「ふう……」
岩を積み重ねて作ったような湯船に浸って、神威は満悦そうだった。
おんせん、げいしゃ、ふじやま。
それはこの地球、ひいては大々的に「外」とのゲートをもうけてあるお江戸を訪れた観光客が必ずと言っていいほど口にする言葉らしい。
温泉とは地下から自然とわき出た、滋養効果のあるお湯。
いま神威が浸かっているように、お風呂にしてみんな楽しむ。
ふじやまというのは、まぁここからは見えないのだが、有名な景色らしい。
「ねえ
」
……そして。
「つまんないからなにか芸して」
「は、はぁい……」
ぼんやりと汗と湯気、その白い肌から幾重にも伝う滴を見ていると、なんだかいかがわしい気分になってくる。
そんな私を見抜いたように、神威はとんでもなく上から…私を支配する主として、退屈凌ぎを命じる。
私はカランとシャワーが設けられた石畳の滑りと堅さを確認して、ごく、と息を飲んだ。
芸者とは、まあ、猥歌や舞踊で酒の席を盛り上げる女のことだ。大ざっぱに言えば。
たぶん私は現役の彼女らに比べれば歌も踊りも下手くそだろう。優る部分があるのだとすれば。
「よっ…と」
石鹸を手にとって、カランの水と一緒に石畳に撒く。
それから、勢いをつけてするん、と膝をつき、そのまま床の上を滑る。
「あっはは」
「んっ……神威、見えます、か…?」
うんうん、と笑いながら、神威はぱんぱん手を叩いた。お囃子だ。
湯船の縁にひじを突いてこちらを退屈な笑いで眺める神威に、むき出しの臀部を向ける。
羞恥もあるが、それを飛び越える気持ちよさ。
「ひどいなあ。ご主人様に尻向けるなんて」
「ん、んうう…ご、ごめんなさっ……」
神威の視線は、私の臀部をなで回すようだ。
視線に感触というものがあったら、たぶん私はぬるぬるとした気持ちよさでへたれこんでしまうだろう。
「わ、私能なしだけど、い、いやらしさだったら、んっ……!」
……全裸の私は、これからこの姿よりずっとみじめで心地の良いことをしようとしている。
だがそれがいい。それが気持ちいい。
このうえなく恥ずかしいこともみじめな行為も、
それを悦んでくれる、命じてくれる人がいるならば幸福だ。
私はこの人に従い、なんでもかんでも捨てるのだ。
捨てる気持ちよさ。周りから侮蔑の視線で見られるのだって快感だ。
「み……見て、え……!」
ぐっと腰を上げる。膝に食い込む石の痛さもぴりぴり心地よい。
「んっ、ん、ふ、くっ、う、んうっ……!!」
がくがくと。
腰をひねって、火照ったお尻を振る。
「あっはは、すごいすごい。すっごくみっともない」
「んっ、で、でしょっ、みっともなさ、と、い、いやらしさだったら、だ、誰にも、負けない、でしょっ……!」
自分で撒いた石鹸でぬめる床に、なんとか手のひらをしっかりとくっつけて。
ついでにびちゃっと、頭も床にくっつけて。
濡れた髪が自分を安定させてくれるのを幸いに重いながら、ぴんと脚を伸ばした。
「うわ」
「は、ああ、ん、み、見えるっ、神威、見える……?」
「うん、はは、これ……」
丸晒しだなにもかも。
逆さまにだけれど、けたけた笑う神威が見えた。
「へあ、あ、あええ…」
自然と口が半開きになって、はっ、はっ、と、断続的に恥ずかしい呼吸が漏れる。
同時にもぞもぞと腰が疼いてしまって、やっぱりこんな形でもお尻を震えさせるよりない。
「ひっ…う、ああ、ん……!」
無邪気に、まるで子供がおもちゃ箱をのぞき込むみたいなあどけない顔で、神威は私の湿ってばかりの陰部を眺める。
「お……濡れてる」
「っふ、でしょ…ん、いつでも濡れてるんだから、いつでも大丈夫なんだからぁ……」
「んー」
「ひんっ?!」
突然神威の手が伸びてきて、ギュウッと私のクリトリスを摘んだ。
……摘むというか、つねって下へ引きずり出そうとするみたいな強さで。
「あ゛っ、ああああぁぁ、あぐ、ち、ぎれちゃ、ああう……!」
「ちぎっちゃってもいいんでしょ?」
「んむっ、う、あ、いい、いい、ですっ……!」
きゅっ、きゅっ、と、力がこめられては緩む。
「なんだろうな…さっきから……」
神威の細い指と、ここに来る前に私が磨いた爪が陰核をつまみ上げ、声を上げることすらかなわない私にさらにだめ押しするみたいにもう片方の手が伸びてきた。
「はぎゅ、うううう?!」
「さっきからさ……」
右手の指が根本を押さえつけ、左手のひとさし指がくるくると、逃げ場をなくしたクリトリスをいたぶり倒す。
「はっあ、くうあ、ど、どくどく言ってる、ああああ……!!」
「ほんとだ、はは。ぷっくりしちゃって」
押さえつけられているせいで、内側に巡った血液も逃げ場がない。
みるみる私の陰部は充血して赤くなり、血流の音が足の指まで届いた。
「ふあ、ああ、神威っ……?」
「……っ、あのさ……」
次の瞬間、どぱんと自分の身が湯の中に引っ張り落とされた。
「はぶっ…神威……?!」
「さっきからなんか、すごくね、「クる」よ」
「はんっ……う、うぅあ、あきいいっ……!!」
神威のその汗と真っ赤な頬が、湯気に誘発されただけでないと気づいたのは、お湯の中で容赦もなく猛りを突き込まれてからだった。
「はぐっ、熱ぅ、熱い……神威、すごっ…ひ、ああぁあ?!」
「……あ、は」
思わず勢いにむせそうになった。
私を後ろから抱える神威は、ほんの一瞬間の抜けた声をあげたが…また突然、獰猛な獣みたいに息を荒くする。
「はひぃあっ、で、出てるっ、だ、だしながら、あ、出たり、入った、り、いぃあぁああっ!」
「ぐ……く、あ」
いつもなら一も二もなく歓喜してとろける行為なのに、なぜか私はどこか懐疑的で、やたらと必死さが滲む神威の腕に凭れきれずにいた。
「か、神威……?」
ぐいっと、必死になって振り返ってのぞき込んだ表情に、ちょっとびっくりしてしまった。
がたがた歯を噛んで、その隙間から絶えず唾液をぼたぼた垂らす顔は、今まで見たことがなかったからだ。
「さ、っきから、もう」
「う、っぐう……?!」
ずぽ、なんて音を立てて荒々しく私の孔から神威が抜けてしまう。
「っは、ああ……!」
それは意図してのことではなく、上向きすぎる余りに身体と合わずに抜け落ちたらしかった。
その上神威の肉茎は、空気に晒された刺激でまた絶頂を迎えていた。
慌てて神威の方を向き直った私の肌に、ぼたたっと重湯みたいな滴りが落ちる。
「か、神威?!どうしたの……?!」
それを喜んでいる暇もなかった。
神威はくらくらと目眩を起こしたように頭を抱え、舌を出して湯船にもたれる。
「は、あ゛…」
「のぼせちゃった…?」
「いや……っ、う」
「あぐっ…?!」
整わない呼吸のまま、神威の両手が私の首に回ってきた。
「はぎっ、お、ごええええっ?!」
首締めかと思ったら違うらしい。
首を重点に私は持ち上げられて、そのまま石畳に投げられた。
「んっ、ちょ、ど、どうしたんですか…?!」
「…
……」
そのまま神威が、仰向けに倒れた私に多い被さってくる。
「ん…は、あ、ああう……!」
「っ、なんか、もう…………!」
ぬるん、と、湯も体液も纏った肉茎が、何度も私の脚の付け根を滑る。
「んや、ん……ん……っ!」
「はあ…あ、ああ、は、あ……!!」
私の両手をがっしりと押さえつけ、神威は膣穴でなく、そのまま脚の付け根やら、おへそのあたりに肉茎をぐっ、ぐっ、と、押しつける。
「あ、は……!」
「んっ、また出っ…神威……!」
神威の腰がぶるっとおこりのように震えて、勢いも重たさもちっとも変わらない白濁が顔まで飛んできた。
「……だ、め、なんか、ダメだ」
「……?」
頬とくちびるにぺったりついた精液は、指でつまめそうなくらいだった。
そして神威が挿入しないのは、私を焦らしてでも、肌の感触を楽しんでいるのでもなく。
焦りの剰り狙いが定まらないのだ、とわかって、いよいよ私もどうしよう、という気持ちになった。
「なんか、どうしてかな、こう…さっきから、締まるみたい、に」
「っん……!」
また。
びたんっと、痛そうなほど隆起した肉茎の先から精が放たれる。
「かむ……ん?!」
ふと、ずり下がった頭が湯船の傍に立てられた札に当たって思わず目をやり、そこに書いてある文字に脳みそがグニャンとなった。
「倍按倉の湯……効能、滋養強壮、精力増進……?!」
つまり……。
「はあ、ああ、く」
「か、神威、あの」
……たとえ一時的な衝動に駆られての行為だって、私に与えてくれるなら大喜びだ。
どんなものでも。性欲の果てにある死だってうれしい。
が…どうにも。
この苦しげな、私の身体より、そして自分の身体よりも大きな欲求に締め付けられる神威は、苦しそうで仕方がなかった。
以前に病気で寝込んだ時とは違う。
あのときは内側から滲む真怠い熱を持て余している様子だったけれど、今は外から外から入ってくる刺激をどうにかしたいのに術がわからぬという感じで、こちらまでもどかしい。
「……神威、これ……」
「っ、う?!」
「わ、私その、あの…えっと、この……!」
神威の細い腰に手を回し、まだかくかくと私の下腹部に打ちつけっぱなしの肉茎に震えながら。
指が、男の人にしては丸みのある臀部にたどり着く。
「……?」
「わ、たしその、これ、経験ないけど、ぉ…」
「……ちょ、
……!」
指先の感覚で、湿る肌の中の一層くぼんだ粘膜を探る。
「っ、ちょっと……あ、あ」
「ふうっ…?!」
指の先がくぽっと入り込んだ、と思った瞬間に、また神威の肉茎が跳ねた。
「か、神威、なか、中で出して……」
神威の喉がごくごくと唾液を飲み込む動作をして、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す。
ふん、と鼻息を漏らして、私の脚をぐっと上げて。
「ああぁ、う、入るぅぅ……!」
「……っ」
今度こそぬるりと、待ちかまえていた熱が入ってきて。
「んあぁ、ま、また出たっ…あ、ああ、ぐちゃ、ぐちゃって、ぐちゃぐちゃ、出しながら、ずぽずぽ、し、てえ……!」
「これ、
、あ…ちょっと、おい」
びりびりと背筋を快楽の柱が通り抜けていく。
ちゅぽちゅぽと音を立てながら、私の肉穴のそこかしこに精をまき散らしながら出し入れされる神威は、おなかを破りそうなくらいに猛っている。
「まだ、くるしそ…っ、ほ、ほら……ぁ」
「んっ……?!」
射精のあとの、一瞬の気のゆるみがあったのかもしれない。
私の指は、神威の粘膜の中にたやすく入り込んでいく。
「
…こら、だめ」
「だ、だめじゃ、ないよぉ…そんな、苦しそうな顔する、んだったら、だめっ……!」
「こら…!怒るよ、ん……?!」
吸いつくようになめらかな粘膜の中に入り損ねた中指と薬指で、神威の会陰をくるくる撫で回す。
「やめ、ちょっと」
「神威、出して楽になって……!」
「っ、ん……!」
会陰をぐっと押すと、神威がけふっ、と空ぶった。
それから膣壁の中の肉茎がまるで首を振るみたいに暴れて、びゅく、と先端から熱がはしる。
「あぁ、また、出た…ぁ」
「こら、
」
恍惚とした私の頬を、肩を大きく上下させる神威が思い切りつまんだ。
ふう、と一息ついたその顔は、さっきよりはやや熱が下り気味かもしれない。
「仕返し」
「うぐあっ?!く、くり、だめ、ああぁあ!」
神威の指が、前触れもなく陰核をつまみ上げる。
「はぐう、あ、つめ、爪立てないでぇ…!」
「ここ」
「うぎいっ?!」
またさっきのように。
今度は親指と中指がしっかりとクリトリスの根本をはさみこんで、人差し指が容赦のない強さで爪を立ててくる。
「はぎゃああう、がりがりぐちゅぐちゅだめえ、ええええぇえっ!」
そんなことはないとわかっているのだが、根本をつままれると、内側の血液がクリトリスを圧迫するような気がしてならない。
「は、れつしちゃう、ぱんってなっちゃう、くりとり、す、こわれ、るう……!」
「今の俺もこうなわけ」
「こう…あ、これぇ…?!」
またぐんっと、与えられた快楽に反応して陰核が膨れる。
ふつうなら血液が循環してどくどく言うだけなのに、今はそれを指で捕まれているせいでどんどん血が溜まっていく一方な気がする。
「それで…っ、おまえ、これ苦しい?」
「くる、し、っていうか、びーんって、足も、背中も、びんって、しめられるみたい、にぃ…!」
「だろ?俺もそうなの」
「はっ、あ、お、おちんぽ、こんな…?!」
「それで…」
「うっぐうぅあ、だめっ、いま、今だめっ、おしっこあなあだめぇえええっ!」
神威は器用に、余った小指で私の尿道をこちょこちょと擽る。
「苦しいなら、ってここほじられたら、
どうする?」
「は、破裂しちゃうっ、あたまヘンになるっ…!」
「だろ?
さっき俺に何したのさ」
「あっ、あ゛、お、おしり、の……あ」
そこで、また膣内の神威がびくんっと脈打ち、私の肉もぎゅうっと窄まる。
「んっ、う、くぅ…!」
「中、たぽたぽだな…」
「んやぁっ、お、押さないでぇ!」
肉茎を引き抜かぬまま、神威が私の震えるおなかを手のひらで押す。
「ううっ、く、んあ゛あ゛あ゛っ……!」
ぷぴゅる、なんて言う滑稽な音を立てて、膣内に注がれて受け切れぬ精が、なみなみ逆流する。
生ぬるい濁りとなって、繋がったままの私の膣穴も神威の肉茎もたっぷりと濡らす。
「あ、は、あああ…!」
「……へへ」
「神威…わ、私、そのでも、あの…ご、ごめんなさい…」
なんだかもう色々と恥ずかしくなってきて、思わず顔を覆ってしまったのだが。
「いいよいいよアハハ、今から三十回イッたら許してあげる」
「さんじゅ…う、が、頑張ります…い、いかせてぇ、神威……!」
そして、その後で。
時を同じくして、渡り廊下を隔てた浴室にいた私たちには届かぬ騒ぎだったが、集団で「倍按倉の湯」に浸かった第七師団貸し切りの浴場と寝室は地獄絵図と化していた。
「命だけはお助けを!」と地球人の宿主がコメツキバッタのように土下座する傍ら、
詫びはいいから穴ボコをよこせと息巻く団員を後目に、神威はきゅ、と長杉の帯を締めた。
「散歩でもしてこよっか。腹減ったよ俺」
「うん…あの、観光地から外れた商店街の方は、こぢんまりしたお店がたくさんあって、食べ歩きには最適だって」
「へえ」
そう言って神威が私の腰に手を回して歩きだしたので、思わずびくんと身震いしてしまった。
くたくたになって、喉もからからだったのに。
神威の手が触れた部分から、身体が潤っていくのを感じる。
……あと数日、この豊潤な土地で遊び尽くすのが楽しみだ。