正邦高校を卒業して、早いものでもう半年くらい経つ。

だいたいの子が大学へ進み、他の少数派だって就職先を見つけて立派に旅立っていく中……。
私はひとり、卒業まもなく実家へ連れ戻された。

自分がクラスメイトや周りの子とどこか馴染めずにいた、大きな理由のひとつ。
私は元々、義務教育ではない高校には、進学する予定もなかったのだ。
そこを、高校だけは通いたい、三年間だけ好きにさせて、その後はおうちに戻ってすぐ手伝いをして、結婚もしますから……。
そうやって懇願して、都内の正邦高校に進学させてもらったのだ。
在学中は都内に住む親戚の家に居候のかたちをとった。

三年間、本当に好き勝手しようと思ったけれど、実際のところ親に頼りっぱなしの身元ではできることなどたかが知れている。
居候として家事をこなすために部活にも入らなかったし、得たものと言えばそれ故に上達した料理の腕前。

……それと、春日先輩。

バスケ部の応援に行ったのがきっかけで仲良くなった先輩には……。
こう、だいたい「高校生の男女」ができる「悪いこと」を、たくさん教わってしまった気がする。

……そんな先輩は、最後のインターハイ出場が叶わぬこととなってからは、バスケはすっかり封印して大学受験をがんばり始めた。
そうなると、もう、就職も進学もできない私との距離は、物理的にも精神的にも大きくなる一方で、
きちんと二人、顔を合わせて別れ話をしたわけではないが、どんどん疎遠になって行った。
私にとっては初めてできた、恋人と呼ぶべき人だったから……こんなふうに終わっちゃうんだなあ、なんて思ったりもしたが。

「春日せんぱい……会いたいよぉ……」

私は近いうち、結婚することになっている。
……いや、正確には近所の富裕農家の息子とお見合いさせられる、なのだけれど。
お見合いというのは名ばかりの、婚前顔合わせみたいなものであるのはもう、私にだってわかる。
そこと縁が出来れば働き手や農機具だって都合してくれて、うちの経営もず〜っと楽になる。とのこと。
結婚願望のある独身女性、というのはある程度の都会でしか生まれないものに違いない。
地方では常に嫁不足だから、若くて子供が産めて、かつ地方に住まう気さえあればすぐに貰われてゆく。
……嫁不足の理由は、都会での生活を夢見て、地方の娘たちが出ていってしまうからなんだけど。

「気持ちの整理がつかない、少しだけ時間をください」
と粘っては、そのたびに、
「やっぱり東京の学校でろくでもないことを吹き込まれたな」
と、怒られつつもやりすごしてきたが……それももう限界だろう。

「春日先輩……先輩、もう、最後、一度でいいから……」

ううう、なんて涙を割烹着の袖で拭っていると、急に玄関のチャイムが鳴った。
ここいらの家に、アポなしでの来訪は滅多にない。
それも家族がいない日中となればなおのこと。
いぶかしく思いながらも無視するわけには行かず、割烹着を外して玄関に向かう。

「はあい、どなたで……」
「おっ」
「あっ……?!」
「あっらら…久しぶり、
「かっ……春日先輩?!」

戸を開けたところに立っていたのは、さっきまで思い出して涙まで流していた……春日先輩その人だった。





「おぉー…こりゃあ、こういう家なら料理も家事も上手だろうねぇ」
「ちょっとやだ、あんまりじろじろ見ないでぇ……!」

取り急ぎ居間に腰掛けて貰ったが、先輩はおもむろに立ち上がって台所をのぞき込んでくる。

「も、もう!なんなんですか…!いきなりうちに来たりして…というか、住所、どこで知ったんです?私教えてたっけ」
「なーんかスッカリ他人行儀だねぇ…まあ、あれからだいぶ経つし、いきなり押し掛けたんはこっちだけど」
「……だって……」
「迷惑だった?」
「そんなことは……ないけど……」
「そ?」
「そう!ああもう、ほら、お茶ですよ!」

そう言って居間に追い立てて、先輩の前に湯呑みを置く。
そしてうちでお茶菓子となるとこんなものしかないけど……と、瓦の形の落雁も出す。

「おっ、落雁。懐かしいね、こういうの〜」

垢抜けた顔にはちみつ色の髪の毛、細いけれどがっしりした身体。
田舎では見ぬ洗練された外見なのに、湯呑みを啜り落雁をつまむ姿は、妙にサマになっている。

……やっぱりかっこいいなぁ……大好き……。

「って、ああっ」

学生時代と同じ感覚にとろけそうになっている自分に気付いて、慌てておバカな思考を追い払う。

「……先輩、どうしていきなりうちに……?」
「お前な〜、もう俺先輩じゃないでしょ」
「えっ?あ、そっか…学校、卒業したから……」
「そお。もうフリーなの、そいで俺は会いたくなったからに会いに来たの」
「会いたくなった……って……」
「お前、岩村とか津川にも親戚のウチから年賀状出してたべ?」
「うん、出してたけど……」
「岩村んとこのお袋がそこに残暑見舞い出したら、「ごめんなさい、ちゃんはもううちには居らんので」って、丁寧に手紙が来たらしい」

ああ……岩村キャプテンはそのへん、とてもマメだったな……。
部員やマネージャーだけでなく、春日先輩にひっついているだけの私にも、年賀状だの暑中見舞ハガキだのくれていた。
こっちもチャンとしなければ、との気持ちで返事を出していた。
津川君には単にクラスメイトだから出してただけなんだけど。
津川君はさておき。
親戚一家は、何かと便りをくれる岩村さんとやらは、とにかくによくしてくれている人に違いない。
との気持ちで実家の住所を書いた手紙を出したようだった。

「ほいで岩村が連絡くれて、俺はんちの住所をゲットよ」
「いや、そんなことじゃなくて…あの……あの……」

まごまごする私に、ふと先輩の腕が伸びてきた。

「会いたかった。追い返されたらどーしょーかと思ってたよ」

高校生の時と同じように……春日先輩が私を抱きしめる。

「俺のこと恨んでる?」
「ええっ…?う、うらんでなんか……」
「勝手に会わなくなって、冷たい奴とか思ってる?」
「お……思って、ない……」
も会いたかった?」
「……会いたかったよ、そりゃ……もう!」

先輩が矢継ぎ早に耳元で囁くから、我慢の心が崩れてしまう。
私からも腕を回して春日先輩に抱きついて、懐かしい胸板に鼻先を埋める。

「せんぱい……」

懐かしさと同時に、忘れようと必死になっていた愛しさがどんどんこみ上げてくる。
やっぱり春日先輩が大好き。
どうしようもない立場の違いが出来てしまった今でも、ずっと一緒にいたい。

「せんぱ……私……」

「なんばしよっと!!」

甘な気持ちにおぼれそうになった瞬間、台所奥の勝手口から素っ頓狂な大声が響いた。

「おっ……お母さん!!」

田圃とは別に、離れの庭に拵えている畑の手入れを終えたらしい母が、いつの間にか私たちの姿を捉えていた。
娘の私が今まで見たこともないような驚愕の顔で……軽く震えてすらいる声で……。

「そっ…そっただ男っ、どっから連れ込んだぁ?!」
「ち……違うのお母さん!違うの!」
「およ…あれがのお母さん?」
「そうだけど、いや、そういう問題じゃなくてっ!!」

私や母とは反対に、先輩はずいぶんと落ち着き払った様子で……わなわな震える母にペコリと頭を下げる。

「いーや、ご挨拶が遅れまして……春日隆平です」
「えっ?あ、ああ…こ、こちらこそ」

母は、突拍子もない第一印象からの礼儀正しい挨拶への変化に戸惑っているようだった。

「あぁ…んだば……私、このの母でして……」
「存じてます。いや、さんを責めんで下さい、今日は僕がいきなり押し掛けたんです」
「はぁ……はあ、それで、娘とはどういった……?」
さんは高校時代の後輩で、在学中に婚姻の約束を交わした仲でして」
「えっ?!」
「…………ッッ!!お母ちゃんそっただ事いっこも聞いとらんよっ!!」
「だって……えっ?先輩、だって、それは……」

それはポカポカ陽気の日。
先輩と二人でお弁当を食べ終わった後。

「あ〜あ。私、高校出たら春日先輩と結婚したい。お嫁さんとして永久就職したいなぁ」
「そりゃまー俺は大歓迎だけど」
「あっ!でも、春日先輩と結婚しちゃったら……もう私、春日先輩のこと「春日先輩」って呼べなくなっちゃう!」

……なんてバカもバカなやりとりをしたっきりだ。
そりゃあ、自分の運命はもうあの時点でわかっていたから。
いっそのこと春日先輩が豪農の息子だったりして、そこに嫁入り出来れば家族も納得、私も幸せなのに。
なーんて思ったりもしたが。
それは叶わぬ事と知っての妄言のつもりだった。

っ!どういう事か説明しんさい!お父ちゃんは呼ばんで!話次第じゃあの人、おらん方がええじゃろ」
「でも、その……」
「あんたッ!親の情けで学校行かしてやったんに、ヘンな虫くっつけてきて!お父ちゃん聞いたら倒れてまうよ!」
「まあまあお母さん、落ち着いて」
「アンタがお母ちゃんやこ、呼ばんでッ!アンタもそこに座って説明しい!」



……………………。



「で、だから、お宅のさんをお嫁に貰いたく」
「くれぇ言われて簡単にやれると思うてか。この子はどっちみちあっこのお宅の息子にやるって決めとんの!」
「いや、「やる」ってソレお母さん、簡単にあげちゃうつもりじゃないですか」
「身分が違う!ああ嫌だっ、これやから都会の男はぐちぐち揚げ足ばっか取って、口だけ達者で。口先で飯は食えんわ!!」
「あっこの息子さん、てぇのは?」
「あの……この辺で一番大きいおウチの……」

……言うのが恥ずかしくなった。
田畑の大きさでエライかどうかが決まるイモ臭い世界だと、春日先輩に知られたくなかった。

「そうじゃ。あっことウチに縁が出来りゃあ、ウチも随分助けて貰えるわいね。若い働き手もようけ、寄越す言ってくれとる」

……私のそんな心中など察してくれるわけもなく、母が平然と話を続ける。

「あっこの息子、ええ人なんにのお……今まで見合いが上手く行かんで。でもまだ29歳、働き盛りじゃ」

(ううっ……顔しか知らないアラサーお兄さん……)

「最近髪が薄ぅなって弱気になっとってな」

(ああ…アラサーな上に髪もないんだ……)

「当分嫁はええ、言うとったのが、毛がなくなり切らんうちに見合いしたいのォと言うとる。
ウチのちんちくりんでも貰うてくれるじゃろ。若いしな、二人産んでから畑にも出られる」

(ああっ……産むキカイ発言が……)

「あんちゃんな、ちいとばかしツラが整ってても、ソレだけで飯が食えて家庭が守れるかいな」
「お、お母さん……」
「嫁にくれぇ言うなら、それなりの条件を揃えてもらわにゃあ」
「およ、条件が揃えばくれるんです?ちゃん」

「ウェイパーでいいんです?チャーハン」みたいな軽い口調で、春日先輩はとんでもないことを言う。
母はそれにぐっ、と言葉が詰まるような仕草を見せて…それでも、次の瞬間にはびしりと胸を張る。

「それはそうや、いい人が居るんなら添わしてやりたい、それが親の情つうもんだで…アンタらの間柄は大方予想がつくけど」

お母さん、絶対わかってない。
まさか春日先輩が私の開通工事を担当した男だとは思ってないだろう。
せいぜい恥じらいある口づけを交わす程度止まりで、それ以上が為されたなんて想像だにしないだろう。

「あんちゃんが医者様だとか、ここいらに土地持って…あ、そう言やアンタ、仕事は何しとん」
「無職です」
「かっ、春日先輩……大学は?!」
「辞めてきた〜」
「えーっ?!」
「学生だとと結婚出来ないじゃんと思って」
「そ、そんな理由で?!」
「まあまあ落ち着きんしゃい。無職っつっても…」
「……話にならんね。あんちゃん、お父ちゃんが帰って来んうちに出てってや」

母は今までの必死さが嘘のように、冷たい視線を放って寄越す。
だというのに狼狽することなく、春日先輩は椅子の背もたれに深く寄りかかる。

「いえ、むしろお父さんと会っておきたいんですけど」

その口調も、最初の慇懃さがどんどん解けてきていて……すっかりいつもの先輩なのだった。

「何言うかっ。お父ちゃんアンタみたいなちゃらちゃらした東京モンは大嫌いだわいね、にいらんこと吹き込んだんが割れたら只では済まされんよ」
「……お母さん、俺は本気です」

そこで静かに立ち上がって、春日先輩は母に懇願するように言うのだった。

「この願いが叶わないなら、どのみち後はどうなってもいい。そのつもりで来たんです。どうか、お父さんと……会わせて下さい」



…………して。

私は春日先輩とふたり、父が夕餉の後、酒を始めてしまう前に呼ぶから、それまで隠れていろと言われて……。
母によって納屋に押し込まれてしまった。
言語道断だとしても自分で説得するのは無理だと思ったらしい。
あの様子からして、お父ちゃんにぶん殴られればええ、くらい考えているかもしれない。

「せ、先輩、あのね……一番コトが把握できてないの、私だと思う」
「お?そーか」
「結婚って……本当に……えっと、私を……」

言葉が迷子になる。
そして。

「私を、さらってくれるの?」

王道ロマンスみたいなことを口走ってしまった。

「そのつもりで来たんよ。なあに見とけな…あ、そだ、あれ、お前の父ちゃんのだろ?」

春日先輩は、納屋の奥に仕舞ってある田植え機を指さした。

「ついでにあの、家ん前に停めてあんのもだろ?」

そう言って、先ほど帰宅した父が、明日もすぐ出すためだろう……納屋に仕舞わず外に出したままのコンバインも指さす。

「うん、そうだけど……」

だからなんだっていうんだろう……。

膨れ上がる疑問符の処理も思いつかないうち、ついに玄関が開いた。
母が手だけで「入ってこい」と合図してくる。



……憤怒状態になっているかと思った父は、意外や意外、唐突な出来事に腑抜けてしまっていて、
「はあ、うちのをねえ、ヨメにねえ、はあ」
としか言わない。
どちらかというと傍らの母の方が色めき立っているくらいだ。
ハラハラしながら様子を伺っていたが。

「んじゃけどなあ、君なあ、コッチに住み込みでも構わんていうても、なァーんも出来ないタダ飯食らいを置いてはおけんよ」

……その言葉を受けた瞬間、春日先輩の瞳が輝いた。

「今日もねぇ収穫の時期ちゅうに人手不足で、コンバインあってもおっつかなくて、明日も朝から出んとおえんのよ」
「大変ですな……」
「そうじゃで大変じゃで、恥ずかしいけんども嫁入りの支度もさしてやれそうに無え。ちぃとも余裕がねえ」

だから出ていけ。

……父はそう言っている。
年若い、私の盲目になりまくりな視線からすれば高校時代とほとんど変わらないように見える姿と、ラフな格好。
そこからして「金銭的な都合」を持ち出せば、貯蓄もなにもなさそうな目の前の男は折れるしかあるまい。
そう思っているらしい。

……実際、そうだろう。
先輩には悪いけど、私も悲しいけど……いきなり結婚なんて無理に決まってる。

「お父さん」
「お父さんん?」
「失礼。コンバイン、お借りしてもよろしいですか?」



トイレ借りてもいいですか、みたいな気軽さでとんでもないもののレンタルを申し出た先輩に、家族全員外へ出る。
春日先輩は家の前のコンバインに……慣れた様子でヒョイっと乗り上げた。

「えっ……えっ……?」

スムーズにエンジン点火、普通の自動車とは随分勝手が異なるはずのハンドルとシフトレバーをたやすく操作して、家の前の道へ発進する。

「せっ、せんぱぁーい?!」

一家全員でそれを追いかけると、ある程度走ったところで、テクニカルな旋回を見せつけつつこちらへ戻ってくる。

「まさか……」
「たまげた……」
「先輩!!小型特殊免許…持ってるの?!」

私たちの元へ戻ってくると、先輩は頭を掻きながら父に照れ笑いを見せる。

「いや、ちょうど俺が乗ってるのと同じ機種でして」
「乗ってるゥ?!」
「ええ、ちょっと趣味で……何ンならウチから持ってきてお手伝いしますよ」
「……
「え?」
「幸せになれ」
「えっ?えっ……えええええええええ?!」





……春日先輩は、
「実は親戚が農家で幼い頃から手伝っていた。コンバインは先日鬼籍に入った親戚の形見であり必要であればこれを売り払うことで結婚資金にするのも考えていた」
などという、その場では私しか解らぬ嘘を平然と言ってのけた。
父も母もすぐさま翻意し、軽自動車でこの片田舎まで来たという掘り出し物のムコ殿を大いにねぎらい、
帰り道は二人きりで話がしたい、という甘ったれた申し出も平然と許してくれた。

……なんだかわからないんだけど……。
なんと私は、春日先輩と結婚することになったのだ。

「……先輩、あのう……」

車を停めたという、うちから離れた畦道へ二人で歩く。

「いろいろ、わけがわかんないんだけど……」
「だろーねぇ、俺もここまで上手くいくとは思わんかった」
「そうじゃなくてえ…!大学やめたって……それにコンバインは?ねえ、どういうこと……?」

もう、一から十までわからない。

「なぁんか恥ずかしいねぇ、改めて言うとなると」

……先輩は、ひとまず大学に入った後はアルバイトに明け暮れたのだという。
親戚に農家がいる、というのは嘘ではないらしく、幼い頃からトラクターだの田植え機だのに触れてはいたそうだ。

「思ったよりずーっと、大学ってのがおもんなくてさぁ」
「おもんないって……」

そしてさすがに新品最新型には手が届かないものの、中古でコンバインを購入できるだけの資金を貯めると同時に大学を辞めたと。
仕上げに、順序が前後するものの小型特殊免許を取ってから、私の家にやってきたと。

と結婚したかったんよ〜」
「ね……ねえ先輩、それ本当?私のこと、本当に奥さんにしてくれるの……?」

私にとっては生まれて初めての恋人だけれど、春日先輩にとっては数ある出会いの一つだろう。
それを、そんなに多大なお金と時間をつぎ込んで特別なものにするだけの価値が、私にあるだろうか。

「おっ、アレアレ」

私の問いには答えず、春日先輩が路駐してある車を指す。

「乗ってけ。んちの前まで乗せてって、降ろして帰っから」
「う、うん……?」

が、その先輩の車とやらに乗り込むと、いつの間にか平行に倒されたシートの上で先輩が私を押し倒しているのだった。

「あれええ?!どうしてこうなるの?!」
「ん〜…なりゆき」
「ぜったい違うっ」

パニックと羞恥心で真っ赤になる私の瞳に、春日先輩の笑顔が映る。

「……会いたかった」
「それは…私もだよ……先輩……」

……そう言って感傷に浸っている間に先輩は私の服の下に手を滑り込ませている。

「ちょっちょ、先輩、やぁ…だめだよ、こんなところじゃあ……」
「ガッコーでやってたのの方が、随分マズイと思わない?」
「そ、そりゃそうだけど…でもそれは比較しての話じゃんっ…んいあぁっ?!」

だってここ車の中。外めっちゃくちゃ畦道。カエルの鳴き声する。
幸か不幸か田舎の夜道らしく人影は全くないが、それでも思いっきり屋外。

「もう我慢したくないんだっつの……
「あ……っ」

学校にいた頃によく見せられていた、時たま乱暴になる声。
お前の意見を伺っているんじゃない、俺がしたいのだから従え、と言ってくる声。

「はん……あ…やだ、言いなりになっちゃう…よ……」
「いーじゃん、それで」

支配される心地よさへの陶酔もあれば、久しぶりに触れた恋人への愛しさもある。
我慢していた、もう忘れようと思っていた情動が一気に心からあふれ出す。

「せんぱ…あぁ、私がどんな気持ちですごしてたか……もうっ、あ…ん、わかんないくせにぃ……!」
「わかるわかる、ここさわればわかるよそんなん……」
「あぁう……!」

下着の上から、足の間が撫でられる。
先輩の指先が執拗に気持ちいいところをまさぐって、もう抵抗の意志なんかないのを確かめてくる。

「んー…いい感じ…」
「やあ…?!あっ、あ、耳…みみ、だめ……!」

下腹部にばかり気を取られていると、先輩の唇が耳たぶを食み始める。

「だめ…あぁ……ああぁあ…っ!」

外気で冷えていた耳朶を、丁寧に舌先で舐められる。
身じろぎするたびに先輩の喉が愉快そうに鳴って、おなかの下に響くような快感をまき散らしていく。

「せんぱ…い、きもち、いいのぉ……!」
「おお…そうこなくっちゃ……」

気持ちいい、と言ってしまうともう、自分の中で何かが吹っ切れた気分だった。
先輩もそうみたいで、満足げにニンマリしてからやっと、久しぶりのキスが降りてきた。

「んっ…あ…ああむ……っふ、ひぇ…んぱ……!」

舌を根っこから吸い上げるキスは、昔と変わらないと言えばそうなんだけども。
今日の先輩はずっと息が荒く、先輩自身もうっとりしながら私の口腔を味わっているようだった。

「ひぇんぱ……あ……」

動かした膝が、先輩の下腹部に当たる。

「つ…は……っ、苦しかった?」
「う、ううん……それより……」

ズボンの上からでもわかるくらい、先輩のが大きくなってる。
先輩も余裕がないんだ。
それくらい私のことを必死に求めてる。
……そう思うと甘い疼きが大きくなって、頭の中が酩酊したような浮遊感に包まれる。

、入れさして。結構…我慢できんとこまできてる」
「うん……うん、せんぱ…いれて…先輩の、いれて……っ、私のなか、ぐちゃぐちゃにして……!」
「おーおー。スイッチ入ってきたねぃ…思い出してる?いろいろ」
「もぉ……!!」

このまま溶けてもいいなんて思っていたけれど、狭い車内で器用に下を脱いで、隆起した熱を私のいりぐちに先輩があてがった瞬間、ふと慌てる。

「せ、先輩…ゴム、ごむ……」
「ん?」
「あの……あれ、つけないの……?」
「つけねーよ?」
「な、なんでぇ?!」

素っ頓狂な叫びに、春日先輩はくくっと笑って……それからもう一度私の耳元に唇を寄せる。

「作っちゃうつもりだから」
「つくるって……えっ、こ、こど…も……?」
「おー、親御さんの気が変わっても面倒だし」
「そんな…ええっ……で、でも……!」
「……は欲しくないん?」

俺との子供とか。
……なんだろう。
そう言われた瞬間に、およそ理屈では説明しきれない情欲が胸一杯に広がった。
ばかと罵られてもいい、行き場を失ってもいい。
そうだとしても……。

「ほしいっ……春日先輩のあかちゃん、ほしいっ…いっぱいつくりたいの……!」

なにを犠牲にしたっていいと思った。
それでも欲しくて欲しくて、気が触れそうになった。

「いっぱいって…はは、でも……ん、いっぱい作ろ、子はカスガイって言うし」
「かす…がい……?」
「おお?なんか俺の名前ともかぶってんし……おお、縁起いいな」
「ちょ、なんの話っ……んくっ…あ、ア…アアっ……!!」

目を丸くした途端、先輩が入ってくる。
……大好きな人が、今までとはほんの少し違う感覚で。

「あはぁっ…!ああっ、く、ひ、ひさし、ぶり…だから……私っ…きつい、かも……!!」
「いんや、平気……あ、やばっ、やっぱ平気じゃなっ……くうあ…!」

いつも感じてた、あのつるっとした感触がないのだ。
ゴムが先輩の先を覆っているが故の、変なスムーズさが。
……代わりに、どこまでが私で、どこからが先輩かわからなくなるような、粘膜同士がねっとり吸いつく感じがある。

「い゛い゛っ…あ、せんぱぁ…ああぁ〜っ…!!」

先輩は、いつもと……前と、違う顔をしている。
片目を瞑って、何かに耐えるような歯ぎしりまでして……それでも、どんどん私に入ってくる。

「せんぱぁ…なか、おっきい…いたい…?いたい……?」
「痛いんじゃねえ、の……気持ちよすぎてどうにかなっちゃいそうなの、俺…」
「ええっ……そんな…わ、私…私、そんなん言われたらっ…あぁっ…ああぁ、ダメ、だめぇえっ……!!」

ぐちゅう、と湿った音を立てて根本までめり込んだ先輩は、私の上で小さく息を吐く。

「ホント、いい……なんか、あるべき場所に戻ってきたって感じ……」
「なにそれぇ…変なことばっかり言わないで……っ、あ……?!」

内側を肉茎でいっぱいにされて、心の方も嬉しさで破裂しそうなのに、先輩は手をゆるめるつもりはないらしい。
私の腰を支えた手とは反対側の手で、愛液まみれの粘膜から一番敏感な尖りを探りだす。

「ダメっ、ひぇ、ひぇんぱぁっ、しょこだめぇっ、そこっ…そこ、だめえぇ……!!」
「ダメってことないでしょ、好きだったじゃん、これ」
「んぁいいぃっ?!」

ぴちゅっ、と、先輩の指の中で愛液の気泡がつぶれる音がする。
すっかり大きくなったクリトリスが、先輩の手でくちゅくちゅ弄られる。

「はぁんぁっ…ああぁあっ…あっ、すきっ、すき、あっ…好きぃいっ…しぇんぱいに…いじいじされるの…好きぃいっ……!!」

言葉と一緒に、快楽の神経が一気に膨れ上がって切なくなる。
灯がともったみたいに敏感な肉芽が先輩に擦られて、すぐに気持ちいい限界が見えてくる。

「ひぇっ、ひぇんぱぁ…ゆるひてぇ…わたし、先、いっ、ちゃあ…あぁあう……!」
「いーのいーの、イッとけ…ホラ、感じてる方が奥まで届くとか言わん…?」
「わかんにゃあ…い……あ゛っ、あ゛ッ…ああぁあうぁっ…んあぁあぁあ……!!」

それでも首をぶんぶん振って、最後の抵抗じみたものを見せたのに。

「くふっ…ぅ…んうぅうぅー……っ!!」

頭の中で、大きく膨れた何かが破裂する。
たやすく絶頂に追い込まれて、快楽の残滓が身体にじわじわ広がって……。

「はふぅっ…あ、あぁ…い…っちゃった……ばかぁ…ひぇんぱい……」
「おお……かーわい……ん」
「んうぅっ……?!」

直後の弛緩を許さないとでもいうように、先輩が私の舌を吸い上げる。

「んぅぅっ…ひゃ、あむっ…せんぱぁ…い……!」
「っは…よくなっても構わんけど…ホラ、こっちも忘れちゃ…」
「はくっ…んぁっ、あ゛ッ…あ゛……!!」

私の腰を強く押さえた先輩が、膣壁の中を強く押してくる。
何度も何度も短い間隔で往復されるうちに、粘膜が奥の方までとろけていく。
柔らかくなって、もっと奥まで先輩を誘い込もうとしているのが自分でもわかる。

「はぁあっ…あ、かしゅが…しぇんぱぁ…い……私、おく、いま、すごく…やーらかくなってるぅ……!」
「んん……?!」
「しぇ、しぇんぱいに…入ってほしくって…おくで…びゅーってしてほしくてぇ……!!」

先輩が、一瞬目をぱちくりさせた。
ああ、私今とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったぞ……。
そんな自覚もあるにはあるが、もう行くところまで行ってしまいたい欲求の方が強い。

「せんぱ…きて、もっとしてっ、もっと…もっとめちゃくちゃに…してぇえ……っ!」

恥ずかしがる自分にさよならを告げる気分でそう言い切ってしまうと、先輩は「ふっ」と息を吐いて、それから…かろうじて見えるような、小さな舌なめずりをした。

「ほいじゃ遠慮なく…っ、くぁ…おお……っ」
「んひゃああう?!あ゛っ、あ゛っ、かしゅがせんぱぁあぁっ!!」

先輩が私の足を大きく開かせて、本当に遠慮のない強さで腰を落とし込む。
そのたびに先輩の先っぽで粘膜に絡んだ愛液をかき出される。
同時に、先輩の鈴口から溢れだしたねばっこい先走りが、肉壁の中に飛び散っていくのもわかる。

「せんぱい、これぇ…本当に、ひとつになっちゃってる……んあっ、あ、奥まで届いて、ぴたってくっついてるぅ……!!」
「そーね、俺もわかる……の奥んとこがぴくぴくしてんの、わかる」

脳が痺れるようだった。
どんどん先輩のピストンの間隔が短くなって、私の一番奥に先端を押しつけ、ぐりぐりとなすりつけていく。
ここに入れさせろ、と言わんばかりに。

「あっ…あっ、だめっ、せんぱ……いいっ…い゛っ…!」

奥からこみ上げてきた気持ちよさが、おなかの下の方に集まってくる。
先輩の感覚を少しも逃さず得られるように、身体がぐんぐん浮いていく。
先輩も先輩で私がどんな刺激にも臆さないと分かっているようで、執拗に膣穴をえぐってくる。

「しぇんぱあぁっ…めっ、わっ…たし、ダメえ…もう、だめっ、きもちくてっ…ダメになっちゃうぅ……!!」
「おうおう……はは、んなら俺も、余裕かます必要なさそ…?」

その声に、いちもにもなく頷く。

「うんっ、ないっ、ないい゛っ…イッ、あ、いあぁっ…あぁあぁああ……!!」
「く……おっ、おお、出すぞ、中で…中っ……」
「うんっ、うん…うん……!なか、せんぱい、中で、せんぱいのっ…き、て……あぁあぁああぁああっ!!」

重さのある粘液が、膣壁に滑り込んでくる感触があった。
互いに一瞬、身体を硬直させて震えた直後に……私の中で、先輩が何度も何度も、ぴくぴくと痙攣を繰り返している。

「あ……あ…っ、すごい…出てる…わかる……こんな…なんだぁ…」
「っつ…はー…あー……おお、すげえ…出てんねー…」
「わひいっ?!」

なんだか変な言い回しをしながら、先輩が私の足をぐっと持ち上げてしまう。
先輩とつながったまま、私はまるでデングリ返しの逆みたいな格好にされる。

「ほらほら、染み込め〜…」
「も……もう……!あはっ……ん、あぁっ……!」

そんな風にふざけている間も、先輩の肉茎は堅さを失わずに私の中にある。

「……先輩…まだ……足りない?」
「およよ…わかっちゃう?……うん、足りない」
「なら、その、いいから……もっと……」

言い切る前に、春日先輩の獰猛な口づけが降ってくる。

「あっ……せんぱ……あぁ…っ!」

先輩が、さっきよりも余裕ありげな顔で私の中をぐりぐりする。
目を瞑った瞬間に、これまた理屈では説明できない不思議な感覚が心の中に満ちた。

私、先輩と一緒になって、遠くないうちにお母さんになる。

……その気持ちは、先輩の身体をもっと強く感じさせるものとなった。

大丈夫、きっとなんでもかんでもうまくいく。
こんなところまで、メチャクチャな手段を踏んで私を迎えに来てくれた先輩とだもの。
どんなハチャメチャが起こっても、ぜんぜん平気に決まってる。

学生時代にわずかに抱いていた将来への不安など、今はもう、ちっとも感じなかった。









**********
ついったで夢サイト管理人のuwoさん(リンクからuwoさんのサイトに飛べるヨ〜)とお話して盛り上がって、
勢いで書いてしまった春日。
前の夢の後日談ですけど…ううん。
いちおう前のを書いたころから夢子は田舎の子だろうなぁと適当にふわふわ考えていた。
作中の方言はわざと曖昧というか、どこのものかわかんない感じにしてますけど…実際どこなんだろここw
なんとなく栃木のイメージ。

春日先輩はイナカッコイイ(田舎かっこいい、田植え姿が似合うイケメン)