罠と知りつつ

「今夜……君を抱く」

ルカ・バルサーさんは、私の目をしっかりと見てそんなことを言った。

「私、抱かれるんですか……?」
「いや……いや、こう言うとひどく性急だ。違うんだ、あるものが完成したんだ」
「完成? なにか、発明品ですか」
「ああ。大がかりなものではないが、有益だと思う。渡したいんだ。だから……できれば夜、部屋に来てくれると」
「わ、わかりました」

ルカさんの部屋に誘われたのなんて初めてだ。
彼が私のためになにか発明してくれたことも嬉しいし、ルカさんは違うと言っているが私はいよいよ抱かれるらしい。
わかりましたなんて事務的に答えたけれど、脳内では天使が喇叭を吹きながら舞っていた。
だってようするに、なかなか進展しなかった私たちの仲が、ようやく前に踏み出すということなのだろうから……。

この荘園に足を踏み入れたのがいつ頃だったか、もう思い出せない。
ただ、きっかけは毎晩夢にまで見るおかげで忘れずにいられる。
私はとても困窮していた。しかもそれは自分のせいじゃなかった。
日に日に理不尽な不幸と貧乏への憎しみを募らせているときに、赤い蝋で封をされた手紙が届いたのだ。
一も二もなく飛びついて、そして悪夢のようなゲームに参加することになった。
悪夢みたいに苦しい、つらい――というわけではない。
むしろゲームは楽しいものだった。荘園の外に置いてきたものを忘れるくらいに……。
ただ、行われる場所も、やらなくちゃいけないこともされることも「悪夢」としか言いようがなかった。

荘園には、私と同じように手紙に導かれた人々がいた。ゲームに参加するとき以外は、広いお屋敷の中でおのおの自由に過ごしている。
仲良くなった人もいたけれど、自分の経歴については話す気にはなれなかった。
――家族がおバカで、悪い人に騙されて、そのせいで私まで文無しなんです……。

(そんなこと、恥ずかしすぎて言えるわけない)

みじめったらしくて自分が嫌になってしまう。
でもどこかで、荘園のみんなともっと深く関わりたいとも思っていた。

そんな劣等感が強いくせに寂しがりな私が、ルカ・バルサーさんに好意を抱いたのは、彼の己の熱中するもの以外への温度がちょうどよかったからだ。
かつてあった事故のせいで記憶が薄い、だが完成させなければならない発明のことだけはよく覚えている――。
そう自負する彼は、人当たりがいいくせに他者にあまり興味がない。

「ああ――君、君。名前は……なんだったか」

そう問われて己の名を教えたのがもう何度目か思い出せない。でも教えると、そのたび嬉しそうに呼んでくれた。
名前を教えるだけで毎回新鮮な喜びを覚えてもらえるなら悪くないな、なんて思って、自分からルカさんに近づくことが多くなった。
彼はそちこちで工具や機械仕掛けをいじくっていた。
そうしているときは他の一切に興味がなくなってしまうらしく、背後に近寄っても、声をかけても気づきやしない。
それをいいことに、私は彼の背中を時間が許す限りいつまでも眺めた。
作業が一段落して、振り返って私の姿に驚いてから、また名前を問い、答えると笑ってくれる彼が好きだった。

けれどその、ぬるめのお風呂みたいな心地よさはあるとき変化した。
いつものように背後にいた私に、ルカさんは珍しく挨拶以上のことをしようとした。
厚手の手袋を外すと、私の髪のあたりに触れようと指を伸ばしてきたのだ。

「きゃあっ!」

その瞬間に大きな声を上げてしまった。
ルカさんも同時に驚きの顔を作ったが、すぐにそれは自責のような色に変化する。

「す、すまない。電荷が」
「え……あ、電気」
「いつのまにか帯電してしまっていたようだ」

彼がゲームのとき、青い光を放出させていることを思い出した。
今私を襲った鞭打ちのような衝撃は、彼の手から伝わる電流だったらしい。

「痛くはないか? どこかおかしなところは」
「平気……です、ちょっとびりびりしただけ……あっ!」

けれど、彼が私の無事を確かめるように身体に触れようとしたとき、またさっきの衝撃を想像してビクリとすくんでしまった。

(バカじゃないの私。失礼じゃないの……)

そんな風に思って慌ててルカさんの表情を伺った。
すると彼は口をぽかっと開いて、さっきとは違った驚き方をしていた。乱杭のような八重歯が、唇の隙間から覗いている。

「す、すみません。びくっとしちゃって」
「……肩のところに埃が乗っていたんだ。取れたようだな」

たんと黙ったあと、ルカさんはそんなことを言った。私に触れようとしたのはそれだったらしい。

そのあと私は頷いて、彼が再び作業に戻るならまだそれを眺めていようと思った。
でもルカさんは工具を前にして珍しく集中できないらしく、なにかを持ち上げてはすぐに戻したりすることを繰り返していた……。

その日からルカさんは、私に笑顔を見せてくれなくなってしまった。
顔を合わせると彼のかんばせに緊張が走る。
私もなんだかぎくしゃくしてしまって、お互いそっけない会釈をして去ることが増えていた。
それでもルカさんとの間に生まれる居心地のよさを諦められず、機械いじりをする彼の姿を探した。
いつものように過度な集中をする背中にそっと忍び寄り、ただ黙って見つめる。
これまで通り、一段落終えてようやく振り返って笑ってくれるのかと思ったら、ルカさんは私の姿を認めるなりギョクンと肩をすくませた。

「あんな痛い思いをしたのに、また近づいてきたのか……」

さらにはそんなことを言った。

「痛いなんて。あんなの、暗号機の調整を間違っちゃったときに比べれば」
「そういう問題ではない……普通の人間は電流に耐えうるようにできていない。私の不手際で君を傷つけてしまったのに」
「傷ついてなんかないです」

痛い思いだの、傷つけてだの、私の耳にはずいぶん大げさに聞こえているのだけれど、ルカさんは本気でそう思っているようだった。
私から言わせてもらえば、あんな些細なことでルカさんがよそよそしくなってしまうほうが大問題だった。傷ついてしまう。

「いや……なんというべきか……君を傷つけるのは……」

彼が頭を掻く。その仕草に色っぽさを感じてどきりとする。

「……この間、君が私の電荷に打たれたとき……不思議なことが起きた」
「不思議……?」
「もう私は、君の名前を忘れることはないと思った。それだけの衝撃があった」
「衝撃って、なににです?」
「君が私を恐れて、触れる前からびくりとしたとき……そ、その。電流にも似た、しかし異なる……しいて言うなら、激しい欲動のようなものが走った」

欲動?

「私は君に興奮したんだ。それも痛がる、恐れる、こわばる――そんな姿に」
「ええっ」

話がおかしな方向にむかっていく。興奮?

「そう遠くないうちに君をひどく凌轢する私が想像できたから……もう関わらないほうがいいと思ったんだが」
「えっ、そんな。あの……」
「だが……君がそれでも私と距離を詰めるなら……努力をしよう」
「努力って……?」
「つまり……君を、よこしまな欲ではなく、もっとなにか真っ当なふうに……」

私は鈍感だけれど、ルカさんの歯切れの悪い言葉と、気がつけば顔どころか首まで赤くなっている様子で察することができた。
きっかけはなんにせよ、彼は私を女として意識しだしたのだ。
そうわかってしまうと現金なもので、今までは温度とか、距離感がいいなんて思っていたのに、私もすっかりルカ・バルサーさんを、恋愛の対象として考えるようになってしまった。

それからの私たちがなにをしたかというと、いつも通りゲームに参加したり、機械いじりにのめり込む彼を眺めたりだったわけだけれど……。
以前とは違って、お互いたっぷり相手のことを意識していた。
同じ空間にいるだけで、勝手に恋愛感情が燃え上がっていく。
言葉もろくに交わさないのに。
ましてや触れあうことなんて一切ないのに。

で、話は「今夜君を抱く」に戻る。
キスもハグもしたことがないというか、お互い「好きです。交際したい」なんてことも言い合った覚えがないのに、私は納得して、それどころかどきどきしている。
不思議な気分だった。

「ルカさん……私です」

夜、彼の部屋をノックしてから告げると、すぐ向こうから声が聞こえた。どうやら扉の前で待っていたらしい。
カチリと錠が動く音。
それから扉が小さく開いて、緊張した面持ちのルカさんが顔を出した。

「入ってくれ」
「お……じゃまします」

ルカさんの部屋は散らかっていた。
部屋の真ん中のベッドがコックピットのように孤立している。床も机の上も、本やノートや工具、それから彼の発明品とおぼしきものであふれかえっていた。
でもそれがいかにもルカさんらしくて、微笑ましい気持ちになってくる。

「ああ、汚い部屋ですまない。さっそくだがこれを見てほしい」

ルカさんが差し出してきたものは、はっきり言ってよくわからなかった。
彼の手のひらよりも少し大きい器物。
シンプルな土台の上に、半球状の黒いものがドームのようにくっついている。
そしてそれは、ルカさんの部屋の隅から伸びるコードと繋がっていた。

「これは……なんですか」

受け取りつつも問うと、ルカさんは手袋をはめたままの指を自分の顎に当て、わずかに得意げな顔になった。格好いい。

「この館の電気回路について調べたとき、意外とハイ・テクノロジーな設備がほどこされていることに着目した」
「てくのろじー……」
「どこから説明しようか。感電、電流の仕組みについてはまあ省いていいだろ」
「は、はい」

実のところ私は科学というものにめちゃくちゃ疎くて、電気がなんで起こるのかとか、そういうことすらよくわかっていなかった。
でも多分、それを説明してもらっていたら……それだけで夜が明けてしまう。

「館の敷地内には、電流を地面に逃がすためのものが埋設されていた。それを利用すれば安全だと目論んだ」

ルカさんはそう言って、私が手にした謎の半球土台を指さす。

「これを私の発明した導線で屋敷と接続し、まぁ……ベッドの脇にでも置いておく。そして任意のタイミングで私が触れる。すると」
「すると……?」
「私の身体に溜まった電気は、安全かつすみやかに地面に放電される。もう君に痛い思いをさせることはない」
「あ、電気が……バチッてならなくなるんです?」
「そう。それから副産物的に静電気も防いでくれる」
「わあ……」

わあ……と言ったが、正直話の半分も私には理解できていない。

「ルカさんは……私に触れるために、これを?」

わかったのは、ルカさんが本当に……彼の宣言したとおり、真摯に私のことを考えてくれていたということだけだ。

「これを完成させたのは、私が自分の感情にケジメをつけるためなのさ」
「ケジメって……」
「これは同意のサイン。私が君に触れたいと願う。君は了承の証としてこれを差し出す。放電。君が痛みを負うことはなくなる」
「……ルカさん、私の感電姿にわくわくしたことを、そんなに気にしなくても」

でも、ルカさんは頭をブンと振った。

「しょ……正直なところ、恐ろしかった。私は自分の中にある最高傑作を完成させるためだけに生きてきた。色恋……いや、色欲とは無縁の暮らしだった……はず。ほとんど思い出せないが。だから君を痛がらせたいなんていう気持ちがあることに恐怖した。向き合うのも手だが、それでは君を巻き込む」
「そう……ですね、私、びりびりさせられちゃう」

正直、ルカさんにされるならいいかも……なんて思ってしまったことは黙っておく。

「だからこれを作った。よこしまな感情を封印する。私は嗜虐欲に勝って、君と恋愛がしたい。傷つけたいなんて欲があるからには、その根底には愛惜があるはず……だろう? 私はそちらを信じようと……それは正解だった。日に日に君が愛しくなってきた」

それは初めての、ルカさんからのまっすぐな告白だった。

「完成したら、君に告白するのだと……」
「は、はい」
「そ……そのはいはなんだ。相槌なのか」
「いえ……わ、私も、ルカさんと恋愛がしたいと……」

急激に照れの感情が襲いかかってきた。
道筋がゴチャゴチャだった私たちが、ようやくスタートラインに立ったのだ。

「では……それを私に差し出してくれないか」
「ど……どうぞ」

私は両手で謎装置を持ち、ルカさんの前に差し出した。
ルカさんは手袋を脱ぐと、黒いドームにペタリと手のひらをつけた。

「よし……」

特になにか起きたようには見えなかったけれど、装置に触れたルカさんは頷いている。

「さて、触れるぞ」
「えっ、あっ、今すぐ?」
「言っただろ。今夜君を抱く。君もある程度は望んでいるものと思っていた」

そう問われるとそうだった。望んでいた。
君を抱くと言われて、私は舞い上がったのだ。
くつくつと温めていた恋心は、告白を受けて沸騰しそうなほど熱くなっている。
このまま勢いに任せてしまったほうがいい……私の中のなにかがそう告げるものだから、ルカさんの腕が伸びてくるのにも抵抗しなかった。

それから陸の孤島になっているルカさんのベッドに寝かされて、ゆっくりと服を脱がされた。
あれ、その前に普通キスをするんじゃないのかな、と思ったけれど、ルカさんが素通りするならそれに従うしかない。
素肌が晒されて恥ずかしく、両手を乳房の前にやって隠してしまう。

「う……」
「ル、ルカさん?」

覆い被さったルカさんが、急にくぐもった声を出した。

「び……美について考える」
「美ぃ?」

そして突然、わけのわからないことを言い出してしまった。

「私が追求するのは当然、機能美というものだ。あるべきものが、あるべき場所へセットされ働きをスムーズにする。結果見目を損なうことも大いにある」
「え……え?」
「しかし君の身体はどうだ……装飾的な美と、機能上での好都合さが、しっかりと調和を見せている。もとより人の身体とは信じられない高性能を誇るが……」
「ルカさん……?」
「相手を誘う遺伝子のサイン……なるほど私が欲動に駆られるのも無理はないな、だって君は服の下にこんなに美しいものを隠していたのだから。りょ、猟奇的と言われても、ラジオや時計を分解するように、取り返しがつかないとわかりながらも中を暴いてみたくなる。私が工具をメスに持ち替えてしまう日も近いかもしれない!」
「ル……ル……」
「いや、いや。私はそんな感情と決別するためにあの放電装置を作った。君を知的好奇心や下賎な欲ではなく、一人の男として誠実に愛そうと決めたのだから……いや、だがこれは」
「ル、ルカさん、もしかしてめちゃくちゃ緊張していませんか?」

のべつまくなしに語るルカさんの顔は真っ赤だった。
ついでに髪の隙間から見える額につっと汗の玉が照って、そのまま細い首へ伝っていくのが二回も見えた。
服を脱がした後、彼の手は私の肩の横あたりに置かれたままで、繋がった腕はプルプルと小さく震えていた。

「み、認めよう」
(やっぱり緊張してるんだ……)

「つ……つかぬことをお伺いしますが、ルカさんもしかして初めてなんですか」
「いや、残念ながら思い出すことができない。過去の記憶は大半が電流に焼かれた」
「それはちょっと都合よくないですか?!」
「本当だ。私が童貞だとはっきり言えるなら、もっと堂々としていると思わないか」
「堂々と……?」
「愛した女に純潔を捧げるのは、誇らしいだろう」
「それは……まあ、確かに」

ルカさんはそれっきり、謎の美についての所感も、己の記憶についても話さなくなった。でもそのくらいの距離が、やっぱりちょうどいい気がした。
「ところで君は処女なのか?」なんて聞いてこないのが、私がこの人に惚れたことの真髄な気がする。

「ふぅ……ああ、今のでだいぶ気持ちが弛緩した……忘れ物に気がついた」
「えっ?」

ルカさんはそっと口を閉じた。
そのまま長い睫毛をたたえたかんばせが近づいてきて、私の唇をあまりに優しく奪った。
胸がぎゅうっと締め付けられた。好きになった男の人との口づけなんて、ほとんど初めてだった。
それがこんなに温かくて心地いいということが、ルカさんとは逆に私を緊張させていく。

「んふ……」

でも、ルカさんは巧みだった。私が縮こまって唇を閉じてしまう前に、ゆっくり舌を差し込んできた。
なにかと触れることで初めてざらつきを自覚できる粘膜が、ルカさんのそれと気持ちよく馴れあっていく。
ぼんやり思った。たぶん、ルカさんは初めてじゃない。
……そう知覚すると、私の緊張は現金にもほぐれた。興奮しながらも鼓動は落ち着いて、トクン、トクンと一定のリズムを刻みだす。

「ちょっと待ってくれ……」

唇がそっと離れると、ルカさんは自分の衣服に手をかけた。
そういえば、今日はいつも首周りにかけている枷がなかった。最初からこういうことをするつもりで、外しておいたのかもしれない。
ルカさんがシャツとズボンを脱ぐと、下から包帯を巻かれた痩せ身が覗いた。

「わ……あ」

思わず息を呑む。本当に驚くほど痩せぎすだ。
ひょろ長い手足、あばらが浮き出る胴。
痛々しいほど細いのに、どうしてかそれがものすごく……。

「せ……性的です」
「ん?」
「ルカさんの身体って……エッチですね」

気がつけばそんなことを口にしていた。後悔してももう遅い。

「君には負けるよ」

ルカさんはすっかり緊張がほどけているらしく、軽快に返してくる。
そして包帯は巻いたまま――もしかしたら下に傷でもあるのかもしれない――ほぼ裸になった身体で再度私に覆い被さると、左手を乳房に、そしてごく自然な動きで、右手を私の下腹部に滑り込ませた。

「あっ……ふ、あぁっ……」

細長い指が、私のさほど大きくもない乳房に食い込んでくる。その動きで、ただでさえ性感にうずうずしていた乳首がぴんと立ってしまう。照れくさかった。
ルカさんの指はそんな突起を、これまた手慣れた様子でつん、つん、と叩いた。そのたびに粟立つ私の肌を、楽しんでいるようだった。
右手のほうは、わずかに開いた股間のクレヴァスにそっと添えられている。割れ目を開いたり、指でまさぐったりはされない。

「ルカさん……あはぁっ!」

私が物欲しげに声を上げた直後に、痛いくらい隆起した乳首がつままれる。胸の先から入り込んだうっとりする感覚に、お腹の下が生ぬるく湿るのがわかった。
それは当然、もう片方の手をゆるゆると私の粘膜にあてがっていたルカさんにも丸わかりだ。

「よく湿る。いい膣だ」
「膣て! そ、そんな言い方……あぁうっ……♡」

飾らない物言いに逆にいやらしさを感じて、思わず目を見開いたタイミングで……実にあっさり、ルカさんの指が膣穴に入り込んできた。

「はぁっ……ふぅ、うぅぅ……」

根元までおさまった中指が、肉壁の感触を確かめるように蠢いた。
くちっ、くちっ、と、粘っこい音が立ってしまうのが恥ずかしい。

「あっ……あ……!」

羞恥で仰向けの自分のお腹あたりを見るでもなく見ていた視線をおそるおそる上げてルカさんの顔を見てから、しまったと思った。
さっき真っ赤になって照れていた彼はどこへやら、今は淫らに微笑みながら私の内側を探っている。口の端から覗く八重歯が、なんとも言えず格好いい。
身体の感度が急激に上がっていくのがわかった。
私、ルカさんのこと、すっかり好きになってるんだ……なんて改めて思ったりする。

「見つめ合うのがいいか。私と視線が交わると、君の中が気持ちよく軋む」
「い、言わないで……あぁっ♡ あっ、あっ、あっ……」

彼の指の腹が、私の感じるところを探り当てた。膣穴のおへそ側にある弱いところを、ざらざらとくすぐるように撫でてくる。

「いやっ……あっ、そこ……だめ、あっ、弱い……ですぅ」
「ふふ……」

身をよじる私を見ながら、ルカさんは笑う。指の動きはやまない。弱いものを慈しむような強さで、けれども何度も撫でられる。

「やだ! ああっ、ひっ、イくっ……くぅ、うぅ、いや……あぁ、だめ……イく、あっ、あぁ、あぁあぁああぁっ!」

お腹の中で急激に快感が膨れた。なすすべもなく打ちのめされて、下半身が自分のものじゃないみたいに跳ね回るのを止められない。

「あ、あぁ……あぁっ……♡」

恥ずかしいのが、私がそうなっても指を入れたままのルカさんの手のひらに、迸った蜜液が溜まっていくのが見えることだった。

「すごいな……」
「うぅうぅ~っ……」
「君がこんなに情熱的は子だとは思わなかった」
「情熱的……って」
「往くとか言うんだな」
「ひっ! いやっ! いやっ、そ、それは情熱的とかいう言葉でくるむ程度にしておいてください! そんなはっきり言わないで、あ、う、は、恥ずかしっ……!」
「言葉でいたぶっているわけじゃない。意外性があって興奮した」
「あっ……ふ……!」

ルカさんが私の中から指を引き抜くと、そのまま私の手を掴んだ。それを自分の大きくなった下半身に添えさせるものだから、私の頭は、今度は性的な興奮でのぼせてしまいそうになる。
ルカさんの肉茎は、彼の体つきから想像できるように長身ぎみだった。すごく大きいというわけではないけれど、先っぽは立派な傘のようにせり出しているし、裏側も筋張ったところがくっきり見える。

「これを君の中におさめたい。いいかな」
「う……はい」

なんとなくためらってみせたのはつまらないプライドかもしれない。すぐにはいお願いします、いますぐ入れてほしい、この気持ちよさそうなものを私に突き込んで……なんて言ったら、好き者だと思われそうだなんていう。
きっともう、身体のこなれ具合で私のそういうところはバレているのに。

「あっ……?」

ルカさんは身を起こすと、そっと私の身体を横寝にさせた。真正面を向いたまま足を開かれるのかと思っていたから驚いた。
そして私を背後から抱くようになると、その状態で脚の間に肉茎を挟んできた。

「あ……う、熱い……」
「君が熱くした」
「は、はい……あんっ……!」

割れ目に添えられた熱が前後する。触れられていないのに充血したクリトリスが、ルカさんのびきっと張り詰めた肉幹で擦られる。
思わず腰が逃げてしまうけれど、ルカさんが掴んでいる。

「あっ、あっ、あんっ……あふ、やだ……擦っちゃ……はぁっ……」
「ん……竿肌が少しずつ馴染んでいくようだよ」

彼の言葉通り、肉茎の表面が私の愛液で濡れていく。ルカさんの先っぽからもねっとりした汁が溢れていた。

「入れて大丈夫かな。もう少し遊ぶか?」
「い、いえ……い……入れてください」

さっきは好き者と思われたくない、なんて考えていたのに。こんなふうに誘導されては我慢もできない。

「いくぞ……はぁっ……」
「あ……あぁああぁっ……!」

ルカさんが強く腰を押しつけた。同時に十分に濡れた私の肉穴がこじ開けられて、さっき目で見た通りびきりとせり出た先っぽが、指とは比べものにならない圧力で膣壁を擦っていく。

「ふくぅっ……くうぁぁ、入ってくるっ……あぁ、ルカさん、ルカさん……」
「奥まで潤っている……く、あ……舐められているみたいだ」
「ああぁあっ!」

奥まで入りきって、子宮の入り口にコツンとルカさんが当たる感触がある。
そのままルカさんは、ゆっくりと腰を使いだした。ほんのわずかに引いたかと思うと、また子宮口に先端を当ててくる。
狭いところで小刻みな律動が繰り返されて、その感覚に私はめろめろになっていた。

「ひぃう……あぁう、あぁっ、あ、あぁ……あぁあぁっ……♡」

さっき指でもいじられた壁の弱いところと、突かれるとお腹の底からじわりと快感がこみ上げる子宮口。
二つの場所を一気に刺激されるものだから、羞恥心もプライドも機能しなくなる。

「お゛ぉっ……ふぅうぅ、くぅ、うぅうぅうぅっ……う゛ぅううっ♡」
「ふふ……やっぱり情熱的だ。腹の底から出る声が可愛いな」
「う゛ッ……い、言わないで……おッ、お゛ぉ゛っ……わ、わらひだって、出したいわけじゃ……あ゛ぁ゛ああぁあぁっ♡」

しどろもどろに言い訳をしようとすると、ルカさんの動きが変化した。
子宮口にぴったりと先っぽをぶつけると、そのままくちくちといじめるように腰を揺らしだす。

「ふあぁあぁあんっ♡ あっ、あ゛ひっ、ひぃッ、ひーッ……♡」
「く……できるだけ長く楽しんでいたいと思ったが……」
「ひぐっ……?! あっ、アッ、ああぁあぁあッッッ!」

私からたっぷりと嬌声を引き出させて、ルカさんはまた身体の動きを変えた。
快楽で痺れたようになった私を、何度も立て続けに突き上げてくる。

「あぁ、うぁ、ダメ、イくっ、イくうぅぅっ……あ゛ぁあぁっ、あっ、あくぅううぅうぅうぅーーーっ……!!」

こらえ切れずに痙攣する肉穴にに、ルカさんが二度三度と激しい抽迭を繰り返した。

「私もだ……往く、君の中で……ああっ!」

膣穴に熱いものがぶちまけられた。私は声も出せないくらいの驚きと快楽に喉を詰まらせながら、その粘っこい感触をしっかりと粘膜で味わった。

「うぅうぅっ……は、ぁ……ルカさん……ルカさん……」

うわごとのように言いながら、まだ私の中で収縮しながら熱を吐く肉茎を感じ取る。

「待ってくれ……もう少し」
「あっ……?!」

ルカさんが私の身体をうつ伏せに倒した。肉茎が抜けてしまうと思ったけれど、彼は巧みだった。身体をくっつけたまま私の背中にのしかかって、変則的な後背位の体勢になる。

「あ゛ぁあぁっ♡ あひッ、ひっ、う、うごいちゃ……ああぁあぁっ♡」

そのままさっきよりも激しい動きが繰り出される。私の中にあるルカさんは、ちっとも萎えないままだった。

「く……く……」
「ひっ、ああっ、あっ、あぁあぁんっ……♡」

膣穴に注がれた精液のせいで、擦れ合う粘膜から激しい汁音がする。

(くふぅぅっ……♡ 恥ずかしいのに……か、感じちゃうぅ……♡)

音が私をいっそう興奮させる。ルカさんもどんどん高揚しているのがわかる。
腰を打ちつける速度と、膣穴をえぐる肉茎の激しさが増していく。
膣奥をえぐられる心地よさと、ベッドシーツにクリトリスが擦れる刺すような快感で、私は再び絶頂に駆り立てられていく。

「ま、またイッちゃうぅっ……ルカさっ、あっ、ルカさんっ……ふぁあぁああぁっ!」
「私もだ……また出すぞ、受け止めてくれ……くぅっ!」
「ああああああぁあぁっ! いッ、ぐ、イグッ、あっ、あっ、あぁああぁあぁっ♡」

また膣穴の奥に、さっきよりも勢いの激しい精汁が注がれる。その衝撃で絶頂して、快楽のあまりに全身が硬直したようにこわばった。

「ふっ……く、あ、あまり締めないでくれ……あぁ、敏感だから……」
「ふぁ、はぁ……あぁ……ごめ、んな……しゃ……」
「謝ることではないが……んふ……」

ルカさんが鼻息混じりに笑った。くすぐったいような嬉しさがわき起こる。

「んん……さっき、目が合うたびにいい反応をする君が可愛かったが……あえて視線の合わない体位にしてしまった」
「あふ……あ、そう、いえば……」
「私としては、次のお楽しみに取っておきたいと……性急だ。もう次のことを考えてしまっている」
「次……あんっ……♡」

背中にルカさんの体重がのしかかってくる。後ろ頭に彼の鼻筋が突き込まれて、そのまますりすりと髪をまさぐっているのがわかる。

「いとおしいな……なんだかまんまと人生の罠にかかった気分だ。大切なものが増えてしまう……」

そう言いながらも、ルカさんは決して嫌そうだったり、深刻がっていたりするふうではない。むしろ喜びの滲んだ声だった。

(私も、嬉しい……)

そっと思いながら、これからルカさんと過ごす毎日に想いを馳せた……。