私は自分の頬を押さえながら、なんだか夢でも見ているような気分になっていた。
肌が痛い。さっき叩かれた。目の前の男に。
抜けるように白い肌、日本人ではありえない金髪と碧眼。
すらりと長い手足、適度に着崩したスーツ。
彼はナッシュ・ゴールドJrと名乗った。つい数時間前。私の勤める店にやってきたお客だった。
肌の黒い、これまた異国の男たちを引き連れていた。
外国の客、というのは程度が低くも高くもない私のお店ではさして珍しくもなかったが、この男とその連れはとびきり態度が悪かった。すぐさまボーイにマークされて、どの女の子たちも彼らの席に着くことを恐れた。
そんな中、押し出されるように相手をさせられることになったのが私で、仕事は仕事とどうにか頭を切り替えて挨拶すると、すぐに腰に手が回ってきて、ドレスの胸元に無遠慮な視線が降り注いだ。
こんなのそのへんのすけべおやじと一緒だ。怖がることはない。
そう思いつつも、私より50センチは大きな上背で色の黒い男というのはどうにも慣れず、変に力んでしまうのはどうにもならなかった。
……彼はそんな私に微笑んだ。日本語だった。怖いのかい。もっとリラックスして。
そう言って褐色肌の男から私を奪うように抱き寄せ、耳元に若干アルコールの匂いがする吐息を吹きかけた。
我ながらバカバカしいけれどその仕草でもう、私はコロリと彼におちてしまった。
ハンサムな色男としか言えない面貌もそうだし、屈強な男たちを従わせているような態度もだし、スーツの下からちらりと覗くタトゥーも蠱惑的だった。
一度好意を抱くともうそこからはまっさかさまで、彼が席から立つとき、つまり店から出るときに、続きを外でしようかと言われたのにも実にあっさり頷いてしまった。
彼は随分と上等なホテルに泊まっていて、扉が開いた瞬間私は呆気にとられてしまった。こういう場所は、同年代で言うならもっと高級なクラブに勤めているような、それも売れっ子の、一部の限られた女のみが足を踏み入れられる場所だと思っていたからだ。
隣にいるのが異国の色男だというのもまた私の心を高揚させた。
だというのに彼は、扉を閉めると態度を豹変させた。
いきなり私を突き飛ばし、ベッドの傍に倒させると靴も脱がずにのしかかってきた。
恐怖は大きな驚愕よりもだいぶ後にやってきて、私はとにかく驚いて、やめて、なんて口にした。
すると突然鼓膜がばかになるような音がして、頬が痛くなった。叩かれたのだ。
「い、言うこと、聞きます。だから乱暴しないで……なんでもしますから……」
卑屈になるしかなかった。何をされるかわからない。自分から服を脱いで、涙目で懇願する。
そんな態度に彼は満足したらしく、私の脱ぎ捨てたシャツを土足で踏みつけてからベッドに腰掛けた。乱雑な手つきで自分の服をほどいていく。
「なかなかそそる体つきだ。この国の女は寸胴だが肌がいい」
そう言われても気に入ってもらえたんだ、なんて安堵はできず、品定めされる居心地の悪さにもじもじするしかない。
そして裸になった彼の股間が、まだ硬くなっていないことにこっそり恐怖した。欲望のあまりに先走ったのではなくて、余裕のある状態で暴力を楽しんでいるような気がしたのだ。
「さて……なんでもすると言ったな」
自分の媚びを後悔しても遅い。
彼は悪魔みたいな顔で笑いながら私の腕をつかみあげ、ベッドに乗せたかと思うとおなかを緩く蹴ってくる。
「しっかり奉仕してもらおうか……満足させてみろ、そうでなきゃ」
痛い目に遭わせてやるぞ。それがただの脅しじゃないのは、今までの態度で十分理解できた。
震える身をどうにか抑えて、寝そべった彼の足の間に身体を滑り込ませる。
「あ、あの……じゃあ」
まだ柔らかい彼の股間を握ると、その手は払いのけられた。
「そこじゃねえ」
「え……じゃ、じゃあ……どこですか……」
こんなこと聞いてる自分が、なんだかなにも知らないうぶな女のようで恥ずかしい。
「俺の尻穴に奉仕するんだ。お前の舌と口を使ってな」
困惑した。そんなことしたことない。
そういう行為があるのは知っているけれど、あくまでアブノーマルな、SMとか、少なくとも自分がすることはないであろうものとしての知識でしかなかった。
「できないか?」
「や……あ、やりますっ」
彼の片手が思わせぶりに持ち上がったので慌てて返事をする。
けれどなかなか身体が動かない。精神的なハードルが高すぎるのだと少し遅れて理解する。
よく考えればおかしな話でもあった。その近くにある、同じように排泄器官でもある性器には自分から奉仕しようとしたくせに。
「ん……んんっ……!」
どうにか心を奮い立たせて顔を近づけると、彼は少し腰を持ち上げた。
そうすると臀部が見えて、唇を触れさせやすい体勢になる。
「は……ふぅ、んっ……!」
顔を近づけて、舌を伸ばすより先に鼻先がひくひくしてしまった。嫌悪はあったけれど、それを通り越す恐怖がある。やるしかないと思うと、自分がこれから奉仕する場所を識ろうとする気持ちが勝った。
それは結局はいい方向に働いたようで、嫌な匂いはひとつもしなかった。
そのおかげで気持ちがだいぶ楽になって、私はおそるおそる唇を添える。彼の窄まりに。
「んんっ……ちゅっ……!」
「あぁ……そうだ、挨拶のキスだ、心を籠めろよ」
「は、はい……んんっ……!」
肌より熱い不思議な感覚だった。その窄まりはかすかにひくついていて、これからの行為に期待を持っているのだと思うとさらに嫌悪は薄れていく。
唇をつけ、軽く吸うように音を立てる。本当に、愛しい人の頬や唇にするように。
それを何度も繰り返すうち、自分の中で奉仕の気持ちが固まっていく。
こうしてこの穴に親愛を伝えていれば乱暴されないという安心もあるのかもしれない。
「たっぷり味わったか?これから奉仕するご主人様への挨拶は済んだみたいだな」
「はい……い、いっぱい、キス、しました……」
「なら本番だ。尻の皺のひとつひとつを丁寧に舐めあげろ……」
「は、はい……っ、んんっ……!」
今まではただ唇で触れるだけだった場所に舌を伸ばす。
指でほんの少し、彼の臀部の皮膚を引っ張る。それも怒られないように細心の注意を払って力を籠めた。
「んっ……ふ、はふ……はむ、あぁ……んっ……!」
「う……っ、ふ……」
そして伸ばされたお尻の穴に、ゆっくり舌先を添えていく。しょっぱい。でも不愉快な味じゃない。する前に想像していたよりはずっと簡単だった。お尻の溝をなぞるみたいに舌をスライドさせる。
「……いいじゃねえか。よほど奴隷みたいな奉仕が板に付いてるな。普段からしてやがるな」
「し、して、ません……は、初めてです……」
「誰が休んでいいなんて言った?」
「ご、ごめんなさ……んっ、んんんっ……!」
慌てて舌を寄せ、彼の湿った粘膜への愛撫を再開させる。すると鼻から抜けるような声が聞こえて、不思議と私は満足する。決死の奉仕に確かな手応えが返ってきているのだ。
「はぁ……う、ちゅぶっ、んむぅっ、んふ……っ!」
彼の望むとおり、お尻のしわを一つずつ丁寧に舐めとっていく。そうするうちに最初はしなびていた彼の股間がどんどん熱を持って、やがては彼のおへそを打ちそうになったことにも嬉しくなった。
「んふうぅっ……ふぅ、ふぅ、ううぅっ……!」
「お……く、ふ……上手いぞ」
「はふっ……!」
お尻の溝を一周し終えて、その真ん中に舌を差し込む。想像したとおり彼は喜んでくれた。
いつの間にか恐怖の払拭ではなく奉仕そのものに夢中になっている自分がいる。
「んぢゅ……んぢゅ、んぢゅうぅうっ……!!」
「く、お……っ」
舌を尖らせてお尻の穴に浅く出し入れしていると、彼の窄まりが突然ぎゅうっと締まった。舌を取られてしまって焦るが、それが快楽からくる疼きなのだと思うと落ち着いていく。おなかの下がぞくぞくした。
だんだん彼のお尻の穴は私の舌と唾液でゆるんできている。そう思うと充足感があるのだ。
少し目を上げれば勃起しきったペニスの先からは透明な汁があふれていて、彼の割れた腹筋にべったりと跡をつけていた。
「ふあ……おひり、きもひいれふかぁ……っ」
気付けば私は恐怖を完全に乗り越えていた。命知らずもいいところだ。彼にこんなことを訊ねている。
「ああ……具合のいい奉仕だ」
そう言ってもらえた瞬間に、また私の下腹がうごめいた。喜んでる。足の間がぬかるんでぐじゅぐじゅになっているのが触れずともわかった。
「褒美をやる……尻をこっちに向けな」
「あっ……!」
彼が体を起こして、私を組み敷く。
あんな場所への奉仕を要求するのだから、犯されるのもお尻の穴だったらどうしようなんて一瞬思ったけれど、その考えは運よくはずれてくれた。
たぎったペニスの先端が、充血した秘唇をかきわけて膣口にあてられる感触があった。
「しくじるようだったらこっちの穴に突っ込んでやるつもりだったがな」
「くひぃっ……?!あっ、あっ……!」
私の安堵を嗅ぎつけたように、彼の指が突然お尻の穴にねじ込まれた。
違和感と圧迫に震える私をあざ笑うように指が動く。お尻をむりやり拡げるみたいに、親指がひねり回される。
「おふぅっ……お、おしり、だめぇ……っ!」
お尻になにかを入れられる苦しさに低い声を漏らすと、彼の笑い声がする。せせら笑う。
「こっちで許してやるから安心しな」
「うっ……ひ、ありがとう、ござい、ますぅっ……ああぁっ!!」
指が引き抜かれると同時に、尻たぶに平手打ちが降ってきた。
ばしん、ばしん、と、私のお尻に何度も大きな掌が叩きつけられる。
「うぐぅっ、おっ、おぉおおっ……あ、ああぁああっ……!!」
繰り返される平手打ちに頭がぼぉっとしてきたあたりで彼が腰を進めた。膣穴がめくれ返る。彼の大きすぎるペニスを受け入れて、その圧迫感に喘ぐ。
「ひっ、い、あっ、しゅごおっ……おまんこ、いっぱいぃっ……!」
陰唇がこれまでないくらいに伸びている。間近で見てその大きさはわかっているつもりだったのに、実際に受け入れてみると圧巻だった。
「は……浅いな、これで目一杯奥か」
「うっ、ぐうぅうっ……お、おぐぅっ……おく、突いてますぅっ…!」
彼の言う「浅い」が膣穴の深さのことだと理解して恥ずかしくなる。後ろ向きで入れられているから、彼のものが実際どのくらいまで収まっているのかわからない。
でも彼がそう言うからには、きっと根本までは入っていないのだ。
そう思うと急に惜しくなった。彼をまるごと味わえない自分が不甲斐なく感じられてしまう。
「まあいい……ハメてやるよ。感謝しな」
「ひゃ、ひゃいぃっ……あ、ありが、とう、ございますうぅっ……!」
自分がどうにか人間らしい言葉を吐けたのはそこまでだった。突然身体が勢いよく揺すられて、同時に膣穴から入ってきた熱が奥を横隔膜ごと突き上げてきた。
「おっ、おぉっ、おおぉっ、おっ、おっ、お゛ッ!!」
動物みたいな声を上げながら悶える。それを恥じる余裕もなかった。
ただ全身を突き抜ける快楽に翻弄され、自分の身体が自分のものでなくなるような奇妙な感覚さえ得る。
「ひっぐ、うっ、おっ、おぉおぉっ、お、奥ぅっ、奥痺れてるうぅっ……!」
「そう、その態度……抵抗もやめてなすがままになる女ほど愉快なものはねぇ」
「ひっ、ひッ、ら、らっで、こ、これ、ぎもぢよすぎるうぅっ、あっ、ア、アッ、アーーーッ!!」
そうなのだ。気持ちいい。こんなに乱暴にされて、今まで受け入れたどれよりも大きいペニスで突き回されて、膣壁越しに内臓まで突き回されているのに、それがとてつもなく気持ちいい。
「お、大きいぃいっ…おぢんぢんおおぎいれふうぅっ!お、おなか破裂しぢゃううぅっ!!」
「そいつは愉快だな。見てててやるから破裂してみろ」
「ひっ、いぎぃいっ、だ、だめぇえっ、おなか破るのだめええぇっ……!!」
このままじゃ本当に突き壊される。そう思わされるくらい激しかった。彼はもう私を人間として扱っていなかった。
「っ……よく締まる穴だ……玩具にしちゃあ上等だ」
私の膣穴を、肉体そのものを、ペニスが気持ちよくなるための道具とみなしている。だからいくらでも乱暴になれるのだろう。
ペニスをしごく手の代わりに肉ひだを使っているような感覚でいるのだ。こんなのひどい。こんな扱いを受けたのは初めてだった。
「あぐうぅっ、あっ、ふあっ、おっ、おぉおおッ!!」
だというのに私は吼えている。けだものみたいな声をあげながら、彼にものとして扱われることを歓喜している。
「けっ削れるうぅっ、おまんこ削れるうぅっ!おぢんぽで中が削れちゃううぅーーっ!!」
「ははは!そりゃあいい!」
何度も何度も、私を壊すような突きを繰り返す中で、少しずつ彼の腰の動きの感覚が短くなっていく。
「オラッ!中に出すぞ!感謝しろッ」
「ひっ、ひぐうぅぅーーーっ?!なかっ、あっ、中だめぇぇっ!!あ゛ーーーーっ!!」
我に返る間もなく、私の胎内を熱い液体が殴りつけた。拒絶する余裕もなかった。それよりもたまらない絶頂感が全身を襲う。
「いぁっ、あっ、な、なか……出てるぅ…出ちゃってるうぅ……!」
「ふ……く、くっ……」
彼は執拗だった。絶頂に震える私を押さえつけて、まだ膣内でペニスをゆるく出し入れしている。精液を私の中になすりつけているみたいだった。
「あ……ひぁ……で、できちゃうよぉっ……」
「出来たら産んでおけよ。お前は幸運な女だ」
「そ、そんなぁ……あ……っ」
驚いた。彼の非道な言葉にではなく、それを喜んでいる自分にだ。
この人に征服されたい。そんな欲がわき起こってくる。
それが叶いそうにもないということにだけ、とりあえず絶望する。