ショータイム

「オジサン、ひとり?」
 私が声をかけたのは髪がぼさぼさの、ついでに格好も薄汚れたオジサンで、このゴチャついた場で誰とも会話、いやそれ以上のこともする様子がない感じでカウンターに腰かけているのがすごく気になった。私のクセ、いやヘキとでもいうべきもので、場違いな人を見つけるとついちょっかいを出したくなる。
「いやァ連れがいる」
「どこに」
「あすこだ」
 言ってオジサンは、酔いどれか、もっと悪いものに冒された人たちが頭を振って踊り狂うフロアを指さした。
「どれ」
「胸んとこに切れ目が入った服のガキと、隣のあんちゃん」
 言われて私は対象を目で探す。すぐに見つかった。露出度の高いチャイナドレスを身につけた若い女と、民族の方向性的には合ってそうな服を着た橙色の髪のイケメン。見た感じふたりは酒も薬もやっていない。ただあたりの狂乱を、冷ややかながらも楽しそうに眺めて適当に身体を揺すっている。
 なんだか目の前のオジサンとの組み合わせが以外だった。私は彼の隣に腰かけると肩にもたれかかった。拒まれなかった。
「こんなとこシラフで来るもんじゃないよ。ねえ抜けようよ」
「あんたもシラフに見えるが」
「そう。危ない場所に入ろうとした善良な人を連れ返るのが役目なの」
「善良ねェ」
 私に向きかけていたオジサンの関心が、フロアから上がったどよめきでかき消えてしまった。私も慌ててそっちを見る。
「ああ……またバカやって」
「ちょっと、なにあれ」
 女のほうが驚くほどの体幹で、立ったまま片脚を高々と天に上げた。ドレスの下にはなにも身につけていなかった。
 そこで終わればただのアホだけど、終わらなかった。男のほうも同じ格好をした。女と寸分違わぬバランスで脚を上げる。
「え……え、ウソ」
「あーあ……」
 仰天したのはそこからだ。男はズボンを押し下げて、骨より硬くなったものを取り出して、その、要するにバレエのプリマみたいな格好のまま、同じ格好をした女と性器を結合させてしまった。
「ウソ、ねえ、あの人たちなに」
 あたりがさらにざわつく。その頭のおかしい体位で、ふたりが息ぴったりの律動を始める。まる出しの秘唇に、まる出しの肉竿が出入りしだす。
 こんなのきっとサーカスでも見られない。狂気を通り越して、なんだかものすごく完成度の高い芸術を見せられている気分になった。
「オジサン、あんた……あっ……!」
 それまで性欲とか下心とか、そういうものを醸していなかったオジサンが、急に獰猛になって私の胸を掴んだ。
「ああなったら二、三発出すまで終わるめえよ。ただ見てるのも退屈なんでな、ここでお相手頼むわ」
「待って……ここじゃ……んぅ……!」
 オジサンが私を持ち上げる。くたびれた服越しにもわかる股間の隆起に震えた。この人たちはどうにも、酒や薬よりも難儀な性質を飼い慣らしているらしい。下着がひん剥かれる。私もあの女みたいにむき出しにされた。彼女とは違って背後から抱えられる形だ。
「んぁ゛ぁあぁああぁあぁあぁっ……!」
 性器を通り越して内臓まで殴りつけられるみたいな衝撃。
 私の秘唇はまだ濡れてもいなかった。でもオジサンの猛ったものは、そんなのものともしなかった。
 侵入を拒む粘膜をぎちぎちと引き剥がし、硬すぎる熱をねじ込んでくる。
「いっ、つ、うぅっ……うくぅぅう……!」
「じきに馴染むだろ。我慢してくれよな」
「そんな……あっ、くぅあッ、あぐっ、うくっ、うっ」
 言いながらもオジサンは「馴染む」のを待つ気はないらしかった。私の身体を激しく揺らし、肉茎の出し入れを始めてしまう。
 ひと突きごとにお腹が内側から押される。喉からげほっ、と空気が追い出されて、唾なんだか吐瀉物なんだかわからないものがこぼれた。
「思ったよりキツいな。あんたみたいなのはもっと崩れてるかと思ったんだが……はぁっ」
「ひ……どいこと、言わないでっ……んぅうぅうっ」
「だが中の感じは悪くねぇ、これで皿だったらハズレもいいとこだが、奥はしっかり深い……」
 教養があるんだか最悪なんだか、よくわからないことを言いながらオジサンが歩き始める。その衝撃にもいちいち身もだえする。
「待って……あぐっ、あ、あっちに行くのっ……んぁあぁあっ!」
 繋がったまま、あの狂態を晒す「連れ」のところに、私を連れて行くつもりらしかった。
 抵抗なんて当然意味を成さない。私は用を足す子供みたいな格好で運ばれて、どよめきから爆笑に変化しつつあったギャラリーをかき分け、そのふたりのつがいの前に出た。
「やってるなァおふたりさん」
「およ、阿伏兎」
 ふたりが振り返った瞬間、オジサンの熱が中でもっと硬くなった。
「なんだ、いい人見つけたの」
「ちょいと穴を借りてる。あんたらばっかりお楽しみなのもシャクなんでな」
「あはっ……あっ、あ……私、阿伏兎さんのそういうの……見るの、初めて……んんぅっ!」
「そういうのォ? あんたらの前でマスをかいたのは一度や二度じゃねーぞ」
「せ……セックスぅ……♡ 女の人とセックスしてるのは、見るの、初めてですッ……♡」
「や、やめて……オジサン、これ、すごく恥ずかしいっ……んぁ゛あぁあぁあんッ!」
 ふたりはオジサンと私を拒むどころか、狂乱の宴に仲間が加わったことに喜んでいた。
「あぁだめ神威、立ってられない! 崩れちゃう、脚、ぴぃんってしてられな……ああぁあぁあぁんッ♡」
「しょうがないな。ほら」
「んぉ゛ぉおおっ♡ おひッ、ひぃっ、ひぃいいんっ……!」
 女が脚を……それでも肉竿が抜け落ちないように下げ、ぐりっと身体をひねって立ちバックの体勢になる。それをイケメンが抱き上げて、私やオジサンと同じ格好になった。
「いやっ、だめ、これダメ、オジサン、ダメってば……あぁっ♡」
「あんたの身体はイイって言ってる。もう拒んじゃいねえ、肉ひだが絡んでくるみたいだ」
「うくぅうぅ~~~っ……!」
 互いの男が、私と女を見せ合っている状態だ。しかもオジサンはそれに大層興奮するようで、膣穴や子宮を突き上げる動きがさらに激しくなる。
 それは目の前の男女も同じだ。激しく突き、それを受け入れ、身も心も高揚してさらに狂っていく。もはやセックスというより、肉と肉がぶつかる暴力みたいな光景。自分がその一員になっているのが不思議だった。
「う゛ぅっ……お、オジサン、私、こんなの初めてっ……♡」
「この格好がか? こんなイカレた状態がか?」
「どっちもぉっ……どっちも初めてで……あぁ……あぁ、こ、興奮、するッ……!」
「くくっ、気分出しやがって」
 己の身を襲う感情を認めると、オジサンは笑った。笑いながらも、こちらを追い詰める――否、私になんて構わず、自分の快感を追い求めて駆け上がっていく動きを強めていく。でもその勝手な獰猛さが気持ちいい。たった数分、経っていても十分くらいで、私の身体はおかしくされてしまった。こいつらの狂気にあてられたんだ。
「おほぉうぁッ♡ イぐッ♡ オジサン……い、イぐぅ、わ、私……」
「阿伏兎ってんだ、最後にちょっと名前を呼ばれてえな」
「あ……あぁ、あぶとさん、いぃ……イぐぅうううううっ……! んぁあぁあぁああぁあぁっっっ♡♡♡」
「ふぅ……くぅ……あァ……」
 絶頂痙攣した膣穴を、液じゃなくて塊みたいな精液が灼いていく。その感覚にまた快感の頂点に追いやられてのけぞる。
「気に入ってるんだ、その子。連れてく?」
「や、いい……あんたと違って、決まった女を作るつもりはねェ」
「ふうん。ま、あの狭い船じゃ飼うのも大変だし……ほら、あっちはイッたよ? おまえもだ、ほら!」
「あっあ゛ぁあひあぁ゛ぁあぁあぁあぁあ~~~ッッッ♡ イッ、あっ、あうぐうぅうぅうぅうぅ~~~っ♡♡♡」
 女の身体が狂ったみたいに震えあがる。きっと私よりもずっと深い絶頂だ。それはきっと性的興奮というより、つがった男との絆がそうさせるのだろう。
「あ、あぶ、とさぁ……ん……」
「悪いがもう少し付き合ってもらうぞ」
「んひッ!!」
 オジサン……アブトさんが、私に活を入れるようにクリトリスをつねった。女の身体の操縦の仕方を、本能で察している手つきだった。
 その乱暴さに惚れかけている自分が怖い。声をかける相手を間違った。これは忘れない夜になってしまう。でもきっとそう思っているのは私だけだ。彼らにとっては毎度の愉快なパーティーの、余興のひとつにすぎないのだろう。