「誕生日……」

個室のシャワールームのほうを眺めながら、ぼんやりとつぶやく。
その後に、手にしたタブレットに入力してみる。

「誕生日、お祝い、プレゼント」



ここ最近、私にとって大きな環境の変化があった。
というのも神威が、日中退屈を持て余している私のためにタブレットを買い与えてくれたのだ。
これがあればインターネットでいろいろな情報が見られて、手続きを済ませれば宇宙中の番組を楽しめる。
様々な雑誌、小説、記録書籍も電子版で入手できるし、こまごましたゲームで遊ぶこともできる。

中でも私がのめり込んだのは、SNSと言われるコミュニティサイトだった。
ちゅいったーという名前のそれは、銀河のあちこちで様々な者たちが日々の出来事を好き好きに発信している。
政治家や映画監督といった有名人はもちろん、なんの肩書きも持たない一般人もいる。
使い方もそれぞれで、読書感想なんかを書いている人もいれば、恋人との交換日記として活用している人もいた。
……私はそこで、自分と同年代くらいの「ごくふつう」の女性たちとコミュニケーションをとることの楽しさに目覚めてしまった。
なんとなくアカウントを取得して、テストのつもりで自分の顔写真を載せたのが始まりだ。
『髪の毛キレイですね! トリートメントはなにを使ってるんですか?』
そんな文章が私に向けられて、発信者を見てみると『高校3ねん☆★イマドキJK★』なんて書いてあって……。
同性との共同生活というものを半端な形でしか経験していない私は、そういう娘たちと……日常のどうでもいいこと、美容について、好きな異性のこと……そんな話をする楽しみを、生まれて初めて経験したのだ。

しばらく続けているうちに、明らかに下心のある男からのコンタクトもあったし、中には女のふりをして個人情報を聞き出そうとする狡猾な男にも遭遇した。
それもひとつのイベントとして受け流すことができるようになると、楽しさの一部になっていく。

SNSを始めて気を配るようになったのが、日付、曜日の感覚だった。
毎日宇宙を移動する戦艦の中で過ごす私にとって、そんなものは無意味なものとなってしまっていたが、SNSの中のみんなが、今日が何の記念日かと色めいているのを見るとこちらも関心がわいてくるというものだ。



プリインストールされているカレンダーアプリで日にちと記念日を見ていると、会議を終えて部屋に戻ってきた神威が画面をのぞき込んできた。
そしてさらりと、衝撃的なことを口にしたのだ。

「忘れてた。今日、俺の誕生日なんだ」

……神威はそのまま、個室の中のシャワー室に入って行った。
いつもなら一緒に入らせてもらうのに、その言葉に打ちのめされた私は、ただ呆然とその背中を見ていた。

誕生日。誕生日?
生まれた日。それくらい知っている。
そして多くの星、民族の中で、それが大いに祝われるものだという知識もある。
神威はどうして、それを今まで教えてくれなかったのだろう?
いや、さっき神威自身が言っていた。「忘れてた」と。
周りが神威、宇宙海賊春雨第七師団長の生誕を祝う祭りを行った記憶もなかった。
神威が忘れていて、周りは認知していなかった。
だから今の今までなかったこととして扱われてきた。私にとって日付が特別な意味を持ち始めたのが最近であるように、神威の誕生日も本人が思い出すまではなかったことにされていた。

そこまで考えて現実逃避を自覚する。そんなことはどうでもいい。問題はどう祝うのか。なにを贈るのかだ。
サーチエンジンの検索結果には「大きなケーキ」「山盛りのご馳走」「リボンのかかったプレゼント」なんて表示されている。どれも今から、私一人で用意できるものではない。

「あ……そっか、こういうときこそ……」

今や数千人に膨れ上がったちゅいったーのフォロワーに尋ねてみるべきだ。

「ご主人様の誕生日です。30分以内に用意できるプレゼントって、何かありますか?…っと…誰か拾ってくれるかな」

すぐに通知があった。

『@ossan_dayo:体にリボンかけてプレゼントはワタシをするしかない』
『@princess_hime:ちゃんなら裸でせまればプレゼントになる』
『@usausapyon:普段しないプレイを許可してあげればいいのではw』

「私を贈り物に……でも……」

そんなこと、普段からしすぎるほどしているのだ。
私の身体は神威のもので、好きなときに弄ってもらうのはもはや日常なのだ。
今更それが特別な贈り物として効果を発揮するとは思えない。

『@anpan_suki210:さんでも彼氏の誕プレに悩むんですねwww』
『@pinopippi:僕がされて嬉しいのは、やっぱり、おっぱいプレイかな(^^)きっと、ご主人様も喜ぶよ。僕にもお裾分けしてくれないかな(^^)写真がほしいな(^o^)』
『@anpan_suki210:↑おっさん自重』

黙って眺めていると、なぜか誕生日プレゼントの話題から脱線して、いつも反応をくれる若い娘と毎回写真をくれとしか言わない男で言い争いが始まってしまった。
その間間にからかい半分のようなコメントが残されていく。

『えっちな服で誘惑』『尻穴性交許可』『ディープスロート』

発信者がどんな気持ちでそんな文章を打っているか想像するとなんだか不思議な気持ちになってくるけれど、問題はそこではない。

「どれももう、したことある……」

淫らな服で誘惑するのも、後ろの穴で交接するのも、肉茎を喉奥深くまで呑み込むのも、もうとっくに経験済みなのだ。

「えっと……もっと特殊なプレイはありませんか?……」

そう書き込むと、通知の速度が急加速した。

『乳首舐め手コキ』『腋コキ。腋毛があればなおよし』『垂直パイズリ。大丈夫さんならできるよw』『浣腸我慢フェラ』『大仏オナニー』『FF外から失礼するでござるゾ〜(謝罪)このツイート面白スギィ!!!拙者、RTいいでござるか?』

「……みんな遊んでる」

もうこうなると意見を求めるどころではなくなってしまう。
通知がひっきりなしになるので、ほとぼりがさめるまでちゅいったーも使い物にならない。
そうこうしているうちに神威は入浴を終えつつあって、シャワーの流水音が止んだのが聞こえた。

「どうしよう……」

ふと、また通知の音がやってくる。
ちゅいったーを開くと、普段から親しいコメントを送りあう女の子からのコメントだった。

『@LoveLoveGintoki1010:あれちゃってますね…ちゃんのすきなものをあげて、したいことをしてあげればいいんじゃないかなぁ(・x・)プレゼントってそーゆーものだと思う!』

「…………」

ちゅいったー上でしか知らないが、人当たりのよい彼女らしいコメントと言えた。
からかい半分で送られてくるコメントの中でそんな素朴な意見に触れると、慌てていた気持ちがなんだか落ち着いていく。

「私のしたいこと……」

そうつぶやいた瞬間、ちょうどシャワー室の扉が開いた。

「ちょっと空調強くしていい? 暑くって」
「はい。あの……神威」

空調機能のリモコンを操作する神威に、白々しく近づいていく。
大丈夫。普段通りでいい。ただ想いを伝えればいいのだ。

「お誕生日、おめでとうございます」
「ん? ありがと」

神威は私の顔を見ると、目を伏せてにんまりと笑う。

「それで、なにか贈れないかって考えたんですけど……」
「そんなのいいのに」
「わ、私の気が済まないんですっ。その、それで…今までしたことなかったことを、したいなって……」

私がしたかったこと。それでもしてこなかったこと。それをこの機会に打ちあけてしまおうという気持ちになった。
それが神威への贈りものになるのかはわからないけれど、そんな愚直な気持ちくらいしか、私には持ち物がないのだ。

「神威……横になってくれますか?」
「なんだ、そういう系?」
「そういう系っていうか……!」

私の意図するところを察したのか、神威は服を着ることをしないままベッドにころんと横たわった。

「今までしたことないっことって、結構大きく出たね」
「は、はい…でも、神威は嫌って思うかも……」
「俺が嫌がるって…どんなこと?」

神威は面白がって、私の動向をただ眺める。
これからすることと、それに対しての反応を想像すると緊張してしまうけれど、どうにか抑えて神威隣に寝そべる。

「わ、私の顔の上に来てほしいんですっ!」
の顔の、上?」

きょとんとした様子で、神威が瞳を薄く開く。
そのまま私の身体を跨いで、口元にゆるく勃ちかけの肉茎が及ぶような体勢を取ってくれる。
けれど違う。私が望んでいるのはこういうことではない。

「お…お尻を向けてほしくって……」
「…………」

……さっき面白半分でコメントしてきた奴らを笑えない。彼らが送ってきたことと同じくらい恥ずかしくてアブノーマルなことを、私はしたがっている。
神威は一瞬微笑みを打ち消して、冷たい瞳で私のことを見据えた。

「ふーん……」
「ぅ……いやですか……?」
「変態」

けれどやがてそう言って、にやりと笑う。
そのまま私の上で身体の向きをくるりと変えて、臀部の白い肌を晒してくれた。

「ずっと、こうしたいと思ってて……」
「ふうん……いつから?」
「ずっと、もうずっと……こういう奉仕があるって知ってたから……」

男の身体には前立腺があって、それは粘膜の内側から押して刺激できる。その快感を欲して尻穴への刺激を好む人というのは、存外いるものらしい。
それとはまた別に、女に尻穴を愛撫させて征服欲を満足させる者もいるそうだ。
神威がそれを求めているとは思えない……というよりも、乳首や肌の弱いところを愛撫すると恥ずかしそうに身をすくめるから、むしろ遠ざけているとは察していた。

けれどそうやって遠ざけられればられるほど、その秘された場所を愛撫したいという欲求は強まっていく。
神威の身体のすべてを味わいたいという気持ちが抑えきれない。

「んうぅっ……あ、ふ、ヒクヒク震えて……」
「恥ずかしいだろ。言わなくていいよ」
「で、でも…可愛いから……」
「嬉しくないって」

神威のお尻の穴は、白い肌がほんのり色づいただけの薄い色だった。
顔を寄せると吐息が降りかかるのか、くすぐったそうに収縮する。
神威の気が変わらないうちに、なんて急く気持ちもあって、私は戸惑いなくそこに口づけた。

「ん……!」
「は、あふっ……はぁん、ちゅっ……神威…ぃ……」

期待から溢れる唾液で濡れた舌が、お尻の穴にぴたりとくっついた。
神威の身体が大きく震えて、未知の感覚に戸惑っているのがわかる。
……弱いところを刺激されたら、神威だって驚く。普段なかなか得られない新鮮な反応が、私の頭をジンジンと痺れさせていく。

「ちゅる、んっ、んんっ……ふぁ…ん……なんだか、神威、可愛いです……っ」
「う……こら、あんまり言うなって……」
「どんな感じですか…? 気持ちいい……?」
「くすぐったい」
「そ、そう……ですか?」

お尻の皺を舌先で撫でていると、足の間がぬるく湿っていくのがわかる。
大好きな神威の、今まで触れることを許されなかった部分を愛撫しているという実感は、なにより私を興奮させた。
体勢のせいで私の胸元に触れる神威の肉茎が、少しずつ熱を帯びてきているのも嬉しかった。

「ん…こうやって、舐められるのに興奮する男の人もいるって……神威、どうですか?」
「どうだろう。の頑張りにもよるかな」
「んくっ…ふ、あ、もっと…舐めますから……んんっ、ちゅるぅっ……!!」

舌を派手に動かしながら、神威の肉茎にゆっくり手を添える。拒否はされなかった。

「はふ…手も動かしていいですか…?おちんぽ、しごいていい……?」
「いいよ、もう。好きにしたらいいよ」
「んん…ありがとう、神威……大好き……」

肉茎の先からはねっとりした液体が迸っていて、私の行為で快感を得てくれていることを示していた。
粘液を指先で肉茎に塗り広げて、手を滑りやすくする。
そのまま指で作った輪で熱をしごくと、神威の全身がブルリと震え上がった。

「く…はぁ、それ……」
「ちゅ、るぅ…んんっ……舐めながら、しごくの……?」

神威の身体が少し揺れた。頷いたのだろう。
そんな反応が得られたことが嬉しくて、一層愛撫の手を激しくさせてしまう。

「はぁ……変態だね、
「んくうぅっ……!」

子宮が歓喜する。おなかの奥がぎゅうっと締まり上がって、同時に膣穴から愛液が迸った。神威に言葉でなぶられるのがたまらなく気持ちいい。

「ふつうそんなこと、自分からしたがる? やれって命令されたわけでもないのに」
「んぐっ……ら、らって……」
「俺の恥ずかしいところが見たいっていう反逆精神?」
「ち、ちがい…まふ、はぁっ……!」

粘膜から唇を離して弁解する。神威の言葉は本気でないとわかっていても、自分の心を伝えておきたかった。

「か、神威の身体ならぜんぶ、味わいたいんです……っ」
「汚いところでも?」
「汚くなんか…舐めててドキドキするし、んっ…ふ、神威のなら、お小水だって飲めるんだから……」
「それもそっか。もうそんなとこくらい、なんの抵抗もないか」
「それに、私もお尻のあな、好きだから……」

神威にお尻の穴を犯されるのは、膣穴と違った快楽と満足を私に与えてくれる。
お尻は男女の違いなくある場所なのだから、そこへの快楽を神威が得てくれたのなら、感覚の共有と言えるじゃないか。
そんな想いもある。

「んちゅ…ふぅ、ちゅるぅっ…んっちゅ、んちゅうぅっ……!」
「ああ……」
「んぐうぅっ……!」

肉茎が大きく跳ねたのと同時に、粘膜がきゅうっと締まる。舌がお尻の穴に引っ張られてしまう。

「はふ…ぅ、気持ちよくなってくれてるぅ……」
「ん……待って、……もうやめて」
「えっ?」

愛撫を強めようとしていた私の舌も手も、神威が身を起こしたことで止められてしまう。

「それ以上されたら出ちゃうよ。のこと犯してやりたいから」
「あ……っ!!」

わきの下に手を入れられて、身体を引き立てられる。
神威の求めるところを理解して、私はそのままお尻を突きだした。

「いくよ。こっちの穴は久しぶりだね」
「んああぁあっ…?! あ、アッ、お、おじりの、あな、なのぉ……っ?!」

目を剥く暇もない。
私の割れ目から垂れる愛液をお尻に塗りたくったと思ったら、すぐに肉茎の先端がお尻にのめりこんできた。
口から息を吐いて緊張をゆるめた瞬間、肉茎の一番太いところが一気に入り込んでくる。

「くぐぅっ、うぐっ、うあぁ……っ! へ、変態あな、突かれちゃううぅ……!!」
「そうだね、おまえは変態だよ。どこをとってもさ」

やすやすと根本まで肉茎を埋め込んでしまうと、私の腑臓を内側から壊しにかかる。
乱暴な動きに呼吸も満足にできないのに、私はその苦しさに歓喜していた。それが神威からもたらされるものならいとおしい。

「んぐっ、あっ、ア、ひっ、やっぱりおじりのあな、好きなんですうぅっ……! 神威にされるの、すごく好きぃっ……!」
「俺も好き。潰されるんじゃないかって思うくらい締まるから」
「つ、潰さないですうぅっ……神威のおちんぽ、簡単には潰れないいぃ…っ!」
「まぁ、俺も潰されるつもりはないけどね」
「ふぐあっ?! アッ、アッ、おっ、おぉおおっ、おっ、おぐぅっ、お、おしりのおぐぅっ、お、押さないでえぇぇっ!!」

神威の亀頭が、内臓をさらに奥まで犯そうとしてくる。
結腸に続く部分を何度も圧迫される。
そのたびに私は、背骨がとろけるような快感に打ちのめされていく。
圧迫感も、本能からの肉体の拒絶もある。
けれどそれを凌駕する脳内麻薬の噴出が、悦びを加速させていく。

「く……ア、一回中で出す…っ、の中で……」
「きへっ、あ、ア、お、お尻の中で射精してえぇっ!」

さらなる悦楽を求めて叫んだ瞬間に、お尻の中で熱が爆ぜた。
肉茎の先端から、ねばつく精液が束になって何度も放出される。

「うぐひぃいっ…あっ、ふぁっ、ざ、ザーメン浣腸気持ちいいっ……お尻の中が神威の味になっちゃううぅ……っ」
「はぁ…っ、つ…ぅ……アッハハ、ってときどき、すごいこと言うよね」
「ほ、ほんね……っ、お、思ってること、が、全部、そのまま出ちゃうんですぅ……っ!」
「そこが可愛いんだけどね」

少しずつ肉茎の震えが小さくなって、射精がゆっくり収まったかと思うと、どろどろになった私のお尻の中を再び前後し始める。

「このまま二回目も中で出させてよ。のケツ穴の中で」
「はぁ…いっ、う、うれしいれすぅっ……犯して、いっぱい……っ!!」



結局神威の射精は二回では済まなかった。
三度目の射精をまたお尻で、四度目は唇で受け止めながら、私は自分の脳内麻薬に酔いすぎて意識の混濁まで想像した。

「これ、カメラもついてるんだろ? ……あ、これかな」
「ふあぁっ…? あ、か、神威……?」

神威が私のタブレットを操作して、言葉からするにカメラを起動させたみたいだった。

「ほら、ピース」
「ぴ、ぴーしゅう……ぴー…うぐっ、ぐ、ぐぅ……っふ……」

胃の奥に流し込んだ精液の重さに、喉と食道が不満を訴えて空気を逆流させる。
馬鹿みたいにピースサインを作りながら、私はげっぷを押さえるために変な顔になった。
同時にカメラがカシャリ、と音を立てて、神威が笑う。

「これ、なんだっけ? ちゅいったーだっけ。写真あげれば?」
「や、だ、だめぇ……こんなえっちな写真、あげられないですぅ……」
「なんで? 自慢してやればいいのに」
「ら、らって……こ、これは、私だけの…たのしみだから……」

誰かと、神威以外と共有したい悦びではないのだ。

「あーあ。誕生日祝いのはずだったのに。なんだか俺がご奉仕したみたいになっちゃった」
「う……く、ごめんなさいぃ……」
「いいんだけどさ、別に」

神威の声色が満足げなことに、私は安堵する。