オーバーフロー
※チョロ松が出ます
近頃弟の様子がおかしい、というのはチョロ松なりに察していたのだが、考えても見れば弟こと十四松の様子がおかしくなかったことなどなかった。
特に中学以降、その狂いぶりは加速するばかりだった。
うちのプランターに植えてあったチューリップを掘り出すので何してるんだと問えば「お腹すいたんだよう。この中に栗が隠してあるの見たんだよう」と言うので、黙って成り行きを見守っていたらやはりと言うかもうニョロニョロと芽と根を張り始めたチューリップの球根を掘り当てて、「ああっ!この栗もうダメになってる!」と悲しみに打ちひしがれていた。
またあるときは湯舟を使ってメロンソーダを作ろうと思ったらしく、駄菓子屋で粉ジュースを何袋も買ってきて湯舟にぶちまけ蛇口でじゃばじゃばと水を注ぎ出した。
折悪く父親が仕事を早上がりした日で、十四松が目を離した隙に「バスロマン入りのいい湯が沸いてるじゃないか」と入ってしまい地獄の釜が開いた。
なぜか兄弟全員が連帯責任で正座させられる中、十四松はエグエグと泣いていた。
叱られた恐怖や理不尽さにではない。
「父さんが入ったメロンソーダなんか汚くて飲めないよー!」である。
それを聞いた父が再び激昂し「お前メロンソーダメロンソーダってなあ!だいたい風呂釜なんかでサイダー作ってどうするっ、飲み終わる頃には炭酸抜けとるわ!」とズレズレな罵倒を飛ばしたわけだが、十四松はエグエグしながら「だってお風呂は再沸騰させられるじゃん!!」とズレズレズレズレズレくらいな言葉を返し、だいたいそのくらいから兄弟たちはこの十四松という存在を笑うのではなく尊ぶことにすると決めた節がある。
だから大抵の馬鹿は気に留めないし、ある程度の尻拭いは日常的になっていた。
だが、だがである。
今までの「馬鹿」と、最近の奇行は、どうにも性質が異なるように思えてならなかった。
ある日母が窓辺に一輪挿していたカーネーションが無くなったと残念がっていて、結局ノラ猫の仕業とされたがどうも、チョロ松は、十四松が話題の花を持って歩くのを見たような気がする。
似たような話で、つい最近長男がカーテンレールの上に置いた小物入れに貯めていたというか隠してた数百円が消えていると大騒ぎしていた。
言うまでもなく家の中に放置されたお金に所有権などなく見つけた奴のモノになるのだが…チョロ松はその日の午前中にカーテンレールの上をガチャガチャいじくり回している十四松を見かけていた。
何かあるのかと声をかけたところ「アブラゼミが入ってきたから捕まえてる」と言うので興味も失せ「この季節に家でうごめいてる虫なんかゴキブリしかいねえよ」と言い捨て立ち去ったのだ。
が、その後におそ松による「おれの400円があっ」の慟哭。つまり十四松が盗んだってことじゃないか。おかしい。いつもの十四松なら「なんかこの上にアルミ製じゃないお金があるっぽい!!」と損得考えずに叫ぶはずだ。そうすれば家中から六つ子全員が集まって奪…分け合いになるはずだ。
だというのになんてことだ!十四松はこのチョロ松兄さんを謀って全額うまうまガメたのだ。
それがおかしい。ぼくたち松野家の息子は全員残らず無職のすねかじりクズ野郎だが、だからこそ六人の中には助け合い精神が芽生えていた。
相互監視システムと言い換えてもいい。チョロ松は蜘蛛の糸システムと密かに呼んでいた。ようするに一人勝ちはダメなのだ。全員が同じ環境でクズりあっているのだから、うち一人だけが天から下りた細い糸にしがみついて下界とおさらばするのはダメだ。
絶対に千切れるとわかっていても、六人全員で糸を掴んで登れないか提案すべきなのだ。
それが愚かしくも美しい兄弟愛だ。世界だってその種の愛は愚かだからこそ美しいと知っているようで、「これは俺のものだ!」と叫んだ瞬間に掴んだ糸が切れる様式美が存在する。
ぼくたちはダメなクズだがそうした世界の理によって笑い物でいられるのだ……。
だというのに此度の十四松の抜け駆けである。十四松の謀に向かぬ性格を考えると、単に「お金が必要な事情」があり、それは「誰かに賃借の理由を話すわけにもいかぬ、あるいは兄弟に知られたくないこと」なのだろう。だから400円ぽっちを嘘をついてまで独占した。
「いやああ!かわいい弟が!いやかわいくないけど知能指数的にかわいいぼくの弟が!」
考えていくと段々と母のカーネーションをくすねたらしい理由も見えてきそうになるではないか。
「女」である……。
「いや、いやそれこそ十四松にはあり得なくね…?」
チョロ松の額を汗が滑っていく。ぼくたち六つ子は全員クソ童貞だ。一部の不届きものは買淫のような外法に走っているかもしれないが、それは金銭と引き換えに女体の都合のよい部分だけ得ているだけのこと。
ひとりの恋人に、酸いも甘いも面倒くささも味わって、幾多なるアプローチの末に肉体接触に至った「童貞卒業」とは全く異質なものだ。
……といかにも童貞な理屈をこねくり回して落ち着きながら、チョロ松は立ち上がって襖を開けた。
「十四松ー?」
当人の返事はない。携帯電話をもて遊ぶ末っ子と、猫と遊んでこちらを振り向きもしない四男がいるだけだ。
「十四松知らない?」
「十四松兄さんなら、さっき一人で出てったけど」
その言葉に、チョロ松は玄関に走った。ある。奴が愛用している野球バットとグローブは、あろうことか玄関に置きっ放し!
もうそこからの行動は衝動的で、アテも策もあったものではなかった。
靴を履いてアーケードを抜け、古びた遊具が並ぶ児童公園へ。
マラソンコースが折り込まれた大きな市民公園ではなく、奴が逢い引きに使うならこっちな気がしたのだ。
それがたとえもうぼくの知っている十四松ではなくても…。
なぜか涙まで浮かべながらチョロ松は昼下がりの公園にたどり着いて、「あかつか児童公園」へ足を踏み入れた。
「じっ…」
十四松う、と叫んで名を呼ぼうとして…すんでのところで押し留める。
なぜって、視線の先にある子供用のジャングルジムに見慣れないものを認めたからだ。
いや「それ」は断じて見慣れてよいものではなかった。むしろこの世にあってはならないものの筆頭みたいな、ようは地獄のような光景だった。
「くふうっ…!十四松くうん、恥ずかしいよお……やだ、本当に誰か来ちゃう、見られて…警察呼ばれちゃう…!!」
女の方には犯罪の認識があるらしかったが、その口調の媚び媚びしさたるや。
……チョロ松は目の前の人、いや、現象について的確な表現ができかねる。
強いて言うなら、きちがいである。
…その女は鉄筋のジャングルジムの下から二段目に腰掛けて、両脚は宙に放っていたがまあそれはいい。通報するほど異質ではない。問題は服装だった。
短めのスカートだから、ぽかっと開けた足の間からは下着が露わ。上半身に至ってはほぼ裸で、若い娘らしく上向きの乳房が、伸ばしきったキャミソールの胸元からまろび出ている。
汗が滲む乳房をジャングルジムの三段目に乗せ、火照る皮膚で鉄の冷たさを楽しんでいるかのようだった。
ようは金網から身を乗り出す猛獣みたいな格好で、女は陶酔に浸り切っている。
「ああっ…」
もはやチョロ松は自発的な沈黙ではなく、目の当たりにした圧倒的理不尽に言葉を失っていた。
若い娘の乳房に乳首、汗の滴る太ももとちらちら見える下着。
それだけ欲望を掻き立てられる光景を一気に与えられておきながら、頭のあちこちが混乱していて性的興奮どころではなかった。簡単に言うとチョロ松のち●ぽはピクリともしなかった。
「大丈夫だよさん、おれ警察とは顔見知りだから」
チョロ松をよそに、きちがいは新たな行動に移るのだ。
そうなんたることか痴態を晒す女の横、というか斜め上、ジャングルジムの天辺によじ登って無責任なことをぬかしているのはチョロ松の探し人だった。松野十四松だった。馬鹿だけど明るくてかわいい弟だった。
「でも…こんなことして平気かな…」
、と呼ばれた女は再び恥ずかしがってみせるが、剥き出しの乳房や太ももを隠そうとはしなかった。十四松から逸らした瞳は、何らかの期待に濡れている。
「さん、ほらほら」
「あっ…」
の淫らな「あっ…」とチョロ松の絶望から来る「あっ…」は同時だった。
十四松は膝の裏で鉄棒を挟み込んで、ジャングルジムの側面で逆さ吊りになった。
奇怪な動きではあるが悲鳴は漏れない。十四松に限らず松野兄弟はよくあんなアクロバティックを披露する。無論無傷であるから絶望には至らない。
チョロ松を絶望せしめたのは体勢の危うさではなく、自ら宙吊りになった十四松のズボンのチャックが全開であり、そこから勃起してそそり立つ肉棒がはみ出、というかモロ出ていた事実だった。
(ああ、銭湯で前を隠すようになったのはいつのことだったかなぁ…)
理解を超え希望は潰え、チョロ松の精神は過去の思い出に救いを求めた。
六人で一つでもそれぞれ差はあって、そこを各々尊ぶことに美徳や反発があるとは言ってもやはり気恥ずかしいもので、簡単に言えばチョロ松は兄弟のち●ぽを見るのも自分のち●ぽを兄弟に見られるのも嫌だった。なんか恥ずかしいしもう大人なんだし。
そんな青臭い想いは現実に戻った途端に十四松の勃起した肉棒に叩き潰されることになるのだ。チョロ松の下の下の弟、同じ血も遺伝子も羊水も共有した十四松による勃起はそれはもう見事であった。チョロ松が十四松と己の関係だけ忘却することが叶えば、うっかり見惚れるほどだった。
同性の張りつめた胸筋や割れた腹筋などの肉体美が妬ましいのと同じように、チョロ松はその刹那十四松の肉棒をひどく羨望した。
屋外、さらには児童公園、極めつけに逆さ吊りという状況なのに、その剛健な勃起は決して揺らがない。それどころか重力も軽く凌駕していた。本来なら亀頭は真っ逆様に十四松本人の顔に向かって垂れるはずなのに、充血した亀頭の成せる技か、はたまた精汁の滾った陰嚢がそうさせるのか、あるいは本人と同じように健康そのものの海綿体による成果なのか。
チョロ松には判断出来ないが、とにかく十四松の肉棒は宙吊りになってなお、壁に取り付けられた水道蛇口のように垂直な滞空を見せつけていた。
痴人ふたりの欲望はそこで留まりはしない。十四松はそのままぶら下げていた腕で手近な鉄棒を掴み、腕を軸にしてグルンと半回転した。
見事な勃起はジャングルジムの内側へ。つまり先程から物欲しげな顔で十四松を見つめていたの顔がある辺りにめり込んだ。これがゴルフであったなら拍手が飛びそうなカップインだ。
「んむっ…むうううっ…!じゅうちまつくふぅんの…おちんぽぉ…んんっ…!!」
これはおかしいぞ。ようやく意識を弟の肉棒から行為全体に向けたチョロ松は慌てる。おかしいぞ。だってカップインって、穴にボールが入ることを指すだろう。
今はボールじゃなくてち●ぽだけどそんなのもう些末な違いだ。大きな問題は、なぜち●ぽが穴に入るのかだ。入る穴なんかあるわけないだろ!あんなところで十四松の勃起ち●ぽが気持ちよくインする穴なんかねーよ!
「おううっ…さん、もっとペロペロして…」
「むぐふぅっ…!十四松きゅふ…んむるっ、んるっ、むちゅッッ…いっぱいペロペロするね…ちゅうちゅうもするぅ…!」
「あーっ!あーっ…さはぁん…そのプロペラみたいなヤツ意識バイーンするからだめっ」
「ろるるるおっ…おんッ、むぢゅっ…バイーンひちゃうの…?十四松くふ、飛んじゃう?のおフェラはそんにゃひむちゅーっっ…!!」
あったのだ。この認識ミスはチョロ松が童貞だったことが原因ではない。一般人はジャングルジムをテトリスのステージ、己らをテトリスブロックに擬えたアクロバットな性行為など、想像すらもしないのだ。
こいつらは兄弟だとかその女だだとか、そんな肩書きを超越してただただ淫獣としてまぐわうのに夢中なのだ……。
そう理解が追いついた瞬間、チョロ松の困惑は頭とは別の場所から訪れた。
「ウッ…く…さん…ちんこが重くなる…落っこちちゃう…」
「んぼぅっ…はあっ、じゃ、じゃあ竹とんぼフェラやめたほうがいい…?十四松くん転落死しちゃうの…?」
竹とんぼフェラなる、プロレスの決め手のような名を冠する口淫を止めながらも、の舌先と唇は名残惜しく十四松のペニスの先端を舐めていた。弾む鼻息をこぼしながら、ぷっくり充血した亀頭をチロチロ愛撫する。
「んやっ…やめてほし…くない…!さんのスクリューちんこ舐めで死ぬなら本望だし、ギネスとかたぶん載るから」
「んちゅっ…そうなの…?」
求められたは、嬉しさを隠さない。
今度は舌先の狙いを狭め、奇蹟のような屹立を続ける十四松の先端、ねっとりした先走り汁を垂らし続ける鈴口を、尖らせた舌でほじくり出している。
「くう…さん…さん…!」
十四松の声が裏返って変なビブラートを奏でるが、そのときチョロ松はち●ぽが勃起しすぎてどうしていいかわからなくなっていた。
どう見ても気持ち良さそうなのだ。狂った技名と常識に挑む体位を除けば、の愛撫とそれを受けた十四松の馬鹿もなりを潜める反応は、チョロ松の目にはこの世の果てにある極楽のように映った。
「十四まちゅくんが…んぽふぅっ、こんな裏筋もちんぽにあるクリちゃんも狙いやすいカッコだから…んっ…!んんっ!!」
ちんぽにあるクリちゃんなる形容詞はチョロ松の辞書には載っていなかったが、視覚を信じるならば肉茎の裏、亀頭のエラ張りの反対側にある快楽神経の塊みたいな部位を、唾液まみれの舌がれろれろ張っている。
「すっ…げー…さん…おれも知んないちんこの裏コマンドたくさん知ってる…」
すっげー、よな。とチョロ松は素直に頷く。自涜に耽っても最初のうちは触れない部分だ。そこを弄ればすぐに痛い程の快楽が襲うとわかっているから、できるだけ先延ばしにして、最後に射精欲求が高まってきたら一気に仮性包茎の包皮越しに揉みくちゃにする。
そんなところを、皮より指よりぬめった女の舌でぺちゃぺちゃされ続ける悶絶とは如何程の地獄だろう。
「むっ…ちゅッ、十四松くん…落っこちちゃう前に…のお口に、ね…」
さらにはそのまま身を引かず、女の口の中に吐精していいと言うなら、そんな地獄には一体どんな徳を積めば行けるというのだ。
「ウッ…うう…!!…つあ、ダメ!やっぱダメだよ!さん降りて!おれも降りるから!」
……一体いつから己がズボンを下ろし、果てはあれだけ見られたくないだのと理屈をこねていたち●ぽを出して必死にしごき抜いていたのか、チョロ松はよく覚えていないのだが、ひとまず言えるのは、お外でち●ぽ出すとなんか恥ずかしいということだった。チョロ松は自我を小学生並みに退行させてまでようやく、目の前の獣の交接をズリネタにすることが出来た。知識人の悲しみだ。
「ふぉっおお゛っ…おッ、おふぅっ…ぢゅーしまちゅくんのヂンポ…あぐうっ、おなかの奥まで届くうぅ…!」
いっときチョロ松が羨望したほどに見事な肉棒は、の女陰を割り入ってはぐちゅぐちゅとゼリーが砕けるような音を立てる。
熟れて裂けたザクロみたいなの中を十四松が何度も掻き回すのを、チョロ松は絶好のアングルで眺めた。
それというのも二人がジャングルジムを掴んで立ち、いわゆる後背位でがっつき始めたのに加えて、チョロ松はしゃがみ込んでそれを斜め下から見つめる決意を固めたからである。
ち●ぽをしごきつつ、十四松の、血を分けた六つ子の弟の剛直が女の「なか」をかき混ぜるというか、ゴンゴン叩いて虐めるのを見ていた。
「はふうっ…だめっ、いま、ゴムしてないから…外っ…お尻にぴゅーってして…十四松く…んっ、お尻にかけて…ねっ?精液かけかけだよっ」
「うん!わかった!!」
ううん、ぜったいわかってないよ十四松のヤツ!
幼児退行しつつもそう内心毒づいたチョロ松は、いよいよ限界が近いのを悟ってち●ぽを思い切りしごき、精液を地面に捨てる準備をする。
「あああっ…!あっ…あ、あふっ…んっ…!!」
ピュッ、とチョロ松の精子が地面を叩いたのと同時に、ぬぶぬぶぬりゅぼふ、などと言う曰く言い難い音を立てて十四松の肉棒がの膣から抜け落ちた。
「あんっ…!あんっ、あんっ…おひり、ぐちゅぐちゅ…!」
十四松はそのままの尻肉に何度も肉を擦り付け、最後は自分の尻での尻を潰す気ではないかと疑うほどの勢いで腰を打ち付けるのを続けたかと思うと、やがては空気が潰れたような音と共に、生臭い白濁を漏らし出す。
「あ゛ッ…あ゛ぁ……っ…さぁん……!」
子供がむずがるような声を上げながら絶頂した十四松は、それでもなおから離れようとしない。
「あだあっ?!だ、ダメっ…く、くりとりひゅ…いじっちゃダメ…!」
「なんだっけこれ、クリクリス?」
「ちがっ…やっ、十四松くん、なんでえっ…!」
「さっきさん、いつもより「ん〜」の飛距離が短かったからー」
「ああああっ…バレてるぅ…だめっ、んくっ、あ、しゅぐいっちゃうからぁあ!十四まちゅくふ…ん、んっ、んっ、んーーっっ!!」
十四松の言うところの飛距離が十分な「ん〜」が放たれ、も絶頂に身を委ねる。
我に返ったチョロ松は一目散に逃げ出した。
その後の二人が「えきべん雲梯チャレンジ」を始めたことなど知る由もない。ちなみにこれは十四松が「SASUKE」を見て考案した危険極まりないスポーツである。ここで二人を止めてやれば少しは兄としての立場もあったかも知れぬ。