「あ?」
「あ」
……第四体育館の裏で煙草を吸っていたら、最近よく見かける顔が私をのぞき込んでいた。
「灰崎くんだ」
「お、知ってんの」
「有名人じゃん。バスケ部レギュラーで不良少年」
そう言ってまた紙巻きに口をつけてケムリを吸い込もうとしたら、灰崎くんが上からつまんで煙草を取り上げた。
……不良のくせに不良をとがめるのかよ、と思った直後に、灰崎くんはそのまま煙草を自分の口許に持って行ってうまそうに吸い始めた。
指の間に煙草を挟み、我が物顔で吸ってはフーッと吐き出す様子は、やたらとサマになっていた。
慣れてる。普段から吸ってるんだな。
「ねぇ……」
「んー?」
「煙草って、未成年は吸っちゃいけないんだってよ」
そう言った瞬間、灰崎くんはヒヒャッと下品に笑って煙草を吐き捨てた。
まだ吸えるのにもったいない。
「知ってた?」
言いつつ新しいのを出すためにポケットをまさぐると、灰崎くんは今度は私の目の前にしゃがみこんで、ぐっと頭を押さえてきた。
「んだよ、もったいつけんな」
「……」
私からすればただ単に思ったことを聞いただけなのだが。
それは生意気、あるいは私が彼に煙草を分けたくないが故のゴマカシだと取られているらしい。
灰崎くんは私のスカートのポケットに強引に手をねじ込み、中の煙草とマッチを引っ張り出してしまった。
「ライターじゃねんだ」
「家にあったから」
ふぅん……とマッチ箱を手にして訝しげに眺め、そして擦って火をつける。
やっぱり慣れている。
「いつから吸ってた?」
「覚えてねえ」
「だよね」
「……お前、痙攣的にしゃべり過ぎ。もっとくっつけろ主語と述語を」
「シュゴジュツゴ……灰崎くん頭いいんだ……」
「…………」
何も私は、誰にだってこんな投げやりなしゃべり方をするわけじゃない。
目上の人にはそこそこ気を使って言葉を選ぶし、適当にコマコマと話しかけていたのは、灰崎くんがそれを汲み取ってくれそうだったからだ。
だいたいこんなところに煙草を吸いにくる人なんか、自分と同じくらいの知能しか持ってないだろう。
いや、知能っていうか……思考回路というか、目線。
「私、知らなかったの。未成年がキツエンするのはホウリツでキンジラレテイマスって」
「あん?じゃこれ誰の煙草だよ」
……ほら、伝わった。
「家にあるのもらってきてる」
「書いてあんじゃん」
そう言って、灰崎くんが煙草のパッケージの文字をなぞった。
「未成年者の喫煙はうんぬん」と書いてある部分を。
……確かに何度も目にしていたけれど、警告文というより訳の分からない模様、絵柄の一部として処理していた。
自分が「未成年」にあてはまる存在だということすらぜんぜん、深く考えたことがなかった。
「バカなんだな」
「じゃなかったらこんなとこで煙草吸ったりしてない」
「それもそーだなァ……」
そう言ってまた、灰崎くんが煙を吐き出す。
背が高いから、立ち上がった状態でケムリを吐かれるとなんか煙突みたいだ。
「私も吸いたい」
そう言って立ち上がり、灰崎くんが握っている煙草に手を伸ばすが、ヒョッとかわされてしまった。
「俺切らしてんだよ。明日用にとっとく」
「私のだよ、それ」
「いーじゃん。くれ」
「やだよ」
「……そもそもお前のじゃねんじゃん。お前の家にあっただけじゃん」
それもそっか。
またどうせニコチン摂取に快感を得る家族が買ってきてるだろうし、固執することもないか。
「……あれ、じゃあ灰崎くんの家族は煙草吸わないの」
「吸わねー。むしろ嫌ってやがっからよ。肩身狭いぜ」
「それが当たり前だよね、わりと」
「ぬぁーにが『わりと』だ」
お前だって吸ってるくせに、という言外の仲間意識と侮蔑を受け取ったので、一足歩み寄る。
「……」
肋骨あたりに鼻がつきそうなくらい近寄っても、灰崎くんは無言でいる。
イヤじゃないらしい。
「これ、煙草とどっちがいけないんだろうね」
灰崎くんは他人の部屋なのに平気で服を脱いでくつろぎムードで、なんだか悔しいから言ってみただけ。
他人というか、私の部屋なんだけど。
「……わあ」
「なにがワーだよ、お前これ慣れてんな」
「慣れてないよ、そんなに……」
後ろから腰を抱かれたので、やりやすいかなあと思ってベッドに正座していた脚を崩すと、そう言われた。
「慣れてるように見えちゃうの?」
「見える。すっげー見えたわ」
「ちょっと……そんなに?え、どこが……?」
脚崩しただけでそんなにわかるものかな。
そう思って彼の方を振り返る。
「いや、腰がヒョッてしたじゃんヒョッて」
「ヒョッ?」
「だから、こう」
……灰崎くんが私をまねるように腰を浮かせて組んだ足を崩したので、変な笑い声が出た。
「……もし、私がスゴイ処女だったらどうするの」
「スゴイ処女?」
オウム返しされると変な言葉だった。スゴイ処女。
「なんか……しただけで、運命の人とか言い出すような……」
「お前さあ……」
そういえば私、灰崎君に名前教えてないや。
灰崎くんも聞いてこない。
どうでもいいか。いいんだな。
そう思ってふと目を伏せたとたんに自分の脚が蝶番みたいに開かされたので、慌てて起きあがる。
「ちょ、ちょっ、ちょ」
「あ?」
「え、待って、それは変、それはしない」
「は?何が」
大きく開いた私の脚の間に顔を寄せる灰崎くんは……そこで面白そうに笑った。
「したことねーんだ」
「え……うん……舐めるんだよね……?」
「かじってほしいのか?」
そりゃ違うけど……とかぶりを振ったが、灰崎くんの鼻先は、どんどん私の粘膜に近づいてくる。
「んっ……?!」
「ははっ」
脚を閉じようとしても押さえつけられたまま。
突き出された舌先が陰毛をかきわけた瞬間に跳ね上がる私を見て、灰崎くんは……愉快で愉快でしょうがない、と言いたげだ。
「慣れてんのかと思ったのに」
「そ、れは……したこと、ないの……」
舌と粘膜が触れ合って音を立てる。
にちゃにちゃぬるぬると、奇怪な水棲生物の移動みたいな音。
「お前はしたことある?」
「はぁっ……だ、だから、ないって……」
「違う、お前の口で」
「あ……」
フェラのことか。
「あるよ……あ、うンッ……ちょ、やだ、音、やめてっ……!」
私が恥ずかしがるのが楽しいのか、灰崎くんは押し当てた舌と唇を蠢かせて思い切り啜る。
気持ちいいとかくすぐったいとかもあるけれど、なにより耐えがたいのはじゅるじゅるじゅるるうぅ、なんていう下品な音だ。
灰崎くんはニヤニヤしてんだろうなあ、と想像すると、一層恥ずかしくてもどかしい。
「っ……は、じゃ、後で俺にもして」
「う、ん……する、っあ、だからっ、するからやめてっ、や、それ以上吸わないでぇ……!」
「ちょっと……何お前、なんか、すげえいじめたくなってくんだけど」
「ッッ……あ、あはあぁあっ?!」
気がつくと腰が浮いていて、つま先がぴんっと張ってしまう。
……よくよく考えたら、どうして私にはしゃぶらせるのに、私のはしゃぶってくれなかったんだろ。
そうなると……灰崎くんがしてくれてるこれは、別段恥ずかしいことでもないのかもしれない。
「不良のくせに、やっぱガキなんだ」
「ガキって……同い年だよ、灰崎くん、とっ……あぁ、あっ、や、やあぁッ……!」
「クンニもされたことねーくせに経験者ぶってんのはガキだって……ほら」
「くんに……?っあやぁあっ?!やめて、やめっ、指ぃ……!」
唾液でたっぷり濡らされた孔に、指が入り込んできた。
いつもはギクッとするものだけど、そんなためらいを感じる暇もないくらいに勢いよく。
「はぁうっ……あぁ、指、ずぼ、ずぼ、や、あぁ……」
「お前それヤダって口癖?なんもイヤなことねーのに」
「クセかな……わかんない……は、はいざき……ぃい……」
「呼び捨てすんな」
だってなんか言いづらいんだもん灰崎って……。
ちゃんと呼吸しようとしても、中に潜った指がにちゃにちゃ動き回って邪魔するし。
「うん、うぅっ……もっと、ねえ、指ぃ……」
「あ?二本?」
「ううん、違う……いれたまんま、上のとこいじって……」
……灰崎くんは、また下品に笑った。
「上ってどこだ、ヘソか?」
「違う……ここ、ここ……」
そう言って自分の指を添えてみるが、灰崎くんは笑うだけだ。
「ああん、バカ……バカだよぉ、灰崎くんのバカ……」
「誰がバカだバカ。おら言ってみ、クリちゃんいじめてくださいって」
「それは本当にバカ……」
そうつぶやきつつも、言っちゃおうかな……という方に気持ちが傾くとだんだんその気になってくる。
「灰崎くん、私のクリちゃんいじって……」
「ぶはっ」
「……やだ……!言えって言ったくせに……!」
羞恥心と一緒に、自分の股間が一層充血するのがわかった。
これは、恥ずかしいけど気持ちいい。
……今度からもっと言おうかな。恥ずかしいこと……。
「いやさァ、クリちゃんってなあ。ちゃんって、ハハッ……これでいーか?おら」
「んはぁあうっ?!つ、強い、バカ、強い……もっと優しくして……っ」
「注文多い。生意気」
「やあぁあぁうっ!!」
「お?イクか?イッちゃう?」
灰崎くんのほうがぜんぜん生意気だ。
私の身体を、嫌って言ってるのに乱暴に愛撫して、無理矢理高いところに突き上げようとしている。
「だめ、あ、やだっ、クリちゃんやめてぇ……!」
「やれっつったの、お前」
「ッッあ゛ッ!いあっ、いやあぁあっ、だめぇーッ!!」
にゅぶ……と、灰崎くんの親指がクリトリスを押しつぶしたとたんに、私の下半身はぶるぶる言いながら弛緩した。
「イッちゃったなぁ」
「んうっ……灰崎くん、が、バカだから……ん……」
「いい加減にしろよテメエ。次言ったらキレっから」
そう言って、灰崎くんの足が私のゆるみきった内股を軽く蹴る。
「蹴らないで……入れて……もっと、ぐちゅぐちゅにして……」
「お前、ホント……なんか、すっげえ、いじめたくなんのな」
一度ぐったりすると羞恥心が消える。
寂しくなった奥の孔への刺激を求めて懇願すれば、灰崎くんが舌なめずりをしながら熱をあてがう。
「あ、は……!」
「うお、やっば……」
合わせ目を割り開き、身体と同じように緩んでいた肉孔へ、いきなり奥まで灰崎くんが入ってきた。
えずきそうになる圧迫感と、待ち望んでいた快感への悦びで、私なりに精一杯彼を歓迎する。
おしりの方に力を込めて、中の孔をきしませてぎゅうぎゅう締め付ける。
「っつお、や、ば……お前、慣れてんっ、つあ、お……」
「んぅうっ……さっきは、ガキとか言ったくせにいぃっ……!」
そう言いつつ今度は力を緩めて、代わりに腰を浮かせる。
膣孔の天井が擦れるように、自分からずりずり動く。
「やっべ……お前、これすっげえヤリマンじゃん、ハッ……へへ、やらしーことしまくってんじゃんっ……!」
「ん……!でも、これで、灰崎くんも、いいでしょ……」
……その言葉は上から目線と取られたようで。
灰崎くんは短い髪の先に垂れた汗を拭うと、上唇を尖らせた顔で私を乱暴に押さえ込む。
「じゃテメエこう言うのあっか?ほら、おらっ」
「っあ゛ッッ?!や、あ゛ーーーッッ?!」
灰崎くんの大きな手と、太い腕。
私はベッドから浮いた状態にされて……灰崎くんに子供みたいに抱きかかえられながら、容赦なく膣の内側をえぐられた。
「やっ、あ、ああ、あっ、あッ、あーーッ!!」
「おらっ、おら、どーなンだっての、ヤリマン子ちゃん」
「うあッ、ああ、こ、れ、んッ……はあぁああぁんんっっ!!」
体格よくて、運動もしてる灰崎くんにしてみれば、私なんか軽いものなんだろう。
抱えあげた私を身体を何度も弾ませ、自分の肉茎に落としていく。
そのたびに私はもう、言葉が続けられないくらいの、変な気分に襲われて……。
「は、灰崎くんっ、私これ初めて、はッ、はあ゛っ、初めて、おまんこで、イク、かも……ぉお……!!」
「あ……?さっきも、イッてたろーがっ」
「ち、違う、バカッ、クリじゃなくて、中で、入れられながら、イッたこと、ないの……んッ!!」
灰崎くんの瞳が、ぎらぎら光った。
こいつは俺のモノにできると、確信したような顔だった。
「いーじゃん、イカせてやんよ……おらっ、おらっ!」
「うい゛っ?!いやあぁっ、おく、奥が、ぎゅぎゅーって……やあっ、や、や、ほんと、や、おしっこでちゃいそっ、変っ……!」
「イクんだろそれ……は、おら、俺も出してやっから……おらっ!!」
ばっちん、と、灰崎くんにお尻を叩かれた衝撃で。
膣孔が私の意志とは別に縮みあがり、脳内には歓喜の麻薬がまき散らされた。
「ふあっ……ふぁ……はあぁ……あぁ……ん……」
「よっ……と」
「あっ……?」
ぬぽんっ、と私の孔から肉を引き抜くと、灰崎君は私のおへそあたりににちゅにちゅ……と肉の先っぽを擦りつけ始めた。
「んうっ、や、あ、それ、いやらしいよ……んっ!」
不満を訴えきるより先に、びちゃっとぬるい感触。
ぱんぱんになった彼の先端から、生臭いのが飛び散った。
「あ、ちょ、やだ……お、おへそに入っちゃう……」
「いーじゃん、いやいっそヘソにためりゃよかった?なんかエロいじゃん」
「やだよ、おへそがぴがぴになる……ティッシュとって……」
……灰崎くんは箱ティッシュに手を伸ばしてから、ふと真顔になった。
「ん」
「んむっ……?」
あ、キスされちゃった。
「お前、俺のモンになるか?」
「……わかんない、人のもんとか」
「だーよな」
でも、結構気持ちよかったような気もするし、またしたいかなあ。
*****
なんとなく灰崎。
低次元コミュニケーションっぽいの書きたかった。