「う〜っ……おなかすいたぁ……」

一人歩きながら、紫原はつぶやいた。
紫原にとって初経験の東北の冬は、なんというかこの世の終わりであった。
が、建物はその寒さを見越して二重の窓や床暖房の設備が揃っている。
床暖房。なんと床板の下に水が入っていて、それを沸騰させることで床が温かくなるらしい。
足下がぽかぽかすると自然と体中が暖まり、あれだけ外が寒かったことなど忘れるほど。
……酷寒の屋外から室内に戻ると、天国だぁ、と実感する。
そー考えるとバランスとれてんのかなぁ……なんて適当に思考を泳がせても、ダメだ。

「おなかすいたぁ……」

空腹。ひもじさ。
今現在襲われている感覚を忘れることはできない。

購買で何か買えばいい……のだが、紫原が今食べたいのは、お菓子ではなくご飯だ。
温かくて、一口一口が重たくて、しっかり食べたぞ、と体に染み渡るもの。

「うーん……」

とすると購買に行ってももうパンや弁当は売り切れだろうし、土曜日なので学食はやっていない。

「あ」

……ふと、ひらめく。
の部屋に行こう、と。

「えっへへ……いいタイミングだよアツシくん!」

……女子寮のの部屋の窓を外から覗くと、大歓迎された。
ちょうど同室の娘は出かけてしまったらしく、部屋にと二人きり。
その上はカセットコンロの上に土鍋をセットしている真っ最中だった。
鍋で煮える白湯のスープ、立ちこめるいい匂い。
まさしく紫原が求めていたものが、そこにはあった。
ああオレ、ごはんっていうか、お鍋食べたかったんだ。
なんてしみじみ思う。
兄弟の多い家庭で育った紫原は、大勢で囲う料理にはあまりいい思い出がない。
まごまごしていると食べたい具材はなくなっているし、
逆に上の兄弟が「敦にもあげなきゃダメだろ」なんて恩着せがましく、別に食べたくもないものを皿にたっぷり乗せてくるのも嫌だった。
……でも、食べないと空腹は満たされない。
兄弟みんなが嫌っていたニンジンを鍋汁と一緒に皿に山盛りにされ、拗ねながらかじっていた記憶がよみがえるから、紫原は今ではニンジンが大嫌いだ。
出されたって絶対に手をつけない。

「アツシくん、菊は好き?」
「きく?」
「そ。春菊じゃなくて、食用菊。お花のとこ」
「え、なにそれ。食べんの?」

鍋が煮えるのをひたすら待っていると、にこにこ顔のが皿に何やら黄色いものを盛って戻ってくる。
彼女が言うに、これが「食べられる菊」らしい。
花びらの部分を湯がいて、醤油だのポン酢だのにつけて食べるそうだ。

「む……」

恋人があまりに嬉しそうに差し出すものだから、ひとくち口に運ぶ。
……なんというんだろう、鼻に抜けていく匂いは、まさしく菊の花だった。
なのに、しゃきしゃきもぐもぐ……という食感はほうれん草のお浸しみたいだ。
菊だよ、と言われていなければ変な風味のする野菜、程度で片付けただろう。

ちんはこれ、好きなの?」
「うん!あんまり売ってないし、学食でも出ないんだよね。食べられないってわかると食べたくなるっていうか……」

もむもむ……と、は幸せそうに菊の花を咀嚼する。

「じゃ、あげる」
「え?あ……あんまり、美味しくなかった?」

……は、自分の好物が恋人の口には合わなかったのか、と危惧したのだが。

「ちがうー。ちんが好きなら、ちんが食べて」
「……いいの?」
「うん」

そもそも感情表現は子供っぽい彼のこと、不味いと感じたなら口に入れた瞬間に大きく顔をしかめるはず。
それがの好物でもなんでも。
……それに紫原の顔は、どちらかといえばとろんと、幸せそうにゆるんでいた。
それをふまえて、笑顔で皿を受け取る。

「お鍋もそろそろいいよ。ほら」
「わ」

土鍋の蓋を開けるなり立ちこめる湯気と、食欲をそそる匂い。
紫原の瞳がきらきらと輝くのを、今度はが幸せな目で見つめる。

「どれ食べる?」
「あ、いー。オレ、好きなの取る」

おたまと小皿は、そのまま紫原の手に渡った。
紫原にとって、これはある種の祈願の達成だ。
ここには口うるさくマナーを注意する親も、自分の食材を奪い取る兄弟も居やしない。

「アツシくん、お鍋好きなんだ……私も好きだなぁ」

いるのは可愛い恋人だけ。
その上で、好きな具を好きなだけ皿に盛っていいのだ……!!



……土鍋はすぐに空になった。
満腹というほどの量ではなかったのに、二人で分け合った食事は紫原の心を満たし、身体もすっかり暖めた。

「ん……」

が机を畳み、コンロと食器を片付けに行ってしまったので手持ち無沙汰になる。
紫原は満足の及ぼす多幸感に任せ、のベッドに横たわる。

「あ……」

眠いから寝よ、とピンクのカバーが掛かった枕に顔を押しつけた紫原は、ちょっと後悔した。
鼻腔にの匂いが入ってくる。
枕だけではなく、毛布やシーツからも、なんだか甘い匂い。

「やば……これ……」

そう言えば、の部屋のベッドに横たわるのは初めてだ。
「女子がコッソリ男子寮に」と「男子がコッソリ女子寮に」では罪の重さというか、お目こぼしの度合いが違うのだ。
紫原ほど目立つ人間ともなれば、そもそもコッソリ出来ているかどうかもあやしい。
たまにの部屋にやってきても時間制限付きで、すぐに帰る羽目になっていた。

「オレ……やばい」

ただ恋人の匂いに包まれただけなのに、下腹がぶるっと震えて……紫原の脳裏は、背筋を通り抜ける気持ちいい感覚を連想した。
殆ど無意識に手を伸ばし、指先でズボンの上から股間を引っ掻いてみる。

「う……ん、く……!」

まだ大きくなってはいない。
紫原の性欲は、服の下でまだまだ謙虚に治まっている……の、だが。

「や、ば……今、ダメなのに……」

軽く身じろぎすると、またの匂い。
鼻腔を甘い痺れに奪われると、陰嚢の奥がジンジンした。

「これ……アレじゃん、今……ちんの部屋なのに……」

軽い絶望感と焦燥が紫原を支配するが、もう遅い。
下腹部に熱が集まり、ズボンと下着を苦しく思うほどに膨れ上がっていく。
まさか今ここでいつものように、「中に溜まるやつ」を出して縮めるわけにはいかない。
だってここはの部屋なのだ。
……でも……。
ふと、肉欲に乗じて悪魔が紫原の心に入り込んできた。
いつもしているように、丸めた毛布や枕を股間にあてがい、へこへこと腰を振り肉茎を擦り立てる。
それをの寝具でやれると言うなら……どんなに興奮するんだろうか。

自分の腹部と寝具に圧迫される肉茎は、最初のうちは痛い。
けれども勃起してくると、敏感な亀頭が擦れ、服の中でもみくちゃになる快感の方が強くなる。
自慰なんて元々こっそりやるものだし、特に紫原はその自覚がないのだ。
「よくわからないまま気付いたら身に付いていた排泄行為」で、人に見られるなんてとんでもない。
絶対に嫌だ。恥ずかしい。とにかくヤダ。
……なのに、その羞恥と嫌悪を追い越しそうだ。
が普段寝ている布団の上で、彼女の匂いや、僅かに残る汗を堪能しながら気持ちよさを味わえるのだとしたら……。

「…………っ」

流されちゃえよ、と肉体の悪魔に後押しされた紫原が、のベッドに乗り上げると。

「アツシくーん、お茶……」
「あ……!」

謀ったようなタイミングで、が姿を現した。

「あれ?眠くなっちゃった……?」
「い、いや、違うし。別に眠くないし、ぜんぜんだし」
「そうなの?あのね……えへへ、お茶飲む?紅茶とか好き?」

同室の友達がね、帰りは夜になるんだって。
ウキウキ顔でそう語り、ケトルでお湯を沸かし始めるを、紫原は後悔と落胆の板挟みになりつつ眺める。
一度肉欲にまみれると、さっきまでは気に掛けなかった恋人の身体のあちこちが目に付くようになる。

長袖の裾から出た手指は柔らかそうだ。
あの手で一番最初のときのように、また自分を握ってはくれないのだろうか。
ジーンズ越しでも肉付きのよさがわかる尻は、部屋を移動する度にいちいち自分を誘惑するように揺れる。
オレ知ってる。ちんはお尻の谷間も柔らかくて、押しつけるとすっごく気持ちいい。

……そこで、ティーカップを持ち出すに手を伸ばし掛かっていることに気付いて……紫原はふと我に返る。

ダメだってばそんなの。
それって、オレじゃなくてオレの下半身の意思じゃん……。

のことだから、紫原がしたいと言えば絶対に断ったりしない。
未だに慣れない膣穴に肉茎を無理矢理ねじ込んで乱暴に突き回したって、どうせ死ぬほど痛くてもかぶりを振るのだ。
ぜんぜん平気だよ、と。
なら、我慢を学ばなければならないのは自分の方だ……と紫原は思う。
心から想いが溢れ、そしても紫原と抱き合って淫らなことをしたいと思っている場合ならまだしも、
こんなただの生理現象というか、反射神経というか、事故みたいに勃発した欲求をぶつけるのはさすがに申し訳ない。
これは自分で処理してしかるべきだ。
でも……でも、そうだとしても、今も大きくなりっぱなしの下腹部は、どうすればいいのだろう。

「あー……ちん、もう、あのさ!」
「うん?」

飴色の液体をポットに注いでいたは、紫原の焦りを帯びた声にキョトンと顔を上げた。

「で、出てって」
「え」
「あっ、違う、間違えた……違う、オレ、ちょっと外行ってくるから……」
「え、え?なんで……?」

の中の幸せが急激に萎んで、悲壮感に打ちひしがれる面貌になる。
紫原はそれをきちんと見ていて、ちんは自分に否があると勘違いしている、とわかったのだが……。
今はその誤解を解くのすらもどかしい。
あんまりこの欲を持て余し続けると、いよいよ自分はなにも考えられなくなり、下半身の言いなりになってしまう。
覚えたての快楽を求めるただの性獣として、に暴力じみたことをしかけてしまう。
そんな恐怖と焦れったさが、紫原の中で膨れていく。

……自分がデカイのは、全然いいのだ。
タッパで損することはある。まず服がない。靴もない。
天井にぶつかり布団には足が納まらない。
そういう不都合にいちいち目くじらを立てるのはずいぶん前にやめた。
気にして腹を立てたところで、もう紫原の身体は大きくなることはあれど縮むことはないのだ。
好きな異性のタイプは、とふと誰かに尋ねられたとき、背の高い子、と答えたのは、その方が不都合がなさそうだったからだ。
……けれどそう言いつつ、紫原は別に背の高い娘が気になるわけではなかった。
だって、もうオレくらい大きいと、女子の「背ぇ高い」なんて意味ないんだよ。
150センチでも160センチでも変わんない。
ってゆーか170センチでもあんまり変わんない、180くらいあったらやっと目線が同じになるかなーって。
でもいないしそんなでっかい女子。
だいたい、好きになった子が好きなタイプなんだからどーでもいーじゃんそんなの。
自分が損するだけなら構わない。もう慣れているし。
でも、紫原の行動一つがの物理的な負荷になるというのはどうしたらいいのだろうか。
……と一緒に歩いて歩幅の差でよく彼女を置いてけぼりにしてしまうことも、
腕を組もうとするとなんだか自分がを引っ張りあげて強制連行しているような絵面になってしまうことも、気にしないつもりでいた。
が、性行為についてはもう、紫原自身も自分をだませない。
自分が快楽を求める行動は、にとっては暴力の域なのだ。
この間だって気をつけていたはずなのに、ふと我に返ったらは疲労のあまり立てなくなっていた。

「……っ」

好きでなったんじゃねーよ、こんな身体。
自分のことを嫌いなわけではないが、こんなもどかしさに身を焼かれるとなるとやり場のない怒りが沸いてくる。

「……アツシくん、私、何かしちゃった……?」
「した」
「え……っ?!」

いい加減おかしくなりそうな程ひたすら熱を集め続ける下腹部と、それを抑圧できない自分に対する憤りに任せて、紫原はの腕を掴みあげた。

ちんはオレのこと、おかしくした!」
「えっ?え……ええっ……?!」

狼狽するをベッドに引っ張り上げ、悲鳴を上げる間さえ与えずに組み敷く。
もはや隠すことはできないし、必要もない。
馬乗りになられたは、肋骨をゴリゴリ押してくる紫原の肉茎に気付いていた。

「あっ、あ……や、これ……」

目を白黒させながらが身じろぎする。
その些細な動きも麻薬じみた刺激になって、紫原の背筋を突き抜けていく。

のことは大好きだ。
けれど大好きなだけではこの分不相応な欲望を解消させることはできない。
が悪いわけではない。
どちらかといえば……紫原は、全面的にオレが悪い、と思っている。

自分が大きいのは背や手足だけではないのだ。
高校に入ってから、本人の名誉の為に名前は伏せるが、一学年上の先輩がなぜかトイレの時についてきて、紫原の手許をのぞき込み、おお……とかぶりを振ったことがある。

「アツシ、お前はもっと自分のことを考えた方がいい。その大きすぎる主張は、きっとアツシだけじゃない、いつか結ばれる恋人を巻き込んで、乗り越えるべき苦難になる」

その時はなに言ってんの室ちん(あ、名前が出てしまいました)と呆けた紫原だが、今ならわかる。
避妊具のことで薄々察してはいたが、自分の肉茎は特別大きいのだ。
周りと比べて大きいとか、自慢になるとかいった領域を優に超えた奇形。
室ちんはたぶん、こんなでかいの、ちんに入れたら絶対傷つけるって言いたかったんだなー。
などと考えると悔しくてしょうがない。
だって、それでも入れたい。とひとつになりたい。
……その想いを抱くようになってからは、不意に股間が熱を持つことがやたらに増えた。
想えば想うほど欲しくなるのに、それが相手にとっては苦痛でしかない。
そう思うと、もうなにか、難しいことや未来のことなんか、考えるのがひどく億劫になってくる。

ちんのせいなんだからさあ!」
「うっ、ん……うぅ……?!」

片手での腕を押さえつけ、もう片手でズボンを脚から引き抜く。
とたん押さえを失った紫原の肉茎が露出し、の胸の谷間をベタンと叩いた。

「あ……アツシくん、いつからこんな……?」
「もうずっと!ずっとこうだった!苦しくて、もーオレ……」
「うひゃうっ……?!」

は思わず目を見開いた。
紫原はパンパンに張りつめた肉茎を自分で手にしたと思うと、まるで脅すように先端をの口許にグイッと押しつけたのだ。

「大きいでしょ、オレの」
「うっ……え、う、うん……」

付き合ってきて、こんなに紫原の意図が理解できないのはにとって初めてだった。
ひとまず事実ではあるので頷いたが、は押しつけられた肉茎と紫原の顔を交互に見るしかない。

「あ、わ、アツシくん……!」
「っ、う……!」

そして見ている間にも紫原は興奮を増していって、肉茎の先から透明な粘液が溢れてくる。
構わず紫原はぬめる鈴口を近づけたが、の吐息が亀頭にかかったのがこそばゆいらしい。
身悶えして、ほんの少し腰を引く。

「あ、アツシくん……苦しいなら楽になろ?え、エッチ……しよ?」
「……は……?」

アツシくんのバカ、怖いの、もう痛いのはイヤ。
そう突っぱねられることを覚悟していた紫原は……なんとも拍子抜けしてしまった。
ここでが泣いて嫌がって、もうアツシくんなんかキライと言うのであれば、紫原には大義名分が出来るはずだった。
嫌われたんだから、もうしょうがない。
自分のことを嫌いな奴に配慮なんかする必要もなし。
あとはが泣いても叫んでも、膣穴にこの異形の拷問道具を出し入れして、腰の奥が空っぽになるまで吐精し続ければいい。
その後のことなんて知らない。
が壊れても、自分がこの学校にいられなくなっても……少なくとも今の、ジレンマで身動きが取れない状況よりずっといい。
……そのくらい考えていたのに。

「あんまり詳しくないけど……一回出せば、ちょっとは楽になるんだよね……?」
「うわっ、ちょ、ダメ!」

紫原の肩すかしからの狼狽など気付かぬ様子で、が膨れた亀頭に指を乗せた。

「あ、アツシくんの……」
「ちょ、ちょっ、何してんの?!」

そのままは鈴口のまわりを指先で撫で、ねとつく先走り汁をすくい取っていく。
その手つきはソワソワと落ち着かなげではあるが、許しを請うような怯えは感じ取れない。

それどころか、指に絡んだ粘液を、はふと口許に持っていって……。

「んむっ……しょっぱ……」
「あっ……あっ、あ……」

自分の憎むべきグロテスクな器官から滲んだ汚猥を、恋人がおいしそうにペロペロ舐めている。
その様子を見ていると、さっきまでの破滅的で、暴力的な欲求はなりをひそめていく。

「ば、ばっちいよ、そんなの……」
「ううん」

すっかり俯抜けながら咎めても、は気にする様子がない。

「舐めてみたかった、これ……ん」
「え、なんで?なんでそんなん、汚いってば」
「汚くないってばっ……アツシくんは……その……」

は真っ赤になって、紫原に組み敷かれたままの両足をモジモジさせた。
腰が浮いてなにかを求めているのが、紫原の身体に伝わる。

「私の……あ、あそこは、舐めてくれるっけさ、なしてアツシくんのは……うぅっ」
「え?なし?え?ちょ、なんて言ったの?」
「だあぁああだからあぁあ!私のアソコは舐めてくれたじゃん……汚くないって、吸ってたいって言ってくれたじゃん……!」

普段は抑えている訛りが出てしまった羞恥心も手伝って、は大声を上げる。

「アツシくんの、もっと舐めたいのっ!」

……そして勢いに任せた直後に、いやこれはダメだろう、と目眩に襲われた。

「あっ、あ、もっと舐めたいっていうか、その…それは、イヤじゃないって意味で……」
「…………」
「わひっ?!アツシくん?!」

……紫原は、本能としか言いようのない情動での下腹部に手をやった。
服の中に手を入れ、下着一枚隔てただけの秘処を探り……。

「あ……」

そしての秘処が、淫猥に湿っていると理解して……アレ、と首を傾げ、同時に下腹の疼きが激しくなるのを感じる。

「なんで……え?どして?ちん、気持ちよくなってる……?」

さっきまで自分はを脅していたのだ。
愛撫のたぐいをした覚えはない。

「だって……アツシくんがぎゅってするし……オチ、違っ、アソコも、押しつけてきたから……」
「いやそーだけどさ」

それはを萎縮させ、我が身の破滅と同時に犯してやるつもりだったからだ。
そんな脅しで興奮などしないだろう。
は紫原の肉茎をねじ込まれる苦痛を思い出して竦んでいたはずだ。

「んくっ……するのかなって……エッチなことするのかなって……あの、私……」

エッチなこと……?
紫原の頭は、大量のクエスチョンマークで埋め尽くされた。

「え、じゃ待ってちん、ちんはオレにぶっ潰されてもいいの」
「ぶっつぶ……?」
「いや、あ、そーじゃなくて、オレは……」

さっきまで一人で抱えていた暴力衝動がにばれると思うと恐ろしかった。
紫原は慌てて言葉を訂正し、なんとか……なんとか、の感じ方を理解しようとする。

ちんはガマンするけど、痛いじゃんっ」
「え?あ、えっ、あ、うん……まあ……」
「痛いのわかってるクセに、どーして嫌がんないの?」
「え……それは……」

どうして……と、面と向かって尋ねられればも困ってしまう。
……思わず首を傾げたが、その拍子にふと、一連の紫原の行動に合点が行った気がして……。

「ああ!アツシくん、私のこと、心配してくれてたんだ……」

まあ……行き着いた答えは、ちょっとズレているのだが。
紫原は居心地悪そうに、それでも隆起したままの肉茎を片手で支えから目をそらす。

「平気だよ、アツシくん……」
「わ……ちんっ……」

は身を起こし、自分の下着をずらして見せる。
最初のうちこそ恥ずかしかった…いや、今も十分恥ずかしいが、自分を慮ってくれた恋人へのお返しだ。
まごまごしていたら伝わらない。

「あの、その、私は経験ないけど……こ、ココって、赤ちゃん出てくる穴じゃん……?」
「え」

そう言って割れ目を左右に開き、にちゃ、と湿った音を立てる粘膜をかきわけ、自分の膣口を紫原にさらす。

「に、人間って進化するじゃん?あの、私はやってないけど……バスケしてると手がおっきくなるとか、言うよね……」
「それは……」

幼い頃から一定の競技をやり続けていると、それに向けた身体になっていくとは言うが。

「だから、私の…おま……ちがっ、あ、あの、ここ、まだ小さいけど……アツシくんと、もっといっぱいすれば……」
「…………っ」

興奮で……紫原の喉が鳴る。

「ここはアツシくんの、お…オチンチンを入れるトコなんだよーって、身体が、覚えるんじゃないかなって……」
「……いいの?」

食い入るようにの秘処を見つめ、肉茎を手で押さえながら、紫原が距離を詰める。

ちんのココ、オレのにしていいの……?」
「……っ、ん……!」

今度はが興奮のあまり、キュウッと身体を捩らせた。
紫原に言葉責めだのという概念があるとは思わない。
だからこそ、今の台詞は、本能的に、アツシくんが心から思って、言ってくれたことで……。
そう思うと、腰のあたりに甘い痺れが走って仕方ない。

「うんっ、して……!私、アツシくんのになるぅっ……!」

そう言ってがしがみつくものだから、紫原はもう抑圧なんかしなかった。



「ンッ、ンッ、んぅうう……!!」

ベッドの上に仰向けになったの腰を大きく持ち上げ、ゴムで覆った肉茎の先っぽでこね回す。

「んくっ……あ、アツシくん、よく見える……?」
「見える、ちゃんと……」

の愛液と、あらかじめゴムに薄く塗られた潤滑油。
それにプラスして後から垂らした粘度の高いローションを、紫原は亀頭に乗せるようにして、の粘膜に丹念に塗り込める。

ぬちゅ、ぬちゅ、と鈴口と膣口が擦れ合う音と、粘膜同士の密着の快感。

「はあぁっ…ちゅくちゅく言ってる…アツシくんのぉ…!」
「ん……っ、ちん、もっと…力……」
「う、うんっ…抜いてる、抜いて…は、あッ?!あーーーッッ!!!」

むやみに侵入しないようにさぐり合っていた亀頭が、が深く息を吐いた瞬間にずぢゅっ、と深くめりこんだ。

「あっ…入っちゃ、った……ゴメ、ちん……っ」
「あっ……あ、かッ…あ、アァ…ああ……!う、ああ……!」

大きな杭が自分を広げていく感覚はやっぱり慣れないもので、の口からは奇怪な声が漏れてしまう。

「んアッ……ぐ、あ……んっ!あ、あつしくぅん……!」

が、吐息と同時に紫原の顔を見上げたら、の膣は痛覚ではないものによって締まり上がった。

「うわっ、いきなりギュッてなった…ちん……?!」
「ああっ、やっ、やっ、や、は、恥ずかしっ……やぁ、やぁあ〜〜っ!!」

紫原の顔が、思っていたよりずっと嬉しそうで……それを見た瞬間、モゾモゾとした何かがの下腹で疼いた。
痛覚、圧迫感、アツシくんと結ばれるうれしさ。
そのどれにも該当しない……もっと明確な快感が、胎の奥からぐんぐんこみ上げてきていた。

「あ、つし、くんっ、ダメ、私、これ…やばい、かもぉ……!」
「ん…?!痛い?抜く……?」
「ちっがう、気持ち……いいの、きてるっ……!」

そう口にしたとたん、膣内の紫原もギュルッと引き締まった。

「あッは、アツシくんも、ぎゅ〜って……!」
「やっば、ちん、ちょ……いい?!」
「えっ……っ、あ、う、あ、ああぁーーーッッ?!」

紫原が、を完全に抱き上げてしまった。
の身体は宙に浮いていて、紫原に支えられているだけだ。

「あわっ、あ、これ、これぇーーっ?!」
「もっとしたいっ、もっとちんの中にゴシゴシしたい……っ!」

半身寝かせているより、完全に持ち上げた方が、の膣壁を肉茎のいい所に当てられるらしい。
ベッドに膝立ちで、カンガルーの親子かおまえら、という体勢になってしまうと、腰を打ちつける間隔が早くなった。

「おなかっ、おなかやぶけちゃううっ……やぶけちゃう、のに、なんか、奥ぅうぅっ……!」
「ん……ちんの中、オレの抱っこしてる、離してくんない……すっご……!」

ぢゅぼっ、ぢゅぼっ、ぐぢゅぼぉっ……と、一往復ごとにまとわりつく体液のねばつきも、お互いの熱も上がっていく。

にもう苦悶はなく、今はただひたすら、突かれるたびにお腹の底からわき起こる「じゅわじゅわ」に心奪われていた。
必死で紫原にしがみつき、この気持ちのいいのをもっともっと与えてくれと膣穴をわななかせる。

「やばい、ねえ、これ、ちん、オレ…やばいよ……」

今までにないほどほぐれた膣肉の刺激で歓迎され、紫原の肉茎はさっきからゴムの中で射精のように何度も先走り汁を噴き出している。
もうすぐ出る、という予兆はあるが、今はの膣内に包まれたまま、射精の直前の敏感な状態がずっと続いていた。

も紫原も、もうどちらの身体が震えているのかわからない程とろけ合っていた。

「あちゅしく、ん、わ、あぁっ、あッ、あッ、わたしっ……ヘンになるぅぅっ!」
「なっちゃって……いいから、ヘンでいいから……!」

そう返され、安堵と快楽に身を任せた瞬間……の膣内で、紫原の肉茎が大きく跳ねた。

「んああぁああううぅッッ!私、イッちゃ…あ、あああぁはあぁーーっっ!!」

……二人一緒に、強く張られた弦のように身体を痙攣させきった。
弛緩するのもほぼ同時で、もつれ合いながらベッドにへたり込む。

もうお互い余計なことを気にしたりしないほど……満ち足りていた。