「はい銀さん」
「おう」
「はい金さんも」
「悪いな」

テーブルを挟んで向かい合う、銀のヒーロー金のヒーロー。
その二人の杯にそれぞれ酌するのは、なんだか変な気分だった。
元々私は、こういう接待の経験が極端に少ない。
自分じゃお酒を飲まないし、お酒につきあわせるような知り合いもいないし。

いまいち記憶がフワンフワンしているのだが、かぶき町全体を巻き込んで銀さんと対立した金さんが、
どういうわけかふと、万事屋銀ちゃんに顔を出した。
いきなり取っ組み合いが始まるかと思いきや、意外や意外。
銀さんの方から「まぁ、座れ」と言い出した。
それから私に晩酌の用意を命じたので、私は見よう見まねでたどたどしく熱燗を差し出している。

「ふん……俺ァな、お前のことを認めてないわけじゃあねェ」

金さんが杯を傾けて喉に酒を流したのを見て、実にこう……なんと言うのか……「お説教モード」で、銀さんが口を開いた。

「ほぉ……俺を受け入れると?ヒーローとしてのありかたを?」

銀さんの、たとえは悪いがクダを巻く酔っぱらいにも通じるような、気だるいのに重たく説得力のある声。
それに応じる金さんは逆に、美青年を象徴するようなさわやかな声だが、口調にはどこか挑発的な色がある。

「そらァな、俺からすりゃあお前はいけすかねえ。理屈抜きにな、本能的に鼻につく奴だ」
「だろうな、俺もだぜ……俺を完璧だと思い知らせるためにはお前の存在が不可欠だってトコが、また癇に障るな」

俺俺お前お前。
ありかたこそ違うがヒーロー二人が交わす会話になんだか頭がこんがらがりそうになる。

「おう。お前の言うとおりだ。お前がなんで生まれたかって……そりゃあ、俺が不完全だからだ。周りの連中が、完璧な人間を求めたからだろ」
「ったく、つくづく頷くのが嫌な話をフッ掛けてくるねェ……困っちまうぜ」

そう行って眉を寄せつつも、金さんは呆れ笑いをする。
……前に、大きな病院の喫煙所を見かけたことがある。
ガラス張りで、灰皿と換気扇が設置されているだけの、病室とは完全に切り離された空間。
だからこそだろう、あのケムリを吸う人たちの間だけに構築される関係のようなものがあるなあ、なんて思った。
それと似た雰囲気を、今の二人に感じる。
私もお酒を飲めるようになって、たとえばお妙さんとかと二人きりになれば、こういうそれっぽい話ができるようになるのだろうか?

「お前は言ったよな。俺……坂田銀時はヒーローにふさわしくねぇ、と」
「言ったなァ。キチッと覚えてやがんじゃねえか。よくもまぁそれでも横柄にヒーロー続けられるモンだよ」
「ったく憎まれ口叩くなよ。腐んな、恨み言ぶつけてーんじゃねえよ」
「腐るさ。それが順当ってモンだろ。主人公に負かされちまった哀れな当て馬は、二度と主役ヅラできねぇよ」

銀さんが頭を掻くと、もしょもしょの髪が大きな手のひらに絡まって揺れた。
金さんはヘラリと笑って天井を仰ぎ、その拍子にサラサラの金髪が額からこめかみへ流れていく。

「俺ァな、思うんだ。お前は……正しい」
「……ほォ?」

絶妙な「タメ」を持って放たれた、銀さんによる金さんを肯定する言葉。
それを金さんは驚くことなく……むしろ余裕を持って受け流す。
……きっと次は、その肯定を「だが」「でも」でひっくり返す言葉が来るのだろうと。

「……んだが」

ほら、やっぱり。
行き場なく正座をしたままの私でもわかる話術。

「同時に、俺も正しい」
「えっ?!」

驚きの声は、私のものだった。
けれど銀さんはそんな私は意にも介さずに、そのまま持ったお猪口を振りかざして続ける。

「この世には、正義も悪もねェんだ。ただ未熟なモンと、成熟したモンがあるだけだ」

金さんはその言葉に、まだ黙っている。

「……って、キリストだっけ?あれマリア様?アラーの神?なんだっけ?誰かも言ってたろーよ」
「ハハッ、てめーはそう来ると思ってたよ!」

絶妙にぼけぼけになった銀さんに笑う金さん。
二人の間では、このやりとりだけでもう和解が成立しているのだろうか?
私には……銀さんが話をどこへ終着させようとしているのかわからない。

「俺みたいな男がいるからこそ、他の漫画のヒーローが安心して格好イイ顔できる。必殺技名とか恥ずかしがらずに叫べる」
「……そうだな。全員が全員超人だったら、そりゃあもうそこでは普通の人間だからな」
「おうよ。俺たちは元々引き立て役を買って出たんだ。そこで金か銀かなんて争うのはヤボだろ」
「だな。俺だってもう…お前に成り代わろうなんて思わねェ。考えもしねェ、望みすらしねーよ」
「だろ?キレーもキタネーもねぇよ。俺たちゃこの世界で生きてる。等しく生きてんだよ」
「よせよ、そこまで庇われると逆に情けねぇ。ようは人の評価ってのは、自分で自分を認められるかどうかってことに帰結すンだな」
「そ。なんでプーの自称バンドマンに尽くしてる女が幸せそうかっつったら、彼女がそのプーと自分を愛してっからなんだよ」

「…………」

なんなんだろ、この二人。この雰囲気……。

「てめーあそこの方はどうなの?直ったか?」
「ぶふっ!!」

妙な気配になったと思ったら、突然銀さんが下品なことを言う。
が、慌てた私とは反対に、金さんはまた軽く笑うだけ。

「やったのはお前だろうが、ああ心配ねえ。幸い……俺の身体は代替が利くんでね」

お下品合戦に行くの?という考えを裏切り、なんだか話はこみ入ったほうへ流れていく。

「坂田銀時……てめえのナニが一番憎たらしいかって言ったら、不完全ゆえに代わりなんていねぇってことだ」
「んーな難しい事でもねーよ。人間欠点がある方が下に見れて楽だろ付き合いが。お前はおりこうさん過ぎたんだよ」
「言うなァ万事屋銀ちゃんよ」
「なになにてーしたことねーって坂田金時」

ハハハッ、と、二人の笑いが客間に響く。

「……あのさ、どうなったわけ、それで」

笑ったまま。
目をまるでカマボコの断面図みたいな半楕円にしながら。

「ん……お前が心配するようなことじゃねェよ」

流麗な目尻のまま。
どこか憂いを帯びた瞼にかかるサラサラヘアーをさりげなく振り払いながら。

「いやいやいや、責任感じるなって方が無理だわアレは、俺のせいだもん、いくらなんでもアレは非道の行いだったって反省してんの俺」
「あ?だから気にするなって、あれくらいのインパクトがねーと、お前と同格になれなかったんだよ」
「二人とも、なんの話……?」

二人とも笑ったままだ。
銀さんはにかにかと、つり上がる目尻に口角で。
金さんはくつくつと、美麗なカーブの瞼と唇で。
なのに……なんだろう……その、なんだろう。
めっちゃくちゃ、よくない雰囲気だ。

「いや、それは俺がやっちゃった事であってさ」
「いやいやここは流しとこうぜ過去のことは。もう心配ねぇって、気にしてねえよ俺」
「いやいやいや、だってアレだよね?ボキッとイッたもん、一番大事なジョイスティック折っちゃったもん俺」
「いやいやいやいや、一番大事なものは折れちゃいねェ。アレも大事っちゃ大事だが、一番大事なのは胸にある魂だ」
「いやいやいやいやいや、だからさ心配ないってどういうこと?術後の経過はどうなの」
「いやだから、言葉の通りだ変に勘ぐる必要ねェ。スッキリしたよむしろ、俺ぁこれからは心のジョイスティックに殉じて生きてく」
「いーやいやいやそうは言ってもさァあれももう一つの魂じゃん?男にとっては本体に等しいじゃん?むしろ他がオマケじゃん」
「いや違げぇよだから、そういう考えから解脱して聖人として暮らすんだって、このカルマの浄化ぶりからして俺来世は神に近いかもな」
「いやあのさお前さ、俺いっつも思うんだけどなんでそういうインチキ宗教の奴らって自分の来世が霊長類だと思ってんの?」

……あれ?
最初の一杯目以降注いだ記憶がないのに、気づけばテーブルの上に何本もの徳利があった。空っぽの。

「そりゃアレだ現世で人のタマをやったりした罪を意識するだろ?そして贖罪に生きるだろ?んなら来世が虫や獣なんてことはねェよ人間より上の存在だよ」
「ちげーよお前、罪の定義ってなに?もしかしたら贖罪を上回る勢いで新たな罪を背負ってるかもしれないじゃん?」
「新たな罪って何だよ?意識できねェ罪なんぞ大したことねェ。徳の高い行動を取ろうとする気持ち以上になることなんぞねェ」
「いやさ意識してないことがまず罪の乗算じゃん。かけ算じゃん。お前が石でつまずいて作った土埃で滑って転んだ奴とか絶対いるよ?そういうこと考えたら罪なんかあがなってもあがないきれねーよ」
「そんな風が吹けば桶屋が儲かる形式で考えて行きゃあキリがねーよ。そんなことでイチイチ悩んで贖罪をためらう方が馬鹿馬鹿しいぜ」
「へーそんなことなわけ、お前にとって股間のジョイスティック折られちゃったのってそんなこと程度で片づけられるわけ、さっすがパーフェクトキントキだわー」
「あァお前それが言いたいだけだったんだな?人が大人の対応してやってんのに執拗に絡んできやがってテメーは」
「おうおうついに本音が漏れたじゃねーか。なにその物言い、してやってんのにって何?それが人の人生メチャクチャにしかけやがった奴の態度なわけ」
「俺もお前も正しいとか言ってたのァどこのどいつだよ?あ?」

これは……。

「しかもさーお前なに身体復活さして平然と俺んちきてるわけ?俺の前に座ってるわけ?俺の彼女に酌させてんの?」
「勝手に家に入れて酌さしたんはお前だろーが。悪質な貸し付けしてイチャモンつけんじゃねえよいい加減にしろ」
「うっせーよ貸し借りで言ったらテメーはもう俺に一生どころか何度転生しても返し切れねぇ負い目があんだぞ?!」
「転生しても人間になるとは限らねえと言った舌の根どころか唇も乾いてねーだろふざけるな」
「あ?!何だテメーまた折られてぇのか?!ジョイスティックもういっぺん折ってやろーか?!」
「もう折られねえ!手前ェと違うんだよ、同じ轍は二度と踏まねえ、あんなヤワな股間パーツなんぞスクラップだ新しいのをつけた!」
「新しいのォ?えっ新品未使用ですかー、へー、まぁねー俺もそのォちょっと野蛮な部類に入るんでぇ、結婚まで貞操貫く男かっけーとは言い切れないんでぇ、あー」
「黙って聞いてりゃいい気になりやがってシバき倒されてえのか?!言っておくが俺ァ股間ナシでもそこのをお前と同格にひーひー泣かせるテク持ちだぞ!」
「いい気になってんのはテメーだろーがコラッ、そんなに自信あんなら見してみろよ新品のアームストロングキット!スナップフィットじゃねーの?引っ張ったら取れんじゃねーのか?!」

金さんが「そこの」と言って私をちらっと見たのと同時に、銀さんは立ち上がった。
すると金さんも立ち上がって、もはや晩酌ではなく怒鳴り合いになった二人は殺意を露わににらみ合う。

「や、やめてよ二人とも……」

わけもわからず虚空にのばした私の腕を、銀さんがぐっとつかんだ。

「まー見なくてもわかるよな。は俺が一番だよな?」
「えっ?え……え?」
「テメェそりゃ確認じゃなくて押しつけだろ、本当は自信がないんだろ?「俺が一番だよな?」って言い聞かせてるんだろ」
「ぶっ殺されてーのか股間ネジ男!なぁ?は俺以外知らねーもんな、知らなくていいもんな?」
「えっ、え?う、うん……うん」

あれ、と、ちょっと首を傾げてしまった。
私はいつだか、金さんにイジられたことが……あったような、なかったような……。

「恥ずかしい男だなァオイ、「言わせちまってる」よ、なァ、無理すんなって」

背後から手を回してきていた銀さんと向かい合って、ちょうど私を挟む形で金さんが目の前に立つ。

「コイツがいない間、俺に気絶しそうになるくれーイジリ回されたの忘れてねーだろ?」
「う……うん?そうだっけ?あれ?」
「はぁ?!てめっいつの間に…金魂篇突入中はどこにもいねぇと思ったらそんなことやってたのかよ?!」

……金さんがジッ、と私を見つめた瞳の中に、「モヤモヤ」だった記憶の答えがあった。

……そうだ。
金さんの洗脳からいち早く目覚めた私は問いつめた。銀さんをどこへやったのだと。
そして、それから。

「し、してないよ、私戦ったもん!」

それを信じるなら、私は嘘は言っていない。
金さんに拷問じみた快楽と苦痛の責めをされながらも必死にあらがった。
それに金さんは股間がポンコツパーツだったし。
もっと言えばそのやりとりのせいで私は世界から排除されてしばらく戻ってこられなかったのだが……。

「私、銀さん以外の人なんて絶対にないよ!」

……目の前に、すっかり毒気が抜けた様子の金さんがいる今言うのはなんだか後ろめたかったが。
でも……こう言うことで、私は自分の銀さんへの想いを改めて実感できる。

「……坂田銀時、テメー不安になったろう?一瞬でもコイツを疑っちまったろう?」
「……」
「銀さん、ないってば!ちょ…き、金さんも変なこと言わないでよ!」
、教えてやるよ。男ってなァな、仕事と夜の営みに関しちゃ完璧主義なんだぜ」
「知らない、銀さんのことイジめるならまた怒るよ?!」

……慌てて銀さんを見上げたのに、その顔が伺えない。見せてくれない。
それによって、金さんの言葉が銀さんの痛いところをついたのだと悟って、そうなると自分にできることは怒鳴るだけだ。

「おい……またって何?」
「え?」
「また怒るよって、おまえ、コイツとサシで会ったことあんの?」
「えっ、う、うん、うまく言えないんだけど……」
「なにしてたんだよ」
「え、ちょっと、ちょっと待って、え、どうして…?どうしてそんなこと言うの……?」

疑わないでよ。
どうしてそんな冷たい態度取るの、なんていう被害者意識が高くなっていく。

「おうおう万事屋銀ちゃん、彼女より俺の言葉を信じるかい?絆とやらはどーした」
「……いや、違うぜ」

あ、怒ってる。
銀さんの声や私の頬に伝わる心臓の音が、不穏なものから怒りへと変化していった。
金さんの言葉でとどめを刺されたのだ。
やめて銀さん、怒らないで、疑わしいことしたのは謝るから、というせりふが頭の中に沸いてはすぐにかき消えて、
どうにかしなくちゃ……と思うのにどうにもできない。

「怒ってねーよ?」

うそつきの顔でそう言った銀さんは、私の帯留めに手をかけた。

「いいか?勘違いすんなよ?こりゃ確認じゃねえ。見せつけ行為だ」
「ぎ、銀さん?!ちょっ、脱げる、脱げちゃうっ!」

金さんの口が大きく開いて、ははは!と軽快な笑いが上がる。

「面白れェ、文字通りチャンバラだな!」
「あ?勘違いすんな!おめーの穴ないから!」
「穴ぁ?!穴ってなに?!えっ?!さ、さすがにそれはないよっ、ないないダメダメ!」





「ふっ、ぐ、うう、うぐぅうっ……!」

銀さんの有無を言わせぬ腕が、またがった私の体に肉茎を沈めていく。

「いっ、きなり、ひどいってば、銀さん……だめ、もう、だめぇ……!」
「だめじゃねーだろ嘘つくな、そんなヤワにしつけた覚えねーよ、平気だろこんくらい」
「だ、だめ……うう、いやだ、金さん、みないで……!」
「バッカありゃ路傍の石コロと同じだって、こっち向きなホラ」
「んうっ…ふ、うぅ……ん……!」

私の後ろに立つ金さんの方にいきかけた意識、が無理矢理ぐりっと戻される。
銀さんは私の口を強引に吸って、それでも私が気も漫ろだと知ると下唇を甘噛みしてくる。

「ううっ、うぅ、ぎ、んさん……!」

ぎゅーっと、しごき抜くように吸って腫れさせよとしてくる。
キスというか、肌を吸ってキスマークをつける行為に似ている。
……吸われすぎた自分の唇がみっともなく腫れ上がるのを想像して、思わず銀さんの胸板をドンドン叩くが、無意味だ。

「んっ……は」

一応唇は離してくれたけれど、私がいやがればいやがるほど銀さんはきっとムキになる。
けれど……逆に、おとなしく従ったとしても。

「……なぁ、お前今日は随分しおらしいな?」

……ほら、きた。

「あんなの気にすんなって言ってんのわかんない?」

あんなの、と顎で金さんのほうをしゃくって、据わった視線が私を睨む。

「ち、違うよ、でもその…これ、絶対変だよ…」
「あ?変なの?へー、銀サンがお前とエロいことすんのは変ですか。へー」
「違うってば!そ、そうじゃなくて…だ、だって、こんな、見られてるんだよ……」
「だからアレはあってなきようなモンなんだって、あんなの気にすんなって、お前は俺といつも通りに仲むつまじくパッコンパッコンすりゃいいの」
「ぱっこ……さ、最悪っ、ううんっ?!」

対面座位、とか言われる格好。
気を抜くと自分の重さで銀さんが奥まで刺さってきてしまう。
私は必死に中腰を保っていたのに、銀さんが無理矢理腰を落とし込ませてくる。

「ほら、鳴けよ、いつもみたいにエロいおねだりしろって、恥ずかしい顔しろっての」
「いっ、や、あ、ああ、あぅ、だ、めっ……!」

そう言われて意識させられると、逆に声も顔も強ばってしまう。
あんな顔を銀さん以外の人に見られるなんて思うと、いやな感じの恥ずかしさに支配されてしまう。

「ムードのカケラもねェな、ったく」
「あ?!」

がちがち状態の私の背後から、金さんの声が聞こえた。
銀さんは私を抱きしめてから耳聡く反応して、頭の上でまた言い合いが始まる。

「なあよう、優しさは時にゃあ残酷なんだぜ」
「うっ……う、くぅ……?」
「あんだてめ石ころが喋んなや、そこで指くわえて見てろっての」
「指くわえんのはテメーだ、気配りも雰囲気もチビリともねーな、見てて心が痛いっての……おら」
「ああぅ?!やだ!さわんないで!」

いきなり背後から金さんの腕が回ってきて、私の汗ばむ乳房が鷲掴みにされた。

「こうよォ、ウンと時間と手間かけてウンと気分を出してやるのが恋人同士の逢い引きってもんだろうが」
「や、やめ、て……!」

ぐりぐり、と、胸をつかんだ指先が乳首を探り当てていじりだす。
それが快楽かは別としていやがおうにも身体が跳ねると、膣に埋められたままの銀さんを意識して震える。

「ほら今尻の穴までピクピクしたろ?ばっちり見えたぜ、お前さんの方もギュッてしていい具合だろ」
「お、おしりの穴って……?!な、なに言ってるの金さん?!」
「っぜ、ぜんぜんきてねーよ、締まってね……いや、締まって……」

あわてふためく私とは反対に、銀さんはしどろもどろになった。
……どうにか意図を読むならば、「うん、今ぎゅってなって気持ちよかったです」と答えるのもアレだし、
「は?別になってねえよ気持ちよくねえ」と言うのは……私に対して、すっごくアレだ。
というかそんなこと言われたらさすがに悲しい。泣くと思う。

「ぎ、銀さ……あっ、ああっ、ちょ、やめてっ!そっちだめっ……!金さんやめてぇっ!」

やっぱりこんなの変だよ、と言いかけたときに、金さんの右手の方が乳房から離れて尻の谷間の頂点をくりくりとくすぐり始めた。

「ひっ、いうぅっ……!」
「そら、またぴっくぴくしてんの。ケツと前は繋がってっからな、こっちが震えっと、ほら」
「はひっ……!」
「おっ、あっ、てめっ!」

優しく尻をなでていた指先が突如きつくぎりっと、私のたぷたぷの尻肉をつねりあげた。
驚きで前のめりになると、また膣内の銀さんが奥まで突き刺さる。

「てめ、いじんな…やめろ…!」
「ぎ、銀さん、助けてぇ……!」
、助けを求める相手が違ってねーか?ホラホラどうだよ、ほぐれた方が男も女も気持ちがいいに決まってんだから」
「ううくっ……ん、あっ?!ちょ、やめっ、そこはやめてぇっ!」

くくっ、と笑った金さんの指が臀部の割れ目を何度か往復して、ついにお尻の穴をツンツンつついたので、大声を出して身体をひねってしまう。

「金さんもっとよくしてぇ、って俺に媚びるのが正解だろ」
「バッカかンなことするわけねーじゃん、こいつそんなことするくれーなら死ぬって、なあ?なあっ?」
「あっう、うぐっ、ぎ、銀さん、強い、のぉ……!」

問いかけながら私の腰をゆする銀さんの腕は変に力んでいて、ぐっ、ぐっ、と、必要以上に揺さぶりが強い。

「強いのがイイだろーが、いっつも俺にむりくりされんのがいいっつってんじゃんお前、なに?あがってんの?」
「あ、あがって、ない、よぉ……んっ、銀さんとするんなら、どんなんも、いいけど…でも……ううっ?!」
「優しさは残酷つってんだろ、痛いって言ってやれそら、そら
「ひぁあっ?!ちょ、やめてっ、そこやめてっ!!」

つつくだけだった指に力が籠もり、お尻のくぼみがぐい、ぐい、と押されて、もういよいよ私はわけがわからないままに叫ぶしかできなくなった。

「やめてっ、お尻っ、入っちゃうっ、だめっ…!」
「は、入っちゃうって…お、おい?!お前もしかしてけつ穴コイツにあげちゃったの?!」
「あっ、げて、ないっ、よっ、でも、は、入っちゃう、やめて、おしりっ、ぐりぐりやめてぇっ!」
「……どう思うよ、銀さん?」

挑発的な口調で、金さんは銀さんを笑う。

「どっちが本当だろうな?コッチの穴、もう俺がもらってたりして」
「なっ、ね、ねーよ!ねーよ!なあ?!」
「うっ……うぅ?!」

叫んだ銀さんが私の顔をのぞき込み、支えた腰を痛いくらいに掴む。
その言葉に苦しくもうなずこうとしたら、金さんのもう片方の指が乳首を思いっきりひねりあげた。

「やめっ、いやっ、いやぁ……!」
「うっ……?!お、い、嫌なんだよな?!、嫌だよな?!コイツにこんなてめっ、手どけろっ、嫌なんだよな?!」
「うるせェよ、空気読めない奴な……んまァ不安がるのもわかるよ、ホラこうしてそら、そら」
「うっ、や、やめっ、やめぇえっ……ん……!」
「おぐっ…う、ちょ、……!」
「俺がイジってやっと、キュウキュウなって具合がイイってこったろ?」

もう頭が悪すぎて自分でもわけがわからない。
なんなんだろ、これ……。

「なぁ、俺ァそこのと違うぜ。無理矢理ぶち込んでモノにしようなんざ思ってねェよ」
「どういう、意味……ぃ……?」

……耳を傾けてしまったのは、そんな意識の濁りの中で唯一はっきりした「疑問」に対してだったのだが。

「お前だって相手が金さんだろうと銀さんだろうと、やるからにゃあ気持ちいいのがいいに決まってんだろ」
「そ…れは……」
「おいってめっ何言ってんだ!」
「なぁ?俺は奪還したいとは思ってねェ。負け犬として、ヒーローとヒロインのおこぼれにあやかってイイ思いができりゃあ大満足だ」
「それ、だから、どういう意味なの……?」
「聞くなァァ!!俺を信じろ!俺のチンコを信じろ!それだけが現実だ!」
「お前はそいつを相手してりゃあいい。今は頭に血が昇っててろくに触ってもくれねえぶんは、俺が担ってやる」
「担う……え……?」
「テメェ何勝手なこと言ってやがんだよ!おらこっち向け、ホラ、お前のいいトコもなーんも銀さん全部知ってっから」
「へェーそうかそうか、んじゃどうしてコイツは今苦しそうなんだろうな?あんとき…俺にナブられた時の方がイイ顔してたぜ」
「……さっきからそればっか言うけどさぁ、男って結局は自分のナニでナニしてなんぼじゃん、お前のそれはナニがポンコツなのを補うための苦し紛れの策略じゃねーのか?!」
「あ?負け惜しみも大概にしとけよ……そのナニはトドメだろ、そこまでの盛り上げがものを言うんだろうが」
「トドメってなんだよトドメって、お前結局トドメさせねーだろ股間あんなんなんだから」
「しつっけえな手前ェは!だいたい男のナニなんて強くしごきゃあすぐイッちまう簡単なモンだろうが、それをじっくり楽しみたいから男も技巧を凝らすんだろうが!」
「いーやいやいや、すぐイッちまう、ってのもお前経験したことあんの?なくね?だってあんなだもの」

…………。

「しつっけえ!本ッッ当にしつっけえな!ホラ見ろコレ、コレが『あんな』かよ?!」
「おおっ?!うわっ、ナニそれ真珠?!真珠入れちゃったのお前?!」
「入れたんじゃねぇよ元々ついてんだ!秒速120回転、最新技術の粋を凝らしたエクスタシーパール!」
「てっめやっぱ小手先の技術に頼ってんじゃねえか!馬っ鹿でー!そんなんドン引きだよ、やくざの女でもない限り目にした瞬間逃げ出すって!」
「うるっせえ、これで引かせねェ、むしろ泣きながら欲しがらせるまでが男の腕の見せ所ってモンだろうが」

………………。



私をほっぽり出して全裸でつかみ合いを始めた二人に気づかれぬよう、私はそそそと自分の着物を回収する。

「……ごゆっくり」

ひとまず着付けてから一言そうつぶやいて、静かに「万事屋銀ちゃん」を、後にした。