運命をものにする諸々の仕方
「ん? おまえをオークションに連れてきたことなんてあったっけ」
「いいえ、実際にじゃなくて……結構、ありがちなんですよ。小説とか、漫画とか。フィクションで」
「へえ……」
狭く薄暗い「会場」の客席に腰かけた女の表情は、なんとも曖昧だ。
興味津々なようにも、無関心なようにも見える薄い微笑み。
この女――がこういう顔をするのが、神威は嫌いではない。だからわざわざここへ呼んだのだ。
――ごろつき貧乏海賊となった神威たちの今回の狙いは、若い女を商品とする闇オークションの会場で動く現金を略奪することだった。
「でも、想像してたよりもずっと小規模……」
の言いたいことは理解できる。人身売買のオークションなどと言われれば、ベネチアンマスクをつけた貴人たちが「五億!」なんて叫びながら傾国の美女たちを競り落としていくものを想像するだろう。
だが、この場で動く金額はゼロが三つ、四つ少ない。小劇場のような大きさのハコで、肌の色も服装もさまざまな男たちが、ギョロついた目で薄汚れた牝を品定めしていた。
しかも今はステージの上で、落札された奴隷たちを飼い主となった者らがさっそく見せびらかしている。全裸で踊らせる、自慰をさせる、別の牝と絡ませる、そんなことをして淫らさを競い合わせる。
「なんていうんだっけ、なんかこういうゲームなかった?」
「ゲーム?」
「ほら、ボールに捕まえたモンスターを他の飼い主と戦わせるやつ」
「おっと団長、そのタイトルは思い浮かんでも口にしないでくれや」
を挟む形で座った阿伏兎が言う。彼の世に倦んだ瞳は、ステージではなくその袖で動く黒服たちを捉えていた。
彼らが札束をケースに押し込んで引き下がっていく直前で、神威が立ち上がる。隣にはがいる。黒服も客席の参加者たちも、ふとその美女の姿に危機感を忘れた。はてこんな出品物があったか――そんなふうに考えて動きを止め、神威の拳が顔面に叩き込まれるのを許してしまう。
◇
「嘆かわしいねェ。これっぱかしの小銭を欲しがる組織になっちまったんだな、俺たちゃ」
やはりここは、もともとはオークション会場でもなんでもないようだ。
ステージの裏には「楽屋」のような小部屋があった。神威と、それから阿伏兎はそこに入り込み、略奪した金を数える。
かつては銀河系最大級の犯罪シンジケートの幹部に属していた者たちの戦利品としては、あまりにわびしい額だった。
だが、今の彼らにとっては貴重な活動資金だ。紙幣に寄ったシワを、丁寧に伸ばして束ねていく。
「オイ団長、早いとこずらかるぞ」
阿伏兎が声をかけるが、神威たちは部屋の隅に置いてあったものに夢中だった。
「これはわかる」
「はい」
「これもわかるね」
「うん」
「これはなんだろう」
ふたりは無邪気にはしゃいで、放置されていた道具を取り上げていく。男性器を模した玩具、奴隷を拘束するためのバンド。それらがどう使われるかは、まあ一目見ればわかる。
だが、神威が最後に手にしたものについては、阿伏兎には用途がよくわからなかった。思わず近づく。
「なんだそりゃ」
個人用のパーソナル・コンピューターの、モニタくらいの大きさをしたプラ板だった。しかも奇妙なことに、下部にひとつ、ぽっかりと穴が空いている。
「……私、わかっちゃいました」
男ふたりが首をかしげる中、が微笑んだ。
仏母の池から再生して数年が経ち、この女の持つ美というのは変貌していた。
妖しさと幼さが奇妙に同居するコケティッシュな少女から、匂い立つような牝の淫猥さが漂う女性になっていく。
しかしそれでいて、かつて毒娘だった彼女に戻ったのかというとそうではない。今のには、愛というものをよりまっすぐに享受する気の強さが透けていた。
彼女と同じように歳を重ねて、残酷な魅力を纏う少年から、誰もが目を奪われる底知れない美青年に成長していく神威と、実に釣り合いが取れている。容姿も、向かっていく美しさの方向性もだ。
「どういうものなの、これ」
「ふふ、使ってみますか?」
「艦に戻ってからにしてくれや。ここで油を売ってるとロクなことにならなさそうだ」
阿伏兎に言われ、は神威の手から「板」を受け取って大切そうに持つ。三人は血のしたたる黒服どもを跨ぎながら、しみったれた会場を後にした。
◇
「あぁーーー……♥」
「なるほどね」
スペースシップの自室に戻り、神威はさっそく例の板の使い方をに訊ねた。
すると彼女は頬を赤くし、うっとりと瞳を潤ませながら床に跪いた。自分の顔の前に板を掲げ、表情を覆ってしまう。
かと思えば板の下部に空いた穴の位置を口元に合わせ、そこからぬるりと赤い舌を差し出してみせた。穴はちょうど男性器をくぐらせられる程度の直径だ。そうされてみると、もうそれ以外の用途が浮かばないから不思議だった。
「ようは、これは女を穴扱いするための道具なんだ」
「本当なら、もっと面積の広い壁に穴を開けるか……これも、台かなにかに固定して使うんでしょうけど……そういうのを見たことがあります」
「へえ、あるんだ」
「地球の色街のサービスで……でも、あそこにあったっていうことは、屈辱を与えるための道具として使ってたのかな」
そう言いながら、が板をそのまま手で支えているのに神威は笑う。
笑いつつ乱暴にズボンを脱ぐと、彼女が舌を見せたあたりから熱を持て余していたペニスをぐいっと突き出した。プラスチックボード越しに、破滅的な男女が対面する。
「感じる? 屈辱」
「いいえ」
わかりきっていることを訊ねて、わかりきっている返事を受け取る。
「だろうね。今、おまえの割れ目から汁が垂れてるのが見えた」
「あふっ……♥」
下着を身につけていない秘唇から、牝蜜が床に向かって落ちていく。
「ほら、今からおまえは俺のための穴だよ」
「は……はい……んむッ、ふっ、ふッ、う゛ううぅうぅうぅうぅっ……!」
頷くと同時に先端にしゃぶりついたの唇と舌を、腰を使って乱暴にかき分けていく。亀頭の先が柔らかな喉に当たる感触があり、がうぐ、うぐ、と苦しそうにする。
「んぉ゛ふぅ゛ぅううぅうぅっ……♥」
だが、ここで絶対に音を上げないのが神威の愛した女だ。頸の角度を調節し、蛇が獲物を丸呑みするように、さらに肉竿を奥へと誘い込む。
「しっかり吸って」
「んぶッ、んぐうぅうッ、んぶぢゅうぅううっっ……んぐうぅうぅッ♥」
の渾身の奉仕を、神威の粗暴な律動が塗りつぶしていく。だが一方的な蹂躙にはならない。ひどくされればされるほど燃え上がって、彼の打つ鞭に応えたがるのがこの特上牝だ。
「おっ……♥」
たまらず青年から法悦の声があがる。滲みだした先走り汁を、肉竿を吸い上げるための管にするかのような動きで口腔が搾っていく。
「ああいい、いいよ、最高だ」
「ぢゅるッ……ふっ、ふぶぅッ……♥ ううぅううぅんッ♥」
神威が口穴めがけてピストンするたび、の秘唇からびしゃびしゃと失禁のような飛沫が噴き出る。この女は喉や口すら性感帯にしてしまう。
神威への情欲に満ちた脳髄を持ってすれば、唇だろうが頭髪だろうが足の爪だろうが、女の芯へと繋げることは容易だ。
「ふ……は♥ 出すよ、ほら、受け止めて」
「んぐふゥううぅうぅううぅううぅぅーーーーーーッッッ……!!」
ペニスの先端が、喉を通り越して内臓にぶつかるような状態で精を吐く。の全身が痙攣する。愛しい男の射精を受け止めて、狂おしい女の絶頂を迎えているのが明らかだった。
「んぐぅッ、ふぐっ、ふッ、うぅうぅうぅうぅう~~~っ……♥」
「アッハハ、跳ねる跳ねる……よっ、と」
「んはァあぁっ……!」
肉竿を喉とプラ穴から引き抜いて、そのままむき出しの唇めがけてもう一度吐精する。
「ふぁ、あぁ、だ……め、垂れちゃうぅ……♥」
「しっかり塗ってあげるから……」
「んぁあぁっ……♥」
まだびくびくと震える鈴口を、の唇に押し当てる。ぶちまけられた白濁を、おぞましい化粧のように赤いリップに振りまいていく。
「あ……うぅ……うぅ、うぅうぅう……♥」
その異質さ、愛しい男の精を塗り込められる激感に、がもう一度わなないた。
「……っ」
それを見て神威も高揚する。精を吐いたばかりの下半身が震える。腰の奥からまた熱がこみあげてくるのがわかる。
「んっ……は、ふッ……♥」
「んぁああぁあっ……♥」
陰嚢に力をこめて、触れてもいないのにもう一度射精する。びゅぶ、と押し出されるように出てきて再び唇を汚した白濁に、は歓喜していた。
「……口の中にも」
「あ……ふぁ、あっ……♥」
望まれていることがわかったのか、上下の口唇が開かれる。真珠のように白い歯と、ピンク色の歯茎がちらつく。そこに向かって垂れていく精液を、神威はまるで研磨剤のようにペニスで塗りたくっていった。
「あふぅッ……くぅんっ、い、いやらしい……歯みがき、してる、みたい……ふぁ……あぁ……♥」
「アッハハ、歯みがきって。でも……」
「んむぅ……!」
つるつるの歯列。凶器にもなる器官。そこを男根で撫でてもいっさい抵抗されないというのは、神威にとって愉悦だった。の得ている不思議な興奮も伝わってくる。
「こうやって、おまえの体じゅうに……俺のものだって証をつけていくみたいなのは、いいね」
「んっふ……ふぅ、あぁ……ふ……つけて、くらひゃい……んぅっ!」
の声がとろけきったところを見計らって、神威はもう一度口腔にペニスをねじ込んだ。今度は愛撫を待たずに精を噴きこぼし、白濁で細い喉を溺れさせていく。
「んむ~~~ッ……う゛うぅうっっ……う゛うぅぐうぅううぅうぅっ♥」
負けるではない。ごくん、ごくん、と、大きな音を立てて喉が鳴る。己が主からの愛と欲望を、一滴残らず飲み下していく。
「……っ、ぐ、はぁあぁああぁッ……♥」
やがてすべてを飲みきり、神威が腰を引くと満足げな吐息が響く。
神威はたまらない気持ちになって、彼女が必死で持っていた板を取り上げた。愛しい女の、性衝動に満ちたかんばせが丸見えになる。
「はあ、、いくよ」
「はいっ……あっ、あっ、あ゛ぁあぁああぁあぁああぁんっ♥」
を抱き上げる。すぐに硬さを取り戻した肉茎を、ぐちょぐちょの秘唇にめり込ませた。
「おぉひぃッ♥ ひっいぃいんっ♥ あ゛っあぁ゛あぁあっ♥ 神威っ……いぃ、あぁ、いい、いい~~~っ♥」
せわしない律動に合わせて快悦の声があがる。神威も何度も頷き、肉ひだが伝えてくる情愛を受け止めた。
尽きることのない欲望をぶつけ合うことの心地よさ。彼女は選ばれ、彼は選んだ。運命の濁流から――なりふりかまわない愛という札で、を競り落としたのだ。