蓮の台
アルバイトから帰ってお風呂場でシャンプーを泡立てている最中、突然磨りガラスの向こうに黒い影が現れたので叫び声を上げた。
「なっ、や、だっ」
「玄関の鍵閉めとけって言ったろうが!」
「いっ、い、いち…あ、い、いちま……つ…」
そのあとに勢いよく風呂場のドアを開けたのが一松だったので、驚きが収まりきらないうちに安堵が胸に広がって、私は変な声を出しながら風呂椅子からずるずる滑り落ちた。
「…あんた何回言ったら学習すんの?開いてたんだけど、鍵」
「ご、ごめ…かけわすれ…てた…」
紫色のパーカーにジャージのズボン。口許のマスク。いつもと変わらない格好の一松が、お風呂場のドアを開けて私を睨んでいる。そんな彼の怒りを体現するようにドアの隙間からは容赦なく部屋の冷気が入り込んで、濡れた身体を冷やしていく。
一松のいらつきはもっともかもしれなかった。誰から何度言われても、私は部屋、玄関、ロッカー、いろんなものの鍵をかけ忘れる悪癖が治らない。細かい忘れ物も多い。ガサツな性質を持って生まれたと自分では諦めていたが、一松はそれを許してくれない。特に部屋の鍵のかけ忘れについてはめちゃくちゃ怒る。変質者が入り込んできたらどうすんの、と、ひとまずは私の心配をしてくれているらしいのだが、とにかく怒る。そして私も詫びるはいいのだが、やっぱりどうしても気を配れずに再度忘れる。
「ごめん…次からちゃんとするから…髪の毛洗ったら出るから、待ってて」
自分で自分に呆れるのだが、おそらく鍵のかけ忘れで痛い目を見た試しがないのでいくら言われても身に沁みないのだ。危機感がない。海外とかに放り込まれたらすぐ死ぬタイプだと思う。でも放り込まれないしそれで生きて来られた。だからもういいじゃん。寒いから早く閉めて。とまで言ったらさらに怒りを買うだろうから、シャワーコックをひねってお湯を浴びる。寒いんですアピール。
「…いや、もうあんたが学習しないってのは嫌ってほどわかった」
だというのに一松は忌々しげにそう言ってドアを開け放つと、お風呂の中で佇む私に突進してきた。もちろんパーカーもズボンも着たままで、肩を掴まれた私が驚いて手放したシャワーを浴びてびしゃびしゃに濡れた。それでも頓着する様子がない。
「やっ、や、やや、やめて!お願いやめて!ちょっと、ねえっ!」
目の前の男が何をしようとしているのか理解するまでに数秒を要した。抵抗する頃にはもう手遅れで、一松は私の両腕を掴んで、肌を覆うものがなにもない無防備な姿を支配者の視線で眺めるのだった。
「あんたさぁ…ときどき俺をメチャクチャ馬鹿にしてるよね。いいんだよそれは別に…どうせこちとらゴミグズですから、ニートですから無職ですから、根暗で犯罪者予備軍を絵に描いたようなツラしてんですから、馬鹿にされんのは別にいいんだよ慣れっこなんだよ」
「してない、い、いや」
「すれ違いざまに笑われてヒソヒソ陰口言われんのも、小さい子供に指差されんのもいいんだよ別に、そんなの想定の範囲内だから全然傷付かないし、あんたが都合悪いときは俺を悪者にしてカタルシス噛み締めてんのも痛いくらい感じるけどまあいいんだよね…実際汚い人間だからさあ、変に美化されてるよりは居心地いいし…でもどうしても許せないことが幾つかあるわけ、わかる?」
首を横に振ると、一松は私の頭をパアンと叩いた。我ながらいい音がしたけど痛かった。
「あんたさあ、たまにさあ、俺を利用して自分のこと馬鹿にしてるでしょ……いや否定しなくていいから。わかっちゃうんだよね、俺。そういう感情には敏感なんだよね。飯の中に嫌いなもの入ってるとわかるじゃん。箸でほじくり出して避けるじゃん。あれと同じでさあすぐわかっちゃうんだよね。そのたび俺はこうやってさあ箸の代わりに指であんたの眼球をずぶずぶ刺してほじくり出してやりたくてたまんなくなるんだよ、ほじくり出すか?」
「い……いや」
私が心底震え上がったのは、指先が本当に目玉に近付いてきたからではなく、怒りで舌先を滑らかにする一松が私の本質をずばり言い当てていたからだった。
寒さではなく恐怖でうつむけば、一松はふん、と苛立たしげに鼻を鳴らしてもう一度私の頭を引っ叩いた。またパアン、といい音がしたが、今度は痛みに囚われるより先に一松が私の身体を空のバスタブに押し付けた。
「や…やめ……」
もうされることはひとつじゃないか。それが証拠に一松の手は私のお尻と太ももに触れる。抵抗がふっと薄らぐ。ここで言いなりになって一松の気が済むなら、これ以上えげつない精神分析で私の醜い心を暴かれずに済むなら、膣穴を虐められるくらいなんてことはない。
……そう意識を弛緩させた瞬間、しまった、と思い当たった。
「……」
「あ…あの…一松……」
予想通り一松は脚を開かせようとするのをぱっとやめて、酷く白けた顔で私を見る。
……ばれた。今のしぐさひとつで、どうやって一松の怒りをやりすごすのが一番かなぁなんて舐めた考えをしているのが見抜かれてしまった。
「……あんた、今なに考えてたの?」
「なに…って、それ…は……」
「なにされると思ったの?」
「ご…ごめ……」
「言ってよ…どんなこと考えたわけ?」
矛先を逸らそうと思えば思うほど、一松の怒りは大きくなる。そう観念して、舐めるような視線に怯えながらも口を開く。
「お…犯されるって思った…」
……一松の口の端が愉悦でつり上がった。私を見て暗い興奮を滾らせている。
「う、後ろから…このまま、されるって思った……」
「されるって?」
「……う、う…」
「だから…何をされるって?」
「ねえ嫌…恥ずかしい…やめて……!」
震える私を鼻で笑って、一松の口の端から舌が覗く。乾いた唇を舐めては、私をいたぶる言葉を吐き出す。
「随分と自意識が高いんだねえあんた…とりあえず自分の身体にはそれなりの価値があるって思ってんだ。俺を手懐けるくらいはわけないって思い上がっちゃうんだ…」
泣きながら否定のつもりでかぶりを振ると、ヒヒッ、なんて喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。まだ追い詰めるつもりでいる。許してくれない。
「なんであんたはそうダブスタなの?ダブルスタンダードだよ意味わかる?俺をさあ、性欲だけで生きてるクズみたいな野郎に仕立て上げて悲壮感に浸ってるかと思えばさあ、そんなクズの欲望をヌイてあげる聖女様みたいに思い上がって安心してる時もあるし…今はどっちなんだろうね。ゴミクズニートにレイプされる可哀想なあたしなの?性根の歪んだ一松くんを受け入れてあげる優しいあたしなの?どっちの自分で股開くつもりだったんだよ、ええコラ、言ってみなよ今なら許してやるよほら早く言えって」
「そんな…の……」
「へえ言えないんだあ…まあいいよどっちにせよハズレだし……あんたの思ってるようなことはしないからさあ、代わりにあんたが思いつきもしない最低なことしてやるから。そしたら少しは危機感持つでしょ。自分じゃ考えもしない認識の死角から入り込むろくでもない変態の行動が少しは学習できるでしょ」
悪罵に興奮を乗せた一松は、私の片腕を引っ張って身を起こさせた。濡れたズボンを引き下ろす音がする。
……やっぱり暴力で屈服させるだけじゃないか、と私が変な安堵を抱いたのを見透かしたようなタイミングで、掴まれた片腕の付け根、つまりはわきの下がふいに生温かくなった。
「あっ、い、嫌っ…だめ、だめっ」
「今更なに言ってんの」
驚愕で自分の左腋を覗いた瞬間に、羞恥がいきなり頭までせり上がってきた。拗ねるような諦めに染まっていたのに、急に反抗心を呼び起こされる。
「やめて、お願い一松、私が悪かったから、ね、部屋に行って普通にして、今はやめて、ねえ離して本当にもうお願いお願いやめてよお!」
私が必死な声を作っても一松は自分の犬歯を舐めてせせら笑うだけだった。抵抗を物ともせずに左腕を持ち上げてしまう。
「うわ、恥ずかしいんだ。剃ってないんだ、ああこりゃ恥ずかしいなあ…あんたが泣きそうなのもわかるよ」
「いやだあ…やめてよ……いやだ…」
一松の指が愉快そうに私のわきの下を撫ぜた。皮膚の先に突き出た無精の結果が、彼の嗜虐と私の羞恥心を増幅させる。顔が熱いを通り越して痛かった。頭に血が上って、うっすら耳鳴りまでする。恥ずかしさのあまりに意識を失えないかと頑張ったが無理みたいだった。
「あそこの毛よりは柔らかいかも」
「やっ、あ…いや、いや、ご、ごめん、ごめんなさい、もう許して本当ごめんなさい恥ずかしいことしないで……」
「あんた…なにが悪いかわかってないのに謝るのもやめなよ。スゲー腹立つ」
一松は唾でも吐くみたいに言い捨てて、私のわきの下に剥き出しの肉茎を押し付けた。なにするの、と叫ぶより先に腕を無理やり降ろさせて、腕の関節での奉仕を強要する。なにが起きているかわからなかった。どうしてこんなことをされているのか。一松の意図もわからない。そうなると羞恥心を恐怖が支配してゆき、私は弱々しくやめて、と言うより他ない。
「どうしてこんな恥ずかしいことされるかわかんない?わきの下でクズニートのちんぽしごくのどんな気分?嫌なら言ってみれば、わきの下オマンコみたいに使うのやめてってお願いしてみれば?」
「…や、やめて、わきの下、オマンコみたいに使うのやめてっ」
「やめるわけないじゃん俺言ったでしょ、あんたが想像もしない最低なことしてやるって…こんなの考えた?草ぼーぼーなわきの下で性欲処理されるなんて考えもしないでしょ…あまつさえそんなことする変態が身近にいるなんて、自分が飼いならしてるつもりの肉バイブがそんな気持ち悪いことするなんて思いもしないよね、でも現在こうなってるわけだしあんた今どんな気持ち?」
「やだ、やだやだあっ、恥ずかしいの、恥ずかしいからやめてって、言ってるのに…!」
「残念だけど俺をはじめとする変態は泣かれるほど興奮するから、嫌がられれば嫌がられるほどもっとしてやりたくなるから、あんたなんかゴキブリホイホイみたいなもん…っく、あ、変態を喜ばすことに於いてあんたを超える物件はそうそうないから、せめて俺が早く射精できるように諦めて…ワキでしごくんだよ、わかるだろ?!」
「う…う、ううっ…ん、ううっ…う…!」
「そう、そうだ…ああ、いいぞ…下手すると中に入れるよりいいかも、くひっ、あんたが嫌がるのも最高だし……」
泣きたい気持ちを抑えて仕方なくわきに意識を集中させて、突き出された一松の肉茎の幹をしごき上げるように動かしたり、わきの下に先端が押し付けられたら逃さないようにわきを閉じて、腋肉越しに右手で亀頭を揉んだりする。一松の鈴口から垂れる粘液がだんだん私の肌をぬるぬるのべたべたにして、それこそ性器みたいに馴染んでくる。そうしていくうちに、私の身体に思いもよらない反応が起こっていた。
「ほぁ…あ、嫌…なんか…これ、いや…」
溢れた官能のため息をどうにか嫌悪の言葉でごまかしたが、私自身でごまかす、なんて思っているんだから背後でわきの下を性器として使い続ける偏執的な変態であるところの一松が見逃してくれるわけがなかった。
「…ひひっ…あんたマジで…変態の誘導ビーコンかなんか?」
「ち、ちが」
「はぁっ、いや、俺もありえないとは思う、こんなことされてあそこが濡れてくる救いようのない変態ホイホイはこの世にいないと思っ」
「ちがくないからぁっ!だからもうひどいこと言わないでっ…なんか…わけわかんないのに、オマンコ、濡れてる…から、から、だからぁ…!」
「だからなに」
羞恥に打ち勝って口にしたのに、一松はそんな私を粗末に扱って平気な顔をする。
「あんた…これ意味わかる?あんたはこんなことされてもすぐ諦めちゃって脳みそが誤作動するポンコツだってことでしょ…そんなしょうもない弱っちい女のクセに家に鍵もかけないで風呂に入るのホントなんなの?これ入ってきたのが俺じゃなかったらどうなってた?見ず知らずの男に同じことされて折れない自信ある?どうせすぐ諦めて言っちゃうでしょあたしの身体を好きにして気がすむならそうしてくださいって、その方が楽だし傷つかないし…それで俺以外の奴に犯されて演技でもなんでもヨガリ散らして、最後には中に出されてっ…!それで泣くだけだろ!おらっ違うってんなら今すぐ俺のこと殴れば、叩けば、蹴ればっ!」
「しないよおっ…一松以外の人となんか、しないっ、しないからぁっ!」
「あんたの願望の問題じゃないんだよ!……それでいつまで俺にわきの下なんか使わせてんだよ、早く股開けよ犯してくださいだろうが!」
「おっ、おかっ、犯してください…!」
「本当に言いやがった…テメェふざけんな!」
「一松が言えって言ったのに!ねえごめんなさい、弱くて馬鹿で鍵もかけらんない女でごめんなさい、だからお願いわきの下じゃなくて…オマンコでおちんちん擦ってください…一松のおちんぽでダメなクソメスをしつけてください…ほんと…ほんとクソメスでごめんなさい…馬鹿なオマンコでごめんなさっ…う、うあ、あ゛ううっ、うえぇんっ…!」
「泣くんじゃねえブッ殺すぞ!」
「うぐおっ…おっ、お゛おぐううぅっ!!おぢんぼぎだあ゛ぁ…!!」
私を背中から抱えて、一松の硬くなった欲望が粘膜をこじ開けてくる。
「お゛っ…おふぅう…う゛ぅっ…いぢまづうう…ごめんなざぁあ、ごめんなさいするからあぁ、世の中なめてるクソアマだから、それでいいから、だからもう怖いこと言わないで、絶望させないで見たくないもの見せないでねえお願っあ、あ゛あ゛あ゛みゃあ゛ーっっ!!」
心の中を掻き回されて、最深部に淀んでいた泥が浮き上がる。すすり泣きと一緒に私の中から溢れ出ていく。一松はそんな私を今更慰めるかのように、腰に回した腕に力を籠めてくる。
「自立した大人の女なんか無理いっ、人の役に立つとかむりっ、正社員とか無理すぎいぃっ!一生適当にやって適当に生きてたいしたまに後ろ盾ないのが怖くなっちゃってでも行き詰まったら死ねばいいかなって思ってるのにどーして一松は許してくれないのぉっ!おっ、おあっ…うっ、あ、ああっ…!」
「…この……!」
「おまんこしてれば幸せえへぇっ、それでいいじゃんっ、ア、なのにぃーっ!どーしていぢまづは私にちゃんとしろってゆーのおおっ!」
「それ…は、あんたが、死んだら、はあっ、俺の……」
「俺のでいいじゃんっ、ものみたいに扱って欲しいのにっ、それが一番楽なのに、何も考えなくていいのにひどいよぉっ…!ときどき私のこと人間扱いして傷つけてくんだから一松はひどいよっ、いい加減なままでいさせてよぉ〜…!!」
「…くっ、テメェ、はあ、はあ……物扱いをするのは俺であってあんたじゃないんだよ!」
そう言って私の欷歔を一蹴したかと思うと、一松の片手が性器の上で充血したクリトリスを引っ掻き始めた。容赦ない強さでがりがりぐちゃぐちゃ、粘膜に傷をつけるのが目的だとでも言うように。
「いぎっあ、いだっ、いだあっ、いだいいだいいだいいっ、いだぐでぎもちいいっ、死っ、あ、こ、殺してえっ!一松が殺してえっ」
「殺さねえよいいかあんたが殺せって言ってる限り殺してやらねえからなっ、はあっ…あんたが幸福の絶頂みたいな瞬間にいるとき狙ってチビチビ痛めつけながら殺してやるからせいぜい怖がって可哀想なあたしでいろっ、おらっ」
「うぎいぎいいいっ、いあっ、ああっあ、ぐりどりずやめでええっ!血が出ちゃうっ、掻き壊れちゃうよおおっ!!」
「あんたのそうやって矛盾を平然と口にしてんのが気に食わない、殺して欲しいくせに心身どっちも傷付けられんのは嫌だとかワガママ言うんじゃねえ!テメェの人生を俺のものにするつもりもないくせに要求ばっか一丁前…そういうエゴいマゾっぽさが俺みたいで腹立つんだよ…!」
「あっ、あ、だってしぬのは一瞬だけど傷付くのは痛いんだもん!痛いの嫌ぁっ!一松のバ…あっ、あっあっ嫌っ、嫌っ、ごめんなさい嘘バカじゃないからがりがりやめてえぇっ!引っ掻かないでぇぇっ!!いぎだぐないのおおっ!今は嫌なのっ、無理矢理いかすのやめでへええっ!!」
「……く、うっ…あ、もたない、かも…中に出す…」
「いやーっ!!嫌ああああーーっ!あ゛ーーーーッッ!!」
死まで連想する破滅的な絶頂に全身を振り乱しても、一松の指は私の粘膜を執拗に引っ掻き続けた。膣内で射精の動きが終わっても肉茎を抜かないまま、脳内麻薬の分泌に打ち震える私を休む間もなく再び快楽の坩堝に叩き込もうとする。涙も唾液も鼻水も垂らしたまま、いくら振り解こうとしても離してくれない。
「お゛っ…お゛っ…もういやなのにい゛い゛っ…!」
「いつもあんたの望むものばっか与えてもらえると思うなよ……」
「お、思ってにゃひいっ、ないですううっ!だからっ、だからああっ!!」
「だからやめてって?は…何回言っても部屋の鍵さえかけらんないバカメスが何言ってんの」
「かっ、か、かぎの、こと、もう、わ、わかったからぁ!いぢまづのゆーとおりにするからあぁっ!」
「いやわかってないでしょ…その場しのぎの嘘ばっかついてうまくいくと思うなよ」
「ああうっ、嘘っ、うそなんてついてないからぁっ、や、やめっ、いぢっ、ま、づ、それ、もっ、う、されたら、わ、わた、あ、あ゛あ゛あ゛やめてえ゛え゛え゛恥ずかしいのが出ちゃうからあぁっ!!」
一松が拷問みたいな手つきでクリトリスを捻り上げた瞬間に、最後の一線で緩み切らずに突っ張っていたものが壊れた。足の間から生ぬるい失禁が迸る。肉芽を起点に引っ張られる形で歪んだ膀胱はびしゃあ、なんて音を立ててバスタブに叩きつけるように排泄した。当然跳ね返ったり勢いを失ったりした「残り」は私や一松の肌や粘膜や服に遠慮なく降り注ぐ。証拠が残る。私はこれを洗濯したり掃除したりしなくちゃならないんだ。それもこれもダメ人間な自分を破滅願望に泳がせてごまかしていたからだ。都合が悪くなったら死んじゃうだけだなんて馬鹿げてる。私がそんなことできない意気地なしだっていうのは他でもない私が一番よく分かってるのに。ちゃんと考えれば辻褄の合わないことばかりなんだ。こうして私を辱める一松にだって、私から近付いてエクスキューズを出した。似た者同士で欲を満たし合って充足しましょうって、今思えばそれだって随分失礼な気持ちで接した。なのに一松は私よりずっと人間だった。私を人間として尊んでくれた。恋人扱いしてくれた。私がそれに対してしたのはなんだったか。違和感を覚えて鬱病みたいなことになったのではなかったか。ただのダメ人間じゃないか。メス以上人間未満のなにか醜い肉のかたまり。なのに一松は辛抱強く諭している。今日はその我慢に限界が来たんだ。だから、だから私はこんな目に遭わされている。馬鹿馬鹿しい。少し気を配ればこんなことにならずに済んだのに。その少しができないからこうなる。
「…言っておくけど無駄だから。こっからあんたがふて腐れた態度でマグロになるのも想像できちゃってんだよね、俺…そんなの無駄だから。あんたがマグロ演技にも飽きてまた泣き出すまで続けてやるから」
「うっ…っあ?!あ、いやっ、またっ…も、もうそこは嫌あああっ、嫌っ、い、いぢま、ゆ、いや、許…あっい、い゛い゛い゛ーーっ!!」
「今更許してはないよねえ…?俺あんたのことずーーっと許してきたよ。あんたも俺のこと許してくれたってバチは当たらないでしょ」
「やっ、いっあっ、あ、だ、だっ、まっ、また、またしょこおおおっ!ぐっ、く、クリトリスは嫌あああ!破裂しちゃうっ、もう壊れちゃうからあっ」
「壊れたら壊れたとき考えてやるよ…あー、やば、また勃ってきた」
「お゛っ…お゛ッ…あがっ…抜いてええ…やめてえ…今おっきくなったらなかから押されてほんとに壊れるう゛う゛っ…!!」
「だったら頑張れば?こっちの気が済むようにいつもみたいに肉便器ぶればいいじゃん」
「むっ、むりっ、無理なのぉー!もう無理っ、嫌っ、あだまがおがじぐなっぢゃうがらああっ!!」
「ハイハイ発狂したフリ…!わかってるって言ってんだよ!飽きたんだよ!」
一松が身体を揺すって肉茎を出し入れする。彼が言うように私はまた適当な態度でごまかそうとしているのか、いよいよ本気で狂い始めたのか自分ではもうわからない。いつもは何重もの膜越しにあやかっているような感覚だった膣壁を抉られる快楽が今日は剥き身の鋭さと脆弱さだった。ひと突きされるたびに頭の中が白くなる。そのさなかで一松がしようとしていることを理解する。彼は私を丸裸にしようとしている。支配しようとしている。たとえ悪意と性欲でぬらつくものであっても、一松の意志は本気だろう。こんな風に冷静に考えていられるのもあとどれくらいなんだろう。追い詰められて打ち据えられることにいつまで私は私のまま耐えられるのだろうか。
「… 気絶したら叩き起こしてまた泣くまでハメてやるからな」
一松が耳元で囁く。
いいな、と、ふと思った。彼によってもたらされる一瞬の死と、その後に再生される私は、一体どんな姿をしているだろうか。知りたいなと思った。
*****
「一松様」が降臨なさるとしたらどんな感じだろうかってあほなりに本気出して考えました