「うっ…ン、ふ、ぅ、うう……っ」

長い事噛まされているくつわのせいであごが痛い。
歯と舌で感じる形状から察するに、きっとなんだか、よくアレな漫画とかでお姉さんが噛まされているアレ。
プラスチックのボールに穴がぼこぼこ開いている、「ぼーるぎゃぐ」とかいうのだ。
息ができなくて苦しいとか、唾液がこぼれてきて恥ずかしいとか、そういうのより断然あごと歯がつらい。
「くくくこのアマが!そろそろ反省したか?おらおら」とか折檻されて土下座とかしてしまう女囚は、みんなこの下あごが外れそうな重さと、
耳の付け根というか、それこそ「あご」がしびれる感触に耐えられなくなったに違いない。
……そう考えるとこれは、拘束具じゃなくて責め具なのかなぁ。
馬鹿な事ばっかり浮かんでは消える。

「おうおう、タフなもんだな」

そうして縛り付けられた私を、愉しげに見下す声。
……しばしどこへ行っていたのか知らないが、坂田金時が……私をこんな目に遭わせている張本人が、部屋に入ってきた。

「辛いか?」
「うっ……ぐ、う」
「人語で喋れな?」

けらけら笑う彼が、私の目隠しを外す。
黒いアイマスクの上からさらに手ぬぐいが巻きつけられていた。準備万端なことで。

「えほっ……!」

続いて口枷が外されて、思わず開きっぱなしになった口腔から唾液がくぱっと垂れた。

「は……はあ、あ、ああ…う、あ…」
「ん…アゴ外れたか?平気だろ」
「ふ……う、ううっ」
「…強情だなァ本当に…」

力なく頭を振ると、金さんは呆れたようにため息をついた。


様々な違和感に気付いてしまった理由は、今でも思い出せない。
それくらいさりげなく、日常のあちこちにいわく言い難い破片が散らばっていて、ふとした拍子に合致がいったのだ。
……この絵に描いたような完璧な男は、今まで私が愛してきた人間ではない、と。

「銀さんは、どこ」

そうやって詰問したら、金さんは優しく私を抱きしめた。
勝手知ったるという手つきで。なれなれしい恋人の腕で。
頭の中の疑問符は、直後に首に加えられた一撃で確信を持った。
この男は、愛のない暴力を平気で私に揮うのだ。
ただ自分の保身のための。私をここに連れてきて変態じみた洗脳をするための。

「ふゥ、う、ふっ……う、ううっ?!」
「んー……」

ただでさえ疲れ切った舌が、金さんの唇に吸われる。

「ふぅッ、う、うぐっ…え、ふ、う゛……!」
「…は、そら、喉渇いたろ?水欲しいか?おねだりしてみ」
「や、やだ……」
「おいおい、何も俺ァ今、さっきから続けてる問答をしようってんじゃねえ。喉渇いたかって聞いてんの」
「か、渇いてない……」
「可愛くねぇなおい。だァから、最初っからやってる坂田銀時サンどーのっていう話は関係ねえの。水欲しいだろっつってんの」
「ほしくない……!」
「……ったく」
「うあっ?!や、やめてよぉっ!」

くくられた私の太ももをパァン、と叩いてから、金さんの指が下腹部に向かう。

「こっちからもダラダラじゃん、意識朦朧としてんじゃねえのさすがに」
「ひっ、い、さわんないで、よ、う…」
「くだらねー意地で自分を追い詰めんなぁヤメロって、な?」
「ふひぃッ?!あ、あっ、や、めて、いれないで、指、ゆびやだ、やだっ…」

どういうわけか知らないが、彼の指摘通りに私はすっかり湿っていて、指も平気でのめり込んでくる。

「やあ、あ、あ……!」
「水くれって言うだけじゃん、俺やさしいから。その程度おねだりされたら叶えてやるよ」
「い、や、いやだあ……!」
「わかってんの?下も上もこんなヨダレ出して、そのうちフラフラになってぶっ倒れちまうだろ」
「た、倒れてもいいもん…」
「お前ほんっと後先考えねえな、弱ってる時なんてなんでもやりたい放題じゃねえか。そしたらお前は金サンに負けちゃうんだよ?ここは素直にお水ちょーだい金さん、って言っといたほうがいいだろ」

……なんでだろう、こうやって詭弁を弄するやり口だって銀さんとそっくりなのに。
どうして金さんの言葉は説得力を持って私を揺さぶらないんだろうか。
いや、それは私が目の前の男を「ニセモノ」だとわかっているから、もあるんだろうけど。
もっと。もっともっとしっかり、気怠い声で。

「いやだ…いやだ、もうやだ…どうしてこんなことになったの……」

力の入らないあごに無理を強いて歯ぎしりさせると、金さんの舌打ちが聞こえた。

「これはサービスな。飲んどきな」
「うっ……?!」

後ろ頭を押さえつけられたと思ったら、唇にはパイプが押し付けられた。
吸い飲み、とかいうやつ。寝たままお水を飲ませたりする道具。

「ふっぐ、う、ううっ…!」

肉体は正直者だ。
ねばねばに渇ききった口腔に冷たい水が流し込まれると、一も二もなく飲み込んでしまう。

「ふうっ、ふ、ん、んぐ…っ」

すぐさま一杯分飲み干してしまって、頭が透き通ってくる代わりに敗北感が私をうちのめす。
金さんが頭をぽんぽん撫でてくるからなおさらだ。

「ちゃんと飲めたな」
「は、うっ……?!」
「どーよ、催淫剤たっぷりの水は。美味いか?」
「う、うううぐっ……?!」

やると思ってたけどな!!
言われた途端に体がウズウズして、首から上がどっと熱くなった。
そんな私の乳房をゆるく掴んで、人差し指の腹で乳首がひたすら撫でまわされる。

「お前の頭の中にしかねェなら、そりゃ嘘と一緒だ」
「う、嘘、じゃなっ、あ、あぐぅぅ……!!」

急に力が籠められて、乳首をぎゅうぎゅう引っ張ってくる。

「い、いだいっ、乳首のびちゃう、やめ、てえっ……!」
「お前はずーっと俺のモンだよ。今の現実の方が大事じゃねえの?こーやってさ、金サンの指で感じてるお前が一番の現実だろ」
「……っち、違う、の……」
「ちがくねーの」

そうこうしているうちに、乳首から入ってくる痺れはおへその下を叩く。
望んでもいないのに秘唇が開いて、内側への刺激を待ち望んでいた。

「いい具合にほぐれてきてんな…切ないだろ、ここで全部やめちゃってもいいんだよ俺は」
「は、ぁ、う……」
「でもなァ、お前の気持ち次第だよ。金さんウソツキのかわいくねー女は好きじゃねーから」
「う、ううぐっ…う、うぅ……!」
「言ってみなって、溜めこんでたら身体に毒だろ」
「わ…あ、わたし…」
「そうそう、お前は誰にイカされてーの?誰に抱きしめてほしい?」
「あ…わ、私は……」
「いっぺん口にするだけですげースッキリするから。いるかどーかもわからない天パなんか忘れて、俺におねだりしなって」
「はぁ、あ、あぁ…!」
「こっちは正直だぜ?結局脳ミソと体は直結してんの、の身体が欲しがってんのが、今本当に大事なモンなんだよ」
「うぃ、いい、い……!」

私は間違ってなんかないと思う。
今求めるものを口にしろって、目の前の男もそう言っているし。

「…き、て」
「あん?」
「は…はやく、い、いれてぇ……!」
「誰のなにを」

くく、なんて小さく笑いながら、金さんが私の両手の縄をほどく。
さっそく自由になった手をぐっと握りしめて、自分の括られた脚に伸ばして。
私、別に人体構造やらには詳しくないんだけども……。

「みんなが忘れても、私の身体は覚えてるよっ」
「あ?」
「銀さん、早くっ!早くブチ込んでえぇっ!」

そう言いいつつ私はぱっかり開かれた自分の股ぐらを隠すことなく、むしろ肉の割れ目を見せびらかすように指で左右に開く。
場面が場面ならここで「これが目に入らぬか」と渋い声で一喝入った後に股間が光ってもおかしくない。
鈍い銀色に。ぺかーっと。

「それ見ろ観音様ご開帳じゃ!ありがたやありがたや!そこのポンコツ頭が高ぁい!」

「え…え、あ……あぁ?」

この男の言いようは間違ってはいなかった。
確かに一度口にしてしまうと、物凄く気持ちが楽になった。

「私のココは銀さん専用なの!脳みそが忘れてもマ×コが覚えてる!」

金髪があっけにとられた顔で私と、私の陰部を交互に見ては言葉を失う。
ああそれでいい。ばかにされるくらいでいい。とびっきり恥ずかしくていい。

「早く、早くきて銀さんっ、いつもみたいにいっぱいえぐってっ、金さんのよりずーっとすごい拡散波動砲でたっくさんっ!」
「てめェ…!黙れっ!」
「だーまらーないーい!あなたは一番大事なものを忘れてきてしまったのよ坂田金時!完璧なる坂田銀時的な存在なら、なぜちんぽがそんなに粗末なの?!」
「お…」
「そんなネジみたいなの中に入れたら痛いわ!裂けるわ!アソコが穴だらけになっちゃう!冷たいし!」
「て…てめ」
「たまもそんなに粗末でいいと思ってるの?!もっとぱんぱんに張った睾丸どころか神雁(こうがん)!っていうカンジのアレじゃないといけないでしょ!なに考えてるのわけわかんない!」
「コウガン?」
「ヒーローに性欲がなくていいなんて思ってるの?!どれだけ考えが古いの、少女マンガだってね、タキシード仮面様だってうさぎちゃんとセックスして子作りするのに!」
「は?タキシード?誰?」
「許さない、絶対許さない!バレバレだから言うけど!私そういう女だから!チンチンが消えた銀サン愛してくれる?って言われたらちょっと悩んじゃうから!」

気が付くと自分が縛り付けられていたベッドのシーツより先が、真っ暗になっていた。
停電した中で人物だけがはっきり浮かび上がるみたいな、そんな漫画的な絵面の中で、なおも私は叫ぶ。
さらに股間をめくりあげつつ。

「この世界から、私の頭の中から坂田銀時を消し去りたいと言うなら!」

あ、なんか我ながらカッコイイこと言ってる。

「ぶち込んでごらんなさい!ここに!私のココに!あなたのポンコツで最高記録を更新してみせてよ!」

場面が場面じゃなったら、なかなか機会のないヒロインっぽい台詞だなぁ。

「銀さんのことぜんぶ忘れるくらい、気絶させられるくらいがんがんきなさいよ!ほらバッチコイ!バッチコーイ!!」

さらに脚を広げ、ゴロンとひっくり返ってお尻の方まで丸出しにしたあたりで、ついに坂田金時は頭を抱えだした。

「……二次創作とはいえあっていい絵面じゃねーな」

その言葉と同時に、ついにベッドさえも消えた。
私はとてつもない勢いで、彼を残して落下していく。

「それでいいの、軽蔑されていいのっ、正統派ヒーローたちから白い目で見られてこその坂田銀時でしょう?!」
「それでも最後はいい話にして、予定調和に呆れながら安心するのが愛おしさよっ」
「そういうのが私が大好きな銀さんだもの!」

一人で叫びながら、どこまでもどこまでも落ちていく。


「あー!早く帰ってきてね銀さぁん!」

怖くはない。
たぶん銀さんは、どうにかしてあの男をぶちのめしてくれる。
みんなの目を覚ましてくれる。

そうしたらまた、私を呼んでくれる。






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ちょっと前、コミックスで金魂篇が出たあたりに書いた拍手お礼の小話の焼き直しです。
過去ネタのやりなおしとかはあんまりしないほうがいいかなぁと思ったのですが、
ちょっとアニメですり替えられたオープニングエンディングやら見てたら涙出てきちゃったので…。