おうち忘れて
小狐丸はしばしば、己の主……審神者のことがわからなくなる。
なぜ自分が人の姿を与えられ具現化したのか、そのいきさつは彼が受肉する寸前に知識として植え付けられたので、しっかり理解しているつもりだ。
だから己が近侍とは名ばかりの、審神者の机仕事の遣い走りをさせられているのも全く不満はなく、
現代風に横文字を使うならビジネスライクにこなしていた。
戦場に駆り出されれば、己の中にたぎる血とでも言うべきものが騒いで好戦的にもなるのだが、
それは審神者の待つ本丸に帰還するまでにはスッと引いている。
主にとってもそれが安心であろう。
獣のような目をギョロギョロさせて牙や爪を立てる相手を探すような野生味は、所詮ただの女である審神者を萎縮させるだろうし、そのせいでよそよそしくされても面倒だ。
小狐丸は審神者の前では、至って紳士的に振る舞っている。
そんな小狐丸を試すかのようなそぶりを、審神者はしばしば見せるのだ。
ある日は、何やら上司への申し送りをする彼女の背を眺めつつ、小狐丸が己の髪を繕うように撫でて暇を潰していると、突然審神者はクルッと振り返り……文机を離れ、なれなれしく小狐丸に寄ってきた。
「小狐丸の髪は、いつ見てもきれいだね」
明確に「女」を湛えた瞳で、小狐丸を見つめる。
「毛並みには気を遣わねば。ぬしさまのお側に居る者としても」
小狐丸が中身のないお世辞を言うと審神者は調子に乗ったのか、
「その頭の上の跳ねっ毛、なんだか狐のお耳みたいね」
などと子供っぽいことを言い、軽々しく小狐丸の腕に触れ、更に頭に手を伸ばす。
「ぬしさま…私とて、今は人の身を持つ存在ゆえ……」
……小狐丸の牽制を、審神者は無視した。
コックリうなずいて、わかってる、と訴えるくせして、身を離す気配はない。
「ねえ、他の子たちが言ってたよ。小狐丸は、いくさ場ではとっても獰猛で、野生的で、ちょっとコワイくらいなんだって」
「…………」
審神者の顔はうっとりと、まるで夢見る乙女のようである。
またあるときは出し抜けに、
「ねえ小狐丸、お姫様だっこ、してほしいな……」
などと珍妙なことを言ってのけた。
「お姫様だっこ……とな……?」
「あっ、知らないの?こう、こうして……」
何やら化かされた気持ちで言われるままに片膝をついて腕を虚空に差し出すと、いきなり審神者がその腕めがけて仰向けに倒れてきたので驚いた。
そのまま指示通りに身体を横抱きにして立ち上がってやると、審神者は子供のように大喜びした。
「……して…こうして、ぬしさまはどうなさる」
「じゃあ、このまま廊下に出て大部屋に……」
「それは……」
不味いのではなかろうか。
審神者の自室兼仕事部屋として離れているこの一室以外には、常に他の刀剣がいるのだ。
こんなトンチキなしでかしを見られては、審神者も己も癲狂だと思われるのではないか。
「冗談だよ、もう」
審神者は笑う。
そんな彼女をゆっくり畳に降ろしながら、
(否……戯れ言の気配ではなかった……)
と、小狐丸はなんとなく寒気を覚えるのだった。
しかし明くる日、そんな珍妙な「ぬしさま」は、文机の前で頭を抱えてうずくまっていた。
小狐丸が部屋を訪れたのを悟りながらも、あえて無視している様子である。
「ぬしさま、如何なされた?体の具合が優れませぬか」
「……ううん」
問いかけられてようやく返事をするも、審神者の声はくぐもっている。
「では何か、気懸かりなことでも?」
「……小狐丸……」
振り返った審神者は、不安を圧し抱いた瞳で小狐丸を見つめる。
「どうしよう……」
小狐丸が、震えてばかりいる審神者の顔を辛抱強く見つめて聞き出した所によると、審神者の「本部」、長とでも言うべき存在から手紙が届いたのだという。
「審神者」は一人ではない。
いくつかの時代に何人も他の「審神者なる者」がおり、歴史修正主義者とやらを阻止する動きを取っている。
小狐丸の「ぬしさま」はそのうちの一人に過ぎず、ようはいくらでも代替の利く存在なのだ。
「私が、あんまり失敗続きだから……」
何でも、本来ならもっと大勢の刀剣を引き連れて手強い者を相手取らねばならないらしい。
だというのに小狐丸の「ぬしさま」は、手際の悪さもさることながら、本来持っている霊力とやらも少ないらしい。
刀剣を触媒とした付喪神の召還に失敗続きで、なかなか成果を上げられない。
小狐丸がこの場に呼び起こされたのも、それまでの審神者からすれば奇跡のような出来事らしい。
日々の任務に加え、戦力強化に励むこと。
以下に指示した時代の混乱を鎮静させること。
これが一ヶ月以内に達成されぬ場合は「現代」への帰り支度をせよ。
小狐丸には、急かされたからと言って、目の前の者がすぐに命じられたことをこなすのは不可能と映る。
与えられた一月はとどのつまり身辺整理をする期間であり、実質的にこの審神者は役立たずの烙印を押され、解雇されたも同然なのだ。
「ぬしさま……」
なぜかそのとき、小狐丸の頭にいつだったか審神者が夕餉に出した不細工ないなり寿司の記憶が閃いた。
出来立ての油揚げに炊けた米をそのまま詰めた代物で、思わず小狐丸も愛想笑いを忘れるほど酷かった。
「……ぬしさま……」
だがそれに懲りずにまた数日後に当たってみたらしく、今度はきちんと味付けされた油揚げに、調味料を含ませた米がはみ出ない程度に込められたものを出してきた。
「小狐丸、おいしい?」
自信のない顔で問うてくる様子は、まるで童女のようだった。
「ぬしさま……」
いくらとんちきな主と言っても、それなりの時間を過ごしてきたのだ。
突然別れを突きつけられれば、戸惑いが出る。
「ぬしさま」
小狐丸の四度目の呼び声がきっかけになったように、審神者はワッと声を上げて泣き出してしまった。
「お、おお……」
小狐丸の狼狽もおかまいなしに、審神者はわんわんと泣きじゃくる。
「ぬ…ぬしさま、ああ、なんと言ったか……ああ、お姫様だっこ……とやらを、しまするか」
「うううっ……ううっ、うっ…うええぇええ……!!」
「ああ…あ、ほら、ぬしさまは私の毛並みを誉めてくださる。跳ねた毛が耳のようだとも。撫でてみては如何か」
「わああっ……!うっ、うっ、うぅ…うえええーーっ!」
審神者は泣き止まぬどころか、さらに大きくしゃくりあげる。
うッ、うッ、と、彼女の喉が詰まる様子を見ていると、小狐丸の中に生まれた哀愁と戸惑いが強くなる。
「ぬ、ぬしさ」
「小狐丸と会えなくなっちゃうよぉぉーーー!!」
叫んでから、審神者はバッと畳に突っ伏した。
嗚咽は続き、小狐丸が面食らうのもお構いなしに、審神者は「やだ、いやだ……」と駄々っ子のように繰り返す。
「イヤだよ……クビになるのも実家に帰るのもいいの、私なんかどうせ昔からそうだもの、仕事できないもの…でも、でもぉー!!」
「ぬ、ぬしさま……」
……小狐丸はここに至って、初めて審神者の心を理解した。
どうやらこの「ぬしさま」は、今の姿の小狐丸にすっかり誑かされており、男女の仲になりたいゆえに幼稚な色目を使い続けていたらしい。
「嫌よ……いやだ、そうなるくらいなら……」
どうしたものか、と口をつぐんでいた小狐丸を、いきなり身を起こした審神者が見つめる。
「小狐丸っ」
「い、如何なされた」
「私、切腹する!!」
「はッ?!」
「小狐丸で腹を切るわ!結ばれないならいっそもう…ずっとつらいならここでもうっ…お願い、小狐丸!」
そう言っておもむろに着物の帯留めに手をやるではないか。
男として意識しているくせに、今この場では小狐丸を一振りの刀として見なすことで、不実の恋を破滅で終わらせるつもりらしい。
して、困るのは小狐丸である。
突然ハラ切りの介錯を押し付けられてもどうしたものか。
……それに。
「なりませぬ、ぬしさま」
「どうしてっ」
「私はぬしさまのことを好いております故、その白い肌に己が身で傷を付けることなど出来ませぬ」
稚拙な誘惑や秋波も、不器用なりにいたわりを見せる姿も。
付喪神だの近侍だのという戒めを脱ぎ、ただ感情のみで受け止めるならば、とても愛おしい。
「ぬしさま…ささ、ほら」
「あっ……!」
泣くことも忘れ目を丸くしていた審神者は、小狐丸に手を取られてようやく我に返った。
「ぬしさまの願いを意のままにする、たった一つの方法が…ありますよ」
「ど…どういうこと……?」
そこで審神者が面倒な女からただの純真な処女の顔になったので、小狐丸も慇懃な態度を忘れて舌なめずりをする。
審神者によってすでに解かれた帯留めを引いて、緩んだ着物の合わせ目にためらいなく手を差し入れる。
「わあっ…あ、こ、小狐丸…!!」
襟刳りを強く引いたところで帯は崩れ、ずるずると力なく畳に滑り落ちる。
たちどころに審神者は半裸となって、頼りない我が身を守るように、胸を両腕で包んで動こうとしない。
「ぬしさま、何故隠される。見せてください、この小狐に……」
「でも…ええっ……ど、どうして?どうしてこんなことをするの……?」
「ですから、ぬしさまの願いを叶えて差し上げるためですよ」
笑みを作りながらもだんだんと興奮を隠せなくなった小狐丸は、審神者の腕をぐいぐい引いた。
「あ……!!」
途端に均衡を崩した審神者が、畳に倒れ込む。
……そういえば蒲団も敷いていないし、戸は閉め切っていても今は陽の高い真昼だ。
――ま、関係ありますまい。
小狐丸は先走る欲求によって面倒な一切合切を放棄して、頼りなく横たわる審神者に覆い被さった。
「だっ、駄目えっ!!」
小さな悲鳴など意に介さず、恥じらう審神者の足を開かせて腰巻きをむしり取る。
足の付け根から覗いた性器は、若い女のそれである。
汗で蒸れた陰毛に隠れるように、瑞々しい色の粘膜がある。
「おや……」
だが、すぐ事に至るには、審神者の陰部は乾きすぎていた。
潤いのない粘膜が、小狐丸を拒むように張り付いている。
このまま強引に押し入っても痛いばかりだ。
「ぬしさま、少しお待ちを」
「ふ……うっ……?」
審神者は小狐丸の取ろうとしている行為が理解できず、緊張に身を固くしていたが、小狐丸が己の股間に顔を寄せるのが見えると、火がついたように抵抗を始めた。
「だっだめっ!小狐丸!お願い、それはまだ……あっ?!」
……審神者の予想とは裏腹に、小狐丸は陰部に唇が触れる間際で動きを止めると、八重歯の覗く口の間からペロリと舌を出した。
そこから唾液を垂らし、審神者の陰唇に落とし込む。
「ああっ……?!ん、あっ…や、やだぁ…」
二度ほどゆっくりと唾液を落とし、今度は指を差し出すと、垂らした唾と審神者の秘唇をなじませていく。
「ふああっ……?!あ、や、ああっ……!!」
訳も分からず嫌がっていた審神者も、指と唾液が粘膜に塗り込められて湿った音を立て始めると、小狐丸の意図するところを察したらしい。
「ぬしさまのここは素直でおられる。すっかり馴染みがよくなりました……」
「ひいっ、い…あ、言わないで……!!」
審神者の顔から拒絶が消えたと見えると、小狐丸は再び舌なめずりをして己の下履きを脱ぎ払う。
審神者が困惑するより先に、すっかり血が行き渡って硬くなった肉茎を、審神者の足の間に押し当てる。
「だ、だめ…!!入らない、そんなのぉ……!」
弱音を吐いた審神者に向けて、小狐丸はフッと悲しい顔を作ってみせる。
「ぬしさま……だめですか」
「だって…でも…その、だって……私、初めてだし……」
「私にとっては至上の悦びですよ。ぬしさまのお躯、その純潔を、どうか小狐めにくださいませ」
「その……それは、私も…嬉しいけど…そうしたいけど……でも、でもそんなの、そんな大きいの絶対無りぃいいいいいいいいいぃいっ?!」
まごまごする審神者に付き合いきれなくなった小狐丸は、遠慮なく審神者の膣穴に割り込んだ。
「いっいいいいいいっ?!なんでっ?!なんでえっ?!私、言ってなっ…まだいいって言ってな…ア゛ッ、いだあぁっ…!!ご、ごぎづねまるう゛う゛う゛……!!」
「申し訳ない…ぬしさまが可愛いもので……つい」
「つあっあ゛っ、だ、だって…いっ、いいいいいいいっ……!!」
「しばしの辛抱を…慣れれば好くなりますよ」
無責任なことを言いながら、小狐丸は肉茎の先で味わう生娘の膣穴の感触に酔い痴れた。
なんというきつさ。なんという締め付け。
肉体を与えられたが故の愉悦に浸り、たった今目の前の雌を征服したのだという充足が脳内に恍惚を振り撒いてゆく。
「ぬしさま…ああぬしさま、なんて愛しい……」
「ふみゃア゛ッア゛ア゛…うぐぅう…ぐ、うぅっ…きゅるし…!!こ、小狐丸っ…お願い、一回、抜いてぇ……」
「なぜ?」
「だ、だってアソコが!!痛いのっ……!!小狐丸のが入っちゃってジンジンするのぉ……!!」
「ああ…申し遅れました……野生の狐の剛直は、一度こうして入ってしまうと、中で種付けを終えるまで抜けないのですよ」
「ええっ?!ウソっ?!そんなっ…なんでそんなとこだけキツネぇぇ……?!」
「ああ気持ちいい…ぬしさま、わかりますか…ぬしさまの中で私が膨れておりますのが…」
「あ゛ッ?!あ゛っ、あ゛…!!な、なかでっ…ぷくって…何…なんなの……?!」
イヌ科の生物は着床の確率を上げるため、雌の中で陰茎が瘤のようになる。キツネだってそうだ。
残念ながら審神者にそんな知識はなかった。
「なんだか…ごりゅごりゅして…私の中で…小狐丸のがおっきくなって……んくっ、擦れてるうぅ……!!」
「そうですよ…ぬしさまの中で私が……」
「へ、へんなの、小狐丸…なんか……ぷくってしたところが…上のとこをずるって…んんっ…押してきて……へ、へんなのが背中の方からのぼってきて……」
「おぉ…早くも女の悦びをものにしたのですか。やはりぬしさまはとても素直だ」
「いやあっ…だめぇっ…!!おかしくなっちゃうよぉぉ……!!」
幼児のような言葉遣いになったかと思えば、直後に淫らな響きを残す声が出る。
審神者の身体も神経も、瞬く間に変化していく。
「ぬしさま…気持ちいいですか?」
「んっ…!!いい……すごく…きもち、いい……!!」
「それはよかった……私も嬉しいです」
人間の雌は野生動物とはまた違った受胎の仕組みを持っている。
気分が昂れば、よりその確率も上がるとか。
そんな与太話を思い出して、小狐丸は一層思い切って審神者の「中」を蹂躙した。
「あっふぁ…あぁあっ…!!小狐丸ぅ、わたしおかしくなっちゃったのかな……うっ、な、なか…の、ほうで……!」
快楽にとろけきった瞳で小狐丸を見上げながら、審神者が自分の臍の下をさする。
「ここぉっ…ここの、奥…のとこ…小狐丸のが、ぎゅーってすると…ううっ…なんか、ぷしゅって…ぷしゅって、い、いやらしいのが……!!」
「ん…ぬしさまは妙なことを仰る…ぷしゅ?」
「や、やぁ…だって、本当に…ぷしゅって、きもちよくてやらしいのが…じゅわって…出てきて……」
「ほうほう…えも言われぬ気持ちよさ、とな?」
深く頷くと、審神者は投げ出していた両足で、小狐丸の腰を挟み込む。
「あ……っ、ぬしさま、そのように……ん…!!」
「んあぁあっ…あぁっ…ふあぁあぁあ゛ああぁーーっ……!!」
足を絡めたのは本能的な行動だったが、内股が窄まれば自然と小狐丸を握り締める粘膜も狭くなる。
「ぬしさま……先の方が、呑み込まれるようです……」
愛しい雌穴からの思いがけない刺激に、小狐丸はすっかり余裕を持っていかれた。
切なく喉を鳴らすと同時に、審神者の腰を強く抱いて思い切り捻り上げる。
「ああっ?!ふわあぁぁ……っ?!」
審神者を身体の下に敷いたままうつ伏せにして、尻だけ思い切り高くさせる。
身体を動かすときに粘膜が捩れるように擦れ合うのもまた至上の快楽だったが、突き出された尻と頼りなく震える足にしがみつくと、すぐさま新たな快感に夢中になる。
「ひぐっうっ…うっ、こ、これ…うしろ…からぁあ
……!」
もはや拒絶も困惑もなく、審神者は己が取らされた獣の交配そのものの格好を受け入れていた。
それよりも心を奪うのは、さっきよりもずっと深く突き入れられる小狐丸の熱の杭だった。
「ああっ…おなかの奥ぅ……届いてるぅ……!!」
「そうですよ…っ、ぬしさま、こうしてぬしさまの
…っ、ああ…中に、新たな命を宿らせるのですから…」
「そ、れって…ええっ…んっ、くふっ…あぁあぁっ!だめっ、ああぁあ゛あ゛っ…ふ、ふかいの、りゃめぇえっ……!!」
ためらいを悟った小狐丸は、思考を奪うように思い切り腰を振りたてる。
審神者の尻を思い切り掴んで、何度も何度も肉茎を打ちつけて内壁で擦る。
「はあっ、あ、あ、あっ、あ゛〜〜〜……っ!!」
勢い余って膣穴から抜け落ちそうになれば、そこは膨れ上がった先端が役に立つ。
審神者の粘膜をぶぢゅぶぢゅ擦り上げながら、内壁に留まるために強く食い込むのだ。
「こぎっ、ぎ…いぃいっ…あ、あぁ…あぁあぁっ…あぁあぁ〜〜〜……っ!!」
「む……ぬしさま……っ、く……」
陶酔の極みだとでも言いたげな審神者の声が耳に入ったとき、小狐丸は己の絶頂を悟る。
「ああ、ぬ…しさま、ちゃんと中に……ん…ん、出して差し上げますからね……」
「ああっ…あ、あぁっ?!な…あ、お、おぐっ?!おぐぅ…おおっ…も、もっと…奥ぅう……?!」
もはや前屈のように腰を高くした審神者の尻に腰を押しつけ、審神者よりも大きな上背でもって肩胛骨や首筋を押さえつける。
思い切り深く繋がりきった状態で、小狐丸は荒い鼻息をこぼしながら足を突っ張らせた。
「いきますよ…ほら、ぬしさまっ……!」
「っう゛っっ…あっ?!あ゛っ…?!」
審神者の肉孔の奥の奥で熱が爆ぜる。
「ふっ、く…こ…これぇ…な、中で…出てる、の……?!」
粘膜で小狐丸の精を受け止めながら、審神者はうっすらと白目すら剥く。
目玉が裏返るほどの強い刺激に神経を灼かれながら、小狐丸の方を、どうにか振り返ろうとする。
「…ぬしさま、そのまま……」
「あっ?!」
それでひとつの生物だというように繋がったまま、小狐丸が体勢を変える。
まるでこのまま審神者に背を向けようとするかのように、ぐりぐりと腰を揺するのだ。
「はひっ…あっ…だ、だめ…んんっ…擦れたら…気持ちいいの、戻ってきちゃう……!」
「構いませんよ、ぬしさま…いずれこのまま、暫くは抜けないでしょうから」
「え……ええ……っ?!」
……潤沢に時間を費い、陰部結合から解放された時、審神者は失神からそのまま眠りに就いていた。
然て、それから期限の一ヶ月。
審神者の状況は一変していた。
「……今日も小狐丸……」
一月前は最低限の刀剣であくせく廻っていた本丸が、今や増築を視野に入れるほどの満員であった。
しかも……一月よりさらに前に召還された刀剣たちを覗けば、全員が全員同じ身なりをしている。
「ぬしさま、手紙が届いておりまする」
「ぬしさま、本日の食事当番は私ではなくあちらの私」
「ぬしさま!取って置いた私の稲荷が!」
「ぬしさま、遠征に出ていた小狐丸たちが帰ったようです」
……どういうわけか、あの日以降審神者が召還する付喪神はすべて小狐丸なのだ。
今や小狐丸だけで編成された部隊が三つあり、畑作や馬当番をこなすのも小狐丸。
道場で手合わせしているのも小狐丸と小狐丸だった。
恐ろしくなる勢いで戦力の拡大が為されたことで、審神者は解雇を免れた。
「ぬしさま、お身体は」
「大丈夫よ。なんともない……」
審神者の返答に、小狐丸は薄く笑ってみせる。
「十月十日……報せを受けた者どもの顔が楽しみです」
審神者の「なか」に宿った、新たな小狐丸。
それが成熟し切らぬうちから出口を求め、結果として「別の時空の小狐丸」を呼び集めてしまうのだという。
「私の願いがかなう方法って……こういうことだったのね」
「ご不満ですか」
「ぜんぜん」
審神者はにっこり笑って、小狐丸の頭に手を伸ばす。
「ぱぱぎつね」
「ぱぱ……?ぬしさまはまた妙なことを仰る」