…神威が好き。
神威のどの部分が一番好きかと問われれば、手の小指。

誰もそんな問いかけはしないだろうから、考えるだけ無駄といえるし、
その小指も、あえて選ぶならと言った具合で挙げているのであって、神威そのものがなによりなのだけれど。

「ん…」

ふと歩きながら、自分の小指を噛んでみる。
微妙な口腔の熱と歯の圧迫が、私の意識をふと、ちょっとした過去へと導いていった。



美人とは、ひとくくりにできない。
また美人が好まれるとは限らない。
ただ、なぜそこに集まった娘たちがそこいらの町娘よりも美しいのかと言えば、それはせいぜい見た目を美しく保つか、
あるいは全て放棄して命ごと朽ちていくしかないところに放り込まれたからだと思う。

毒液漬けの奴隷娘、なんて、思わず古臭い壷や杖が立ち並び、怪しげな老婆が鍋をかき混ぜているような風景を思い浮かべてしまう言葉なのに、
私がすくすく育った場所はそんな退廃的な祠ではなく、
星の技術の粋を凝らし、他の惑星やコロニーからもテクノロジーを持ち込んで常に新しく保たれた施設だった。

学んだ歴史によれば、まぁ、ずっと昔までルーツをたどれば、魔女のような者が暗く沸騰する鍋をかき混ぜている風景に至るらしいが。

眠るのは毒草が詰まった枕に薬剤が染み込んだシーツだし、
朝食に必ず出る孵化しかけたアヒルをゆで卵にした下手物だって、毒草をまるで出汁のように使って料理していた。
叩き込まれる教養は最低限で、あとはせいぜい図書館にある本を読める程度だ。
その他に教育員から習うことは、自分たちが置かれた立場、歴史、そして毒娘として生き、死んでゆくための奴隷美学。
おまえたちは選ばれた存在であり、その命と血肉は、凡百の人間よりもずっと尊い存在を摘み取るためにある貴重なもの。
そんなことを毎日毎日念仏のように唱えられ、
昼食が終わると踊りの講師が来る。
と言っても、私たちに直接手取り足取り踊りを仕込んでくれるのではない。
そこそこ名のある踊り手が、神を恋うる儀式にも気の触れたヒステリーにも、また下品な誘惑にも見えるダンスを、私たちの前で披露する。
毎日毎日。何度でも。
私たちはそれの上辺だけをなぞり、ポーズだけ真似て、ひとまず下劣にスランギーに、自分の身分の低さを主張できる動きができるようになればいい。

もっと腰ひねったほうがよくない、とか、
足開くとバカっぽくていいね、なんていう、
ややずれてはいるけれど年頃の娘のやりとりとしてさほどおかしくはない言葉も少しは交わされた。

私たちは蹴落としあうほど周りの子を意識してはいなかった。
必要がない。私たちの仕事は一度きりだ。
それを嘆く必要もなかった。
美しい娘と言っても、価値観は驚くほどに多彩だ。
太いのがいい細いのがいい、高い低い、黒い白い、
そういう嗜好は本当にそれぞれで、私たちはそうやってあらかじめある程度嗜好に照会されてから届けられるから、
どこへ行っても不変な価値観の、肌や髪の美しさなどにこだわり、
必要以上に会話せず、自分のことだけ考えていればいい。

全員が全員それで滞りなく育つのかと言えばそうでもなかった。
授業中に突然泡を吹いて倒れて、それ以後姿を見なくなったのは一人二人ではないし、
これは一人だけだったけれど、寝室で発狂した子がいた。

何かの物語に触発されてしまったのか、それとも引き取られてくるより前に備わった自意識のせいか。
自分の存在とこれからの破滅について泣き出して、裸になって自分の性器を血が出るほど指で突いて走り回っていた。
生娘であることは絶対の価値だったし、
結局死ぬしかないのよ自由なんてないのよ、なんて言い出せば他の娘にも悪影響を与えてしまう。
彼女は静かに厳かに、存在を消された。のだと思う。

私たちは蹴落としあうこともないが、誰かの死を悼むほど情にも厚くなかった。

私は死ぬほどではないが、眠る前に与えられる毒物の種類が変化するたびに熱に浮かされた。
全身がびっしょりと汗で濡れ、自分の吐息で視界が曇る。
そして意識がぼんやりすると、決まって淫らな気分になった。

蛇だ。
禍々しい鱗を持った、触れれば私が苦しんでいる毒などと比べものにならないほど熱く、死にそうなほど熱く、そして気持ちのいい麻薬を持っているとわかる蛇が、暗闇から忍び込んでくる。
私の脚に絡み、股の間に潜り込む。
その幻覚にうなされると、知識として知っているだけの性的な興奮に身を焼かれる。
ひっそりと、看守にも他の娘にも気付かれぬように長い吐息を漏らして、下着越しに自分の陰部を撫でる。
ぶるりと、尿意にも似たもどかしさが疼き、そして同時に恐怖を覚えて、すぐさま手を離すのだけれど。

私は毒娘として、暗殺のための贈り物として、つつがなく成長していった。





「あほ提督?」
「あ、ぼ、う、だ」
「これで、あぼう、って読むんだ」

スペースシップに乗り込んで、星の海を泳ぐ。
図書館で読んだ物語に、なんだか似たような風景を連想させるものがあったかもしれない。
私たちを送り届ける役目を持った男の人とは、ごく短く会話した。
誰が買い取ったかはわからないが、宇宙海賊なんていう聞くからにろくでもない組織のお飾り。
歳の頃も老いすぎず、かと言って若くもなく、一番弛んで脂ぎり、自分の欲に弱く。
そこそこイキのいい、暗すぎない娘をいたぶりたいという欲求を抱えた、役立たずの豚。

ひどい言われようですね、なんて思わず笑った。
私を買った人が書き付けた、これから私がかしずき、そして死においやる人のなりを読んで。

「とりあえず会った瞬間から膝をつけ。蹴られたら崩れたままでいろ。下手に媚びるよりは黙っていろ」
「はぁい」

そうしてその、うちゅうかいぞくはるさめ、の母艦にたどり着き、これほどの大きさの宇宙船は初めて見る…と驚いた瞬間に、私と私の買い手の計画は崩れてしまった。



私はとりあえず、保護動物のように檻に押し込まれた。
「事情が変わった」
とだけ言われて、あとはもう誰とも連絡が取れない。
なるようになるとため息をついて眠ろうとすると、静かな施設と違って、常に足音や機械音が鳴り響く艦の中のせいなのか。
奇妙な気配に襲われた。


爪。
爪が私の背中をひっかく。
小さいのに子供のそれではないとわかる指は、誰かかしらの小指なのだと知れた。
小指だけで、そっと。
私の背中を、何度も何度も、きりきりと引っかいていく。


そんな妖しく濃密なのに、目を覚ますとまとわりつくことなくすぐにいなくなってしまう淡泊な気配にうなされつつも、ただ寝て、起きてを繰り返した。
備え付けられた便器で用だけは足せたが、
食事どころか水もなく、飲み込む自分の唾液もだんだん粘ついてきて。
どのくらいの時間が経ったか正確にはわからないけれど、私がへばりきってしまう前に檻は仄暗い闇から光の射す部屋に運ばれたから、さほど長い間でもなかったんだろう。

「……へえ」

眩しさに瞬きを何度か繰り返して、ようやっとまともに瞳を開いた私の視界に、鮮やかに紅い服を着た年若い男が入り込んだ。

変わった色の髪をしていて、私よりも白いかもしれないなんて思うほど透き通る肌と、厳かな服装。
その男が運び出された私の前に仁王立ちになっているということを考えれば、
若くしてそれなりの地位を持つ者なんだろうと納得した。
もぞりと動いて、私は思わず。

「あの…阿呆提督、は」

そう口にして、それからびくりとした。

にっこりと、嘘くさいくらいの笑顔を称えていた彼の瞳がスウと開かれて、蒼い色をきらりとさせたから。

その瞬間に、私は背筋を引っかいていた小指を連想した。
あの小指は、この人の小指だ。
なぜかなんの違和感もなく、そう思った。

「いないね」
「いない…というと」
「この世にいないね」
「……殺された、ということですか?」
「そう。案外馬鹿でもないね」

そこでややムッとした。
自分が聡い発言をしたつもりなどなかったからだ。
要塞のように大きい「宇宙海賊」の母艦が外からでもわかるほどに揺れ動き、
同時に艦載機がアステロイドみたいにわらわら出動して辺りを取り囲み…私たちのなんの武装もない船まで包囲し、
厳重に体中を調べ上げられ船は没収、運び屋の彼は難を逃れた様子だったけれど、私のような見てくれからして何もできない小娘まで檻に突っ込んだのだ。
その上でこの世にいないのならば、
もともと役立たずの豚なんて揶揄されるほどの人物なのだから、内乱で死んだか殺されたか。
それを想像するのは決して難しくない。

自分の見た目が賢人ではないのは知っているし、何より格好は民族衣装をモチーフにしたドレスだ。
ある程度は仕方ないと納得できるが、
……目の前の彼は、私が自分で思っているよりずっと教育水準の低い者だと考えていたのかも知れない。
そう思うとなんだかモヤモヤした。

が、すぐに彼は私の檻の鍵をはずし、その上ほら、なんて手を差し出してくれた。
うなずいてその手を取った瞬間にまた小指が脳裏をひらめいて、その瞬間に怒りなどどこかへ行ってしまった。

「あんたが「」?」
「え、あ…そう、です」

名前を呼ばれてどきりとした。
自分の名前なんて識別記号でしかなかったのに、なにか恥ずかしい、私の心を疼かせる呪文のように感じられる。

「提督への贈り物だって?」

うなずく。
すると彼は、くいと首を傾げた。
そこで気がついたのだけれど、彼は長い髪を三つ編みにして後ろに束ねていた。
よくよく見れば、若いことには違いないがどことなく生きることに飽いたような老成さが伺えて、
私ほど幼くはないな、と思った。十代ではないかもしれない。

「アホ提督から下げ渡されたってことになるわけか…ぞっとしないけど…ま、いいや」
「……というと?」
「今日、あれ、もう昨日?俺が提督になったんだ」
「え」
「だから君は、俺のものだね」

生まれて初めて、しっかりと緊張というものを感じ取った。
ただでさえ乾く口の中がさらに水気をなくして、言葉すらうまく発せない。

彼が前を歩くのを、半歩遅れて追いかけて。
たどり着いたのは間違っても彼の個室ではないな、と感じるような殺風景な部屋だった。
壁が装飾もなく剥き出しで、家具と言うよりはまるで石を削りだして形にしました、というように壁にぴったりついたベッド。
……あ、それは戦艦だからか、と納得する。
揺れるたびに家具がひっくりかえっては困るだろう。

「さて」
「あ……!」

わきの下に何か入ってきた、と思ったら彼の腕で、そのまま私は持ち上げられた。
そして慌てる間もなくベッドに転がった。

始まるんだ、と意識して、身体も凍った。
汗がでないのは単純な水分不足だ。

「そ……の、え、えっと…!」

どうすればいいかわからない。
媚びるように腰を突き出せばいいのか、卑屈にうずくまればいいのか。
彼の身なりと表情からそれを伺うことは不可能で、私は手足だけをぱたぱた意味もなく振る。

「緊張してる?」

そんな私を見て、彼はけらけら笑った。
そして軽い調子でいつの間にか脱いだ紅いジャケットを放って、自分もベッドに乗り上げる。

「あ、あの、んあっ?!」

足首をつかまれて引きずられ、私は簡単にひっくり返った。
彼の手はすっと私のスカートの下に潜り込み、下着を着けていない…何度も幻覚の蛇に狙われた陰りに触れた。

「……あり?」

が、その手は私が声を上げるより早くさっと離れた。
その引き抜いた自分の指をしげしげ眺めて、彼は私に問う。

「なんか塗ってる?」

なんか、と濁してはいるが、彼はもう気付いているのだ。
指先から入り込もうとした毒に。
私は慌ててかぶりを振った。
外側から塗りたくったのではない。内側から溢れてくるのだ。

なんでか…なんでか、どうしてか。
私は自分の胸の奥から感情がどんどん沸き上がってきて、形を成す前に散っていくのに焦りを覚える。
それでも彼の手が私の首をきゅっと掴んだのと同時に声を発することはできた。

「て、提督さま…!」
「んー?」
「わ、私に、入れたら、死にます…!」

言葉が迷子になってしまった。
そんなの彼もわかっているだろう。
ある程度勘違いはしているかもしれないが、私の至る所に致死毒が仕込まれていることには気付いているだろう。

「どうして?」
「ぬ、塗ってるんじゃ、ない、んです」

そう言うと、きつくなるばかりだった首に食い込む爪がするりとゆるんだ。

同時にきょとんとした彼の顔を見て、なんとなく悟った。
ああ、そうか。

「わ、私、全身、ふつうの人とは違うんです」
「違うってどう?」

どう、と言われるとなんだか困ってしまう。うまく説明できない。

「えと…でも、私に突っ込んだら…死にます」

私はそのために作られたのだ。

「よくわかんないけど…どうして教えてくれるの?」

気まぐれか面白くなったのか、それともあるいは私に興味を持ってくれたのか。
へなりと倒れ込んだ私の身体に多い被さって、まるで寝物語でも聞かせるように耳に唇を寄せてくる。

「あ…い、あ……」
「お前はつまり暗殺の道具だろ」
「は……ん、んぅ…!」
「俺に教えちゃっていいの?殺さなくていいのかな」
「あ、うあ…だ、だって」

だって。
私は見た瞬間に、馬鹿げた錯覚を抱くほどにもう。

「す、好きになっちゃったんです、提督さまのこと…だ、だから、死んでほしくない……」

口にした瞬間、自分の顔にかあっと血液が集まってくるのがわかった。
好きになった。もう一目見た瞬間から。
優しさが言動が性格がなんてどうでもよくて、愚か極まりない感情だとわかるけれど。
彼に惚れてしまったのだ。

モジモジとうつむいた私の上で、提督さまはまたけらけらと軽く笑った。

「俺を殺せるって?」
「し…死にます、私と…セックス、したら」
「殺したことあるの?」
「ない、けど……」
「ふぅん」

それは、セックスしたことある?と聞かれているのと同じだった。
今まで未成熟だった、そして本来なら実ることなく死んでいくべきだったろう異性に対しての羞恥や恋情が後から後から溢れた。
触れられない心というもののくせに、私の胸の奥とお腹の下を疼かせて、きっと指でつつくことができれば恥ずかしい声が漏れてしまうに違いないというほどに膨れる。
溺れる。
誰かに恋するのは、触れられてもいないのにこんなに気持ちがいい。

「じゃあここから投げ捨てようかな」
「えっ?!」

そう言って、ほんのちらり。
彼が窓の方を見ただけなのに、私の心にはぽんと黒いインクが投げられた。
紙の繊維に染みていくように、どんどん大きくなる。

「い…やです」

そんなのいやだ。
だってせっかく会えたのに。
せっかくこんな心地のいい、とろけてしまいそうに震える感情を掴んだのに。

「じゃあ俺を殺す?」
「それもいやです……」
「わがまま言うなよ」
「だ、んっ…あ、あ、だ、め……!」

ふと私から身を離したと思うと、彼はくるんと頭を私の脚のほうへ向けた。
飛び上がろうとした私の上半身と頭は、がしっとその細い脚で押さえ込まれてしまった。

「さ、さわっちゃ、い、いや…ああ、う…!」

そんな呻きもむなしく私の片足をぐっと高く押し上げて、彼はスカートをめくって、肉そのものを剥き出しにしてしまう。

「は…や、すうって……する…」
「あはは、濡れてる」

冷たい空気と、近づいてきた彼の肌の温度がしっかりわかる。
ぴくぴくと、今までほんの少し自分の指で撫でるだけだった割れ目と粘膜が震えていた。
自分の下腹部からどんどん押し出されるような感覚は、そのまま毒の滴となってその表面を潤す。
…汗もかかないくらいのどが渇いていたのに。

「や、あっ?!あ、あッ、ああぁ?!」

疼く粘膜の一番上で存在を主張する肉芽が、根本から強く締め付けられた。
彼の歯に噛みつかれたのだと理解して、急速に私の身体は体温を上げた。

「あぎっ、い、あ、はくぅっ…かん、じゃ、だ、めぇ…!」
「…んー…」

こりっと一度歯をずらして、彼は頭を上げる。

「ピリピリするね」
「だからっ、本当に…!」
「うるさいな」
「あいっ?!」

ぴしゃん、と私の太股を平手で叩いて、提督さまは自分の下腹に手をやる。

「…あ、ああ…?!」

一拍子して、ずり下がったズボンから彼の…男の部分が露わになる。
何度も写真も絵も見てるのに。
実際に今、私の間近にあるものはそういう資料を超越して熱く、威圧感を持っている。

……蛇。
熱病に浮かされたときに私を絡め取る蛇の禍々しさそのものだった。

「あ、あッ?!」

また、びたん、と太股が叩かれた。

「ぼうっとしてる場合じゃないだろ」
「あ…え……あ」

そうだ。
私はこれを口に含んで、丁重に扱わなければならないのだ。

「で、でも」

口腔だって下の割れ目よりはましだが一緒だ。
こんな剥き出しの、肌と言うよりも粘膜を包んで…彼は無事でいられるのか。

「わ、私…あ、痛いっ、い、あ、いあああ?!」
「ちぎっちゃおうか」
「んやっ、あぎっ、ま、待って、し、します…!」

今度は爪だ。
私の変に充血したクリトリスを爪の先で摘んで、容赦なく力を籠められた。

「はぶっ……ん、ぶぅ……!」
「あっはは……ん…本当だ」
「う、ぶ…ぅ……?」

思わずかぶりつくように彼を咥えた瞬間に、私の口にはほんの少し汗の味と、はちきれそうな熱さが伝わった。
同時に彼の腰がぴくっ、ぴくっ、と、何度かひきつるように震える。

「先っぽがジンジンするよ…お前の涎、なんか入ってるね」
「んっ…ぐ、ん」

提督さまが自分の身体の下から逆さまに私の顔を見たので、肯定の意味を込めてうなずく。
それでも、彼は物怖じしなかった。

「早く。久しぶりなんだ」
「んぅ…?っぐ、ぐお、おぐぶ、う、ぶぅッ!」

いいんですか、という意味で逡巡した私をまるで叱るように、添えられた彼の手が私の口腔に肉茎を押し込んだ。

「おッぶ、うッく、はぶッ、ゥ、はぶ、んぐぶるっ……!」
「あり?もしかして匂う?」

「んぶっ、んんん……!」
「そうでもない?」
「んっ……!」
「そう?しばらく風呂入ってなくて」
「んぅ……ふ、ぶぷっ…んぐっ、う、ん…!」

…どうしてだろう。
あれだけ他人に無関心な生活を送ってきたのに、彼のその言葉は私に拒絶心を抱かせようと発したのだとわかった。

「んぢゅっ、ぢゅっ……ぐ、はぁ、い、いい匂いです……」

なんでそんな言葉が自分の口からこぼれたのかは分からない。
相手が私に対して嫌悪の顔や苦しみの涙を求めるなら、それに応じて打ちひしがれていればいいのに。
私は彼の鞭に応えることをせず、わざわざ熱い肉から口を離してまで媚びた。
それからまた叱られる前に唇でそれをはさんで、口の中からなんとか唾液をかき集めて絡め、私の舌の先に当たる先端をじゅるじゅる吸った。

「あはは。んー…」
「んぶっ…ひぐぉぉっ?!」

まるで私の動作を真似るように。
提督さまは私の陰部に唇を寄せ、クリトリスに吸いついた。
かり、と軽く根本に歯が立てられて、逃れようが無くなった肉の粒が容赦なく吸い上げられ、私は奉仕を忘れて腰を突き上げる。

「んごぼっ、お、おぶッ、うん…ふ、うぁぁっ…!」

くく、と鼻で笑われる。
快感が痛みに変わる直前で、ぷくぷくと膨れていくのがわかる肉芽に舌が絡む。

「あぶっ、んぶるぅッ、う、う゛ーーっ!!」

気持ちのいい暴力。
彼の舌が与える刺激は、そんな矛盾をはらんでいた。

「んぶぇっ、い、いやっ、やめて、やめてくださぁぁぁッッ?!」

なにか。
来てしまう、二度と忘れられない何かが私に襲いかかっていると理解して制止を求めた瞬間に、またがりっと歯を立てられた。

「あいぎッ、ぎ、あ、あ、あ゛あ゛あ゛ーーーっ!」

一瞬、自分は強すぎる感覚のあまりに失禁してしまったのだと思った。
けれど股間から小水は漏れておらず、それに安堵すると同時に腰から下の力が抜けていく。

「あ…う、あ、ああっ……」

「ありゃ、いっちゃったの」
「……は、うあ…」

あ、これが絶頂なのか。
そんな間抜けなことを考えて、ふぅ、とため息をついた瞬間に。

「あ、ぐぅあ?!」

「うっとりするのもいいけどさ。俺のも早く」
「あ…ご、ごめんなさい……」

もうそのときにはなぜか、私は自分の肉が毒と絡み合ったものであることも、
目の前の男が出会ってまだ数時間もしていない相手だということも忘れかけていた。

「俺を殺すんだろ」
「…あ、えあ……それ、は」

また鼻で笑われて、私はようやく自分と彼の立場を思い出す。

「早くしてよ。あんたがもう一回イク前に俺が出せなかったら、本当に窓から捨てるよ」
「っ…は、あ、はい、がんばります……!」

窓から捨てるよ、は、結構どうでもよかった。
ほんの数十分しか触れあっていないけれど、目の前の男がずいぶんと酷薄な精神の持ち主だとわかるのに。
きちんとつとめを果たせないと本当にポイ捨てされるとわかっているのに。

それよりも何よりも、顔の目の前ではちきれそうに疼く彼をどうにかしたくて、私は慌てた。

「んっ…ふ、う、れろっ、る…ん、るぅ…るろるろるろぉ……ッ!」
「……ん……」
「はぶッ、は、く、うぶゥッ、ん、んッ、んッ、ぢゅろッ、ぢゅばッ、ん、おぐっ……!」
「あっはは、頑張るね」
「んっ、ん…!う゛ぶるッ、ん、じゅるゥゥッ……!」

唇も、咥内もあたりがよくない。
唾液が足りなさすぎる。さっきから必死に溢れさせようとしているのに、私の身体は言うことを聞いてくれない。

「うっぐ、ん、ぐぅっ…!」

いくら懸命に涎をかき集めたって足りない。
私のからからの口腔は、ほんの少し粘つくだけで彼の肉茎とぺたぺたくっついてしまう。
……私のそんな稚拙さに苛立ちを覚えたのかは知らない。
ふと彼の腰が持ち上がって、肉茎を私の口からクイと引き抜く。

「習ってないの?」
「ち、ちがう…ご、ごめんなさい、水飲んでなくて、あの」
「あ、そっか。ずっと檻の中にいたんだっけ」

こくんこくんとうなずいて、今度は自分から引きはがされた肉茎に求めるように手を添えた。
まるでおもちゃを取り上げられた子供みたいだなぁ、なんて自分で思いながらも、どうしようも出来なくて歯がゆい。

「のど渇いた?」

一瞬迷ってから、うなずく。
すると提督さまは、身体を起こして私に向き直った。

「じゃあこれあげる」
「んあ…ッ?!」

こちらに向き直り、少し頭を起こした私の肩を踏む。
肉茎をグッと顔に押しつけられて…目が白黒した瞬間に。
ぴちゃッ、と、自分の鼻の下と唇に人肌よりも熱く湯よりはぬるい感触を感じて、同時にそれが水分だとも理解して、本能的に口を開いた。

「はぶっ…あ、んぐ……ん、ぶ、ん、んぶふ…ッ!」
「アッハハ飲んだ飲んだ、そんなにのど渇いてた?」
「んぶはッ、は、い…ぐっ、んぶ、んぶうぅっ……!」

言葉を発する暇なんてない。
ただ舌を出して顎を上げて、逃さないように、目の前の支配者から与えられた貴重な水分を喉に押し込んでいく。
…舌の上と、喉を通過するときに広がるえぐい味。
それさえも気にならないほど私は渇いていて、
同時にこの男に気に入られたいのだ、と愚かな自分を理解する。

「……ふぅ」
「はぶっ…ん、あ、は……あ、ご、ごちそうさまでした…ぁ」
「アハハいいよいいよ、無理しないでよ。あんまり笑わせないでよ」

そこで、はて、と首を傾げてしまった。

「なんで笑うんですか…?」

だってこれは慈悲だ。
多少の常識からの逸脱はあっても、これによって私は枯渇から解放され潤ったのだ。
それならば礼を言うのは当たり前だし、笑われるのはどうにも納得がいかない。

「……」
「ほ、本当にのど渇いてたし…そ、の、お優しいんですよね、提督さまは」
「あんまりわざとらしく媚びられるのも好きじゃないんだけどな」
「わ、わざとじゃなくて…あの、私、だから、あなたのこと、す、す、えと……す、好き……に…」

さっきは何気なく言えた一言が、今は恥ずかしさのあまりきちんと口に出来ない。
それも恥ずかしいのに、それを恥じる自分がさらに恥ずかしく、そしてそんな私を、笑顔をやめて一度射抜くように見た提督さまの視線がもっと恥ずかしくて。

「ふぅん…」

そう言って、彼は私の下肢に手をやる。

「捨てられるのは嫌で、突っ込むと俺が死んで、それで俺が好きって?」

…うなずく。
すると彼はひょいっとまた、最初のような体勢になる。
私の上に、さっきよりも随分隆起した彼の肉茎があって、彼は私の股間をのぞき込むようにして、指で割れ目を開く。

「はんっ…!」
「さっきよりもだいぶ膨れてる」
「はひッ?!あ、ああひ、あ、そ、こぉ…!」

また、クリトリスに触れられる。
その瞬間に、先ほど自分が味わった絶頂を脳裏がかすめてびくりとしてしまう。
それから、彼が一度射精する前に私がもう一度達してしまえば捨てる、と言い含められていたことを思い出して。

「はんっ……!」
「ん…」

今度は口の中に唾液が湧くのをきちんと実感してから、彼の熱に舌を押しつける。
濡れた舌先でレロレロと先端を包み、自分の唾液を塗りたくる。
そして口腔を滑りやすくなった肉茎を唇でしごくようにぬめらせ、がぽがぽと喉が鳴ってしまうくらい奥に咥え込む。

「はぶッ、うッん、はぶッ、う、ん、んぶっ、る、うン…!」
「……っ……」

彼の顔は体勢のせいで見えないのに、私は安堵する。
よかった、と。
舌でなぞる表面に浮き上がった血管は、舌を押し返してくるほどだ。
自分の唾液と彼の表面の汗、そのわずかな味だけでなく、唇を移動させて先端を吸えばさっき飲んだ小水とはまたちがう、えぐみのないしょっぱさが溢れた。

「はぷっ…ん、んッ、んむっ……ん、ふ…あ、あぶゥッ……!」
「あ…ハハ、出そ…一回目ね」
「んぶっ、ふ、ふぶッ?!ふ、ぐぉっ……?!」

口の中の熱がわずかに蠢いて、それに驚いた瞬間に、喉を何度も勢いが打つ。

「おぐッ、おごっ……お、か、はっ……!」

同時になぜか甘ったるいような、苦いような奇妙な味と青臭い匂いが鼻孔に抜けていく。

「はぐぶっ、んぶるるっ……!」

まるで敬虔な、すべてを教祖様の肉だと思って食す宗教の信者のように。
これは彼の一部だと思うと、一滴たりとも逃してはならない気がして、懸命に喉を鳴らす。

「はー…ふふ、一回だけでもだいぶ違うね」
「んっ…お、く、ぅ……っ、ぐっ…」
「全然抜いてないから下半身が重たくてさ」
「はかひっ…?」

ずるん、と提督さまが私の口から肉茎を抜き取る。

「一回出したらだいぶ頭もすっきりしたよ」
「は…あ、よかった……」

よかった、は、頭で考えて発したのではなかった。
心が私に言わせた。
今はもう彼の肉茎にしゃぶりつくだけのただの湿った穴でしかない口腔が役に立てて嬉しい。
それに、私が見る限りではちっとも。
彼はちっとも、あれだけ私の唾液を粘膜とむき出しの穴から受けても、堪えていない様子なのだ。

何度もやった。
実験で、ケージの中の実験動物に唾液を垂らして皮膚が溶けていく様子を何度だって見た。
膣の浅い入り口にスポイトを当てられて、そこから吸い出された粘液でその中の内臓さえも変質していく様子だって。

それなのに、一度精を吐き出してなお硬く隆起したままの彼の肉茎は爛れるどころか腫れることさえなく、最初に目にしたときと同じ肉と血管の色をしている。

「提督さまは…」
「んー、提督ってやめてよ。なんか今はまだ、面倒くさい顔を思い出すんだ」
「……ええと」

阿呆提督のことか。
その人の顔は見たことがないけれど。

「神威でいいよ」
「カムイ?」
「そ、俺の名前」
「……神威」

そっとつぶやくと、自分の声が頭の中にわんわん反響して。

「……っ、神威、は」

ああ。また。
ぴたん、ぴたんと。
自分の脳から、気持ちのいい物質が水滴のように垂れ流しになる。
名前を教えられて、呼んだだけなのに。

それだけなのにこんなに気持ちがよくて死にそうになる。

「神威は……毒、平気なんですか」
「んー、まあその辺の奴よりは丈夫かな」
「でも…あの、やっぱり」
「しつこいなぁ、お前は」
「は、あっ……?」

そう言って、神威が私の髪の毛をぐっと掴んだ。
そしてその瞬間、手のひら全体に走った刺激にピクン、と肩を揺らした。

「……お前も大概面白い身体だね」
「あ…ありがとうございます……」
「褒めてないよ」
「あ、ありがとうございま…あ、いっ!」
「褒めてないってば」

反射的に感謝を二回繰り返した私の髪をさらに強く握って、神威は私の頭をぐりぐり振る。
揺らぎすぎて目が回ってよろけた私にだめ押しするように、上半身を押された。
倒れ込んだ私の脚を引っ掴んで、そのままぐいっと広げる。
私は自分自身の脚に圧迫されて苦しい息を漏らす。
神威が私の、一度受けた刺激でだらしなく開く割れ目をまじまじ見つめている。

「あ……ぅ、あ」

それを意識するとどうにも恥ずかしくなって、思わず目を瞑った。

「んぁ…?!」
「で?ここに入れると死ぬって?」

目を瞑ったほんの一瞬に、ずぶりと。
神威の白い指が私のなかに入り込んできた。
そんなに深く入っていない。
けれど、スポイトよりも太いものを受け入れたのは初めてだ。
身体の外からの圧力と、内側を押し広げられる息苦しさに呼吸が落ち着かない。

「っし、死にます……!」
「殺したことないんだろ」
「だ、だってみんな死んだっ!」
「みんなって誰」
「ね、ネズミとか、ウサギとか…お、大きいのは、犬と…え、えっと、ああ、犬と鰐を混ぜた変なのも…」

合成獣とかいう、わざわざよそから取り寄せたもの。
とにかく体積が大きくて丈夫なのを作りたかったんだろうな。
土地そのものにも、自生する毒物に免疫を持った動物がそこそこいた。
それらを使った検査だってされたのだ。
抗体を持つ者にも多方面から効くように…なんて、言葉だけ取れば製薬会社の広告みたいな文句で。

それなのに。

「ふぅん。お前はそんなのと俺を一緒にしてるんだ」
「えっ、あ、ちがっ、あ、あっ?!やあぁっ?!」

ぐり、と、ほんの先だけだった指が突然根本まで乱暴にねじ込まれた。
圧迫感に息を詰まらせる私を追いつめるように、刺激に慣れない肉壁に爪が沈む。

「んぎっ、い、いあっ、あ、ああ、あぐッ…!」
「どうなの」
「あがっ、あ、だ、だって…そ、んな…」
「ほら」
「っん…!」

がりがり中を引っかいていた指が、勢いよく引き抜かれる。
その指を、神威は私の前に押しつけた。

「これ、どうにかなってる?」
「…な……って、ません」

一番密度の高く作られた場所に、何の守りもない肌を突き込んだのに。
眼前にかざされた手指は私の体液でぬるりと湿ってはいるが、白くなめらかな肌のままだ。

動物の眼が瞬く間に溶けて輪郭を失っていた様子が、ふと頭をよぎる。
あれには数秒もいらなかった。

「で、で…も」

それでも。

もしこの人が、私の中に入ってきて…それから間もなく、私の上で息絶えてしまったら。

「…………ぁ」

そんなことになったら私は。

もともと私は目当てを殺したら証拠を隠滅するために身投げしろと言われていたのだ。
そのまま塵になって消えろと。
それだって別に恐ろしくはなかった。そのために生まれてきたのだし。

でも違う。今は違う。ほんの数十分前に変わってしまった。
だって目の前には神威がいる。
こうして顔をちらりと見るだけで、名前を頭の中に浮かべるだけで胸が締め付けられてきゅうきゅう痛くなる人がすぐそばにいる。

それなのに、私はその人に貫かれることも出来ないし、
出来ないならば窓から捨てられて塵芥になるしかない。
どちらも嫌だ。
今は。今なら。

自分の膣に指を突き刺して泣き叫んだ、顔も覚えていないあの子の気持ちがわかる。

こんなに胸焦がれて、たまらなく震えて、
それなのに手にすることが出来ずに消えるしかない。
そのことの恐ろしさ。むなしさ。悲しさ。苦しさ。

「う……あ」

そうしたってどうにもならないとわかっているのに、じわっと涙が溢れた。
ぎりぎりで眼球の表面にとどまっているが、それでも私が口惜しさともどかしさに身を焼かれているのは彼に伝わったらしい。

「じゃあこんなのどう?」

そう言って、神威はまた私の陰部に指を添える。
びくっと身を固くした私ににこりと笑って、下から上へ指を移動させて。

「あ…え?」
「こっち」

どきりとした。
神威が指の先、つんとした爪でつついたのは、膣ではなく尿道だった。
…が、それにではない。
そのつついた指が、小指だったからだ。

やっぱり。
やっぱりあの小指はこの人のものだったのだ。

馬鹿馬鹿しいと自分でも笑える錯覚なのに、
奇妙な説得力を持って、その考えは私の意識をしっかりと保たせた。
自己憐憫に沈むことなく。
目の前の彼が提案することに不安と期待を抱き、ごくんと唾を飲み込む。

「な……ッ、つ、ぅぁあぁああっっ?!」
「ほら」
「あ、あ゛あ゛あ゛ッ、は、ぎゃあああぁぁっ?!」
「ぎゃあって。アハハ」
「い、あ゛、そ、そこ、ちが、います、入らない、は、はいら、ない……!」
「入らなくても入れるんだってば」
「む、むりでずッ、あ、あが、あ、あぎぁぁーーッ?!」

裂ける。いやもうたぶん裂けた。
その小指が強引に、米粒ほどもない私の小水の穴に入り込んできた。
つんっと、胸を通って首を抜け、頭に何度も突き刺さってくる痛み。
それに数歩遅れて股の間がヒリヒリと痛み出す。

「あがひ、あ、だめ、あ、あたし、た、たたた垂れ流しに、なっぢゃぁあぁあッ!!」
「なれよ」
「いっぎ、い、な、んで…っ、こ、んなぁ……!」
「だってお前、俺とやりたいだろ?」

びくっ、と。
一瞬、胸の疼きがすべての痛みに優った。

「あっはは、カッコつけたね。俺がやりたいんだけど」
「そっ、あ、わ、わたし……と……?!」
「そうだよ、

私の身体も心も、もう作られた次元を飛び越えておかしい。
なに泣いてるんだろう、叫んでるんだろう、バカじゃないの。
そんなふうに、自分で自分がおかしかった。

名前をささやかれた瞬間に、自分が求められていると解った瞬間に、なにもかも超越してしまった。

私はこの人のためならきっと、なんだってできるのだとわかった。

「ひ……ぎ、ぃ、ひひっ…!」
「ん?」
「ふ……ひ、ひぁ、はひ、ひぐっ……!」
「あれ、入るや」

すーっと、鼻で弱々しく息を吸って、そしてゆっくり口から吐いた。
そうすると痛みに引き攣りっぱなしだった下腹の力が、一気に抜けていく。

「…痛くないの?」
「い、いだい……いだいですっ…あぎっ……!」

そうしている間も、神威の指はどんどんめり込んでくる。
痛みは無視できるレベルではなく、作り笑顔だってする余裕はない。
それなのに、私の口元は幸せにゆるんでいるのがわかった。

「なんで笑うの?」
「ぎ、ぎもぢいいからですっ…きもちい、指、きもちい……っ!」
「……これでも?」
「あ゛ッッがあぁッ?!曲げ、あ、ぎゅ、ひッ、いッ、あ゛ーーッッ!」

小指が、ほんの少し。
ほんの少し、尿道の中でくにゃりと曲がる。
それだけで激痛が走り、私は下半身と上半身をそれぞれ違う方向に捩って悶える。

「うっぐ、あい、いたきもちい、です、あ、指、か、神威の指、あっ……が…!」

名前を呼ぶ。
神威の名前を。
そうすると頭の中に気持ちのいい靄がぽわりと拡がって、私の感覚をめちゃくちゃにしていく。

「気持ちいい?これが?」
「……っっ」

こくんこくん、と首を縦に振る。
神威がふと、私のなかで指を立ち往生させて動きを止めたので、一度大きな息を吐いた。

「か、神威、おねがいしますっ……」
「なに」
「なん、でもしますっ、そばに置いてっ!」
「…………」
「い、いれる、以外のことはなんでも、するから、お願い、お願いします、お願いお願いぃ…ッうぐぁぁあ?!」

ちゅぽちゅぽと。
まるで私のこの、ものを受け入れるために出来たのではない穴の細さを楽しむように。
あるいは遊んで壊してしまおうとしているように。
神威の可憐な小指が、前後に出し入れされる。

「ぎぃっ、ぎ、いあぁぁあぁああーーーっ!!」
「どうしよっかな〜、だってやれないんでしょ?」
「だ、あって、いや、あ、いや、いやあ、だめあああ、いだい、のに、きもぢよくなっちゃ、あ、くぽくぽやめてぇえぇっ!!」
「へー…これいいんだ」
「よくなっ、あ、い、いいけど、よくなっ……あ、んぁぁああ……!!」

どう考えても気持ちのいいわけなんてないのに。
…ないのに、勝手に口走っている。
これは気持ちのいい行為だと。
神威が、目の前の男が私に対してしてくれる行為に、つらいものなどあるわけないと。

「ははっ」
「ふっ…ぐ、ぅぅっ…!」

神威が眼を細めて笑って、抜けかけた指をまた深く突き入れる。

「よがらせるのが目的じゃないんだよ。早く漏らして」
「もらすって…お、おしっこ……?!」

さすがに小指の長さでは膀胱には届かないだろうが、まるで排尿を促すようにくいっ、くいっと。
指がカギ針みたいに曲がる。

「いやっ、は、恥ずかしいの、恥ずかしい恥ずかしい……ッ!」
「やる以外はなんでもするんじゃないの」
「はがっ、あ、だ、だって、あ、ああッ?!」

私の下肢がガクガク痙攣しだしたのを見て、神威が指を抜かないままに私の秘処に顔を近づける。

「や、め、だ…だめ、だめだめだめ、あ、あぐっ、あ、が、がまんできな……ッ、も、もれちゃうもれちゃうっ……!」
「…漏らせって言ってるの、聞こえない?」
「き、きこえてまひゅ、ふ、だけどだめ、あ、だ、神威顔、やめ、あ、も、もうだめ、ほんとっ、も、もうだめぇ、あ、あがっ、あぎ…く、う、ひぎぁぁッッ!!」

こぼれるとか漏れるとか。
そんな淑やかな表現はできない。
私は盛大にストッパーを失って、自分の腹部も…神威の指も顔もなにもかも。
びちゃびちゃに濡らすほどに小水を飛び散らせて弛緩した。

「あ゛っ…うぁ、あ゛……あッ?!や、やめてっ、神威だめぇえっ!!」
「ん…く、ん……」
「やっ、やだだめ飲まないでっ!そんなのやめて、やめてやめてお願いぃっ!」

私は一種の解放感で緩んだ身体をすぐに硬直させた。
神威が私の膀胱と尿道を通り、そもそも体内の毒物を大量に吸ってから垂れた水分を、まるで蜜でも舐めるようにぺろりと舌で掬っていく。

「し、死んじゃいます、死ぬ、やだ、や……あ」

液体として摂取すれば、毒液を直接飲んだのと一緒だ。
すぐにでも私に被さった身体は力を失って、泡を吹いて倒れ込む。

……はずなのに。

「……で?俺はいつ死ぬんだろう?」

けらけらと、また軽く笑う。
そしてペロッと、舌を出して自分の唇を舐めて見せた。

「……効かないの……?!」
「いや、効いてるよ。喉も胃もひりひりする」
「や、だ、じゃあ…!」
「んー、でも」

私の瞳が。
好意と歓喜と情欲に揺れたのを、見逃す彼ではない。
すぐに膝を立てて私の脚の間に割り入れ、口で舐め回したときよりもずっと反り返っているように見える肉茎を膣口にぐりぐり押し当てた。

「このくらいだったら、三日三晩ずっと大量に飲まない限り平気じゃないかなぁ」
「……ほんと……に?」
「嘘言ってどうするの」
「わ、私…神威と、できる……?」

ごくん、と…唾液より濃い。
いや、唾液には変わりないのに、もっと違うものを含んで口の中で煮える唾を、ゆっくり飲み込んだ。

「……ください」
「…はは」
「お願い、くださいっ……!」

腰を浮かせて、ぐいと突き出す。

「ください神威、わ、私っ、私、わ……あ、あっ…ぐ、あ、あはぁあ゛ーーーッッ!!」

私のもう、崖っぷちですがりつくような懇願に…神威は行為で応えてくれた。

「はいっ、た、あ…あ、ああ、く、あぁ、う…!」
「アハハ…ホントに処女だ」
「っし、しょ、じょ、ですっ…や、破られたぁ、私、か、神威に破られたぁ……!」

じくじくと熱を持って、貫き通された穴が疼く。
けれどそれは痛みではなかった。
私の身体はそれ以上に、目の前の男を受け入れられたことに歓喜してうち震えている。
心も。
胸の中が果実の匂いとトロつきを持った酸素でいっぱいになって苦しい。
吐き出さなくちゃいけないのに、その幸福を吐き出すのがもったいない。
そんな気持ちでぎりぎり歯を食いしばった私の額に、神威の髪が垂れた。

「…は……すごいな……」
「は、あんッ……?!」
「凄いよ、のココ」
「あ、ああ、それ、はっ…ほ、ほめて、くれてるんですか……っ?!」
「…っ…そうだね……褒めてる」
「あああやだ、嬉しい、嬉しいです、嬉しい嬉しい、あう、ああ、な、なんで…ああ……!!」

幸せを固めた酸素が頭にまでぐるんっと昇ってきて、私の涙腺を圧迫した。
ぼろぼろぼろぼろ、私の両目から涙が溢れて止まらなくなる。

「……は、あ…」
「あっ?!い、いや、いやいや抜かないでっ、抜かないでぇぇっ!いや、あ、でてっちゃや、いやです抜かないでぇっ!」
「抜かないって……よっと…!」
「んぐぁッ、あ、かっ…は、ああぁああっ!」

ずるん、と、蛇が身を滑らせる動きで私から抜けそうになった神威が、鋭さを持ってまた奥まで入り込んでくる。

「はひっ、あ、かんじ、る、なかっ…感じるぅ……!」

どうして。
どうして彼のこの肉茎には、蛇のように鱗がついていてくれないのだろう。
ささくれ立った痛い痛い鱗が。
一度入ったら絶対に抜けない返し針のように、私の中に引っかかってはくれないだろうか。
彼が動くたびに、私の肉穴に深い傷を負わせてはくれないだろうか。

あるいは…さっきとは真逆の願い。
私の膣内の毒が彼をどろどろにとろかして、私の中でひとつになってくれないだろうか。

バカみたいなことを、一瞬のうちにたくさん考えた。

それも、神威がまた私のなかを引っかけばかき消える。

「はッ、あッ、あ、あ、ああ、あっ、あ……!」
「はは…震えてる、ん……少しずつイッてる?」
「わ、わかっ、わかんないッ!い、あ、いっぱ、あ、お、押し寄せてきて、も、もうわかんないっ……!」
「……、お前才能あるよ」
「あ゛ッひッ?!さいのう…?!」

彼が私をどう賛美してくれているというのか。
それがもう、今の自分の脳では考えられない。
必死で思考を巡らせようとするのが顔に出ていたらしい。

「難しく考えなくていいよ……は、ん……きっついな…」
「いあっ、あ、か、かんがえら、れませっ……あ゛ーーッ!」
「もうバカになっちゃえ」
「なッあ、あ゛あ゛あ゛ッッ!!な、なるぅぅっ!ば、バカんなるっ、なります、な、りますぅうぅっ!!」

おなかの上あたりを、ずるずると擦られるのがたまらなく気持ちいい。
腰から下が浮くような心地よさと、胸にずんとのしかかる重たさが同棲している。

「なれる?」
「んぁっ?」
「俺の言うことには、バカになって全部従える?」

なにを当たり前のことを言うんだろう、この人は。
そんな考えさえ抱いてしまった。
私をこんなにしっちゃかめっちゃかに。
グチャムチャに乱して踏みにじって、それでいて激しい恋情と欲望漬けにしたくせに。

「なれますッ、従え、ますッ、お、おおおお願い、だから、側に、置いてっ、私、私ぃぃっ…!」

わたし。

「か、神威に支配されたい、神威のものになりたい……っ!」

「……いい子だね」

そう言って、私の額と前髪をするんと撫でられた。
その瞬間に、背筋を電流のようなものが幾重にもなって抜けていく。

「はひッ、ひ、あ、わ…たしっ、神威、私、怖い、怖いです、助けて、きちゃ、い、ます、変なの…あたま、おかしくなるのが、く、るぅぅっ…!」
「いいよ。いくらおかしくなっても使ってあげるよ」
「はゥッ…う、あ、うれしっ…あ、あがはっ、い、いぐ、う、ううぅぅううぅっっ………!!」


冗談でも言葉のあやでもなく、私は恐怖に包まれた。
身体がバラバラに砕けて、考えるべきことも四散する。
真っ白な闇、なんてものに包まれて、私は一度もう、完全に壊された。
神威によって。
完全に叩き壊されて……それでまた、彼が私を強く抱き締めて身体を震わせた衝撃で、神威のいる現実に引き戻された。


破滅的で運命的で。
私がこの人と出会えたのは、きっととんでもない幸福だ……。





「…ふふっ」

噛んでいた小指を解放して、ついつい微笑む。
トコトコと歩いて行った先に、神威の姿が見えたからだ。

「買ってきました!」

どうしようもなくとろけて、笑んでしまう私を。
神威は完全な支配者の、私の飼い主としての笑顔で迎えてくれる。