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神威の部屋の、ベッドのサイドボードのすぐそばにあるスイッチを押すと、船外のすぐ近くの音が拾える。
手回しは徹底されているらしく、船員がターミナルに出る足音と同時に、ようこそいらしてくださいましたぁ、という女性の声が、たくさん聞こえた。
「……ふう…」
その声を聞いてからまたスイッチを押すと、部屋が静寂を取り戻す。
私は自分の一張羅のスカート…の前に、ついこの間買ってもらった下着をベッドの下から引っ張りだして、ぐっと身につける。
……買ってくれたのはもちろん神威なのだけれど、なんだか落ち着かない。
私はただでさえ神威にいろいろなものを還元できているかたまに不安になるのに、些細なものまで買ってもらうと申し訳なくなる。
だからリネン室からこっそり持ってきたベッドの敷きパッドに重ねるための白いシーツを裂いて、下着として身につけていたのに。
それは知られるなり、神威に怒られてしまった。
……あのときは裂いたシーツで縛られて、足をほとんど水平に開かされてしまったんだった。
「…………は、ぁ」
そのときの、羞恥の中から生まれる快楽と、快楽の中からせり出てくる羞恥の螺旋を思い出すと、自然と頭の中が気持ちよくなる。
つけたばかりの下着を汚しそうになっている自分に気がついてはっとしたと同時に。
かつっ、と足音が聞こえて、びくっとした。
神威のものじゃない。
今、この部屋の前の廊下を歩いているのは、あの革靴でも、カンフル靴でもない。
愛しい人の足音ではない。
かつんかつんと、一定のリズムで床を叩くような音は、女物のヒール靴を思わせた。
「…誰?」
ぼそっと、扉に向けてつぶやいただけだったのに。
次の瞬間、ドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。
「中に誰かいんだろ、開けろや」
「っ……だ、誰……?!」
「やっぱりいた。誰でもいーじゃん。見張りに捕まるから開けてくんない」
「……い、嫌」
「あ?」
「…あなた……なに?」
たぶん私とそう変わらない年齢の、ずいぶん乱暴な女性の声。
神威との約束と、そもそもこの船にそぐわぬ人間が乗ってきているという事実に狼狽しながら、私は少し扉に近づく。
そしてこっそりと横のレバーを引けば、扉の向こうの顔が可視状態になった。文明の利器万歳。
覗いた顔は、やっぱり私と同い年くらい。
真っ赤な布地に金の刺繍がされた衣装に、薄いピンクのベールをまとっている。
足下は感じたとおり、高いヒールのつるつるした光沢の靴。
「開けたら話してやるよ。いーから開けろってまじ、あたし見張りの怪物に捕まっちゃうじゃん」
「…………」
言いつけを、破るとわかっていたけれど。
……何年ぶりかの同年代の女の子に、興味を惹かれてしまったのだ。
扉を開けた私は、彼女を部屋に入れることはせず…嫌だった、私以外の女があの部屋に入るのは…その手をすぐさまひっつかんで、何度か忍び込んだリネン室に滑り込んだ。
そこでふぅと息を整えて、改めて少女の顔を見れば、
衣装だけでなく肌もしっかりめかしこんでいて、彼女が阿伏兎さんの話していた「ハレム」の娼婦…宮女なのだとすぐに知れた。
「……どうしてこの船に?」
「ああ、逃げてきたの。ダルいから。取り締まりのクズにさぁ、今来てる天人はかなり夜が「強い」から気合い入れろとか言われて。もうめんどくて」
「…見張りがいたでしょう」
「ああ、一発一発。すり抜けるくらいなら楽ちん」
…この娘は、地球からの植民だろう。
天人、と口にしたときのいまいち変にゆがむ顔は、親の代から植え付けられた、不当な侵略者への嫌悪感を思わせた。
「お仕事しなくていいの」
「したくねえつの」
「…………」
吐き捨てるように言って壁づたいにずるずると体をへたりこませて、少女はこちらをにらむ。
赤く縁取られたぱっちり開いた瞼は、美しいのに陰鬱だ。
「あんたさあ、わかってないっしょ。ベリーダンスだか知らんけどさ、へーいはーいってアホみたいな声上げながら踊って、バカみたいに股開いたりケツ振ったりして、好きでもねえ男の気ぃ惹いてさ、その後部屋でアゴはずれるまで尺八させられるんだけど」
「うん」
「うんじゃねーよ。ナメてんのか。バカにしてんのかよ」
「してないです」
「……ああ。やってらんね。親がさー借金したの、んでここに来れば前借りですげー借りられるつうんで、あたしずっとタダ働きしてんの。死ぬほど頑張って自由にできる金も時間もねーの、出るもんつったら飲める水と米だけ」
「はあ、大変ですね」
なぜかふと誇らしげにも聞こえる口調で自分の不幸を語る少女に対して、私は深い言葉を持たないでいる。
そんな私の様子に感情をムラムラと煽られたのか、立ちっぱなしだった私の足下に彼女のヒール靴が飛んできた。
「あ痛っ」
「いたっじゃねーよ!あたしの方が百倍いてえ思いしてんの!」
「靴投げないでください」
「うるせーバカ、死ね」
もう片方の靴が、今度は顔に向けて飛んできたのがわかって、あわてて両手でガードしようとしたけれど間に合わなかった。
靴は私の眉間に当たって、スコーンと気持ちのいい音を立てて床に落ちた。
「……あ……」
かすり傷だけれど、血の粒がぴっと溢れた。
それを見ても溜飲がさがらぬらしい踊り子は、忌々しげに私を睨んでいる。
「気に食わねえ」
そして唾でも吐くように、そんな言葉を吐き捨てた。
「てめぇはいいご身分ですねえ?こんな大それた船に乗っけてもらって、キレーな服着てさぁ、どうせここのお偉いサンにかわいがられてンだろ」
「……」
「ああその目だ!気に食わねえの、あたしのこと哀れだと思ってんのがわかんだよ。てめえだって奴隷のくせに。ちょっと囲われて可愛がられてるからって、不特定多数に股開いてるあたしらをバカにする顔つきが気に食わねえ!」
それでもまだ私がぼうっと立ち尽くしているとわかると、つかつか歩み寄ってきた踊り子サンは、私の髪の毛をぐいとつかんだ。
あ、気持ちよくないや。
神威にされれば気持ちのいい暴力も、こんな他人にされるのではどうにもならない。
「あの、離したほうが…」
「ああ…っ、つあ?!」
髪の毛を強く握っていた手の皮が、ずるりと滑る感触に驚いたのか。
少女は慌てて私から離れ、自分の手指を見つめる。
たぶん今ならまだ、表面が溶けて皮膚同士軽く癒着しちゃった程度。
なにが起こったのか理解できないらしい踊り子は、ぎゅっとその手をかばうように握ってから、「てめえも天人か」と、また吐き捨てた。
私はいよいよ居たたまれなくなってきて、ついでにこれ以上楽しくもない暴力や暴言を吐かれるのも嫌だという思いで口を開く。
「あなたを見下しているのは、私じゃなくてあなたでしょ」
踊り子サンは一瞬目をぎょっとさせて、それから眦をつり上げた。
また何か言われると思ったので、私は先手を打って言葉をつなげる。
「あなたは自分が不幸で苦しい環境にいるというのにも確信が持てないんでしょう。プライド持てとか気の持ちようだとか言うノウテンキなやつがいるから。
プライドなんて持てる人はずっといい位置にいるのに、向こうはそれに気づかないから」
私のその言葉になにを思ったかは知らないが、少女はぐっと息を詰まらせた様子でやや俯いた。
相手をやりこめるつもりはなくても、なんとなく口にしてしまえば今までずっと思ってきたことがなめらかに声になる。
「そしてあなたがそんな人間の「下」にいる以上、「プライドを持って、どんな環境でもまっすぐ月や太陽のように天にあり続ける美しい女」にならなくてはならないと、心のどこかで焦ってあこがれているから。
だから私に「ああそうだあんたは不幸だ、私より数段劣る」って言われて安心したいんでしょう。他人に形容されたいんでしょう」
「……てめ」
「だからはっきり言いますよ。あなたは不幸です。望んでもいないのに好きでもない人の前で幸せそうに踊って、
そのあと気持ちもよくないオマンコなんかしなくちゃなんないのは、誰がなんと言ってもかわいそうです」
……殴られた。
視界がぐるんっと揺れて、その瞬間に、少女が握りしめていた拳で私の頬を打ったのだと理解する。
「知ったような口……!」
「そうそれ。誰かに怒りたくて気が済まないんでしょ。誰かを恨むのも、何かに怒るのも、生きるための大事な感情だもの……だからあなたは誰かを殴る口実がほしい。私は不幸なんだって泣く口実がほしい」
「…………!」
「…でも」
私の言葉を待たずして、図星を突かれたらしい踊り子少女が涙をぼろぼろ流しながらまた拳を振り上げたのを見て、私はかぶりを振った。
「でもあいにく、私は善人ではないし、あなたのサンドバッグでもないので殴らないでほしいです。私は……」
「そうそう。これは俺のサンドバッグだから、勝手に殴っちゃ困るよ」
はっと、耳朶を揺らした声にどくんと心臓が高鳴ると同時に、目の前の少女のお腹にとてつもない勢いで蹴りが入った。
ぼんやりとしたライトが照らすリネン棚に吹き飛ばされた少女は、少ししてから自分の身に起こった事態を理解する。
「神威っ…!」
「いけないな。あれだけ言ったのになんで部屋から出てるの」
愛しい人の声と顔に歓喜した私の感情は、その言葉によって一瞬でしおれる。
「…ご、ごめんなさい……」
「しかも傷まで作って……仕方ないなぁ」
「……っ……」
そう言われて、乱暴に耳を引っ張られた。
ああ…気持ちがいい。
この人にふるわれるなら、おしおきの暴力だってうっとりする愉悦を与えてくれる。
「君は早く出て行ってね。ここに忍び込んで来られる位なんだから、君の子供はなかなか期待できそうだ」
「え?!期待って……」
鳩尾を押さえながらうずくまる少女に対して神威が投げた言葉に、狼狽する。
それはつまり、この娘は強い子供を産むと期待され、私より優れた存在だと。
「あ……あ」
そう思うと、急に涙があふれた。
殴られたときも、怒鳴られたときも沸いてこなかった目の前の少女への怒りの感情が、突如思い出したように感情失禁しそうになる。
「……言われなくてもっ…」
「……ねっ!」
こらえ切れず、口から汚い言葉が漏れた。
「お前なんか死ねっ!」
とたん、踊り子は私を見て痛みを忘れたように目を丸くした。
神威のそばを離れ、自分でも驚くくらいの俊敏さで少女の側に駆け寄って、立ち上がりかけていたその頭上に握り拳をたたき落としてやった。
「おぐッ…?!」
「売女のくせに!ひょろ弱いただの人間のくせに!」
再びうずくまったその顔に、二発ほど平手打ちを食らわす。
踊り子はなによりも驚いて仕方がないように、叩かれながらも私の方を見て目を剥いている。
「私のほうがいいもん!私のほうがあんたより……!」
私は子供を産めないし。
この女のようにしたたかでもないから、神威のお眼鏡に叶いはしないのだと、口にした瞬間に自覚が激しくなって涙があふれた。
「……う、ううぅっ……!」
「あっ……あ、あぎっ、ああッ、痛ッ、ちょッ痛ッ何ッ?!」
力なくうつむいた私と反対に、踊り子は突然飛び上がった。
それで、彼女の開いた胸元に、私の涙の滴が垂れたのだと知った。
「てめえ…?!」
「まあ落ち着きなよ、」
「……だ、だって……!」
神威の言葉で冷静を取り戻しかけながらも、それでもまだ気が収まらない私は身を起こして自分の頭をぐしゃぐしゃ掻き毟った。
「これ、あげるから」
「あっ……」
ぺっ、と、神威がリネンの床に唾を吐いた。
私は急激に自分ののどが渇くのを感じて、そしてそれ以上の速度で本能が身体を動かして……。
まるで主人に飛びつく犬のように、床に吐き捨てられたその雫にすがって腹這いになった。
「は、あっ……!」
それを床ごとぺろりと舐めあげた瞬間に身体をかけ巡った快楽は、私の中の憤りを凌駕して心をとろかしていく。
「…………っ、なん…っ」
「あはは。で、まだ君はそこにいるのかな」
「……ッ……!!」
裸足の少女が、まるで跳び退くように去っていく音。
それは今の私にとっては結構本当にどうでもいいものになっていて、私は神威の足下にすがりついた。
「さてと、。言っておくけど…俺、結構怒ってるよ」
ああ、なんでも。
これから目の前の男にいたぶられるのだと思うと、期待が抑えられない。
「……さて」
そう言って、神威はくすくす笑いながら私の頬を指で撫でた。
ぞくり、と、期待とほんの少しの恐怖に産毛がざわりと立つのを感じながら身震いする。
ドレスを脱いで、買ってもらったばかりの下着も脱いで。
両腕は背中に回した状態で縛られて、ただベッドの側に立たされているだけ。
そんな私の足下に、ひょっと神威がしゃがみこんだ。
「あとにはなってないね」
「…………」
言いつけを破って部屋を出たばかりか、素性の知れない相手とやりあって。
わずかとはいえ怪我をした私を、神威はにっこりと笑いながら見上げる。
「まぁ…言うまでもないよね。お前が一番わかってるだろ」
神威の言いつけを破ると言うことは、つまり私に対する信頼を裏切ることで、それは神威にとっての脅威であるかは別として、私にとっての死活問題だった。
「ごめんなさい…」
ただ、そう言うだけ。脳も芸もない。
この男が、奴隷としての私に絶対的な信頼を置いて、
私がちょっとやそっとのことではへばったりしない、神威のすることすべてを受け入れてみせるという、唯一の存在理由であり自分の支えとしているものを、私は自分自身で崩しかけてしまったのだ。
それを無言に責められれば、情けなさで涙が滴る。
少女の肌なんて、ほんの数滴で焼いてしまえる醜い涙が。
「…それについては責めないよ。ただ…ね」
くくっと、愉しげに。
神威は笑って、私の太股を手指の爪でつう、となで上げる。
「あ、あ……!」
がく、と腰を前に出してしまう私に間伐与えず、神威はぴくんとひくついた割れ目にかじりついた。
「んあっ、ん…!」
「は…久しぶりだな、舐めるのは」
「んっひゃ、お、おしおき…おしおきじゃないの……?!」
肉びらを唇で揉まれて、舌で割れ目を撫でられるのは、仕置きではなく褒美だ。
強烈な衝撃を待ち受けていた私は、反対に与えられたやんわりとした愛撫に奇妙な声を上げてしまう。
「んー…お仕置きだよ。でも…それはが決めるの?」
「っ、ち、ちがっ、ちがう、ちがいますっ、ん、は、ああ、やっ、はぁ、あぁ……ん…!」
尖らせた舌の先が、ひだとひだの溝をほじる。
「やんっ、め、ぇ…は、恥ずかしい…!そ、こは……」
「そっか、シャワー浴びてないんだ」
そう言ってあははと笑った神威の言わんとすることと、私が恥じていることが合致していると理解して、私は身をよじる。
なんとか神威の舌を、私の恥知らずな秘処から遠ざけようと無駄な抵抗をする。
「……朝、可愛がってやったときに溢れたのかな?しょっぱいし…ちょっと匂う」
「……っ、う、……っっ!!」
かあっと、顔面に血液が集中する。
「…ん……は不潔で恥知らずなんだなぁ」
「いやっ、ち、ちがいます、違うっ、い、いつもきれいにしてますっ…!か、神威も、知ってる、でしょ……!?」
埋め込んだ鼻の頭で、ぐりぐりと私のクリトリスの根本をかき分けながら神威がまた舌を出す。
「ふぅ……違うだろ?こういうときは」
「っあ…!」
羞恥心のあまりに期待と異なる言葉を発した私に、神威がやや凄む。
私はぶんぶんかぶりを振って、ひたすら沸き上がってくる羞恥心をなんとか押しとどめて…のどを震わせる。
「か、神威…あ、ありがとうございますっ…は、恥ずかしい不潔奴隷のオマンコ、舌できれいにしてくれて……わ、私は、幸せものです、ぅ……!」
「はは、そうそう」
「んッア゛ッ?!あ、だ、だめっ…ひ、あ、ああぁあッ!」
ぢゅーっと、神威が私の尿道を強く吸う。
下半身がびりびりしびれて、身体の全部がそこから出ていってしまうんじゃないかなんていう考えと一緒に、私はびくっと痙攣する。
「ん…こっちは出てこないな……溜めてないんだ?」
「ひ、はっ…は、はぁ……は、はい、お、おしっこ、ためません……っ、ま、前みたいにぃ、舐めてもらってるときに漏らしてっ…神威の顔、汚さないようにぃ……!」
「ふぅん。俺は飲みたかったなー」
「ええ…っ?!ご、ごめんなさい、な、なんとか、し、しますっ……!」
そんなにすぐになんとかなるわけないとわかっているのに、私は絶頂の余韻でかくかく震える下肢に力をこめて、特に脚の間に気持ちを集中させる。
「だ、だしますっ、から、す、吸ってくださいっ……!」
「違うだろ」
「ひ、ひんッ、ご、ごめんなさっ…わ、私の…のおしっこ、飲んでくださいっ……!」
「へー、そんなの飲ませたいんだ、俺に」
羞恥で溢れる涙をこらえて、こくっとうなずく。
「どうしようもないなぁ、お前は」
「すみまぜっ……あ、ああぁああ゛あ゛あ゛!!」
謝る暇もなく。
神威が一層強く、私の小水の穴をぢゅるぅと啜る。
同時にそこから、本当に少し、中の残滓が排泄されてまた震えた。
「んっ…ありゃ、こんだけ?」
「ひっ、は…ご、ごめんなさっ…ん、もう出ないっ…ん……!」
目までぎゅっと瞑っていきんでも、それ以上は溢れてこない。
その様子を見て、私の恥ずかしいお漏らしをぺろりと舐めてから、神威は私の胸をトンと押す。
されるがままベッドに倒れ込んだ私は、上がりきらず床にぶらんと下がる脚を居心地悪く感じながらもまた期待を抱いてしまう。
「……に効くかどうか、わからないんだけどね」
「え……?」
そう言って、神威は白い、私の目から見るにペースト状のものが入った小瓶をベッドのサイドボードからたぐり寄せた。
どきん、どきん、と、心臓が早鐘を打つ。
あれはきっと…私が想像しているよりずっととんでもないものなのだ。
…それを証明するように、瓶の蓋を開けた神威は、普段の彼からは想像できない用心深さで、指にサックをはめる。
……素手で触れては、いけないということ。
「あ……ああ…」
がたがたと。
どうしようもなく震えが止まらないのに。
同じくらい、どうしようもなく期待してしまう自分がいる。
「ほら」
「あんっ…?!」
ゴムのサックを填めた愛しい指が、その先に取った白いペーストをツンと私のクリトリスに乗せた。
冷たい感触を想像していたのに、予想外にそれはぬるい。
「んはっ、や…?!なに、それ……?!」
ざらりとしている。
その感触は…もう、結構前に。
私が「出荷」される直前に入らされた風呂で、身体を洗う時に用意されていた塩の粒が入った液体石鹸のようだった。
ざらりざらりと、神威の指でそれがどんどん秘処に塗り広げられていく。
「ん、ん…か、かむ、い……?」
「やっぱり、効かないのかな」
「き、きかないって…?」
なに、と、言おうとした瞬間に、思わず私はブリッジ体操でもするかのように腰をぐんっと突き上げてしまった。
「っ、っっ…………ああ、あ、あッ……?!」
突然のことに、舌さえもうまく回らない。
……突然、その半液状のものを塗られた粘膜が、燃えるように熱くなった。
表面が、ではない。
内側から突き上げてくるような強烈な熱気と刺激は……時間を置かずに強烈な掻痒感へと変化して私を襲った。
「あ゛ッッ……か、神威、これッ、か、かっ、か、かゆいかゆいかゆいッ…か、こ、これ……な、あ、か、あ、ああぁああっ?!」
「あっはは、よかった、効いたね」
「これっ、あ゛ッ、か、かゆくなる薬……?!」
「そう。おかしくなるくらい痒くなるっていうから、ちょっと試してみようかな〜って」
「そ、そんなっ……っっああ、あ、あ゛ッ!」
不満を上げる暇もない。
今すぐかきむしらないと頭がおかしくなってしまう、と、陰部の痛痒が何度も私に主張する。
けれど、今の私は両手の自由を奪われている。
「かっ、か、かか神威っ!掻いてっ!お、お願い、掻いてぇえっ!」
「んー…?だって、ほら…お仕置きだろ」
「だ、そっ…だ、だけどっ、これ、ほ、ほんとかゆ、いっ、か、かゆかゆかゆかゆぅうっ!た、たたた助けてぇえっ!」
気が狂ってしまったように腰を突き上げて揺り振らし、私は滑稽な悲鳴を上げる。
快楽もないのに勝手に膣穴から愛液がどろっと溢れてくるのがわかったが、それを気にかけていられるほど余裕がない。
「すごく赤くなってる…一日中吸ったときもこんなに腫れなかったのに」
私のその陰部を脚の間に割って入ってまじまじと見つめる神威の上半身を、思わず両脚で挟んだ。
「ありゃりゃ。挟まれちった」
「お、おおおねがいっ、お願い神威、ちょっ、ちょっとだけでもいいの…!か、掻いてっ、指で、わ、私のオマンコっ、か、かゆいの、掻いてぇええっ!!」
もはや反省もなにもなく、ただ焼き切れそうなくらいに体中を支配する欲求を神威にぶつける。
「……」
神威はそんな私を、じっと一度見てから。
「いいよ、掻いてあげよっか」
「ほ、ほんとっ…あ、ありがとっ……あ、あがっ、か、ぁ、あぁぁあああっ!!」
犬歯を唇の間から覗かせてチロリと笑った神威は、私のクリトリスをぎりっとつねった。爪で。
「ほっ、ひあ、あ、あ゛あ゛っ、あぎっ、き、きもちいっ…あ、そ、そのままごしごしっ…カキカキしてぇ……っ!」
「わがままだなぁ。ほら、これでいいの?」
爪を立てたまま。
きりきりと、ちぎるような動きで私の肉芽はつぶされる。
「はひっ、ひぃあ、あ、ああきもちいいっ!きもちいいです神威っ!か、かゆいの、ああ、気持ちいい……っ!」
「……へえ」
「んっ、んがッ?!」
満足げな私を見てから、神威がクリトリスにさらに爪を立てた。
それは、表面を引っかいて傷を作ろうとしているようだった。
「……っ、ま、まって神威っ、傷っ、傷、できたら、お、お薬がっ!も、もっと中にしみこんじゃう、よ?!や、はっ、はッ?!あ、あぎっ……あ、か、は……!」
「そーだね」
「い、いやいやっ…!か、痒いのだめっ…!これ以上かゆくしないでっ…私のクリ、爪でしこしこしないでぇえっ!!」
「わがままだなぁ。掻いてくれって言うからやってあげてるのに」
「あ、あ゛あ゛っ……ご、ごめんなさっ、で、でも、でもぉおっ!」
言っているそばから。
細かい傷口に液体の中のざらつきのもとである何かの粒が擦り込まれて、そこがさっきの比でなくなるくらいに痛痒を訴える。
「あっが、が、がゆうぅうっ!神威ぃぃっ!かゆいよぉおっ!助けてっ、助けてっ、もっと掻いてっ!もっともっと掻いて掻いてぇえぇっ!」
「いーけど、もっと傷作っちゃうよ?もっと痒くなるよ?」
その言葉に息を呑むのに…あまりの掻痒感は、単純な理性を簡単に追い越す。
「い、いい、いいから!もうどーなってもいいから、かゆいのなくなればいいから掻いてぇえっ!神威のゆび、や、やさしー神威の指でっ!オマンコカキカキしてぇえっ!」
けらけらと、追いつめられていく私を笑う。
今はその嗜虐性にときめくよりも、とにかく……。
「はいはい、お前のわがまま聞いてあげるよ」
「んア゛ッ……あ、あーーーっっ!!」
がりがり、ぐちゅぐちゅと。
指サックを填めたままの神威の指が、もうこのまま壊すような勢いで私の秘処を掻く。
「あひッ、き、ひッ…き、きもちいっ……か、はぁ、かきかきっ…神威のゆび、きもちいいっ…!」
「気持ちいいんだ…ふぅん。気に入ったんならもっとあげるよ」
「うあひッ?!」
神威の親指と人差し指が、私のクリトリスの包皮をギュッとつまむ。
そして、愛液に溶けずに残っていたペーストをつっと爪の先ですくって、包皮と肉芽の境目に塗り込んでいく。
ぬるぬると、隙間を埋めるように。
白く華奢な指が、その緩やかな動きからは想像もつかない残酷な行為を、今私の一番敏感な部分に行っている。
「はっひ、ひ…あ、かむ、そ、んなっ……!」
「安心しなよ。痒くなったらもっと掻いてやるから」
笑って、神威はまたその痛痒を呼ぶ薬が入った瓶を手に取る。
条件反射でびくりと震えた私を、さらに笑った。
「俺、には甘いよね」
「あ、ま……?」
「が凄いのかな」
「う、ぅ…?」
神威が自分を肯定し、褒めてくれていることはわかるのに。
きちんとその言葉の意図をつかめず、うろんな返事しかできない。
「見てよ」
「……あ…」
すくっと立ち上がった神威が、長杉衣の前垂れをくっと捲る。
白いズボンに包まれた驚くほど細い腰が露わになって、ほんの一瞬痒みを忘れた。
が、神威が私に見せたいのはそれではなく。
「あ…ああっ……」
「もう勃起がすごいんだ」
「……っ…!」
そのズボンを押し上げて、服の上から隆起を主張する肉茎を、私のむき出しの陰部に押しつけるように神威がのしかかる。
「は、あっ…神威のっ……!」
私は今のままではどうにもできないとわかっていながら、今度はその腰に両脚を回し、自分の陰部により強くあてがわれるように捕らえる。
「お仕置きしてたんだけどな」
「はっ…ひ、あ、ああっ……これっ…これ……!」
掻痒感を飛び越えて自分から沸き上がる情欲に唾液を垂らしながら、私は口をぱくぱくさせる。
「これ、入れちゃったらお仕置きにならないよね」
「っ…な、る、なります、なるから、い、いれてっ……!」
「あっはは、入れてほしいからってでたらめ言うなよ。かわいいなぁ」
神威はなお、私をじらす。
もう頭がおかしくなってしまう、と、必死で私はねだる。
「あ、そうだ」
私がしびれを切らせてヒステリックに叫びそうになる直前で、「いいこと思いついた」と言いたげな長閑な顔で神威が言う。
「あんまりこれ、好きじゃないんだけど」
「……?」
神威がサイドボードからつまんだものは、普通の人間の交接には当たり前に使われているだろうゴム製の避妊具。
私は存在は知っていても、神威とのセックスでそれを使ったことなんてなかった。
神威は手早く封を切って透明なそれを肉茎に被せてしまうと、私を見てにっと笑った。
「これでどうかな」
「ど、どうって…なんで……え、あ…ああっ…?!」
その、指と同じくゴムで守られた猛りの上に。
神威はどっぷりと、小瓶の中身をすべて振りかけた。
「これでお仕置きにもなるし、俺も気持ちがいいし、一石二鳥じゃないかな」
「あ、え、あ、ああ、だ、だって、そ、そんな…の、あ、え……ぁ、あ、あっ、あ゛あ゛あ゛はッ!入っちゃだめぇええっ!!」
理性と欲望の二律背反に襲われてまともな返答ができない私の膣穴に、ためらいもなく。
神威の肉茎が深く沈み込む。
「あ、あッ、あ、あっ……あ、ああっ、あ、か、神威のっ……!」
「欲しかった?」
「う、うんっ、ほ、欲しかった、あ、だ、けどっ、あ、ひッ、だ、だめっ、なか、なかでうごいちゃだめぇえっ!こすっちゃだめええぇええぇっ!!」
ずりずりと、その身にたっぷりまぶされた痛痒薬を私の内側に塗り込むように。
神威の腰がゆっくり前後に動き始めて、私はあわてて悲鳴を上げる。
「あれ、動かなくていいの」
「うっ、うん、う、うごいちゃだめっ……」
「ふぅん…わかったよ、このままでいよっか」
神威が私の腰をしっかりと支えて、私も神威も身動きが取れないように固定する。
一瞬安心したのに、私はすぐに自分の馬鹿さを呪う。
「あ……ああっ、や、やだ…も、もじもじするぅ……!」
……いつもは遠慮なく入ってきたあと、壊すような勢いで私を突き上げる熱が…動かない。
ただ私のなかにあるだけ。
その感覚は、私をもどかしい地獄に突き落として悶絶させる。
「ひ、い…ぐ、あ、ああっ……」
「ん?腰つらい?」
ぶんぶんとかぶりを振る。つらいのは腰ではなく私の女の底と頭の中身。
「あ…う……」
どこへぶちあたっても、結局破滅しか残っていない。
「か、神威、動いてっ…腰揺すって…ゆさゆさしてぇ……!」
「もう、なんだよ」
神威が私の頬を、ぎゅっとつねった。
「動くなって言ったり動けって言ったり。どっち?今日はわがままだね」
「…う、ご、ごめんなさっ、動いてぇ…!うごいて、神威のでっ、私のオマンコごしごししてっ……!」
もう震えというより痙攣で、私の下腹はまだかまだかとぶるぶる波打つ。
「…いいよ、かわいいのお願いだからね」
「あ、ありがとっ、んっ、は、あぁああーーッッ!!」
ズルン、と奥までしっかりと肉茎が挿入されれば、私の卑しい襞はそれを待ちかまえていたかのように、
表面の浮き出た血管のボコボコの感触さえも逃さないようにと、神威に吸いついて離れない。
「…く…はっ…ゴムってどうかなって思ったけど、お前のがいつもよりキツいから…は、悪くないな……」
「あ、う、うれしいいいっ!も、もっとっ!神威のさきっちょっ、さきっちょで私のおくっ…つんつんしてぇえ……!」
押し込まれれば、肉襞も閉じこめるように奥へ。
引っ張り出されれば、逃したくないというように神威の表面にまとわりつく。
しばしその緩々とした快楽の揺らぎにうっとりとしたが、その奥からじわじわと私を蝕む感触が沸き上がってくるのもしっかり理解できていた。
「か、神威…こ、これっ……おく、なかっ、か、あ、熱、いっ、あ、ああああぁあああッッ!」
何が合図になったのか、表面張力ぎりぎりでつっぱていたものがはじけて、私のなかは薬によって擦り込まれた痒みに包まれる。
「はひっ、あ、ああぁあ、だ、め…これ、よ、予想よりずっと……!」
「ん?痒い?」
そういいながら、ぐりぐりと神威が肉茎を私の壁の、突起が沢山生えているような部分に押し当ててくる。
その内側から押される快楽にぞくりとしながらも、同時にその感覚を持ってしても抑えきれない掻痒感に軽く絶望する。
「あッ、が、だ、だめっ……これ、か、かゆいっ、かゆいかゆいかゆいいぃっ!なか、なか腫れ上がってるっ!お、おかしくなるぅううっ!!」
神威がけたけた笑う。
その私のことを完全に理解してくれている、この苦痛を乗り越えてなお私の中に神威を想う気持ちがあるとわかりきっている声にふと安心を覚えながら…同時にあ、と声を上げた。
その声で、神威も気がついたらしい。
「……あ、これ、ゴム溶けてる」
ずるっと、私からぎりぎり抜け落ちないくらいまで自身を引き抜いて神威が言う。
…様々な毒を綯い交ぜにした蠱屈とでも呼ぶべき私の膣壁は、その威力と摩擦で避妊具など簡単に襤褸にしてしまった。
「うわあ…のココはほんと凄いんだなぁ」
そう言ってひゅうと口笛を吹いて、ぐりゅんと、私の奥にまた入ってきて。
それから私の上にどすんと身を乗せて神威が笑った。
「……、俺もかゆい」
「…………」
「……あはっ」
「アハハハ」
神威の腕が、私を握りつぶして殺そうとしているようにも思える凶暴さで腰を掴む。
「あぐっ、あ、あ、ああ、あッ、あ、あがっ、あ、あかぁああぁッ……は、あぁあぁあああーーッッ!!」
笑顔を作りながらも、額に汗を浮かべて。
手加減などできない様子で、ぐりぐりと私のなかを刺しえぐる。
「っ……ッ、すごいな、…見直した……こんなのに耐えてたんだ」
「あはひッ、は、ああ…も、もしか、したらっ……ん、ぅ…わたし、ふ、普通の人よりは…効いてないかもっ……ん、んぐぅうっ、そ、そこっ……!」
お互いかゆくて熱くて仕方がない場所を、まるで食い合うみたいなセックスで摩擦しあって誤魔化す。
「……いや、ちょっと……これは、ッ……は、一回出すよ……ほらッ」
「かはひっ…!は、で、でたっ…う、うんッ、いっぱい出してっ、いっぱい精液塗りこんでぇえっ…お薬、お薬中和してぇえ……!」
「お前もさぼらないで毒で洗い流してよ」
「うんッ、うん、うんうんッ!な、なんでも、し、ますっ……こんなこと、できるの……わ、私だけっ?!」
神威が、ふと一瞬目をぱちっと開いて。
「……はは。そんなことまだ気にしてた?」
「んあぐッ?!ぐ、あ、いああぁッ、奥ッ、おぐぅうっ!」
「だけだよ」
その言葉に、ああ、と。
胸の奥からじわじわと暖かい感情がこみ上げてくるのを、しっかり感じて。
「あ、あのおもし、もしそこのお方、って、ああ阿伏兎さん、あの、て、てきめんに効く傷薬とかご存じないですか。この船にないですか」
「……嬢ちゃん、小便でも我慢してんのか?身体に悪いぞ」
「い、いえ、私じゃなくて、いや私もなんですけど、神威が、神威が」
「はァ……?!」
「か、神威が出血して、その、血が止まんなくて、わ、私どうにもできなくて、あのあの」
「敵襲か」
「ち、ちちち違うんです、あの本当」
「隠すな。緊急事態だ、まだ潜伏してるんだな」
「い、いえ、あの出血させたのは私、いや神威?どっちなんだろ…?あ、あの、私は血は出てないんですけど、私も痛いから、でも、あの神威は血が止まんなくて」
「…………よく理解できんのだけども」
「いや神威もけっこうびっくりしてて、まさか血がでるなんて、すっごく腫れてていたそうで、ていうか痛いみたいで、もう真っ赤で青筋通った内臓みたいにはみ出てて」
「嬢ちゃん」
「そ、それでですね、あのふつう傷なんてすぐ治るはずなんですけど、ぜんぜん治んなくて、たぶん血が出てるところを毒でゴシゴシされたからあの」
「わかりやすく頼む」
「あの、二人でずっとゴシゴシしてたら、なんかさすがに痛いねってなって、こぼれてきたのがピンク色の膿みたいな色だったので、慌てて見てみたらその完全に擦りむけて血が」
「………」
「わ、私も痛いんですけど、私は血出てなくて、あの神威今ズボンも履けないから、だから代わりに薬を探しに来たんですけど」
「………………」
「何かですね、こう、やっぱり……」
「一言いいか」
「は、はい」
「バカ」