……ひさびさに、熱が出た。
元々、私はよく病気にかからずとも微熱が出ることが多い。
それは体質のせいだから特に気にもかけないのだが、今日は久しぶりに立てなくなるような高熱で、へろへろと汗をかきながら寝ている。
「…ごめんなさい…」
「んー?いいよ、今日は特に用もないし」
粘る汗が、額からつーっと流れる。
気持ちのいいことをしている時の、軽くて心地よい汗ではなくて。
自分の中の、かろうじて「ふつう」を保とうとしている部分が、大部分の「異物」と拮抗して、濃くて湿る汗を大量に噴き出させるのだ。
神威はそんな私の肌をぐっと親指で拭ってくれて、その指をぺろっと舐めた。
「やめ……はずかしい…」
「なんで?汗よりもっと恥ずかしいのも舐めてるのに」
「や…やだ、いや…あ、言わないで…」
……こんな状況なのに、そうやって神威がかまってくれると私の胸はぎゅうと熱くなって、腰のあたりが疼く。
けれど、私をベッドの横からのぞき込む愛しい身体に抱きつくことができない。
身体の左側がびりびり痺れている。
ちょうど言うなら、あの、正座し続けて足がしびれを切らしたときみたいに。
ちくちく、血管の中を巡る血がゆるやかな針になって皮膚を内側からつつくのがわかるのに、
その感覚の強さとは反対に、左半身に力がまったく入ってくれない。
「……っ」
ふと、なんとか右腕を動かして左の腕の皮膚をつねってみたが、痛みが来ない。
「……」
「…う……」
涙が、じわ、と溢れた。
こうやって朽ちていくのはいやだ。
死ぬのなら絶頂の果て、神威の腕のなかでその手にかかって死にたい。
「神威、したい…」
「んー?」
私が懇願すると、神威はふと身を乗り出して私の顔を真上からのぞき込む。
「あっ…」
その拍子に肩からソロリとコーラルピンクの三つ編みが垂れて、私の耳をくすぐった。
「ん?」
びく、と身をこわばらせた私を見て、神威は三つ編みの先を自分の指でもてあそぶ。
「くすぐったい?」
うなずく。
……と。
「ひゃ?!神威、くすぐった…!」
にっこり笑った神威が、そのまま身を屈めて私の頬を髪で撫でる。
「お前らしくもないね。つまらないこと考えてるだろ」
「う……だ、だって」
つまんないことだ。
あれこれ先に考えを巡らせたって、結局私には今しかないのだから。
「だ、だって…か、神威、かわいがってっ、きもちよくしてっ、かわいくして、私のこと……!」
そう言って右手で神威の服を引っ張ると、神威はゆるゆると、瞳を開いたまま優しい笑みを浮かべる。
「だめ」
「だめって…んわっ?!」
ぼふんと、私の真上に神威が落ちてくる。
そのままぐっと、遠慮なしに体重をかけてきて、シーツと私の背の間に腕まで差し込んで、ぎゅっと。
ぎゅうっと、抱きしめてくれた。
そんな風にされて、右手右足だけでもがく私を見てしばし笑ったまま無言になった彼は、私の異常を言われずとも見抜いている。
「怖い?」
うなずく。
「は全身アレだもんね」
また、うなずく。
「一個でも欠けたらイヤ?」
もう一度。うなずいた。
「んー…」
考え込むようにしながら、神威が私の頬に自分の頬を寄せてくれる。
「ん、く…ぅ」
心地の良い頬ずり。きめ細かい肌が私の汗ばむ肌を愛撫する。
「俺はとりあえず、使えればどんなでもいいけどなぁ」
「使えれば…?」
神威が私のことを慰めようとしてくれるのがわかるのに、その言葉の真意をつかめずに疑問の視線を向けてしまう。
「んー、おまじないしてあげる」
「おまじない…?」
そのどこか子供じみた響きが神威の口から出たことがちょっと不思議で、私は泣きたい気分からようやく解放された。
いつもこうだ。
なんだかんだいいつつ、私は神威に左右されてすぐ気持ちよくなる。
「お前の腕がなくなったとしてさ」
神威が、私の痺れる左手を取る。
そして、視覚に頼るよりないが、ぐ…と。
骨が軋みそうなくらい、握って力を籠めてくる。
「それって後ろで縛ってるのとどう違うの?」
「…………あ」
「脚がなくなったとしてさ、やっぱりそれって椅子に縛ってるのと変わらないよね?」
「……ん……」
「ずっと寝てるのがイヤなら、壁に穴開けてそこにはめ込んでおけばよくない?」
「あ、わ、そ、それって…!」
ぞくん、と、右半身に灼熱の温度を持つ興奮が流し込まれる。
「ボクシング・ヘレナだっけ?あったでしょそんなの、箱詰めにして尻だけ出させたり」
「や、んっ…や、やぁ、そ、れ……!」
動けない自分が狭い箱や穴に詰められて、そこから露出した自分の肉を神威に何度も貫かれて気をやるところを想像して、ぶるぶる震えた。
「やめ、て、興奮するっ……!」
「それでも我慢できないなら、ほら」
「や、んっ?!」
ぐっと、神威が私の身体を起こさせる。
汗でジトリと湿ったシーツをパッドから剥いで、私の背に回した腕でびりっと裂いた。
3本ほどの細い紐になった白い布を私の前にかざして。
「ほら、こうやって」
「あんっ…?!」
左の太ももに、ぐるっと紐が回された。
その紐は私を抱きかかえて、対面する形で座り込んでいる神威の脚も一緒くたにくくる。
そして、ギュッ、と、固く結ばれてしまった。
「よっと…ほら、ここも」
今度はもっと、脚の根本。
やはり感覚のない、だらんとしている左の脚が、逆にぴんっと張る神威の脚と一緒に結ばれる。
「あっ…こ、これ…!」
自分がなにをされているのかをそこでようやく理解して、私の下腹部はまたぞろガクガク戦慄いた。
そして、必然としっかり神威の体に上がった自分の陰部が、神威のズボンの下の、しっかりと熱くなった猛りに触れる。
「んぅ…は、神威、これ……!」
「ほらほらおいでよ、アハハ」
むしり取るように、神威が自分の下履きを脱ぐ。
その動きにつられて私の体も傾いて、ああまるでこれは本当に。
「ひとつになっちゃう…の……?」
「の頑張り次第でね」
「っ、ん……!」
右の手と足で踏ん張って、体を少し持ち上げる。
そして裸身の自分の、言い訳のしようもなく…まあそんなの必要もないか…汗よりも粘って濃く、
密度の高い匂いを放つ体液で湿る秘処を、神威の先端にあてがう。
「んく…う……」
「やっぱり動きづらいか……ほらっ」
「あっう、うぃあぁあぁあっ?!」
びちゃん、と、愛液の気泡がつぶれて、そのまま粘膜同士が密着する音。
私の臀部をしっかり支えた神威が、下から腰を突き上げた。
「あは、はいっちゃ、った……あ、熱っ、わ、私、これ、いつもより、も、あつぅ、い…!」
「ん…ほんとだ、熱いや……それと、ほら」
「えわぁっ…ん、んあぁ…?!」
残ったもう一本の紐を、神威がグルッと、自分の膝の下に通す。
そして私の太ももと自分の太ももを、左脚と同じように一緒くたにくくって…。
「やっそれ、や、あ、いやぁ、ああ、ん、や、あ、あ、ああぁぁあああッッ!!」
おののくより先に、すぐさま紐を結んだ神威の腕が私の背中に回り込む。
完全に動けなくなった私を、膣から口まで一気に串刺しにでもしようとしているかのように。
「ほら…っ、はは、これ、不自由?」
「んあ、あ、ああ゛ッ…ふっ、く、ん、あぁ……!」
「よがってないで聞かせてよ」
「あがっ、ひ、あ、ふ、ふじゆっ、じゃない、あ、これ、すご、い、すごく、あ、ズンズンくるっ、神威のずんずんくるうぅっ……!」
「だろ……ん」
「んっ…ふ、ぅ、ん…ん、ぅ……!」
私がその、およそ容赦というものが感じられない勢いに頭を焼かれそうになった寸前、呼吸すら許さないというようにキスが降ってきた。
「ん…ふぅ、は……ん」
「はぁ、ん、あ、あ…あぶっ、ふ、ひひゃ、あ……!」
過剰な酸素が制限されたことで、頭の中が少し冷静さを取り戻す。
そして、今度はその愛情しか伝わってこない贅沢な接吻にうっとりと溶かされていく。
「ふゥ、ん、ぅ、あぅ……ん、いぎゅっ…?!」
「んーッ……」
「くあひ、きゃ、きゃむい、ひた、ひたひぎれるっ…!」
私の舌先を噛んで、そのままぎゅいっと引っ張られたから。
ぼんやりぼんやりしながらも、甘美な痛みに逆に恐ろしくなる。
「っふは、ん?嫌?」
「ぅ、ううん……!いやじゃない、神威ならいい、神威が、ち、ちぎってくれるならいいよっ……!」
そう。
この人が私にしてくれることに苦痛なんてありはしないのだ。
ただ、ただ過剰すぎる快楽は時には恐怖さえ伴うものだと震えながら思い知るだけ。
「んぁッ、あ゛ーーッ!おく、おくっ、おく溶けてるぅっ……!」
「ん…アハハ、好きだよねぇ、ここ」
のけぞる。
神威のひときわ熱い先端が、私の女の底を何度も小突く。
私が震えるとわかるなり、腰に回した、今は私を自由にできる唯一のものである神威の腕が、私を軽く持ち上げてはとすんと落とす。
何度も何度も。
「あがっ、あ、ああい、いあぁ、いぁ、いいっ、いいよっ、いい、いいですっ、バカんなる、今よりずっとバカになっちゃうっ……!」
そのたび自分の体重のぶん、神威に子宮口を突き刺される。
その快楽に目玉がぐるん、と裏返りそうになって、勝手に右足が痙攣する。
「ッ……ああ……」
「んあッ…か、神威震えてる、あし、あしがくがくしてるっ…い、イクの…?神威イクの……?!」
「ん…はは、わかる?」
「わ、わかるぅうっ、脚ぴったりくっついてるから、一緒だから、いま二人で、ひ、ひとつ、にっ…い、あ、あ、あっう、あ、ああぁああっ?!」
ただでさえ自分の限界までめり込んでいた神威が、そこをこじ開けでもするかのようにぐりんと、中で首を振るのがわかった。
「はかっ…き、きた…う、うんっ……?!」
「まだ出るよ…しっかり締めて、ほら」
「うんっ、うん、しめ、る、お、おしりギュッてして、神威のっ……ん、んぅ?!」
そこで。
そこで気がついたら、どう頑張っても力が入らなかった自分の左半身の痺れが弱くなり、ゆるゆると血液が流れていく感覚が戻ってきているのに気がついた。
「あかっ、神威、私……!」
そのうれしさもあったけれど、今はなにより。
「大好き、だいすきだいすき、ぎゅって、ぎゅってするからもっと…もっと出してっ……!」
「あっはは、可愛いよは」
力の入るようになった左手で神威の背中にしがみつき、臀部にも思い切り力を籠める。
「……ん…」
「はくっ、う、まだかちかちっ…ん、や、んっ…!」
おしりに力を籠めると、そのぶん膣がきしむ。
そして中の神威をより強く感じることになって、強くなるばかりの快楽におびえるほどだ。
「はぁ、ああ…あ、んっ、あくっ、あ、あいっ……!」
「ん……中、もうすごいや…ぬめってるの、俺のせいだけじゃないね……」
腰を落とされて、持ち上げられる度にじゅくり、と、ゼリーか何かがこぼれるような音がする。
「あ、は…っ、で、でも、中、泡立ってる…神威の白いの、泡立っちゃってる……ぅ、ん、私のなかっ……!」
もうきっと精液と大差ないほど濃いだろう私の愛液も、一度中に放たれた神威の熱も。
そしてお互いの性器も、とろけるみたいに綯い交ぜになっている。
その感覚が、あまりに官能的な恐ろしさを伴って私を包む。
「こわい、神威怖いっ、わたし、怖い、ばらばらになる、めちゃくちゃ、も、もう、めちゃくちゃっ……!」
「いいって…わかってるだろ…は、どんなになってもさ、ん……お前にはこれしかないんだから……あ、ほら、ぎゅーって……」
「っん、ぐ、あ、ああだめ、だっ、め、あ、あい、あ、いく、い、あ、いぁぁぁあぁああぁああっっ!!」
私の体がびくんと上り詰めると同時に、神威の体もひきつったのがわかった。
奥にまた放たれた熱でも、同時に弾け飛んだ脚のシーツでも。
「あーどうかからーだをさき〜」
「アッハハ、ご機嫌だね」
リネンにシーツを取りに行きがてら、ふと唄いだした私を神威が笑う。
「……えへへ」
「お前は本当に…ん?」
リネン室の側に、船員たちが集まっていた。
「どうしたの」
「あ、団長……いやこれ、壁がね」
指差す先を神威と同時に見れば、たわんだ形に、壁にリネンと廊下を貫通する大穴が開いていた。
…ちょうど、人の肩幅くらいの直径の。
空気も漏れないし修理すべきかどうか、と顔をしかめる彼らを余所に、私たちは顔を見合わせた。
「いや、直さなくていいや。ん…いや、直すか。穴の周り、ひしゃけた金属片だけ取り除いといて。怪我するし」
奇妙な注文に、船員は首をかしげていた。
私はたまらず……ふにゃりと笑った。