黄瀬くんが、私を勝手に知らない人に下げ渡したんだと知ったときは無償に腹が立ち、
それからどうしようと本気で狼狽してしまった。
狼狽のあまり相手と待ち合わせした駅前に向かうカバンの中に果物ナイフを忍ばせたくらいだった。
「行きたくないから学校に放火」
とか、
「家が火事になって宿題燃えました」
とか、そういうことをやろうと思った。
嫌すぎて相手を亡き者にしようかと考えたのだ。
が、結局ナイフは使わなかった。
そんなに行動的な人間じゃないのだ。私。
気持ちいいです、されると落ち着くの、いやらしいやつなんです。
というのは自分に言い聞かせる言葉だ。
私は他人の身体を使って自分を犯していて、これは盛大なるマスかきのぶつかり合いなのだ、と、考えをゴリリ…と切り替えた。
黄瀬くんの友達だか知り合いだかのとのセックスもそう思えば全然苦痛でなく、
面倒だなとは思っても嫌悪感には至らなかった。
それに面倒だからと便器の仕事をさぼって、黄瀬くんにクレームが入ったらかわいそうだ。
私が悪く思われるのは構わないが、
「おい黄瀬テメェ便器のしつけもできねーのか!」
なんて思われてしまったら黄瀬くんの立つ瀬がない。
ので、私はとりあえず懸命に便所穴の使命を全うしていた。
なので黄瀬くんがいきなり私の家にやって来て、
出迎えも待たずに靴を脱いで上がりこんで来たときはもう、どうしようかと思った。
「あ、の、ごめん…何もないよ、今…」
「いーッスよ、ほら」
玄関でまごつく私を引っ張り、まるで自分の家のように私の部屋に押し込む。
「チャン、あいつとはどースか」
「あえっ…?!」
ベッドに座ると、黄瀬くんが隣に座って私を包む。
左耳のピアスが頬に当たった。頬擦り。
こんなのされたことなかった。
なんだかこう、黄瀬くんは私には「あんまりなつかれても鬱陶しいよな」という距離感を持って行動していたと思う。
「あいつとやるの、気持ちいい?」
…そこで、私はようやく理解した。
「う…ううん…黄瀬くんとのが…いい…」
黄瀬くんは、私にこう言わせたいのだ。
従う。
その意図に従う。
だってわかったのだ、やっぱりこの男はとことん、私をモノ扱いしてくれる。
ごく当たり前の、女の子だとか、恋人とか、そういうの以前に……相手のことを自意識の芽生えた人間だと認識していたら、
恥知らずに私の前に再度現れた上に、
こんな外道極まることを言ってきたりはしないはずだ。
「じゃあなんで、最初に言われたときにイヤがんなかったの」
「だって……それは……」
「誰でもいいんじゃないんでしょ?俺とがイイんスよね」
そう言いながら、黄瀬くんの大きな手と長い指が私の頬をぐにぐに、もみもみいじり回した。
「あっ、う、ああう…!」
「バカの変態のくせに、俺以外とヤッて満足できたんスか」
黄瀬くんはなにも、人を人と思わぬ鬼畜というわけではない。
熱を注ぐバスケットの仲間へなら、心からの努力や信頼を示すだろう。
相手が私だからだ。
私はそこに安堵し、やっぱりこの人しかいないんだとしがみつく。
黄瀬くんは私の、制服のままの下腹部をばちん、と叩いた。
……私がとるべき行動は、ひとつだ。
「満足…できなかった…き、黄瀬くんがいいよ、ねえ……」
そう言って、自分で下着を脱いで大股開きになった。
かぱかぱと、馬鹿になったちょうつがいみたいに脚を開いて。
脚の間の肉は期待に潤い、杭を待ち焦がれていた。
「黄瀬くん、して……」
そこで黄瀬くんはヘラッと笑って、大開脚の私にのしかかる。
「ハメたくないっスよ、他の男に中出しされた汚ねー穴なんか」
させたのは黄瀬くんなのに。
そんな気持ちは、こみ上げる愚かな愛しさを増長させるだけだ。
黄瀬くんは軽く嫉妬しているらしい。
そう思うと、全身を愉悦が震わせていく。
「チャン男ならなんでもいーんでしょ。ド変態だもんね」
「うくっ…ちがぁう…!」
さっきは俺じゃないとダメなんでしょ、と言っておいて。
これもきっと押して引いてのタブルバインドではなくて、
つい数分前に興奮に任せて言ったことなんて覚えてないに違いない。
「なんでこんななの。俺怒ってるんスよ。わかってる?」
「あっ、ああ…!」
長い指と端整に切り揃えられた爪が、勝手にむくむく脹れて熱を持て余す肉芽を押し潰す。
「こっちは?胸しつこいでしょあの人、好きだもん」
「ういっ……おっぱい、つぶれちゃ、う…!」
もう片方の手が、下着とブレザーに包まれたままの乳房を上から押し潰してきた。
「チャンみたいな下品な隠れ巨乳なんて大喜びしたでしょ」
「う…ぅ、い、いっぱい、触ってきたけど…ん…!」
「でしょ?!あはは、結構胸ある方スよって言ったら、じゃあくれって態度変えたからね」
「いじ、わる、黄瀬くん……!」
「……俺、ひどいことしてる?」
その言葉だけは、しっかりと意思を持った問いかけだった。
もともと通りのよい声が、私を指して明確に尋ねている。
「して……ない、私、今日、黄瀬くんが来てくれて、うれしい……んッ!」
「そーッスよね」
そこで黄瀬くんは肩の力を抜いてから、私の身体をぐいっとうつ伏せにさせた。
思わず私は枕をひっつかんで顔を埋め、大きくお尻を突き出した。
……くふふ、なんて、口許が綻んで漏れてしまう笑みを隠すために。
「は、ぅ、黄瀬くん、早く……!」
そう言って、枕にすがりつくように腰をカクカク動かした。
「ったく、変態」
「はうっ……!」
みっともなく動く私の臀部を、黄瀬くんの腕が真上から押してベッドに腹這いにさせる。
「く、う、ふう、ううっ……ん、うぅ……!」
季節問わず肌触りのよいものにしているベッドシーツに、露出した陰部が擦れる。
甘弄りされて期待を持たされた肉芽にとっては、そんなのも立派な愛撫だ。
「はっ、ふぁ、き、せくんっ、はぁ、ああ……!」
ずりずりっと、そのまま尻を重たく振って刺激を愉しんでいると、また黄瀬くんが尻たぶを叩いた。
「だから言ったっしょ、俺ハメるの嫌ッスよこんな穴」
うそ。思ってないくせに。
もうズボンをしっかり押し上げている熱は、感覚でわかる。
「それなら、あの……大丈夫」
「大丈夫って?」
「あの人、生ではしてないよ……」
「はぁ?!」
今度のオーバーリアクションは、うそじゃない。
「生で平気って、言ったけど…黄瀬くんの……えと……に、そのままいれたくないって……」
正しくは、
「は?いいわけねーだろ危ねェし、大体ここに黄瀬の野郎が出しまくったんだろうが、気持ち悪くて生じゃハメられねーよ」
と言われたんだが、それは言外に伝わるだろう。
「あっはは何それ!バカなのかなー」
せっかく貸してやったのにさ、とけらけら笑う黄瀬くんに……ふと、尋ねる。
「ん……黄瀬くん、あの……あげたんなら、今日、してもいいの?」
「は?あげてねースよ、あげるわけないっしょ」
にべもなく言って、黄瀬くんの先端がぐりぐりめり込んで来た。
「貸しただけ」
「んあはっ……!う、うれしっ、いいぃい……!!」
「結構気に入ってるみたいッスけど……う、あ」
後ろからはめられると、穴というよりも二枚の壁を自覚する。
それを黄瀬くんがぐぐぐ、と尻から腰まで一気に押し広げて、えっほ、とげっぷし損ない、みたいな空気が喉からもれる。
「なんでも言うこと聞くしあんあん言うし、とか、我がモノ顔で言われっと……調子乗ってんなよ、って思うし」
「はぁ、あぁあ、黄瀬くん、うれしいこと、言わないでぇ……うれしい、うれしいよおぉ……!」
「チャンは俺のっスよ。言われりゃ貸してやるけど、タダでやるわけねーっしょ」
「あぁ、は、あぁあ……ぁ、黄瀬くん……うれしい……!」
「へへ……チャンのばーか」
私の審美眼は間違っていなかった。
黄瀬くんは器用にニンゲンを使い分ける。
でなけりゃこんなに……一歩間違えればぶち殺されそうなことを平気でしない。
私が絶対に手を噛まない犬だとシッカリ嗅ぎつけているのだ。
やっぱり私にふさわしい人は……黄瀬くんしかいないと、思えて仕方ない。
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やっと終わった。
おつきあいありがとうございましたー!