中学の頃から面識のある男がいる。
どうしようもなく根性の腐れた悪党で、どこかで「悪童」なんて囁かれているらしい俺なぞと比べものにならない程、人間としての程度が低い。
……そんな人間と、なぜか俺は高校に入っても顔を合わせれば声を掛けられるような関係が続いていた。
永い縁だからと言って大切にしなければならない道理はないと、身を持って知るきっかけとなった人物だ。

さておき。
俺は自分の誕生日だの住所だのを、好き好んで他人に喋らない。
まるで医者の身分秘匿のようだと瀬戸には笑われた。
……他人の義理や好意を受け流すのは、悪意に対抗するよりもずっと面倒なのだ。
理由はそれだけだ。
だからクラスの人間も、同じ部活のメンバーでさえも、俺の誕生日だの、子細な出身地だのは知らない……はずだったのに。

「まーくんっ!明日誕生日だねっ!」
「……は?」

廊下で見かけたが、突然しがみついてきて叫んだ。
多少人の目があった。
乱暴に引き剥がすことはせず、薄く笑いながら肩に手をやり距離を置く。

「明日誕生日だって、私知らなかった!まーくんなにが欲しい?」
「はァ……あ、いや、どうしてそれを」

呆けて口が半開きになるのを防ぎつつ、困った顔を作ってに問いかける。

「誰に聞いたの?俺の誕生日なんて」
「同じクラスの!!」

は興奮気味に、腐れ縁の悪どい男の名前を挙げる。
クソが。予想はしてたがやっぱりかよ。
心の中でだけ舌打ちしながら、なおも興奮気味にまとわりついてくるを連れ、部室のある棟の方へ歩いていく。

その道すがらでも、は息を弾ませ、目をキラキラさせている。
白い輝きを持つ目玉に鎮座する大きな黒瞳、ツンと膨れる唇。
パーツだけ見れば美少女たり得るのに。
すべてがコイツの顔の輪郭に収まり、しまりのない笑みを浮かべ続けるものだから、一目で足りていないとわかる。
ついでに髪の毛もいい加減な切り方で、清潔だがファッション性は皆無だった。
……美容師じゃなくて身内が切ってんだろうな。
一切校則を破らず着られている制服は、本人の几帳面さでなく服装への無関心。

「……おい」
「ねえ、私、誕生日のお祝いするのって初めて!」
「…………」

行間を読むに。
マークンの誕生日を教えてもらった。
カノジョとして個人として、ぜひお祝いをしたい。
だからプレゼントして欲しいものを教えて欲しい。
……となるんだろう。
全く余計なことをしてくれたもんだ、なんてことは今思っても仕方ない。

「まーくん、なにが欲しい?」

……邪気のない顔に、思わず唾を吐きかけたくなるのは俺だけではないはずだ。

「テメエの、マヌケ面」

唾の代わりに悪罵を吐き捨て、俺ははしゃぐの尻をぶっ叩いて部室に押し込んだ。



それで。
本当にそれだけで、ことは終わったのだと思っていた。



「花宮ぁ、誕生日おめでとー」
「あん?」

翌日の放課後に慣れ慣れしく話しかけてきた原の言葉は、まず前提からしておかしかった。
なんでそれを、と言いかけ、が騒いだのを聞いたのかという考えに行き着く。

「オレたちバスケ部員からささやかなお祝い。古橋んちに集合ね」
「はぁ……?」

誰が行くか、という邪険さを籠め、原が言う「お祝い」への胡散臭さも上乗せして眉根をしかめる。

「いや、我らがキャプテン兼監督の手足となり動く者からのねぎらいを、ね?」
「ぬかせよ」

そこでふと原が動きを止めた。ポケットに入れた携帯電話が振動したらしい。
バカ野郎。校舎内では電源切っとけって言ってるのに。

「おっ、ザキも瀬戸もついたってよ」

俺の舌打ちは無視して、原はヘラリと笑って指先を動かし始める。

チャンも準備オッケーだって」

「はぁ……?」




「んひぃいいぃいっ!あっ、ア、えあっ、あ、あぁーーーーっ!」
「お、今のはいいかも」
「いや……」

……原と並んで古橋の家のドアを開けるなり、奥に位置した古橋の部屋からそんな声が聞こえた。
確認するまでもなくが気をやるでかい声。次いで瀬戸と古橋の声。

「バッカ早く閉めろって!」
「めーんごめんご、ホラ花宮、入って」

思わず玄関の叩きで足を止めていた俺に、部屋から顔を出した山崎が慌てた声を出す。
原は暢気に靴を脱ぎ、我が物顔で室内に上がる。

その背中を、なんとは無しに眺めていたが。

「んぃああぁっ!アッ、あ、あ゛ーーーッッ!!も、もおおっ、もーだめ、もーだめえええぇっ!!」

……普段は聞かない、苦悶混じりのの声。
自分の置かれた立場に酔って放たれる拒絶ではなく、本気で制止を求める悲鳴。
その声に背を押さえて、軽く急ぎ足で古橋の部屋に上がり込んだ。


「ぶれるなぁ」
「ISO感度はこれが限界だしな……」
「ふぅ、あっ、あ……あぁ、あ……あ……」

てっきり家電が放つハム音かと思っていた、ヴヴヴヴヴ……という電動音が止み、がぜえぜえ荒い呼吸を繰り返す。
その前面に、生真面目な顔で携帯電話を構える古橋。
その後ろ、ベッドに乗り上げるを押さえつける形で瀬戸が背を抱く。

「……何してんだ、テメェら」

…………そして、やる気のない顔をする瀬戸の手には電動マッサージ機が握られていた。

「はっ、あっ……?ま、まーくん!」
「遅かったな花宮」

途端に瞳を輝かせたと、無表情に俺を見る古橋。
原はひひひ、とこらえきれない様子で笑いながら壁伝いに座り込み、そんな三人を眺める。
山崎は居心地悪そうに、それでも高揚を抑えきれない様子で貧乏揺すりを繰り返していた。
狭い部屋にガタイのいい男が四人と、涎を垂らしきった女が一人。
むんとした熱気の籠もる異質な空間は、されども一番最初に作り出したのは俺だ。
場所こそ違えど、で遊ぶことを提案したのは俺なのだ。

「……何がお祝いだ、バカ共が」

形容しがたい色を持った感情が、忌々しげな声となって喉からこぼれた。

「ほら、これ」

俺の声に応えたのは古橋で、さっきからずっと手にしていた携帯電話を俺に向けてくる。
カメラ機能で撮り収めたデータの一覧には……の顔がびっしり並んでいた。
一瞬面食らったが、写真に映る背景を見て、この微妙に角度が違うアホ面は、さっきから古橋が携帯を構えていた理由と合致した。

「これじゃいまいちかなと思ってる」

……古橋は瞳にあまり色が乗らないせいで、時たま口にすることがジョークじみて聞こえる。
唇が変にめくれそうになるのを抑えて、写真のの顔をスライドしては確かめていく。
目を見開いて叫んでいる顔、頬を真っ赤にして唇を噛んでいる顔、涙と唾液を垂らして伸びきっている顔……。

「何撮ってんだお前らは」
「彼女に頼まれた」

そう言って古橋は口許を腕で拭い、の股ぐらから立ち上がる。
彼女、と言ってを顎でしゃくってみせる声は、最初の頃にを憐憫してみせたのが嘘のようだ。

「お前の誕生日なんて初めて知ったよ」

そう言って、ぐったりするの身を支える瀬戸がにわかに笑う。

「笑っちまったよ。明日マークンの誕生日なんだって、マークンは私のマヌケ面が欲しいって、なんて言われたから」
「……………」

ようやっとすべてのことに合致が行って、俺は黙ってを見つめた。

「オマエ、ホンッット、バァーカ」
「う……うぇ……」
「んで?テメェらは俺のために真剣にこのバカのマヌケ面撮ろうって?」
「どうだかね」

古橋に代わっての足の間に立つと、今日は額を出していない瀬戸がどうとでも取れる口調で呟く。

「この子に冗談が通じないのを時々忘れるお前が悪い」
「コイツがバカな方がずっと悪いだろうが」

そう言っての剥き出しの陰部に目をやって、妙な気分になった。

長時間機械的な刺激を与えられ続けたせいだろう。
みっともなく弛緩する本人の肢体とはまた違うリズムで粘膜が痙攣していた。
割れ目は充血して開ききり、の性感帯を隠すことなく晒している。
クリトリスは包皮からはみ出し、刺激もないのに隆起を続けていた。

「やりすぎだバァカ」
「前はもっと当てなかった?」

同じような機械で遊んだことは、以前もあった。
あの時は刺激のされすぎでしばらく下着も履けずにいたを笑ったのだが。

「ま、まーくん……わたし…ぃ……」

……どうにも、面白くない。
今は前と違って、コイツの声にも瞳にも、奇妙な湿り気があった。
淫猥な粘り、男を求める色香ではない。
俺の感傷をいちいち引っ掻き回す、もの悲しいいじらしさ。

「痺れてっか?」
「んぅっ?!」

の開いた粘膜に指を添えてみて、その熱さに驚いた。
反対には、俺の指の冷たさに跳ね上がっている。

「はあふっ…ま、まーくんの指ぃい……冷たくてきもちい……いやされるよぉ……!」
「癒されるってなぁ……」

の腹に回していた手を離し、瀬戸が呆れた顔になる。

「んっ…ふぁ……もっと、もっと冷やしてぇ…手、押しつけてぇ……!」

が俺に腕を伸ばし、股間をギュッと、俺の手指に押しつけて腰を揺する。
……外気で冷えていただけで、血液が巡れば当然俺の手は温度を上げる。
そんな単純なことも理解できないのか、は夢中になって陰部をぬるぬる押しつけ、ほふっ……と惚けた吐息をこぼす。

「お、今の顔は結構いいかも」

瀬戸が言うと、ペットボトルに口を付けていた古橋がすぐさまこちらへ寄ってきた。

「本当だ。いい感じに溶けてるな」

さして歓喜していない声で呟きながら、また携帯カメラのレンズを構える。

「そんなモンいらねえよ」

吐き捨てながら、俺にしがみついていたの脚を左右に広げる。
そのまま乱暴に肉茎をあてがうと、は恍惚の表情を打ち止めにして舌を出す。

「まーくっ、ん、あっ……あ……あぁあぁんあぁっ!!」

痛み混じりのものだとしても、ずっと刺激を与えられていた粘膜は柔軟になっている。
つかえることなく俺を受け入れ、細かい震えを繰り返す。

「あ゛っはあっ、お、おちんぽは…あったかいよぉ……」

耐えられなくなったらしい山崎と原が同時に噴き出した。
それが引き金となり、二人は興奮も漫ろに床を叩いて笑い始める。

「はぁっ、んあぁううあ…ッ、あッ、あひッ……あっ、まーく……ん、ンッ、んぅうぅッ!!」

はそんなのお構いなしで俺にしがみつくと、とろけ切った顔で喘ぎながらも何かを訴える。

「おっ、た、んじょうっ……び、おめっ……」
「…………ッ……」

心底嬉しそうな。
俺の誕生を祝えること、それ自体を至高の歓びだと思っている声に……怖ぞ気にも似たものが湧いた。

「だ、まれっ、ての……!」
「んっあアァあぁッ?!やひっ、やっ、あッッ!!も、揉んだらやぁあぁーーーッッ!!」

膣穴を蹂躙するのも止めないまま、もう片方の手での血が巡りきった大陰唇を手の平で揉み上げる。
途端にギュギュッと膣肉が締まり、熱い粘り気を吐き出す。

「んゆふうぅっ!!モミモミ気持ちいいぃっ、ま、まーくっ、わ、わたしすぐイッちゃあぁういぃい゛い゛っっ!!」

厚みのある粘膜越しの刺激は、今のには丁度いいらしい。
はすぐに悶え始め、一人絶頂へ先走る。

「それで……いんだよ、オマエはっ!」
「うんっ、うんうんうんっ!このままいくっ、イクからあぁっ!まーくぅんっっ!!」

その宣言通りに、の身体が一際大きく跳ねて震え上がった。
同時に膣肉が引き攣るように蠢いたので、俺の喉から息が漏れる。
まだ射精欲求はこみ上げてこないが、奇妙な満足感がある。

「ほら、今の顔なんかすっごくいいじゃん」

……それに水を差すように、瀬戸がの顔を覗き込む。

「なんて言ったか、これ、ほら」

そう言って、弛緩しきったの両手をクイッと握る。

「ああホラ。アヘ顔ダブルピース」
「ふぁ…あえ……これ……ぴーしゅ……ぅ……?」

無理矢理ピースサインを作らされたの手を、さらに瀬戸が顔の横まで持ち上げる。

ふと無言になった拍子に、カシャリと電子的なシャッター音。

「撮れたぞ」

古橋の携帯の画面を、すかさず原と山崎が覗き込む。

「あっは、はは、これ入れよ、ハピバ花宮って!」
「やべ、やっべえ、ちょ、それオレにも送って、やっっべアッハハハ!」

……の態度には軽い震えが走ったが。
コイツらの態度には額に青筋が立ちそうだ。

「おらっ、てめボーッとしてんなよっ!」
「んあっ!ま、まーくん……!」

矛先を目の前の女に向ければ、歓喜の喘ぎ。
流石にもう自分でも、何かを考えるのが億劫になりそうだった。






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花宮誕2014でした。
おめでとうみやみや。
デレ宮書くの楽しいです。
外道な霧崎第一のみんな楽しいです(えええ)