「…つッ!」
しばしぼうっと、自分の腕に出来た傷とそこから垂れた血を見つめてしまった。
「…………」
今しがた自分の腕に噛みついてきた少女は、思わず大きく肩を振り払った衝撃で弾き飛ばした瞬間にもう、こちらへの興味を喪失したらしい。
さっきと同じように、緊急治療室のドアの前の床にペタンと座り込むと、無言で自分の股間をまさぐり出す。
「……ハァ……」
その目は虚ろで、目の前の床を見るでもなく見ている。
粘膜を擦り立てる手だけ奇妙に神経質な動きで、掻き出された粘液はぴちゃぴちゃと床に溜まって、やがては蒸発してほんのわずかな汚れになる。
……人って奴はたかが二日でここまで萎れちまうもんなのか。
いつでもツヤツヤと輝いていた少女の肌なのに、今では眉間に縮緬皺すら見える。
「……う」
少女になにか言おうとして…その病的な牙が自分に付けた痕がジクリと痛んだので、また傷に視線を戻す。
「ありゃ…なんだこりゃ」
高々子供に噛まれたくらいの傷、ほんの数分で治る。
今しがたの傷だってそうで、もう血も止まって跡形も見られない…のに、皮膚の上からでもわかるほどに、内側がどす黒くなっている。
「ハハ…さっすが毒娘さんってトコか」
ここで自分まで倒れたら元も子もない。
少女を置き去りにするのは気が引けたが、引っ張っていく訳にもいかない…というか、引っ張っても決してついてこないであろうし、
また噛まれでもしたら厄介だ。
治療室に背を向けて、一般医務室に向かった。
ことは一昨日。ほんの二日前にさかのぼる。
第七師団に命じられたのは、いくばか離れた宇宙の強力な武装組織を牛耳る、騎士国家と名乗る小惑星の占拠だ。
握って傀儡にしてしまおうという手筈で、幹部を残したのち皆殺し。
実にサックリストレートなプランだった。
が…そこでまた神威団長の悪い癖が出た。
騎士王と是非とも拳を交えたいという欲求を隠しもせず口にし、実際に王宮に突っ込んでいった。
それはまあ、ある意味想定していたことだ。
信じられなかったのは城の塔高く、窓から。
腹部をざっくり穿たれて呼吸すら整わない団長が放り出されて、自分の前に崩れ落ちてきたことだ。
それを抱えて撤退するのはさして難しいことでなかったが、問題はその後の団長の容態にあった。
そもそもなぜ団長ほどのやり手が手も足も出せずに…という理由がそれだ。
王が待ちかまえていた塔の中は毒ガスが充満していた。
それも、この我々の組織ののデータベースを持ってしても該当例がないほど強力なウイルスをはらんだものを。
単に神経を麻痺させるだけの毒物ではない。
ウイルスは今も団長の体を蝕んで、夜兎の回復力に拮抗する繁殖力で生を食い散らかしている。
医療班はワクチン急造に駆り出され、団長はあの奥の暗い部屋で一人寝たきりだ。
基本的に人員なんて掃いて捨てるほどいる。
三下なら負傷したとあれば使い捨てだ。
しかし団長ほどにもなるとそうもいかず…しかし自分の利益しか考えない組織内部の反乱分子も存在し、第七師団は現在あちこちに散って組織にプレッシャーをかけている。
「そんでもってあの嬢ちゃんなぁ…あつつ」
団長が負傷して帰ってきたと知り、対面も叶わず集中治療室に入ってから、
電池が切れた機械ペットみたいに、ガクガクとぎこちない動きしか出来なくなった毒娘は、
「まぁ団長のこった、死ぬこたあるめえ」
慰めのつもりでそう口にした自分の腕に、反応速度を上回る早さで襲いかかってきた。
理性を失った動物のようにがりがりと腕に歯を立て、振りほどくまで唸っていた。
「団長が死ぬ」という言葉が、何かを超越した恐怖を彼女に与えているらしい。
治療を受けた傷がそろそろ閉じきる頃だと思って包帯を剥がしたら、まだ生乾きだった。
これでは糸も解けそうにない。ため息をつくよりない。
異物を取り除く切開をしたためにこんなに治りが遅い。
今、衛生班医務班は尋常ではない忙しさの中にいる。
めんどくせえ傷作りやがってと憎しみを隠しもしない医師に手術された。
夜兎の手術は手間がかかる。治りが早いのが仇となり、切開となると勝手にくっつこうとする皮膚を押さえておく必要がある。
「おい嬢ちゃん、ちったあ落ち着い……あぁん?!」
……やりやがった。
絶対に入らない、ということを条件に…まああの小娘の力では乱入は不可能だと甘く見ていたのだが…この緊急スペースでの待機を許されていたのに。
二重扉の一つ目が叩き壊されていた。
慌てて覗き込めば二つ目もこじ開けられていて、薄暗い部屋の団長のベッドを取り囲む点滴棒と計測機の山が、ガラクタの山と呼んで差し支えない物に変化していた。
「てっめおい嬢ちゃんんんん!死なす気かァ!」
無人の治療室をそんな荒涼たる景色に変えた張本人は、ベッドの上でぜいぜい言っている団長の横に寝そべって泣いていた。
「神威…苦しい?」
「苦しい?じゃねえぇぇ!明らかにあんたのせいで苦しんでんだろうが!」
「静かにしてくださいっ!」
「ぐっ…て、アンタが言うなよ……」
圧力をかけながら注入する栄養剤と精製水が、足下に破けて水溜まりを作っていた。
それを踏みつけながら二人に近づくと、団長が本当に薄く瞳を開けた。
「ああ……責めないでやって」
ははっ、と咳混じりに笑って、団長は傍らの娘の頬を撫でる。
「俺が呼んだんだ。入っておいでって」
「……」
その手が力なく落ちて、団長がふぅふぅ言いながら苦しげに横を向くと、娘はぶるんっと一度かぶりを振った。
「…乗って。苦しいから出させてよ」
「うん……」
靴をぽいと脱ぎ捨て、ベッドシーツを取っ払って、娘は死にかけの団長にまたがって…って。おい。
「おいおいなに考えてんの?ちょ、死んじゃうって、ダメだって」
「は、離してっ…神威、ほんとに苦しそう……!」
慌てて娘を後ろから羽交い締めにしたが、自分の腕などものともせずに娘は団長の裸身をまさぐり、不釣り合いに張りつめた熱の上に乗り上げようとする。
「ん…は、あ……ああ、く…ん……!」
あんぐり口を開けるなんていうマンガみたいなことをやっているうちに、結局娘はそれを飲み込んで、団長とぴったり、番いのように繋がってしまった。
「は…ああ、アハハ…落ち着く……」
「ん…よかったぁ…お、おちつく……?これいい?動いていい…?」
「頼むよ」
「ん…ぐ、ふっ…く、ぅん……!」
器用に、団長の身体に乗らないように足に力をこめて。
娘はがくがく震え、犬みたいに舌を突き出しながら、主人の象徴を味わう。
……呆気にとられていた自分を制し、また娘の身体を強くひっ掴んで取り押さえる。
「ダメだっつうの…!今、ちょ、暴れんなって…団長、あんた死ぬ気かっつうの、免疫弱ってんのにンなこと……!」
「死なないっ!」
吠えるように、娘が自分に怒鳴る。
「神威は死なないですっ!私より先にくたばったりしないのっ、でたらめ言わないで!」
「デタラメ…ちょ、嬢ちゃん……!」
「邪魔するなよ阿伏兎……は」
団長がふと、むくりと身を起こした。
おいおい、と思うより早くベッドの枕元の心電図計が自分に投げられた。
ひょいと避けるとそれは壁にぶつかって壊れ、いろいろなものを巻き込んでまた部屋を散らかす。
「ほら、来なよ、二日分絞ってもらわないと」
「ん、んっ、うんっ、うん……!」
笑えばいいのか。
泣きながら、それでも歓喜を隠さず、娘は団長に跨る。
そして苦しい吐息が漏れる口元に吸いついて、二人でこってりと舌を絡めあう。
「あええっ…あ、あぶぅ…はぶ、んっ…ぶゥ……ぢゅっ、ぢゅろぉっ…はぁ、神威…ん、神威、神威、神威っ…」
「は…ふ、く…寂しかった?は、ん……」
「寂しかったぁ、寂しくて死ぬかと思った、神威にオマンコされながら死ぬのが夢なのにっ」
「はは……はぁ、あ…ほら、もっとベロ出して」
「はん、はぇ、は、あ、あえぇ……れろぉ」
「だよね…お前は俺に突かれるくらいしかすることないしね」
言われて、少女の身体が打ち震える。
途端に艶めきを取り戻した肌がぷるりと揺れ、愛しいものをくわえ込んだ膣が蠢く。
「ふ……は、あ、……出る…いく……っ」
「んひっ、き、きてえっ、あ、あいっ、あ、あ……あ、ッッぐ、うぐあがぁあぁあいぎっ、い、いだぁ、いだぁあぁああッッ!!」
ぐぎりと、骨の軋む音が自分にまで聞こえた。
「お、おい、ちょ」
「あっが、あ、ぎ…い、いっ……!」
ぎりぎりと、歯を食いしばった団長の腕が、抱きしめた娘の背骨を折る勢いで締め付けている。
「あごぉぇええっ!!」
娘の首がカクッと天を仰ぎ、口元から泡立った唾液を吹きこぼす。
「団長やめろって、今度は嬢ちゃん死ぬって!」
慌てて割り込んで、自分は一体なにをしているのだと褪めた思考に邪魔されつつも、今度は後ろに回って団長を押さえ込む。
「えほっ…お、おえぇえ……あ、あぐっ…あ、あ、で、出たぁ…神威、の、ふつかぶん……はぁ……」
拘束が解かれるなり、頭のおかしい娘はぽわりとつぶやく。
それを聞いて、自分に押さえられていた団長が腕をはねのけ、娘に飛びついて上に乗る。
「んはっ、あ、だめぇ……う、うごかないでぇえっ!中で、中で泡立っちゃう……!」
「……の、……に」
獰猛に、本当に獣を思わせる息の荒さと動きでのし掛かって。
「あっひ、ひあっ、神威、いい、いいようっ、すっごく熱い、熱いっ…溶けちゃいそーですぅぅっ……!」
「……っの、せに……!」
「はぐぅ……っ!」
ぎゅう、と。
団長の両手が、娘の首に食い込む。
「あがっ…か、は、はがっ……!」
「団長やめろって!どーしたいんだってあんたらは!」
すぐに娘の顔はチアノーゼを起こして真っ赤になった。
また団長を慌てて羽交い締めにするが、その身体は死にかけていたと思えないほどに力強い。
「奴隷のくせに…」
「はっ、が……?!」
その言葉だけ、やたら響いた気がした。
「奴隷のくせに、どうして俺から……っあ」
「んひいぃッ…あ、出たぁ…あ、あ゛ッ、じ、じまるぅうぅっ…くび、しめられると、お、オマンコぎゅーってなるぅう……!!」
「は……あ、ああ………」
瞳をきつく瞑って、自分の唇を噛みちぎりそうなくらいに噛み。
その上で背筋をブルリと震わせた団長は、達してなお娘の首から手を離さない。
「の仕事、って、なに」
「あ゛っはあ゛……わ、わらひのしごど…」
「そう…お前の役目って……なに」
「そ、れは、ああ、あぁ、あぐぁぁがぁああぁッ!」
まるで、腰で腰を押しつぶそうとしているような乱暴な動きで、娘の膣は蹂躙される。
それでも文句一つ、悲鳴一つあげず、ただ歓喜の涙と愛液を垂らして。
「わ、わたしのしごとっ、神威のオマンコですぅうっ…神威の、神威に、オマンコされるしか、やることもできることもないです、うぅっ……!」
「……それなのに、なんで……は、あ゛…!」
「あっが……ああ?!」
娘の頭を押さえ込んでベッドに押しつけ、そのままペチャンとトマトみたいに潰しそうな勢いで団長が詰め寄る。
「だーめだって、団長……!」
「黙ってろ阿伏兎」
「んはぁ、そ、そう、じゃましないでください阿伏兎さんっ…わ、私……う、ういいいっ……!」
(なんなんだっつうのこいつら?!)
「は…なんで俺から離れたの?……なんで何回も呼んでるのに来なかった……?」
そんなん無理に決まってるだろ。
ワガママとも、言いがかりとも違う。
自分の言っていることの正当さもおかしさも理解していない様子の団長を改めて見れば、瞳は混濁としている。
理性が働いていないとか。いわゆる疲れまら状態とか。んなアホな。
「なんで来なかったの」
「ご、ごめんなさぁ……!」
「言い訳しろよ」
「あ、が、あたま、つぶれる……!」
「俺の納得がいく言い訳してよ」
パンッと、汗ばんだ手が汗ばんだ頬を叩く。
「あひっ…あ、ご、ごめんなさぁい、神威が一人で苦しんでたのにっ、私、わたしぃ……!」
「そうだよ。どれだけ苦しかったと思ってるんだ」
「んぐぅぁ、あ、神威いいぃっ、ごめんっごめんね、オマンコの分際で離れてごめんなざいっ、ほんとはすぐに会いたかったの、神威と一緒にいたかったのぉっ!」
なんだか。
「だから…言い訳しろって…はぁ、ああ……なんかもう出っぱなし…謝るんじゃなくて、言い訳してよ」
「あっう、だってみんなが今神威と私が、あ、一緒にいたら死ぬって、死ぬって脅すからぁ!怖かったの、みんなが死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって言うのっ!」
いやいやをするように頭を振って、娘は腰をガクッと持ち上げた。
「あがっ…ああ、中、どんどん入ってくるぅ…!ずーっと、ずぅっと出てるっ、神威のあったかいの……!」
「満足してんなよ」
「はぎっ…あ、ご、ごめっ……!」
なんか、なんだか。
自分が知る限り一度も聞いたことのない、まるで親に反抗する子供のような声色で、団長は娘をなじる。
そして同時に、浮き上がった腰を押さえて、そのふくふくした腹をグッと拳骨で押した。
「だっだ、だめ神威、ぎゃ、逆流しちゃう、精液出てっちゃうぅっ!いやいやっ、垂れちゃいやぁっ!」
「…そんなの信じたの?俺が死ぬからって、俺以外の奴に言われたこと信じて言いなりになってたのかよ」
「あっ…ああああ、ご、ごめんなさいっっ、死なないよね、神威、こんなことじゃ死なないよねっ……!」
「わかってるのになんで」
なんていうか。
「は、んはぁあぁっ…神威、またしてぇ、また「ずんっ」てしてぇ…!」
「……反省してないね」
「し、してるっ、してるから、してるから今はぁ、今はたくさんしてぇ……」
団長が娘の髪の毛をグイッと引っ張って、ぐにゃぐにゃに弛緩した身体を立たせる。
衝撃で、びちゃっ、なんていう不釣り合いな音を立てて、娘の股の間から大量に白濁がこぼれて、同時に何とも言い難い匂いが鼻をつく。
すべてがもうもどかしいと言いたげな、動作一つ一つに熱病をはらむ手がそれをたっぷり掬い取り、そして娘の顔に塗り付ける。
べたん、と、眼孔も鼻の穴も区別しない手つきで、べちゃべちゃ押しつける。
「んっく、ふ…は、んむ、んれぇ、れろ…ッは、あ、や、やっぱり濃い……」
口許に垂れ下がった残滓を、舌を出してべろべろ舐める娘のいじらしさも気に食わないのか。
「んっが、がっ…あ、や、やん……んは、はあッ……!」
笑えばいいんだな、と、そこでようやく理解する。
団長の、爪も伸びっぱなしの指が娘の顔面を探り、そして指先に触れた鼻孔に、ためらいもなく指を突っ込んだ。
その指を、グイッと鉤のようにつり上げる。
「んがっ、あ、あがっ、わ、私これっ、鼻の穴、ひ、ひろがっちゃ、う……!」
「はは…似合う、似合うよ。予想よりずっと可愛いよ」
「か、かわいい…?!ほ、ほんとっ?!ふっぐ、おごっ…これ、わたし、か、可愛いですか…?!」
「うん…気に入ったよ。こんな不細工な顔が似合うなんてお前くらいだ」
「あっ…あ、ああ、ああ……!」
言葉で容赦なく、誉めては突き落としていたぶる。
「わ、わたし…ああ、これ、いい…んずっ…神威の、ゆびの匂いするぅ…はぁ、汗いっぱいかいたねっ、は、はぁ、早く洗ってあげたいのぉ……!」
「そうだよ。気持ち悪いのに拭きにも来ないし」
「ああ…!」
醜く顔をつり上げられたまま、少女は歓喜に浸る。
団長はそこで……へへ、と笑った。
動作で掻いた汗が体中の働きを促すのか、表情はだいぶ涼しげだった。
「神威…わ、わたしっ…ん、んはぁーーーっっ!!」
崩れ落ちそうなぬかるみを突き上げるように、灼けた杭が刺さる。
「神威ごめんなさいっ…あ、ああ、わ、私、今、すっごく幸せ、なのぉ……!」
「ひどい女だなぁ。主人がこんなに苦しんでるのに」
「ひ、ひどい女ですっ…ひどくて淫乱でどーしようもないんですっ、か、神威、神威がいないとダメ、な、あ、あぁああッ!」
「っはは…気合い入ってるなぁ…わかるよ、お前の奥、いつもより柔らかくなってる」
「っう、うん、うんっ、子宮がね、神威の、喜んでるっ…おしおきなかだし待ってるぅぅっ…!」
「どうかなぁ。俺が寝てる間に誰かに散々ほぐしてもらってたんじゃないの」
「違うっ、してないっ、そんなのしないっ!神威のしかハメませんっ…その他大勢モブみたいな人のヌルイお仕置きなんて望んでませんっ…!」
「だったらなんで…ほら、ほら」
パァン、と、汗ばむ肌を汗ばむ手のひらが叩く。
汗が吹き飛ぶのが見えるほど、ねばっこい汗に二人ともまみれている。
「我慢なんかするなよ」
「はうっ…あ、ああぁ……」
「は自分に正直でいればいいんだよ。それしかないんだから」
「は、あ、神威っ……」
ぱくぱくと、動作は死にかけの魚じみているのに、熱く濡れた唇が。
「は…ベロセックス…舌でもセックスしたいのっ、神威…!」
「あっはは……は…はぁ、こーいうの?」
娘の顔を、ぐいっと掴んで。
その口を視線だけで開かせて、舌までだらしなく突き出させる。
「はぁ、へ、ひふぅ、ほーれふ、ひふ、ひふひぇ、かむひ、きひゅ、ひひぇぇ……!」
棒立ちの自分の口からくく、と笑いが漏れた。
団長に舌を吸われて、目玉が裏返るほどの官能に満たされる奴隷娘と……それをもう、当然のものとして離したりしない団長と。
それを見ていると、死ぬだの生きるだの、自分たちが普段掲げているものさえバカバカしく思えてくることしきり。
ここで死んでも、二人とも幸せに違いない。
いや、案外死んだことにも気付かずに亡骸になってもなお交わり続けるのかもしれない。
それでも生きている……というか、
娘にとっても団長にとっても。
きっとお互い隔離されていた状態が死そのものだったのかもしれない。
「……死ぬまでやってな……はは、お幸せに」
団長の死も組織もなんでも。
もうその瞬間はどうでもよくなって、薄暗い部屋を後にした。
「……信じられない。一つ残らず死滅しています…あれだけ抗体を持っていたのに…どうして……」
顕微鏡をのぞき込む医師は、目の前で起こった奇跡の回復にばちばち瞬きするばかりだ。
「……へェ」
「ぜひともその娘の細胞を取って来てください!はいこれ!」
と、密封された綿棒を渡されて部屋を追い出されると、廊下の長椅子に横たわる…すっかり治りきった団長がこちらを向いた。
…椅子の上で正座して、その頭を愛しげに撫でる娘は、その体勢でダラダラ唾液を垂らしながら寝ていた。
「んー、ミラクル?」
「ミラクルなのはあんたらの脳味噌だ」
「ん…なにそれ」
「いや、そこな救世主サンの細胞サンプルが欲しいんだと」
容器に入った綿棒をぽいと渡すと、団長はそれをしげしげ眺めた。
「細胞ってどこの」
「…お前さんがいつも使ってる穴だよ」
「へえ…これ突っ込んで、ゴシゴシ擦ればいいの?」
「そいで医務室に渡してくれとよ」
「なーんか阿伏兎、最近動じないなぁ」
驚くだけ損だ。
こいつらにとっちゃ、全てが生きることと密接した常識行為なんだから。
うらやましーねえ、なんて、また笑いが漏れた。