闇の中でいい

(ルカさんって、食事のときすごく静かなんだな)

一緒にディナーの席に着いた日、そんなことを思った。

荘園では、試合……ゲームのご褒美として、食事も豪華なものが用意されていた。
特に週末の夜は本当に豪勢で、私みたいな人間は口にする機会のなかったコース料理とかいうやつが、当たり前の顔で出てくる。
メインのお魚を揚げたものが終わったと思うと、お口直しにレモン風味の氷が出てきて、それを食べてしまうと、今度は美味しいところだけ凝縮したような小さなステーキがやってくる。

「私、これ、大好き」

その日、私の席の向かいには恋人のルカさんがいた。
絶妙な火加減で調理されたお肉を前に食器を構えて、子供っぽいことを言うと、ルカさんはふふ、と笑った。

「私もだ。さっきのベニエもよかったけどな」

ベニエ。あの揚げ魚はそんな料理名なんだ。ルカさんは物知りだな。感心しながら、好物を前に、ちょっと急きながらナイフを入れる。
ルカさんもそうしてステーキを口に運び、笑顔で食事を進めていく。するうちにあることに気がついた。
ルカさんは、食事のときに音を立てない。
お肉を切るときだって、私ならお皿と差し込んだナイフが「カチン」とぶつかりそうなところを、無音で切り分けて口に運んでいく。

(なんか……こういう所、お育ちがよさそうって感じする)

そう思ったあとに、ひがみっぽさを恥じた。
自分が教養のない貧乏暮らしだったからって、そうじゃない人をやっかむのは間違っている。



「どうした? 今日は気が乗らないか」
「そんなことは、ないんですけど……」

お腹が膨れてしまうほどの食事のあと、ルカさんと私は部屋のベッドで身体を重ねていた。
今日は私の部屋だった。ベッドの隅には、ルカさんが開発した放電装置の「二号機」が置いてある。
お風呂に入って身体を清めて、大好きなルカさんとの触れ合いに心を躍らせる……はずだったのに。

「…………」

さっき抱いた、ルカさんへのちらりとした劣等感が……もやもやとつきまとっている。
そのせいで、目の前の行為に集中できないでいた。
ルカさんが私の胸にそっと触れても――いつもならそれだけで脚の間が湿ってくるのに――今日はそわそわと落ち着かないまま。

「あの……ルカさんって……恋人の身分とか、気にします?」
「ん……?」

しかも結局、それを口にしてしまうのだから救われない。

「恋人……っていうか、その、将来的に結婚するなら、やっぱり階級が近しい者じゃないとダメとか……」

言いながらぐじぐじと、さらにいじけて深い穴に潜り込んでいく気分だった。

「わ、私みたいな、貧乏な女はダメとか……!」
「それを言うなら」

ルカさんにしては珍しく、ちょっと強い語気で言葉を遮ってきた。

「どうやら私は人殺しらしいが、君はそれでもいいのか」
「え……え」
「目の前のこのイカれた頭の持ち主は、覚えていないと言っているがどうかな。本当は……本当は自分の研究のために、恩ある師を殺し、関係ない者まで巻き込んだ大犯罪者なのかもしれないし」
「あ、え、だって……それは、冤罪……」
「私が思い込みたいだけかもしれない」
「わ、わかんないですよそんなこと!」
「私もわからないな。君が貧乏な家の出だったとして、それがこうした、目の前の肉の悦びになにか影響するのか」
「ああっ……あっ、あっ、だめ!」

ルカさんの力が、いつもとは比べものにならないくらい強くなった。
私の身体をベッドに倒してしまうと、力強い腕が脚を開かせて押さえつけてくる。

「こんなことをするのに、貴族も貧民もあると思うか」
「あっ……や、あっ、あひっ、そこは……いやぁあぁっ♡」

紛れもない男の人の舌が、私の肉の合わせ目を舐めあげた。
ぬらぬらした快感と羞恥心で、それだけでおかしくなりそうなのに、ルカさんの唇は割れ目の下まで移動して、私の肉の窄まりに尖らせた舌の先端を押し込んできた。

「そこは……本当に、だめっ……! き、きたない……です……!」
「さっき入浴したばかりだろ」
「そういう問題じゃ……あっ、ああぁああぁんっ♡」

不浄の穴を侵蝕される感覚に、ぞわぞわしていた私の隙を突いてくる。
今度はクリトリスに舌が絡みついて、そのまま抜き取ってしまうんじゃないかというくらい強く吸いあげられた。

「ひっひぐぅうぅっ、いぐっ、ふぁああぁあぁああぁっ♡」

情けなく身体が痙攣して、膣穴から愛液が潮吹きみたいに勢いよく溢れだす。

「ああ、出る出る」

ルカさんはそれを見てにやにやと、格好いい顔を歪ませて、その上私の分泌液まみれになった口の周りをペロリと舌で舐めた。
そんな顔を見る頃にはもう私は、すっかりわけがわからなくなっていた。
ルカさんの狙い通り、彼の本当のところも、私の出生も、そのときは本当にどうでもよかった。
だというのにルカさんはにやにや笑いをするだけで、それより先のことをしてくれる気配がない。

「る、ルカしゃん、突いて……おまんこ……ルカさんので、ずぼずぼしてほしいですぅっ……♡」

これはしょうがないこと。だってルカさんが意地悪をするから。
仰向けのまま脚を開いた形で持って、ルカさんにおねだりするしかない。

「ふふ……私を誘うのがうまいな。君のそんなところが好きだよ」
「すき……あっ、あぅぐぅっ、ぅうぅ、う゛うぅぅうぅ~~~~~~~~っ……!」

一気に距離を詰めてきたルカさんが、熱しきったペニスをぐっと突き込んでくる。
いつものだみ声じみた私の恥ずかしい嬌声に、うんうんと頷いて聞き入っている様子も見せていた。

(ルカさんは……本当に、私の恥ずかしい声を好きって思ってくれてる)

その証拠に、私が喘げば喘ぐほど、膣穴の中で肉竿が硬くなっていく。

「ん゛ぉ゛っ♡ お゛ぉ゛ほぉおぉっ♡ ルカしゃん、お、おぉおぉっ……ルカしゃん、あ゛ぁ゛ぁあぁあぁあぁっ♡」
「可愛いな。ほら、もっと私の目を見て」
「あ゛っ、あぐっ、あぁ、いやぁ、み、見らんない、見たら……あうっ、う、う゛~~~~っ♡」

その目を見つめられると、すぐに上り詰めてしまう。

「い゛や゛ぁ、きょ、今日は一緒がいい、からっ……い、一緒にイギだいからぁっ、見たら、すぐイッちゃ……あッ、ああぁああぁっ♡」

そう言った瞬間、ルカさんが私に体重をかけてのしかかってきた。
激しく抜き差しされていた肉茎の先端が、子宮の入り口を押し込む動きに変化する。

「大丈夫……私も長く持ちそうにないから、いつでも果ててくれ」
「う゛~~~っ♡ う゛ぅうぅうぅうぅ~~~っ……♡」

それでも無駄な抵抗で歯を食いしばり、下腹からこみあげてくる快感に耐えていると、ルカさんの手指がいきなりクリトリスをつまんだ。

「ひい゛っ?! い゛ッ、ア゛ッ、しょ、しょこはらめぇっ、あっ、あっ、あぁあぁあぁイくうぅっ……イくぅううぅうぅうっ……!!」

敏感な肉芽を指で転がされて、あっという間に絶頂を迎えてしまう。

「く……う、喰い締められるっ……ああ、出すよ、往く……あぁ、あぁ……!」
「ふぁあぁああぁぁんっ……♡ 熱いっ……あぁああぁあっ……♡」

膣穴の奥の奥でルカさんの熱が弾けた。
その感覚にもう一度びくりと身体を硬直させて、甘い絶頂に打ちひしがれる。

「ふぅ……く、うぅ……こんなに可愛い君を……」
「あ……んっ」

口づけが降ってくる。呼吸の調わないお互いの唇が重なって、行為の余韻を楽しみながらも惜しむように舌まで絡ませた。

「んは……毎晩のように君の胎の中を汚して……どうあれ私は罪人だと思う」
「そんな……ルカさんは、なにも悪くない……」
「君がそう言ってくれるだけで、報われた気持ちだよ」

はぐらかされている。でもそれでもいいと思った。
彼の罪も私の生まれもしてきたことも、このねっとりした愛の前には排斥することができる。