呼応する魂





「ん?」

航海を続けるオリオン号の中。
食事の後に入浴を終えたガルが自室に戻ると、ベッドの上にこげ茶色の毛並みを発見した。

「フゥ……」

思わずため息をついてしまう。

「起きんかい。寝るなら自分の部屋で寝るガル」

その茶色い毛のかたまり……ガルのベッドの上で眠る小型の犬の背に手をやり揺り起こす。
くうん、と犬が小さな声を上げ、耳をぴくりとさせたあとにゆっくり目を覚ます。
その瞳は視界にガルを認めるとぱあっと輝いて、その分厚い胸元に飛び込んでくる。

「コラ、コラッ!」

ガルがとがめるのもかまわず、彼の口の周りをペロペロと舐めて親愛を示す。
そんな愛くるしい犬を雑に扱うことも出来ず、仕方なしにガルはその胴を支え、毛並みを優しく撫でてひとまずなだめることにする。
けれど犬はそんなガルの心の揺れを理解していると見え、愛撫はさらにエスカレートする。
キスをせがむように口と鼻を舐めるのは止まないどころか、どんどん激しさを増していく。
たまらずガルが顔を逸らしても追いかけ、首元の飾り毛まで舌でくるむ。
やがて犬の鼻はどんどん低くなり、小さな身体は少しずつ伸び、やわらかな毛に覆われていた肌はなめらかな姿を現し……。

「ガル、待ってたっ」

……人間の女性の姿になって、少女はガルに抱きついた。

「何度言えばわかる。俺の部屋で寝ちゃならんけ、自分の部屋があるじゃろ」
「ガルと寝たいの。お風呂上がるの待ってたんだよ」

厳しい目つきのガルに、悪びれなく媚びる娘。
あどけない外見をしているが、キュータマに選ばれたリベリオンの一員、立派な戦士だ。
こいぬ座の少女。
小振りな犬とヒトの形態を、自由に行き来する習性を持っている。
移動や睡眠時は好んで犬の姿になるが、戦いのときやこうしてガルと二人きりになったときはヒトになる。

ガルとこの娘……は、なんとも言えない関係にあった。
はオオカミ座の一族を母に持つ少女だ。
父は異なる種族の血を引く者だが、そのどちらとも死別している。
幼くして孤高の身となった彼女は母の遺言に従ってガルを探し、やがてこうして巡り会った。
……そしていつの間にか二人は、ただの盟友ではなくなっていた。
互いに性愛が存在し、何度も関係を持った。
だというのに二人とも、言葉でその間柄を確認し合うのを避けていた。
否、「二人とも」というのは、ガルの見栄だった。
は積極的に、ガルへの想いを口にした。
大好き、好き、愛してる……そんな言葉を、もう何度も聞いた。
けれどガルは、それに真っ向から応えることができずにいる。
俺も同じ気持ちだ。
その一言がどうしても口にできないのだ。
気恥ずかしさもあれば戸惑いもある。
なのでふたりは幾度となく身体を重ねながらも、恋人同士だという確証を互いに持てないでいる。


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「ねぇガル、見て欲しいものがあるんだ」

は裸身にシーツを絡めただけの姿でガルに語りかける。
形態変化の性質は、キュータマを使った変身とは異なっている。
一度ヒトから犬に変化すると、ヒトのときに着ていた服はその辺りに脱ぎ捨てられてしまう。もちろん犬からヒトに戻るときは裸だ。

「いいから早く服を着るガル」
「うん、着るよ」

そう言いながらは、この部屋を訪れたときに手に持っていた布地に腕を通す。
つまりガルの部屋を訪れたときにはヒトの姿で、もちろん服も纏っていた。
けれど彼を待つうちに眠気が襲ってきたものだから、犬に姿を変えて眠ることにしたのだ。
眠るときはヒトよりも、犬の姿が落ち着く。

「ね、見て見て!この間買ったんだ〜」
「ぬぅっ?!」

の声につられて振り返ったガルが驚きの声を上げる。
それもそのはずだ。その反応はの計算通りと言えた。
は、まるでコットンキャンディ……綿飴のようにふわふわと柔らかく、うっすらと肌の透ける下着を身につけていた。
大事なところ……胸の先の尖りと、股間の割れ目しか覆わない小さなブラとショーツ、その上に重ねられたベビードール。
ガルを誘惑することだけを考えて用意したものだった。

「な、なんちゅうもんを着とるんじゃ!」
「……似合わない?」
「似合う似合わないの問題じゃないけぇ!」
「でも……」

そんな破廉恥なものを!と怒鳴りつけたい気持ちを、ガルは抑えている。の目にはそう映る。
男を誘うためだけにあるような服を纏った少女に説教をかましてやりたいが、その姿に欲を煽られて強く出られない。
もう一押しだ。は心の中でガッツポーズする。

「ガル、気に入らない?」
「気に入るもなにも……」
、ガルに喜んで欲しくて買ったのに……」
「…………」

すべすべの素肌と、先端が覆われているだけの乳房をガルに寄せる。
するとガルは困ったような顔になり、のどの奥でグウッと、出かかった言葉を抑え込んだ気配がする。

「……触って、いいんじゃろか」
「もちろん」

……やった、の勝ち。
もちろん声には出さなかったが、心の中で誇らしく思う。
ガルはなぜか神妙な顔で、薄い布に覆われたの乳房に手を伸ばす。

「んっ……!」

ガルの大きな手、がっしりした爪と硬い肉球が、の肌をぎゅっとつかむ。
おなじみの感触だったが、けれども今日はいつもよりも手が戸惑っている。おっかなびっくりと言った様子だった。

「ガル…どうしたの?」
「あいや、あんまし強く触ると」
「あ、んんっ……!」

乳首に爪が触れてが震える。
けれどそれと同時に、ガルは手を引っ込めてしまう。
どうして、とが目を開くと、ぴりり、というかすかな音が響いた。

「ああ……」

やっぱり、と言ったふうにガルが肩を落とす。
慌ててがガルの手元を見ると、彼の爪の先に、下着から出た糸が引っかかっていた。
鋭い爪で、布地が伝線してしまったらしい。

「こうなるけぇの」
「うん……いいのに、そんなの」
「勿体ないじゃろ」
「まあ、ちょっとは…でも、あんまり気にしないでいいよ」

ガルは自分の大きすぎる手が、鋭すぎる爪が、この衣服を傷つけることを躊躇しているらしい。
からしてみれば、これはガルのためだけに買ったものだ。
たとえズタズタにされたって、ボロボロに裂けてしまったって、それがガルの情欲の末の結果なら満足だ。

「なんちゅうか…普段から、傷つけちゃならんと思っとるが……それを着てると、余計に」
「もう。気にしないで!」

はたまらず、ガルの首もとに抱きついた。
屈強な体躯は、そんなことではびくともしない。

、ガルにだったらめちゃくちゃにされてもいいんだから。ガルの爪も牙も大好き。好きにしてっ」

そのまま勢いをつけてガルに口づける。
犬の姿のまま、高いマズルをツンツンと触れあわせるのも好きだが、こうしてヒトの姿でガルとキスをするのがは大好きだった。

「んんっ…ふ、んん……ガル、舌、出して……」

さっきの爪で気落ちしているのか、今日のガルはの唇が触れても口を閉じたままだ。

「もう…んっ、ふ……ちゅるっ…!」

なので仕方なく、はガルの湿った鼻や唇を、ぺろりぺろりと舐めていく。
これじゃあ自分が一方的にしているだけ。寂しい。

「ガルぅ……」
「ああ……まったくコイツはもう。怪我しても知らんガル!」
「んんんっ!」

途端にガルの口が開く。鋭い牙がむき出しになり、長い舌がその隙間から伸びてくる。
の唇を舐めとり、こぼれる舌を吸う。
舌同士を触れあわせ、ざらつく感触を確かめ合う。
ぬるぬると肉厚なの舌に比べて、ガルのそれは薄くてざらついている。
はその感触がどうにも好きだった。
この舌で舐められると、まるでガルに征服されているような気持ちになるのだ。

「くっ…ん、ふあぁっ…あ、あ、ガルぅ……」

一度火がついてしまうと、もうガルは止まらない。
ベッドに横たわったの足を大きく開かせて、太ももを押さえつける。
下着を脱がせて片足首に追いやると、足の間の割れ目に鼻先を突き込んだ。

「ひあっ…あっ、や、あ、鼻…あたってる……」

ガルの高い鼻が、の身体でもっとも敏感な部分に触れる。
ガルは意図してやっている。
湿った鼻先が、クリトリスをいたぶるように揺れたことでは理解する。

「だめっ、あ、クリぃ…鼻でごしごししないでぇっ」

けれどガルは聞き入れない。それどころかさらに強く鼻を押しつけて、の肉芽を潰そうとしてくる。
甘美な刺激に、膣穴が愛液で潤っていく。
は粘膜の表面に留まれなくなった汁が、お尻の方まで伝っていくのをぼんやり感じ取る。

「ひぃんっ、あっ、ああぁっ!」

次の瞬間には、その滴りをガルが舐めとった。

「勿体ないガル」
「もう…うぅ、ばかぁ……」

ガルはどちらかというと、舌での愛撫を好んだ。
太い指と爪よりは舌の方が、にとって安全だという判断かもしれない。
そのことに不満はないが、けれどあえて言うならば、おなかの奥が寂しい……と、いつもは思っている。
粘膜を舐められていくうちに下腹が疼き、もっと奥にも刺激が欲しいとむず痒くなり始める。

「ガル……ガル、ねぇ……」

けれどガルが指をくれないから、疼きはどんどん大きくなる。
それでも舌による刺激は与え続けられて、指を入れて欲しいという願望は、さらに大きな欲へと変化していく。

「いれてぇ…ガル、おくに……ガルのおっきいおちんちん、いれてぇ……っ!」

欲求不満が限界を超えて、ついにはおねだりする。
ガルはその言葉を聞くとゆっくり顔を上げて、の顔をじっと見つめる。

「欲しいか、俺が」
「うぅ…うん……」
「ええんか、入っても」
「いいよっ……のおまんこ、ガルのためにあるんだからぁっ」

がそう言い切ると、ガルは興奮を抑えきれない顔で頷いた。
欲望からの焦りが滲んだ動きでズボンを脱ぐと、の身体をうつ伏せにして押さえつける。

「んんっ…うしろから……っ!」

ガルとの交接は、だいたいこの体位だ。おそらくガルの中の獣の本能がそうさせるのだろう。
の中の本能もそれに呼応している。
姿形はだいぶ違うとは言え、同じルーツを持つ獣を互いに宿している二人だ。

「いくぞ……っ」
「きてぇ…ガル、おちんちんいれてぇっ!」

の声に応えるように、ガルの肉茎が膣穴に進入していく。
潤ってはいるが狭い穴を、癖のある形をした肉茎が押し開く。

「はあ゛あ゛っ……あっ、あぁっ、くるうぅ…おぢんぽ、おぐぅ、ぐるうぅっ……!!」

一度挿入に及ぶと、ガルは遠慮というものをしなくなる。
肉茎が根本まで入り込むまで腰を止めず、入ったら入ったで今度は、容赦なくの身体を揺らす。
は体を襲う激感に悶えながら、その獰猛な動きからガルの愛と欲を感じ取る。
目の前の一匹の雌を種付けして、己のものにしてしまいたいという征服心が、確かに伝わってくる。
それはある意味、言葉以上に確たる愛の証拠として、の心を満たしていくのだ。

「ガルぅっ、おっ、おぉおっ!感じるぅっ、ガルのおちんちん、おまんこの奥でぷくぅってなってるうぅっ、のおまんこ、押してるぅっ!」
「ち、千切られそうガル…ッ、お前さんの奥は、ハァッ、いつもきっついけえの……!」

激しく出し入れされる肉茎を目一杯感じたいという欲が、の膣穴をきつく締め上げさせる。

「くぅっ……ちいとばかし、我慢……くっ」
「ひぐっ、あっ、ああぁっ……!!」

身体が揺れる。ガルがのうなじに噛みついて身体を押さえつけたのだ。
鋭い牙が肌に食い込む感触、それにつられて髪の毛が引きつる窮屈さがあるが、それは別に苦痛ではなかった。
むしろ快楽を増幅させる刺激として、の身体を揺さぶってくる。
……それにこの動きをするということは、ガルの限界が近いのだ。
の子宮の奥に精液を注ぐために、その身を固定しようとしている。

「きへっ、きへ、ガルうぅっ!のおまんこ、精液の海にしてぇっ!子宮こじあけてっ、あかちゃんのもとじるいっぱい注いでえぇえっ!!」

のあられもない声に応えるように、荒い鼻息がこぼれる。
膣内で肉茎の先端が膨れていくのがわかる。
ガルの腰使いも一層激しくなって、のおなかの奥を狙っているのがたやすく知れた。

「くぅっ、出すぞぉっ。腹の奥で受け止めてくれぇっ!!」
「ひっぐうぅっ!!いっ、あっ、いぐうぅーーーっ!」

ガルの先端から熱がほとばしった瞬間、も身体を狂おしくくねらせた。
二人で深く絶頂し、それでも互いの身体の奥をさぐり合う。

「あひっ…あっ、あぁっ……おなかの奥ぅ…流れこんでるぅ……!」

ガルの……狼男の射精は、ヒトのそれと違ってすぐとは終わらない。
正確に精液を流し込むために、ゆっくりゆっくり続いていく。

「く……もう少し……っ」
「はぁ、あっ、ああぁっ……!」

ガルの性器との膣穴は、まるで鍵と穴がはまりあうようにつながっていた。
ガルの射精が終わるまで、この結合は解けない。

「ガル……だいしゅきぃ……」

はこの、なんとも言えない時間が好きだった。
次第にガルは理性を取り戻して、それまで浸っていた性衝動から醒めていく。
すると羞恥心と、同時に罪悪感がわき起こってくるようで、ぎくしゃくとを慰めるのだ。
それも言葉ではなく、まるで犬のグルーミングのように頬や額を舐めて。

「ガル……ガルも好きって、言っていいんだよ」
「うぐ…」

その唇から二人の関係を変える言葉がこぼれるまで、あとどれくらいだろうか。



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