「ちょ、ちょっとアツシくん……?!」
あれだけ激しい情事を終えたばかりだと言うのに、紫原はの身体を再び抱きしめる。
もしかしてこのままもう一度……というの考えは当たっていたのだが。
「ん……ちん、汗かいてる」
「あっ…だって……アツシくんもだよ」
「ちょっと流す?部屋にシャワーあるでしょ?使っていいの?」
「えっ?ええっ?!」
何かをひらめいた様子で、紫原はを抱いたまま狭いユニットバスの扉を開ける。
「アツシくん……?一緒にお風呂入るの?」
「んー……それもいーんだけど」
は半端に脱げていた服を紫原にグイグイ引っ張られ、あっと言う間に裸になってしまった。
その上紫原まで服を脱ぎ始めるではないか。
「ね、ねえ……どういう……?」
紫原のしようとしていることを理解できずに、は不安げにその顔を覗き込んだ……が。
「あ……」
……その瞳が不思議な酩酊を湛えるのを見て、彼の精神状態を理解する。
ついさっきまではもその坩堝にいたのだ。理屈より先に本能が察する。
いちいち説明するのも馬鹿らしくなるのだが先ほどのに次いで、紫原まで心理状態で言うところのフロー、いわゆるゾーンに入った。
入ってしまった。
……紫原は、己の心が求めていること、そしてそのために身体がなすべきことを、すべて把握している。
今の紫原の自由にならないものはない。
相手であるの身体のことだって、本人よりも理解しているかもしれない。
その上で、詰め将棋のように状況を整えていく。
「シャワーこれで平気?熱くない?」
狭いバスタブの中に二人で立って入り、シャワーの流水で互いの身体をすすいでいく。
最初はおっかなびっくりだったも、二人分の汗にまみれた肌を積極的に流している。
「………………」
がつま先までシャワーで濡れて、すぐには逃げられない状態になったのを見計らって……紫原は、行動に出る。
「ほら、ここも。オレがいっぱいいじくったから……」
「ひゃあっ!?や、やあぁっ!そこ……んん……っ!」
シャワーノズルを取り上げて、の下半身に押し当てる。
「キレーにしとかないと……」
「じ、自分で出来るからっ!あ、アツシくんが洗わなくていいからぁ……!!」
控えめに逃げようとするをやや強引に押さえつけて、温かい流水で足の間や柔らかな尻を、大きな手で洗っていく。
「やっ…あぁ……んっ、洗えるって、言ってる…のに……!」
……の方も、本気の抵抗はしない。
これから起こるであろうことへの期待もあるし、奇妙なトランスに突入した紫原に気圧されたのもある。
が、自分の身体を洗ってくれる端から紫原の股間がむくむくと充血していくのを目にして息を呑む。
「あ……アツシくん…ここで、二回目…するの?」
「うん、したい」
「う……ベッドじゃだめなの?」
「んー……ダメなの?」
「ダメじゃないけど……」
どんどんバスタブの端っこに追いつめられている間に、紫原は余分に持っていたらしい避妊具を肉茎にかぶせ始める。
「や、やっぱりベッドに戻ろうよ、ここじゃ狭いし…アツシく……んっ?!」
「戻ってもいーんだけど…汚れたとき困るじゃん」
そう言いながらシャワーを止め、紫原はの尻を左右に引っ張る。
…………だんだん、はこれから紫原が試みようとしていることを理解しつつあった。
――それだけは絶対にだめ。断らなくちゃ。
「わっ……」
「んっ……しょ」
「あ……あつし、く、ん……?」
紫原はの背後に屈み込み、コンドームをかぶせた肉茎を前にして、二つ目のコンドームの封を切る。
「な……なに、してるの……?」
「んー……いちお、二枚つけとこーって」
「……やっぱり、こっちで、するん、だ……」
尻の肉を割られて、その奥の襞をむき出しにされた状態で、は観念したようにこぼす。
「だいじょーぶ、オレ、ちんが痛いって思うことは絶対しねーし」
「そ…れは、うれしいけど…でも、でもダメだよぉ!おしりでなんて…ダメだよぉ……!」
「なんでー?」
「えっ…だ、だって、だって、すごく汚いんだよ?!言い訳できないよ?!すっごく、汚くて……」
「んー。だから、二枚重ね」
「〜〜っ…そ、それに、すごく痛いって…アソコとは、違う感じに、痛いって……」
「ん〜〜…ちんさあ?」
そう言って、紫原はちょっと濡れた前髪をかきあげ、の顔をのぞき込む。
「最初は、痛いのにウソついて我慢してたじゃん。オレなんかの大きいの入れちゃって、ぜってー痛いのにウソついて……」
「あ、そ……れは、その……」
……額を出して、大人っぽい雰囲気を醸す紫原に見つめられながら言われると、はもう照れるしかない。
「そんで、オレが泣きそうになってたらさ、言ったでしょ。慣らせば平気って。オレのものにしちゃっていいって」
「あっ……」
「言ってくれたじゃん。オレのにしていーって。オレ専用にしちゃえって」
「で、でも……」
断らなくちゃ……。
「オレ、アレ、すげー嬉しかったんだから……嬉しいの、もっと欲しい。ちんの、こっちも欲しい」
「でも…えっ……と……」
断らなくちゃ…………。
「や、やっぱり、汚いし……」
断ら……なくちゃ……。
「ヘーキ。さっき洗ったじゃん」
「で、でも絶対汚いもん……さわって欲しくな……んっ?!」
……俯いて消極的な姿勢に入ったの尻を、奇妙な感覚が襲う。
「ん〜……」
「ひゃあんっ?!ひゃっあ、あ、あああっ…あっ、あ、アツシくんっ?!」
「ん……っ…ん……んーーーー!」
「ひくっうぅっ?!やっやっやああぁあ!!そんなところ舐めないでぇっ!お願いっ…や、め……」
断ら……なく……ちゃ……。
「ひぃうぅっ…んくっ…くふっ…や…からだ…ちから、ぬけちゃ……あぁう……!」
汚い、と連呼するを蹂躙するように、紫原はの尻粘膜を、肉厚な舌で舐め回す。
「ひゃひっ…ひゃっ…おちりぃ…らめ…えぇ…あちゅしくんっ……んっ…あ…おぢり…だめ……!!」
「んぷっ…だめー?んっ……んーっ…!」
「だめっ、だめ、だめえぇっ!だめ、絶対だめっ……」
こと…わ…ら…な……く……ちゃ…………。
にゅるにゅるの舌が、決して急くわけではなく、しかし逃がすわけもなく、の思考を追いつめていく。
「ひゃ…んっ…おちり…ひくひく……しちゃって…なんで…ん……んっ…だめ…なのに……だめぇ〜…!」
「だめー?ちん、気持ちよくないのー?」
「き……もち、よくなんか……!!」
今度は尖った舌が、緊張で震える尻肉をほぐすように薄い皺の奥の奥まで舐め通す。
乱暴をする気はない。
ただ愛しいのここを自分の好きにさせて欲しい、という情熱を肉体に直接語りかけるかのような愛撫。
「よく……なく……なんか……ない…いぃいっ……!」
「ん……?」
「お…しり……あ…あちゅしくんに…舐められるの……きもち、いい……!!」
あー、言っちゃった。
は熱に浮かされながらも、どこか冷静に諦めた。
言っちゃった。
「そっか。きもちーんだ?」
「うくっ…ん……きもち…いい……おしりぃ…アツシくんの舌でペロペロされるの…すっごく…いいよぉ……!」
の方は、もうそれと認めてしまうと拒むだけの理由がない。必要もない。
「ちん、ちょーえろい…ちょーかわいー……やっぱオレ、ぜってーちんのココ、ほしい。もらう」
……ここはもう、アツシくんにあげよう。
そんないじましいのかバカなのかわからない決意を固めてしまうと、紫原の言葉は心強い恋人のものだ。
そうやってが抵抗をなくして身体が弛緩したのを、紫原は敏感に悟る。
の尻肉から唇を離して、代わりに指を優しく押し当てる。
「んみぅっ?!あ…んっ……はあぁっ……あっ?!舌…じゃない……?」
シャワーの水滴と、紫原の唾液の残滓がねっとりした感覚を作るので、一瞬戸惑う。
それだって紫原の予想通りだ。
「そー。こーやって撫でてると、舐めてるのと同じじゃん。痛くないよね」
「ああっ……ん、そ、そう…かも……あ、アツシくん、そんなこと、わかるの……?」
「わかる〜。ちんの身体のことなら、今はぜーんぶわかる」
実際に、濡れた指先で粘膜を撫でられるのは、舌で愛撫を受けているのと似た感覚だ。
この指がいつ無理矢理、きつい孔をこじ開けて入ってきてしまうのか。
そんな緊張がどんどん薄れていくのを、紫原はの肌越しに感じ取る。
「……ちん、きもちー?」
「んうぅっ…きもち…いいよぉ……!!」
くちゅっ、くちゅっ、と、巧みに尻穴の溝に指を引っかける愛撫を受けて、は震える。
濡れた指で撫でているだけの刺激が、いつの間にか緩やかとはいえ尻肉をこねまわす愛撫になっていることに気付けない。
「もっと言ってよ、いーって。オレの指、いいって」
「ああっ…あぅ……う…ん……くふっ…!あ、アツシくんの指…おしり…こねこねしてる…んっ…気持ち……ンッ?!」
そこまで口にした所で、はやっと異変に声を上げるが、それも紫原の想定内だ。
が目を見開く瞬間に、すっかり緊張の解けた尻穴に指をねじ込む。
「んひゃあっ…あくぅっ?!ゆっ…ゆび…ゆび……入って…えぇ……んあぁあっ……!!」
「ん……入ったよ、ちんの中、すげーあったかいんだー……」
が違和感に身構える前に、指を動かす。
の反応を至上の悦びだと感じながらも、紫原は冷静に事を進める。
二つの感覚は、今の紫原の中では矛盾せず、並列の場所にある。
かわいいを自分のものにする。
その帰結を迎えることを拠り所とし、の反応から得る官能を甘く受けながら、さらに感覚を冴えさせる。
「んあああぁっ…ど、どうしてぇ……っ!ゆびぃ…おしり、指、入っちゃって……んっ、は……あぁ…!」
「ん……ちんの中、あったかい。オレの指溶けちゃうかも」
そう言ってをやりこめながら指の動きを激しくして、の尻をぐじゅぐじゅにいじくりまわす。
「うくうぅっ…へ、へん…だよぉ…おしり…なのに、アソコ…上の方が、なんか…ジンジンして……!」
「うえのほー?」
「…う……上……アツシくんが、今、いじって……ない、とこ……」
曖昧な言い方は、今は詰問しない。
「ふーん。ちん…お尻いじると、上の方もよくなるんだ……」
「だって、そーなんでしょ?きもちーならいーじゃん」
「ううっ…ううっ……んんぅっ…いい……!!」
に自覚させれば十分なのだ。
「だめぇ…おしりきもちい……おまんこもきもちい……!!」
「……っ」
自覚すれば、の方から言ってくれる。
確信めいた予測が現実になったのを受け入れて、紫原は愛撫を激しくさせていく。
「あっ、あ゛っ……あちゅしくぅぅんっ……私、へんに…なっちゃったかも……おしりっ、おしり、ぜんぜん、こわくないいっ……!」
は快楽に悶えながらも、身体はすっかり紫原に預けている。
「……おかしくないよ、ちん、すっげーかわい……」
極限に研ぎ澄まされた精神をも砕きそうになる告白をどうにか受け入れながら、紫原は愛撫に熱を籠める。
巧みな前後運動の繰り返しと、恥骨の裏を粘膜越しに押し上げて充血を促す手管のおかげで、もはやの尻穴は快楽を覚えたてとは思えないくらいだ。
「お尻きもちー?オレにお尻触られんの、イヤじゃない?」
「い、いや…じゃないぃ…きもち…いいよぉ……アツシくん…もっと…おしり、もっと……!」
もはや返事のわかりきった問いを投げるのは本能でなく、の声によって愉悦を得たい紫原の欲望だ。
けれどもその動きに無駄はなく、わずかながらもが発声に気を取られた瞬間を見計らって挿入した指をどんどん引き抜いていく。
今の紫原は、最終目標から逆算した必要行程に含まれない余計なことだって、平然と行為に組み込めてしまう。
「そーだね…オレももっとしたい、ちんの中、入りてー……!」
興奮で荒くなる言葉と共に指を引き抜いて、収縮しきらないままのの尻肉に亀頭の先端を押し当てる。
「あんんうっ…ああぁ……!」
の唇からこぼれる声は期待にうち震えるもので、抵抗も不安も醸しはしない。
「ん…二枚重ねちったけど…でもわかるよ。ちんのお尻、すげー熱いんだね。オレの先っちょと、どっちが熱いかな……」
「いい……言わないでぇえ……!!」
普段より饒舌に、期待と欲情を煽ってくる紫原への恥ずかしさ。
が戸惑っているものがあるとすればそこで、しっかりほぐされた肛門にあてがわれた肉茎への拒絶はない。
「なんで?オレ思ったこと言ってるだけだよ。ちんがちょーエロくて、すげーかわいいって、言っちゃダメなわけ?」
「あぁ……ん、やだぁ…アツシくん、なんか…いつもよりぃ……!」
こうして言葉でからかうのもまた無駄な行程なのだが、が羞恥で身を縮めるたびに尻肉がキュウッと疼き、押しつけた肉茎の鈴口がちゅくちゅくと舐められるような微かな快感があるので、紫原はそれを楽しむ。
「入れるよ……ダメって言っても遅いから。いー?」
……楽しみながらも、僅かな機微を見逃さない。
の方もだんだんと、開きかけの尻穴に押しつけられた熱から意識が離せなくなったのを見計らって……。
「ダメなんて言わないよ!…ん……あつしくん、おねが…い、おしり、入れてぇ……!」
そうやって言わせてしまって、が無意識に持つ心の楔も自ら解かせるのだ。
「ん……ちん、大好き」
「あっ……」
身体が震えるほどの歓喜は重ねた唇に託し、紫原はついに、勃起しきった肉茎をの腸壁に埋め始めた。
「あ゛っ?!ハァッ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああぁああああーーーーーっ!!」
のか細いのどが裂けそうな絶叫が響く。
怯んではいけない、この悲鳴に臆して遠慮などすれば、さらにをつらい目に遭わせることになる……と、紫原は直感で悟っている。
「く……っ、くおっ…く、うぅっ…く……!!」
だから歯噛みし、ありったけの力を籠めての腰を押さえ込む。
行き場をなくした抵抗はの中で潰れ、やがては強引に突き入ってくる紫原に根負けして受け入れる形を取る。
「〜〜〜〜〜っ……っ、は、あ゛……おっ…ふ、ああ……はいっ…ちゃ……った……ハアア…!!」
ざらついた呼吸をするのお腹に手を当て、紫原は自分の肉茎が、もはや腸壁を通り越して腑臓を小突くまでに達していると悟る。
「ううっ……ン…あ…あつしくんのが、お……おぢりにぃい……!!」
「はあっ……うん、入っちゃった……あ…ちん……すごいよ…お腹の中、すっごく張ってんじゃん……!」
「そ…れっ……んうぅうっ!おっ、あっ、おっおぉ……!!うごいちゃだめええぇ…!んぉおっ…おぢり…おぢりぃいいっ!!」
押し入った勢いのまま、少しずつ腰を使って抽送を始める。
の震えを、自分の一番敏感な場所を使って確かめていく。
がかろうじて快楽を得られるのは、尻穴の出入り口あたりを亀頭のくびれが刺激するときだけのようだった。
「つ……!これ、ちん…マジ、無理しっぱなしじゃん……あ、つあ…やべえ……!!」
「へああ?!無理……?わ、わたし、無理…?お、しり…アツシくんの…むりいぃ……?」
が苦悶の中で、絞り出すように紫原に問いかける。
「……いや……!」
そのいじらしい言葉によって、ふいに濁りかけていた紫原の感覚は、瞬く間に鋭さを取り戻す。
「いい……平気、無理じゃねー…し、ん……ちんの中、すげー、いい……」
「ほ……ほんと……に…ぐううぅ……うぅうっ…いい?おしり…いっ、いい…?」
「うん……ホント…いいから、ちんも……!!」
「んひゃっ?!あ゛ッ?!あ゛あ゛あ゛う゛ぅ゛?!」
本能が取らせる行動は忍耐でも脱却でもなく、一層強く肉を突き込んで、の内臓を圧迫することだった。
暴れる余裕もないほどを抱きしめてから腰を浮かせ内臓の内側から、の恥骨の裏を押し上げる。
「あ゛ぎぃいっ?!いっ、いまっ…いまのぉおっ……なにぃいっ…にゃにひぃいいっ?!」
問いには答えずもう一度。
規格外に大きな肉茎で、の腹の内側をごりごり押しつぶす。
「あっ…あっ…ああぁああぁっ?!ダメえぇっ!それ、ダメっ…だ……あ…だ……あああぁあーーーっ!!」
「スゴ……ちん…内臓まで痙攣してんじゃん〜…!やば、オレ、ちんの中…ホントにオレのにしちゃったかも……」
紫原を支配するのは、焦りではなく大きな悦びだ。
腸壁から膣穴を刺激して血の途を何度も何度も押し上げることで、のクリトリスが触れてもいないのに勃起を始める。
もう紫原は、の肌だとか粘膜だとかよりずっと深い附臓の底まで支配して、強制的な快楽を与えることを可能にしていた。
「あぢゅしくぅうんっ!あちゅしくぅううんっ……!!私っ……私っ、あ、よ……く、わかん…にゃあぁあっっ…へ、んな…コト、に、なっちゃうぅ……!!」
……その一歩間違えれば拷問に至る行為を愛の証拠と決めるのは、なによりの心なのだ。
「はあ゛っ…やば…ち……オレ、一生めんどーみるから……だからオレのになって!なって!なるよね?!」
「なりゅう〜〜っ!にゃるうっ、にゃるっ、わらひあつしくんのものになるううっ!!」
の横隔膜が震え、唇から胃液がどぼどぼこぼれていく。
もはや苦痛も快楽も区別のない、ただ愛する人による支配を悦びとする精神状態にある。
極限の肉体動作を促す紫原に、誇張でもなんでもなく内臓を弄くり回されることで、の身も心も同調したのだ。
「あぢゅしくんっ、あぢゅひ…ぐ…わた……し……イィイイッ…ぐ……ううぅうぅううううぅぅっっ……!!」
ともすると発狂さえ恐れない領域で、二人は死よりも熱い絶頂を迎える。
すべての生が止まるのではなく終わる、穏やかな死の瞬間を迎え入れ……そして緩やかに始まりへと戻り、二人に生の息吹が与えられる。
「……わかっちゃった……なんだか…なんでだろ……?わたし、どーやってうまれてきたか、どーやって死んじゃうのか……ぜんぶ、わかったと思う……」
「……そ?」
「へんなこと言ってるね…私……でも……でも……はぁあぁ〜……!!」
大きなため息を吐いて、は弛緩しきった身体をほんの少し動かそうとする。
「だめ、まだ」
「んっ……!」
ユニットバスの中で、紫原がの身を撫ぜる。
「まだ、動くのに慣れてないよ」
口にこそしないが、紫原だって不思議な気持ちの中にいた。
の中で絶頂を迎えた瞬間、死と生の、清濁の差異なき流れが記憶として頭にすべり込んできた。
自分は男で、は同い年の恋人だというのに、胎動を感じ、が自分の中で育っていく感覚さえあった。
逆にの胎内であたたかな海に抱かれた記憶も確かにあり、ついさっきの僅かな瞬間に、紫原はのすべてを識ったとすら思える。
……その感覚の残滓に頼るなら、は死を感じさせる激しい絶頂と柔らかな生の濁流に挟まれて、ようやくうつし世に輪転したばかりのか弱き存在だ。
「そう……かな?」
胸板にもたれてくる頭を、紫原は無言で撫でる。
二人で触り合って、ようやくそれぞれの身が形を理解し、自らの生を実感して再び動き出す。
「……これ、神秘体験じゃない?」
「んー…そー、かも……?」
……だんだんと余韻が引いていくと、そんな一瞬の経験を振り返ることよりも、淫猥な匂いの籠もったバスルームの後始末の方がよほど重要だと気づくのだが。
使ったゴムを見つからないように処分して、身体はきれいに洗って、素知らぬ顔で、ホテルから出てしまわないと。
……そう、思うのだが……。
「もー、一歩も動けない……」
「私も……疲れちゃった…………」
……よもや揃ってバスタブの中で眠ってしまい、数時間後に携帯の着信音でたたき起こされる羽目になるなど。
……寝息を立て始めた二人には、わかりようもなかったのだ……。
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ジャンネクのむっくんが可愛カッコよくて、結局書くのか書かないのかはっきりさせてなかった前回の夢の続きを書いちゃったですでへへ。
すごいバカにかけて幸せ。
エロさも多少はでてるといいなあ。