅ〜〜〜〜っ……」

帝統はポケットの中のサイコロを弄くりながら唸った。
ここのところ自分にまとわりついている不運のオーラのようなものを断ち切りたかった。同時にこの耐え難い空腹も満たしたかった。

「ツイてねぇ……ツイてねぇぇ……」

三日ほど前からそう口にしてばかりいる。その日の朝帝統はカラスのけたたましい鳴き声で、ゴミ捨て場に寝転がっている己を発見した。幸運なことに服は着ていたが、財布もスマホもなくなっていた。全部スッてしまった。失意の中街をぶらついた記憶は途中で途切れていた。
それからとにかく散々だった。連絡手段がないので直接知り合いの家まで出向いてあれこれと無心を試みたが、折り悪く誰も捕まらなかった。乱数も幻太郎も、その他の友人も。
最終手段として今や数も減った電話ボックスを見つけては振りたくったが、1円も入手できなかった。

そうしているうちに三日。三日も経っていた。空腹が痛いほどだった。風呂にも入っていない。髪の毛がベタついてくるし、自分の首の周りから酸っぱい匂いが漂ってくるような気がしてならなかった。

「あー…………」

そんなときの救世主を帝統は知っていた。しかし彼女にすがりつくことは本当に本当の最終手段と思っていた。電話ボックスを振って小銭をくすねることよりも。なんならその女に頼るのは、腹が減ったからといって万引きに走るのと同レベル。
しかし先ほど振ったサイコロで運命は決まった。ぐずぐずしているのは性に合わない。帝統は「その女」の家に向かう。

「よ、よう」
「帝統!」

部屋の玄関を開けての姿に何か感慨を覚えるより先に、空腹の帝統にとっては残酷なほどかぐわしい匂いに衝撃を受けた。

「カレーか?」

久々に顔を合わせた女への気遣いより先にそんなことを口にしてしまう。しかしはにっこり笑う。

「うん! 帝統はいつも、カレー作ってるときに来てくれるね」

早く入りなよ、と玄関でためらっていた帝統を室内に呼び込んでくれる。その聖母のようなぬくもりを目の当たりにすると、細かいことは忘れて最初からこの女に頼ればよかったと思ってしまう。さんざん迷っていた自分を忘れそうになる。
それになによりカレーの匂いにあらがうことができず、帝統は靴を脱いだ。が、直後に裸足でフローリングに上がった瞬間、己の肌がベタッと音を立てたことで我に返る。俺、三日フロ入ってねぇんだよな。しかしそれをすぐ口にできない。気づかれませんようにと祈りながらの後ろをついて行く。

「あとどれくらいでメシできる?」
「うーん、10分くらいだよ。待てない? お腹空いてる?」
「かなり」
「冷蔵庫の中にプリンあるからそれ食べてていいよ。まぁ、ご飯の前にプリンってよくわかんないけどね」

地味だが親しみの持てる顔に微笑みを浮かべるの言葉に甘えることにして、帝統はプリンをいただいた。胃袋が感激していた。しかしいつまでもプリンに酔ってはいられない。
鍋にかかりっきりになったの背中を凝視する。換気扇の音で、キッチンは騒がしかった。
それでも念には念をと帝統はまずテレビをつけた。どうでもいいニュースのボリュームを上げ、静かに立ち上がる。気づかれないように。そしてススッと、ベタつく足の裏をどうにか静かに滑らせて脱衣所を目指す。幸運なことに彼女の部屋はキッチンが奥まった場所にあり、音を立てなければ感知されないはずだった。

「帝統……って、帝統!」

やっぱり俺ツイてねぇんだ。振り返るなり大声を上げたを見て帝統は思う。

「なにしてるの!」

さっきまで柔和な笑みを浮かべていたが激昂している。やっちまった……と己の不運を嘆くが、もうなにもかもが遅い。

「いや……ちょっとフロ入りたくてよ」
「ダメだって言ってるでしょ!」

これこそ帝統がに頼ることを躊躇う理由だった。

「私に会いに来るときはお風呂に入っちゃいけないって言ってるのに、なんでそういうことするの? あろうことか! あろうことか私の前でお風呂に入ろうとするなんて!」
「いやよぉ……そうは言ってもよぉ……」
「じゃあもう帝統にはご飯あげない!」
「あああっ! 堪忍! 堪忍してくれ! 許してくれ!」
「うちでご飯一回食べるごとに一ペロって約束してるでしょ! お風呂に入ったらゼロペロになっちゃうんだよどうして何回言ってもわかってくれないの! 帝統のわからず屋! ばかあほゲロカス! ぜんぜんわかってくれない! ひどいよ! 私そんなに高望み言ってる? 帝統とつきあっててワガママなんかぜんぜん言ったことないよ。外食なくていいしプレゼントもいらないしツタヤで旧作レンタルしてくるのすら私のお金なのもぜんぜん文句ないのに。帝統に貸してあげたお金だって無期限無利子でいいんだよ。だって帝統のこと好きなんだもん助けてあげたいもん。私、いい彼女だよね? どうして帝統は、そんな私の些細な願いも叶えてくれないの? ぶち壊しにしようとするの? ホントは私が嫌いなの?」

怒りは、吐き出すうちに涙に変わっていく。彼女が口にした「一ペロ」は、帝統と彼女しか理解できない単位だ。
は食事一度に対し、一日入浴しないというリターンを帝統に求めていた。正確には「入浴していない状態で身体をすみからすみまで舐め倒す権利」だ。
普段のはどちらかというときれい好きだ。部屋も整頓されて片づいている。しかしどうしたことか、恋人の身体には汗の匂いと垢を求めた。特に腋の下や膝の裏、尻の割れ目といった場所には目がない。
帝統はそれがどうにも気恥ずかしかった。いや、定住する部屋すらない身分なものだから、入浴を数日パスすることは頻繁にあった。けれども女と触れ合うとなれば別である。そこはエチケットだろう。

「帝統のうなじやおへそをペロペロするのを、私がどれくらい楽しみにしてたかわかる? 毎日、そればっかり考えてるんだよ。帝統と会えないときも、帝統の味を思い出してごはんのおかずにしてるんだよ。大好きな帝統の、大好きな汗の味、本当は毎日味わいたいよ。でも帝統には帝統の生活があるんだよね。だからうちにきて、ご飯食べたときだけでいいんだよ」
「わ、悪かったよ。でもさすがによぉ、三日入ってねーんだよ三日。フロ。足の裏がベタベタなんだよ、もイヤだろそんなんで布団に入られたりしたらよぉ」

言ってからしまったと思った。「三日。フロ」と言ったところでは即座に涙を止めた。その瞳にはキラキラと、幼子のような輝きが宿った。

「み……三日……?! えっ……?! い、今、帝統のお肌はどんな味がするの……!!」

ああもうこうなると止めるすべがない。帝統はすべてを諦めた。

「頼む、せめてカレー食わせてくれ……腹減って死にそうなんだ」

は期待に満ちた顔でウンと頷いて、うきうきとカレー鍋の火を止めた。電子音の鳴った炊飯器を開けて、つややかな白米を笑顔で皿に盛り始める。


********


「んふ、あは、はあぁ……すっぱい、帝統……うなじ、しょっぱくてすっぱくておいしい……」
「うぅっ……」

の舌が帝統の襟足をかきあげて、首筋を幾重も往復した。
その舐め方は、毎度のことだが執念を感じさせる。ただの愛撫ではない。強く舌を押し当てて舐めあげるので、表面のザラザラした感触を帝統ははっきり感じ取る。

「乳首もおいし……帝統の乳首、ちょっと陥没してるから……んふ、お風呂に入らないと垢が溜まるんだよね。えへへ、恥垢まみれの乳首ちゃん……出ておいでぇ」
「うくっ……は、恥ずかしいんだよ。あんまり言うなよそーいうこと……」

胸板の先が強く吸い上げられ、乳首が尖る。はそれを逃さない。彼女の言葉は間違ってはいない。肌の奥に埋もれていることの多い帝統の乳首は、放っておくと白くねっとりしたものが溜まっている。風呂に入ったときは、わざわざ指で乳首をつまんで露出させて洗わなければならない。
股間の帽子は成長につれて脱げ、極寒のとき以外は常に先端が出ている状態になったというのに。乳首だけはずっとこうである。

「はぁはぁ、すごいよ、帝統の味が濃いよ……んっ、乳首おいしい……帝統……帝統ぅ……」

まるでミルクを求める赤子のように強く吸いついて離れない。そして赤ん坊などとは比べものにならない舌技で弄られるので、だんだんと帝統の身体も反応してしまう。乳首の先から甘い快感が響き、下腹部に血液が集まってくる。

はあちこちを執拗に舐め回したあと、メインディッシュと言わんばかりに股間に手を添えた。

「あっ、おちんちんヌルヌルしてる……てかてか。先っぽもざらざらしちゃってるね……んふ、私、これを舌でツルツルにするの大好きだよ……」

男の竿というのは知らないうちに汗以外のものも垂れ流しているようで、風呂に入らないと先からにじみ出た汁が振りまかれて亀頭がざらついてくる。湯につけて擦っていれば取れるが、はそれを舌と口でやりたがる。

「んむぢゅる……んぢゅる……んはふ、はぁ、おいしい……生ゴミの味がするぅ……匂いが最高……」
「うはぁっ……! はぁ、もう俺、お前がわかんねーよ……」
「大好きな帝統だから、全部味わいたいの……ぢゅっ、ぢゅるぅぅっ、んふ……はふ、先っぽが苦い……ん、帝統ぅ、おしっこちゃんと切ってない……ふふふっ」
「だから味の感想はいいんだっつーの! はぁ……ああっ」

嫌がっている様子はまったくない。それどころかは舌を尖らせて鈴口に差し込んでくる。溢れてくる先走りをもっと味わいたいと言いたげだ。
……しかし、帝統の気分が盛り上がってきたところでは肉茎から口を離してしまった。顔をさらにその下に向けたので、帝統はその目的を察した。そして慌てる。

「待て待て! だから三日フロ入ってねーんだっつうの!」
「うん……」
「やーめろ! ケツ舐めはダメだっつの!」

は特に、帝統の尻の穴が大好きだった。三日洗っていないそこなど「ごちそう」に違いない。しかし帝統にとっては違う。なんというか生理的な嫌悪がある。一日風呂に入っていない状態でも恥ずかしく屈辱的なのに、三日ともなればたまったものではない。
全力での頭を押さえつけたが、も負けない。必死に舌を伸ばして帝統の恥門を舐めようとしていた。

「やめろぉ! やめろっ、やめっ……アッ……!」
「んふむぅ、あはっ……んふふふふっ……!」

の勝利の笑いが響く。湿った感触が当たる。魔の舌先は帝統の尻穴を捕らえ、すぐさまペロペロと上下し始めた。

「あああっ! くああ……ハァ、ハァッ……!」

帝統がの尻愛撫を嫌がるもう一つの理由は、ひどく敏感になってしまう粘膜にあった。肛門のシワのひとつひとつを舐め上げられ、だんだんと開く穴の奥に硬くした舌を突き入れられると、女のように喘いでしまうのだ。もそれを十分理解している。

「帝統……帝統かわいいよ……もっとお尻で感じて……前立腺もモミモミしてあげるから……」
「うっ……あ、ああぁ……! やめ、ちょ、それは……あぁっ!」

尻穴にしゃぶりついたまま、の指先が帝統の会陰をまさぐり始める。玉袋の裏の筋張ったところを指で押し、皮膚の上から前立腺をマッサージし始める。もうこうなると、帝統は負けっぱなしだ。ただ声を漏らし、肉茎の先から透明な粘液をぶぢゅぶぢゅと吐き出し続ける哀れなメスもどきになる。

「くふっ……帝統、私がいればシャワートイレいらないね。いつでもきれいにしてあげるからね」
「うぅっ……おォ……うぅん……」

好きったけ帝統のアヌスを舐めとってから、満面の笑みでは言い放つ。しかしその笑みには途方もない淫欲が滲んでいて、自身強く興奮していることがわかる。帝統は射精せぬままに何度も甘イキさせられた肉体に鞭を打って、どうにかの身体を押さえ込んだ。攻守交代だ。

「なんだよ、お前ももうぐちょぐちょじゃんか。ケツなんか舐めて濡れるのかよ、便器かよ」
「あぅんっ……あぁ、だって……」
「まあ俺にお似合いの便所まんこかもしんねーけどよ」

負け犬では終われないのだ。さっき晒した醜態はひとまず忘れて、威勢よくをなじっていく。
充血した秘唇を亀頭で割り開き、何往復か表面の感触を楽しんでから膣口を捉える。

「んんっ……帝統、きて……おまんこ、かき回して」
「へへ、まあ頼まれちゃ仕方ねえよな」

調子のいいことを言いながら、ゆっくりと肉茎を埋め込んでいく。の膣穴はすっかりほぐれていて、内側のひだのひとつひとつに愛液が絡んでいた。それを引き伸ばしながら、帝統は奥を目指す。

「あぅっ、あっ、ああぁっ! あっひ、あは、帝統、おっきい……!」

帝統はの柔膣が好きだった。よく収縮するのに窮屈でなく、だというのにしっかりと肉茎をしごいてくる。早漏ぎみになってしまうのが難点だが、ともかくとの身体の相性は最高だった。この膣穴にペニスを突き込んでいると、帝統は愛というものを本能的に理解しそうになる。研ぎ澄まされた純粋な欲望が、この女以外はあり得ないと告げる。
……しかしそれを口にするのは恥ずかしい、という理性も存在している。

「相変わらず下品なまんこだぜ、吸いつきすぎて変な音してるじゃねえか。聞こえっか?」
「ひぃいっ、き、きこえる、あぅぅ、私のおまんこ、ぶぢゅぼっ、ぶぢゅぼってぇっ、うぅっ、あああぁっ!」

素直になれないまま暴君のように振る舞うが、でそんな帝統にいたぶられるのが好きなのだから始末に負えない。は痴女であると同時にマゾっぽさを兼ね備えていた。

「子宮が降りてきてっぞ、甘ったれまんこが。中出ししてほしいのか?! おいこら、言ってみな!」

その言葉は口から出任せではない。いつものことで、腰を動かして竿を使っているうちに、の膣穴が急に浅くなるのだ。の性感帯である奥の奥が、帝統を求めるように降りてくる。二人はそれを子宮が降りてくると判断していた。真実は知らないが、まぁ萎える真実よりも燃え上がる虚構がいい。

「あっうぅぅっ、中に出してぇっ! 帝統の精液、のおまんこに飲ませてぇっ! ごくごくしたいひぃいっ!」
「子宮にぶっかけてやるよ、ありがたく飲めよっ……はあぁっ!」

背筋が震える。睾丸がぎゅるるっと疼いて、急速に精液を汲み上げてくる。その衝動に任せて、の膣穴に牡汁を注ぎ込む。

「んっひぃいぃっ! ザーメン熱いぃっ、いくっ、イグッ、アッ、ひぐうぅぅぅーーーーっ……!!」

その熱さと勢いに押されるようにしても絶頂を迎える。膣肉が収縮して、帝統をさらに奥まで誘い込もうとする。精液を吐き出し続ける鈴口と子宮の距離をゼロにするように、ぎゅうぎゅうとわななく。

「くはぁっ、どんだけだよこのエロまんこはよ、はぁ、精子吸ってんじゃねーか……」
「ふぁっ、あっ、はぁ、ああぁはぁっ……!」

の下腹を手のひらで叩くと、うっとりした吐息が返ってくる。
一息ついてゆっくりと肉茎を抜き取ると、すぐに注がれた精液があふれ出してくる。はそれを自分の指ですくいとって、口元にかざしてぺろぺろと舐めとった。

「えへ……帝統の精液おいひい……」

その満足げな顔をしばらく眺めて、帝統は立ち上がった。一度射精欲が満たされると、いよいよ限界だった。風呂に入りたい。身体が新陳代謝の促進を求めていた。

「だめっ! 帝統っ!」

しかしこの痴女は悲鳴のような叫びをあげるのだ。

「もう一回舐めさせて、帝統の汗ペロペロしたいのっ」
「あ゛ー…………」

こうしていつも、結局愛撫と挿入の無限ループに入り込んでしまう。きっと明日は体が痛いしだるいに違いない。陰嚢がすっかすかになるまで巻き上げられる。

ま、それも悪くないか。
一度と触れ合うと、自分がヤワになっていく気がする。帝統は何よりそれを怖れている気がする。


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