薄き花の夢
冴えない物書きの端くれであるが、薔薇十字探偵社の探偵見習いであるところの益田龍一と関係を持って気が付けば半年であった。
否、関係を持って、と言うとなにやらふしだらな雰囲気なのだが、要するに恋人同士となってから。
益田とは失笑するほど滑稽な出会いの末恋人同士になり、仕事の隙を見ては喫茶店で食事をしたり、休日に映画を観たりと、ママゴトのような交際を続けていた。
互いの好意を確かめ合う、二人で過ごす時間を大切にする一方で、も益田も示し合わせたように、仕事のこと、生活のこと、自分の家族のこと、そう言った話は最低限に留めていた。
会話は周りの変人のこと、観た映画読んだ小説の感想、そんな浮ついたことばかりで、会えば胸がときめく反面で、なんとも言えない青臭さに対する呆れが膨れてくる。
……要するに二人とも、相手に踏み込むのが恐ろしかったのだ。
益田の方はいつもの卑怯さと臆病さ、の方はそんな益田の様子を受けての遠慮である。
龍一さんは私のことを尋ねてこないし、自分のことだって打ち明けない。
だったら私だって慎み深く振る舞うべきだ。
「もっと私を知ってほしい」という欲を彼の前に出して引き受けてもらうのはずうずうしいことだ。
いきなり距離を縮めようとして、結婚願望がどうのと変な勘ぐりをされてしまったらどうする。
龍一さんはまだまだ若いのだ。
薄々察するに……こんなに親密な仲になった女は私が初めてなのだ。
そんな人に詰め寄って、前のめりで思い込みの激しい女だと疎まれたら。
……アホのような、されど本人は大まじめな逡巡の末、は益田との距離を決めあぐねていた。
そんな様子で、やがて会ってもだんだんと話のネタが尽き、互いに黙ってうつむいたりすることが多くなってきた頃に、は決意した。
このままではだめになる。
益田との関係はなあなあになってしまう。
派手にくっついたり離れたりするのではなく、ただサーッと会う回数が減って自然消滅の体となる。
……それが嫌ならもう少し私から、鬱陶しいと思われる危険を負ってでも自我をむき出しにしていくべきなのだ。
……そんなの決意を察したのかどうなのか、その日二人で夕食を楽しんで、夜が濃くなっていく空を眺めつつ駅まで歩いていたときのことだ。
決意したわりに結局なんにも言い出せなかったではないか、と自己嫌悪で言葉少なになったは、じゃあおやすみなさい、と益田に背を向けた。
すると突然、ぐっ、と強い力がの腕を掴んだ。
驚愕して振り返ったところ、変にりきんだ顔の益田が「い、いかないで」とすがりつくように言った。
「あ…あの、さん……い、あの……僕は…」
肌寒い季節なのに、益田の額には汗が浮いていた。
の腕を掴んだ手のひらも、なんだかジットリしている。
「い、行かないで欲しいって、思ったんで……」
「い、行きません」
そこまでしておいてよい口説き文句のひとつも浮かばないらしい益田に、は返事をする。
「龍一さんが、行くなって言うなら、行きません……」
安い恋愛映画みたいな台詞も、その場で益田の胸板に顔を埋めながら言うとどうにか様になった。
益田は何度か口をパクパク空回りさせたのち、ようやくの唇を塞いだ。
……初めてのくちづけの余韻が醒めぬうちに、二人はそそくさと駅沿いのアベックホテルにしけ込んだ。
「とりあえず清潔です」といった体で畳の間に敷かれた布団の上で、益田は見栄よりも逃げを選んだ。
「僕ァ…その、こんなこと…あ、いや、こういう場所がとか、さんと、とか、条件を絞ってのことじゃあないですよ、その……こんなこと初めてだから」
最後の方になると泣きそうな早口になって、の前で頭を下げてみせるのだった。
「なんと云うか…いや、本当に……許してくださいさん……」
「ゆ、許すってなにを……?」
「で、ですから、いかなる無礼があっても、それは僕が不慣れだからで、さんに悪感情を持ってのことでは、ないって……ことです……」
「…………」
寒々しい寝具の上で土下座みたいに身体を丸める益田を見て、はなんとも言えない気持ちになった。
「だ、大丈夫ですよ。私だってそんなに……あ」
言いながらしまった、とは口を噤む。
「そんなに場数を踏んでるわけじゃないですから」という慰めのつもりで、その実益田よりはこういった場面に慣れている己の一面がこぼれ出てしまった。
益田の方もが生娘でないということは察していて、だからこそこうやって這い蹲って「無様を晒しても許してください」という予防線を張るのだろう。
だからの言葉尻だけとらえて卑屈になったりはしないが「主導権はさんにありますよ」と言いたげな雰囲気をたっぷり醸していた。
「そ……その、あ、あの……なには、ともかく、お、お風呂、入りませんか……」
いろいろ思うところはあるものの、着衣のまま布団で土下座されてもどうにもならない。
はふっ、と息を吐いて、それぞれ身を清めて落ち着きましょう、と提案した。
それを聞くと益田は安堵したように顔を上げ、ええ、ええそうですよねェ、と頷いてみせる。
「………………」
先を譲られた浴室で湯を浴びながら、はなんともおもしろくない感情を反芻していた。
確かに互いを知りたいし踏み込みたいと思ったのだ。
だからこの状況は願ってもない好機なのだが……でも、それでもは不満だった。主に益田の態度が。
「龍一さん……」
は、益田の卑怯で、さらには臆病で、ともすると愚かとも言えるほど自己保身に走る性質の輪郭を、だいたい把握しては、いる。
だがそれでいてお人好しで、ちょっと迂闊で、みずから道化を演じることで居場所を作るその、器用な不器用さが愛しくてたまらない。
……だからこそ。だからこそだ。
だからこそ今、この場では逃げないで欲しかった。
たっぷり不慣れで不器用な、みっともない姿を見せながら、それでもを自分のしたいように掻き抱く必死さが見たかった。
「……………」
贅沢な悲しみだと思う。
こうして好きな人と身体を重ねられるだけでどれだけ幸福なのか。
そう自分を落ち着かせようと頑張るものの、なかなか納得できなかった。
「……あ」
はカランの横に備えてある液体石鹸の容器に伸ばしかけた手を、ふと止める。
銭湯の洗い場を無理矢理持ってきたような浴室を想像していたは、湯船まである風呂に感心した。
石鹸の横にはシャンプーの容器があって、少し手に取ってみると花の香りが漂う。
「………………」
そのまま石鹸を手にして身体を満遍なく洗っていく。
「………………」
そして。
「………………」
……結構な罪悪感と葛藤したのちに。
――……ドボドボドボドボ…………。
は、液体石鹸のボトルの中身を排水溝に捨てていく。
「……こっちもやっておこう」
――……ドポドポドポドポ…………。
次にシャンプー容器を手にして、それも同じように捨てる。
空になった容器を丁寧に流水ですすぎ、蓋を閉めてもとあった位置に戻す。
「ふうっ……」
は素知らぬ顔で浴室を後にする。
備えてあったタオルで肌の水滴を拭い、それからこれまた備え付けの薄っぺらい浴衣を纏って……緊張を抱えながら、益田の待つ畳の間へ向かった。
「あっ……あ、ああああ!!あのう……!!さぁん!!」
身体を冷やさぬようにと、ひとり布団に入っていたを呼ぶ声がする。
……その瞬間、は自分の唇が……なんだか凄まじく邪悪な形に吊り上がるのを感じた。
「どうしたんです、龍一さん」
素知らぬふりで返事をして、ゆっくりと布団を出る。
摺り硝子がはめ込まれた浴室扉に近づくと、中の益田がビクリと震える気配がする。
「あ、あのですね!なんか、石鹸が、ないみたいで……」
健気にも股間を押さえて前屈みになっているらしい益田は、硝子越しのに狼狽を訴える。
「こ、これさんは大丈夫でした……?」
すぐに「従業員に頼んでくれ」と言わないあたりが龍一さんらしい……なんて思いながら、は笑いを抑圧する。
「ああ、ごめんなさい。私が使ってしまったんです」
「えっ……えー…エーッ、と……そ、そういう場合、ど、どうしましょう……ねぇ……?」
笑い出したくなるのをどうにか我慢して、は浴室の扉に手をかけた。
「ちょっと、いいですか?」
「えっ?!だ、駄目ですよ!駄目!さん!駄目!開けないで下さい!!」
益田が慌てて中からドアノブを掴もうとするのが見えたが、の方が早かった。
ガチャン…と音を響かせながら、全裸の益田が途方に暮れる浴室へと、足を踏み入れる。
足の裏に濡れたタイルの感覚が届いて初めて、浴衣を脱ぐ。
手にした浴衣は、扉を閉める前に浴室の外に投げた。
「ちょ、ちょっと」
「……わ、龍一さん、裸」
「ぬあっ、な、なにを云ってるんです?!」
益田は慌てて腰に片手でタオルを押し当て、もう片方の手はどうしようかと迷ったらしいがの方に突き出してブンブン振った。
「で、出てって下さい!ちょっと、僕、まだ……」
「…………」
初めて目にする益田の裸に、は思わず固唾を飲んだ。
服の上から見てもひょろりとしている身体は裸になると尚のこと厚みがなく、男性にしては白い肌と合わさって少々不健康な印象だったが……身に纏わりついた水滴と頬の上気が、それらを妙になまめかしく演出する。
目的も忘れてしばし見入ってしまったが、それは益田のほうも同じようだった。
すべてを晒したの身体に視線が吸い寄せられている。
のへそを見、その下の足の間を見、またへそへと戻り、そして乳房を見るために上を向き、またへそに戻る。
気まずさからかの顔だけは絶対に見ないが、肌から視線が逸れることはない。
「あの、さん……」
その声で我に返ったは、慌てて益田に詰め寄った。
「さん!な…なんなんですかもう!」
「龍一さんこそ……」
は、わずかに哀れを覚えるくらい狼狽した益田の胸元に、すうっと手を伸ばす。
「私、龍一さんのためなら…汚れ役だってかまわないけれど」
「汚れ役って…あ、ああ!ちょっと!」
益田はわずかに、助けを求めるように左右を見渡した。
けれど結局どうにもならないと悟ったらしく、ようやくの顔を見て視線を合わせる。
「私…龍一さんが必死になるところだって、見たいですよ……」
そう言って益田の胸板に手を添えたまま俯いてみせると、の計らいをやっと呑み込んだらしい益田は目を白黒させた。
「そんなこと云ったって……習わぬ経は読めぬって奴ですよ!貴女の前で張る見栄なんて……もう」
「そこをもう少し…どうにか……」
真っ赤になってしまった益田に、はもう一歩詰め寄る。
抱き合うような距離で懇願する。
……すると己の身を隠そうとしていた益田の腕が、おずおずとの背中に回ってきた。
自然とは益田の胸板に頬を寄せ、湿った肌を心地よく感じては、下腹らへんが生ぬるく潤っていくのを自覚する。
……そうだ。この人のためならたとえ好き者の変態にだって、色惚けの年増にだってなるつもりでいる。
だがそれは彼の本心を知ってからだ。
この自ら腹を見せて降伏してくる愚かで愛しい人が、私を肌をどう見て、どう触れたいと思うのか。
どこが好きでどこが嫌いか、それを彼のほうから発露させるのを、少しでも確かめてからだ。
「あ…の、でもですね、その、ほら、石鹸がなくて…僕、今日やたらと汗かきましたし」
「水で流せば、十分です」
「そういうわけには……」
「ううん、いいの」
言い切ってが益田の胸板に唇を寄せると、「ひっ」と怯む声がして、益田の身体が震え上がる。
それからゆっくり……益田はの頭の後ろに手を回す。
「ん……」
二度目のくちづけだった。
益田の薄い唇が、期待に火照るの唇と重なる。
「……さんはいい匂いがする」
「それは…だって」
さっき贅沢に石鹸使ったから、とは言えないは、無言で益田の腰に手を回した。
「あっ…!」
するとその拍子に、益田の腰にかろうじてまとわりついていたタオルが落ちた。
べちゃ、という音につられては床を見て、それから追いかけるように益田の細い脚と、皮膚の下の骨の形がわかる腰を眺めた。
どこもかしこもひょろっとした身体の中で、脚の間だけが熱を持って上を向いている。
引け腰の益田に、自分の下腹を押し付けるようにしてが腰を寄せると、益田は面白いくらいに跳ねた。
「その…あー……恥ずかしい……」
もはや隠すことはできないという諦めで、視線を逸らすにとどめた益田に、は一層強く抱き着いた。
空の浴槽に足を踏み入れ、そのふちに腰かける形になったに、益田の身体がゆっくり降りていく。
益田は少し身の置き場所に迷った様子だったが、結局は屈んで、の乳房を見上げるような体勢に落ち着いた。
「さ…わ、り……ます、よ?」
照れ隠しなのか遠慮なのか、わざわざ宣言した益田にうなずいて、は力を入れずに目蓋を伏せる。
「んっ……」
まるでが目を瞑るのを待っていたように、益田の手が触れる。
鎖骨らへんを指先が撫でたかと思うと、生あたたかい手のひらが乳房を下から持ち上げた。
「わあ……」
益田の口から感嘆の声が上がったのを見計らい、はちらりと目を開けて益田の表情を盗み見る。
「や…柔らかいし、温かい…し、なんてぇか……いい、匂いです」
そう言った益田の顔は、照れも見栄も失せて素直に驚きと喜びに満ちていた。
すると益田の逃げに残念な想いを抱いていたの心も、素直な悦びを持ち始める。
「い…いい、です…ん……!」
指先が怖々と乳首をなぞった瞬間に、は浮ついた声を上げる。
「いい…ですか」
「うん……触ってもらえて、うれしい……」
頷きながら、続きを促す。
ここまで来ると、いけないものに触れるような感覚は薄くなったのか、触りたい、という心を隠さぬ手が乳房をしっかり揉み、もう片方の手は背中に回っての腰をまさぐっている。
「さん……その」
ゆるゆるした官能に揺られていたに、益田が伺う。
「背中…を、見せてくれませんか?こう、後ろ向きに」
「……こう……です?」
「そ、そうそう!あ…手、つけますか?足元…平気ですか」
言われるままには身を起こし、益田に背を向けて風呂場の壁に手をつく。
益田がようやく初めて、自発的な「お願い」をしてくれたのが嬉しい。
心地よさが足の間を生ぬるく濡らすのを感じながら、は背中への視線で益田を感じ取る。
「ん…龍一さん……」
顔が見えないと、少し大胆になるのだろうか。
今度は何も言わずに、益田の腕がの胸に回る。
片方で抱きしめるように、片方で乳房を楽しむように。
向かい合った時より堂々とした様子で、そのままの首筋に唇を近付けてくる。
「……綺麗ですよ、さん……」
「あ…て、照れます…なんだか…そう言われちゃうと……」
「多分、僕のほうが照れてますよ」
「それは…その、ごめんなさい」
がそう言うと、益田は普段の軽薄さが戻ってきたような声で小さく笑う。
「龍一さん…わたし……あっ?!んっ…?!」
ふといきなり、の背筋を何かが滑る。
「りゅ、龍一さん……!」
無理矢理に後ろを向いて、益田が何をしたのかようやく理解する。
薄い唇から覗く舌が、背中のくぼみをなぞっている。
「はあっ…く、くすぐったい…龍一さん…どうしてそんなところ……!」
「ん…いやァ…この…ほら、ここから、こう、下に、水滴が流れてくのが見えて」
ここからこう。そう言って肩甲骨の間から腰のあたりまでを、スッと指が撫でていく。
「それが…なんともこう、綺麗でして…ちょっとどうしても、こうしたかったから」
「……なら……」
照れ隠しの様子でけけっ、と笑う益田に、の中の悦びがどんどん大きくなる。
「なら…いいです。龍一さんがしたいって、思ってくれるなら…すごく嬉しい」
実際のところ、ぬるぬるする舌が背中を滑っていくのは、多少くすぐったくはあるが気持ちがいい。
むき出しの肌を恋人の舌で愛撫されるのは、こんなに心地よい。
「どうにでも、して……」
が快楽にとろけながらそうこぼすと、益田は何も言わずに背中への愛撫を繰り返す。
「く…ふっ……!」
背筋を伝って腰にまで降りた舌先は、臀部に行き着くと音を立てて接吻を落とす。
「はあ…ああっ……!」
益田の腕はの骨盤あたりを抱きしめている。
骨ばった腕に、自分の陰部の茂みが当たるのを感じて、の鼓動が速くなる。
そうして腰は腕に抱かれ、尻は唇でやさしく啄まれているのに、声を漏らして小さく震えても、益田はそれ以上のことをしてくる様子がないのだ。
「りゅ…う、龍一さん……」
彼の好きなようにしてほしいと願っていたのに、ここまで来て、この臆病なのか、ゆっくり愉しみたいという惜しさなのか、そのどちらもか。
「そこ…の…もっと……ここ、を……」
優しい責め苦に俄かに狂いそうで……結局は懇願を口にする。
益田の腕を自分の手でつかみ、叢をかき分けて、その奥にある火照った割れ目に触れさせる。
「あ……」
ツンと指先が粘膜に触れたとき、益田が跳ね上がって…肌が粟立つのが解った。
「わ」
……益田の口から出た一言は、ただひたすらに驚きを表している。
「い…いいんですか、これ……」
は黙って頷いた。
「ちょ…ちょっと、これ……」
指先のほんのわずかな部分が、皮膚よりも粘膜に近い陰唇にもぐりこむ。
そしてそこが、おそらく益田の想像以上に…ぬらぬらと湿っていたからだろう。
益田はああ、とか、わあ、だとか小さい感嘆を何度もこぼす。
「ずっと…龍一さんが触ってくれるから…ずっと、こうです」
いくら経験がないと胸を張って堂々と白旗を振った益田でも、こんなありさまの粘膜が拒んでいるだとか遠慮があるだとかでないのは理解したようで……の手に導かれる形だった指は、やがて自分の意思でゆっくりと秘唇をなぞりだす。
「あぁ…ん、あ…あ、あ……!」
ごくごく優しい触れ方で、益田の指がの割れ目をなぞる。
愛液が腿の内側まで垂れそうなほどに溢れた粘膜は、くちゅ、くちゅ、と粘度の高い音を立ててしまう。
優しく撫でるような指は、愛液の滑りでさらに摩擦が弱くなる。
結果、興奮で昂ぶったに、腰が砕けそうな快感を注ぐ。
「す…凄いです、さん……こんなに…そのう、なる…もんなんですねぇ……」
「だ…だって……!」
益田はを揶揄しているのではなく、本気で驚いている。
「だ…大丈夫だから…ね……あの…もう、少しだけ…下のところ……」
「下、ってえと……あ」
の肉芽を薄く撫でていた指が肉の合わせ目まで下りて、気泡がつぶれる音を立てながら胎の入り口に辿り着く。
「もう…入るから…指、龍一さん……」
「あ…ああ……そ、そうですよね…ね、じゃあ、あの…失礼します……」
ちゅぐ、と、もう一度粘膜の気泡がつぶれる。
おずおずした指が、触れてもいないのに火照ったの膣穴に入り込む。
「ふあ…あぁぁ……!!」
「だ…大丈夫ですか…あの、痛い?」
が突然大きな声で悶えたのを不安に思ったのか、益田は手をぴたりと止める。
「ううん…い、いいの…よくて、声が、出るから……」
それを聞いて、止まっていた指が奥に入ってくる。
……スマートに行くならば、もっとここで彼の指に粘膜の感触を味わってもらうのがいい。
はそう思うのだが、そんな冷静な計算よりも、身を焼く情欲のほうが大きかった。
「りゅ、龍一さん…指、指、抜いて……」
「え……?!」
言われるままに、ズルンと指が膣穴から抜ける。
「い…痛くなっちゃいました?」
「違うの…私、だんだん、我慢できなくなってて……」
ぬるぬるの指を曖昧な形で虚空に構えていた益田の肌が、再び粟立った。
「このまま、今すぐしたい……駄目ですか……?」
「あっ、あ、ああいや、駄目なわけは、ない、ですよ」
益田は湯船の底に立てていた膝を解いて、弾けるように立ち上がる。
それに合わせても振り返る。
「お願いします……龍一さん」
益田は驚いたような、呆れたような顔になり……無言で頷いて、の内股を押さえつけた。
「あっ…く、ふ…っう、ううっ…ん、うぅうっ……!!」
「ちょ、ちょっとさぁん……?!」
片手を添えた益田の肉茎がにゅぶにゅぶ音を立てながらの膣穴に呑み込まれていく。
腰を押し進めるのはやめないまま、益田は宙を仰いで唇を噛みしめるを狼狽の視線で見つめる。
「だ、大丈夫なんです…?!」
「だいじょ…ぶ、ううっ…いい、いいだけ…っう、く…うぅ…!」
「い、いい、ん、ですか」
「そ、そお……いい、から…あっ、あ…ああ……!!」
の中に、益田の熱が入りきる。
互いの陰部の茂みが擦れあうほど深く繋がっているのが、しっかり見える。
薄暗い寝室ではなく、白い壁に灯りが乱反射する浴室のせいだ。
互いの顔も肌も粘膜も、隠す翳りはどこにもない。
「……これが…いい、んですか…?本当に?」
益田も、肉茎がの中に呑まれるのを見ている。
そして温い粘膜の中で、肉茎が優しく締め付けられるのに震えあがっている。
だがそれは益田の引け腰を吹き飛ばすような理性の散逸にはならず、快楽に打ち震えながらもの様子を窺う。
「いいから、もっと…その…お願いします…龍一さん……」
は腹の奥を圧される心地よさに酔いながらも、そうやって懇願する。
「う…ごき、ます、よ」
益田は遠慮がちに言うと、が頷くのを律儀に待ってから下半身を揺すりだす。
「うっ…ん、く…あぁ、ああぁ……はっ、うっ、うっ…んーっ……!!」
つたないながらも必死な抽送は、の中を気持ちよく擦っては酔わせていく。
「さん、さん……あァ、もう…ああ……!!」
益田にしてみれば、ひとまず己の熱は粘膜に擦れて快楽を得るのは解っても、の中がどんな理屈で気持ちよくなるかはまったく見当がつかない。
だから技巧など凝らしようもないのだが、にとってはそれで十分だった。それが一番だった。
「ふあっ…あ、う゛っぐ…ううぅっ、いい…いい、いい…龍一さん、すごくいい…わ…たし、いい、だめ…いい…!」
「は…は、あは…!そりゃ…よか、った…僕も…いいです…凄く……さん、凄く好い……」
益田の呼吸がどんどん荒くなる。
それに合わせてをえぐる肉茎の勢いも烈しくなって、言わないうちに射精が近いのをに教える。
「き…て、龍一さん、お願い…ア゛、きてぇ…中、中で、このまま…ちょうだい、ちょう、だい……私の中にぃ…!!」
の声を聞いて益田の肌が再び粟立つ。刺激と興奮でうっとり酩酊していく。
「い…あ、だ…しちゃいます、出しちゃう!さん、このまま…?このままでいい…?!」
「いい…!いい、ンン…っそう、このまま…ね、あ…あああっ…!!」
が叫ぶように震えた瞬間、粘膜の中で益田の白濁が跳ねる。
「ああっ…う、つ…うぅ…う、く……うぅ……!!」
益田の腰が震える。の太腿を痕になるくらい強く押さえつけ、初めて得る粘膜への吐精の余韻に痙攣する。
「う…ってる、私の中…龍一さんのが、打ってる…ん…ア、ああ…っ」
はで、愛しい男から受ける熱い飛沫に痺れた。
「こ…これ…はぁ…ああ、あっ…はぁ…、さん…ぬ、抜いたほうが……?」
「う、ううん…抜かないで…このままがいい……」
益田が腰を引こうとしたのに気付いて、は慌てて彼の腰を脚で挟んだ。
「このまま…ね、お願い……」
「…も、もう、さん……今日はもう、何べんお願いするんですか……」
汗で額に張り付いた髪を、グイッと拭う。
益田はやっと軽口を叩く余裕を取り戻したらしい。
けけっ、と笑いながら、酔い痴れたの顔を覗き込む。
「……卑怯者な僕にここまでさせちゃうんですから。どうしましょ」
余韻の飽和する頭で、ろくな返事を思い浮かべられないは……大好きです、とだけつぶやいた。