自虐の詩(後)
チョロ松の中で、女性とは邪悪な淫売か、そうでなければ偶像崇拝の対象たるアイドルだった。陰陽道の太極図みたいに白黒で分かれている。
それが今までチョロ松を童貞たらしめていた理由でもある。好きになって崇めるのに、少しでも理想と離れたことをされると途端に穢らわしいウソつき淫婦にしか見えなくなる。
その認識をかき乱していくのがだった。はアイドルではない。聖母でもない。だって僕みたいなクソ童貞と付き合ってセックスしたんだもん。女神様そんなことしない。僕みたいなやつを相手にしてる時点でちょっと頭がおかしいよ。
……かといってクソアマでもない。優しいし、可愛いし。外ヅラだけ繕って、ファミレスの喫煙席で脚をパカパカ開いて大声で騒ぐメス共とは絶対違う。
その極端な思考が自信のなさに由来することを、チョロ松はわかりそうでわかれない。わかりたくない。
でもすべてを引っくるめても、今目の前のを愛しく思う気持ちはなにより真実だった。チョロ松は涙を拭って、浅い呼吸を繰り返しながら眠る恋人を眺めた。
……そして気づかぬうちに落ちたうたた寝から目を覚ましたとき、ベッドに横たわるが自分をジッと見つめているのに気がついて思わず叫びそうになった。
「うわっ、あっ… あわっ…」
「チョロ松くんも寝ちゃったね…」
「ご、ごめん……」
謝らなくていいのに…と、わずかにいじけた様子で身を起こしたは、眠る前よりずっと元気そうだった。薬が効いたのであろう。
「お腹、大丈夫だった?」
「お腹?あ…ああ、ああ、お腹。うん、全然平気だった。本当、全然…」
自分のついた杜撰な嘘と一緒に、さっきまでのみじめな気持ちを思い出す。また泣きそうになっては困るので、チョロ松は慌てて思考を打ち切った。
「あ、あの、なんかしてほしいことないかな。アイスノンとかある?」
そして大げさにソワソワし始めるわけだが、はさらに俯いてしまった。
「…からだ拭いてほしい」
「わかった」
と返事をした後に、チョロ松は違和感に包まれた。あれ待てよ。
「洗濯機の上にタオルがあるから、それで…」
「いや、いやいやいや、あの、待ってさん、ちょっともしかしたら僕、今、すごくヤバイ幻覚の中にいるのかもしんない」
「…幻覚じゃ、ないよ……」
がソッポを向いたまま悲しそうに言うので、チョロ松はさらに慌ててしまった。
「ダメ?」
「ダメじゃないですよ!ダメなもんですか!断じてダメじゃないね!ちょっと待ってて…!!」
の意図するところは不明なまま、化かされたような気分でとりあえず身体だけ動かした。彼女の言う通りランドリーラックにあったタオルを取り、隣の浴室から洗面器を手にして湯を張る。
チョロ松がベッドに戻ったとき、既にがパジャマの上を脱いで乳房を晒していたことがわけのわからなさに拍車をかけた。
「せ…背中を、お願い」
「う、うん」
濡れタオルを絞って、の背中に押し当てる。
「熱すぎない?」
「ううん、ちょうどいい」
「な…なら……」
よかった…と続けたかったが、その頃には本日二度目の勃起がチョロ松の身を襲っていた。ボロを出さぬように、荒い呼吸を悟られぬように、と思えば思うほどうまく言葉が出てこない。
でもこれはさっきと違って性欲の怪物と自分を貶めるべきではない気がする。だって目の前に好き合っている子の裸身がある。これで勃起しないのならそいつは逆に性欲湧いてこない妖怪の呪いを疑うべきである。
僕は別に今、さんに対しておかしな欲情を見せてはいない。大丈夫。チョロ松の中で一息にこれだけの思考がまとまった。
普段己の肌を拭うときよりもずっと丁寧にの背中を撫で、上擦った声で「も、もう大丈夫かな〜」と訊ねる。
「う…ううん、前も」
そう言って汗でぐっしょりしたチョロ松の手を握って腹部らへんに導こうとするに対して、チョロ松は一気に猜疑心が噴き出した。
もしやしてこれはさんは僕をジャッジしているではなかろうか。
さんは疑いもなく風邪。病気。そんな手前で僕の前に餌……というか己が裸身を晒し、僕が突き上げる欲望に逆らって紳士として振る舞えるのかを抜き打ちチェックしているのではないか。
だとすればさっきからのどこか後ろめたそうなさんの仕草にも納得がいくじゃないか。
純情そうに見せて結構な女狐じゃないか。助けてくれ。ごめんなさい僕は耐えられないです。できればまた腹痛が再発したと言ってトイレにこもりたいです。そこでもう一回くらいしこしこすればさすがに陰嚢の奥の精巣も疲れてくれるかもしれないです。そうすれば休憩時間中くらいは紳士になれると思います。さんが僕に紳士を求めるというなら余裕を持って8分くらいのしこしこ休憩をくれるべきだと思います。ちょっとその辺話し合いたいです。いきなりこんな仕打ちはヒドイと思います。
「チョロ松くん…あのさ」
「えッ?はッ?」
「…変なこと聞いてもいいかな…怒らない?」
「そ、それは内容にもよるとしか答えようがないけど」
とりあえず軽率に「怒らないよ」と返さない愚直な理性が働いた。
「……いま、おちんちん立ってる?」
「はあ?!」
理性など簡単に打ち壊す質問にチョロ松は仮面を被る余裕もなかった。いつも兄弟に対して言うような、容赦ない「はあ?!」が出た。
はビクリと肩を震わせて、ごめん、と消え入るように言うのだが、チョロ松としては「立ってたらどうするの」「立ってません」「立ってます」「てめえのせいだろ」の四択に思考を奪われていた。フォローなどできない。
「たっ…たっ、たっ」
「じゃ…じゃあ、質問変える…風邪、うつってもいい…?」
なんだこれ。どこまでえげつないテストだよ。うつってもいいさ。さんのならウイルスですら愛しいさ。だけどそうやって答えたが最後だ。僕は性欲モンスターの烙印を押されてさんに「ち●ぽいじってろクズ」という扱いをされるんだ。
それがわかっていて「いいよっ」なんて言えるか。たとえ勃起が凄くてすぐジーパン脱ぎたい級、痛いレベルに達していてもだ。
「…したい、チョロ松くんとしたい」
「あふえふおふ」
うるせえ女狐め。そんな顔で見てきたって無駄だ。僕をちょろく思いすぎだ。名前はチョロ松だけど中身はさしてちょろくない。そんなミエミエの罠にかかってやるものか。
「ほんとは…今日、映画終わったあと、うちに誘いたかった」
「うるえええうるあうええ」
「でも風邪ひいちゃって…間が悪いよね。おとなしくしてろって話だよね」
「ちょろうおおうあおおお」
「でもだめ、なんか…やだ。このままチョロ松くんが帰っちゃうんだなーって思うとなんか……」
「めぎふなああ」
チョロ松は意味のない声を漏らしながら自分がズボンに手をかけているのに気がついた。もう遅い。下着ごと思い切り脚から抜き取って、いきり勃った熱をの前に突き出す。
「ああっ……」
それを見たは驚いていたが嬉しそうだった。ベッドの上に膝立ちになったチョロ松と向き合って、まだ熱病の残滓がある手で肉をきゅっ、と握る。そこで二度目をうっかり噴出させなかったのはチョロ松にとって幸運と言えた。
いまやチョロ松の股間はヤクザの改造拳銃が如しだった。いつ暴発してもおかしくない。
慌てての手を制しながら横になるように指差し、チョロ松は腰を引いての上になる。股間への刺激は最小限に留めなければ。そして挿入可能な状態までさんへの愛撫を完了させなければ。
「んっ……!」
チョロ松がの脚の間に手を寄せると、くぐもった声が上がる。
焦って引きつりそうになる指先だけを頼りに、女性器のかたちをまさぐった。目視しないのは、見た瞬間に視界への衝撃でハンズフリー射精することも有り得たからである。
「うわっ……」
「んんっ…!!」
とチョロ松が揃って声を上げる。陰唇を割り開いて触れた膣口がぬるぬるだったからだ。
「ぬ、ぬるぬる」
「い、言わないで……!」
これだけ湿っているのであればさほど大掛かりな愛撫は必要ないはずだ。指先にまとわりついたぬるぬるをすくい取って、優しく撫でるようにすればいい…はずだ。そうだったはず。ホットドッグプレスは嘘つかないはず。
そう自分に言い聞かせながら、チョロ松はの陰部をゆっくり撫ぜる。
膣口に引っかけないように。爪を立てないように。押し潰さないように。ただゆっくりなぞるみたいに…!と余計なことばかり考えてしまうものだから自然とその指先はヒョロヒョロと蛇行し、手首に至ってはプルプル痙攣してくるのだが、それでも変なところで小心者なチョロ松は、の口から「もっと」「もういい」の言葉が出てくるまでやめどきがわからない。
「いい…そこ、いい……」
「えっ?いい……?本当に?」
チョロ松の問いかけに、は何度も頷いた。
「あ…あの、あの」
内心ホッとしながら、チョロ松は決断を迫られていた。ごめんそろそろ入れたい、と自分から切り出すか、歯を食いしばってどうにかが「入れていいよ」と言ってくれるのを待つか。結局チョロ松は己が欲望に負けた。
「入れたい、さん……」
「…んっ」
口にする瞬間まではなっさけねえ消えてえええとまで思っていたのに、間を与えずにが頷いてくれたことでチョロ松の脳内には賛美歌が鳴り響いた。生きているって素晴らしい。
すかさずの足を持ち上げ、左右に開いてその間に上を向きすぎている肉茎を落とし込む。
「んっ…!」
亀頭がにゅるっとした熱い感覚に包まれた時点でもうだめだ助けてと思った。入れたいけど入れる前に出そう!神様仏様!脳内で賛美歌を歌う小鳥たちに助けを求めると、その瞬間だけ意識が逸れて射精管が「ぱかっ」と空振りしたのがわかった。
「入れるよ!いいよね?!」
「う…っん、くふっ…あ、あ、ああ……!!」
今しかない!射精欲がタイミングを誤って引っ込んだのを見計らって、チョロ松は一気にの膣内にのめり込んだ。
「あふぅ…ふうぅっ…はいって…る…!」
「うん…うっ、は、入った、さん…!」
そこから先、もうチョロ松は夢中になってしまった。と自分の身体が隙間なく密着できるように片膝を立て、腰を使って思い切り肉茎を突き立てる。
「はああっ…!あっ、あっ、あっ、あっあっ…!!」
乱暴にされてもに不満はないらしく、突き上げられては吐息をこぼす。
「っろ、まつ、くん、もっと、あ、ア…!」
「う…うん…ああでもごめ、ごめっ、ご…あ、ダメ、イク……!」
「イ」のあたりでチョロ松は限界に達した。「ああ……」と狂おしげな声を上げるの膣内に遠慮のかけらもなく精を放った。
股間の付け根が一滴残らず出し切ろうと震え上がっている。矛先がトイレットペーパーなのとの胎内なのとでは勤務態度がえらく違う。
「くっ……う、ごめん…」
「あっ…ま、待って…抜かないで、お願い…」
もっと、の声に応じられずに射精を済ませたことを恥じるように身を引こうとしたチョロ松を、が慌てて止める。
「…そのまま…いっかい、抜いて、あしのあいだ…」
「え……え?」
に言われるまま、射精を終えた肉茎を引き抜く。するとがひょいと足を閉じた。
「あっ……」
そこでようやく意味を悟ったチョロ松は、慌てての尻を抱えて、足の間に挟んだ肉茎を擦るように腰を揺する。
「んっ…んっ…んっ、んっ…!!」
ちょうどチョロ松の熱と、の興奮が治まらないクリトリスが擦れ合うのだ。
「……っ」
そんなことを自分が恋人としている。そう思うと二回も吐精したはずの股間が再び硬くなった。
「はあっ……あ、おっきい……!」
「ご…ごめ…ん……」
そう言いつつ、チョロ松は腰を使い続けた。自身の裏筋あたりを押し当てて、の肉芽を愛撫する。指よりも全然さまになっているところがなんだか悲しかったが。
「もう一回、できそう…?」
チョロ松は何度も頷いた。そうして自分を虜にしていくの真意は未だに掴めなかったが、また充血し始めた股間のほうがずっと身近で、そして大きな問題だった。