ライブハウス、小芝居劇場といった暗がりは玉石混合で、
特定のキャストを目当てにするわけでもなくそういった処に通う人間は、
自分の感性で宝石を掘り出すのが楽しいか、
あるいはその、宝石箱とクズカゴを一緒くたにぶちまけた混沌とした空間に官能を覚えているかだ。
あくまで主観で分別させてもらうと、山崎と瀬戸はどうにも染まり切らない。
慣れてきてはいるが顔をしかめながら宝石だけ拾い集めている。
反対に原は、ゴミと調度品が同列に並んでいる状況をへらへら笑いながら愉しんでいる。
きっとこいつのほうが人生で得することが多いだろう。
一般的かどうかで推し測るなら、断然瀬戸と山崎なんだが。
……ここはライブハウスではなく部室だし、
我ながら頭の悪い例えだとくらくらするのだが宝とは全裸の女で、
ゴミというのは各々から見た「自分以外の」男の存在だ。
女ひとりをよってたかって囲って、複数人で性行為を楽しめるかどうか、ということになる。
自分はどうなんだろうか。わからない。
囲まれている女を、きちんと人格のある存在だと思えているかすら怪しい。
となると欲情も本能的というか条件反射のようなものになるわけで、罪悪感を抱いたりすべきなのかという疑問にまず、ぶつかる。
「うゥ、ふぅあぁ……ん、入るぅぅ……!」
青味がかった色白さのだぶつく臀部が、仰向けの肉茎を呑み込んでゆく。
……こんなとき山崎は、女の尻と声ばかりに感覚を傾けてソワソワしている。
原は肉の合わせ目を割り開く我らがキャプテン花宮の赤黒い粘膜も、
柔らかい尻に乗られる引き締まった下腹部も全体像で捉えてニヤニヤするわけだ。
……花宮はどうなんだろうか。
このというおもちゃを他人に無料で貸し出して、それ自体を愉悦としているのかというと、そうでもない気がする。
なんだか自分が思うに、花宮のに対しての態度が変化したのは、あの時からだ。
「んっ、は、まーくぅん、ぎゅってして、キスしてぇ……」
「え、ナニナニ、チャン普段キスとかしてもらってんの?花宮に?」
「してねーよ……ったく」
「キスとか」で下品に笑いながら、対面する形でつがいになった花宮とに原が近づく。
の背から手を回し、乳房を掴んでもてあそぶ。
「んっ…して、くれる、よぉ…えっへ、このあいだ、くちびるにちゅーしてくっ……あ、おごっ……!!」
「……っ、ゼんだよ、テメーは……」
発言するや否やはどつかれた。
と言っても顔面ではなく胎の内側で、いきなり突き上げられた腰に内臓をえぐられて噎せる。
「はっ…あ、あぁ、でも、これもキスぅ…まーくんのと、私のおなかの奥がチューしてるよね、ん、んんぅ…!」
「ちょ、ちょっちチャン、あんましいじめないでやってよ花宮のこと」
笑いすぎて呼吸をヒキツらせながらギュッ、と指先に力を籠めて、の乳首を捻り上げる。
が仰け反るのと同時に花宮が舌打ちして、元々異質な空気の中に険悪な緊張が混じる。
「はいそんじゃ失礼して……チャン、今日も『がんばろー』ね?」
「うぐっ……う、うんっ……!」
そのまま原がごと花宮を押すように身体を密着させ、ぎくりと不安の走った尻肉を手のひらで揉みほぐす。
……花宮が主将になった日でも、決勝で敗退した日でもなく。
「うぐぅ、ふっ、ふー……!」
「そそ、息吸って。吐いてー。んでもよく入るようになったねコレ、いやアレ?ザキとか古橋がヘタクソなだけなの?」
その言葉に相変わらずソワソワと様子を伺うだけだった山崎が立ち上がりかけたが、直後にが大声を上げたのでまた座り直す。
「んうぐっ、ふ、ううぅっ……ちがう、ま、まーくん、が、じょーずなのぉっ……!」
ドロリ、と人工的な粘液を垂らされた尻穴に、原が強引に肉を押し込んでいく。
は何度もえずいてはせき込むが、それでも一思いに貫かれてしまえば慣れが勝つらしい。
「お、しりぃ…い、きらい、じゃないよお……こーやってね、あそこにまーくんが入ってるときに、おしりに入れられるとねっ……!」
「ほうほう」
「んっ……は、原くんが動くたび、ま、まーくんのが中でごりごり〜ってなって、はっ、うぐっ、うっ……!」
「ちぇ。どっちにしろ花宮なんなー。いーけど。ほらこー?チャンこう?こーやってほら、ごりごーり」
「あがっ、あ、あがあぁああっ……!」
体躯で言えば花宮より原の方が全然大きい。
その足腰と長い腕で、またがるごと花宮の腰を掴んで無遠慮に揺する。何度も何度も。
「っ……は」
「うっ、く、おなか、や、ぶけるうぅ……!」
「お前もずっと男マグロかましてんなよー。ホラチャン頑張ってんよ?マークンからのあっついキスとかしてやんねーの?」
「……あんま調子乗ってっと殺すぞ、テメ」
「うわ」
「ふい゛っ、ま、まーくっ、ん、あ、ああああああぁあああぁ!!」
……の、華奢ではないが柔らかな身体が軋む。
屈強で無慈悲な男に挟まれて、皮膚から骨が破れ出そうなほどに反って捩れる。
「おおすげー、くんだねこれ、うわ、マークン感じるわぁ」
「んあっ、あ、まーくんっ、深いいっ、けじゅ、けじゅれりゅっ……!」
上半身を起こして下腹部に力を籠め、花宮がを肉孔からつぶしにかかる。
笑いながらも荒くなる息を吐きながら、原は突っ張ったのあばらを支える。
「はっ、はっ……はぁ、あァ…わ、私ぃ、まーくんにいっぱいいろんな、こと、教えてもらったのぉ……!」
一息ついたが恍惚の表情でそんなことを言って、口の端から垂れた唾液を、自分の舌ですくい取る。
「おしりエッチもはじめてだしぃっ、ひっ、あ、エッチするのこぉんなきもちーって、んっ、教えて、くれたしぃ……!」
……そう。
滑稽でしかない絵面だったが、この娘の排泄穴を花宮が初めて穿ったときに。
ペットや人形に名前をつけたときのような、
初恋の少女の純潔を奪ったときのような。
本人に言えば馬鹿だろと笑うであろう愛惜を、花宮は知らずのうちに抱いてしまったのではなかろうか。
のがたがた震えていた身体もいつの間にか治まって、胸板に手をやってうっとりと花宮のことを見つめている。
「まーくんもぉ、乳首きもちいいんだぁって、わかったしぃ……んッ?!」
ああまた余計なことを。この馬鹿娘は……。
花宮がの頭髪を掴んで揺すりながら、ぶつけるように腰を突き上げて膣壁を殴る。
が、そんなごまかしは間近の享楽主義者にはまるで効果がない。
「そっかそっかー、花宮は乳首弱いんだー、へーそうなのチャン」
「んあ゛あ゛ッ、あ、ああぁあ、ああぁあ……!!」
「お、ごまかしちゃう?ほんとに乳首弱いんだ、へーえ」
「てめ、死ね……!」
ぐりっ、と、原の指がの手を押し退けて花宮の胸板をまさぐった。
もちろんその手は瞬時に弾かれたが、原は笑いっぱなしだ。
「あ゛ッッ……あ、わ、たし、あああぐっ、うあぁああ……!!」
動物の唸りのような声を上げて、がギュウッと身体を縮める。
同時におうっ、と原から驚愕の声が上がる。
「早漏」
一拍子置いてラテックスに包まれた肉茎を引き抜きつつ息をこぼした原に、花宮が言い捨てる。
「花宮こそ遅いんじゃないの」
「こいつがゆりーんだよ、おら締めろっ、殺すぞ!」
「んはぁうっ、う、うんっ、んーっ、んぅうー……っ!」
震える足に力を入れて、が膝をしっかり折り曲げる。
そしてぐり、ぐりぐり、と、思わず見ているだけで息を呑んでしまう奇妙に艶っぽい腰の動きで、くわえ込んだままの花宮の肉茎を膣壁で撫で回す。
「はぁ、あぁ、まーくん、わかるよっ、中でぷぴゅぷぴゅしてるっ、で、てるぅう……!」
……どうにも、見ていて危なっかしい。
「……っと……あぁ、はぁ……」
二進も三進もいかなくなった欲望を、静かになった部室でにしゃぶらせながら吐精する。
「んっ、ん……ふ、ん……ぅ」
どろ、と漏れだした白濁を後押しするように、の手指が動く。
根本から小帯のところまでを効率よく往復して、ギュッ、と、最後の一滴まで絞り出す。
「古橋くん、すっきりした……?」
「ああ……」
平然と生臭い体液を飲み干して、あっけらかんとこちらを見てくる。
……さっきの動作にしたって、どうにも。
どうにも……花宮がどうの、この女の素養がどうのでは説明がつかないというか、
納得できない部分がありすぎる。
生まれつき頭が弱いというのと、尻が軽いというのを同一視してはダメだろう。
「……君ってさ、初体験いつ?」
「えっ?」
なにを言われたのかわからない、という顔をされて、ああそうだった、と自分に頭を抱えてしまう。
……余計な装飾も、行間を読めなんていう行為の要求も無駄だ。
と話をするときは飾りなくストレートに。
「初めてセックスしたのはいつ?誰と」
「……それ、まーくんは話さなくっていいって言ってた」
「花宮には話したのか?」
「ううん、だから、話そうとしたら、話さなくていいって言ったの」
「俺には教えてくれない?」
「どうして?」
「……ただの好奇心だよ。知りたいだけ」
初めてエッチしたのはお父さんだよ。
別に後ろめたくもなんともない様子でそう言われたので、お父さんって何だったか。なんて考えてしまった。
「お父さんのこと好きだった、が泣きそうになると、気持ちいいとこさわって楽しくしてくれるの」
「…………それは」
「で、ずっと一緒にいたの。でもね、お父さんがね、私のアソコにね、入れたがってたんだけど、入らなかったの」
そこでは口惜しそうな表情を見せた。
憤りでも、悲しみでもない。
「やっぱりダメかぁ、小さくて……って、すっごく残念そうに言うから、すっごく悔しかった。頑張るって言ったの。頑張っていれるって言ったの」
「……何歳くらいの頃?」
「小学校のとき」
「…………」
「でも、痛いし…全然広がんないし…それで、お母さんにね、聞いたのね」
「……お母さんはなんて?」
「頑張らなくていいのよって、言って、泣いちゃった」
それからはお父さんと会えなくなったの。
お母さんがリコンしちゃったの。
寂しかったけど、そういうときはお父さんがしてくれたみたいにいつも、気持ちいいとこいじってた。
「それでお母さん、もう疲れた〜ってまた泣いちゃった。疲れるならのこと、お父さんにあげちゃえばいいのにね」
「……君はそれを異常な行為だと、理解してた?」
「お母さんが言ってた。それは頑張らなくていいことで、お父さんが変なんだからーって。でも……」
でも、それから私はなんにもがんばらせてもらえなくなったの。
お母さんも周りの人もみんな、ちゃんは元気でいればいいのよ、って言うんだもん……。
「私、ダメだったんだって思った。やっぱりあのとき、一人で頑張って、お父さんとエッチできてたらよかったのになぁって」
「……いや、待て……あのさ、じゃあ、それから……花宮と会うまで、ずっと?」
「うん…?中学校いたときに、泣きたくなったからきもちいいとこいじってたんだけど…そしたら見つかってね、先輩とエッチさせられたの」
「させられた?」
「うん……やだった、私はお父さんが…でも、お前馬鹿だからなんかしろって言われて殴るから…」
と違ってそこそこ行間を読めると自覚している俺は、そこでだいたい合点が行った。
あの変にアデっぽい腰も、巧みに肉をしごく手もそこで仕込まれたのだ。
「それでね、そーいう人たちがいないところがいいなって、受験したんだけど、でもいたの。知ってる人いたの。俺にもさせろってしつこかったの」
「……いたのか、うちに」
「うん、うんでもね、でもね、すごいの!そこでまーくんが助けてくれた!うれしかった!」
……それでは、花宮の玩具になると決意してしまったのか。
「しかもね、頑張れって。頑張れって……うれしかったぁ……頑張って俺の理想の彼女になれよって言ってね、うれしかったぁ……」
「…………」
「まーくんはお父さんと違って、待ってくれたから…はまーくんの言うことなら、なんでもきけるのっ」
これは聞かなかった花宮が正解だろう。
どうにも変なわだかまりを抱いてしまう。
……が、それはそれ、だ。
もう一度灯ってきた熱を、の頬に押しつける。
こんなのは……おもちゃとして使ってやってしかるべきだ。
花宮が変な愛着を抱かなければいいんだけど、と、そこだけやや、憂慮する。