……黄瀬くんは潜在的にゲイなんじゃないのかなあ。
という考えは難しく横文字で表すとホモフォビアとなるんだろうか。
いや、だって、イヤだというより悲しい。
もし彼が男性を欲情の対象として見ることのできる人であるとしたら私がいらなくなる。
黄瀬くんのような人たち……というか、大ざっぱにいってスポーツマン…行動的で、かつ女の子に持て囃されている男の人たちというのは…なんというのか、
友情とか深い絆とか、そういうものは男友達チームメイトで事足りてしまって、
それ以外の満たされぬ部分をちょろりと女によって補充しているような具合な気がする。
だいたい女なんていうシチ面倒くさいものに男の子が友情を求める理由がちょっとよくわからない。
わからないからこそ私には男友達はおろか女友達もほとんどいないのだたぶん。
「口ではした?」
「う……うん」
私のベッドに腰掛けた黄瀬くんが、フローリングの上で持て余し気味の長い脚をツーッと滑らせる。
そんな脚の間に挟まれて正座しつつ、ぽろんと出された肉に許しが出るまでしゃぶりつけない私は、はーッと涎を流すだけ。
「アハハ。チャンと生ハメなんてしたくないって言われたんでしょ?」
「うん……」
「黄瀬が生でハメまくってる穴にそのまま自分も入れるなんてぞっとしない」と言われた。
「じゃあチャンが口でするの大好きだって言ったら、フェラのときもゴムするんスかねー?」
変な考えに至ったのは、黄瀬くんが私をビデオのごとくレンタルリースした友人だか知人だかとの行為について、
ことあるごとに執拗に聞いてくるからだ。
「はぁ、あ、き、せくん、舐めたい……」
「えー?だってここであの人のもしゃぶったんでしょ」
へらへら笑いながら、私の頬を大きな手のひらがペタペタと叩く。
そんなこと言いつつ黄瀬くんは、この前だってちゃんと口の中に出した。
なんとなぁく暇だから、知人を使って私をからかっているだけかもしれない。
「黄瀬くんのがいいの……」
私はそれに従順に応えるまでだ。
触れていない、顔を近づけることしか許されていないから、私の吐息がかかるだけだと思うんだけども、
それでもちゃんと私は黄瀬くんの名前がマジックで書かれたおもちゃですと主張すると、ぴく、ぴく、と血管が集中するところがヒクつく。
黄瀬くんは本当は座ってよりも、仁王立ちでしゃぶりついたほうが気持ちよさそうな顔をする。
が、困ったことに黄瀬くんが仁王立ちになるとその体躯が仇となり私は膝立ちにならないと目当てのものに口が届かない。
フローリングの上だと膝痛い。
かと言ってベッドの上に立ってもらってみたら、配管の都合で出っ張っている天井部分に黄瀬くんの頭がぶつかった。
なので、とりあえずベッドに腰掛けてもらって、私は床に座り込む。
分かりやすいカーストで優越感に浸っていただく。
私は打ち据えられる心地よさにゾクゾクするばかりだ。
「は、ん……っ」
「ダーメ」
「うっ、ん、いじ、わる…黄瀬くん…」
「そんなに舐めるの好き?」
もう目の前に、血が巡ってきてツルツルの先端があるのに。
ちょんと舌を伸ばせば届いて、汗と官能の噎せる味を堪能できるのに。
まだ許しが出ないから鼻を犬のようにクンクン利かせて、鼻孔から入ってくる黄瀬くんの匂いに酔うだけだ。
「あいつはどんな風にするのが好きなんスか」
……普段はあの人、なのに、たまに「あいつ」だ。
あの人、扱いしているときは俺の友達なんスよ敬ってくださいッス、で、
あいつ、呼ばわりのときは俺のおもちゃを借りてる分際で偉そうな口利く奴、なので、
黄瀬くんは私に、彼の性癖を貶せと言っている。
「はあっ…な、んだろ……あんまり、まどろっこしいのは、好きじゃないみたい……」
「まどろっこしい?」
「うん……ええと、すぐに、口の中に入れろって」
「アハハッ!あいつらしーッス」
下腹の周りを撫で回すのも、手を添えてゆっくりしごくのもいらないと言われた。
屈強に男を主張する重たみを、喉をがっぽがぽ言わせくわえこませるのが好きなのだ。
「あ…う、あと、しながら、私が……自分のを、さわってるの見ると、よ、ろこぶ……かな……?」
「どんな風に?」
「えっと、こう……」
黄瀬くんに触れるのを許されないので手持ち無沙汰な自分の指を、スカートのすそに潜らせる。
そのまますっ、すっ、と、何度か指先を下着越しに上下させるそぶりを見せただけでニュアンスは伝わったらしく、
黄瀬くんは自分の膝を叩いてけらけら笑った。
「何スかそれ、まんま洋ピンのアレじゃないッスか、うわーわかりやすっ」
「う、うンっ……!」
洋ピンっていうと、白色人種の、背も胸も大きくて手も足も長い女の人のああいうビデオのことだ。
好きなのかなそういうの。
いや大きな胸が好きだとか黄瀬くんが言っていたので、大きさを求めるあまりに自然とそちらに嗜好が流れただけかもしれない。
「はー、そういうの絶対ねースもん、ふつうの女の子じゃ」
笑いつつも黄瀬くんにはぐんぐん血がたかってきていて、
先端はさっきよりもずっと赤いし、浮き立つ血管ももぞもぞぴくぴく、別の生き物みたいに蠢いている。
「チャンだからやってくれるっていうの、わかってんスかね?」
「俺のおもちゃはエロ行為に関しては一級品だから演技してやってんスよ」
という腹話術を聞き取って、私はウンウンうなずいた。
「はぁ、わ、たし、は…黄瀬くんのがいいもん……」
あなたのほうがどうこう、という具体的な相手の引き下げ、あるいは黄瀬くんの引き上げはマナー違反となるだろう。
「黄瀬くんがいい」のひとことで充分だ。本心でもある。
黄瀬くんがいい。大好きだ。
「んー……」
大きな手のひらが私の頭の後ろに回り込んで、髪の毛をぐっしゃぐっしゃにした。
申し訳程度にまとめているのもかまわずに、長い指を滑り込ませてぐりぐりほどいていく。
その感覚にゾワリと震えて、急速に興奮が突き上げる。
普段はきちんと意識できない、そも言われればどんな形をしているのかすらも思い出せない恥骨の中の血管がいきなり脈打ち、血と熱のめぐりを早めていく。
腰から背骨に走る痺れが何度も脳髄を急っ突いてくる。
「ふゥ、ん、きせ、くん、お願い……」
「……そんなにしたい?」
うなずいた。間を空けずに。
「どうしてコレが好きなんスか?口の中って感じる?」
また、うなずいた。
むろん口腔に性感帯が存在するわけではなく、口いっぱいに頬張って感じるのは脳ミソだ。
舌が、喉が、匂いが抜けてく鼻腔が黄瀬くんを充分すぎるくらいに感じ取り、脳内麻薬を滴らせろと命じてくる。
それに何度も頭の中が酸欠になって、その度に私はイチイチ薄っぺらい天国をかいま見る。
生きながらに感じる死とかいう、バカみたいな贅沢が黄瀬くんの味と共に頭の中に飽和していくのだ。
「かーわい」
飼い犬を撫でる手つき。
毛並みをわしゃわしゃ崩していた指先が、やさしく髪の表面をスルスル滑っていく。
犬扱いされる気持ちよさとラクさはきっと誰しもが知りたいが知りたくないに違いない。
「いいッスよ、ほら」
「んっ……!」
頭の後ろの手がぐっ、と熱との距離を詰めさせたのが合図で、私は喜んで唇を寄せる。
愛撫の淡泊さと正比例しているような、さらさらとこれまた淡泊な陰りにしっかり顔を寄せて頬ずりする。
……黄瀬くんは、自分が「認めたヒト」にはなんだか、犬を思わせる表情をする。
頼れる猟犬ではなく、大きな身体なのに一途な瞳を持つペット。
それが一転して私を犬扱いしていることはそれこそ、私をアテがわれた彼の友人くらいしか知らないだろう。
「俺にはしないんスか?いきなりくわえてほら」
「んっ…し、ない…ふ、う、もったいないよ…」
それが「しろよ」ではなく「もちろん差別化してるんスよね?」という確認だったので、うなずく。
「お……っ」
「ふ、ん、ぅ……!」
勝手に湿る唇で黄瀬くんの粘膜を挟み、舌先で弄う。
くらくらする。頭の中が黄瀬くんの匂いで一杯だ。
それ以外のことを考えるなと命令してくれる。彼だけじゃなくて私の脳髄さえもが。
「うっ……く、はっ、かはっ……!」
ごろんと仰向けになった黄瀬くんの腰をまたいで、ぬちぬちぬち、と湿気た音をさせる孔の中に熱を招いていく。
向かい合って乗り上げる形は「また俺の顔ジッと見るから」といやがられたので、彼に臀部を向けて。
「はっ、う、あぁ……!」
口から苦悶の吐息が漏れるのは、腹が圧迫される感覚から。
それも最初だけで、しっかり咥えこんでしまえばもう快感しかない。
「き、せくっ……う、く、気持ちいい……?」
「ん……」
返事は素っ気なかったが、私の視線の先でベッドに乗り切らない足の指がツンッと跳ねた。感じてくれている。
「ね、これ、子宮に当たるー、とかいうのあるんスか」
「はうっ……う、うぅ……わ、わかるの……?」
「いや、俺はわかんねーんスよ。だから聞いてんの」
「は、あぁ…あ、ある、と思う、おなか、奥、気持ちいい……!」
「へー……よっ、と」
「うあうっ?!き、黄瀬くっ、ん、うぐっ、う、ううっ?!」
突然黄瀬くんが私の腰をつかみあげ、背筋を後ろに反らさせた。
衝撃で彼のおへそあたりに無遠慮に乗り上げ、深々刺さった杭に口から唾液が迸った。
「……っ、ほら、これ?当たる?はは……ッ」
「あ、あぁあっ、あ、たるっ、ん……!」
折り込まれた胎が何度も強引に押し上げられる様子を頭の中に描くと、首筋がぞわぞわした。
それでも嗜虐心に火がついたらしい黄瀬くんは満足しない。
贅肉でたわむ私の太股と黄瀬くんの引き締まった太股が、何度も何度もぴたん、ぴたん、とぶつかる。
「ほらほら…ッ、やんないんっ、スか?洋ピンみたく自分でいじんないの」
「んくぅっ…う、ん、いじって、いいのぉ……?」
「いじれば……はっ、すぐいけそう?」
「うんっ、う、い、けそ、うっ、黄瀬くん、の、すごいっ……!」
黄瀬くんの声が切羽詰まってきている。
私より先に絶頂を迎えるのはどうにも嫌らしい。
命じられたように私は自分の指で肉の合わせ目を押し開き、ぐりぐりぐりっ、と、肉芽をこね回す。
この体勢で身を揺すると、放り出された乳房がいちいち玩具みたいに上下する。
「く、は……はは、青峰っちが見たら大喜び、すんじゃないッスかね、今のっ、あ……!」
「うぅっ、く、うぅっ、ん、はっ、あぁ、だめ、き、せくんっ……!」
あ、素が出てる。友達のこと名前で呼んだ。
その瞬間に短い吐息と歯ぎしりが聞こえて、私の腹の中で濁りが跳ね回る。
「だーいじょぶッスか、ホラ」
「ご、ごめ、ん……あ、脚が……」
快楽のあまり腰が抜けた、というロマンチックなものじゃあなく、
太い腰を長い時間またいでいたせいで運動不足の股関節が変な音を立てている。うまく動かない。
そんな私を退ける目的だったとしても、ひょいと腰を抱えられて優しく持ち上げられると、
黄瀬くんの身体の大きさと自分の小ささを自覚して、なんだかキュウッと胸がうずく。
「んっ……!」
なんとか四つん這いになったとたん、気泡がつぶれる音を立てながら出された精が滴り落ちる。
「あ、ホラ……チャン、あーん」
またいつものように黄瀬くんがそれを手で受け止めてくれたが、今日はその指をすぐに拭わずに私の口にねじこんだ。
「んぐっ……ん……!」
「残したら許さないッスよ」
なーんつって、と言いつつバケツリレーのように左右の手が数回交互に私の口腔にさしこまれ、
出されたばかりの黄瀬くんの精液をおかわりさせられる。
犬のようにべろべろ舌を使い、たっぷり味と匂いを堪能しつつ。
「あいつはこんなことさせる?」
ううん、黄瀬くんだけだよ、と、私はウットリしながら呟く。
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さすがにひどいと思ったが気に入っている(自己欺瞞)