どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
浅く広い、複数で入ることを前提としている浴槽のお湯を、これまた妙に広い洗い場から眺める。

「うう……」

イヤだとかやりたくないとか、そういう真っ黒い気持ちじゃない。
胸を支配しているのは緊張と興奮で、なんて言うんだろう……銀さんと付き合い始めたばっかりの頃は、二人っきりになるたびにこんな感情に揺れていた。

……今日はやらしーことするのかな、という期待と不安。
するとしたらどんなことされちゃうのかな。
そもそも今日もうまくいくかな。
……そんなことばっかり考えて、本当に私は色魔でお馬鹿なヤツだった。

「最近は……そうでもなかったっけ」

改めて思うといつしか銀さんとの行為に良くも悪くも慣れていた。
いきなり着物の襟刳りからあの太い腕を突っ込まれて、大きな手で胸をまさぐられるのも…ドキドキはするが、パニックになることはなくなった。
いわゆるマンネリズム的な……慣れることは悪い事じゃないとは思うけど、妙な不安もある。
あちこちで目にするじゃないか。
畳と女房は新しい方がいいだとか。

……なのに、私が不安がって自分から違うことをしようとすると、銀さんは「生意気だ」と言うのだ。

それが今はぜんぜん新しい気持ち。
付き合ったばっかり、触れ合ったばかりの頃に戻ったみたい。

「それが狙いなのかなぁ……でも……」


……銀さんの誕生日を迎える数日前。
私は通帳を抱えながら涙をこぼしていた。

「いきなり壊れちゃうんだもん……」

長年使っていた洗濯機が、ついに動かなくなった。
最初は手洗いですませようなんて考えていたけれど、休みの日に、部屋の隅に山盛りになった汚れ物を見ると気が滅入った。
これを毎週やるのだと思うとタライと洗濯板に八つ当たりしそうになり、泣く泣く貯金を下ろして新しい洗濯機を買った。
……その次の日、急に冷蔵庫のスイッチが入らなくなってしまった。
元々リサイクルショップで買った型落ち品で、当然保証期間は切れている。
迷っている暇もなく、私はまた貯金を下ろして電機屋さんに走った。

……10月、11月はちょっと慎ましい生活を。
そうすれば今回減ったぶん程度は補填できて、不安のない年越しができるはず。
じゅうがつ、じゅういちがつは、つつましい、せいかつ。
ホールケーキやデパ地下の洋菓子なんて言語道断だ。
……私はおバカで流されやすい女だけれど、それくらいは我慢できる。
自分のためなら、我慢できる。

「……銀さん……」

けれど、今年はこんなトラブルのせいで銀さんの誕生日、大好きな甘党天パにお祝いのケーキを捧げることも、
プレゼントとして贈るお菓子をワクワクしながら選ぶことも、
手の込んだご飯を作って喜んでもらうこともできないのだと思うと、なんだか悲しくて涙が出てきた。

毎年ささやかながら楽しみにしていたお祝い。
大好きな人の誕生をお祝いできる慶び。
それが封じられた途端、毎日をふつうに過ごす気力さえ失せていった。

日に日に顔が暗くなっていく私を見かねた銀さんに問いつめられて、理由を白状したときは……もう、なんだか情けなくて悲しくて、涙が出そうになってしまった。

の、だが。



「銀さんの、はじめて……」

今年は誕生日にケーキも、ごちそうも用意できない。
そう言ってうつむいたら「バカかお前は」なんて返されて、思わずムキになったけど。
刹那、私は自分から地雷を踏みに行ってしまったのだと悟った。 銀さんは、いやらしくニンマリと笑っていたのだ。

「……初めて、かぁ……」

シャワーで身体の泡を流しながら、独り言をつぶやく。
銀さんは、あの、ろくでもないことを考えている時の半月みたいな形の眼をサッと隠してから、まるで「とても照れくさいです」と言いたげに頭を掻いた。

「そんな金で買える祝いなんていらねーよ」

口調までちょっと素っ気なく、いかにも照れているように作ってみせて……。

「ただ、ちょっとワガママ言ってもいいか?」

この言葉だってよくよく考えればいつもの銀さんじゃない。
私相手ならば「俺好みのオンナにしてやる」くらい、普段は平気で言う。



「お前の初めてがほしい、ねぇ……」

言われた瞬間はキョトンとした。
そんなものは、もうとっくにあげてるじゃないか。
それどころか、いや自分も望んだけど、もっと恥ずかしいことだって沢山。
困惑する私を抱きしめると、銀さんはあざとく耳元で囁いた。
あんだろ、まだしてないとこ。

「うううう……!!」

今更の悪あがきだとは思うけれど、もう一度ボディソープを手に取る。
指で乱暴に泡立てると、自分の足の間の奥まったところにぐいっと押しつける。
もう一度シャワーで流して、目の前にある大きな鏡で確認しようと変なポーズになる。

「んっ……と、あ、あれ……」

鏡に背を向けてぐいっと押し広げても、身体の固い私はのぞき込むことが出来ない。

「あれー?!ううっ……これじゃあ……」

……そりゃ、ある程度の形なんかは見なくてもわかる。
どうしても気になるときは手鏡を使って確認したりもしたけれど、全身鏡で見ようとしたことはない。

「あ、前から……」

風呂椅子に腰掛け、前屈のように前のめる。
このホテルの備え付けは、ふつうの風呂椅子と違って、なぜか股間の部分に大きな隙間がある椅子なので、もしかすれば前から……と思ったのだが。

「ぬぐぐ……」

やっぱり身体が固いので、それも難しい。
……というか、恋人の誕生日にラブホテルのお風呂で股間を覗き込んでいる私って、いったい、なんなのだ。

銀さんのお願いだとしてもこの状況はひどかった。
特別な日に、いつもと違うサービスをする。
そう言うと微笑ましいことに聞こえるけれど、それにしたってない。ない。

……けれど、ためらう私に、銀さんはとびきり効果のある言葉をふっかけた。
「俺もしたことねーの。お前が初めて」

「そう言われちゃ……ね……?」

銀さんの、はじめて。
直接聞いたことはないけれど、確信を持って絶対そうだと言えること。
……銀さんは、私以前にも他の女の人と付き合ったことがあるだろう。
当然抱き合ったり、キスしたり、布団の中でゴニョゴニョしたりもあったはず。
それどころかアレをああしたり、ソレをこうしたりという、私が後込みする行為だって平然としたのかもしれない。
それを思うと、なんとなく……なんとなく、なんとなく、なんか、なんか、なんとも言えない気分になる。
私は銀さんという人間が好きで、過去のことは過去のこと。
そう言い聞かせても、ふとした瞬間に銀さんは過去の人と私を較べているかもしれないじゃないか…とか。
考え始めると暗い気分になってしまう。

……その銀さんが、自らの口で未経験だと言ったことを私に「して」くれるのだ。
誰かと較べてどうかなとか、これで本当に大丈夫なのかなとか、そんな風な不安に晒されることなく誇れるのだ。

その魅力があまりに強烈だったから、優しくしてね、なんて月並みなことを言いながら頷いてしまった。

「おせーよ、待ちくたびれた」
「わああぁああ!!は、入ってきちゃだめっ!!」

シャワーを流しっぱなしにしたままボーッとしていると、いきなり浴室の扉が開かれた。

「待って、ほんとに待って……!も、もう出るから、おふとん行くからぁ…!」
「いーや待たねぇ、もう痺れ切った、アレだよお前、銀サン聖誕祭なのに肝心の俺を放置プレイすんな」
「放置じゃなくて……!」

とにかく身を隠すものを探してあたふたする私をよそに、全裸になった銀さんがずかずか入り込んでくる。
慌てる私をよそに、さっき銀さんが入った時に張ったらしいお湯に浸かってしまった。

「うぅ〜……やっぱ広い風呂はいーなぁ……」

オッさんくさい感嘆と台詞を吐いてから、内股で縮こまる私を愉快げな顔で眺めてくる。

「お前さ、なにガチガチになってんの?俺言ったよな?別に今日いきなりずっぽしってつもりじゃ」
「いやあああ!言わないで!言わないでーえぇええー!!」

……私が持つ曖昧な知識よりも、おしりでするというのは大変らしい。
今までもふざけるみたいに触られたことはあったけれど、本格的にやるとなると。

「まぁホラ、お前もホラ」

お湯の中で、銀さんが腕を広げる。
一緒に入ろう、という誘いだと理解したが、なにをされるか分からない不安が先立ってしまう。

「おっ、すげー。ジャグジーついてんな」

そう言って銀さんが壁についたスイッチをいじると、突然浴槽のお湯がぶくぶく泡立ち始めた。

「おお、ライトもあんのか」
「あっ?!」
今度はいきなり浴室の灯りが消え、お風呂の底からピンク色のライトがピカピカ輝き始める。

「へ、へー……絵に描いたようならぶほなんだね…」
「絵に描いたってなぁ何だよ」
「え、なんか、ピンクのライトで、でっかいベッドで……」

前にも何度か、銀さんと二人で「こういうホテル」に入ったことがあるのだが、今日の部屋は以前よりも広いし、なんというか、新しい部屋な感じがする。新築。

「……高くなかったの?」

ホテル代、とは言わなかったが、銀さんは行間を呼んでくれたらしい。
湯船のぶくぶくを止めると、大げさにのけぞって呆れて見せた。

「こういうときにゼニカネのこと言うんじゃねーよ。それは配慮じゃねーぞ。プライドをイタズラに蹂躙する行為だ」

にまにました笑い顔のまま私の腰を掴み、強引に湯船に招いてくる。

「なんか落ち着かないっていうか……」

私もいい加減観念してお風呂に入る。
すぐさま太い腕が私を抱きすくめ、浴槽の中で半端に伸びていた足がパカッと開いた。
「真ん中に来いホラ、真ん中」
「う……うん」

いや、銀さんの足の間に座ってしまうと、おしりに銀さんのアレが位置することになっちゃうんだけど。
いつもなら喜んで身を預けるのに、前提条件が「ナニ」なので後込みしてしまう。

「熱くねーか?大丈夫?」
「う、うん…温度はちょうどいいかな……?」

けれども座り込むと、大きな手のひらが浸かりきらない肩に掛け湯をしてくれる。
まるで慈愛の心を持って、私をいたわるようだった。
……ああ、もう、変なことを考えてガチガチになるのはやめよう。
全部銀さんにまかせちゃえばいいんだ。



「あ、あの…銀さん、私、ホント、ノープランなわけですけど……」
「あん?」

二人してお湯から上がり、バスタオルで水気を拭う。
振り返った銀さんの下半身を見て、一度は解けた緊張が戻ってきた。

「も……もうおっきいの、銀さん……」

お風呂の中では「大人の余裕」なんて言っていたのに、今はびっくりする程上向きだった。

「身代わりの早さも大人の特権なんだよ」

そう言って私にバスタオルをひっかけると、濡れていないところまでわしゃわしゃし始める。

「ぶはっ…ちょ、も、もう平気だから……ね、ねえ…あのさ、あの、さっきも聞いたことなんだけど、私、ほんと、なにも用意してないよ……?」
「その辺も心配すんな、銀サンにぜーんぶ任しときな」
「……逆に不安なんだけど……」

中を洗ったり、ヌルヌルさせたり、慣らしたりするためのアレコレが必要だったりするのでは?

「言ったろ?今日は別に最後まで出来なくてもいいんだよ」
「それがわかんない……」

不安がるのはよそう、なんて思ってもやっぱりダメだ。

「ねえ、銀さん……」

ベッドに上がってもまだマゴマゴしている私を、銀さんが無言で抱きしめる。

「いつもの調子でいーんだよ」
「いつもって……」
「いつものだよいつもの、おら、パカッてしろパカッて」
「パカッ……え、ええぇええぇ?!わあああっ!!」

仁王立ちになった銀さんにいきなり足首をひっ掴まれて、色気もへたくれもない声が飛び出してしまう。

「うぉらご開帳、ありがたやありがたや」
「その辺はもう少し自重してよぉー!!」

なす術もなく大開脚した私の足の間を、モジャモジャとくすぐったいものが撫でていく。
言うまでもなく銀さんの髪の毛で、ニヤニヤ笑ったままの頭が覆う物のない股間に近付く。

「ううっ…いきなり……ロマンもアガペーもない…!!」
「アガペー?まァたてめーは口だけ達者になりやがって…ん、平気だ平気、ロマンはないけどおまんピーはある」
「あんまし言いたくないんだけどくたばれっ……あ、あ、あぁ……やだっ……!!」

フンフン、と意図的に荒くした吐息が、股間の陰りに振り撒かれる。
両手を足首から太股らへんに移して、銀さんの唇がそのまま陰毛を挟む。

「わひっ……?!あ、う……うぅ?!」

絶妙な力加減で陰部の肌が引っ張られ、震えた途端に抵抗する意志は弱まってしまう。

「バカ…銀さんのバカぁ……ああぁ…ん……!」
「言ってろ…てめーの方がばーか」
「んくうっ……?!」

陰毛を弄んでいた舌先が、唾液をまとわりつかせて粘膜をうろうろし始める。

「はふ……はぁ、はぁ……あああ……う……ンッ…!!」

一際大きな声を上げそうになって口を閉じる。
結果鼻から変な音が漏れたけれど。

銀さんの口腔が肉芽を包皮ごとくるんで、生ぬるい粘膜の中で刺激を与え始める。

「ぎ…んひゃ、い、いきなり、ほんと、いきなりすぎるから……あぁ……!」
「んーっ…ふ、ん……」

銀さんはとぼけるように鼻息を漏らすと、わざとらしくぐちゅぐちゅと音を立てる。

「うあっ…ひ、あぁあ…あぁ、ん……だめ、吸わないでぇ……!!」

柔らかい舌とぬるぬるの唾液が、包皮に隠れたままの肉芽を何度も撫でつける。
軽く吸いついてはくるのに、剥き出しにしようとはしない。
あくまで皮ごと、ゆるやかな愛撫を続けてくる。

「うぅく…へ、へんなの…や、やめ…て、やめ、えぇ……ん……!!」

本当に、変だった。
私が身悶えすればするほど、銀さんの愛撫が弱くなっていくのだ。
いつもはそのまま強く吸って、私が歓喜まじりの悲鳴を上げてもお構いなしなのに。
今日に限って、気持ちよくなっていけばいくほど刺激が減っていく。

「ぎ…ん、さん、なに、する……つもりなの……?」

「んー……」

もはや肉芽を舐めているんじゃなくて、銀さんがつけた唾液を優しく舌先で拭っているだけだった。

「ぶはっ…おぉ、エロいエロい」
「な、なんなのぉ……!!」

全身を襲うムズムズした感覚が引いたあたりで、銀さんはついに口を離してしまった。
よだれと、ちょっとずつ垂れていた愛液で濡れる粘膜を眺めてへらへら笑う。

「へへ…いきなりはイヤって言ったよな」
「え……それは……んあんっ?!」

太い指が、撫でるような優しさでクリトリスに触れる。
今度は指でするつもりなのかと思ったのにそれもすぐ離れて、疼きを持て余す私を笑うようだった。

「このさぁ、どーにも酸っぱい匂いが……」
「ひわぁっ?!やだ、やだやだ匂いなんて言わないで!」
「ばっか、お前、嫌だっつってんじゃねーよ」

まるで乙女が花を香るような仕草で目を閉じて、銀さんが鼻先を私に近づける。
慌てて足を閉じようとしたけれど、いつものように手で封じられている。

「なんつーかムンムンしてさぁ……」
「んぅう……!!」

反応を楽しむように弱く息をかけて、銀さんの視線が私を眺めている。
……最初は抵抗したのに、結局今ではもう求めてしまっている。
下半身が大きな刺激を欲しがって、卑しくヒクヒクしているのが自分でわかる。
恥ずかしいのに、銀さんからの愛撫を恋しく思ってしまう。

「は…半端なの、やだよ……」
「んー?半端ぁ?あ、もしかして、もーちょいでイキそうだった?」
「う、ううぅっ……!!」

こんな風に返されるのも、なんとなく予想はしていた。
銀さんの顔はいかがわしい形を作っていて、私が恥ずかしいことを言うのを待ちかまえている。

「……い」
「い?」
「……き、そう、だったよ……気持ち、よかった……」

黙ったままは、逆に意のままになっているようで悔しい。

「いきなりやめたら、変な感じになっちゃうよ……」

ニヤニヤ顔から視線だけ逸らして、遠回しなおねだりをする。
頬の高いところが熱い。
何度経験したって、こんなことは冷静に言えない。

「65点だな」
「えっ?」

……だというのに銀さんときたら、顎に手を当ててわけのわからないことを言った。

「このくらい言えばカンベンしてくれるよねテヘペロ的な下心が見える。よって35点減」
「えっ?えっ?!な、なにを言ってるの……?!」

目を白黒させる私に、身を起こした銀さんがのしかかってきた。
そのまま二人全裸で、シーツの上にもつれ込む。

「あの…銀さん……?」
「もっとさー、銀サンがほしくってたまんないのー!っていうさー、本気のおねだりが聞きたいっていうかさー」
「えええええ……っあ、ひゃあぁっ?!」

大きな声を出した私の顔を押さえ込み、耳たぶらへんを銀さんの指が滑る。

「まァそれは言わせることじゃねーからな」
「や、わ、ああ……こしょがさないで……っ!」
「無我の境地に至った末に勝手に股間が言わせることだかんな」
「へ、へんなことばっかり……あぁあっ!!」

クシュクシュと耳の産毛を撫でられる。

「や、やめへぇっ…わ、わたし、くしゅぐったいの、弱っ…弱ひぃ……」
「おー知ってんよー?お前のことならなーんでも知ってんだから、銀サンってば」
「だめ…あああぁ……!!」

ベッドの上でじたばたする私の耳をまるで性器のように弄びながら、銀さんはへらへら笑う。
耳の穴に小指を浅く入れ、肌を粟立たせる私を楽しんでいる。

「俺のためなら何でもやっちゃうしょーもねー奴だって、ちゃんとわかってんよ」

ひとしきり私の耳で遊んでから、銀さんの手指は背中を伝っておしりのえくぼを撫で始める。

「ふあぁっ!や、あ、ああぁ……い、いきなり……!」
「んー?」

銀さんのいじろうとしている場所を悟って、私は慌てて正気を取り戻す。

「おら」
「んむむっ……?!」

が、自分の背後に目をやる暇もない。
銀さんの唇が、私の口腔をたっぷり味わうキスで塞いでしまう。
よだれも舌も遠慮なく吸われていく。

「んふっ…う、ん…ぎんひゃぁん……!」

耽溺しそうになりながらも、銀さんが私の背中に回した手で何かゴソゴソしていることに気がついている。
なのに、それを大きく拒むことができずにいる。

「ぷはっ…ほら、力抜け。四つん這いになれって」
「えっ?え……あの……?」

さんざん口の中を舌でひっかき回してから唇を離して、銀さんはいきなり私の腕を引っ張る。
そのままベッドに手をつかせて、今度は背中を押してくる。
そうすると言葉通り私は四つん這いの格好になってしまって……その上。

「ひわぁっ?!いっ、ひ、あ……?!やっ、ちょっと、なに……?!」

おしりの割れ目が銀さんの手の平で押さえつけられ、ぐいっと皮膚を広げられる。
その瞬間に、今日の本来の目的への覚悟はしたのだけれど。
直後におしりのくぼみに当てられたものが……なんだか、変なものだったのでパニックになる。

「や、やっ、えっ……?!」

指よりもずっと硬くて、ツルンとしている。
その上なにかニュルニュルというか、ベトベトというか……とにかく変な感触だった。

「それっ……え、銀さん、それ、なに?!」

私があんまりに慌てるからだろう。
銀さんは押さえ込む腕をゆるめて、手にしたものをかざしてみせた。

「別に変なもんじゃねーよ、ホラ」
「……あ、これ……ローター……?」

楕円形で、中のモーターが透ける透明なプラスチック。
そこから細いコードが伸びて、ベッドの上にぽんと置かれたチャチなダイヤルリモコンに繋がっていた。
そんなすっごくありふれた…というのも変だけど、ありふれた「大人のおもちゃ」に、ピンク色の避妊具がかぶせられていた。

「わ、あ…あと……」

ヌルヌルすると感じたのは、ゴムに塗られた潤滑油だったらしい。

「……こんなの、よく思いつくね……」
「しみじみ言うな」

これなら銀さんの指よりちょっと太いくらいだし、ゴムで覆ってしまえば汚れも気にならないだろう。
なんだか、されるとすればもっとデンジャラスなことな気がしていたので……騒いだ自分が恥ずかしくなる。

「あ……あの……」
「ほらほら真っ赤になんねーの。おちり向けまちょうねぇたん」
「…………」

こっちがちょっとでも受け入れる姿勢になるなり、これ。
赤ちゃん言葉で私をあやすように言いながら、銀さんはもう一度私の臀部に手とおもちゃを持っていく。

「はぅ……う、うぐっ……ン……?!」

硬質なプラ玩具は身体に馴染まないけれど、形を変えることもない。
おしりの穴が勝手に拒んでギュウッと力を入れてしまっても、平気でずぶずぶ入り込んでくる。
……もちろん、それはおもちゃを押し込む銀さんの指があるからなんだけど……。

「はぐっ……ううぅ……!!」
「力むなほら、ヒッヒッフーだ」
「あはぁっ?!へ、変なこと言わないでよっ!……んっ……!!」

息を口から吐いた瞬間、楕円形のおもちゃが一気に奥まで入って来た。

「はぁあぁああぁあ……!!」
「おー……入った入った、すげぇ、のけつ」
「けつって……ばか、ばかっ……あ?!うぐ……」

おもちゃが全部入り込んでしまうと、もうおしりのいりぐち付近への圧迫感はない。
代わりに浅いところに苦しくなるような重たさがある。
怒ったり叫んだりして身体に力が入ると、筋肉が収縮して勝手に自分で違和感を増大させてしまう。

「ふっ、う、う゛うぅ……」
「力むな、そのままなー?」
「く……も、もう、このっ…楽しそうにしないでぇ…!」
「いやーこりゃ楽しくなんねぇ方が無理だわ、へへ、うら、うらうら」
「あ゛ッ?!」

自由に身を動かせもしない私に、さらに奇妙な感覚が襲う。
銀さんが、ローターのスイッチを入れてしまったのだ。

「あっ、あ、やだっ、ああぁあ……?!」

ただでさえ異物にビクビクしていた粘膜が、内側からの機械的な振動についていけない。
私はベッドに手をつくこともできなくなって、臀部を高く突き出したままうつ伏せにヘたり込んでしまった。

「ああっ…あ、あ、あぁっ……やああぁあ〜〜〜っ……!」

拒否の言葉さえ出ない。
まるで快楽に媚びているような間抜けな声が漏れるだけ。

「ぎ、ぎんしゃ、これ……あっ、う、う゛っ…んぐぅ……!」
「へへ…こーんなけつ突き上げちまって、やらしーねお前」
「や、やらひーんじゃなくて……ああぁああ?!」

ようやく反応できるようになったと思ったら、振動が強くなる。
慌てて視線を動かせば、銀さんがにやにやしながらリモコンを握っている。

「も、もぉ……いぢわる、ばか、変態っ…あ、ああぁ…ん、んぁぁあ……っ!!」

機械的な振動は、私の内側をどんどん充血させていく。
血が集まってほぐれていくと、望まなくても肉穴がこなれていってしまう。
だんだんと違和感よりも、おしりの粘膜を通じて膣穴に響いてくる気持ちよさに心が傾いていく。

「おわ……おい……」
「え、あ……ああぁ……っ!!」

背後で銀さんが息を呑む。
私にもわかった。
さっきよりもずっと濃い愛液が、膣穴からどろりと垂れ落ちた。

「は……ふぁ…だ、め、これ、だめぇ……おしり、だめだよぉ……!」
「すげーよお前、こんなんなるなんて銀サンも予想外だわ……」

嬉しそうに、愉快そうに。
銀さんは私の臀部に顔を寄せ、感嘆の声を上げる。

「ちが…これ……おしりがきもちんじゃなくてぇ……!」

快楽と、追いつめられていく思考のせいでうまく言葉にできない。

「お、ひり、じゃ、なくてへぇ……!!あうっ、あ…あぁ…あぁ……おしりのビリビリが……」

いくら私だって、ほとんど未経験みたいな肉穴でこんなに悶えているわけじゃない。
この快感にはちゃんと理由があって……なんて、必死に言い訳したくなる。

「ひ、ひびいてくるの…お、しりがいいんじゃなくてぇ……んあぁああああっ!!」
「ほー…この辺に?」
「やっあ、アッ…あ、あああぁああ?!銀さんっ!!だっ…だめっ、ああぁああーーーっ!」

内側からの緩慢な刺激でどろどろになっていた秘処に、いきなり大きな震えが走る。

「あっ…ああ…は……!!」

「おいおい……今のでイッたの、お前……」
「ひっ…い……あ……!」

肯定のためにうなずくことすらできない。
予期せぬ刺激に驚愕しながら、私は簡単に絶頂してしまった。
銀さんが私のクリトリスを指で挟んで、いきなりつまみ上げたのだ。

「ひ……ど、銀さん、ひどいっ…いきなりぃ……!」
「いやー、俺もいきなりイクとは思ってなかったわ、悪い悪い」
「んひっ?!そ、そー言いながら何でまたっ、あ…あ、ああぁああぁあ?!」

ぜんぜん悪びれない口調で言いながら、銀さんの指が小刻みに動き出す。
充血しきった肉芽は痛いくらいに感度が上がっていて、私は言葉もろくに紡げずにされるがままだ。

「ひっ、あ、お、おかひ…く、なっちゃぁう…!」

銀さんがくりくりと肉芽を可愛がる間も、おしりの中のローターは震えっぱなしだ。

「ぎ、銀ひゃ、の、ば……か……ああぁあ……っ!!」

……おしりの中を揺るがし続ける振動と、一番敏感な肉芽を擦り続ける指。
それだけの大きな快楽に挟まれながら、身体の芯が、まだ足りないでしょ、と疼き始める。

「お、まーたぴくぴくしてんな」
「はんっ、う、ぎ…んしゃ、く…クリ、しごくの、やめひぇぇ……っ!」
「何で?またイキそうなんだろ?」
「へあぁあっ!ち、ちが…ちが、あぁああ……や、ンっあ、ほ、ほんとに…ホントにぃいいい!!」

意地悪く愛撫を続ける銀さんに、必死の思いを籠めて叫ぶ。

「お…っ、お、おまんこ…おまんこ足りないのっ……!銀ひゃんのいれてくれなくちゃ、だ、ダメえぇええ……!!」

悲鳴じみた声を上げた瞬間に、うつ伏せだった身体がひっくり返された。
そのまま銀さんが肉茎をめり込ませてきたから、私は息をつく間もない。
……酸欠状態の脳みそが、私を軽い解脱状態にさせる。
これってさっき銀さんが言ってたやつじゃないか。
無我の境地に至った末にどうたらって。

「あッ、ア、あーッ!銀さんっ、銀さんっ、ぎんひゃ、ぎんしゃあぁあぁあん……!!」

そんな馬鹿なことをまじめに考えたのは一瞬だけで、すぐに現実に引き戻される。
大好きな人としっかり繋がって、その熱さを身体の奥で感じ取る。

「可愛いツラしやがって…!っは、おま、んな顔でなぁ、だいしゅき〜なんて言われたらなぁ……!」

銀さんは我を忘れたように、息を荒くして私を突き上げる。
その合間合間に言葉を紡ぎ、私の耳を幸せにしていく。

「はっひ、だ、だいしゅきっ…だいすきって言えばいいの…?あ゛っ、あがぅうっ!お、おねがっ…お、おしりの…抜いてぇえ……!!」

まだ、粘膜を隔てた向こう側でおもちゃが震え続けている。
銀さんが膣穴を圧迫するから、その刺激を余計に強く感じる。
でも、こうなってしまうと邪魔でしかない。
ただただ銀さんだけを感じたい。おもちゃはいらない。

「ぬいてっ…おしりのぶるぶる抜いてえぇ……!」
「甘えんなゆとり教育世代!自分で抜け、俺は…おっ…く、てめーのまんこに忙しいんだよ……!」
「ひどいこと言わないでっ…いじわるしないでっ、あ、あっ!あーーっ…あ、あぁあぁん……!!」

単に引っこ抜けばいいだけなんだろうけど、そんな仕草さえももどかしい。
それに入れたのは銀さんなんだから、ちゃんと責任を取ってほしい。

「ぬいてぇっ、にゅいてぇ…にゅいてぇええっ!ぎんしゃ、ん、が、おしりの、抜いてぇ……!」
「……ったく……!!」

熱に浮かされる頭を左右に振ると、銀さんが舌打ちしながら私の臀部に手をやる。

「んくふぅうぅうっ?!あっ、あ、ず、ずるぅって…抜けちゃっ……あ〜っ!!」

喉や肺を越え、おなかの奥から響くような濁った声が突き抜けてしまう。
躊躇なくローターを抜かれる動きに腸壁が引っ張られ、そのせいで膣穴と、その中の銀さんが一緒に痙攣する。
普通は感じようのない、不思議な刺激だった。

「変だよぉおっ…銀ひゃあっ、わらひ、銀ひゃんにどんどん変にされちゃうよぉ〜〜っ……!!」
「元々変な奴だろオメーは…ん、やべ……ちょっと早ぇ…やっべ…!」

銀さんが急に、大きな腰の動きを止めてしまう。
かと思えばいきなり片手がクリトリスに回ってきて、中に響く快感と肉芽をしごかれる刺激がいっしょくたになる。

「ああッ…あッ、だめええぇっ!!ぎんひゃんんっ!しょこらめぇええっ!!」

制止を求めて腕を伸ばしたけれど、銀さんはやめてくれない。

「いっつも俺が早漏にされててムカつくんですけど!!何なのお前?!何なの?!」
「ふあっ?!そー…ろー…な、なんのこと…ンくあぁあっ?!」

肉茎が奥まで突き入れられる。
口から変な吐息がこぼれるが、気にする間もなく銀さんが先端を押しつけてくる。

「やあーっ!い、いいいぃいっ!いっ、ちゃ、うううぅっ…銀さん、ぎんさぁんっ!!」
「さっさと……おら、おらっ」

銀さんは何か急くように乱暴になって、私を追いつめていく。
言われるまでもない。
もう、破滅的な絶頂が押し寄せている。

「ぎんひぁ、い、あ、いっ、いっ、いっ…く、あ、ああっ、い……イクうぅうぅ……っ!!」

言っている側から下腹部がぶるぶる震えて、そこから伝染するように全身にフワフワが広がっていく。

「いひぁっ…い、いっちゃ……った……んんっ…!」

頭がとろけてしまう寸前に、銀さんの熱が中で噴きこぼれるのがわかった。

「ふー…毎度毎度ギリギリだっつの……」
「ぎんひゃん……?」

弛緩した様子で私の上にのしかかった銀さんが、何か独り言をつぶやいている。

「結局いつも調子狂っちまう」
「んん……?」

おもむろに、汗ばむ胸板に顔をよせる。

「銀さん……誕生日プレゼントに、なってた……?」
「あ?」
「私、ちゃんとプレゼントに……」
「あー……」

なってたよ、と言われたかった。
けれど銀さんは悩むようなそぶりを見せて、私の方を向いてくれない。

「銀さん……?」
「あんまし意味ねーなーっていっつも思ってる」
「え…なにが……?」

なおも問いかける私の頭を、いきなり大きな手のひらが鷲掴みにした。

「もう俺はお前に夢中ですっつってんの!いっつもいっつもお前に振り回されっぱなしだっつうの!」






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2014年銀誕でした。
おめでとう銀さん、今年も書けてよかった……。
(今年のホワイトデーぶりだから、半年以上開いたな…)
いつものようにオチがない。
自覚はあるんですが、新しく書くたんびに夢子のおバカ度が増してるかんじ。