コールドストリーク・ラバーズ
「おっ……おっ……♥」
ボディソープにまみれた柔らかな肌が、自分の体を滑っていく心地よさに声をあげる。
「お風呂入ってない帝統とエッチするのが最高だけど……でも、そうすると何時間もかけちゃうから……んっ……」
「おあぁっ……確かに珍しーな……お前がいきなりフロ入ろうなんて言ってくるの」
帝統は恋人に体、特に股間を念入りに洗われながら吐息をこぼす。
彼女の浴室にある洗浄料はだいたい、バラの香りが強めのものだ。この部屋で風呂を借りた直後に乱数に会ったりなどすればニヤリとされ、「カノジョのお部屋にいたんだね」と笑われたりする。
(普段のこいつなら、思いっきしエロいことした後じゃねーと……フロ貸してくんねーんだけどな)
彼女は微妙に汚辱趣味なところがある。数日入浴をサボることが多い帝統の体を嗅いだり舐めたりするのを楽しみにしていて、当人の留守中に勝手にシャワーを借りたりすると、ときには涙まで滲ませて「どうして!」なんて言ってくる。
――それが今日は、朝方に「会いたい」というメッセージを受信して部屋を訪れるなり風呂場に誘われた。
汗でシナッた髪を丁寧に二度洗いし、その後にエレガントローズの香りの液体石けんを手に取って、帝統の体じゅうを清めていく。
その最中に興が乗ってきたのか、彼女は自分の胸にソープを塗りたくり、それをスポンジ代わりにして帝統の背中や腕をぬるぬると愛撫した。
やがて野太いペニスや窄まったアヌスまで綺麗に洗い、適温のシャワーで全身の泡を落としていく。
「ん、綺麗になったね……あっ♥」
「まさかこのまま『じゃ、あがろっかー』とか言わねーよな~?」
たまらなくなった帝統が彼女の腕を掴み、浴室の壁に体を押しつけてやると、ムチムチとした尻が期待に震えるのが視界に入った。
「お風呂でするの、久しぶり……かな?」
「そーか? 何回もハメ狂ってるから、こまけぇことは忘れちまうな」
「あぁっ……!」
洗うという名目の愛撫を受けて勃起していたペニスを片手で押さえつけ、もう片手で娘の尻肉を割り開く。彼女の秘唇は、触れてもいないのにねっとりと湿っていた。
「ん~……」
「帝統……あっ!」
ごくわずか、ほんの一センチくらい膣穴に亀頭をめり込ませ、そしてすぐに抜いてしまう。
「い、入れられない……? 立ったまま、やりづらい……?」
「そーかもな」
「あぁっ♥」
もう一度、先っぽを少しだけ挿入しては腰を引く。
それを二度三度と繰り返されると、彼女もさすがに自分がいたぶられていることに気がついた。壁に手を突きながらもどかしそうに帝統を振り返る。
「今日の帝統、意地悪……」
「おめーが素直な体すぎっから、ちょっとはマンネリ予防したくなんだよ♥ おら、だいちゃんのちんぽ欲しいだろ~?」
「うくっ……ほ、欲しい……だいす、早く……入れてっ♥」
「んじゃ、俺ここでちんぽ勃たせとくからよ、ケツからバックして入れてみな」
「ええっ!?」
言って、帝統は娘の尻から体を離した位置で肉竿の根元を握って角度をつける。彼女が頑張れば、ぎりぎり言ったとおりのことができなくもなさそうなポジションを意識する。
「ほぉら、このでっかいケツをよ♥ 俺のちんぽにおっ被せてみろよ~♥」
「くぅ、もうっ……! 帝統のばかっ、でも好きっ……♥♥♥」
「おほっ……!?」
この娘は帝統の想像以上に器用で、淫欲が強かった。肉の詰まった双臀をぐっと突き出し、足首を浮かせて腰をひねると、膣穴の入り口で勢いよく帝統のペニスを捉えた。勢いをつけた動きで、すぐさま亀頭が二センチほど中に埋もれる。
「あ゛はっ……♥ 捕まえたぁっ……♥」
「くっそ♥ エロいこと得意すぎんだろてめーっ……♥」
「んくうぅうぅうぅっ……♥」
そこまでいくと小競り合いなどバカバカしい。彼女の腰を引っつかみ、立ちバックの状態で背後から思いきり突き上げた。とろりとした恥肉がペニスを包んでくる、おなじみの感触。その柔穴を抜き差しで往復するのがたまらない。
「あっ♥ あっ♥ あぁっあぁあっ♥ だいすっ♥ だいすぅっ♥」
「まんこ締めながらスケベ声出しやがってよ! はぁッ……スキモン女がよぉっ♥」
「はっ……うぅ、好き者……じゃないもんっ、帝統だからいいんだもん……!」
「へーへー、そうだよなぁ? おめーは俺のこと好きすぎんだよなぁ? おらっ♥」
「あ゛~~~っ♥ だめ、奥ぅ、あぁ、おちんぽ当てながらぐりゅぐりゅだめぇえぇっ♥」
甘ったれるように吸いついてきた膣壁をペニスで押しつぶし、奥の奥に先端を当てて容赦なくなぶる。彼女の口から嬌声がこぼれるのと同時に、帝統も射精欲に抗えなくなってくる。
「出すぞ……! 俺の精子、おいしーって言いながら中で飲めよっ♥♥♥」
「あっあくぅっ♥ あっイくっ、いっ、あっ、あっ、あ゛あぁああぁっ♥ 帝統の精子おいしいっ、あっひ、あっ、あぁあぁああぁあぁああ~~~っっっ♥♥♥」
「くおぉほぉッ♥ おっ、おっ……お゛おぉおっ……♥」
獣欲がどぷどぷと子宮に注がれる。その感覚で娘の膣も、それより奥にある臓器も激しく痙攣する。それに促される形で帝統もまた肉竿を震わせ、ふたりで深い絶頂を共有しあう。
◇
「おめー、こーいうとこも好きなんだな。なんか女って感じの」
「うん、アフヌン好き。結構行ってるかな~」
「アフヌン~?」
セックスの後にもう一度汗を流し、己と帝統の髪を丁寧に乾かし、自分自身は几帳面に化粧までした娘が帝統を連れてやってきたのは、シブヤの駅近くにある高層ホテル……の中にあるバーだった。どうやらここに連れてくるために、帝統をすみずみまで洗い清めたらしい。
バーと言われて帝統が想像する小さくて薄暗い空間や、カジノなどに併設の狭いショットバーとは違った。バーカウンターは確かにあるが、広々としたモダンな空間にテーブル席がいくつもあり、高級なレストランといった感じだ。
「ここにも来てみたかったんだ」
娘の目当ては、昼間に提供されるアフタヌーンティーらしい。入店のときにウェイトレスに確認を取られていた。
(アフタヌーンティー、ねぇ)
今となっては優雅な贅沢とは縁遠い帝統だが、それがどんなものかは知っている。「気取った皿にチマチマ食い出のねーモンが乗ってるやつ」。しかも好きでもないどころかなんとなく嫌なことを思い出す、紅茶がついてくる。飲み放題でも全然嬉しくない。
「なんでもいーわ、俺。紅茶以外な」
やがてウェイターが飲料のメニューを持ってやってきたのに、冊子を見ずに答えて娘に回す。
「お酒でもいい?」
「酒出んのかよ、ここ。まーバーだからか……別にいーけどよ」
帝統が告げると、彼女はにこにこ笑顔でシャンパンをふたりぶんオーダーした。こんな洒落た店で昼から酒。彼女の行動が、なんとなく掴めない。
「こんなとこ俺と来ても楽しくねぇだろ。女のダチと来いよ」
「うん、いつもはアフヌン友達と行くんだけど……」
「そのアフヌンてのもよ、なんか変な略し方だからやめろよ」
「うん……」
「なんだよ、なにしてーんだよ、今日のお前は」
娘はちょっとうつむいた。なんだか照れている様子だった。
「今日、私の誕生日だから……」
「――は?」
「帝統と一緒に、こういうお店に来たくって」
「お」
お前、そーいう大事なことは先に言えよ! と言いかけて、帝統はちょっと迷った。
「誕生日だから、豪華なお店で『アフヌン』した~い」と言われて「しょうがねーな♥」なんて応じる自分は、ちょっと想像できなかった。
「……」
彼女の誕生日を祝いたい気持ちはある。だがねだられたとしても、こんな気取った空間に来ようと思うか。思わないだろう。なにも金をけちって、あるいはすっからかんで余裕がない、という理由ではない。単に、今の自分はこういう贅沢を反骨精神のようなもので避けたいのだ。
「帝統、こういうお店は『ガラじゃねー』って言うと思ったけど……でも」
そういう帝統の人格をわかっていながらも、彼氏と素敵なお店でバースデーという夢を捨てきれなかったらしい。
「あっ」
メニューを見せたウェイターが、今度は豪勢なセットを二人前持ってやってきた。支度を調えると、細身のシャンパングラスに薄金の液体を注ぐ。
「……」
ぼんやり思い出す。ガキの頃、大人のこういう会食が退屈で仕方がなかった。そんな思いの積み重ねで自分は過去を捨てたのだ。
――だが今、愛しい女を前にしてこれを「嫌ったらしい」「退屈だ」と感じるかというと、そうでもなかった。
「おめでとうな」
「うん……ありがと、帝統」
グラスをついっと持って、彼女と音を立てない乾杯をする。そして中身を一気に煽った。その様子に安堵したのか、彼女も笑顔になってアルコールに口をつけ、そしてすぐさま器に盛られた小さなケーキに手を伸ばす。
「でもわりーけど、俺金ねーぞ。プレゼントも買えねぇ、今日明日じゃ」
「そんなの、帝統が一緒にいてくれればそれだけでいいの」
「けっ、こーいう店で贅沢したがるくせして、良妻みてーなこと言いやがって♥」
セイボリー、と呼ぶんだったか、ケーキの下にあるサンドイッチに口をつける。シャンパンとの組み合わせは、案外悪くなかった。
「……ま、かわりに体で払うからよ! 数日は風呂我慢してやっから」
「……!」
娘の瞳が輝く。そうこなくっちゃな、と帝統は思う。