「その日」はにとって、時間の感覚がおかしくなりすぎた奇妙な一日だった。
なにやらアメリカから来た「すごいストバスチーム」に先輩たちが凄絶な屈辱を受け、紫原を筆頭とした選抜チームがその汚名返上試合をするらしかった。
……ちなみには「鬼のように強いアツシくんを筆頭としてチームが組まれた」と思っていて、本当にこの程度の認識しかなかった。
なにやら中学時代に紫原と縁があった者たちが集まっているらしいことくらいは知っていたし、紫原含めた彼らが「キセキの世代」なんて呼び方をされていたこともチラリと聞いたが、それだけだった。
紫原は中学時代のことをあまり話さない。訊ねても「ふつーにバスケしてた」としか言わない。あんまり知られたくないのかな、とは察している。
ともあれ紫原が話さないとなるとは知らないままである。
大好きな彼氏の晴れ舞台、応援しないという選択肢はない。は雪深い秋田の地から東京に出て、「アメリカのすごいストバスチーム」であるjabberwockと、紫原が属するチームVORPAL SWORDSの試合会場に向かった。
向かったし、同じチームの選手とクラスメイトなのだという女子の隣に座ったところまでは確かな記憶がある。
……が、試合中に敵チームの選手と接触してコートに倒れこむ紫原を見た瞬間、前後の観戦記憶がほとんど吹き飛んでしまった。
目に映る全てがスローモーションになり、どよめく観客たちに混じったは大きな叫び声をあげた。
叫んで、叫んでもどうにもならないという理性が自分を追いかけてくるのが煩わしくて、でも何もできないまま、再び客席にへたり込む。
勝利のホイッスルが鳴り響いても、は巨大な空虚感に包まれていた。
「心配しすぎー。折れてないよ」
「ヴァァァ!アヅシグンヴデオレヂャッダドオボッダアア!ヴァァァァ!!」
「もー…泣くなっつったじゃん〜!いい加減ウザいって」
場所は変わって秋田。陽泉高校の学生寮にて。
「オレも最初折れたと思ったけどー…突き指の腕版みたいなもんだって言われた」
「うっ…うっ、じゃあもう大丈夫なの?」
「んー……しばらく練習出らんない……」
そう言って紫原は、肌色のテープが巻かれた自分の腕を煩わしそうに掻いた。
「字ぃ書いたり、ゴハン食べたりはいーんだけど、一週間くらい運動はダメだって」
それを聞いては再び涙がゴパゴパと溢れてくるのを実感したが、どうにか眼球の表面でとどめようとする。
本当に泣きたいのはアツシくんの方なんだ。こうして実際に怪我をしてじれったい思いをしているのもアツシくんだ。私はそれを想像してもらい泣きしてるだけ。
そう自分に言い聞かせて、涙腺を締めようと努力する。
「……でも、勝ててよかった。アツシくんかっこよかった」
誤魔化すようにそう口にして笑顔を作る。すると紫原は露骨にから視線を逸らし、べつに、と呟く。
「照れないでよー!」
「照れてねーし!」
頬を赤くする紫原を見ていると涙は吹き飛んで、の心は暖かな気持ちでいっぱいになる。
「アツシくんっ」
こそばゆい衝動に任せて、は紫原の胸に飛び込んだ。
「んー……」
ベッドに腰掛けていた紫原はそんなを片腕で受け止める。互いに座った形で抱き合って、は紫原の胸板に顔をうずめて小さく笑う。
紫原はそんなのつむじを眺めながら、くんくんと鼻を利かせた。
「なんか今日のちん、甘い匂いがする」
「あっ…もらいもののシャンプーに変えたから…嫌なにおい?」
「んーん。いー匂い……お菓子みたい」
いつもの花の香りではなく、バニラエッセンスのような甘い芳香。紫原は心を奪われたようで、の髪に鼻先をくぐらせる。
「かじりたくなっちゃう」
「えへへっ…いーよ、噛んでも」
「……ホント?」
「痛くない程度なら!」
「えー…噛んだら絶対痛いじゃん。噛めないじゃん」
「じゃあ噛まないで」
「もー。どっちー」
二人してじゃれ合い、がふと身をよじった瞬間に紫原の右腕に手が触れた。
テーピングのごわごわした手触りが、紫原のつるつるの肌の上で異質な存在感を放つ。
「腕も…折れなくて…よかったぁ……」
「それはもーいーって」
紫原は腕の怪我について触れられるのを鬱陶しく思っているようで、がそう言うとすぐに嫌そうな顔を作ってみせる。
「ホント大したことないし。すげー痛いってわけでもないし。ただ…なんだっけ、靱帯?がのびてるから、よくなるまであんまし動かさないでって言われてるだけ」
「靱帯って……」
それ、大丈夫じゃないんじゃ……と言いかけたのを、は紫原の表情を見てどうにかこらえる。
アツシくんが大丈夫と言うからには大丈夫なのだろう、と思うしかない。心配しすぎて煙たがられるのは嫌だった。
「でも、ペンとかお箸が持てるならよかった……私、アツシくんが入院とかしちゃったらどうしようって……」
入院した紫原の元に毎日通って甲斐甲斐しく看病するところまで脳内で想像していたが、まあそれはさておき。
「こーしてちんのこともギューってできるし、不満とかないでしょー」
「うぐ……」
また湿っぽい雰囲気になりそうだと察した紫原は、の顔を胸板に押しつけて言葉を封じる。
「で……でも、アツシくん、練習できないのはしょうがないけど…あの、手の、あれは?」
「あれって?」
ペンが握れる。箸が持てる。でもバスケはダメ。
そのセーフとアウトの中間らへんの疲労と力を費やすであろう手淫はどうなのだろうか。紫原自身も利き手を怪我したとなればそのことを考えたはず、とは変な方向へ想像を膨らませていく。
「だ、だから……あの、アレは?ねえ私今変なこと聞いちゃってるよね?!でも、でも……大丈夫なの?」
「え……だから、アレってなに?ちんなんの話してんの?」
の人並み平均な想像力では、まさか紫原が寝具に押しつける形での自慰しか知らないなどということは考えられなかったのだ。
当然話は噛み合わない。
「だから…!あの、だから…ひ、ひとりでするの、平気?」
「するって…え、なにを?」
アツシくんは私に意地悪をしてるんじゃないか、とはふと思った。ひどい誤解である。
「あの…だから、これ!これを、その……」
「あっ……?!」
が紫原の股間に手のひらを押しつける。
「じ、自分でするとき、手、大丈夫なの……?」
「……え、自分で、するって、手、使わなくない?」
そして二人の認識が、ここで初めて交わるわけである。
「手……使わないの?」
「え……手、使うの?」
「えっえっえっ?!ま、待って…?!手、手、を、つかわないなんて、方法、あるの……?!」
「え…ちょっと、ちんワケわかんないこと言わないでくんない…手とか……」
「えっまっ待ってなんでぇー?!わ、私が間違ってるの?!」
の中の常識が崩壊する。男の人は手で握ったり擦ったりするものじゃないのか。
「だいたい手使うとしてもそんなんちんにカンケーないことだし…そんなん絶対カンケーないし聞くなし」
「えっ…で、でも……」
紫原にとって、自慰は最も恥ずべき行為のひとつなのだ。
いくら欲望を互いにさらけ出している恋人同士でもこれだけは赤裸々にできない。
「だいたいちんはそんなしょっちゅうしてるわけ、心配されるくらいしてるわ……け、あ?え、女子もすんの?」
「………………」
は、自分に知識がある場合、相手にも同等の認識があると思い込んでいた。
……そうか。女子にも自慰の概念があるということを知らないピュアな男子もいるのか。
アツシくんはそんなピュアな男子に該当する人だったんだ。
そんなアツシくんに私は一体なんてことを尋ねてしまったんだ。
「ごめん…ほんとに恥ずかしいこと聞いちゃったんだ、私……」
羞恥で熱くなる顔を紫原から逸らして、はベッドから降りた。
はずなのに、降ろすことができたのは片足だけで、もう片方の足はベッドの上の紫原にガッシリ捕まれていた。
「あわっ…はわっ、あっ、あ……?!」
バランスを失って胴体をベッドに倒れ込ませると、その身体はズルズルと引きずられていく。
「アッ、アツシくん……?!」
もちろんそんなことをしているのは紫原で、の身体に上から覆い被さって、興奮を伴った瞳でジッとを見つめるのだった。
「ねー……ちん、それってズルくない?」
「え……え?」
「自分から恥ずかしーこと言ってきたくせに、オレに言われたらすぐ逃げんの」
「に、逃げてないよぉ…」
逃げたじゃん。と紫原は拗ねるように呟いて、の髪の毛に右手で触れる。自分の身体は左腕で支えていた。
……それを見ては、改めて紫原が怪我をしていると実感する。
「ご…ごめん、ほんとに逃げてないよ……」
髪の毛を撫でる大きな手に触れて、だから無理なことをしないで、と訴えかける。
「ただ、本当に聞かれたら嫌なことだったのかなって…」
「それなんだけどー…オレもー聞かれちゃったし、イヤだったし、それはもー消えないじゃん」
「ううっ…ごめん……」
「謝るんじゃなくて、もっと別の解決して」
別の解決。そう言われてもはピンとこない。
「ど、どうすればいい?」
正面から問うと、紫原はちょっと居心地悪そうに視線をから逸らす。
「……さっき、女子もするみたいなこと言ったじゃん」
「…………え、あ、うそ」
はそう言われてようやく察した。つまり。
「…その…するときのこと、話したりしろってこと…?」
「……んー」
「え……えっと……」
はさっきよりもずっと頬を紅潮させる。頭に血が上りすぎて叫び出しそうだった。
「き、聞きたいの、そういうこと……」
「…………」
照れ隠しに問うてみても、紫原はぷいっと顔を背けたままだ。
「……べつに、イヤならいーけど」
がどうしよう、という気持ちで沈黙していると、紫原が呟いた。
「い……い、イヤじゃないよ」
……紫原にいじけた声を出されると、激烈に甘い対応をしてしまうなのだった。いつものことだ。
「でも…恥ずかしいっていうか……そんなこと、人に言ったことないし」
「オレもない…ってゆーかそんなの当たり前じゃん。言うわけないじゃん!」
そうだよね、と小さく笑って、は真っ赤な顔で紫原に向き直る。
「…でも、あの…アツシくん、女子がするって……知らなかった?」
「……だって、どうやってすんの」
「…………」
このカルチャーギャップに頭を抱えてしまう。は物心つく頃には知っていた気がするので、その根本からの説明になるとどうしたものかわからない。
「え…あの、なんか、お布団の中とかで…」
「うん」
「よ、夜とか、こっそり、手とか入れたりして……」
「え……そんなの絶対ばれるじゃん」
あ、そっか。アツシくんは兄弟が多いんだっけ。
「ひ、一人っ子だと結構ばれないっていうか…お布団の中で、その、ちょっとさわったり……アツシくんが、いつもしてくれるみたいなこと、自分の手でするっていうか…」
そう言ってみても、紫原はしっくりきていない様子である。
「え、でも、自分でして、どーすんの」
「ど、どうするって…えっ…なんか、き、きもち、よく、なる……だけ、だけど……?」
「女子は出さないじゃん、アレ……」
アレ。それが男性が快楽の末に迸らせる精液のことを指しているというのはわかった。
「だ、出さなくてもするのっ」
「なんで……?」
「だ、だって…しちゃうんだからしょうがないでしょ!なんか…ああっ、し、したくなっちゃうときがあるの!いやだ、恥ずかしっ……!」
その淡々とした問いかけに己の淫行を責められているような気分になって、の羞恥心が限界に達する。
「し…しちゃうのは、しょうがないんだよ……」
自分に言い訳するように呟く。
紫原は未だに納得できない様子だが、それでも恋人の淫らな告白には情欲をくすぐられるようで、を軽く掴んだ手の体温が徐々に上がっていく。
「でも、なんでそんなもったいないことすんの」
「……もったいない?」
「したくなったら、オレに言えばいいんじゃないの」
……刹那、は自慰と性交は別腹だというネットの書き込みを思い出していた。
別に頷くほどではないが、確かにいくら自慰をしても性交の満足は得られない、と書き込み主の真意とはまた別であろう納得をしていたのだ。
にとっての自慰とは、紫原との触れ合いを思い出してどうしようもないときに言葉通り自分を慰めるものだった。
だから紫原の言はもっともで、『したくなる』たびに紫原に触れてもらえば、自慰よりも遙かに満足の高い快楽とぬくもりが得られるはずなのだ。
……だが、そんな『したい』なんていう生理現象みたいなことのためだけに彼氏を、悪い言い方をすれば利用するというのも申し訳ないし、なにより恥ずかしかった。
「だ…だって、会えないときもあるし……」
「言ってくれればいーのに」
「……夜とか、会えない」
「どーにかするから」
「もう、アツシくんってば……大好きっ!」
たまらずは、紫原の唇に食らいついた。
紫原はそれを受け入れて、の唇を舐め上げる。やがて互いに舌を押しつけては吸い合って、キスに夢中になっていく。
「ぷはぁっ…でも……アツシくんは?」
「え」
「た、たとえばだよ?たとえば…その、したくなったとき、ひ、ひとりでするより、私としたいとか、思う……?」
としてはもちろん即答で『うん』と言ってもらうためのミエミエの問いかけだったわけだが。
「んー…思わない」
「ぬがっ?!なんでぇーー?!」
あれだけ恥ずかしい言葉で私をとろけさせておきながらそこで外すなんて。
どれだけアツシくんは外道なのだ、と、後からわき起こる羞恥心では顔を手で覆う。
「……したくなったとき…そのままちんに会ったら、オレなにしちゃうかわかんない」
が、続く言葉に思わず手を外して紫原を見る。
の視線が自分に寄せられたのを受けて、紫原はソッポを向きながらも続ける。
「なんかー…すげー、頭の中が…んーと、ヤなんだけど、エロいことで一杯になって……」
「…………」
「それはいーんだけど…いやよくないけど、まあいーじゃん…そのエロいのが、時間たつとだんだん頭おかしいことになってくから……」
「頭おかしいこと……?」
「なんか……」
紫原はうつむいた。
「なんか…ちんのこと泣かせてーとか、どう思われてもいいからすぐにエロいことしたいとか、そーゆー風なこと考える」
しかし深刻そうな紫原とは裏腹に、はその告白に心を炙られた。下腹が生温かくなり、粘膜がゆっくり湿っていくのが自分でわかる。
「ちんが目の前にいれば、あんまし考えないですむんだけど…一人でいるときとか…あー……なんか…合わせる顔がないってゆーか…」
「アツシくん……」
「一回くらい自分でしたら、そーゆー頭おかしい気持ちがどっか行くから、まだマシ……」
言い終えると、紫原はを抱きしめた。身体を寄せ合ったとき、は自分の膝になにか硬いものが当たるのに気がつく。無論さっき一度手で触れた、紫原のそれである。
「でも私……一度くらいは、すごくめちゃくちゃにされてもいいかなーとか、思うけど……」
「……あー。ちん絶対わかってないでしょ。オレがどんだけ変なこと考えてるか……」
「そ、そうなのかなぁ……」
「絶対そう、オレが必死でガマンしてんのにそんなこと言うしさぁ!」
照れ隠しのように、の胸に大きな手が回ってくる。
「ちんの身体なんかすぐブチッてなる」
「ブチッて……そんなちぎれるみたいな…んっ…!!」
いつの間にか紫原はの上着を持ち上げ、ブラジャーをずらして乳房をまろび出させる。
……ふたつの膨らみが片方の手のひらで一気に包まれてしまうと、確かにアツシくんが本気を出せば私なんかひとたまりもないのかなぁ、くらいの考えをも抱くのだが、ふわふわとした想像に留まってしまう。
それというのも、紫原が本気でに暴力的なことをしたことなんてないからだ。は恋人として十分に、紫原の気遣いを受け取っているのだ。
「ねー…ちん、さっき、手がどーとか言ったじゃん」
「あっ…え、う、うん……」
「……どーやってやんの?」
その問いかけがただの言葉ではなく、実際の仕草を披露することを要求しているのだとすぐにわかった。
そんなことはできない、という羞恥心が、を見つめる紫原の熱っぽい視線で溶かされていく。
「う……う、結構、夢中になっちゃってて…自分でも、あんまりよく覚えてないんだけど……」
言い訳みたいなことをつぶやきながら、ソロソロと下腹部に手を伸ばす。
スカートを小さくめくり、下着の上からもう充分に湿った粘膜に触れる。
「んっ…く……」
……アツシくんが見てる。
紫原の視線を意識して引きつりそうな指先で、たどたどしく自慰を再現する。
「パンツのうえから?」
「う…うん、直接よりも、いい…かなって……」
「ふぅん……」
ふぅん、という言葉の短さは興奮からくるものらしく、紫原はの手指の動きにすっかり見入っていた。
「はあっ…あ、ん……あ、アツシくん…っ」
「…………っ」
はいつもしているように、粘膜の頂点にある肉芽をゆっくり撫でつけていく。
最初はゆるゆると肉芽の周りをくすぐるように指を動かし、粘膜が充血してきたのがわかると刺激を強めていく。
「あ…だめ、すぐ…よくなってきちゃう……!」
「……ちん……っ」
の言葉に嘘はなく、いつも手癖でいじっているようなもので、肉芽を重点的に擦り立てるのも意識してのことではない。
ただ感じる場所を求めていくと、指はそこを這う。
「くふっ…だ、だめぇっ…あ、アツシくんが見てる…って、思うと、なんかぁ……!!」
羞恥心は感度を高める媚薬として働き、の快楽を普段の自慰よりも強いものにしていく。
「い…いっちゃ、う、はっ、あ…んぁっ…んっ、あ、あ…アツシ、くんっ……!」
「うっ…う、ああああああああ!!!!」
……が、脳裏に絶頂がちらついた瞬間に紫原の怒声が響いて世界が揺れた。
「はわあっ?!あっ、あ、はっ、わぁあぁっ…?!いあっ、あ、な、何ぃいっ……?!」
は宙に浮いていた。言うまでもなく紫原が抱いて持ち上げたのだが、奇妙なのは下腹部に激しい圧迫感があることだった。
「なっ…あ゛っ…あ゛あ゛っ……も、もう、入って、る…ぅぅ……?!」
「あ…が、ガマンしよーと思ったけどっ…やっぱダメっ……!!」
が慌てて自分の下半身に目をやれば、下着は横にずらされて、ゴムで覆われた紫原の肉茎がずっぷりと膣穴に差し込まれていた。
「いっ…いれ、た、の…アヅシくんっ…うっ、あ…あぁあっ……!!」
「痛い……?はっ、ちん、痛い……?」
「い、痛く…ないよっ……はあっ、び、びっくり、しただけぇ…い、いきなりだったからあっ……!!」
「ア……ごめ、ちんが自分でしてるの、すげーエロかったから…っ!!」
仁王立ちになった紫原に抱きかかえられる形での足は宙を離れ、その身を支えているのは膣穴に刺さる肉茎と紫原の腕だけ。
「うくうっ…くうぅっ、入っちゃってるぅっ…アツシくんの、奥まで刺さってるうぅ……!!」
床から離れたとまどいに思わず足を紫原の腰に絡めると、差し込まれた肉茎の大きさをより強く感じてしまう。
思わず震えて歯噛みすると、それを吹き飛ばすように紫原がの身を揺すった。
「おふっ…!あっ、あっ、だめっ、だめっ、ゆ、揺すっちゃやぁあぁっ!おかしくなるう〜〜っ!!」
「オレもおかしくなりそっ…なんだってばっ、く、あ、もーちんがエロいからっ……!」
「でっ、でも、アツシくん腕っ、腕だめだからっ!おろしてっ、持ち上げちゃダメぇっ、楽な体勢になってぇ…!」
の声で紫原はようやく自分の身体に起こったことを思い出したらしかった。
紫原が抱えたごとベッドに尻餅をつく形になり、自然と二人は向かい合った座位のような体勢で落ち着いた。
は自重のせいでいつもより深く食い込んでくる肉茎に混乱したが、すぐに快楽を見出して紫原の腰を脚で挟み込む。
「ん…ちん、ここが好きなんだよね」
「あっ、ああうっ…?!そこっ…やっ、あ、ア、いっ…あああっ!だめぇ…っ!」
左腕で紫原の体躯からすれば小さなの尻を抱えたかと思うと、テーピングされた右手はの股間に滑り込ませてくる。
押し入るときに横にずらしたショーツをさらに引っ張って布地を除け、張り詰めるクロッチでクリトリスを擦る。
「んくうっ…ひ、あ、ぱんつだめえっ…食い込んじゃうからぁっ、ぱんつ伸びちゃうからぁっ…!」
湿った下着が食い込んで肉芽を締め付ける感覚は、に強い官能を与える。
そしてクリトリスへの刺激に震えていると紫原が腰を突き上げて、内側から粘膜の充血を促してくる。
肉茎の先っぽが胎の奥をゴリゴリ押してくるたび、ねっとりした愛液が粘膜に絡む。
「うっ…あ、あ゛ーっ…ちん、中が何回もじゅくじゅくしてる…」
「いっ、言わないでぇっ!恥ずかしいのっ、あ゛っ、いいのと恥ずかしいのが混ざってわけわかんなくなっちゃうっ…!」
「はあっ…!でもオレこれ好きだから…ちんの奥にオレが当たってんのわかって、なんか…壊しちゃいそーなのに、なんか、すげー、嬉しいから…っ、つあ…」
当たってる、というのはも感じる。それが体のどこに相当するのかはっきりとは分からないが、紫原の肉茎がの膣穴をこじ開け、その奥にあるなにかグジュグジュしたものを先端で抉る。
「あっ…あっ、あっ、あ゛っ……!な、んだかっ…わ、私の感覚だと、アツシくんの先っぽと、私の奥が、ちゅーしてるみたいなのっ…あ、アツシくんが出て行くと、まだ、離したくないって、ぢゅ〜って…!」
「くうあっ…ま、まじ、そー…先っちょに吸いついてくる感じ…」
紫原の動きを受け止めるだけでは足らず、も腰に力をこめて身を揺する。膣穴で紫原の肉茎をしごきあげ、その摩擦でもたらされる快楽に自分自身も身悶えする。
「キス…んっ、私のなかとアツシくんの先っぽがちゅっちゅちゅっちゅしてるって思うと…お腹の奥が熱くなってきちゃう…っ!」
「あ゛…う、わかる、ちんの中、ぎゅうぎゅう締まってる…」
紫原がの尻を抱え上げては落とし込むペースが上がり、に射精が近いと訴えかけてくる。
はそれに合わせて、迫ってくる絶頂を逃さないように必死になる。
「いっ…う、あっ、あ、アツシくぅんっ…いつもみたいに…お腹の中でどくんどくんしてっ…私のなかで…」
「ん…?!そーするけどっ、言われなくても……!」
紫原がの足を閉じさせた瞬間、粘膜への充血が急に強くなったのでは目を見開く。
「あ、あしっ、だめっ、あ、ダメッ、いっ、わたし、先っ、いっ…ちゃ、あっ、あくうぅっ…うっ…うううーっ…!!」
膣穴の内側から擦られてこみ上げる血潮が、足を閉じると逃げ場をなくして下腹部に留まってしまう。そんな身体の構造を知る由もないは、一人で絶頂に放り込まれてしまうことを恐怖した。
「いっ、ちゃ、あ、ダメ、いやっ、いっしょがいいのに…!」
「い…っしょじゃ、なくてもいいじゃんっ!いっぱいよくなってよ、ちんのエロい顔見して…!」
「ああぁっ…ば、ばか、アツシくんのばかあっ…そんなこと言われたらあぁっ!!」
そう短く叫んだとき、は達した。ひときわ大きな快楽の波が一瞬で意識をさらう。痙攣するように仰け反って、気持ちよさに打ち据えられる。
「はあぁぁっ…はあっ…あっ、ああっ…」
「く…う、オレもっ…出ちゃう…あ、ちん……っ!」
それを追いかけるように、紫原の身がぴぃんとこわばる。
白濁が噴きこぼれるのが避妊具越しでもわかるほど激しい吐精で、はそれをふわふわした快楽の余韻の中で感じ取る。
「あ…つし、くん、いま思ったけど、私、アツシくんの…その、あれについて、全然話してもらってない…」
手を使わないという不可解な言葉を聞いた気がするのだが、詳細は煙に巻かれてしまったような。
「…それはいーじゃん知らなくてもー!いいじゃん、ちんに優しくするためのことなんだからさぁ…!」
「わたしにやさしく…」
アツシくんは私の想像以上に、いろんなことを我慢しているのかもしれない。私はその結果だけをありがたく受け取っているのかもしれない。
はふとそう思い至って、それ以上の問い詰めはしなかった。
知らなくても問題はないのだし。
「アツシくんが、私の大好きなアツシくんでいてくれるためなんだもんね」
「なにそのゆるふわな言い方ー…もー……」