透き通った水が浅瀬に打ち寄せ、岩礁海岸を叩く。

ここは恒星の恩恵をしっかり受けていて、昼夜は日の出と沈みで判断する。
地球に似た環境かもしれない。
景色だけなら、この間寄ったお江戸の町並みなんて比べ物にならないくらい、この島は美しい。

……美しさが過ごしやすさと直結するとは限らない。

私は眩しい、程度だったが、
神威をはじめ、夜兎族の団員はみな悲鳴を上げて、艦の窓に入り込んでくる陽射しを忌々しいものと避けて通った。

この星、島の地層の奥の奥に、重機の燃料になる貴重な鉱物が埋もれているらしい。
その島を下さいませんか、いや全部くれとは言わない、ちょっと地下を掘らせてくれるだけでいいです。
なにを仰るか突然やってきて。細々としたものであっても、一から作り上げた故郷なのです。
うーん交渉決裂かあ。面倒だから殺そうか。
……神威の代理人と権利者の会話、そして神威が出した結論をかみ砕くと、こうなる。

「…………」

この惑星への恒星の陽射しは、地球の太陽光よりずっとずっと強い。
ぼんやり窓を眺めていた神威は、着陸するなりめまいを起こしてしまった。

……日没後は、昼間の萎れた様子が嘘のように。
神威が率いる第七師団は、焚火を囲んでいた人々の身体を、その肉を、命を、魂を、ため息が漏れてしまうくらいにあっさりもぎ取り潰して、もの言わぬ屍にしてしまった。
島の者たちが恐らくふだんは、木に生った果物をそうしていたように。

屍にこいつぁもったいなさ過ぎらあ、と誰かが近くにあった洋酒の瓶を掲げたのがきっかけとなって、
夜明けまでは馬鹿騒ぎしよう、と宴も酣に高ぶっていった。

囲う人たちがまるっきり入れ替わってしまったけれど、焚火は高く高く。
日が暮れると急に冷え込むこの夜景に燃え上がっていく。

……私と神威はわや、と騒ぐ他の団員から離れて、二人で波の音を聴いていた。

「お祭り騒ぎっていうのも、どうも好きじゃないんだよ」

そう言って、神威がよっ、と私を抱えて、ちょうど座れるくらい平らになった岩に乗り上げる。

「乱痴気騒ぎならいいけどね。一人くらい殺しても誰もうざったく騒ぎ立てないだろうし」
「みんな幸せそうですもんね」
「そう。なんだか嫌なんだ。無条件に幸せな雰囲気と、平和惚けした面構えがね」
「あ……っ」

そうつぶやきながら、神威は私のことを膝に抱えてくれた。
胡座をかいた脚の上に私の臀部を落として、白い腕で抱き寄せてくれる。

「……神威?」
「ん?どうしたの

うまく言えないが、神威の声色が寂しさを引きずっているように聞こえた。
なんとなく名前を呼ぶと、神威はにこっと微笑んだけれど。

「…………」

今度は沈黙で返すと、ふぅとため息。

「……俺の師匠だった男が言ったのさ。老いれば身も心も渇く、その身を潤すは酒、心を潤すは女、って」
「……手垢のついた言葉です」
「アッハハ。おまえならそう言ってくれると思ってたよ」

どちらかというと嫌悪の感情寄りにつぶやいた私をとがめることなく、むしろ肯定しながら、神威が笑った。
からからと喉が揺れるのを、うなじで感じ取る。

「……齢や性別の違いでわからないものを傘に着た物言いは、教えじゃなくて恨み言です」

ましてやそれが、死にゆく者の言葉なら。
その続きを紡ぐことも見届けることも出来ぬのなら……それは生者にとっては、呪いでしかない。

「俺もそう思う」
「神威が……気にすることはないと思います」
「うん。おまえは変に強情だからかわいいよ」

そう言って、神威の頬が私の頭に触れる。
……最近は毒性と一緒に艶も落ちつつある髪を、撫でてくれる。

「……ん……」
「……あれ、、髪の毛切った?」
「ちょっと……先が、傷んでたから」
「ふぅん……」

……私の場合は老いというより、衰えと例えた方がしっくりくる。
それが毛先に顕れていたから、何となく嫌になって右側の髪だけ自分で切ってしまった。
後から左も揃えたけれど、急いだものだから雑になっていたかもしれない。

「女も酒も、よくわからないんだよ。自分に必要ないってことしかわかんないや」
「……私は?」
「おまえは女じゃなくて、なの」

わかりきったことを聞くな、と怒られてしまった。
同時に頭を軽く揺すられて、また神威が笑う。
……ああ、幸せ。
神威は私を、きちんと女だと知っていて……その上で、個人的な人格を、欲望を認めてくれる。
それを、求めてくれる。

「それこそ歳老いたら、わかるのかな」
「それは……」

「おやァお二人さん、こんなところに居たのか」

……阿伏兎さんの声がして、二人で後ろを振り返った。

「おうおう。お邪魔だったかねェ?アンタらにしちゃ随分しおらしいじゃねーか」

……珍しく大分飲んだんだな、と悟る。
阿伏兎さんの声は、まるで歌舞伎役者のように甲高く裏返っている。

「ねえ阿伏兎、どんな味がするのさ」

神威は私の髪の毛の先をきゅ、きゅ、と引っ張って遊びながら問いかける。

「活きのいい死体を肴に飲む酒って言うのは」
「かあっ、ちいとも笑えねえ揶揄だぜ団長、だだ滑りだァ」

活きのいい、死体。
……矛盾した表現だ。
でも、世では仕入れたばかりの魚介だとかを、「イキがいいよ」などと言うではないか。
もう死んでるのに。
逆に路傍で衰弱した生き物なんて見かけたら、「瀕死だな」と思うだろう。
まだ生きてるのに。

「酒の味ってなあ、若い奴には解らんものさね」

思わず吹き出しそうになるのを、こらえる。
ああ、阿伏兎さんまでそんなテンプレート通りな言葉を……。

「味覚の変化だけじゃねェよ、感傷だ。酒を飲んでふわふわいい心地になる。そいでイヤなことを忘れようとする」

酒気を帯びた息を振りまいて、どこか得意げに阿伏兎さんは語る。

「ほんでもって何かがキッカケで逆に深く思い出して自分に傷をつけちまい、また忘れようと酒に溺れる。んで、結果、酔いつぶれる。ボロ雑巾になる」
「ダメじゃん」
「ダメだな。ダメなのがいいんだよ」
「なにがさ」

神威が今度は私の乳房をもてあそび、感触を確かめるように握りつつ、阿伏兎さんになお尋ねる。
その手つきは相変わらず優しく乱暴で、潰れるかと思うくらいに強く抓っては伸ばすように引っ張ったり、
私はとことんおもちゃにされている。
その上で私の身悶えを封じるように神威の両足が体をしっかり挟み込んでくるから、もうたまらない。

「そらあ頭は割れるように痛いし吐きそうだ。マトモに立ってられねェし、周りか蔑むような顔で見られる」
「俺、酒の味の良さを聞いてるんだけど」
「いやいや、だからそれが良いのさ。そんな風にズダ袋になっちまった自分がたまらなく心地いいのさ」

そう言って一層得意げな面持ちになると、阿伏兎さんは私の方に目配せした。
「いい歳こいて地べたに這い蹲るってなあ、いいぜ。堪らん。病みつきだ」
「……阿伏兎の趣味って」
「いや違う違う、なあよう嬢ちゃん、アンタは解るだろ。地べたの気持ちよさは知ってっだろ」

……これが遠くから私を謗る言葉であれば、相手にしないけれど。
阿伏兎さんはそうでない。
……ならば……惚気たっていいはずだ。

「……気持ち、いいですよ」

阿伏兎さんに同意する形で、私は神威に声をかける。

「踏みつけられるのは……すごく、気持ちい……んっ!」

へえー、と神威が私の乳房をいっそう強くひねり、続きをうながしてくる。

「床にいるっていうのは、すごく、いいんです。うまく言えないけれど……自分の立場を、感じられるんです」
「俺の奴隷だって?」
「んっ……!そ、そお、そう、そうです……!」
「そいでまあ、床にいればそれ以上落ちるってことがねえ。自分が一番下にいるんだと思えるわけだ」

神威の愛撫が激しいから、阿伏兎さんの言葉が耳に入らなくなりそうだ。
……それは阿伏兎さんにもしっかりわかるようで、私たちを白けさせるかのようにさらに声を大きくする。

「んだが、男ってなあ見栄で出来てる。簡単に頭下げちゃならん。下げりゃ下げるほど安くなる…他人から見りゃ端っからなくても、自分の中の価値が落ちちまう」

男の人って大変なんだなあ……と、遠く思考を巡らせる自分がいることに、ふと気づく。

「んあっ?!あ、神威っ、ああぁ……!」

が、それは暗闇にはそぐわない陽炎のように、歪んで消える。
乳房はもう飽きたのか、神威は抱え込んだ私の足をぐいっと開かせて、下腹部をさわさわとまさぐりだす。

「んでもなァ面倒臭くなるワケだ、見栄も意地もどぉーでもよくなって全部擲ちたくなる」
「うわ、すっごいぐしょぐしょ」
「んっ、ん……か、神威が、いじるから……胸ぇ……!」
「そこで酒の力を借りるわけさね、周りもあぁこいつは酔っぱらいだ、ゲボ吐いてようが道端で寝てようがしゃーない、放っておくかってなるわけ」
「お尻は冷たいのに、どうして中はこんなにあったかいんだろ……アハハ」
「ふくぅうっ……や、あぁ……なか、ひっかいちゃ、だめぇ……!」
「それでな、イジケくさり切った後は、酔いが醒めると同時に立ち直って、あー今日からまた頑張りますかねェ、ってなるわけさ」

阿伏兎さんが色々言ってくれているのに、神威が中に入れた指で愛液をほじくり出し、
内側の壁で恥ずかしい音を聞かせてくれるから、耳にはそれしか入らない。

「んっああぁッ、ぐ、あぁあ、だめ、だめぇ……!」
「だめなわけないだろ。おまえはいっつも、いいくせにだめって言うから……楽しいなぁ」
「ほ、ほんとに、だめな感じがするの……指、ずぼ、ずぼ、って……気持ちいいのが……あふれてぇ……!」
「ならいいじゃん」
「だっ、め、うぐ、いぅうっ、このまま、イッ……ちゃっ、たらぁあぁ……ッ!!」
「あっはは、イッちゃえイッちゃえ、ほらギューって」
「うううぅうぅぐぅっ?!」

今まで構われていなかった肉芽に、急に指が伸びてきた。
ぐりっ、ぐりぐりっ……と、さっきの乳首をつねるときよりも乱暴で、気持ちのいい愛撫。

「だ、めぇ、あぁ、あぁあああぁあ、あぁああーーッ!!」

我慢は呆気なく限界を迎えて、私は神威の指で絶頂を迎える。
痙攣して浮き上がる足先が、他人のもののように見える不思議な虚脱感。

「でもそれって、どうせ労働者の酒でしょ」
「んふあっ……?」
「……あ?ああ、俺に言ってんのか」

しばし呆気にとられていて、私もちょっと存在を忘れかけていた阿伏兎さんに向けて神威が言葉を投げる。

「違いねえ……アンタみたいな享楽主義のお兄さんには解るめえよ」

それこそ彼の言葉を真に受けるなら、阿伏兎さんは……今、結構どうでもいい気分らしい。
いつもはしかめっ面とあきれた声でそっぽを向くのに。
今日は一段低い場所までひょいとやってきて、神威にいじられる私の股間をのぞき込む。

「本能的にかどうかは知らん。お仕着せかも知らん。男は女を手に入れて子供を産ませると、それを護るために生きるようになる」
「阿伏兎にはいないだろ。子供」

女もさ、と言って、神威の手が自分の下履きに回る。

「あっ……!」

ゆっくりと肉茎が露出する。
それを見るたびにちょっと目が輝いてしまう自分が、どうにも馬鹿で、かわいいから困る。

「護るために傷ついて、自分で癒して立ち直って、またこっから頑張りましょうってな具合の区切りがないと頑張れない生き物なんだよ」
「へー。あはは、たかいたかーい」
「ひあっ……?!あぁ、ああぁあ……っ?!」
「おいおい落とすなよ団長」

私の太股と腰を抱え込み、神威が私を軽く浮かせる。

「私、重っ……んッ?!……あ゛ッ……あーーーーっっ!!」

驚愕に震えて……それから、衝撃に頭がはじけるかと思った。

身が降ろされると同時に、湿りきった肉穴に神威がめり込んできた。

「うっ、あ、ああっあ……ああ……は……あ……っ!」

あ……やっちゃった……と、思ったけれど、遅い。

「あり……漏らしちゃった……我慢してた?」
「ううっ…う…ちが、あぁ……や、もれ、ちゃ……」

自分の恥ずかしい穴から飛沫が迸るのを、ぼうっと、どこかうっとり見ている。

「か、からだ、の、下からぁ、押されてっ……あァ、あああぁあ……!」
「押されて?こう?」
「んッッ!!だめえっ!」

入り込んできた神威が、ずろろっと先端で私の肉壁をなぞる。
感覚をなんとかつかむなら、鈴口のあたりを恥骨の裏側に押し当てて楽しんでいる。
こりこりした感触の壁が、神威の張り詰めた肉でかきわけられて遊ばれている。

その興奮と、残滓が垂れていく快楽に引っ張られて、頭がどうにかなりそうだ。

いや、もうどうにかなってるのか。
だって、阿伏兎さんも、ぼけっとした顔で私を見ているし……。

「ん?どしたの阿伏兎、浴びたい?」
「……ってイヤイヤ浴びんぞォ!誰が浴びるかァ!」
「ほら浴びたいって、阿伏兎が地面にはいつくばるから、ゴミクズ扱いしてくださいってよ」
「話聞けエェ!!」
「んっ、い、は、恥ずかしいっ……!だ、だめですっ……あ、阿伏兎、さんには、あぁあ……!!」
「なんで?俺には飲ませてくれるのに」
「ちょっちょ、おたくらそんなことまでやってんの?団長も飲んでんの?!」

ふと考えて、そういえばなぜだろう……と思う。
神威が私の小水を飲んでくれたりするのは、恥ずかしいけど嬉しいし、あとあといじわるを言われるのも楽しい。
けれど……児戯としての「いや」ではなくて、
阿伏兎さんが私の味を知るなんて……と思うと、もっと違う「いや」が出てきた。
それはどこから来るものなのか。

「んぅうっ……は、恥ずかしいの……神威以外の人に、知られたくないの……!」

最初の頃は、阿伏兎さんの前で漏らしてしまうことも恥ずかしかった。
理由は……それはやっぱり……羞恥心と、逆説的な独占欲になるんだろう。

私の恥ずかしいもの、汚隈の味を知っているのなんて……神威だけでいい。
神威だけがいい。
そういう、くだらない、けれども自分のほとんどを占める感情なんだろうな。

「だって。残念だね」

……神威も、それを知っているのだ。
だから涼しい顔で、阿伏兎さんにそんなことを言う。
言ってくれる。

「ふっ……うぅうっ、だめ、うれしっ、うれしくて…きもちくて、また、いぃ、いっ、いっちゃ、あぁう……!」
「いいよ、俺も一回出したいな……」
「んっ、んっ、お、おぉ、おねが、い、いしますっ……!!」

私がうなずくなり、何度も何度も神威の腰が下から打ちつけてくる。
細く締まった体躯から想像できないくらいの乱暴さで、肉茎が膣の中を滑り、擦り立て、私を絶頂にせき立てる。
同時に神威もごく、ごく、と何度も渇く喉に自分の唾液を流し込んでは先端で私の膣穴を探り、気持ちのいいところに押しつけて快感を求めている。

「ふぅぐっ、んああぁっ、だあめっ、こんど、は、もっと、すごいの、きちゃううぅうっ……!!」
「は、あ……ん……俺も出そ、あ……」

気持ちのいい破滅が見えている。
そこへ意識を飛ばそうとした瞬間……ふと、遠くから声が聞こえた。

「ああ、すっかり忘れてた……呼んでらぁ」
「……ん……?!どこ?誰が……?」

……二人揃って間抜けに絶頂のタイミングを逃した私たちは、阿伏兎さんの振り返った方を見やる。

「元々宴会だったんだっつうの。ドンチャン騒がせてガス抜きすんのも上司の仕事だぞ……ったく」
「じゃあ、今から俺も行くよ」
「あっ……はぁうんッ!!」
「おいおいそのままか」

神威がふと立ち上がって、そのままトンッと陸に飛び降りる。
その衝撃を、繋がったままの私は直接受けて身悶えする。

「うん。ほら、これ、前にが言ってた……エキベン?だっけ」
「……嬢ちゃん、ロクでもねーこと団長に教えないでくんない」
「はうっ、う、うぅ、ん……!!」
「捕まってられる?」
「う、うん、へいき、れ、す……!」
「本当に?こうやっても平気?ほら、ほら」
「はあぁぐぅうぅっ!ら、らめれすううっ!!」

また、膣穴にはみっちり神威が埋まったままの状態で肉芽を引っ張り上げられる。

「……向き変えた方がいっか……、一回だらーんってなって、ほら、だらーん」
「っう、ううっ、う……はぁ、い……!」

神威の言わんとすることを理解して、四肢を弛緩させる。
ダラリと力が抜けた瞬間、私はまた宙に浮いて……ぐりんっ、と、体が曲芸みたいに回される。
ふっと目を開けると、今度は神威の顔が目の前にあって、思わず笑いが漏れる。

「んっ……んぅ、はぁ……これなら、だいじょぶ……!」
「だって。ほら阿伏兎、行くよ」
「……ったく……」



神威が歩くたびに身体に変な衝撃が響いて、いちいちおかしくなりそうだ。
額にかいた汗が目蓋を伝い、睫で捕らえ切れずに瞳に滲む。

「……ああ……」

ぐしゃぐしゃになった視界で見える炎と、それを囲う人々は……なんだか。
いつだかずっと昔に見た、神を乞うる儀式みたいだった。