……夜のかぶき町を、銀さんとふたりで歩く。
私たちのおなかの中にはバースデーケーキがおさまっていて、さっきまでのささやかなお誕生日会の余韻が残っている。
今日は銀さんの誕生日。
ふたりでケーキと、私が作ったごちそうを囲んでお祝いした。
その後にホテルに行きたい、と言い出したのは私だった。
銀さんはその言葉にすぐひざを立てて乗り気な様子を見せたけれど、私が「ホテル代は私持ちでいいから」と続けるとなんだかげんなりした顔になった。
「おめーは巧妙に俺のプライドを傷つけるのな」
「だって……」
「あとあとでいいんだよ、あとあとで。最初から言わねーの。受付まで行った時にスッと何気ない顔で出すんだよ、そうすりゃ銀サンだってよう、受付でモメんのもナンだしここは払わせておくかみてーな雰囲気に身を任せられんだろ」
「すごい、自分勝手なクズの思考だ。結局私に出させるんじゃん」
「なんだコラ、そんなクズとホテル行きてーって言ってんのはどこの誰だ」
ともあれ、連立するラブホテルのうち一つに入った。
入り口のパネルで適当な部屋を選ぶと、その下からキーがころんと落ちてきた。
なんだ、部屋を出るときにお会計するタイプか。
銀さんと並んで部屋に入って、内装を見渡してドキリとした。
大きなベッドの隣に、ガラス張りのお風呂があったのだ。
お風呂だけならいかにもラブホだなぁ、でおしまいだけれど、湯船とシャワーヘッドの隣、ガラス張りの部屋の中に洋式便器があったのにぎょっとしてしまった。
もし行為の後なんかにそういうことになったら、「する」ところを見られてしまうことになる。
「イイこと思いついちゃった」
ドギマギする私の隣で、銀さんがそんなことを言い出した。
「おら、服脱げ服」
「わひっ?! い、いきなり!」
銀さんが私の着物の帯に手をかける。
こんな場所に来た手前、それに抵抗するのもおかしな気がして……結局私はそのまま脱がされてしまう。
「んでホラ、そっち入れ」
「え……ひとりで?」
裸になって、頼りなく前を隠す私に銀さんが命じる。
ガラス張りのお風呂の中に入れと言うことだけれど、何をさせられるのか想像がつかないままだからためらってしまう。
「早く入れって」
「わ、わかった……」
にやにやにや。
いつの間にか銀さんの顔はいつもの、私に恥ずかしいことをさせるときの表情になっていた。
それを見て期待を抱いてしまう自分の馬鹿馬鹿しさにあきれながら、結局銀さんに言われるがまま、お風呂の扉を開く。
「どうすればいいの…?」
ガラス一枚隔てた向こうで、銀さんのにやけ面を眺める。
「もっとこっちに来いって」
「え……?」
ガラス越しの銀さんが手招きする。
言われるままに一歩、二歩と銀さんのほうに近づくが、もちろん厚手のガラスに阻まれてしまう。
「銀さん……?」
「オーライオーライ」
「もう無理だよ!」
「無理じゃねーだろ、もっと寄れ」
銀さんが何を求めているのかわからないまま、両手をついて顔をぐっとガラスに近づける。
「そうそう、もっと」
「だからなんなの?!」
「こう、オッパイがベターッとくっつくくらい寄れって」
「おっぱい……?!」
バカな私は、そこまできてようやく銀さんが見たがっている光景を理解する。
私の乳房がガラスに押しつぶされるところを眺めたいということなのだろう。
「へ、変態…!」
「変態でいいですぅ。ガラスおっぱい見れんなら」
もうこうなった銀さんは、結局私が望むとおりの行動をとるまで諦めないとわかっている。
仕方なく……いや、ちょっとは期待もあったかもしれないけれど……私は上半身を反らすような体勢になって、ふたつの乳房をガラスにぐっと押しつけた。
冷たい感触と、胸の肉がむぎゅりと潰れる圧迫感があった。
「おぉ、迫力だな」
「迫力って……ばかじゃないの……」
声を出すと、私の吐息でガラスが曇った。
「おめー結構乳デカいからよぉ、こういう恥ずかしいことが映えるな」
「うぅ…こんなの、見てて楽しいの……?」
「楽しい楽しい。たまんねー」
間抜けな格好のまま会話しているうちに、だんだん自分が変な気分になっているのを自覚する。
ガラスに押し潰されているせいで胸の中に潜り込んでいる乳首が、ゆっくり硬くなっていく。
「せっかくだしそのままなんか……」
「う……これ以上なにをすればいいの……」
「お、そうだ」
銀さんが一歩退いたと思うと、ポンと自分の手を打った。
「そのままおっぱいで字ぃ書いて」
「はぁ?! えっ……え、字……って……えぇ?!」
「尻文字ってあんだろ、あれの乳版。いや、乳っつうか乳首? 乳首で字」
「むり! むり! そんな恥ずかしいこと無理!」
「えー…銀サン今日お誕生日なのに?」
「うっ……」
言葉に詰まる。
「うぐ…そんな恥ずかしくておっさんくさいこと……」
やっぱり無理、と言おうとしたところで、私は再び言葉に詰まった。
銀さんが、ズボンのジッパーに手をかけていた。
そこからもう、いつの間にか見慣れたものとなったおちんちんを引っ張り出して、自分の片手でもてあそんでいる。
「早くしろって」
「あ……うぅ…ばか……」
自分の馬鹿で単純で、欲望に弱いところを軽蔑する。
銀さんが私をいやらしい目で見て、興奮しているのだと思うと、逆らう気持ちがなくなっていく。
「なんて書けばいいの……」
ぽつりとつぶやいた私を、銀さんがにやにやしながら見る。
なんというか、切ったかまぼこみたいな形の目とつり上がった口角。
「あーんと…銀さん」
「……う、うん…………」
頭の中で字と書き順を思い浮かべて、ガラスにくっつけたままだった胸をゆっくり揺らす。
すぐにそのままじゃぜんぜん字が書けないと気がついて、自分の手で乳房を支える。
いつの間にかすっかり尖った乳首を、ガラスにつんと押しつける。
「銀……さ、ん……」
「今気づいたわ。こっちから見ると鏡文字だな」
「ええっ?! じゃ、じゃあ逆に書かなきゃダメ……?」
「や、そのままでいいわ」
言いながら銀さんが、自分の肉茎をつかんだ右手をせわしなく動かした。
そこに視線が釘付けになる自分を恥じるのに、目は離せないまま。
「お誕生日おめでとう」
「え……た、誕生日のたん、思い出せない……」
「ひらがなでいいって」
「う、うん……」
言われるとおりに、冷たいガラスに押しつけた胸を動かす。
その間も銀さんは手を動かし続けていて、だんだんと私の意識は散漫としてしまう。
銀さんがしごいているものが欲しいという気持ちに支配されて、言いつけられた恥ずかしいことを実行できなくなっていく。
「ん? お前今どこまで書いた?」
「わ、わかんない……んっ、おぼえてない……」
「駄目じゃねーか」
「だって…ねぇ、銀さん……」
いつの間にか自分が内股になっていて、足の間の粘膜が湿ってうずうずしていることに気がつく。
「お願い、ね…銀さん、恥ずかしいことだけじゃなくて……」
「…………」
「え、エッチしたい……ねぇ、エッチ…」
「エッチ? おまんこだろ」
「お…おぉ、おまんこっ……! おまんこしたい……!」
「ったく……」
銀さんが浴室の扉を開ける。
あ、と思ったときにはもう、背後から腰と腕を捕まれた。
「もうぐちょぐちょじゃねーか。なんなのお前は」
「だって…銀さんが変なことさせるから……!」
後ろから、おまんこの割れ目に何かが押しつけられる。
最初は指かと思ったけれど、それが皮膚とは異なる熱さを持っていることに気がついて息をのむ。
ついさっきまで銀さんがしごいていた肉茎が、今私にあてがわれている。
「羞恥心とかねーの、恥じらう心」
「あるぅ……あるけど……んんっ!」
そのままめりこんでくるかと思った肉茎は、幹を割れ目に沿わせて縦に動く。
カリ首の盛り上がりや血管のぼこぼこが、私の感じるところを擦っていく。
「銀さんにされるんだったら…なんでもいいって思っちゃう……嫌とか、恥ずかしいとか思うのに…うぅっ……!」
「銀サンが言うなら、乳首で字ぃ書いても興奮しちゃう?」
「いやあぁぁ! やーー!! 改めて言わないで!!」
自分が恥ずかしいことをしているという自覚はある。
なのにそれが銀さんによるものだと思うと歪んで、恥ずかしいのも嫌なのも、気持ちいいことに変化してしまう。
そんな自分を軽蔑するし、呆れてもいる。
「銀さん…いじめないで……いじめるんじゃなくて…早くぱんぱんして、後ろから……私のおしりがぱんぱん鳴るくらい、いっぱいおちんぽ押しつけて……」
だけど嫌いだとは思っていなくて、いっそのこともっと馬鹿になれたらとも願っている。
「ぱんぱんじゃねーよ、このエロ女」
「んんんっ…! あっ、あはぁ、ああああぁっ……!!」
銀さんはそんな私の願いを叶えてくれた。
クリトリスをぐりぐりしていた亀頭が離れて、一気に膣穴に入り込んでくる。
おなかの奥の気持ちいいところが圧されて、大きな声が漏れた。
「なんつーか、あぁ、アレだ…おめーとしてっと……」
「はひっ、はぁ、んああぁっ…!」
「お前のエロさに全部呑まれちまって…なんてーかいっつも…どんなことしても、最終的に俺がご奉仕してるみたいになっちゃうじゃん」
「そんなことぉっ…んくぅ〜〜っ……!」
「まぁSはサービスのSとか言うし…ってなるか! 調子に乗んなよ!」
「ぎひぃっ?!」
パアン、と言う音が響いて、衝撃は少し遅れてやってきた。
銀さんが私のおしりを叩いたのだ。
「オラッ! 次はまんこで字ぃ書きな! 銀さん大好きってな!」
「かっ、ひあっ、そんなの無理ぃ…! おまんこで字なんかどうやって……」
「マジメに考えてんじゃねーよ、ったくオメーは本当になぁ!」
「ひゃぎぃっ! た、叩くのやめへぇ……っ!」
おしりを叩かれるたびに、ジンジンした痛みが走る。
なのにその痛みは肌の奥に入り込んでくると、どうしてか快感を増幅させるなにかに変わっている。
「ひぃっ、あ、ああぁぅっ…銀さぁん……!」
銀さんは動きを止めてくれない。
私の下腹をしっかり固定して、そこを的にするみたいに腰を打ち付けてくる。
「へん、に、なるぅっ……いっぱいぱんぱんされて…うぅ、おまんこ、ばかになるぅっ……!」
「お前はもうとっくにバカだっつうの。おらっ、もっとバカになれよ」
「ひああぁあっ! だめっ、クリトリスはだめえぇぇっ!!」
銀さんの右手が腰から離れて、前に回ってくる。
両足の間に乱暴に差し込まれた手は、私のおまんこの割れ目を探った。
「だめ、だめ、そこ、そこはだめだってばあぁっ!」
「駄目じゃねえじゃん。俺のより勃起してんじゃん、このデカクリ」
「いやー! っ、あ、ばか、ひっ、ひっ、ひぃいいっ!」
とてつもなく下卑た揶揄をされている。
なのにそれに対する反抗心は、快楽に溶かされていってしまう。
「穴で字は無理でも、コレなら書けっかもな」
「……え、えっ、ちょ、ちょっ、ちょ、なあぁぁあっ!!」
銀さんの指が私のクリトリスをつまみあげ、その先を左右に振るように細かく動かした。
その場にへたれ込みそうになってようやく、銀さんの言葉の意味を理解する。
「乳首は途中で失敗しやがったからな。銀サンがガイドしてやる」
「ひっ、え、あっ、え、あ…銀さっ! や、やめえぇぇえっ!!」
クリトリスが上に、もうこれ以上は無理だというくらい引き伸ばされる。
神経を焼き切られるんじゃないかと思うほどの快楽が、背筋を通って頭を打ちのめす。
「おら、銀サン大好き、ってな」
「ひっ、ひぎっ、あっ、あ゛ッ、あ゛ッッ!!」
あ、もう限界。
そんなことをどこか他人事のように考えた瞬間、実際に限界が訪れた。
おなかの下で何かが決壊する感覚があって、私の尿道の先からは生ぬるい液体が迸っていた。
「ほぁ……あ、あぁ……や…っちゃった……」
「おーおー…派手に漏らしたな」
「ぎん……ひゃん、の、せい……でしょ……」
「まぁな」
思いのほかあっさりと認めた銀さんは、くたくたの私の身体をまたむりやり立たせようとしてくる。
「続きすんぞ。まだ主賓の俺がイッてねーんだよ」
「う、うぅっ……おに……あくま……」
けれど腰の動きが再開されて、膣穴を銀さんの熱でえぐられると、私は快楽と同時にこみあげてくる愛しさに溺れてしまう。
「ひゅぐぅっ、銀さぁんっ、いっ、く、いく、いっちゃうぅ……!」
「はあ…あ、それは何、銀さんにもイッてほしいわけ?」
「うん、いっしょ、いっしょがいいっ、中に精液びゅ〜ってしてほしい……!」
「くぉっ……仕方ねえなあっ、くれてやるよ銀さんのザーメン、嬉しいか?!」
「うれしい、うれしいうれしいっ! あっひぁっ、あくぅっ、あっ、イッくぅっ、いぐうぅぅぅっ……!!」
私の下腹が激しく痙攣した瞬間に、おなかの奥で熱が弾けた。
「ひっ、あ、出てるぅ……うぅ、ん、銀さんの白いの……っ!」
「おぉ…お、待て……まだ締めてろ、全部出すから…」
「う…ふぅ、ん……ぜんぶ、だして……おまんこのなかに……」
膣穴の中で、精液が出続ける感覚をうっとり味わう。
「なーんか……結局俺がご奉仕してんじゃん、やっぱ」
「ふぁ…ん……でも……きもちいいから……」
「ったく……」
そう言った後、銀さんは私の身体を横抱きで持ち上げた。
そのままトイレの横にむき出しのバスタブに向かって、そこに私を落とし込む。
「銀さん……?」
「ちょっとそこ流さねーと……」
「あ……」
私のしでしかした粗相を、銀さんがシャワーを出して片づけていく。
「……なんか、お父さんって感じ」
「お父さん?」
「うん……」
「それじゃおめーは娘? 赤ちゃんか」
「赤ちゃん……うん…銀さんがパパなら、赤ちゃんになりたいな……」
私、変なこと言ってる。
絶頂の余韻で空っぽになった頭は、もう深いことを考えられない。
ぽんと浮かんだことを、きちんと選別せずそのまま口にしてしまう。
「んじゃホラ、おしゃぶり。頑張ったお父さんのちんぽ、丁寧に舐めな」
「うぐ……うん、パパ……」
バスタブの中で、銀さんが私の上半身に馬乗りになる。
私のとろけきった脳みそは、それをご褒美だなんて感じている。
「銀さん…だーいすき……」
「バカ」
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2017年銀誕。
ひさびさにトチ狂った感じになりました