うーんどうしようと悩みつつも、どうにもできないしするつもりが自分自身にもないのをわかっている。

電車の中で、さっきから私のうしろに立っている男がぐにぐに尻を揉んでくるのだ。
ちょっと手が触れました誤解ですでは済まされない痴漢行為なのだが、
そんなのを平気でやった上に押し黙ったままの私の態度にいい気になったのか、
男の手がちょいちょい下着の中に入ってきて粘膜をまさぐり始めた。
お兄さんそちらは肛門です。膣はもっと前ですよ。
と真面目に突っ込みを入れるべきか否か。
いやでももしかしたらお尻マニアなのかもしれない。

はっ、はっ、はー、なんて、モールス信号みたいにも思える男の吐息を聞き、執拗に尻の穴をこねくり回されながら、
どうしようかなあ、と、とりとめのない思考の路地にに迷い混む。

彼はきっと私が声をあげないことを知っていて、だからこそ私を選んでイジッている。
こういうことをする人は、実に巧妙に、触ってよさそうな尻とそうでない尻を嗅ぎ分ける。
犯罪にしろ渡世の術にしろ、一番重要なのは相手が自分の欲望を受け止めてくれるかどうかを見極めることなのだ。

……私が黄瀬くんを、この人ならきっと私をモノみたいに扱ってくれる、と直感したように。

が、その脳髄の混迷は突然の衝撃によって打ち切られた。
バッシン、なんて凄い音で尻穴マニアお兄さんの肩が叩かれた。
叩かれたというか、肩パンというやつ。
体育会系のガッチリした人たちがやる「よっす!」の挨拶。

私はその事よりも、思わず振り返った先にいたのが、首をぐーっと逸らさないと見えない高さの身長でニコニコさわやかスマイルを湛える黄瀬くんだったことに驚いてしまった。


「何スか、あれ」
「……その」

学校の最寄り駅ひとつ前で黄瀬くんに引っ張り降ろされた私は、まごつきつつも彼の望むような回答をちゃんとわきまえていた。

「声……出せなくて」
「んでいいようにされてたの」
「ち、違う…嫌だった…」

涙を浮かべてうつむくと、黄瀬くんの顔はムッツリと不快げにひしゃげた。
自分の使っているおもちゃが知らない間に他人に使われていたら気分悪いに違いない。
おもちゃはおもちゃでも、それがさらにゴシゴシ擦って楽しむための性玩具だったら気持ち悪いじゃない。
知らない男の精液でぐしょぐしょの穴にはめるのはたぶん、多分だけど凄くハードルの高い行為だ。
高校生の男の子が平気でやれるとは思わない。
私だって自分のバイブを知らないうちにママが使っていたとか、そんなことがあったら嫌だよ。なんか気持ち悪い。
自分が嫌なことは人にしない。

「感じた?」
「感じるわけないよ…」
「気持ち悪かった?」
「うん…怖かった…黄瀬くんが助けてくれて、私…」

そこでようやく黄瀬くんの顔は軽蔑のそぶりから優越の微笑みに変化した。
言われるまま連れ込まれた駅のトイレも全然不快ではなく、
制服越しにでも張り詰めたことがわかる下腹部を腰骨に押し付けられれば、私はフニャフニャにとろけた。
洋式便座の貯水タンクと向き合ってこんにちは、みたいな体勢じゃないと、
背が高い黄瀬くんと私では釣り合いが取れなかった。
蓋を閉じた便座は両膝を乗せると不安げにギシギシ言ったが、まあすぐに壊れはしないだろう。
ヒビが入ったら駅員さんごめんなさいだ。
駅員さんよりも黄瀬くんにごめんなさいだ。制服汚れるかもしれない。
カッコイイ人の制服に汚れがついてるというのは、醜い人が汚い服を着ているのよりもずっと罪深い気がする。

「…濡れてないスね、今日は」

その口ぶりはまんざらでもなさそうだった。

「…あ、あんなの…怖いだけだもん」

ここで肉穴がぽっかり開いて粘液を絡ませていたら、やっぱり痴漢で感じてたんじゃないスかとかねちねち言われたかもしれない。
いやそれも全然いいかも。
どちらにせよ…黄瀬くんはいまの行為が終われば忘れちゃうんだろうけど。

「はっ…ん、遅刻、しちゃうね…」
「いーっスよ別に」
「あ、りがと…私、うれしい…んむっ…!」

陰毛をつーっと撫でて、それでも私の粘膜が乾いて張り付いたままだと知ると、
黄瀬くんの指が私の唇をこじ開けた。
抗わずに歯列をあけて、しっかりしたその人差し指をちゅぱちゅぱしゃぶる。
爪の間までヌルヌルにして、黄瀬くんの皮膚がふやけるくらいに。指紋がこそげるくらいに。

「すっげ……指から精子出そう、はは」
「はぷっ…う、ぅ…ん、ン……!」

内ほっぺをニュルニュル玩ばれてから、指はちゅっぽんと引き抜かれる。
この行為は私の口腔を犯すための愛撫じゃあなくて、湿っていない下の方に指を入れやすくするためのもの。

「あれ……もう」
「く、ふぅ……!」

ギュッと唇を噛んで、しなをつくっては悶えた。
黄瀬くんの指を舐めしゃぶるうちに、私の秘唇はそこそこにほぐれていた。
唾液のぬめりを使わなかったとしても、指一本なら簡単に呑めたに違いない。

「中、凄いッスよ。熱い」
「はぁ……!あぁ、う、ん……!」

指先が鉤みたいに曲がって、ぐっ、ぐっ、と愛液をほじり出す。
ネトつく身体の匂い。私の身体を操っている粘膜がくちゃくちゃ音を立てて、彼の指を美味しそうに咀嚼している。

「はうっ、うぐぅ…!いっちゃ、う、だめ…!」

大好き、気持ちいい、もうだめ、とか。
そんな言葉を吐いていると自分の声につられて身体が痺れてくる。

「いースよ、ほら、ほら」

黄瀬くんの指が調子を上げて、グイグイとねじ曲がる。

「ひっぐ、だあ、め、き…っせ、くん、服汚れ、る……ううっ?!」

ばちん、と音がした。
さっきの肩パンよりはずっとゆるい力だろうに、叩かれる方の身体がぜい肉で揺れるから派手な音がする。
私が口腔で、膣穴で味わっていた指が他の指とくっ付いて、大きな手のひらに臀部をしばかれる。

「いっ、あいっ、いた、あぁ…」
「なーんで口答えとかするんスか?」
「あ、あぁ、そういうの、じゃ、あう?!」
「ハメてくれてありがとう、ッスよね?変な気回さなくていいから」
「あ、ああ、う、そうだ、ね、ごめんね……!お、お願い……!」

どもったのは辟易ではなく興奮からだ。
黄瀬くんはちゃらついた見た目に反してあまり汚いスラングを使わないから、いきなり向けられるとゾクゾクする。
私はこんな言葉を向けられるための存在なのだ。
見下されると湧いてくる優越感というのは、なんだか不思議だ。

「……あー、じゃあいいスよ、ほら、こっち」

立ち小便そこそこの範囲でずらしていたズボンを簡単に膝まで下げて、黄瀬くんが下着を脱ぐ。
震えたままの懇願は、いたく気に入ったようだった。

「はあぐっ…う、ううぅぅ……!」
「…は……外でやるの、興奮した?」

きっと黄瀬くんがすごく興奮しているのだ。
押し込まれる肉はいつもより硬くて、感じる穴を勢いよく開いていく。
ちっとも持ちそうにないから私に興奮を求めている、たぶん。

「はあ゛っ、う、うん、した、する、した、あぁあっ!」
「だと思った、は、すっげ、ぎちぎち言ってっスよ、は……!」

黄瀬くんがかぶりを振るのがわかる。あの髪に汗が絡んでいると思うと背徳だ。
大好きなスポーツでしか滴らない汗を、私は流させている。


「んっ……ん、ん……」

ティッシュペーパーと違って、トイレットペーパーは水に溶けてしまうので後始末に適さない。
そんなどうでもいい知識が頭の中に蓄積されるのを感じつつも、黄瀬くんの熱を咥えて拭う。
いつもの唾液と重湯みたいな精の味ではない。酸っぱい。
私の味だ。くちゃくちゃと彼を味わった唾がまとわりついている。
もちろんカッコいい男子の下半身が他の女の唾臭いなんていうのは、女としては悲しいことに違いない。
人が嫌がることはしないつもりでいる、ので、しっかりと唾を拭い、唾液でふやかして汚れを舌で雪いでいく。
でもこれ舐めた後どうしよう。今度は唾液くさくなっちゃう。

「うわ……はは、チャン、それどんな感じ?」
「う……そ、れ?」

疑問符を浮かべると、黄瀬くんが私の翳りをそそくさと指差した。
ごく普通に用を足すみたいに座り込んだ私の下の方からは、今は唾じゃなくて黄瀬くんの残滓がこぼれている。

「……ドキドキする。垂れてくるときは、不思議…んっ…?!」

肉から匂いを殺ぎ落とすのはもういいのか、ドロリと重湯みたいに糸を引かせながら、排泄物が落ちるべき場所に垂れていく精を、黄瀬君の指が受け止める。

「俺、中出しってしたことなかったんスけどねー」
「んっ……んうぅ……!」

濁りがたっぷり絡んだ指を、今日は弄ってもらえなかった私の肉芽になすりつけてくる。

「していいって言う子はいたけど、いいって言う子にしてもねぇ」
「ん…ぅ、じゃあ、どう、して、私には、したの……?」

アホウな事を言いつつまだ執拗に私を弄うが、黄瀬くんだって避妊がどうのは言うまでもなくわかっている、たぶん。
だってもし女の子をべっこりぼて腹にしてしまいました!なんてことがあったら、彼だけでなく他の部活メンバーまで試合なり、大会なりの権限を剥奪されかねないのだ。

「ゴム持ってないよって言ったのに、大丈夫じゃないかなあ?とか間抜けたこと言ったっしょ、チャン」
「う、うん……んんうッ……!」
「そこが気に入ったんスよ、生でいいよー、でも、どうしようヤダ、でもなくて」
「うくぅっ……うれし、いぃ……!」
「したらピル飲んでるって後から言うし、ほんッと、人は見た目によらないッスねー」

実は黄瀬くんに「しかける」一か月前から飲み始めてたんです、とかいうストーカーよりも性質の悪いことは黙っておくけれど。

黄瀬くんも喜んでくれるし、私もとっても嬉しくて大好きだ。
なによりも吐精はごまかしの利かない欲望のサインなのだ。
私が他の誰かに誇れる部分があるとしたら、たぶん、だけど、黄瀬くんにこれだけ精液を出してもらったのは私だけだと思う。
それは魅力だの、いやらしいことの上手さだのではなくて。

彼の欲を受け止める、ということで承認欲求を満たすのを、とりあえず膣穴にうん十回と射精してもらえるまで持ち続けられる女なんて、同年代にはそうそういないんだろうなぁ。

大好きだよ黄瀬くん。
黄瀬くんより私に相応しい人なんて、たぶんそうそういないと思うの。






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おいおい
また続くのかよ