★相互リンクのリコラさんのお宅に差し上げた夢です。ヒロインちゃんの設定も倣っていて、真選組の女中さんです。
★と思いきや神威と我が家の神威ヒロインも登場します















「ふうっ、暑い……」

降り注ぐ日差しのきつさに、小さく喘いでしまう。
予定のない休日、ふと思い立って百貨店の催事場に赴いたのはよかった。目に鮮やかな工芸品や普段身につけない洋服を見て回ると、心が豊かになった気分だった。
しかしこの暑さはどういうことだろう。すでに暦の上での秋……を一月も通り過ぎているのに。はこめかみを押さえた。
朝方はまだしさを感じることができた。それもあって外出を決めたのだが、空調の利いたデパートで昼を回る頃まで過ごしてから一歩外へ踏み出すと、朝とはまるで別物の蒸し暑さに包まれた。

「どこかで少し……」

一休みできないものかと思考を巡らせて、タイミングよく視線の先に小さな公園を見つける。
公園というよりも、ほとんど遊具のない緑地のようなところだが、ベンチがあった。休憩にはちょうどいい。
自動販売機で冷たいものを買って、少し腰を落ち着けよう。はふらふらと、熱の籠もりつつある身体で目的地へ歩んでいく。

「あっ……」

敷地内の自販機でお茶を買い、振り返って木陰のベンチを見て小さく声を上げる。ついさっきまで無人だったベンチに、女の人が佇んでいた。
そしてその女性の外見に、思わず身構えてしまった。
おそらく年の頃は自分とさして変わらないが、身につけている服が独特だった。
チャイナ・ドレスのようなシルエットだが、胸の部分が大きく開いていた。いわゆる谷間と呼ばれる場所がむき出しで、が息を呑んだのはそのせいだ。
露出度の高い女性はかぶき町では頻繁に見かけるが、歓楽街から離れた昼間の公園でこうして鉢合わせすると、なんだか変な気分だった。
しかしこうして飲み物を手にして、明らかにベンチで小休止の体なのに、彼女を見たとたんに怖じ気づくというのも失礼かもしれない。
そんな変な気を回した結果、はその女性の隣に、人ひとりぶんほどの間を空けて腰掛けた。

「…………」

ペットボトルのキャップを開いて喉を潤す。暑さで悲鳴を上げていた身体が水分に歓喜するが、別の要因で汗が出そうだった。
隣の女性が、をじっと見ているのがわかった。振り向くと視線が合ってしまいそうで、は不自然に前を見るしかない。

「あの」
「はっ、はい」

しかし彼女が声をかけてくると、そちらを向くしかない。改めて女性の顔を見つめる。不思議な色白の肌だった。服装と合わせて、もしかして外国の人かもしれないなんて思う。
が、同時についさっきの「あの」が当たり前のように日本語であると思い出す。ようするには緊張していた。

「どこかで、お会いしたことがありますか?」
「え……?」

そう言われては、また改めて女性をまじまじと見た。女性のほうもをじっと見つめ、自分の記憶を引き出そうとしているようだった。
こんな人と接触したことがあるだろうか。記憶をはぐるが、それらしい情報は見つかってくれない。

「ごめんなさい、いきなり。私もはっきりと覚えているわけではなくて」
「いいえ、そんな」

そう言ったきり彼女が黙ってしまったので、も言葉を続けられなくなってしまう。慌てて記憶を掘り返しても、やっぱりこの女性のことは思い出せない。
もしかするとこの人の思い違いかもしれない……と考えると、なんとも言えない気まずさがある。

「暑い……ですね」
「は、はい。今日はとっても」

それは相手も同じだったらしい。社交辞令というか、当たり障りのない会話のモデルのようなことを言ってくる。一度口を開いてしまった以上、沈黙に耐えられないらしい。
しかし相手が自分と会話したいという意志があるとなれば、それはそれでやりようがある。気まずくならなくていい。

「江戸には、観光で来ているんですけど……季節によって、ぜんぜん気温が違うんですね」
「遠くからいらしたんですか?」
「はい。普段は宇宙船で暮らしているんです。私の主人が地球に用があると言うので、ついてきてしまいました」
「宇宙船!」

は思わず空を見上げる。今は飛行船のたぐいは浮かんでいないが、普段しょっちゅう見かける。空からのお客様。

「宇宙人とか、嫌いだったりします?」

彼女の表情は変わらないが、その声にはほんのわずかに、を試すような色がにじんでいる気がする。
しかしの中に、地球でいう天人を嫌う感情はない。ないというか。

「嫌いじゃない、です。というより……よくわからない、のかもしれません」
「正直ですね」
「ふふ。すみません」
「いえいえ」

やっと、の中でなにかが柔らかくなった。

「ご主人はどちらに?」
「今はきっと、仕事の最中です。暑さや日差しに弱いから、ちょっと心配なんですけど……」

の中で彼女の言う主人、伴侶の男性のイメージが組み立てられていく。
きっとひょろっとしていて、彼女のように色白で……でも、自分の奥さんが、こんな胸の開いた格好でいることをよしとしていて……いまいちきちんとまとまらない。
しかし会話は転がっていった。宇宙船での暮らし。江戸に来て驚いたこと。ついさっき見て回った商店街のこと。女性は話し相手を求めていたのだとは感じる。
それを聞いて相づちを打ちながら、同年代の女性とこうして長々と会話するのはそういえば珍しいなんて思う。心地よさもある。

「なんだか不思議な気分です。私、普段、決まった人としか顔を合わせなくて……特に、女性はいなくて。会話の通じる人は」
「通じない人は、いるんですか?」
「種族が違って」
「大変そう」
「ええ、でもそれが結構、楽しくもあって」

そんな話を続けていると、ふとベンチに近づく人影があった。日傘を掲げた小柄な青年が、にこにこと微笑みながら寄ってくる。
それを見た瞬間、女性は弾かれたように立ち上がった。

「神威! お仕事は?」

そしてその歓喜に満ちた声を聞いて、その青年こそが彼女の「主人」だと察する。想像よりずっと若々しかった。

「思ったより早く終わったよ。探した」
「ごめんなさい、てっきり夜に終わると思ってて……」

女性は薔薇色に染まった頬と、きらきらと開いた瞳孔をたたえてのことを振り返った。

「ありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ」

が手を振ると彼女はにこりと笑って、そして青年と共に足早に去っていく。

「あら」

二人の背中を見送って一息ついた直後、はついさっきまで女性が座っていた場所に、布切れが落ちていることに気がついた。
折り畳まれたハンカチ……なのだろうが、あちこちの生地が、すり切れそうに薄くなっている。なかなか年季が入ってるようだった。つまり大切にしているのかもしれない。
きっと彼女のものだ。はハンカチを持って立ち上がった。まだそんなに遠くへは行っていないはずだ。追いかければ間に合うかもしれない。

「あっ……!」

急ぎ足で彼らが向かった繁華街を流し、先ほど青年が差していた藤色の日傘を見つけて安堵する。
日陰に入り、彼が日傘を畳んだのが見えた。雑居ビルの立ち並ぶ通りの物陰に入っていく。大丈夫、追いつける。

が、ふたりを追いかけてビルのかげりに入ったは慌てて足を止めた。思わず口元を押さえて、目の前の光景に息を呑む。
薄暗い路地だった。エアコンの室外機や配管の管がぼこぼこと目立つビルの壁に、青年は女性を乱暴に押しつけていた。
包帯を巻いた手のひらで彼女の髪を引っ張ると、なにごとかを耳元で囁く。彼女はそれを聞いていやいやをするようにかぶりを振るが、その顔に嫌悪や恐怖といったものは浮かんでいない。
そのままドレスの裾を捲られて素肌をまさぐられようと、粘膜を割り開かれて胎の奥に押し入られようと。
彼女の顔は悦びにとろけ、青年の行為をどこまでも受け入れていた。

「あ……っ」

女性の顔がを振り返る。間違いなくの姿を認識した。言葉をなくして二人の行為を見つめる目を、はっきりと受け取っていた。
……だというのに彼女は、さらに淫蕩な笑みを浮かべて微笑むばかりだった。



「……
「えっ?」

どういうふうにあそこから離れて屯所に帰り、夕飯を食べて入浴をすませたのか。すべてが曖昧だった。
今こうして、愛しい人が部屋にいるというのに。なによりもの心を奪う存在が目の前にいるのに、そのことにすら集中できないでいた。
例のハンカチも、引き出しの中にしまったままだ。

「どうしたんだい」
「す……す、すみません」

気を抜くと昼間の痴態が脳裏によみがえってくる。獰猛に吼えた彼女。それを遠慮のない手つきで貪る「主人」。彼女たちの間には独特のルールが敷かれていて、きっと自分とはまったく異なる世界観で生きている。
見た目は自分と変わらないのに。地球に、江戸に住んでいる人間とまったく同じように見えるのに。あんなにふつうに会話して、笑い合ったのに。
心臓がどきどきしている。あんな間近で、他人の交わる姿を見たことなんて初めてだった。
はもともと、娯楽のためのポルノ映像もあまり好まない。愛しい人がそれを見るのにも、嫉妬のようなものを抱いてしまう。だから本当に……あんなものを見るのは、本当に、本当の本当に。


「ひゃうっ……!」

その普段とあまりに違うの様子に、伊東はゆったりと態度を改めた。呼びかけながらその頬を撫でて、せわしなく泳ぐ目をじっと見つめる。

「昼過ぎに帰ってきてから、ずっとこうだ。なにかあったのかい」
「い、いいえ……」
「ふむ」

あからさまなごまかしをするの顔を見つめたまま、伊東はく、と眼鏡のフレームに触れた。

「君が僕に嘘をつくなんて」

ずきりと胸が痛む。目の前の人に対してなにより誠実でありたいと思うのに、自分が昼間に見たものについてはどうしても話せない。

「僕には言えないことなのかい」

頬を撫でた手がどんどん下りていく。寝間着に身を包んだの首筋を伝い、わずかに覗いた鎖骨のくぼみをなぞり、そしてひっそりと動悸を鳴らす胸にたどり着く。

「君の胸を、こんなに揺らすことがあって。それを僕には言えないと」

目の前の聡い人にはすべて暴かれてしまう。昼間からずっとぼんやりする頭と、早鐘を打つ胸は見抜かれている。



悩んで、悩んで、葛藤の末に降参する。
なにも伊東は、すべてを吐露しろなんて言っているわけではない。ただ自分と、見つめ合うの間に見えない壁があって、がそれにばかり気を取られているのをよしとしないだけだ。
ほんのり支配的で、けれどもそれを恐れていない。
伊東はこうやって閨でを独り占めして、自分のものとして可愛く扱うことにためらいがない。だったらはそれに身をゆだねたい。

「ごめんなさい、隠し事じゃないの。今日、町で……」

『変なものを見て』
『おかしな人と会って』
そう言い切れない自分に気づいて、は改めて驚いた。この感情がなんなのか整理がつかない。

「……ふぅっ」

気を落ち着けようと息を吐いたを、伊東は背後に回ってゆっくり抱きしめた。

「言いたくないことなら、無理に言う必要はないよ」
「あ……」

伊東のすらりと通った鼻筋が頬に触れ、少し頭を動かせば唇同士が合わさった。
肌よりも温度の高い場所がふれあい、まるでそうするのが当たり前のもののように馴染んでいく。
の頭の中にとろりとした陶酔が流し込まれて、薄く開いた視界もぼんやり霞んだ。

「んんっ……」

締めつけの緩い夜着の合わせ目から、ゆっくりと手が差し込まれる。何度身体を重ねても緊張してしまう心臓を包む柔らかさと、その先でひっそりと息づく突起が優しく愛撫される。
自分に優しく触れる手に思わず指を重ね、心地よくなっていく鼓動に身を任せる。

そして伊東の手が下腹に触れたとき、ははっとした。
『あれ』を見てから行方不明になっていた己の奇妙な意識の正体に、やっと気がつくことができた。
あの淫らな女性を見てからの自分の気持ち。

もしかして、自分もあんな顔をしているのではないか。
伊東に触れられるとき、あんなにとろけて、悦びを表現するための存在みたいになって、そこには理性も、聡明さもなにもなく、ただ、


「……いやっ、だめ……見ないでください」

急に恥ずかしくなって顔を手で覆ってしまう。
の想像通りであればきっと自分は今、ただ彼を愛しいと思う気持ちだけを持った、言ってしまえばもう普段の自分とはまったく違う存在になり果ててしまっている。
今までだって同じことは何度もしてきた。
けれどもそのときは、羞恥心と、こみ上げる喜びの中で、客観視なんてものは吹き飛んでしまっていた。
恥ずかしすぎる自分という存在に気づかずにいられた。
それを今日、あの女性のせいで思い知ったようだった。

「どうして?」
「…………恥ずかしいっ!」

しかし、そんなの拒絶を平然と受け入れる伊東ではない。ほんのわずかに微笑むと、浅い茂みに添えた手がくすぐるように揺れた。
彼のねらい通りにのおなかがもどかしさに揺れると、慈しむように粘膜を割り開く。

「確かに恥ずかしいかもしれないね。こんなに溢れているから」
「あ……ふぁ……!」

触れた伊東の指に、秘唇から滴った愛液が絡みつく。
彼の愛撫を受けてそこまで濡れてしまっているのを実感して、顔を隠すどころではなくなってしまう。

「わ、わたし、今まで、知らないうちに……すごく恥ずかしい顔も、身体も、鴨太郎さんに見せていたのかもって……」

それを聞くなり、伊東はふっと目を丸くした。そして眼鏡をゆっくり外すと、のどの奥でくすくす笑いだした。

「今になって?」
「んんっ……! んぅっ……あぁっ!」

指が膣口に入り込んでくる。何度もの中となれ合ったものだ。抵抗などいっさいなく、ただ優しく馴染んでいく。

「可愛いよ、
「うそ、可愛くない」
「今日はずいぶんと頑なだね」

その瞬間、大きな声を上げそうになってすんでのところでこらえる。中の指が意地悪に曲げられて、の一番敏感な場所を捉えた。

「あっ……あっ、あっ、ああぁあぁっ!」
「結局こらえられずに、声を上げてしまうのも」

もてあそばれている。そう思うのに拒絶の気持ちがまったくない己に、は彼への愛を実感してしまう。
なんならこうして翻弄されることを心地よく思ってすらいるのだから、きっと重症なのだ。
目の前の人が愛しくて、
どんなことをされても許してしまって、
そして自分は、快楽に溺れながら愛を実感する。
そんな己の縮図を理解させられた気持ちになっていたから、はあの光景を、変なものとも、おかしな人とも形容できなかった。

「いくよ、
「は、はい……きて、鴨太郎さん……んぅっ!」

の胎内に熱が入り込んでくる。確かな圧迫感と、それを受け入れる喜びと快感に、全身を反らせてまで悶えてしまう。
おなかの中で大きな気持ちよさが破裂しそうになってすんでのところで収まって、なのにすぐに始まる律動で、何度も何度も快感を注がれてしまう。

「あ……あッ、は、破裂しちゃう……」

その激しさに喘いでみれば、伊東の口からふっ、と、また笑い声が溢れた。

「してもいいよ、どうなっても」
「んああぁっ……!」
「どんなでも、僕は愛しく思うからね」

その言葉でたがが外れる。心の片隅にあった羞恥心が弾けて、ただ与えられるものを鋭く、ひとつも逃したくないと受け止める女の身体になっていく。
二人の身体は限界を超えて、軽い死すら感じるほど溶けあって、その末にある、脳裏に星が散るような絶頂を、わかちあうものとして喜びとともに迎え入れる。
何度も何度も。
伊東とは、ふたりでひとつのけだものになり果てる。



「……日付が変わってしまったね」
「あ……」

伊東が名残惜しそうに身を起こす。
も離れがたかったが、立ち上がって部屋の隅に置いていたらしい小箱を取り上げた。

「誕生日おめでとう、

伊東の手に乗せられた箱が、に差し出される。

「君が今日百貨店に行ったと聞いて、少しひやっとしたよ」

リボンがほどかれ、箱の中から出てきたものを見ては驚いた。
鮮やかな色をしたかんざし。今日、がデパートで夢中になって見ていたものだ。
優美な装飾の硝子玉がついたそれに、はおそるおそる触れた。

「……きれい」

そのもの自体の美しさに目を奪われた後、愛しい人が自分のためにこれを選んでくれたことへの驚きと喜びがわき起こってくる。
誕生日。
自分でもほとんど忘れそうになっていた。
いや……それどころか、意識することに若干の罪悪感だって抱いていたはずのできごとが、今彼からの想いできらきらと、なににも代え難いものになっている。

「それが見たかった」
「えっ?」
の、喜ぶ顔が」

伊東の細長い指が、さっきまでの余韻で湿った髪をゆっくりと撫でた。

「この一年が、君にとっていいものであるように」

その声にもはやは言葉も忘れて、喜びの中で心地よく瞳を閉じた。