「銀さん、桃むいたよ。食べて」

寝室のふすまを開けて、畳の上に敷かれたお布団…の中で眠る銀さんに声をかける。
お昼ご飯の時間には少し早いけれど、これを食べて薬を飲んでもらうつもりだった。
これ。一口大に切った水蜜桃。

「ん……」
「銀さん。桃、桃」
「ももぉ……?」

……銀さんが風邪を引いた。
季節の変わり目、天気によっては半袖では肌寒いこの時期に、お腹を出して寝たらしい。
予定に入っていた草刈りの仕事には新八くんと神楽ちゃんの二人で出てもらって、銀さんはこうして自宅で養生している。

「お昼はいらないって言ってたけど、薬飲まなきゃだし。フルーツなら食べられるよね?」
「……そんで桃?」
「うん。もう季節終わったかと思ったから、スーパーに売ってて驚いた。二個買ってきちゃった」

ぼんやりとした声で言葉少なな銀さんと反対に、なんだか饒舌な自分。
いや……普段と変わらないけれど、いつもなら銀さんが私以上に喋ってくれるから、そう感じるのかもしれない。

銀さんは知らないだろうけど、冷蔵庫の中には桃といっしょにホールケーキがしまってあった。
万事屋のみんなも交えて一緒に食べようと思って、今朝引き取ってきたもの。今日は銀さんのお誕生日だ。
ケーキ屋の帰りに並んで歩く新八くんと神楽ちゃんと鉢合わせして、寝込んだ銀さんの看病を任されて現在に至る。
私が一方的に立てた予定は狂ってしまったけれど、代わりにこうして今、銀さんを独占できる。
そう思うと、風邪で苦しんでいる銀さんには悪いけれど……喜びを抱いてしまう。

「はい、あーんして」
「あ…?何、オメーが食わせんの?」

身を起こした銀さんの口許に、フォークで桃を運ぶ。

「ちょっとやってみたくて。こういうの」
「お前なあ…風邪は恥ずかしいことするためのイベントじゃねーぞ」
「風邪引いた銀さんが悪いの。看病してあげるから、今くらい言いなりになってくれてもいいじゃんっ」
「…………」

なにか言いたそうな顔だったけれど、銀さんは口を開いて桃を受け入れた。
柔らかな果肉を咀嚼して、やがてはごくりと喉が動く。

「おぉ…俺、喉乾いてたんだな」
「うるおった?」
「まあな」
「じゃあふた切れ目、ほらあーん」
「もういーっての、あとは自分で食えっから」

そう言って私からフォークを奪ってしまう。

「お前アレだ…看病すんのはいいけどさあ、あんましベタベタしてっとうつっちまうぞ」
「銀さんにうつされるならいいよ」
「かー…なんか今日は毅然としてんのな。アレだ、あの……」
「無理に減らず口きかなくていいの。それ食べたらお薬飲もうね」
「…アレだよオメー、こっちが弱ってるとわかると強気になんのな。シケたチンピラと同じ精神構造してんのな」

それはある。いつも口でも身体でもかなわない銀さんが弱って布団についているという状況に、喜びといっしょに変な嗜虐心というか、支配欲というか…とにかくそんな感じのものがわき起こっていた。
けれどもそれとは別に、ちゃんと銀さんを思う気持ちもある。
お皿が空になるのを待って、粉薬の包みを取り出した。

「はい、風邪薬。粉だけど飲める?」
「バカにしてんのか」
「えへへ……」

銀さんは私から薬と、用意した水入りのコップをひったくる。

「ちょい寝るわ。悪りぃけど」
「うん。夕飯は食べられそう?」
「まだわかんねー」
「とりあえず準備はしとくよ」
「おう」

おう、の後にすぐ、銀さんは布団を頭からかぶった。
寂しさもあるけど、それだけそっけなくされるのも気の置けない仲というか、信頼されている証拠だと思うと嬉しさに変換できる。

……それにしても、と万事屋銀ちゃんの応接間でもある居間に戻ってきて、ソファに座り込む。

「前もこんなことあったけど…」

風邪を引いた銀さんの看病をするのは、初めてではない。
けれど以前の記憶の中にいる銀さんより、今日の銀さんは症状が軽いようだった。

「あのとき…たしか…」

風邪薬で体調が緩和された銀さんは、看病しようとする私に触れてきた。
最初は悪ふざけみたいに、途中からは本気で。
……で、馬鹿な私はそれに乗っかって、いともたやすく風邪をうつされた。
確か数日苦しんだ。私は一人暮らしなものだから、病院に行くのも結構つらかった。

「あ……」

だというのに、思い出すと感冒のつらさよりも、交わった熱い肌の記憶の方が大きい。
おなかの下のほうが生ぬるく湿るのを自覚する。

「んっ……!」

銀さんは寝ている。
ほんの少し、少しだけ。
ちょっと着物の合わせ目をゆるくして、足の間をなぞるだけ。
すっかり色狂いになった私は、そのはしたない行為に強く惹かれている。
罪悪感は自分のしようとしていることをより強く意識する材料になって、淫行にはしる指先を調子に乗らせるだけだ。

……それもこれも銀さんのせいだ。
私に淫らな経験と記憶をさんざん植え付けた。

「はぁっ…ん、あ……」

下着がうっすら濡れている。その奥の粘膜なんてもっとそうだ。

「あ…ふ、んんっ…く……!」

もっと強く触りたい、と思うときには手遅れで、着物のはだけは「ちょっと」じゃなくなっている。

「んっ…んっ、んんっ……」

指先が肉芽を捕らえる。一番敏感な尖った部分をなぞってしまうと、歯止めなんか利かなくなっていく。

「銀さん……したいっ…!」

大好きな人を呼ぶ。
私はどうしようもなくはしたない人間だという自覚が、後からついてくる。
銀さんは軽度とはいえ病気で寝ていて、私は今その人の家の居間でこんなことしてる。
……でもしょうがない、という言い訳はさらに後から来たが、押し寄せていろんな感覚を麻痺させていく。

「あ…きちゃう…っ、銀さん、銀さんっ…!」

自分でいじって得る軽いものだけれど、絶頂が近づいてきている。
快楽が下腹部からこみ上げて、背筋を通って脳に突き刺さろうとしていた。

「銀さぁんっ…いい、あっ、して…、して、私に……銀さん……っ!」
「おう」

真っ逆さま。そう思った。
私はいきなり底の抜けたバケツみたいになった。
迫ってきていた熱はどこかへ逃げて、目の前に立っている銀さんを揺れる視界が捉えている。
夢だよね、ねえこれ夢だよね、と未練がましく考えて、だからこそこれは現実だと思い知る。

「あっ…な、なんで…っ!」
「いや、小便したいと思ってさあ」
「ひっ、い、いつから……!!」
「きちゃう、銀さん〜らへん」
「や…あっ、やっ、や、ばかあっ!」
「馬鹿はてめーだ、白昼堂々人んちでマスかきとはいい趣味してんな」
「いっ、いやああ違うの!違うのっ!」
「ほォほォ、変わったエクササイズかなんかとか?」

いつの間にか開いた襖を後ろ手で閉めて、床板をきしきしさせながら銀さんが近づいてくる。
着物をみっともなくはだけて、太ももを丸出しにした私に。

「ぎ…銀さ…か、風邪、引いてるんだし……」
「そんなん吹っ飛んじまったよ」

にへらにへらといやらしい顔で笑いながら、まだ身動きが取れないでいる私と目線の高さを合わせるようにしゃがみ込む。

「や…やだ、もう、本当にいやっ…は、恥ずかしっ…」
「俺さぁ、もうのオナニー何べんか見てると思ったけど違うのな。俺に見せてんのと、一人でしてんのとじゃ」
「うっ…ううっ……!!」

その淡々とした口調はわざとで、私をいたぶる意図が見えた。
さっきまでのだるそうな仕草はどこへやら、下品ににやつきながら私の顔を覗き込む。

「こんなん見たらもう寝れねーよ。ほら見ろコレ」

寝巻きにしている甚平の股間の辺りを指して、銀さんは私の反応を楽しんでいる。
……そして私は、銀さんの望むような態度を取ってしまうのだ。もう自然に、意図せず。

「銀さん…大きくなってる……」
「おう」

銀さんにも興奮が宿っていると思うと、少しずつ羞恥心が薄らいでいく。

「で…でも、風邪……」
「オメー、さっき銀サンにうつされんのならいいとか言ってたろ」
「言ったけど…うぅ…銀さんは平気なの……?」
「ちょちょっと股間からタンパク質出すくらいなんともねーよ」
「タンパク質って…じゃ、じゃあやっぱり……するの?」

期待と狼狽で揺れる私を見て、銀さんはまた一段とにやけた。

「や、あんま激しい運動はキツイな。ようは股間が治まって寝れりゃいいんだから、気合い入れて本番しなくてもいいっつうか」
「それじゃあ…どうやって」

問いかけると、銀さんはソファに座る私の上半身を押した。横になれってことだ。
されるがまま寝転がると、その上から下履きをずらした銀さんが覆いかぶさってくる。

「あっ……?」

そのままいつもの、普段通りに「する」体勢になるのかと思ったら、違った。
銀さんは私の上半身をまたいで、ちょうど私の顔のど真ん前に股間が当たる格好になった。

「んっ……これ…!」

支配的な形をとられて、不満ではなく期待が勝るのだから、私はもうすっかり出来上がっている。

「銀サンのしゃぶりながら、自分でいじってみ?さっきみてーに無我夢中で」
「…銀さんのバカ…意地悪っ……!」

口ではそう言いながら、もう身体は吸い寄せられていた。
かちかちに勃起する銀さんの先端に口をつけて、同時に自分の手を秘唇に寄せる。

「んっ…!」
「おっ……」

鈴口にキスをしてから舌を出してぬるりと舐めると、銀さんの身体がぶるっと震えた。
それを嬉しく思って、熱がこもった先端に何度も唾液を絡ませる。
……その熱の感覚と銀さんの反応を見て、再び下腹部がぬるく湿るのを自覚する。
口淫を続けられるくらいの強さを意識して、自分の割れ目を下着の上からくすぐった。

「ちゃんとオナってる?」
「んんっ…ふ、ひやあっ…言わないれぇ…」
「…してんだな。偉い偉い…っと…!」

私をいじめる言葉を中断させるように、肉茎のくびれまで口の中に招いて思い切り吸い上げる。
そうしてから、銀さんの体勢だと私の下半身があまり見えないのだということに安堵する。
恥ずかしさが紛れて、もう少し大胆に指を動かしたいと思うようになる。

「はむっ…ん…ぎんひゃあん……っ」
「お…あ、咥えながら喋んな…モゴモゴすんだろーが」
「んんっ……!」

喋んな、と言うけれど、銀さんの腰は嬉しそうに揺れた。
ちゃんと感じてくれている。

「ふっ…うっ、んむっ…ぷはっ…!」

唾液がこぼれそうになって、一旦肉茎から口を離す。
銀さんの先端からこぼれた粘液と混ざって、チュボッ、なんて音がした。

「気持ちいい…?銀さん、白いの出せそう……?」
「う…く、白いのって…今さらカマトトぶるなってぇの、精液だろ精液」
「んっ……精液、お口に…」
「言い直さなくていいんだよ」

口が離れてしまったことをじれったく思っているようで、銀さんの手が私の頭の後ろに回ってくる。

「ん…ちゃんと、するから…んむっ」

その手が私の頭を無理やり気味に押さえつける前に、私から口をつける。
垂れっぱなしの滲液を軽く吸って、しょっぱい味を舌の上で転がす。

「はあっ…あ、お前はどうなの」
「んっふ…?」
「イケそうか、自分の指で?」
「んんっ…!」

頷く。銀さんに奉仕しながらの自慰は、私を不思議な興奮に駆り立てていた。
クリトリスを何度も、下着越しに強い刺激を求めて引っ掻いている。

「はっ…!さっきの凄かったなー…ポカンと口開けてよ、遠いとこ見ながら必死で指動かしてんの」
「んぶうっ!ひやっ…!」
的に、俺に見せるためのオナニーと、一人でするのは別腹なわけ?」
「んんっ…ひゅ、やああっ…!」

恥ずかしがるのが面白いのか、銀さんはさっきの私の行為を問い詰める。

「んっ、んっ…んんっ……!」
「く…あ、オイ…吸って誤魔化す気か?」
「ふっ…う、らって…んううっ…」

じゅる、と音を立てて唾液と肉茎の先端を一緒くたにすする。
銀さんはもう、そろそろ射精を感じさせるほどに張り詰めている。

先にイッとけ、銀サンのザーメン飲むのはその後な」
「ふあっ…ん、ふっ、むぅっ…!」

一方的な要求に、不満ではなく欲情があふれた。
銀さんへの愛撫をゆるめて、自分の指の動きに集中する。

「は…ふ、はあうっ…んんっ…!」

一度果てそびれたのもあって、自分の手で得る軽い快楽はすぐに上り詰めてくる。
許しを乞うように上目遣いをすると、銀さんは顎をしゃくって許可をくれる。

「んっ…ふ、あ、はふうっ…んっ、ひくっ…ひくううっ……!」
「おっ…は、勢い余って噛むなよ…」
「ふっ、く、ふぅっ、んっ、んんうぅーっっ……!!」

頷きながら、簡単に。
私の下半身はびくんと跳ねて、すぐに絶頂の余韻とちょっとした罪悪感が襲いくる。
でも、今はそれに浸っていられない。
私の奉仕を待ち構えている銀さんに強く吸いついて、口の中にご褒美をもらうために頭を前後に動かしていく。

「あ…出そ……飲めよっ」
「んんっ…ふ、んっ、ううっ…だひへ、ぎんひゃんっ……!」

銀さんの腰からこみ上げる精液の動きを手伝うように、思い切り頬を窄ませて口の中で肉茎をしごきあげる。

「つうっ…あ、イク……!!」
「んんん〜っ……!」

口腔で熱が破裂した。
ひとつの筋になった白濁が、私の口蓋に何度も叩きつけられる。

「んっ…くっ、ん、ごくっ……!」

拒むより受け入れたほうが気持ちいい。
私は放出される銀さんの精液を、何度も喉を鳴らして飲み込んでいく。

「あ…おぉ…おォ、出たわ…」

銀さんが私の口から肉茎を引き抜いて、満足げなため息をつく。

「はあっ…ん、あ、のどに引っかかってる……っ」

苦しげなことを言うと、銀さんは私の身体の上からゆっくり降りてくれる。
自由になった上半身を起こして、唾液と一緒に残滓を喉に押し込んでいく。
そんな私を見てか、銀さんはふと台所に向かう。
冷蔵庫を開ける音がして、それから「お?」なんて声。

「……ありがとな」

麦茶のポットとコップを持って戻った銀さんが、突然優しくつぶやいた。
さっきまで楽しげに私にまたがっていた人と同一人物だとは思えない。

「……早くよくなってね。ケーキ、明日食べよう?」
「おう」

大好き。
この人になら、どうされても嬉しい。









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2016年銀誕。
2年ぶりに銀さん夢書きました…。