物語の女
「んっ…!!」
十四松の乱暴な手つきにの肺から苦しげな呼吸がこぼれる。
エロビデオの方がよほど説得力のあるようなきっかけで初めての肉体的な交接を済ませてしまったと十四松は、日を改めた今になって再び互いの体を探り合っていた。
再び、と言うには初体験の二人は一方的すぎたが、ひとまず、今日はも自分の意思で服を脱ぎ、十四松の前に裸となった下腹を晒していた。
その傍ら、ぼうっとした顔で息を呑んでいた十四松はいきなりの身体をひっくり返してうつ伏せにすると、ゴム鞠でも掴むようにの剥き出しの尻を揉みしだいた。
「すごい、お尻だ」
当たり前のことを口にしながらギュムギュムと、袖をまくって出した手のひらで尻肉を押し潰す。
「うぐっ…あ、あんまり強くしないで…」
最初はためらいの気持ちが優ってされるがままだったも、やがてはその遠慮のなさに困惑を口にする。
「女の子のお尻、すごい」
だというのに十四松はその愛撫のようなものをやめるつもりはないらしく、うわごとのように「すごい」と口にしながらの尻をこねるばかりだ。
「じゅ…う、しま…う゛…っ」
もで真剣に拒絶するほど嫌でもないから、ただ苦しい声で喘ぐだけに留まる。
その間にの手は、単に手のひらと腕にかかる力で尻肉を圧迫するものから、なんというか激しくパン生地を捏ねる職人の手つきや、インチキな指圧師の手腕を真似るような動きになったりする。
強さは尋常でないが、彼なりにそわそわとの尻を堪能している。
「すげーね!女の子のお尻って…こんな柔らかいんだあ」
「くっ…はうう…!じゅ…十四松くん…パン生地じゃないから…お尻は……いくらこねてもホテルブレッド焼き上がらないからあ……!!」
左右両方から弾む尻肉を寄せ集め、手のひらで激しく捏ねあげたかと思うと麺棒で打ち据えるように肘まで使って左右に押し戻す。
斯様なプロセスを経てから、力強い指がグニュリと尻たぶに食い込んで、まるで菓子パンを形作るかのように、の尻の天辺を激しく揉みながら千切ろうとする。
そんな扱いを受けるうちには、ここはキッチンで十四松は熟練のブーランジェで己自身は小麦粉と水を適宜混ぜ合わせた柔らかな食材生地だとの錯覚を抱かされていた。
「ぱ…ん…どみ…ぱん…ド……みいい…っ!」
「あはは、バゲット!バタール!プレッツェル!」
ふざけたことを言いながら尻を手のひらで打ちのめす十四松に対して、が延々と型焼きパンを訴え続けたのにはもう一つ理由があった。
というか、それこそが己はパンであるなどと言う狂った認識から帰還するきっかけとなったもので、うつ伏せで尻をぐりぐり揉まれるうち、の肉体に意図せぬ変化が訪れていた。
上から無遠慮に尻を揉む十四松のせいで僅かに腰が揺れて、ベッドシーツと下腹部が擦れ合う。
その度に腰の奥が生温かくなって、かすかに粘膜が収縮するのだ。
「く…ふぅう…!!ぱ…ん…ううっ、んっ……!」
その事実を十四松に知られるのが、にとっては尻をこね続けられるよりもずっと恥ずかしかった。
「女の子って凄いんだねー!あんな穴もあるし、オッパイもあるし、お尻はこんなに伸びるし」
「の、伸びないよお…十四松くんが伸ばしてるだけ…えっ…!」
そうやって批難の声を上げるうちにも、ゆるゆると包皮から顔を出したクリトリスがじったり擦られる。
自身にもわかるような熱を帯びながら、微細な刺激をもっと欲しがっている。
「んっ…ほ…う、うぅ……!」
自分で下腹に力を籠めて、下肢の茂みと一緒くたに割れ目をベッドシーツに擦らせる。
少しだけなら尻肉に夢中の十四松にはばれないはずだ、なんて都合のいい考えをしながら。
「あれ?さんどーしたの」
「ふあっ?!あっ…い、えと、わたし…!」
まあ当然都合のいい考えでしかなかったわけで、十四松はの尻をマッシュするのをやめると股間のあたりを凝視した。そのときになっては、自分の粘膜から垂れた愛液がシーツまで伝っているのを知った。
「もらした?」
「ち、違うっ!あ、ううん、その…も、漏らしちゃったから、だから、あ、あんまり見ないで……」
流石にこれが嘘だというのは最初から割れているようで、十四松はに従わずに湿るシーツに手を伸ばした。
「ぬるぬるしてる」
「あ…う……あ…あ……!!」
嘘がバレる瞬間というのはどうしてこうも耐え難いのか。は真っ赤になりながらただ視線を逸らしてうわごとをこぼす。
「さん、気持ちいい?」
かと思えば十四松から穏やかな声で快楽を尋ねる言葉を掛けられるのだから困惑した。
「女の子って、やっぱ凄いんだ」
「んううっ…!」
が返事をする前に、十四松の指先が濡れた割れ目をなぞる。
力強く尻を捏ねあげたのが嘘のように、指のほんの先っぽが触れるか触れないかの優しさで、の感じる場所を往復する。
「い…いやっ…あああっ…だ、いや、あ、わたし、あ…は、恥ずかしっ…!」
十四松が焦点の分かりにくい瞳を開いたまま首をかしげるのに、はもう一度、恥ずかしい、と告げる。
そうなのだ。気持ちいいとかよくないとか、もっと強くだの弱くだのとか、そんな感想より先に出てきたのが、恥ずかしいという思いだった。
「なんで恥ずかしいの」
がちらりと見やれば、十四松の頬は赤い。彼なりに興奮しているに違いない。
だというのに淡々と、まるで言葉でを追いつめるように尋ねてくる。
その間も、クリトリスを包皮と愛液ごとに優しく弄くる手は止まなかった。はそれが恥ずかしいのだ。
「なんで…って、こんなの、今まで誰ともしたことないし…ん…!」
十四松の愛撫はたまらなく心地いい。このなだらかで貪欲な刺激を受け続ければ、やがては頭の中が真っ白になる瞬間が来ると、は知っている。
けれどもそれはいつもひとり遊びの末のことだ。終わってしまえばうっすらとした罪悪感を誤魔化すように布団を頭からかぶってなかったことにする。誰かに知られるなんてありえない、考えもしないことだった。
「なのに…今…じゅーしまつくんが、さわってるし……!」
「おれ?」
十四松がもう片方の手で己を指差したのに黙って頷くと、は尚も秘処を優しくなぞる指に震える。
「十四松くんが初めてなんだもん…このあいだのもそうだけど…はあっ…あ…!」
「初めてだと恥ずかしい?」
「そ、そこじゃない、重きを置くのはそこじゃなくて…十四松くんと、う…わ、わたしが、こうしてるのが、つまり、恥ずかしいの……!」
羞恥と快楽でしどろもどろになりながらのの言葉に、ふと十四松が開きっぱなしだった口を閉じた。
「……」
相変わらずどんな意思が籠もるかわかりにくい瞳に、ことさら理解し難い色を乗せ、をマジマジと見つめる。
「さんはそれが嬉しい?」
「う、嬉しいって…」
「おれと、これ、ほらこうこれ」
「ん…!」
十四松の二つの指の先が、わずかな力でクリトリスをつまみ上げた。
「気持ちいいことできて、嬉しい?」
なんだかそう問われた瞬間に、はふと視界が涙で滲むのを感じた。鼻の奥がつんと沁みて、左右の目尻から生ぬるい雫が垂れる。
驚くのは間を空けずに下腹部がぶるっと震えて、肉芽を弄くる指先が埋もれるくらいに収縮したことだ。その後にドロッとした愛液が膣穴からこぼれ、十四松の手のひらに落ちた感覚まである。
「あれ…あ…わ、わたし、なんか、いっ…ちゃ、った…かも……」
「えっ?!」
眦を擦りながらがそう告げると、十四松はまた口をポカッと開けて驚愕してみせた。
「いくってあれだよね?大きい声出して、イグーッて叫んでのけぞるやつでしょ?!」
「わ…わかんない…そうなの……?」
「AVだといつもそう」
あ、こんな顔してれっきとした殿方なんだ、AVなんか見るんだ、という感慨は流され、ともあれ止まない涙と、十四松が指を退けないせいで刺激を受け続ける粘膜に対して、はどうにか説明をつけねばならかった。
「う…れしかったんだと、おもう…十四松くんが、指でして…気持ちいい?って聞いてくるから、なんか、感極まった的な…」
それを聞くと十四松はまた口を閉じた。なぜか十四松まで目尻をモゾモゾさせ始め、泣き出す直前だという顔になった。
「そっかあ…」
それからは、底抜けに明るかった十四松の顔が控えめな涙でくすんでゆくのを見た。
「な、泣かないでよ!」
わたしが泣かせちゃったみたいだよ、と慌てながら身を起こして、自分の上に覆いかぶさっていた十四松の頬に手を添える。
頬に落ちてゆく涙をピッ、と指先で拭い取る。
「ん……?!」
たがが湿っぽい感傷に浸っているのもそこまでだった。
十四松は唐突に泣き止むと、の目尻に顔を近づけて、その唇と舌で涙の通り道を舐めてゆく。
「しょっぱい」
「んっ…もう、ねえっ、十四松くん、ついてけないよ……」
「ごめん」
「ま、真面目になられても困る!」
「でも、もうちゃんとわかったから…おれもさんだから嬉しんだね」
十四松が含みを持った言葉をこぼして、神妙な笑みを浮かべていたのはそこまでだった。
が初めての恋人と、これから改めての交接に思いを馳せて静かに目を伏せると、いきなり腰が持ち上げられて足の間にぐりっと押し付けられる凶器がある。
「えっ?!あえっ?!」
「さん!!大好き!!」
「好きっ…て…あ、ああっ…あああああーっっ?!」
官能で緩められていた膣穴に、唐突な挿入もやり遂げてしまうくらいにいきり立った肉茎が突き刺さる。十四松もしっかり勃起していた。
「おあっ…あがっ、あっ…はーっ……はあぁー…っ!」
「すっげ、あっ…すげえ…さんの中、すげーあったかい…」
そうして驚愕するの膣内にやすやす入り込んでしまうと、十四松は彼女の肩を腕ごと抱き締めて、というか絞めつけて、衝撃で身動きの取れないの膣穴に肉茎を何度も何度も擦り込む。
「あっ、おっ、ううっ…じゅ、じゅうひま…ひゅ、く…うぅ…!」
「いー…すっげ、いいよ、さん…さはぁ…あ゛っ、あ゛っ、あ゛〜〜っ…」
はで蹂躙されるがままなのかというと、そうでもない。恋人が己の名前を狂おしく呼びながらしがみついてくるのは、自分までおかしくなりそうな程心を揺さぶったし、一定の強さと勢いで熱が膣穴を擦っていくのは、粘膜の充血を強くした。
「じゅ…しま、ふ…うっ、うっ、ん…あ、わ、わたし…きもちいい…このまましてって、思ってる…うう…!」
「ホント?!するする、する…さ…おれ、さんに、する……!」
その言葉を聞くなり、の下腹が強く疼いた。指で愛撫を受けていたときとはまた違う、黙って受け入れることはできないくらい強い絶頂がちらついている。
「あッ、十四松くんダメえっ、だ、ほんっ、と、ダメッ…いやっ、あ、い…いいの、きてる…から、あっうッお願っ…い、いいいいい゛い゛ーーーーっっ!!」
「お……!さんすげーっ…お、あ…おおっ…うっ、あ、おれも出ちゃう…さああん……!!」
結局は狂おしい絶頂に全身をじたばたさせてもがいたのを、十四松の腕で強く押さえつけられてすべて受け入れさせられた。波状に襲う快感が、何度も何度も脳裏を白くする。
「う…っあ、ああ〜…あ、すっごい、出たよ…」
が一度仰け反るたびに、十四松は痙攣する膣内に精を放つのを忘れなかった。最終的に胎内がみっしり詰まって、出された白濁がそのまま泡立ちながら逆流するまで絶対にから腕を離さなかったし、粘膜だって擦り合ったままだった。
「さん」
「う……?」
「へへ。さーん」
「…十四松くん……?」
「大事にするから」
の頭をぼやかす陶酔が急に醒めて、現実的な羞恥心を叩き込まれる。
目の前の不思議な男の子から放たれた、お決まりだが頼り甲斐のある一言にどうしようもなく胸を揺すられた。
「だっだだだ、大事なんて、なんか、そういう、未来的なこと言わなくていいんだよ?!」
「……なんで?」
「み、未来より今だから!」
「さん嬉しくないの?」
嬉しいに決まっている。ただ胸がどきどきを通り越してざわざわするだけだ。
「だ…大事にする…なら、てぃ、ティッシュ取って」
照れ隠しの素っ気なさにあいさ、と返事をした十四松は、数枚掴んだティッシュペーパーを、黙っての下腹部に当てた。
「……さんて、すごく可愛いんだね」
「えっ?!なんで?!どーして今…?!」
なんか、見ちゃった。そう言って温度の高い唇が近づいてくる。
「んっ…!」
「むおおっ?!」
なんだか悔しくなって、は十四松より先に唇を寄せて彼のペースを奪う。
まだまだこれから、何かにつけて、たくさん可愛いと言って貰いたい。