「はあ、さむさむさむ…」

吐く息も、部屋の中なのに白い。
早いところこたつに入ってごろごろしたいところだったけれども、
なんとなくこの、寒い空間に感じるものがあって、私はひんやりとした床板にまで懐かしさを覚えている。

「…あのときも寒かったもんなぁ」

あのとき。
後悔なんてしてないけれど、思い出すとなればまたそれなりの羞恥心をともなう、あれ。



…銀さんとは、安定した付き合いだったと言える。
誰も見ていないときなら、頬にこっそりキスをするのも体をぺたぺた触るのも許してくれて、
なんとなく2人っきりになって寄り添ってどうでもいいテレビなんてみていると、わざとらしく肩を抱かれたり、
着物越しの胸を大雑把にさわさわとまさぐられたりもした。

なんというか、今思うとお互い「どこまでいっていいのか?」という探りあいをしていたような気がする。
今考えるとちょっと笑えてしまう。

が、その当時の私といえば、自分は子供なのか女なのか大人なのかそのどれにも属さずただという存在というだけなのか彼にとって一体どのような…という属性、位置づけ、そんなカテゴライズに必死になっていて、
必死になりすぎて前も後ろも真っ暗だった。
それで不安になったり意味もなく泣きたくなったり、
逆に浮かれてみたりドキドキしてみたりと忙しい日々だったけれど、あるときもう、これは思い出すたびに脳が沸騰しいていたとしか思えないのだけれど、銀さんに、思うが侭の感情をぶつけてしまった。
言葉にして。
ずばり。

「銀さん…私を、お、おお、女、に、してっ」

「…」

思い出しての羞恥心に頭を抱える。
…でも、まあ、あれが…結局は一線越えるきっかけとなったのだと思うと、不思議な気分でもある。


ちょっと思い出してみよう。
年の瀬じゃない。たまには昔の話でも。






「雑煮食うか?」
「え、あるの?」
「年越しそばの残り汁があらあ」
「…それはつまり、そばの残り汁をあっためて、焼いたお餅をそれにごろっといれて出来上がりっていうアレ…」
「そそ。いいじゃん」
「よくない、お雑煮はお餅が汁にどろどろに溶け込んでるのがいいー。それに海苔たっぷりいれてもっとどろどろにして食べるのがオレ流」
「田舎くせぇなぁ…江戸っ子だぜシティー派だぜ、そんな田舎雑煮食えねえって」

とかぶつくさ言いながらも、銀さんがこたつから起き上がる。
…珍しいな、なんて思った。
雑煮食うか→うん→じゃあ俺の分もよろしく。
だと思ってたのに。
そうして、どす、どす、という、私が歩いたときよりもずっと重量感のある足音を立てて銀さんが台所のほうへ向かったのを見てから、はたと気付く。

あ、2人っきりなんだ、いま。
銀さん、少しそわそわして手持無沙汰なのかもしれない…。
…私もそう思うとソワソワしてきて、なんだかなんかしなくちゃあ、銀さんに気遣いの出来る女だとアピールしなきゃなんていうこずるさも顔を出して、でもどうにもできず、
どてらを羽織ってこたつから起き上がり、とりあえず銀さんが食べかけのみかんを取り寄せて白いすじをぴりぴり取り除くという謎な行為に及んだりした。

みかんがつるつるになったあたりで、お盆を持った銀さんがまた、こちらにやってくる足音がした。
お盆の上のおわんからしてくる匂いはそのまま年越しそばの汁とおなじ、鰹と昆布としょうゆなややしょっぱいもので、
やっぱり何の変哲も無い簡易雑煮か…なんて思いながらも、私はみかんをサッとテーブルに置いて雑煮を待ちわびた。

もっち、もっち。

「…あのさあ、銀さん」
「んあ?」

もちもち。

「新年きちゃったね」
「そうだな」
「また一つ…ええと、大人になるんだね」
「大人ってか…あー…年取るわけだなぁ」
「私は…どんどん大人になる、でいいよ。どんどん銀さんに近づける…かな?」
「近づくわけねーだろ。俺もお前もおなじ周期で年取るんだから。永遠にバトンキャッチできねーよ」
「そうじゃなくてさ…」

もきゅ。

お餅を一個食べきってしまって、
べろーっとお餅を伸ばしながら行儀の悪い食べ方をする銀さんのほうを、ちらちらと見る。
…言い出すなら今なんじゃないの、と、自分の心がせかす。
…が、それに伴う計算や策略は持ち合わせていない。
当たって砕けろを体現してしまう状況だ。
でも、そう思ってるのに言うことを聞いてくれない私の口は、勝手に言葉をつむいでいく。

「な、にも、ないまま…年だけ重ねてっちゃう、のかな」
「あん…?」
「そ…の」
「……」

ばっかおめー、何もないのが一番だろ、なんて軽口が帰ってくると思ったのに。
銀さんは私の雰囲気がそこはかとなく妖しい匂いを持っていることに気付いたらしい。

「あ、あのね、ぎ、ぎんさん!」

高らかに宣言したように裏返ってしまった自分の声を後悔しても、遅い。


「銀さん…私を、お、おお、女、に、してっ」


もちっ。
銀さんはしばらく私の方を見ながら、静かに雑煮を咀嚼していた。
それをごくんと飲み込んでしまうと、なんとも言えない表情でそれでもやっぱり私のことをじっと見る。

「……あ、あの…ああ…」

私はその視線に耐え切れなくなって、思わずがたっと立ち上がった。
うわひい、なんていう考えと一緒に顔面に血液が集中して、いてもたってもいられなくなった。

「うああ、あの、あ、ご、ごめ、ん…!」

そう言うのが精一杯で、私はふすまをターンと開けて敷きっぱなしの布団に潜り込んだ。
冷やっこい。冬の寒さが布団を、思わず身体を固めてしまうほどの冷たさにしている。
…布団が冷たいせいで、自分の顔が火照っているのがよくわかる。

自覚するとなお恥ずかしくて、ていうか脈絡なさすぎ自分、なんて自責がとまらなくなって、布団にぎゅうぎゅう、窒息しそうなくらい顔を押し付けた。

が。

「待てェエェエエ!言い逃げなんて許すかァア!」
「ぎゃひいいいいっ?!」

ぶわさっ、と、頭までかぶっていた布団をいきなり持ち上げられて、大声を上げてしまう。

「おまっホントッ…ほんっとな…行動が急激すぎんだよ!」
「あ、だ……だって…」

布団をぽいっと部屋の隅に投げられて、もう自分の赤い顔を隠すものがない。
私はとりあえず枕を持って、それを顔にぐうっと押し付けた。

「わ、わたっ…」
「銀さん止まらねーよ?こっそり待ってたのもバレバレなんだろどうせ!」
「待ってた…?」


ええと、つまり。
銀さんは、私から「今晩いいですわよ」というサインが出るのを、じったり待っていたということだろうか。

「…えっと…どうぞ…」
「あーーー、もおぉおお!そんな簡単に言うなってぇの!これだから最近の子はさぁ、貞操観念がスッカスカてかさああ!」

そういいながら、ばふり、と。
布団の上の私に、銀さんがのしかかってくる。


えと。つまり。
結果オーライ?



「は、あ、ああっ?あひっ、ひは、く、くすぐった…!」

ほへえ、としているうちにお互い裸になって。
寒くて寒くて仕方がなかったはずなのに、今は冷たい空気が火照った体を冷やして、心地よささえ感じる。
電気はぱちぱちと消して、うっすら…本当にうっすら、夜の月明かりが窓越しに入ってくるだけ。
ほとんど見えない。
でも、見えないで正解かもしれない…なんて、羞恥心を捨てきれないまま思い、そして体を引き攣らせた。
まるで赤ちゃんのように私の胸に吸い付く銀さんの舌に、たまらず声を上げてしまう。

「ん…?お前、乳首陥没?」
「え?!かっ…て、ち、ちがうっ、ちゃんと出るよっ!」
「んあ…あ、ほんとだ…ん」
「あっ、あ…あ、ちょ、す、吸わないで…!」

ちゅううっ、と、唇で乳首が挟まれて、そのまま銀さんが吸い上げる。
ついでに舌でもちろちろと先っぽをいじめられて、私はビリビリするんだかくすぐったいのだかわけがわからず、ひたすらもだえるしかなかった。

「っは…おお、吸ったら出てきたわ…ぷっくりしてんのな」
「ちょっ、いや、いや、本当に恥ずかしいからぁ!言わなくていいから…そんなこと…!」

ふううん、なんて、さっきの初々しく見えた態度はどこへやら、銀さんはふてぶてしい態度でにまっと笑い、私のことを品定めするように見る。

「好きか?ココ」
「こ、ここって…あ、い、あ、ああ…あ、んぁ…そ、そんっ、なんか…銀さんの手つき、いやらしい…!」
「ほー、この手がぁ?」
「く…ぅ、そ、そうだよっ…なんでそんな楽しそうなの…?!」

はっ、と、私は息も絶え絶えに銀さんを非難する。

銀さんがぷにぷにと、吸われて充血した私の乳首を、すり潰すみたいに親指と人さし指で執拗に刺激してくる。

「楽しいもん、お前のこといじめんの」
「いじめっ…ひ、ひどい…んあ、あはぁああっ?!」

ぎゅうっ、と、ちぎれそうな強さで乳首がつねられた。
その強烈な刺激に思わず大声を上げて、体を逸らせてしまった。

「いい反応だなー…んー、お前さ、チョイ痛いの好き?」
「わ、わかんないよ…っ、あ、ああああっ?!」

ぎりっと。
まさかと思う暇もなく、再び私の乳房に顔を寄せた銀さんは、今度は尖端に歯を立てた。
銀さんの歯のあいだで、敏感になった先っぽがコリコリと弄られる。

「ひゃ、あ、や、やめ、あ、あぁっ!」
「っぷう…うら、どーなんだよ?気持ちいいか?乳首引っ張られんのいいか?」
「だ、だからっ、わ、わかんな…っ!」

本当に、体が刺激に追いつかないのだ。
気持ちいいとか痛いとか。
そういうの以前に、なんだか銀さんとこうしているということが身体をフワフワさせて、いまいち現実として定着しない。

でも、銀さんはそんな私を簡単によしよしとしてはくれないみたいだった。

「んぃっ、い、いあっ!」

今度はぴんっと、乳首をでこぴんの要領で弾かれた。

「ま、いーや…こっち見るから」
「こ、こっちて…あ、ぁあっ?!」

ひょいっと銀さんが身体を移動させて、私の…つまり、ちょっと熱を持ちかけているらしい…女のそこを、触る。

「ほーら、パックリパックリ」
「や、やだやだやだっ!は、恥ずかしいことさせないでえええっ!!」

私の両脚を持った銀さんが、閉じて開いて、ぱかぱかと脚を開閉させる。
その常軌を逸した下品さと、今こうして…ある意味恋人の聖なる時間、と呼べるようなときにそんなことをする銀さんが信じられず、声を上げる。

「や、いやっ…ほ、ほんとに…恥ずかし…泣きそっ…」
「なんだよ…じゃあおめー、無言で触って、無言でズンって入れられて終わりでいいのか?」
「む、むごんって…いやだけど…いやだけどぉ、おぉおお?!」

私の脚をコンパスの軸みたいに開いた銀さんが、まだ下着に覆われている女性器を、ぐりっと拳で押す。

「どーなんだよ?気持ちいいか?怖くねえの?」
「怖く…て……あ…?」

この悪ふざけみたいなノリは、もしかして銀さんなりの気遣いなのだろうか…。

…というか、もしかして銀さんも緊張してたりするんだろうか。

「こ、怖くない、から、は、恥ずかしいけど…!」
「ふーん…」
「ぎ、銀さんだから、だ、大丈夫でしょ…」
「あん?」
「銀さんは…痛くしたり、乱暴したりしないよね…?」

銀さんの表情は、よく見えなかった。
ただ、銀さんが私の下着の端っこにちょいちょいっと指をひっかけたので、ああここから一線超える…と考えて、固唾をのむ。

「んあ…あ?お前小せぇなあ…」
「え…ち、ちいさい?」
「ココだよ、ココ」
「んなぁ?!あ、あやっ、や、ま、まだっ…こ、心の準備…が…っ!」

銀さんが「ココ」と言って触れたのは、下着を取り払われて露わになった部分の…さらに奥。
肉の合わせ目をむちりと割り開いて、ひくついているのが自分でも少しわかる…私の女の部分への入り口だ。

「穴、ちっさくね?」
「ち、ちっさいって…わ、わかんない…ち、小さいの…?」
「これ…入んのかな」

…そのぽつんとした銀さんの言葉に、なんだかためらいのようなものを感じて、私は思わずかぶりを振った。

「は、入る…よ、銀さんのだもん…」
「いや、そーゆーんじゃなくて、物理的にさ…」
「は、入るもん…大丈夫…」

少し意固地になって、身を揺すった。
するとそこで…今度は偶然光に照らされて、しっかり見えた。
銀さんの顔が、にんまりと意地悪な表情を作るのが。

「随分自信満々だな?」
「え?!じ、自信ってんじゃ…ないけど…」
「もしかしてさあ、ちゃんさあ、ココになんか入れたことあんの?」
「え?!」

驚きと刺激と。
つんつんと膣口をつつかれた刺激に対してと、銀さんの口から出た言葉に対する反応で体がおかしく跳ねた。

「ホラぁ、アレじゃん?今時「にっせん」の通販カタログとかでも売ってるらしいじゃん?電動こけし的なアレが」
「で、電動…?!な、何言ってるの?!そ、そんなわけないじゃん!!」
「そーなの?じゃあアレ?古風にひごずいきとか入れちゃってる系?」
「ひ、ヒゴズイキってなに?!い、いれてないよっ!なんで入れてること前提で話してるの?!」
「入れてんだろ、なんか」
「…!」

そこでびくりと身を固くしたのは、恥ずかしくていやだ、なんていう理由だけではなかった。

「…いっ…」
「ほーら、あんだろ?なんだよ?なに入れた?このちっせえ穴、なにで拡げた?」
「あ、あう…あ…」

…自慰。
それは…ワタシはソンナコト知りもしないデス、とは言えなかった。

「…ゆ、ゆび……」
「あ?なんだって?」
「じっ、自分の指…っ!」

羞恥心と一緒に膣からとろんと、今までより随分と重量のある、濃厚な愛液が垂れるのが自分でわかった。

私は恥ずかしい告白を銀さんにすることで、どうしようもなく高ぶったのだ。

「…ふーん、指」
「ぅ…」

銀さんがそう言って、私の秘部をじっくりのぞき込む。
その視線にもどかしさと恥ずかしさを感じて、身をよじる。

「ん、あっ?!あ、ひ、ひゃっ…!」
「こーやっていじくってたわけだ、ココを」
「や、あ…あ、い、いじ、くって…って…あ、い、あ、いや、あ、あぁぁ…ッ!」

ぐり、と。
いりぐちを拡げるときだけ、ほんの少し威圧感を伴って。
銀さんの指が、私のなかに入ってくる。

「あ、や、や…ゆ、ゆび、きもちい…へ、へん、なんか、なんかぁっ…!」

本当に、私はそのときに奇妙な感覚に襲われていた。
銀さんが。
大好きな人が、私の身体の、秘められたところを指でこじ開ける。
その事実がとても不思議で、嬉しいのになんだか恐ろしく、おもわず食いしばった歯がかたかた鳴った。

「怖い?」
「こ、怖くないよっ、へ、平気…」
「無理すんなって」
「あ、はぁ…ん」

むにっ、と、唇を押し当てるようなキスが降ってくる。
膣内に指が入っていることもあるのだろうけれど、その唇は私に普段とは違った陶酔を与える。
私も銀さんに張り合うように唇を押し当て、唇のなめらかさを確認した後に少し、下唇を開く。

「ん…は、あ、あはぁ…むぅ…」

そうするなり、銀さんの舌がちょっとした凶暴さを伴って私の口腔に転がり込んだ。
舌がにゅるにゅると。
口の中を、私よりも随分勢いのある舌で舐め尽くされて、自分の舌も転がされて唾液で溺れさせられてしまう。
けれどそれは決して嫌なことではなく…むしろ、人生で初めての陶酔を私の頭の中にぽわぽわ振りまいていく。

「ん…あれ、初めてだっけ、ベロ」
「はっ、はじめて…も、もいっかい…」
「おら」
「はぁ、あ、むぐっ…ん、むるぅ…んっ?!んッ、んふぅッ…!」

一度離れた銀さんの舌と唇がもう一度私に触れて、また私の頭をトロンとさせかけたときに。

「んぶぁっ、あ、あふっ…ん、んんんぅう…っ!」

銀さんが、私の膣に潜り込ませた指を、くいくいと蠢かせる。
指の腹が…どうにも表現しづらい、アソコの天井…とでも言うところを擦る。
そうすると、下半身がおかしく、踊るようにぶるぶる震える。

「お…ココ好きか」
「あ、やっ…あ、ああ、あ、ちょ、あ、銀さっ…や、ああああっ!」
「うら、聞こえっか?びちょびちょ言ってんの」
「はぅ、あ、き、きこえ、る、けど、あ、ん、ゃ…んはぁああぁっ!」

耐えきれず私は、思わず銀さんの腕を押さえる。
銀さんの言葉通りに、私の秘部からは湿った粘着質な音が聞こえていて、静かな寝室にやたら大きく響いている気さえする。
どうにかしなくちゃ、なんて考えが浮かんで、
でもどうにもできるわけないじゃん、なんてところにいきついては頭の中が散漫としていく。
今の私の頭の中にあるのは銀さんで、銀さんのことしかもう考えられないのだ。

「ぎ、銀さん、わ、私いまっ、銀さんのことしか…わかんないっ…!」
「……」
「銀さんはっ、銀さんはっ…?!頭のなか私でいっぱい?!」
「…ったく」
「お、おしえっ、て、あっはああぁあっ!や、やだ、もう、もうそこはいいよぉ!いいからっ、や、ぁ、あああ…!」
「お前あんま変なこと言うんじゃねーよ…ゆっくりほぐしてやろーとか、じっくり味わいてーとか、そいういうの全部飛びそうになるじゃん…」

どくん、と胸が高鳴って、その瞬間に全身に温かい血液が行き渡ったような感覚がして。
嬉しさと恥ずかしさ、そのふたつが私を支配してから、身体の震えを…完全に止めてしまった。

「…うれしい、銀さん」
「……」
「私、あの…何だろう、あの…えっと…何だろう…?」
「…いや、なんだよ」
「わ、私みたいなんが銀さんの近くにいてもいいのかなぁ、とか…か、考えなくもないっていうか…」
「…」
「す、好きで…好きなんだけど、銀さんのこと好きな人なんてたくさん…い、いるから、で、私はそういう人たちとは一線を画する存在に、なりたいとか…あ、あれ…」

緊張だ。
肉体に対する緊張がほぐれたとたんに、その緊張に隠れていた心の緊張が顔を出している。
私はわけのわからないことを口走っている…。

「・・・、俺な」
「う、うん」
「お前は…今までの誰とも違う…」
「…」



「…とか言うのが嫌なんだよっ!バーカバーカ!」
「あ、や、やちょっ?!」

がしっ、と、銀さんが私の脚を開く。
そしてその脚の間に自分の身体を割って入らせて、太股の内側に…これは感覚でもうわかった…身体のどこよりも熱い部分、銀さんの肉茎がぐいっと押し当てられた。
その感覚に、私の膣が戦慄いた。
きゅううっと、刺激もないのに収縮して、ああ私はこれでなぶられるのが好きな女なのだと、
経験もないのに私は私自身に予感させられる。

「今までってなんだよ?俺のお前への…あー、そういうアレは、他人と比べられるなんかなのか?「今まで」の誰かと比較しての位置を引き上げたりしなくちゃなんねーのか?」
「…そ、それは、ち、違うと思うけど…」
「だから!お前もそういう他人がどーとか考えなくていいの。今ホラ…こーやって」
「あ、わ、ああ…」
「銀サンのこれ、押し当てられてなんか他のこと思うのか?」

かぶりを振った。
そうだ私は、変な打算も体裁もどうでもよくて。
今はただ私の大好きな人が、私のなかに入り込んでくるという行為に、現実にときめいていればいい。

「痛てぇのはちょっと堪えろよ」
「う、うん…はぁ……」

ごくんと、口の中に溜まった唾液を飲み干す。
銀さんの熱が、太股からややずれて…濡れて、開いてきている私の真ん中に当たったからだ。
にちゅ、と、合わせ目をかき分けて、さっきは指がぬるりと入った穴に…あてがわれる。

「ん…う?!う、あ、あ…あぁあ、あっく、あ゛…ッ?!」
「っふ、く…や、やっぱ小せえ…!」
「あが、あ、ちょ、ちょっ…あ、これっ、さ、裂けて、裂け、あ、ああああああ?!」
「裂けてねーよ…っ…もうちょい、もーちょっ…ちょ、こっ、おい!ケツに力こめんなっ…押し返される…ッ…」

そう言われても、私の身体は勝手に、心とは裏腹に異物の進入を拒んでいる。
銀さんの言うように、お尻に勝手に力がこもる。
そうすると、まるで粘膜やいろいろなものごと私の身体をぐんっと押し上げるようだった熱さが侵入を止めて、私の膣穴の中で立ち往生を始める。
…というのはなんとなく感覚的に理解しているだけで、
頭のなかはもうどろどろのぐちゃぐちゃで、
思わず私は目を見開いて、行き場をなくした両手で私の両足を押さえる銀さんの腕にしがみついた。

「ぎ、ぎんさん、わ、私怖い、こわ、こわっ、あ、い、いた、痛いっていうか、なんかっ、し、痺れてて、ああ…」
「ッ…ぅ、ちょ、待て…よっ…」
「わ、あ、あああっ?!」

銀さんが、くっと私の腰を布団から浮かせる。
そしてその瞬間に、もうこれはそう感じた、としかいえないのだけれど…ぐいぐい、だった圧迫感が、ずんっ、とトドメを刺すように強くなって…。

「く、は…入った…きつっ…ちぎれそーだわ…」
「は、入った?!も、もう入ってるの…?!」
「あー入った、入った…イイ子イイ子、よく耐えましたねちゃん」

そう言って、銀さんはためいきのようなものを吐く。
私の下腹部はじんじんと痺れるようで、痛みなのかなんなのか、それすらもよくわからない。
ただ、中に。
私の中に銀さんがいるのだと。
そう思うと膣ではなくお腹の下の方が、まるで喜ぶように疼く。

「で、でも、お、終わんないよね、はっ、ちょ、く、苦しい…ぎ、銀さんが…そ、その、い、いく、まで、終わんないよね…っ」
「あ…終わって欲しいの?」
「ち、違う、違う違うっ、ぎゃ、逆、ちゃ、ちゃんと私のなかで、き、気持ちよくなってほしいから…!」
「……っ」
「あがっ…あ、かっ、は…お、押されて…っ…!」

銀さんが、私の腰をつかんだ。
そして肉茎をよりずぶずぶと埋め込むように、身体を少し揺らす。
…腕はたくましく、腰や胸板なんかも女とは全然違う。
どっしりと強くて、今はただひたすら私を圧倒し屈服させる「男」なのだ。

身体の下側に沈んでいた内臓が、銀さんの熱によって身体の上の方に押されているような感覚だった。
じんじんを乗り越えてひりひりとする膣のいりぐちはどうにもしがたいけれど、
全身で感じる銀さんを、私の心が喜んでいる。

「はあっ…うれ、しい…あたまの中がきもちいい…!」
「あ…?頭ン中…?」
「う、うん、あ、そ、そうやって、ぐりって、ぐりぐりってぇえ!」
「…痛くねえの?」
「い、痛い、と思うんだけど、頭の中がうれしいって思ってるから、あんまっ…あんまし、いたくないっ…!」
「…オメーな…悪い男にとっつかまったらメチャクチャにされてんぞ…ッ」
「もうめちゃくちゃ…めちゃくちゃだよっ…!」
「これからメチャクチャにすんだっての…!」

そう言って、銀さんががばっと、私の身体を抱き寄せる。
厚い胸板と肩に私の顔はすっかり埋まってしまう。
そして銀さんの肌が汗ばんでいることを知って、なんだか不思議な気分になり、ちょっとおでこに当たる銀さんの髪の襟足がこそばゆかったりして、ああ、もうやっぱり銀さんのことしか考えてない。

「あぐっ、あ、ああ、ぎ、銀さん、よくなって…ッ!」
「…イイっての…!気持ちいいって…言わせんな…っ」
「はぁっ、あ、う、うれしい、うれしいのでもういっぱい、いっぱいになっておかしくなる…!は、あ、あああ、あっは、わ、私、もう銀さんでいっぱい…!」
「ッンの…オメーはホンットによ…!」


銀さんの身体が、硬直した。
私を抱き寄せる腕はまるで締め付けるように強くなり、膣内の熱もより一層ねじこまれた…と、思った瞬間に。

「は、あ、あはっ?!は、あ、こ、これっ…あ、で、出て、る…?!」
「っ…っ、う、あ…」
「だ、だしてる…?銀さん出してる…?!」

銀さんは無言で、ふっ…と鼻で呼吸しながら、首を縦に振った。
ああ。
私はそこでたまらなく嬉しくなって、その嬉しさごと心が身体を通り抜けて拡がっていって…。


それから途端に、今までなんの疲労も感じていなかったのに…セメントの袋を背負わされたように体が重たくなった。

けれどその重みは、私にとってつらいものしてではなく、心地のいい満足感となって降りかかる。
ああ、なんていうんだろうか、こういう気持ち。


「……しあわせ………」

幸せ、だ。
そう口にしてようやく腑に落ちる。

私の目蓋は急速に重たくなっていく。上下の目蓋がくっつこうとして離れない。
視界が遮られる。

それでも…。


「…バカヤロー、この…」

銀さんが私の身体をきゅうっと抱きしめてくれることはしっかりわかったから、名残惜しさもなにもなく、私は充足して意識を手放した。







「……」
「おい」
「わ、銀さん」
「寒くねーの?なにしてんの」
「え、あ、いや、お雑煮たべたいなーって」
「ふーん…」

取り繕うように、台所の大きめの鍋に入った年越しそばの残り汁を確認する私の後ろに、銀さんが詰め寄る。

「あー…」
「…ちょ、ちょっと…」
「んー…」
こたつで暖をとっていた銀さんの身体は暖かく、のしかかられると奇妙に心地よかった。

「思えば遠くにきたもんだ」
「あ?なんだよ急に」
「いやぁ、ねえ?私…幸せだよ」
「……」

あ、照れてる。
身体はもう、行き止まりも超えてどこまでも蕩けあうのに。
心はまだお互い、ちょっとした恥じらいも忘れられないのだ。
そしてそれを愛しいと思えるこの時間と世界は、とっても。

幸せそのものなんだろうなぁ、なんて、感慨に耽る……。










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オチ弱くてすんません…。
銀さんとの初体験ってどんなだろうなぁと思って書き始めたんですが、うーんむずかしかった。
銀さんもちゃんとキャラ立てられたかどうか…。
いや、もちろん書いてて楽しかったですけど。銀さんいいよ銀さん。
なんか私がそもそも初体験ネタを書くのがヘタなんだなぁ。
あと、夢主さんの経験値パラメーターがまだまだ低いので、お下品度は控えめで。
…いや、やっぱり下品にしたくて銀さんが電動こけしとか抜かしてますけど。

読んでくださってありがとうでした〜。
ほんとはこれ年末年始にアップしたかったんだけどなあ。