フィロソフィー





オリオン号に設えられた個室のうちひとつ。その扉の前に立って、バランスはスッと息を吸い込んだ。
機械生命体である彼に「深呼吸」の概念はない。ただのポーズだ。
だというのに毎度、この扉を開く前にはその「ポーズ」を取らずにいられない。

「はいは〜い、ちゃん元気ー? 今日もとびっきりばーすらなご馳走、お持ちしましたーん」

決意を固めて扉を開くと同時に、彼らしくちゃらちゃらした言葉を発する。
と呼ばれた少女はバランスの方を見て、浮かない表情のまま首を傾げた。

「ばーすら?」
「ああ、あは、いや、素晴らしいってコト」

自分の発した言葉に自分で注釈を入れる間抜けさに辟易しながら、バランスは少女の横たわっていたベッドに近づいた。
食事用のテーブルがない部屋なので、仕方なく殺風景なサイドボードの上に食事のトレーを置く。

「いい加減テーブルが欲しいよねぇ、これじゃ折角のご飯も味気なく感じちゃうでしょ」
「別に……大丈夫」
「あ、そ……」

少女の乏しい反応を見ていると、軽口を叩くのもやるせなくなってくる。
……けれど少女の様子は、初めて出会ったときよりもずっと「よく」なっている。
バランスは自分にそう言い聞かせて、目の前の少女……がゆっくりと食事を口に運ぶのを眺めた。


はチキュウ出身だ。年の頃はおそらくハミィとそう変わらない。
数ヶ月前にバランスたちが壊滅へ追いやった組織に囚われていた不憫な少女だが、このオリオン号に身柄を保護しているのにはそれなりの理由があった。
チキュウに君臨したジャークマターに、捕らえた人間、とりわけ若い女を奴隷として宇宙の星々に売り払うことで利益を得ている者がいたのだ。
リベリオンはその組織の壊滅と囚われた人々を解放する作戦を実行し成し遂げた。
しかし無事にとは言い難い。
商品として無情にも出荷される寸前だった女性たちはみな心身にひどい傷を負っていて、解放されたからといってすぐに日常生活に戻れる状態ではなかった。

「は、初めまして、ご主人様。いやしいわたくしめをお買い上げくださって、感謝の言葉もございません」

人質、いや商品の解放に向かい、最低限の酸素が確保されるだけのポッドを開いた瞬間のことを、バランスはそうそう簡単に忘れられそうにない。
手足に枷と鎖を填められた全裸の少女は、大きな揺れと幾ばくかの時間経過の末にポッドを開いたバランスのことを、己の購入者だと思い込んでいるらしかった。
すぐさま床に伏して、覚え込まされたのであろう淫らな口上を繰り返す。
呆気に取られた己をどうにか奮い立たせて少女の肩を掴み、現状を説明し、もはや自由の身であることを説いたが、少女は信じられないという顔をするばかりで、そこに喜びが浮かび上がることはなかった。

「捕まってた他の人たちもみーんな解放されたから。キミを虐めてた悪い奴らは、ボクたち正義の」
「でも…そしたら……お薬が……」

バランスの言葉を遮って、少女は不安げな声を上げる。

「お薬?」
「みんな……困るはず……」

少女の話を辛抱強く聞き続けて、バランスは事態は単純ではないと思い知った。


「…………」

このという少女をはじめ、商品としてライフポッドに積まれていた女性たちは、例外なく中毒性の高い薬物を常用させられていた。
脳に強い快楽をもたらす劇薬だ。奴隷を商品として躾るために使用されていたという。

「あのお薬を飲まされると、おなかが空いてることも、寂しいことも忘れられて、楽しかった頃に頭が飛んでくから、早くお薬欲しいって思うようになって……上手くできたら薬をやるって言われて…セックスもフェラチオも、それで上手になってくの。最初のうちは鞭でぶたれてたけど、薬を使うようになってから、それもなくなったし……」

薬の効果が切れるとひどい離脱症状が出る。手足が震え、全身から汗が噴き出し、脳がネガティブなことばかり反芻するようになる。
その恐怖や苦しみから逃れるためにも、囚われの女性たちは薬を求め、どんな奉仕も苦とは思わなくなってしまう。
後で調べたところによれば、のような奴隷は数ヶ月分の薬と共に売られていたらしい。
薬を餌にすればどんな命令だって従順にこなす雌奴隷というのが大きなセールスポイントなのだという。
追加の薬も売られていて、もちろんその金はジャークマターの幹部の懐に収まっていくというわけである。

オリオン号に保護したから情報を聞き出したリベリオンの医療班は、彼女たちを薬物依存から救うための治療に乗り出した。
は……言い方は悪いが貴重なサンプルとして、そのままオリオン号で預かることとなって、その世話はバランスの役目となっていた。
それにも理由がある。はバランスに心を許しているのだ。
オリオン号にやってきたばかりの頃、不安げな顔でリベリオンの面々を見つめるに、バランスは軽い調子で語りかけた。

「ダーイジョブダイジョブ、キミも、他のみんなも、なんとかなるから。なんせボクらは宇宙の救世主だからね」

この言葉は諦念と薬物に染まったの精神になんらかの変化をもたらしたらしい。
は話をする際はバランスに向かって語りかけるようになり、またバランスの言うことにならば素直に従う傾向を見せた。


「ごちそうさま……」
「うぅん、全部食べられたねー。いい子いい子、ちゃんたらゴイスー☆」
「うん……」

食器が空になる。
バランスは軽快に言いつつも、これから起こることに対して心を構える。
起こること、なんて無責任な言い方だ。これから自分がに対して行うことへの罪悪感を、どうにか押し殺そうとする。

「それで……ねぇ? ちゃん、ホラ」
「う…うん……」

食器の乗ったサイドボードをどけて、バランスは随分大振りな注射筒をそそくさと取り出した。
それを見たは顔をぽおっと赤くして、それでも抵抗する様子はなく……実にすんなりとベッドにうつ伏せになり、下半身に纏っていた服を脱ぎ捨てていく。

「今日もチクチクーッといっちゃおう。すぐ終わるからね〜」

冗談めかして言うバランスに、は無言でコクコク頷いた。
実際のところバランスが持っているのは注射器ではなくシリンダ浣腸器なので、チクチクという表現は本当にただの冗談である。
リベリオン医療班の努力によって、薬物の離脱症状を抑える薬が開発されたのだ。
薬を薬で制するというのもまた奇妙なことだとバランスは思うが、が苦しむことなく日々を過ごせているのはこの薬のおかげだ。
の身体に投与して経過を見て、十分な効果が認められれば他の女性たちにも使用される。
はいわば、被験者となることを了承した。そういう意味でも貴重な人材なのだ。

しかし薬にはいくつか欠点もあり、まずなにより作用時間が短い。一日三回から四回の接種が必要だった。
そしてバランスが最も辟易するのは、尻から摂取させないと……つまり浣腸器で腸内に薬剤を注入しないと効果が出ないということだった。

「んくぁっ、あ、ふぁ……!」
「はいはい、力まないでー。ゆっくり息吐いて、ほら吸って吸って、吐いて吐いて」
「ふああっ…あっ、お、おしり……入ってくるぅ……!」

注射筒の先端がの尻穴に入り込み、ヒクヒク震える肛門を押し開く。

「ボクもう300年も生きてるけどさぁ、女の子のお尻に薬入れるイベントが発生するなんて思いもしなかったってゆーか」
「ふぁっ…? な、なに……?」
「いやいやなんでもナイナイ、ほらもう全部入っちゃった。ちゃんはイイコだねー」

薬は腸壁にすぐさま吸収されていくので、液体の形で残留してを苦しめることはない。そこがわずかな救いと言えなくもない。

「んんっ……!」

浣腸器を引き抜かれて収縮する尻穴の下で、性器の割れ目が小さく震えるのを、バランスは見て見ぬ振りでやりすごす。

こんな辱めともとれる行為をは、バランスがするなら、という条件で承諾する。
理不尽な責め苦に揉まれて日常生活を奪われたと思ったら、慣れかかっていた理不尽な暮らしも奪われた。そんなにとってバランスは、天から差した一縷の光だったのかもしれない。
頼りにされるのは悪い気分じゃない。バランスはそう思っていたが、毎日世話と投薬を続けるうちにの気持ちがどんどんおかしな方向へ傾いているのを感じずにはいられなかった。



がオリオン号にやってきて二ヶ月ほど経ったある日の夜、ふとバランスはの部屋を訪れたことがあった。
きちんと眠れているか、薬の効果が切れて苦しんでいることはないか……そんなことが気がかりで、彼女の様子を見に行ったのだ。
……あるいは、「虫の報せ」とでもいうべきものに、突き動かされたのかもしれなかった。

「ひくうぅうぅっ、うっ、う、ううううぅぅぅ……っ!!」

扉の向こうからそんな声が聞こえたので、バランスは慌てて駆け寄って……そして、続いて聞こえてくる、他でもないの声に、扉を開けようとしていた手を止めてしまった。

「バランス……バランスうぅ〜〜っ、らいしゅき、らいしゅきひぃいぃ〜っ! 早くのお尻にお注射しへぇぇんっ、いつもみたいにお浣腸してほしいのぉおんっ!!」
「?!!?!??」
「あああぁぁ〜〜〜っ……バランスの手でぇ、お尻の穴に熱いお薬流し込まれるのいいのぉっ…思い出して何回もエッチできちゃううぅ……ひとりエッチがはかどるのぉおぉ〜〜っ……!!」
「ど…どゆこと……?」
「チャーンス、バランス、チャンスだよおぉっ!お尻にお薬注射しながらぁ、おまんこ指でいじってくれたらぁあっ、しゅぐイグからぁぁっ! をバランスの性奴隷にするチャンスらよぉおぉっ!!」
「チャンス? え、チャンスなの?」

思わず独り言で受け答えしながらも、バランスはの部屋の扉を開けずにいた。生殖能力を持たない機械生命体とはいえ300歳も生きている。この扉の向こうでなにが行われているのか察しはついた。
しかしこんな大きな、それもなかなかに気の狂った声をまき散らしながらの自涜というのは、の控えめな姿からは想像もつかないものだった。
平穏に暮らしているように見えて、その精神にはジャークマターに陵辱されていた頃の名残があるのだろう。
そう思うと、バランスの心はキシキシと痛みを訴える。
正義感はさほど強くないはずなのに、ジャークマター許すまじという心構えが固まっていく気分だった。

聞かなかったことにしてソッとの部屋を離れ自室に戻ってから、バランスはふとおかしみを覚えて我に返った。

「アレ? ……ボクおかずにされてる?」

あられもない声ばかりに気を取られたが、が発していた「言葉」を思い返してみると、暢気に正義感を燃えたぎらせている場合でもないような気がしてきた。

「いや……ま、その、なんとか……なるっしょ」

が、バランスは現実と向き合うことを拒んで、精神を眠りと同等のスリープ状態に陥らせた。



しかしそれからというもの、薬を投与するときのの様子が妙に目に留まるようになった。
それまでも恥じらいはあっただろうが、まあ機械生命体とはいえ他人に尻を差し出して、肛門から薬を飲まされることを恥ずかしく思わない少女はいないだろうから仕方ないと思っていた。
けれど改めてのことを観察してみると、彼女は恥というよりも、どこか嬉しさをこらえているように見えた。
……はバランスにこうされるのを喜んでいる。
どうしよ。そんなの困るって。どーしてそうなっちゃうの。
と思いつつもの世話係を辞退するわけにもいかず、バランスは素知らぬふりを続けるしかなかった。



「んっふ…あ……お薬、入ってくるぅ……!」

明くる日、またいつものように食後の薬の時間。
薬液を注入される尻穴の下で、性器の割れ目がゆるく開いて、ぬるりとした液体を滴らせている。まるで触れてくれとでも言いたげだった。

ちゃん……?」
「ひい……っ? う、あ……」

うっとりした様子のに声をかけると、急に我に返った様子でバランスを振り返る。

「お薬注射、終わったよん。いつもごめんねー、つらい思いさせちゃって」
「う、ううん……大丈夫……」

は熱っぽい表情でバランスを見てから、ずり下ろしていた下着を持ち上げる。

「ねえ……バランス……」

そして控えめな、それでいてしっかり決意を固めたような声を発する。

「バランス、私のご主人様になってほしい……」
「え………………どゆこと?」

バランスはうっかり、持ち上げようとしていた食器を取り落としそうになる。の言葉の意味を上手に理解できず、頭の中は混乱状態になった。

「バランスに、いやらしいことたくさんしてほしい……ジャークマターの奴らにされたこと、ぜんぶ、バランスの手で上書きしてほしいの……」
「ちょ、ちょちょ待って、上書きって」
「好きになったの、バランスが初めてだから……私の身体を清めてほしい……」

畳みかけるような言葉に、おちおち混乱してもいられない。

「ま、待ってよ〜…ボクこう見えて300歳生きてる機械生命体だから。ちゃんとは年の差どころじゃないってゆーか」
「うん、わかってる……」
「わかってないっしょ! 好きって言われても困っちゃう。人間の女の子と恋愛したことなんてないし」
「じゃあ、私が初めてってこと?」
「ってゆーか機械生命体は恋なんてしないの!」
「…………」

バランスの言葉に、は表情を陰らせる。
けれども諦めきれない様子で、「でも……」と小さく呟いた。

「好きなんだもん」
ちゃん……」
「子供の頃にお父さんもお母さんも死んで、連れ去られて、好きでもない人といっぱいイヤなことさせられて……お薬なんか使われて、変な身体にされて……生きてても楽しかったときなんてなかったのに……」

涙までこぼしながら、は言う。

「バランスが、大丈夫って、なんとかなるって言ってくれたから、私、もう少しがんばろうって思えたんだよ。がんばって生き直そうって……それで……」

目の前の少女を奮い立たせると同時に、悩ましい恋慕の中に突き落としたのはバランス自身なのだ。
そんな事実を突きつけられて、拒絶一色だったバランスの心に戸惑いが生まれる。

「ま……その、まぁ…ちゃんの気持ちは、嬉しいけど」
「だったら……」
「でも、もしボクとちゃんが両思いだとしても、ちゃんの願いは叶えられないよ」
「……どうして?」

「いや、だってボク機械生命体だから。生殖機能とかないし。メンテナンスで身体を保って長い時を生きてくわけでー……世継ぎは必要ないし」

は雷に打たれたかのような顔になった。

「うそ、うそ、えっ、うそ」
「いや、見ればわかるっしょ……」

バランスがそう言うと、は止めるよりも早くバランスの股間を手でまさぐった。
見ればわかるという言葉通り、そこにが期待する「もの」は存在しないのだった。

「ふ、ふつう、ここに、仕込まれてるんじゃないの……?」
「仕込まれてないからね。そんな触らないでよ」
「じゃ、じゃあ、バランスに犯してもらうことはできないの?」
「残念だけど」
「おまんこの奥に、ビュッビュッて、バランスの精液、注いでもらえないの?」
「そもそも管がないんだから出るわけないっしょ」
「ええぇえっ……恥垢だらけのバランスのおちんちん、モグモグできないの?」
「機械だから垢は溜まらないよん……っていうか、ちゃんそんなことさせられてたの? ドイヒーすぎるでしょ」

はさめざめと泣き出した。

「えぐっ…えっ、えうっ……ううぅっ……」
「あぁ…泣かないで。ダイジョブ、ボクより素敵な人間なんてたくさんいるって」
「バランスがいいんだもん……」
「…………」

そこまで言われると気持ちが揺らぐというものである。
バランスはに対して、この短時間で奇妙な情が芽生えつつあるのを自覚した。哀れみをなにか、湿っぽい色恋と錯覚しているのかもしれなかったが、とにかく心が揺れた。

「どうして…私がほしいって思ったものは、全部手に入らないの? なんで全部全部、あきらめなくちゃいけないの……?」
「…………」

情でふやけたバランスの頭の中を、奇妙なアイディアが閃いた。



数日後、バランスは夜の食事と薬と一緒に、への贈り物が入った箱を持って部屋を訪れた。

「ちょい待ちちょい待ち、ちゃん」

投薬を終えて、いつもの用にもじもじと下着を穿こうとするに声をかける。

「はいこれ、プレゼント」
「え……?」

白い箱を差し出されたは、動揺しつつも箱に手をかける。

「え……なに、これ……えっ……」

中に入っているのは、男根を模した張り型だった。つるつるとした金属製で、バランスの身体と同じ色をしている。

「どういうこと……?」

形を見て、はすぐに「それ」の用途に思い至ったらしいが、それでもこれがバランスから差し出されたという意味が理解できないらしい。

「もう。ちゃん、ボクに犯されたがってたでしょ?」
「そ、それは……でも、これ……」
「フフン、これをねぇ、こうして……」

バランスは箱から張り型を取り出すと、その底面をの前にかざす。

「ココにほら、ボクのコードを繋げると」
「あ……!!」

バランスの指先から飛び出したコードが、底面にあるソケットに接続される。

「ボクの内側の感覚と、コレの感触をリンクさせられるんだ。ゴイスーでしょ☆」
「つまり……これが、バランスのおちんちんになるってこと……?」
「ザックリ言うとそーだね」
「ほ、本当に……」

の瞳が潤んだ。彼女は今、生まれて初めて好いた男のものを目の当たりにしている。それが自分の中に挿入されるところを想像して、胸を高鳴らせているのだ。
そんな様子を見ていると、バランスの心も昂ぶってくる。
生殖機能はなく、同時に性交への興味というのも非常に薄いが、彼の機械仕掛けの脳だって快楽を得ることはできる。気持ちいいという感覚は存在している。
この張り型の内側には細かい機械神経をたっぷり巡らせてある。こうして自分と接続してしまえば、身体の中で最も敏感な部分だ。
それが今、生まれて初めて女性の……それも人間の粘膜の中に沈もうとしているのだ。その結果得る快感への期待は、バランスを高揚させる。

「ん……」
「あっ、優しくしてね」

の手が張り型に触れる。最初はこわごわと、次第に形を確かめるようにしっかりと。

「けっこう、大きいかも……」
「んん〜、まあそこはね、つまらないプライドっていうか」

人間の成人男性の平均よりも大きめに設計してある。のあそこのサイズを気遣うべきか妙な意地を張り通すべきか悩んで、結局バランスは意地を優先させた。

「こんなの入ったら、どうなっちゃうんだろ……」
「もう入れちゃっても平気?」

気づけばそんなことを口にしていた自分に、バランスは戸惑った。
の手で触れられるのが想像よりずっと心地よかったのだ。手でこれだというなら、膣に潜り込んだときの快楽はどれだけのものだというのだろう。そんな期待が抑えきれなくなっていた。

「……いいよ……バランスのおちんちん、入れて……」

しかしは、逸るバランスを嬉しそうに受け入れる。そのことに内心ほっとしつつ、バランスは手にした張り型を、の秘唇にゆっくりと這わせた。

「あ……あっ、あっ……」

の粘膜はすでに湿っていた。張り型の表面が滑って、割れ目の奥にバランスを導こうとする。

「なか、いいよ……入れてっ……」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

バランスはの割れ目を片手で開き、拡げられた膣口にゆっくりと先端を埋め込んでいく。

「……おほっ☆」
「うっ、あ、ああぁあぁんっ……!!」

バランスの口から間の抜けた感嘆がこぼれるのと同時に、がわずかに苦しそうに喘いだ。

「お……おぉ、はぁ…はぁ、ちゃん、ダイジョブ?」
「へ、平気……っ、あぁ、バランス、大きいよぉ……」

が満足げに微笑む。バランスも同じ気持ちだった。いや、もしかするとよりずっと満足している。神経の塊を濡れそぼった肉ひだに撫でられるのは、事前の期待を超越する気持ちよさだった。

「わ、私、生まれて初めて好きな人のおちんちん、挿入されちゃってるうぅっ…! 奴隷おまんこ、幸せ恋人まんこに格上げだよぉぉっ……!!」
「は、はぁっ…ゴイスー……マジでゴイスーッ…!! ちゃんの中、最高に気持ちイイ……」
「くうぅんっ…ば、バランスも感じてる……? のおまんこいい……?」

はうっとりした表情でバランスを見つめる。バランスは見栄もなく頷いた。

「スゴイよ、ちゃん……女の子のオマンコって、こんなに気持ちいいんだ」
「うぅんっ…あ、はぁ……あ、あぁ、そっか、私バランスの初めて、貰っちゃったんだぁ……」
「うん…こんなことするなんて初めて。ちゃんが初めて……」
「嬉しいよぉっ……あはぁ、はぁ、の汚れたおまんこ、バランスの童貞おちんぽがキレイにしてくれてるの……っ」

の物言いに、バランスの感傷が掻かれた。は自分のことをどうしようもなく穢れた存在だと思い込んでいる。
……それを自分の感覚器官で払拭してやれるなら、いくらでもしたい。
そんな思いで、張り型での膣穴を何度もめくり上げる。

「ふあっ、ああああぁぁ〜〜っ…! バランスぅ…それだめぇ、そんなに深く出し入れされたら…あぁっ、あっ……!」
「されたら……どうなっちゃうのかな?」
「ふっ、うぅっ、あぁぁっ……か、感じすぎちゃうぅっ! オマンコ、バランスのがほしくてもっともっと開いちゃうぅ〜〜…!」
「もうこんなにすんなり入るのに。まだまだ開くの?」
「うくぅっ…んっ、奥うぅ…バランスのちんぽ、奥まで欲しくて……子宮にあててほしくってぇ……!」
「うーわー……」
の告白に、バランスは自分の背筋を電流が駆け抜けるのを感じた。うっかり故障したんじゃないかと思うほどだった。それくらい衝撃的で、淫らな姿に愛しさがこみ上げる。

「マジ……ちゃん、ヤバイかも……」

張り型を包む快感を、もっともっとと求めている自分がいる。けれどそれよりも、の淫らな姿をさらに引き出したいという欲求が強くなっている。

ちゃん、ボクの……そんなにおいしい?」
「くっひぃっ…あっ、お、おいしい、なんて……ふうぅんっ……!」
「だって、こんなにヨダレが垂れてるもん。出し入れすると泡立って、離したくないって言ってるみたい……」

言葉で責めてやると、効果は覿面に顕れた。の膣穴がぎゅうっと収縮し、張り型を強く締め付けてくる。

「おふ…っ☆ ちょっとちゃん、締めすぎ……」
「バランスがいやらしいこと言うからぁ……! はぁっ、あっ、も、もう限界っ、おまんこイキそうになってるうぅっ……!」
「そう……? じゃ、とっておきをお披露目でーす」
「あっ?! あっ、あああぁああぁああっ?!」

バランスが繋げた神経に命じた瞬間、の中をえぐっていた張り型が強く振動し始める。
は衝撃のあまりに身体をしならせて、なにが起きたのか理解できない様子だった。

「いやっあっ、あっ、あっ、ア、震えてるうぅっ! にゃ、にゃかで、バランスのがブルブルしへるうぅっ…! ろ、ろーひへ……っ、あっ、こ、こんなのおぉんっ……!」
「気持ちいい? ボクなりに女の子が喜ぶような動きを研究したんだから」
「そ、そんなことしないれえぇっ! しないれいいのおぉおっ、あっ、ア゛ッ、ひぐうぅっ、ううぅぅうーーーーっ……!!」

強烈な機械振動に耐えられなくなったのか、は一気に絶頂に押しやられた。張り型を締め付ける感覚が今までで一番強くなり、バランスはその快感に酔いしれる。
もっとこの収縮を味わいたいという思いで、張り型に振動を命じ続ける。

「ひぎっ、あっ、あおぉおっ、おぉっ、イッ、イッてるのにいぃいっ……! と、とめて、バランス、お願い、止めてえぇっ」
「どうして? 勿体ないでしょ」
「ひぐぅっ、い、イッてるのにまたイッちゃうよぉおぉっ! こ、壊れちゃうからぁっ、あっ、あ、ああぁああっ……!!」
「あ、そっか……」

張り型には設計上の欠点がある。射精や絶頂という概念がないのだ。だからバランスは快楽の頂点を突くことなく、延々と気持ちよさを味わっていられる。
けれどは違う。彼女の快感には波があるのだ。

「もう一回……もう一回、ね、ちゃん、またスゴイ締め付けして? そしたらもうやめるから……」
「そ、そんなのおぉっ……あっ、ひっ、ああぁあぁ〜〜〜っ……!!」
「おぉっ…?!」

が再び身体を跳ねさせた瞬間、バランスが予想していなかったことが起きた。
の股間から、勢いよくレモン色の飛沫が散った。

「いやっ、あっ、ひやああぁぁ〜〜っ……お、おしっこ…出ちゃってるうぅっ……!!」
「あ、ははっ! ゴイスー! こんなこともあるんだねぇ…!」
「ひぐぅっ…うっ、あっ…あっ、やあぁ…っ! シーツも…バランスのおちんちんも……ぜ、ぜんぶ、びしょびしょに……」
「ダイジョブダイジョブ、ばっちり防水加工だから」
「そ、そういう…はなしじゃ……あぁっ……!」

がぐったり倒れ込んだのを見て、バランスはようやく張り型の振動を止めさせる。
敏感な神経を膣穴に撫でられる気持ちよさは名残惜しかったが、あまりに無理をさせてはいけない。そう思って、ゆっくりと張り型を引き抜いていく。

「あ……ま、待ってぇ……抜かないでぇ……!」

しかしはその手を止めて、トロンとした瞳でバランスを見つめてくる。

「初めての……恋人おちんぽだから……まだ、中にいて…? おねがい、もっと味わってたい……」
「…………」

バランスは、を見つめ返す。
この行為に及んでからというものの、に対して抱く愛おしさが急激に大きくなっている。

「これからいくらでもしてあげるから、そんなに惜しがんなくてもヘーキだって」
「ふぁ……あ、ほんと……?」
「ホント」

そのうち射精に匹敵する機能も付けないと、なんてバカなことまで考える。

種族の異なる二人の恋が、変則的な形で幕を開けた。



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