・ご注意です、作中に銀さんと伊東先生、それから別サイトさんの彼らの「彼女」さんが出ます(名前は出ないようにしてます)
……ぼうっとしていた。
せっかく神威が買ってくれた真新しい服は、瞬く間に脂汗でぐしょぐしょになってしまった。
自分自身よりもそうやって汚くなっていく服を見ている方が何だか象徴的で、どうにも悲しくなっていけない。
「ほら、ばんざいして」
「う……う」
楽しくもないのに挙げた私の両腕から重たい布地を剥いでいく神威はこともなげで、それも私の気分を落ち込ませてゆく。
あのあと、とりあえず飛び込んだデパートメントに幸いにも、偶然……私からしたら着用が面倒なことこの上ない「きもの」とは違う服を取り扱っているお店があった。
下着すらつけていない私のために、神威はそこで上着と下履きを買ってくれた。
暗い色の生地の上に大輪の花が鮮やかに描かれたチュニックは、手洗い場で着せてもらった途端に申し訳なさなんて吹っ飛ぶくらいに嬉しかった。
……のだが、その場で神威とじゃれあっているうちに、私は自分の心臓が不穏な鼓動を鳴らしていることをごまかせなくなり、意識はまた闇に落ちた。
目が覚めると、暖色系の灯りが点った部屋の中だった。
自分は変わった形のベッドに横たわっていて、神威はその横でなにか、棒状のものを手で弄んでいた。
「……「ほてる真美」?」
「そ、ホテルだって、ここ」
神威が持っているのは、ルームキーだった。
「えっ、あ、ちょ、その、じゃあ、その……」
神威はわざわざ、具合を悪くした私のために宿を取ってくれたことになる。
「それに俺も寝てたんだ。もう一晩経ってるよ」
「一晩?!」
「連絡はしておいたし、慌てないで大丈夫」
「ご……ごめんなさい」
「いいって。頑張ったろ、」
「う…その、え、と……私、い、いやらしかった…?」
「そりゃあね」
クスクス笑って、神威は裸の私にのしかかってくる。
汗でべったりのままの肌を服に押しつけてしまうのはまた申し訳なかったが、抱きしめられればその喜びに流されてしまった。
……それでも私の身体は、まだへんな倦怠感を引きずっていた。
ぽぽんと全裸にされてしまうと、首から上がやたらと重く、頭からシーツに倒れ込んでしまう。
額を押しつけたシーツにもジワリと汗が滲み、薄紅色が暗いどどめ色に変化していく。
「熱でもある?」
「いえ…それは平気……んっ?!」
いきなり肩胛骨に生ぬるい感触が走って、肩が跳ねてしまった。
「あり、甘い?」
「えっ、ちょ、神威……!」
「なんかおまえの汗、甘いよ」
「んうっ……!」
そのままちゅぷ、と首筋に吸い付かれた。
その感触にとろけそうになるのを押しとどめ、自分の指先にも己の汗を取ってみる。
粘つく私の汗は、まず匂いからして変だった。
よいたとえをするなら麝香のような、動物的な芳香。
それが汗そのものの脂っぽさと混ぜこぜになって、奇ッ怪な匂いを放っている。
そのままぺろりと舐め取ってみれば、味も奇妙だった。
「あの薬…なにか入ってたんでしょうか……」
「うーん、混ぜ物だろうしなぁ…立てる?」
そう言って、神威がさっと自分の衣服を脱いでしまった。
「か、神威?!」
「風呂には入れそう?洗ってあげるよ」
神威はスポンジではなく、手に直接ボディソープを取って泡立てる。
脚を神威の肩と同じくらいに開いて立った私の体を、その手でぬるぬる滑らせていく。
「ふ、うぅ……ん、んく、ぅ……」
「フラフラしないでよ、アハハ」
おへそまでくりくりと指先で丁寧に石鹸を擦り込んで、大事な人形でも扱うみたいに、どこもかしこも洗ってくれる。
「はぁ…ああ、う、うれしいよぉ……」
そのままとろけそうになる私を抱きかかえ、神威がシャワーをゆるりと当ててくれる。
その腕は力強く、師団の中では小柄な方だと言われているけれど…抱きしめられれば、なんだか自分は途方もなく小さい生き物だったのだなぁ、と思ってしまう。
「だいたい流れた?」
「はい、平気です…んっ!」
シャワーをホルダーにかけると、神威の指先が突然ぎゅうっと私の乳房に食い込んだ。
「うあっ、ああぁうあ……?!」
……突然、異常に重たい体の理由が分かった気がした。
ぼりゅりゅ、なんてふざけた音を立てて、私の乳首の先から脂っぽい液体が溢れ出た。
「お、まだ出るんだ」
「ああ…これ、お、おっぱい、なのかな…出ちゃう、出ちゃう……!」
ぎゅうぎゅうと、容赦のない指はさらに肉に沈み込み、そしてぎゅっ、ぎゅっ、と、家畜の世話をするみたいに動く。
どこで見たのかも忘れた膿出しの様子みたいだなぁ、なんて思った。
しっかり知らないが、母乳って初めは黄ばんでこってりしてるんじゃなかったか。
まるで月の障りの前のように乳房が張って痛いような感覚もあって、それは神威の指で押されればなおのこと増すのだが……。
どうにも母乳ではないような。
「なんなんだろうねコレ。本当、おまえの身体は飽きないよ」
「んっ……ちょ、ちょっと…?!」
ん、と可愛らしい音を立てながら神威が私の乳房に吸いついて、そのまま乳首を甘噛みしてくる。
グニグニと痛さに至らぬ強さで引っ張られ、その先を舌がつついてくる。
「……あり、血の味がする」
「血…しょ、しょっぱい……?」
「いや、なんていうか…うーん、なんだろ」
「はひっ?!ま、またっ…す、吸わないでぇ……ぁ、ああぁ……!!」
「嘘つきは可愛くないよ」
「はぐっ、うぅあ……!!」
もっと吸い出して、解放される感覚と快楽を味わわせてほしいと思っているのは隠しても無駄だ……。
「……あれ」
「ん?」
お風呂からあがる頃には、気持ちの悪い倦怠感はすっかり抜けていた。
代わりに心地の良い疲れが身体を支配して、円形のベッドの上で寝そべる神威の横でデリバリーのメニューを見ていたのだが。
「神威…これ、今の時間はやってないみたいです」
出前は夕方からお受けします、と書いてあった。
今はまだ昼に差し掛かったところだ。
「えっと…」
窓をほんの少し開けると、一筋のまぶしい光。
「神威、私、なにか買ってきます」
「んー……そうだなぁ、さすがにお腹減ったよ」
「ですよね、私ほとんど寝てばっかりいたし…あの、軽いものでよければええと」
神威がシーツで日除けしたことを確認して、窓を開ける。
ターミナル周辺と観光スポットとは異なって、ここいらの建物は大体、縦に低く横に長い。
そして建物と建物が、列にならび、まるで「賽の目」のようになっている。
今入っているこのホテルを真ん中にしてみると、ちょうど窓から右側は歓楽街の様相で、
比べて左側はとことん地味な民家が並んでいる。
「えっと…ちょうど!ここあたり、街の人がやってる小さなお店が沢山ある並びが、ってガイドブックにあったんです」
「ふーん、出店みたいなの?夜までのつなぎでいいから、持てるだけお願いね」
「は、はい!」
そう言って私が窓を閉めると、神威は懐を探って、ターミナルで取引したばかりの地球の紙幣を数枚取り出した。
「あとさ」
それを受けとりながら…ふと。
「これこれ。面白いね、地球のホテルは。こんなの部屋の中で売ってたよ」
「んっ…それ…?!」
ぐっ、と下着を着けていない私の陰部をまさぐり、慣れた手つきで硬く細い「筒」が挿入された。
「これ、ほら」
「ああうっ?!」
神威が手に持ったボタンのようなものをぐっと押すと、突然……。
「ひ、あっ、あ、ああぁ…や、あぁあっ?!い、いきなりぶるぶる、ぶるぶるきたっ…?!」
「「アキバNEO科学部発!超広範囲リモコンバイブ」だってさ、どこまで届くんだろ?」
「ふいっ、い、あ、わ、私、これ、いれて…一人で……?」
「そ。適当にスイッチ切ったり入れたりするから、気ぃ抜かないでね。いってらっさーい」
有り難いことに、人通りも少ない。
賽の目状に建物が並んでいるのも、目的の場所が決まっていれば利点だ。
列で判断できるから、迷う心配もない。
「……っ」
幸い、まだ陰部のおもちゃは微動だにしない。
歩く度に擦れて変な気分にはなるが、まだまだ抑えられる。
「……ここは着物屋、ここは…漬物?」
独特の匂いの店先には、袋に包まれた野菜が置かれている。
どうやら生野菜だ。いくらなんでもこれは色気がないだろう。
「どれを…買おうかな……」
「いらっしゃいませー!どうぞ一休みしてってくださいな!」
迷いかけたときに、ちょうど道の先から明るい声が響いた。
「おだんご娘」と書かれた看板。
「おだん…ご?」
「いらっしゃいませ!」
店先で立ち止まった私に、店番なのであろう、着物の若い娘が声をかけてくれた。
「あ…の、これって、おやつですよね?」
「はい?」
「あ、え、と…甘いものですよね?」
「そうですよー!あれ?お団子食べたことありませんか?ちょーっと待っててください」
ぱたぱたと店の奥に引っ込んだ娘は、手にお皿を一枚乗せて戻ってきた。
「これ、今限定の味なんです。よければ食べてみてくれませんか?」
「あ、ありがとうございます。ちょうだいしますっ…」
…串に刺さった、マシュマロのようなマルは…変な弾力があった。
しいて言うなら、米に似た。
そしてその上にねっとりした甘い味のソースがかけられている。
……美味しい。
「あの、持ち帰りってできますか?」
「できますよー!おいくつほど?」
少女はにゅんわりと、あどけなく笑う。
変な敵対心も警戒もなく、かといってだらしなく貧窮しているわけでもない。
なんというか…実にこのお店の「おだんご娘」という称号が似合うような町娘だ。
「ええと…さっきの「おだんご」を、全部ください」
「ぜ、全部?」
「はい、あるだけ全部……」
にこにこと人懐っこい笑顔をたたえていた瞳が、ぱっと驚きに見開かれる。
「え、えっとそのう、けっこうありますけど大丈夫ですか?」
「あ、あればあるほどいいです」
「んー…っと、みたらしが五つ、こしあんが七つ、黒ごまが……」
作り置きを数えに少女の視線が離れたときに、ゴクンと自分の唾液を飲み込んだ。
……喉が乾く。
私の裂け目から、めり込むおもちゃに反応してどんどん体の中の水が出て行ってしまう。
「お金は大丈夫ですその、なので本当、全部、全部包んでください……」
「わ、わかりましたっ。ちょっとお時間いただきます。どうぞ、かけてお待ちください」
そう言って一礼した少女が座席を指さし、さらにはお茶もどうぞ、とよい香りのする湯呑までついてきた。
壁際に一人用の席が並んで作られていて、着物の女性と、女性と一緒に来ているらしい…ここに来てからは珍しい黒い洋服に、眼鏡を掛けた男性。
そしてさらにその真横に、ダランと着物を崩して、もさもさと縦横無尽に広がる白髪頭の男性が腰かけていた。
「ちょっと銀ちゃん」
…白髪の男は、店番の少女と親しいようだ。
少女は慣れた口ぶりで、組んだ足を隣まではみ出させていた男を咎めて押しやる。
小さく礼を言って、ようやっとその気怠い男の隣に腰かけた……途端に。
「ふっ……いっ」
口から変な声が漏れてしまった。
腰を落とせばおもちゃが当たる位置も変わるし、さらにはその肉の軋みに反応してか…意地悪く、小さい振動が脚の付け根に何度も打ち付ける。
「んっ…く、ぅ……!」
……歯を噛み漏れる声を抑えれば、脳裏に笑いながら私を眺める神威が浮かんだ。
きっとこんな滑稽な私を神威は…いや、いや、違う、今は駄目だ。考えない!
「う、ん……っ、う?!」
自分をいじめるあの人を思い浮かべただけで、身体に伝わる背徳が段違いになったのを感じた。
……そして同時に、隣の男が私をじっと見ていることにも気が付いた。
「あっ、あ、あの、あ…あの、あ……ぅ」
ばっちり目が合ってしまって、私の口から意味のない声が漏れては散っていく。
「ん、ガイジンさん?」
「…っそ、そお、そうです、そう……う、ううぅ…!」
いじわるだ。絶対「これ」は私の意図を汲み取っている。
実は休んでるなんて嘘で、私のことをこっそり見てはおもちゃをいじって遊んでいるんじゃないか。
そんなことまで考えてしまうくらい的確なタイミングで、チャチなモーターが振動の速度を上げた。
「ううっ、ぐ、う…う、あの、か、かかか観光、しに来て、このへん、庶民的な、ああ、し、失礼な…意味じゃああ、な、なくてですね」
「ほーォ、有名になったなァこの店も…」
目の前の男は、団子の刺さっていたろう竹串を歯で玩びながら頭を掻いた。
その視線がふと、私の首筋から胸元、そして脚のほうへつう、と下った気がして…慌てて言葉を紡いだ。
「え、ええとそのう、ステキですねお江戸、わ、私もう感動で何回イッあ、違う、何回来てもいいって思ってます!」
「そうか?いや観光地としちゃ知らねーけどさ、長い事住んでると新鮮味はねーから」
「い、いえその便利さとかだけでなくって、せっ、世界には色んなものがあるなって、宇宙は広いなって!!」
男はそこで、怠そうなままだがほんの少し微笑んだ。
置いた皿からもう一つ、きちんと団子の刺さった串を手に取ってぱくつく。
「そ、そういう溢れるものから、あ、ええと、善し悪しをね、決めて、その、コレはイイアレはダメって、決めていくのは、じ、自分だって思うと、ワールドワイドじゃないですか実に」
「ワールドワイド?」
「つまりそのあの世界を作ってくのは自分で、そしてその自分を作っていくのは周りの人ですけど、その周りの人も、あの、エーと、ええ、ええと…!」
ひとまず私も、誤魔化すようにお茶を口に含んだ。
「んな規模がデカいことでもねーよ」
「っそ、そう、それですッ!」
「あん?」
「ぐ、軍人とかね、あ、あるいはチュウニビョー発症中の少年少女とか、そういうのはっ、自分がいいと思ったものを、悪いって、い、言われたら」
……気が付けば隣のカップルも私のことをジッと見ていた。
「た、戦わなくちゃならないんです!意味を求めちゃイケナイの、とりあえず戦わなくちゃならないの、負けてもイイのっ、い、いい…いい……ん…!」
ああまだなんですかお団子娘さん!早く!
いっそ包まなくてもいいから、ビニール袋にぼこんぼこんそのまま詰め込まれても文句は言わないから!
食べられればそれでいいからもう。
「と、とにかく、そーいう人たちは剣を取って戦わなくちゃいけ…い、イク…い、いけないんですけど、私はそういうこと、しなくていい、です、から…ぁ」
湯呑みの中身は、濃くて美味しい緑茶だった。
が……それは逆に喉をさらに乾かせた。
もう一度唾液を飲み、一度沸点まで昇りかけた頭の中をどうにか押さえ込む。
「……そーだなァ」
ちらりと私を見て…それから男は隣のカップルを見て、そしてもう一度私を見て。
「いちいち理由つけてデカイ旗掲げんなァめんどくせーわ」
「そ、そうでしょう、お兄さんわかるぅ〜!」
わざとらしくはしゃいで両手を付き出すと、男は今度はいやらしく笑った。
……もしかしなくても。
「いやあのな、あんましビデオばっかりに頼るのも想像力が欠如するんじゃねーのとか、かと言って今更コンビニに置いてある水着グラビアみてーなのでとか、頭のわりィ言い合いはすっけども」
意味はよくわからないが、男の表情と口調から、下卑た話題であることはよく理解できた。
「……坂田君」
眼鏡の男が、隣の自分の恋人を庇うように腕をスッと広げながら白髪頭を一瞥した。
が、白髪頭はにべもない。
へらへら笑って、二本めの団子も食べ終えてしまうと、指揮棒のようにその串を振った。
「そーだろうがよ先生サンよォ、他人の人生巻き込んだバトル展開なんざ、もう俺にはスケールデカすぎんだわ」
「そ、そそそそそうっ!そうなの、そうなのっ!」
なにか言葉を紡ごうとした「先生サン」を遮って、私はビシッと「サカタくん」を指差した。
「自分の幸せのためにイキッ…い、いい、てれば、いいんです!自分の尺度で、他人の幸せを量ってはイケナイんですっ」
「ほう」
その言葉には、眼鏡の彼が反応した。
「しかしそれでは秩序はどこに生まれる」
「ちつ…ぅ、じょ…は、こうあってほしいなっていう、ただの基準です、迷った人が開く、参考書なの……っ」
「……フム。一理あるがそれは社会性の附属しない個人の考えだろう。とすると、今君は……」
スッと、眼鏡の奥の鋭い瞳がさらに細められて私を射抜いた。
……もしかしなくても。この人も。
「あの……大丈夫ですか?」
眼鏡の彼が護るようにしていた隣の彼女が、身を乗り出して尋ねてきた。
「汗が凄いです。顔も真っ赤で震えて……具合がよろしくないんですか?」
「あっ、あァ、ちが、これは……」
「観光の方なんでしょう?お宿はどちら?お連れ様がいらっしゃるなら、お店の電話を借りて……」
「だーいじょーぶだってなあ?ネーちゃんよう」
白髪のほうは完全に気づいている。
私の火照りが興奮からくるものだということに。
「そーいうモンだろ。てめーが幸せならそれでイイってなぁ、そりゃ将軍が持ってりゃハタ迷惑な願いだけどよ」
ニヤニヤと好色そうに笑って、彼は眼鏡とその彼女を見やる。
「こんなチャラいねーちゃんが持ってても誰も困るめえよ」
「そうなんです…私が持って、ても、困るのは…かむっ……ん、あ……!」
だめだ、もうだめだいよいよだめだ。
息が荒くなる。なにも考えられなくなる……。
「お待たせしました!」
「う゛ぐっ?!」
「ごめんなさい、おっきい袋を探してて」
明るいお団子娘の声が、私をどうにか踏みとどまらせた。
彼女はたっぷりと団子が包まれた容器を、丁寧に大きなビニールふたつに分けて持ってきてくれた。
「あ、あァ、どうもありがとう…お、お釣りはいらないです!これ!」
神威から預かったピン札を三枚差し出し、ひったくるように娘から袋を受け取る。
「えっ?!そういうわけには……」
「いーっていーって、貰っときな」
白髪頭がおもむろに立ち上がり、渋る娘の手から札をむしりとった。
……どうにも慣れている手つきだった。この男は何度もこの娘から金を無心していたりするのだろうか。
「おーすげぇ諭吉が三枚、駅ビルのすいーつぱーらー食い放題だな」
「ちょっと銀ちゃんっ!」
「いーんだって、なぁネーちゃん」
男はイヤらしく笑いながら、私と娘を交互に見る。
「はっ、はい、とても楽しかったですから、そのぶん、ありがとう、じゃあ私っ……!」
「ああ、君、待ちたまえ」
ずっしりとした包みを抱えた私を、眼鏡の男性の鋭い瞳が貫く。
「あまり個人の嗜好に立ち入りたくはないのだが……もっと上手にやりたまえよ」
あなたも気がついてたんですか。
まともに返事をできずに、私はふらふらとその場を立ち去った。
……あの人たちにも秩序がある。
私の秩序は、神威が作る。
神威のルールをそのまま受け取るのが、私のありたい姿なのだ。
きっとおなか一杯になってから、恥ずかしいことをひとしきりし終えた私をからかっていじめてくれるだろう……。
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長さと内容的にもう一話続く羽目に!
あと一度で全部拾い切って完結させたいよ!ああおう!
すみれさん、リコラさん、まるさん、ありがとうございました…そしてごめんなさいの舞い。