素肌と温湯

「温度はどうだ。熱くないか」
「大丈夫です。ちょうどよくて、気持ちいい……」

タイル張りのスペースに置かれた、ヒビひとつないバスタブ。
ルカさんとふたり、注がれたばかりの適温の湯に浸りながら、これってすごい贅沢だよなあ、と、私はぼんやり思うのだった。

荘園は室内で迷子になりそうなほど広いし、謎も多い。
まあ、謎については私を含めたサバイバーも、ハンターのみんなも、深く考えないようにしているけれど……。
それにしたって広くて贅沢だ。全員にそれだけで一軒のお屋敷なんじゃないかというくらいの部屋があてがわれ、そのひとつひとつにお手洗いとバスルームつき。
荘園に招待されるまでの私の暮らしからは想像もできない、清潔で豊かで、満たされた日々を送ることができていた。
そんなさなかにルカさんという恋人まで得ることができたのだから、私は本当に幸せ者だ。

(でも……一緒にお風呂って、思ったより恥ずかしいな)

裸を見せて、粘膜を馴れ合わせた仲だから平気だろうと思っていたのに。
ぴかぴかの浴室での素肌というのは、ベッドの上とはまた違った雰囲気で、見られているのが恥ずかしいし、見るのだってそう。

(ルカさん、格好いいし……)

普段は結んでいる髪をほどいて、毛先をかすかに濡らしているのが色っぽかった。
しかもルカさんはなんとなく、その自分から醸される色気をわかっているかのような気配があった。
バスタブの縁に肘をついて、にやにやと私の反応を楽しんでいる。

「……あ」

しかし、ルカさんの胸あたりからおへそに走った傷痕を見つけてぎくりとする。
普段彼の裸を見るのは薄暗いベッドの上で、月明かりを頼りにだったし、しかもその裸身の上には包帯が巻かれていた。
その下にはなにかがあるのだろう、とは予想していたけれど……。

「お、思ったよりダイナミック」
「驚いたか」

ひひっ、と乱杭のような歯を覗かせてルカさんが笑う。

「こんな傷、どうやったらつくんです……?」

桃色のみみずが張りついたような感じだ。深めにえぐられた皮膚が再生して肉芽のように盛り上がっている。
驚くほど大きいのは一筋だけれど、他にもあちこちに、穏やかではない負傷の気配があった。

「これもよく覚えていなくてね。まあ、おおかた頭に電流が閃いてからのことだろうな」
「……」

ルカさんがわずかに語ってくれた過去と照らし合わせるとすれば、彼がよく覚えていない事故に遭ったせい。
あるいはその事故がきっかけで刑務所に入れられてから。

「この目の理由もよく覚えちゃいないんだ。目蓋が垂れ下がっているせいで、ほとんど見えないから不便なんだが」
「ぼこぼこにされすぎです」
「本当にな。ひどい体たらくだよ。でも」
「あ……」

ルカさんがお湯の中で私の身体に触れた。
巧みに乳房の先をつまんで、もう片方の手は脚の間に潜らせてくる。
「どうやら君はこんな男にも欲情できるらしいから、助かった」
「あっ……ふ、あぁ……っ……♡」

骨ばった指で割り開かれた秘唇が、お湯じゃないものでぬるりと滑った。

「私の脚を跨いでくれ。もっと近付きたいんだ」
「う……は、はい」

彼に言われるまま、私はルカさんの細い太ももを跨いで、向かい合う形で彼の上に座り込んだ。

「あ……熱いの、当たる」
「ああ。入る前からこうだったのに、本当は気付いていただろ」
「……黙ってたんですよ! 気まずくて!」
「なぜ。気まずいことなんてないよ、君の裸が魅力的だから……いや、服を着ていてもそうだな」
「う、ううぅ……!」

いつもこうやってルカさんにやりこめられてしまう。

「んっ……!」

それが悔しくて、私は反撃するようにルカさんの胸板に唇を寄せた。
ほとんど色のついていない薄い乳首を唇で挟んで、突起がわずかに硬くなるのを確かめると舌でなぞった。

「あぁ……」

ルカさんは受け入れてくれて、私の髪を濡れた手でそっと撫でた。
さほど感じるわけじゃなさそうだけれど、戯れとして、私の積極性を喜んでいるのだ。

「いいよ、最高だ」
「最高っていうほど、感じてないくせに……」
「身体の官能が全部ってわけじゃないだろう」
「で、でも……ルカさんはいつも、私を褒めすぎだから」
「いくら褒めたって、褒めすぎることはできないのが君という存在だ。可愛いな」

ルカさんのこういう、歯が浮いてしまうような言葉はどこで学んだものなんだろう。
うっすらそう考えながらも心は愚直に照れていて、もう彼の胸を愛撫することもできなくなってしまった。

「少し……尻を上げてくれないか」
「う……ふ……♡」

これからされることを想像して身震いしながらも、言われたとおりにお尻を上げる。
するとやっぱり、ルカさんは自分の肉茎の根元をしっかり持って、先端を私の割れ目に押し当ててきた。
ほんの少しの愛撫と言葉のやりとりだけで、私が粘膜を湿らせて、彼を受け入れる用意ができていることがばれている。

「今度は、ゆっくり腰を落として」
「は、はい……んんぅっ!」

つるりとした先端が膣穴に入り込んでくる。
ぞろぞろと内壁を撫であげながら、私の中を支配する。

「もう少し、もう少し……」
「うふぅっ……ふぅ、はぁ、あぁ……る、ルカさ……ふあぁああぁあぁんっ♡」

優しく諭すように言ったと思ったら、自分から身体を突き上げてきた。
不意打ちで身体の芯を貫かれた私は、お風呂場に響き渡るような大きな声を出してしまった。

「あぁっ、あっ、いや、意地悪しないでぇ♡」
「つい……我慢が利かなくなってしまって」
「そんなのっ……んあぁっ♡ あっ、だ、だめ、奥、ぐりぐり……らめぇえぇっ♡」

私の嬌声は、初めて彼と身体を重ねたときよりずっとずっととろけていた。我知らずのうちに甘えてしまっているのだ。

「お゛おぉぉっ……♡ おほぉっ、ふ、ふうぅうぅーっ……♡ や、やっぱり、意地悪……しへるぅうぅっ……うぅうぅ~っ♡」
「はぁっ……君のその声が聞きたくてね」
「う゛ぅっ♡ わ、わらひらって、好きで……出してるわけじゃ……あ゛、あ゛ぁ゛あぁあぁんっ♡」

お腹の底から絞り出して、挙げ句喉で一度潰したみたいな醜い声。私はこれをとても恥ずかしいと思っているけれど、ルカさんは好きだとか、聞きたいだとか言ってくる。
そして私を、片方は半分ほど塞がった瞳でじっ、と見つめてくるのだ。
その視線は、私にとってはなによりの愛撫だった。

「ふふ、私の予想は間違っていなかったな。君は見つめながら突くといっそう可愛くなる……ほらっ」
「あ゛ッ♡ あ゛ぁ゛あぁあぁっ♡ ひっ、ひぐっ、いや、あ、す、すぐイッちゃうぅ、あっ、イく……イぐぅううぅうっ♡」

上に乗った私を巧みに弾ませる動きに、すぐに追い詰めらてしまう。身体がびくびく痙攣して、中に差し込まれたルカさんを強く締めつけた。

「うく……は、君の中は……く、よく締まりすぎるからいけない」
「あ、あぁっ、あぁああぁっ……♡ あぁああぁんっ♡」

ルカさんはさらに律動を繰り返す。自分が射精へ上り詰めていくために、私の膣壁のざらつく部分に肉茎を擦っている。

「あへっ……ひぃっ、ルカさん……ルカしゃあぁんっ……♡ 気持ち……よくなってぇっ……あ゛っ、あ゛ぁああぁっ♡」
「く……! あぁっ、はぁ、あぁ、出すぞ……くぅ、あぁ……!」
「ん゛う゛ぅ゛っ♡ でっ、出てるうぅうぅっ♡」

ルカさんの熱が、奥の奥で破裂した。
膣内に精液が満ちて、私の中でも二度目の絶頂が沸き起こった。
全身を震わせながら、愛しい人の精を受け止める。

「ひっ……あ、う、は……あぁあぁ……♡」
「ふぅ、はぁ……あぁ……」

二人で呼吸を整える。私の肉穴とルカさんの熱の脈動の頻度もゆっくりと落ち着いていって……。
そうなると、胸を満たすのは快楽の余韻と幸福な疲労感だ。

「ルカ……さん、好き……」
「ん……私もだよ。君を愛す」

私の身体をぎゅっと抱き寄せたまま、汗ばんだおでこにキスをしてくれる。

(ずっと……)

この幸福なひとときが、荘園での暮らしが、ずっと続けばいいなと考える。