カラメルプディング(の後)
「十四松っ!!」
一松は自分の姿がズボンを腰まで下げた変質者スタイルだということをすっかり忘れたまま二人の前に躍り出た。
かまうものか。目の前の二人は互いに性器をむき出しにして合体しているのだし。
「一松兄さん……?」
ヤケクソ気味な一松と反対に、振り返った十四松はなんとも意気消沈した、悲しげな……まるで目の前の、自分が掻き抱いている女をもう『諦めている』かのような顔をしていた。
「テメェ、諦めんな!」
「……でも……もう…さんは……」
いつもの狂気さえ感じる無邪気さはなりを潜め、ずいぶん沈痛な顔をしている。
そのネガティブな声色は、一松の高揚した精神をキイキイ引っ掻いていく。心底気に食わない。十四松がこんな顔をするというのはどれだけの事態なんだ。常識が覆る。自分が見ている物聞いている物感じている物、すべてがストレッサーとなって一松を苛む。それが気に食わない。
「……お前電子レンジの仕組みって知ってるか?」
「えっ?チンするやつのこと…?」
一松はいらつきを抑えて十四松を鼓舞する。いや別に一松の中に明確なマニュアルがあるわけではなく、目の前の女が死に逝く道を阻む術を知っているのでもないが、それでも確かな認識がある。この女を引き留めることができるのは十四松だけだ。その十四松が諦めたら間違いなくこの女はそう遠くないうちに死ぬ。病院に運ばれてすみずみまで解剖され死因を突き止められる。その末に恐らくケツの穴に何かを挿入した形跡があり腸内から男の精液が見つかったりするはずである。精子って空気に触れてもしばらくは生きてるらしいじゃん。もしDNA鑑定で十四松の素性が突き止められたら六つ子のうちから『被疑者』が出てしまう。いくらこの女が脳みそプリンを食べてくれと言っていたとしてもそんなものは家族の遺恨や世間の好奇の目からしたら無意味だ。十四松は、俺の弟はセクシャルサイコキラーとして世の歴史に名を刻んでしまうだろう。家には連日野次馬が押し掛けるに違いない。俺たちも引っ越しせざるを得ない。あの家を捨てて働きに……いや嫌すぎるだろ!!寝覚めが悪すぎる!面倒すぎる!そんな事態だけは回避せねば。どんなデタラメを言ってでも十四松を奮い立たせないと。一松はそんな想いで必死になる。
「アレさあ、電磁波がブンブン振動して中に入れたもんの水分?あイヤ水分子?いや知らないけどとにかく水っぽいなんかを揺らして加熱するらしいじゃん」
「ウン…それが……?」
「スマホをレンジでチンしたら急速充電できるって知ってるか?」
大嘘である。スマホも電子レンジも破壊される超悪質なデマなので絶対実践しないでほしい。そんなことは一松も知っているのだがとにかく十四松を揺さぶり鼓舞することが大事である。
「ウソ?!知らない!!爆発しないの?!」
「俺も半信半疑だったんだけどレンジのマイクロ波がスマホの磁気と共震して充電されるんだよね。三分くらいチンすれば充電切れが一気に100パーセントまで充電される……俺の言ってることの意味わかる?…その女、ヘバッたバッテリーなんだろ……だったらお前がレンジになって揺さぶってやれよ!!100パーセントに!!」
「うおおお!!うおおおおおおお!!一松兄さん!!」
……の尻穴に刺さりっぱなしだった十四松の肉茎が、たちまち硬さを取り戻していく。今まで萎えかけ、かろうじて気の抜けた肛肉に引っかかっていただけだった肉茎が、再びの腸壁をえぐり倒す力を持った。
十四松自身もそうで、諦観と絶望に染まっていた瞳が再び謎の輝きを放ち、口をポカッと開いて生命力に満ちる。
「頑張れっ…頑張れっ…!その女を生き返らせろ…!!」
「頑張る!頑張る!あぁああっ!さん!!ウンバンダ!キンバンダ!マクンバマクンバ!!」
十四松は無意識のうちか呪術を唱えながらのガクガクと揺れる身体を抱え、激しいピストンを繰り返す。
だがここに至って、さっき一松が何度も射精するまでの間に十四松も相当な回数絶頂を迎えていたらしく精力の衰えが見え始める。
「オイ……だめだろっ、もっとガチガチにしろよ……!そんなフニャチンじゃ蘇生できないって……!」
「うくっ…で、でも、なんかおれキンタマのとこが痛くなってきた……」
その感覚は一松にも覚えがある。短時間のうちに精巣というか、睾丸を酷使すると、陰嚢の中がブルブル痙攣して疲労を訴えるのだ。単に自慰のしすぎというか精液の出しすぎであるから休めば元通り。……だが今は休んでいる暇などない。
「クソッ…十四松、そのまま……!!」
見ればの顔は貧血っぽい色白さを通り越して青黒い死相を描いている。もう一刻の猶予もない。
一松はまんぐり返しのを抱え込み、正常位の体勢で尻穴を抉る十四松の後ろに回り込む。いつも銭湯で見る気の抜けた裸体とは訳が違う。十四松は足を突っ張らせて誠心誠意、を呼び戻すべく姦通に挑んでいる。もはや一瞬の迷いも許されない。一松は十四松の尻の窄まりに勢いよく指を突き入れた。
「おほおぅ?!一松兄さああん?!」
「よそ見すんな……!ほらっ、ほらっ、おらぁっ…!」
そしてついさっきまで自分の尻を弄っていた動きを再現するようにして十四松の前立腺をマッサージしていく。モニモニと柔らかなツボと指に吸いつく粘膜。ふいに一松はなぜか自分の尻が疼いていることに気がつく。十四松の尻を鼓舞しているだけなのに、指先の感触があまりに強烈なので自分自身が愛撫されているような錯覚をきたすのだ。
「うあっ、うあぁあぁ!!ヤバイ!!ちんこ熱くなってきた!!何コレ?!一松兄さんゴッドハンド!!」
そもそも一松がこうして前立腺刺激に目覚めたきっかけは十四松となのだが、そうと知らない十四松はクエスチョンとエクスクラメーションを交互に出しながらの肉体を抱え込む。
「おらあっ!喘ぐヒマがあったらもっと腰を振れよ!」
「ウィッス!!」
一松の怒声に十四松はコクコクうなずいて、未だに意識を失い続けているの身体に精神を集中させていく。
「戻ってきて!!さん戻ってきてっ、はあっ、おれまださんとしてないことたくさんあるっ…あ、はあぁ…っ、ねえ、遊園地いったり動物園いったり全然してないっ」
一松は自分の鼻の奥がツンと痛くなって、瞳から涙が溢れだしていることに気がついたが、本当に理由がわからなかった。まさか目の前の二人に同情してなんてことはあるまい。
「頑張れっ…頑張れっ……!!」
涙に困惑しながらも、一松は必死に十四松の尻穴を突いた。指の腹で前立腺を抉るのはやめて、短いストロークで前後に擦っていく。こうすれば一気に勃起の促進と睾丸への働きかけがなされるとこの短い間に一松は思い知っていた。
「うおおっ…あ、さん、さんの尻オマンコ気持ちいいっ…ちんこ溶けちゃいそ、ねー戻ってきてっ…さぁん、さんもちんこで気持ちよくなってよっ」
「…………」
ふと目の前でごちゅごちゅと雌雄の交尾に浸る男女に嫉妬の気持ちが沸き起こって一松は押し黙ったが、ふいに十四松の尻穴が一松の指を喰い千切る勢いで締まり上がったので我に返る。
「くっ…出すのか十四松……?!」
「い、イク…出ちゃう、出ちゃう出ちゃう……さん、出ちゃうっ……!!」
前立腺の動きとともに軋む尻穴が十四松の絶頂を知らせる。口の端から唾液を垂らしながら、十四松はに呼びかける。
「戻ってきて、さん、出すから、ね、戻ってきて…あ、アッ、ア゛……!!」
「っつお……!」
一松が慌てて指を引き抜くのと同時に、十四松の限界が訪れた。背筋が反り返り、反動で腰を突き出し、その先にある股間から白濁を放り出す。
「ふはっ?!」
――……と同時に、真抜けた声と共にが目を見開いた。
のどに詰まっていた餅がポン、と抜けたような感じだった。顔に生気が戻り、呼吸が始まる。
「わ……わたし…じゅ、十四松くん……ふあぁっ?!う、うしろの、人は……?!」
そして至極まっとうともいえる驚愕をし始めるのだった。
「さん、死んでたから、生き返らせたんだよっ」
「うぐひいいぃーーっ?!アッ、あ、な、お、おっおおおっ…!お、おぢりのなかでなんか出てるぅぅ…!ちょ、どうしてっ、生き返っていきなり射精えぇ……!!」
「よかった…よかった、なんか安心したら、またちんぽがムズムズしてきた……!!」
「くひっ…?!ア、お、おしりにゅぽにゅぽだめえぇっ!生き返ってすぐのケツ穴セックスらめえぇえっ!ショックでまた死んじゃうからっ!もう少し手加減してぇっ…!」
「アハハハ!!さん会ったときみたいなカンジに戻ってる!!」
それはという女を初めて見る一松からしても真実なのだろうと思えた。賽銭箱の前でヘベレケのような口調で喋っていた姿とは違う。
「た、たぶん、あぁっ…わ、私さっきまで川を渡ろうとしてたの…でも流れが速くて渡れなくて…そしたら、空が明るくなって……十四松くんが降ってきて……戻ってきてって……んんっ、すごく、頭が冴えてて…んっ、なんか、フル放電されたようなカンジ……空っぽになった私の中に、十四松くんが、今、ちょっとずつ入ってきてる…っ!!」
……なるほど、と一松は納得した。電荷がすべて放電された電池のように、彼女は死と同時に己を蝕んだ狂気を捨てリカバリーを計ったらしい。
「で…あのっ…十四松くん…あの、うしろにいる…その人は……」
一松はに見られていることを初めてきちんと意識した。その視線に狼狽と羞恥心があるのがどうにも快楽に直結してしまって困った。というのも一松は自分でも気づかぬうちに勃起した肉茎を握って二人の交接を見ながら自慰に耽っていたので、股間に血が上ると同時に細かいことは気にならなくなっているのだ。
「一松兄さんだよ!さんを生き返らせるの、助けてもらったよ!」
「ほ、本当?そうなの…あ、あの、よく知りませんがありがとうございます!!」
「う……うっ、あ……!」
「あ、あり…が、あぁあおぉおっ!おおぉっ…お、十四松くんだめぇえぇっ!ケツ穴びゅーびゅーだめぇえぇええっ!!」
が叫ぶと同時に一松は射精した。それが十四松の射精とほぼ同時で、またWi-Fiみたいに十四松の快楽の残滓を受信していると気がついたのは、の尻から十四松が抜け落ちて、それでも足りぬというようにの下腹やへそのあたりにズルズルと精液を振り乱しているのを見てからだ。
「うくぅっ…い、いくら恩人だからって…十四松くんとのおしりセックスを見られちゃうなんてぇ……」
「大丈夫、一松兄さんなら土に埋めて見なかったことにしてくれるから」
「つ……ち?あっ、ふあぁ…だ、だめ…こ、こぼれちゃう……っ!!」
が慌てて自分の尻を押さえたとき、一松は信じられないものを見た。いやもうあり得ないことなどあり得ないという価値観破壊の現状だったが、それでも理性が歯止めをかけることだったのだ。十四松はとっさにの尻に口を付け、そこから溢れ出る精液を思い切り吸い上げる。
「な……なっ……!!」
そしてさらに驚くのが、十四松はそのまま喉をゴクンゴクンと、牛乳でも飲むように鳴らしながら自分の出した精液を飲み干していくことだった。
「うおえっ…」
一松は自分の口の中にもその青臭くて粘っこい味が広がるような錯覚にとらわれて思わず吐き気を催したが、十四松はそうではないらしい。一通り飲み干した後にプハァ、と口を開いて満足げなため息をこぼしてみせる。
「今度からはもっと大事に使うから!!」
「あ…ふっ、あ、う、うれしっ…ありがと…十四松くん……」
間抜けな幸福を訴えるの頬を、十四松の肉厚な舌がべろべろ舐めあげていく。動物の毛繕いのようだった。
「…………」
一松は下着を引き上げ、萎びた股間を押し込めてからズボンを穿き直す。
日常に戻ろう。
舐めあう二人をよそに、一松は思う。既に空は白んで、朝日が昇り始めていた。